目次 |次頁


昭和44年度原子力開発利用基本計画



昭和44年3月
原子力委員会決定

Ⅰ 基本方針

 昭和44年度は、高速増殖炉の実験炉の着工、核融合研究開発の推進など、原子力開発利用が、将来に向って大きく歩み出す年であり、また原子力第1船の進水、民間における原子力発電所のあいつぐ建設など原子力開発利用の実用化が着実なる進展を示す年である。
 このような情勢にかんがみ、各方面にわたり計画的な原子力研究開発利用の推進を図るために必要な施策を講ずることとする。
 高速増殖炉の開発については、昭和48年度当初に臨界にいたらせることを目標に実験炉の建設に着手し、また、新型転換炉の開発については原型炉の第二次設計研究を完了し、その建設にそなえる。さらに、原型炉建設のための民間拠出金について税制上の優遇措置を講ずる。
 原子力船の開発については、昭和46年度末完成を目途に原子力第1船の建造工事をすすめ、あわせて付帯施設の建設、乗組員の訓練等を行なう。また、原子力船の実用化に必要な施策の検討をすすめる。
 核融合の研究開発については、将来における制御核融合反応の実現を目的とする第一段階の研究開発に着手する。
 原子力発電については、わが国の原子力発電所の建設計画が円滑に推進されることを期し、その国産化に資するため、核燃料、機器および材料に関する研究の促進を図り、あわせて財政資金の融資、税制上の優遇措置等を講ずる。
 核燃料対策としては、低廉かつ安定な供給を図るため、国内における最適な核燃料サイクルの確立に資するため、核原料物質および核燃料物質の確保、核燃料加工事業の育成、使用済燃料再処理工場建設の促進等に必要な措置を講ずる。
 放射線利用については、食品照射の研究開発を推進するとともに、放射線化学等各分野における研究を行なう。
 安全対策としては、原子力施設の安全確保、放射線障害の防止につとめるとともに、放射性廃棄物の海洋処分に関する調査研究、環境における放射能水準の測定調査を総合的に推進する。
 国際協力については、原子力先進諸国との協力を積極的に行ない、あわせて発展途上国との協力につとめる。また、核兵器の不拡散に関する条約に関しては、わが国の原子力平和利用の発展が阻害されないよう留意する。
 さらに、科学者、技術者の交流、情報、資料の交換等を活発に行なうため国際原子力機関をはじめ各種国際機関との緊密な運けいを図る。
 以上のほか、国立試験研究機関等の研究の促進、民間における研究の助成、科学技術者の資質向上、調査普及活動等に必要な施策を講ずる。



Ⅱ 計画の大綱


 1 研究開発の推進

(1) 基礎研究
 日本原子力研究所および国立試験研究機関においては、わが国独自の創意を育成発展せしめることを目的とした基礎研究を推進する。これら基礎研究は大学における研究とも密接な連けいのもとに推進する。またこれらの研究のため日本原子力研究所の施設の共同利用等を前年度にひきつづき積極的に行なう。

(2) 動力炉の研究開発
 高速増殖炉および新型転換炉については、「動力炉開発業務に関する基本方針」および「同第一次基本計画」にもとづき、動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発を推進する。
 高速増殖炉については、実験炉の詳細設計を完了し、昭和48年度当初に臨界にいたらせる事を目標に建設に着手する。また原型炉の第一次設計研究をすすめるとともに前年度にひきつづき炉物理、ナトリウム技術、燃料材料等の研究開発を行ない、またα-γケープ、ナトリウムループ等の建設をすすめる。 新型転換炉については、原型炉の第二次設計研究を完了するとともに、原型炉の建設に関する評価検討を実施する。また、これと並行して前年度にひきつづき炉物理実験、伝熱流動実験等を行ない、さらに重水臨界実験装置、大型熱ループ等の建設をすすめる。
 また、プルトニウム燃料施設の増設をひきつづきすすめるとともに燃料、材料の試験検査に必要な諸施設を整備する。
 なお、これら研究開発の効率的な推進を図るため、同事業団の業務の一部を日本原子力研究所、民間等に委託するとともに、海外との技術協力を推進する。
 このほか、民間等が行なう新型動力炉の基礎技術に関する試験研究を助成する。

(3) 在来型炉の研究開発等
 軽水炉等の在来型炉は、すでに実用化の段階に達しており、その国産化のための研究開発は主として民間に期待するが、その推進に資するため、日本原子力研究所の材料試験炉および動力試験炉の有効利用を図るとともに、日本原子力研究所はこれら各種試験研究炉及び臨界実験装置等により炉物理、炉工学、燃料材料等の研究を行なう。
 また、民間における原子炉の設計、製造技術の開発等に関する研究を助成する。

(4) 核燃料に関する研究開発

(イ) ウラン燃料
 日本原子力研究所は、材料試験炉、JRR-2、ホットラボラトリー等を使用し、燃料の照射試験を主体とした研究を実施するとともに、動力炉・核燃料開発事業団の協力を得て乾式再処理の研究をすすめる。
 動力炉・核燃料開発事業団は、遠心分離法によるウラン濃縮技術の研究開発をすすめる。また、気体拡散法によるウラン濃縮技術の研究を民間等に委託するとともに、動力炉用燃料の設計、製造および評価に関する民間の研究を助成する。 さらに、セラミック燃料の分野における日米研究協力を推進する

(ロ) プルトニウム燃料
 日本原子力研究所と動力炉・核燃料開発事業団による共同研究および国際協力等によるプルトニウム利用に関する研究を推進する。このため日本原子力研究所はプルトニウムの物性、分析化学、炉物理等の基礎研究を実施し、また動力炉・核燃料開発事業団はプルトニウム燃料の加工技術の開発をすすめるとともに、照射試験を実施する。

(5) 原子力船に関する研究開発

(イ) 原子力第1船の建造
 日本原子力船開発事業団は、「原子力第一船開発基本計画」にもとづき、本年6月進水にひきつづき、船体の艤装をすすめ、原子炉については、昭和45年度当初から開始される予定の原子炉艤装工事にそなえて原子炉機器の製造を行なう。 また、これと関連して、青森県むつ市下北埠頭における付帯施設の建設、乗組員の養成訓練等を行なう。

(ロ) 研究開発
 船舶技術研究所は、原子力船の振動動揺対策、遮蔽に関する研究、原子炉圧力容器の事故防止に関する研究を行なう。また、舶用炉の開発計画の策定に資するため、改良型舶用炉の解析と評価に関する研究を民間に委託する。

(6) 放射線の利用に関する研究開発

(イ) 放射線化学
 日本原子力研究所は、エチレンの放射線重合、トリオキサンの放射線固相重合等について、中間規模試験を行なうとともに、日仏、日米研究協力の推進を図る。

(ロ) 食品照射
 食品照射の研究については、「食品照射研究開発基本計画」にもとづき、日本原子力研究所において食品照射共同利用施設の整備に着手するとともに、国立試験研究機関における研究の推進、関連技術研究の民間委託により、原子力特定総合研究として、これを実施する。

(ハ) その他の放射線利用技術
 日本原子力研究所、放射線医学総合研究所および国立試験研究機関は、医学、農業、工業等の各分野におけるラジオアイソトープ、加速器等を利用する研究を推進する。また、民間が行うなう研究を助成する。

(7) 核融合に関する研究開発
 核融合の研究開発については、「核融合研究開発基本計画」にもとづき、日本原子力研究所、理化学研究所および電気試験所が大学との連けいのもとに、原子力特定総合研究として、将来において核融合動力炉へと進展が予想されるトーラス磁場装置を主な対象として第一段階の研究開発に着手するとともに高ベータプラズマの研究を推進する。

(8) 安全対策に関する研究

(イ) 原子力施設の安全性
 原子力施設の安全性については、日本原子力研究所、国立試験研究機関が安全基準および安全評価に関する研究を実施する。また関連技術の研究を民間に委託する。なお、日本原子力研究所は、軽水炉の安全性実証のため、大型モックアップ施設を建設し、試験を実施する。また、原子力施設の安全性に関する研究について日米協力を推進する。

(ロ) 放射線障害の防止
 放射線医学総合研究所は、造血器移植に関する研究、プルトニウムの内部被ばくに関する研究等を行ない、また、診断、治療の迅速化および基礎研究、応用研究の能率化に資するため電子計算機によるデータの解析等を行なう。
 また、放射性廃棄物の処理、処分および放射線障害防止器材等に関する研究を民間に委託する。

(ハ) 環境放射能
 放射線医学総合研究所、および国立試験研究機関は、ひきつづき環境放射能が人体に与える影響に関する研究、食品の放射能汚染防止に関する研究を行なう。
 また、放射線医学総合研究所、動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力研究所、国立試験研究機関等は協力体制のもとに,放射性物質の海中における挙動およびその海産物への影響等についての調査研究を総合的に推進する。

 2 原子力利用の促進

(1) 原子力発電
 原子力開発利用長期計画に示された原子力発電見通しに沿って、その実現が図られることを期待するとともに、在来型炉の国産化を促進する必要がある。このため、民間の研究開発の助成、財政資金の融資、使用済燃料再処理施設の建設等に関し所要の措置を講ずる。

(2) ラジオ・アイソトープの利用
 医学、農業、工業等の各分野におけるラジオ・アイソトープ利用の増大に伴い、日本原子力研究所においては、ラジオ・アイソトープの安定供給につとめ、コバルト-60大線源の試験製造を行なう。


 3 安全対策

(1) 原子力施設の安全確保および放射線障害の防止
 「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」および「放射性同位元素等による放射線障害防止に関する法律」の施行に万全を期するとともに、原子炉施設の安全審査の指針の整備等について、前年度にひきつづき検討をすすめる。

(2) 放射能調査
 放射線医学総合研究所、国立試験研究機関、地方公共団体等は一般環境、食品および人体の放射能水準を調査する。また、各地にモニタリングポストおよび波高分析器を増設する等、フォールアウトが環境の放射能水準に及ぼす影響の調査体制の整備を図るとともに、原子力軍艦寄港に関連する放射能調査については、その体制を強化し、関連機関の協力のもとにこれを実施する。


 4 核燃料物質等に対する措置

(1) 核原料物質の探鉱
 本年度における核原料物質の国内探鉱は別途定める「昭和44年度核原料物質探鉱計画」にしたがって行なう。
 また、動力炉・核燃料開発事業団は、将来における核燃料の確保に資するため、海外においてウラン資源に関する調査を行なう。

(2) 核燃料物質の確保等
 核燃料物質等の需要のうち、濃縮ウラン、プルトニウム等については輸入により確保するが、試験研究用に供する天然ウランの一部については、国内において生産されたものを充当する。
 また、動力炉、核燃料開発事業団は人形峠出張所において、採鉱、製錬を行なうための諸設備の整備を行なう。

(3) 使用済燃料の再処理
 動力炉・核燃料開発事業団は使用済燃料再処理施設の建設準備をすすめるとともに、日本原子力研究所の再処理試験施設を用いるなどにより運転要員の養成訓練を行なう。
 また、輸送容器の設計のための試験研究を民間に委託する。
 なお、試験研究用の高濃縮ウラン系使用済燃料については、米国において再処理を行なう。

(4) 核燃料の加工
 わが国における原子力発電の本格化にともない国内における核燃料サイクルの確立に資するため核燃料の加工事業の育成につとめる。
 研究用核燃料については原則として国内で加工したものを使用する。


 5 関連諸施策

(1) 民間の研究助成等
 在来型炉の安全性、原子炉材料、核燃料、原子炉機器等の製造加工等の試験研究に重点をおいて民間の研究を助成する。
 さらに、原子力研究用物品の関税免除等、税利上の優遇措置を講ずる。

(2) 国際協力
 海外との技術研究協力については、高速増殖炉、新型転換炉、原子力船、原子炉の安全性、発電炉の最適組合せの研究、核燃料の研究開発、放射線化学、食品照射等の各分野に関し、米国、英国、フランス、ドイツ、カナダ等との二国間協力を主として行なうほか、ひきつづき国際原子力機関および欧州原子力機関の活動に積極的に参加するとともに、国際原子力機関を通じての技術情報の交換に協力する。
 発展途上国に対する技術援助については、わが国の原子力開発利用の進展を考慮して、適切な協力を行なうものとする。
 保障措置の問題については、わが国における原子力利用の急速な進展に加え、核兵器の不拡散に関する条約とも関連して、ますます重要になると考えられるので、保障措置の効率化につとめることとし、また、原子力平和利用が阻害されることのないよう措置する。これに関連し、原子力施設の査察技術に関する試験研究を民間に委託する。

(3) 科学技術者の養成訓練
 日本原子力研究所および放射線医学総合研究所においては、その研究施設および研修施設を活用して、科学技術者の養成訓練を行なうものとする。
 また、各大学が、原子力関係講座および実験施設をさらに充実し、関係科学技術者の教育、訓練を行なうことを期待する。

(4) 東海地区原子力施設地帯整備
 その特殊性にかんがみ、茨城県東海地区については、前年度にひきつづき道路の整備等に必要な措置を講ずる。

(5) 原子力発電所の立地調査
 原子力発電所の立地調査を新たな地点について行なう。

(6) 調査普及活動
 内外における原子力関係情報の収集を行なうとともに、動力炉開発、長期核燃料サイクルに関する総合的調査を実施する。
 また、前年度にひきつづき、原子力に関する研究開発、投資、生産等について動態調査を行なう。
 原子力の平和利用に対する国民の理解を深めるため、関係諸機関の協力のもとに、原子力知識の普及活動につとめる。


 6 原子力開発機関等の整備

 日本原子力研究所は、材料試験炉の運転等のため大洗研究所の整備をすすめるとともに、高崎研究所における食品照射共同利用施設の整備に着手する。動力炉・核燃料開発事業団は、高速増殖炉および新型転換炉の開発のため大洗地区における研究施設の建設をすすめるとともに必要な体制の整備を図る。
 日本原子力船開発事業団は、定係港の建設、原子力船の運航にそなえ要員の訓練等に必要な人員の充足を図るものとする。


 7 予算および人員

 昭和44年度における原子力開発利用を推進するために必要な原子力予算および人員は次表のとおりである。


昭和44年度原子力予算総表


目次 |次頁