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原子力開発利用動態調査報告書



昭和44年3月
科学技術庁

はしがき

 今回、科学技術庁では、昭和42年度にひきつづいて、原子力開発利用の急速な進展に対応し、原子力開発利用の全分野について、従事者、研究開発、投資、生産等の実態を総合的、定期的に調査し、原子力開発利用の推進をはかるうえに必要な基礎資料を作成することを目的として、第2回原子力開発利用動態調査を行なった。
 第2回調査は、前回に比較し、調査対象を拡大させるとともに、調査方法、調査項目、用語等について、一層の改善を加えた。
 今後とも、関係各機関の協力により、この調査の実施を積み重ねるとともに、さらに改善をはかりたい。
 ここに、第2回の調査結果を報告するにあたり、調査の実施に際し、御協力と御支援をいただいた関係省庁、関係機関、民間企業等の各位に深く感謝の意を表したい。



Ⅰ 調査の概要


1 調査の目的
 わが国における原子力平和利用の全分野について、従事者、研究開発、投資、生産等の実態を総合的、定期的に調査し、原子力開発利用の推進をはかるうえに必要な基礎資料を作成し、行政施策の充実に資することを目的とする。

2 調査の時点
 調査は、昭和43年3月31日現在について行ない、研修、研究開発投資、設備投資、生産等については、昭和42年4月1日から昭和43年3月31日までの期間におけるものをとりまとめた。

3 調査の対象
 調査の対象は、昭和43年3月31日現在、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(放射線等による障害防止法)および「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)にもとづく許可等をうけ、または届出を行なっている者のほか,次の原子力関係諸機関である。

ⅰ)原子力関係予算を計上している国の試験研究機関および特殊法人。
ⅱ)昭和42年度および43年度原子力平和利用試験研究委託費および試験研究費補助金の交付を受けた者。
ⅲ)科学技術庁関係の許可、団体のうち原子力関係の団体およびその加盟者。
ⅳ)その他、上記ⅰ)~ⅲ)に準ずる者

4 調査事項
 調査事項は次のとおりである。

(1) 原子力関係従事者
  ⅰ)従事者の構成
  ⅱ)放射線関係従事者
  ⅲ)研究者および技術者の専門分野

(2) 研修

(3) 研究開発投資

(4) 設備投資
  ⅰ)原子炉・核燃料関係施設
  ⅱ)放射線利用関係施設

(5) 生産等実績
  ⅰ)核燃料関係
  ⅱ)原子炉等関係
  ⅲ)放射線利用設備関係

5 調査の方法
 本調査の調査対象は1,776機関で、悉皆調査である。
 調査は、調査対象機関のうち、1,614機関に対し、昭和43年10月31日を提出期限とし、調査票を郵送した。また、調査対象機関であっても前節の調査項目に該当するものがないと考えられる162機関については、直接、職員による事情聴取を行なった。
 なお、大学関係の調査対象については、文部省大学学術局を通じて行なった。


 1 調査票

 調査票は「医療機関用」、「教育機関用」「研究機関用」および「一般用」の4種類を用意し、これを医療機関については、病院、診療所ごとに「医療機関用」の調査票を、教育機関については、学校または学部ごとに「教育機関用」の調査票を、研究機関については研究所、試験所ごとに「研究機関用」の調査票をそれぞれ郵送した。
 民間企業およびその他機関については、法人または機関ごとに「一般用」の調査票を郵送したが、原子炉等規制法または放射線障害防止法の規制対象となっている付属の試験研究所または病院等がある場合には、これら付属の試験研究所または病院についての回答を得るため、「研究機関用」または「医療機関用」の調査票を併せて郵送した。

 2 調査の回答

ⅰ)調査票の回答
 回答は、調査票を郵送した機関1,614機関のうち、1,293機関から得た。回答率は80%である。
 なお、回答のあった機関のうち、193機関は「白紙」回答であり、記入回答を行なった機関は1,100機関であった。
 第1表は、記入回答機関数を機関別にとりまとめたものである。

ⅱ)職員による聴取
 職員が聴取を行なった調査対象162の全機関については、昭和42年度において、§4の調査項目に該当するものはないとの回答を得た。


第1表




Ⅱ 用語


(1) 「医療機関」とは、国立、公立、私立の病院および診療所ならびに教育機関、研究機関等の付属の病院および診療所

(2) 「教育機関」とは国立、公立、および私立の学校ただし、教育機関付属の病院、研究所等を除く

(3) 「研究機関」とは、国立、公立、私立の研究所、試験所および教育機関の付属研究所、試験所ならびに研究開発を行なう特殊法人(動力炉・核燃料開発事業団、原子力船開発事業団等)

(4) 「民間企業」とは、株式会社、有限会社等の法人(民間企業に付属する研究所および病院を含む)

(5) 「その他機関」とは、財団法人、社団法人等の団体ならびに国の機関で医療機関、教育機関、および研究機関に属しない機関(例:建設省、農林省、運輸省等の地方出先機関等)

(6) 「医学利用」とは、医学、医療に関する原子力開発利用を行なう分野

(7) 「農業利用」とは、農林水畜産事業に関する原子力開発利用を行なう分野

(8) 「工業利用」とは、鉱工業に関する原子力開発利用を行なう分野

(9) 「その他利用」とは、医学利用、農業利用および工業利用以外の分野

(10) 「医師、歯科医師」とは、医師法においていう医師および歯科医師法においていう歯科医師である者

(11) 「薬剤師」とは、薬剤師法においていう薬剤師である者

(12) 「診療エックス線技師」とは、診療エックス線技師法で定義する診療エックス線技師である者。

(13) 「技師等」とは、衛生検査技師法で定義する衛生検査技師、理学療法士および作業療法士法で定義する理学療法士および作業療法士、歯科衛生士法で定義する歯科衛生士および歯科技工法で定義する歯科技工士である

(14) 「看護婦等」とは、保健婦助産婦看護婦法で定義する保健婦、助産婦、看護婦および准看護婦である者

(15) 「管理者」とは、研究機関にあっては部長、または、これと同等以上の管理または監督の地位にあり、専らその業務を行なっている者。民間企業にあっては、本社(部)の課長、事業所の部長、または、これと同等以上の管理、または、監督の地位にあり、専ら、その業務を行なっている者

(16) 「研究者」とは、医理工科系の大学(短期大学を除く。)の課程を終了した者、または、これと同等以上の専門的知識を有する者で、2年以上の研究業務の経験を有し、かつ、固有の研究テーマをもって研究を行なっている者

(17) 「技術者」とは、理工科系の大学(短期大学を含む。)の課程を終了した者、または、これと同等以上の者であって、高度の知識、技術を要する業務に従事する者

(18) 「事務職員等」とは、医療機関、教育機関、研究機関における管理者、研究者、技術者以外の者

(19) 「事務職員」とは、民間企業、その他機関における事務的業務を行なっている者

(20) 「工員等」とは民間企業、その他機関における工員、作業員等で管理者、研究者、技術者、事務員以外の者

(21) 「管理区域常時立入者」とは、放射線施設等の管理区域内で、放射線作業に従事している者であって、放射線障害防止法の施行規則で定める「放射線作業従事者」および原子炉等規制法の関係布令で定める「従事者」

(22) 「管理区域随時立入者」とは、放射線施設等の管理区域内に業務上立ち入る者(一時的に立ち入る者を除く。)であって、管理区域常時立入者以外の者。具体的には、放射線障害防止法施行規則で定める「管理区域随時立入者」および原子炉等規制法施行規則で定める「従事者以外の者(一時的に立ち入る者を除く。)」等

(23) 「原子力専門科学技術分野」とは、原子炉物理、原子力工学等について高度の知識、技術を要する分野

(24) 「原子力関連科学技術分野」とは、機械、電気、物理、化学、冶金等について、それぞれの知識、技術を要し、あわせて、原子炉の設計、製造、運転等の原子力関係の知識、技術を要する分野

(25) 「核燃料科学技術分野」とは、冶金、化学、機械等について、それぞれの知識、技術を要し、あわせて核燃料の製錬、加工、使用済燃料の再処理等についての専門の知識、技術を要する分野

(26) 「放射線利用科学技術分野」とは、理学、工学、農学、医学等について専門の知識、技術を要し、あわせて放射線の利用に関する知識、技術を要する分野

(27) 「原子力安全管理科学技術分野」とは、原子力発電所、原子力船、核燃料関係施設、大規模な放射線取扱施設等において、放射線防護、安全設計、廃棄物の管理および処理、緊急時の安全対策、安全管理等についての知識、技術を要する分野

(28) 「基礎研究」とは、知識の進歩を目的として行なう研究で、特定の実際的応用を直接のねらいとしないもの

(29) 「応用研究」とは、知識の進歩を目的として行なう研究で、特定の実際的応用を直接のねらいとするもの

(30) 「開発研究」とは、基礎研究および応用研究等による既存の知識の利用であり、新しい材料、装置、製品、システム、工程等の導入、あるいは、既存のこれらのものの改良をねらいとするもの。

(31) 「人件費」とは、一年間に支払った給与(退職金等を含む)の総額(税込み)

(32) 「設備等購入額」とは、施設、器具、図書等の当該年度における購入額

(33) 「その他経費」とは、消耗資材費、光熱費等




Ⅲ 調査結果の概要

 最近における原子力発電の進展、動力炉開発の本格化、原子力船の建造、放射線利用の拡大等、内外における原子力開発利用に関する情勢の進展に対処して、昭和42年4月、原子力委員会は、昭和36年に策定した「原子力開発利用長期計画」を改訂したが、昭和42年度は、この新長期計画の初年度として、わが国の原子力開発利用は、新たな段階への第1歩を踏み出した。
 このような事情を反映して、本調査においても、昭和42年度は、たとえば、原子力発電に対する昭和41年度の投資額101億円に対し、160億円と増大しており、また原子力船関係についても、7億円の新規投資がみられた。このほか、核燃料加工施設に対する投資の増加もみられている。また、とくに民間企業において、研究開発投資原子力関係従事者、生産実績いづれも増加していることがうかがわれる。


1 原子力関係従事者

 昭和42年度末の原子力関係従事者は、29,240人であった。これを機関別にみると、民間企業(付属研究所および付属病院を含む)に従事するものが、11,634人で全従事者の39.8%を占め、ついで、医療機関が7,697人で、26.3%、研究機関が5,980人で20.4%、教育機関が3,739人で12.8%等となっている。
 その構成を機関別にみると、医療機関では、医師、歯科医師(大学付属病院では教官)が2,487人で、医療機関全従事者の32.3%を占め、これにつづいて、看護婦が2,062人で、26.8%となっている。また、教育機関では、研究者が2,958人で、教育機関全従事者の79.1%を占め、研究機関では、研究者が2,132人で、研究機関全従事者数の35.7%となり、さらに、事務職員等が2,621人で43.8%である。(第1図)


第1図 機関別従事者の構成



 民間企業では、工員等が5,287人で民間企業全従事者の45.4%を占め、つづいて、技術者が3,254人で28%、研究者が991人で8.5%となっている。また、この民間企業の従事者(付属病院従事者を除く)を業種別にみると、電気機械器具製造業が1,916人で16.7%と最も多く占め、以下、電気ガス水道事業1,550人、13.5%、化学工業1,269人、11.1%、その他製造業1,157人、10.1%、鉄鋼業1,017人、8.9%の順となっている(第2図)。

第2図 民間企業業種別従事者(付属病院従事者を除く)



2 放射線関係従事者

 昭和42年度末の放射線関係従事者は22,599人であった。このうち、管理区域常時立入者は、11,869人、随時立入者は10,730人である。放射線関係従事者を機関別にみると、医療機関が7,697人で全従事者の34.1%を占め、つづいて民間企業が7,190人で31.8%、研究機関が4,191人で18.5%、教育機関が3,391人で15.0%等となっている。(第3図)

第3図 機関別放射線関係従事者数


3 研究者、技術者とその専門分野

 原子力関係従事者29,240人のうち、研究者、技術者は14,976人であった(ただし、医療機関の医師、歯科医師、薬剤師、診療エックス線技師および技師等を含む)。このうち、教育機関、研究機関、民間企業等における原子力関係の研究者と技術者は、それぞれ6,077人、4,528人で、合わせて10,605人である。これを機関別にみると、研究者については教育機関と研究機関を合わせて、5,056人で全研究者の83.1%を占めているが、技術者については民間企業が3,119人で全技術者の68.9%を占めている。(第4図)


第4図(a)機関別研究者数 第4図(b)機関別技術者数


 第2表は、これら原子力関係の研究者、技術者10,605人について、機関別に専門分野との関連をみたものであるが、放射線利用科学技術分野は教育機関で圧倒的に多く、2,885人で84.7%となっているが、研究機関では1,647人で54.6%、民間企業では1,790人で43.3%の順に低下している。これに対応して、民間企業、研究機関では、原子力関連科学技術分野、原子力専門科学技術分野の占める割合が増加している。


第2表 機関別、専門分野別研究者および技術者数


4 研修派遣の状況

 昭和42年度の研修派遣は、1,270人であった。このうち、1,071人が期間1ヵ年未満、199人が期間1ヵ年以上の研修に派遣され、短期間の研修に派遣されたものの割合が大きい。また、研修地別にみると、国内研修に1,085人海外研修に185人が派遣された。(第5図)

第5図 研修期間別・研修地別研修派遣人員



 研修派遣元の機関別にみると、民間企業が587人を派遣し、研修派遣人員の46.8%を占め最も多く、つづいて、研究機関が262人で20.6%、医療機関が204人で15.5%、教育機関が205人で16.1等となっている。(第6図)


第6図 機関別研修派遣人員


5 研究開発投資

 昭和42年度の研究開発投資額は208億9,900万円であった。第3表は、これを機関別にみたもので、研究機関が120億8,600万円で全投資額の57.8%を占め、つづいて民間企業が58億2,100万円で27.9%、教育機関が22億5,000万円で10.8%、医療機関が6億8,000万円で3.2%その他機関が6,200万円で0.3%となっている。
 これを基礎、応用、開発の各研究性格別にみると応用研究が90億2,700万円で全研究開発投資額の43.2%を占め、つづいて、基礎研究が67億8,400万円で32.4%、開発研究が50億8,800万円で24.4%となっている。
 国(国に準ずるものを含む)、地方自治体および民間の投資額はそれぞれ137億2,400万円、5億9,800万円、65億7,700万円となっており、国と地方自治体で68.6%、民間が31.4%となっている。(第7図)
 研究開発投資額を内容(科目)別にみると、人件費は、64億600万円で総投資額の30.6%、設備等購入額は49億9,400万円で23.9%、その他経費は94億9,900万円で45.5%となっている。

第3表 機関別、研究性格別研究開発投資額 第7図 研究開発投資額の負担割合



 また、第4表は民間企業の研究開発投資を、業種別にみたもので、電気機械製造業が23億3,300万円で、民間企業の全研究開発投資額の40.1%を占め、つづいて電気事業が11億4,100万円で、19.6%、その他製造業が7億2,200万円で12.4%等となっている。

第4表 民間企業業種別研究開発投資額


6 設備投資

 昭和42年度の設備投資額は233億2,600万円であった。これを機関別にみると、民間企業が185億7,200万円で全投資額の79.6%を占め、つづいて、医療機関が31億6,100万円で13.5%、研究機関が8億5,700万円で3.7%、教育機関が7億2,200万円で3.1%となっている。(第8図)。
 第5表は、投資の対象となった施設別にこれをみたもので、原子炉・核燃料関係が173億800万円で全投資額の74.2%を占め、このうち、原子力発電所に160億2,300万円、原子力船関係に7億500万円、核燃料加工施設に2億9,800万円となっており、原子力発電所に対する投資額が著しく多い。なお、このほかに再処理施設の設計のため3億6,300万円の外貨が支払われた。
 また、放射線利用関係の投資額は60億1,800万円で全投資額の25.7%を占め、このうち、放射線利用機械器具等に43億3,000万円、建物構築物に12億8,500万円が投資されている。

第8図 機関別設備投資額

第5表(a)原子炉核燃料関係施設別投資額 第5表(b)放射線利用関係設備投資額


 第6表は、民間企業の設備投資について、これを施設別、業種別にみたもので、原子炉・核燃料関係の投資額164億8,300万円のうち、電気事業者による原子力発電所への投資額が160億2,300万円とそのほとんどを占めている。また、核燃料加工事業者が加工施設に2億8,800万円を投資している。
 放射能利用関係の投資額は20億8,900万円でこのうち、電気機械器具製造業が8億7,300万円、鉄鋼業が3億7,800万円、輸送用機械器具製造業が2億300万円、計量等精密機械製造業が1億3,900万円、化学工業が1億1,000万円をそれぞれ投資している。

第6表 民間企業施設別業種別設備投資額


7 生産等実績

 昭和42年度の生産額は83億1,700万円であった。
 なお、販売額および在庫額はそれぞれ77億6,200万円、30億4,900万円であった。
 第7表は、生産額を品目別にみたもので、放射線利用機器が42億1,000万円で最も多く、つづいて原子炉機器35億7,700万円、核燃料関係が4億300万円、未臨界実験装置が1億2,700万円となっている。

第7表 品目別生産実績


 民間企業の生産額は82億7,000万円で、これを業種別にみると、電気機械器具製造業が33億6,700万円で総生産額の40.7%で最も多く占め、つづいて、輸送用機械器具製造業が16億1,500万円で、19.5%、その他製造業が11億4,200万円で、13.8%となっている。(第9図)

第9図 民間企業における業種別生産額


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