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原子力平和利用に関する世論調査


昭和43年7月
科学技術庁

Ⅰ 調査の概要

1 調査目的
 国民一般の原子力平和利用に対する関心と理解の程度および平和利用の推進に対する態度等を調査して施策の参考とする。

2 調査項目
(1)原子力平和利用に関する知識と関心
1)「原子力」という言葉のイメージ
2)法律、開発体制に関する知識
3)平和利用の各分野に関する知識と関心
4)知識の媒体とPRに対する関心
(2)原子力平和利用に対する認識と態度
1)生活向上にとって有用か
2)原子力発電の伸びの見通し
3)平和利用の推進に対する態度
(3)安全性に対する認識
1)爆発事故について
2)発電所設置に対する態度と安全性の認識
3 調査対象者
(1)母集団 全国の20歳以上の男女

(2)標本数 3,000人

(3)抽出法 層別2段無作為抽出法

4 調査時期
 昭和43年3月27日~31日

5 調査法
 調査員による面接聴取

6 調査実施委託機関
 社団法人 中央調査社

7 回収結果
(1)有効回収数 2,438(81.3%)
(2)性・年齢別回収結果



(3)欠票内訳
    転居 72人 住所不明 50人
    長期不在 120 拒否 80
    一時不在 206 その他 34
計 562人

Ⅱ 調査結果の概要

〔概 括〕
 「原子力」という言葉に対して国民一般の抱いているイメージについて調査した結果では、平和利用に関係する事項を述べた者は17%で比較的少なく、他はほとんど原水爆、広島・長崎あるいは戦争を述べ、また、これらに関連する恐怖心や不安感を表明しており、原子力に対するわが国における国民感情の一端を示している。

 わが国における原子力の利用が平和の目的にのみ限られていることについてはかなり広く知られており、また、原子力委員会、東海村といった知名率も比較的高い。

 原子力平和利用が国民生活の向上に役立つか、また、平和利用を積極的に推進すべきかについては賛成意見が多く、反対はきわめて少数であった。

 しかし、その反面、安全性に対する信頼感はなお低く、たとえば、原子力発電所は、事故の際爆発しないということについてこれを信用しないとし、また、自分の身近かに原子力発電所ができることになったら反対するという者が多く、今後の原子力知識の普及活動や施策の方向を示唆しているものといえよう。

1 原子力平和利用に関する知識と関心
(1)「原子力」という言葉のイメージ
 「原子力」という言葉を聞いて、平和利用に関するものを思い浮かべるという者は17%である。

これに対して、原爆や水爆を思い浮かべるという者24%、広島・長崎と述べる者13%、恐怖心や不安感をもつとした者10%、原潜、原子力空母をあげる者8%となっており、わが国においては原子力はなお軍事や戦争と結びついて受けとめられることが多いことを示している。



(2)法律、開発体制に関する知識
 わが国における原子力の利用は、法律によって平和目的に限定されていることを開いたことがあるかという問に対しては、過半数の54%が聞いたことがあると回答した。

 しかし、その法律を「原子力基本法」と正しく答えた者は4%ときわめて少ない。



 次に、法律、組織、開発に関連した地名についての知識を、名前を聞いたことの有無の知名率ではかった結果は次のとおりである。

 法律の知識としては、教育基本法が48%、農業基本法が37%であるのに対して原子力基本法の知名率は18%で三つの中では最も低い。

 これは個人の生活との密着という点で、子供の教育などといったものよりはへだたりがあるためと思われる。

 しかし、組織や地名については、原子力委員会が公正取引委員会の49%より多い55%で、東海村は63%と水戸市(57%)よりよく知られ、むつ市は17%とそれぞれかなり知られているといえる。

 この結果は上述のように、平和利用の原則が54%という高率を示している点を含め、原子力に関する実質的な意味での基本的知識は、予想以上に広く浸透しており、関心の程度も高いことを示しているものと考えられる。



 なお、これらの数字は、原子力平和利用に関する調査の中での知識の質問である点を多少割引いてみることおよび数字の絶対値でなく、項目どおしの相互比重をみるべきであるということを注意しなければならない。

(3)平和利用の各分野に関する知識と関心
 平和利用の各種の分野のうち、知っている分野をあげさせると、原子力発電という者は70%、放射線利用による病気の診断、ガンの治療が58%、原子力船の建造が38%となっている。どれも知らないという者は18%である。

 次に、これらの分野のうち、どれに最も関心をもっているかという問に対しては、放射線の医学利用が40%で第一位となっている。

 分野別知識では最もよく知られている原子力発電は22%で第二位となり、日常生活との関連が関心の程度に反映しているものといえよう。



(4)知識の媒体とPRに対する関心
 原子力平和利用に関する知識の媒体としては、テレビ、新聞をあげる者がそれぞれ61%、57%である。

 地域別にみると、東京都と六大市はその他の中小都市、町村と異なる傾向があり、テレビの60%台は変らないが、新聞については、前者が70%とテレビより多くなるのに対して、中小都市、町村では50%と少なくなっている。

 また、職業別にみると次のとおりである。



 原子力平和利用のPRの映画があれば観覧する意思があるかを開くと5人に2人は見に行きたいといっている。

 これを平和利用の原則を聞いたことのあるなしとの関連でみると「聞いたことのある者」の56%は見に行きたいというのに対し「聞いたことのない」者では29%と比較的無関心な層はPRへも消極的態度しか示さない。



2 原子力平和利用に対する認識と態度

(1)生活向上にとって有用か
 原子力の平和利用を進めることは、国民生活の向上に役立つと判断する者は66%と圧倒的に多く、役立たないと否定する者は2%に過ぎない。



(2)原子力発電の伸びの見通し
 平和利用のなかでも中心となる原子力発電の今後10~20年のうちの伸びを火力発電、水力発電との比較でみると原子力発電だという者が55%と半数を超え、火力発電、水力発電をいう者はそれぞれ4%という低率である。



(3)平和利用の推進に対する態度
 原子力の平和利用を積極的に推進することに賛成する者は58%で、反対は3%である。



 対象者の特性別にみても、他の質問との関連でみても賛成の者が圧倒的に多い。



3 安全性に対する認識

(1)爆発事故について
 原子力を広く利用するということのためには、一般国民の間にその安全性に対する信頼が広く受け入れられなければならない。

 そこで原子力発電所の事故を想定して、それでも爆発は絶対起こらないといわれていることを信用するかと質問した結果では信用するという者は19%に過ぎず、信用しないという者が34%いる。



 この数字は原子力発電所という陸上の産業施設に関する安全性の信頼感としては異常に低いといわざるを得ない。

 これは、先に述べた「原子力」のイメージで示されたような原爆や死の灰への直接的な連想が底流にあることや、また、石炭や石油と異なり“原子の火が燃える”というイメージが日常生活においてまったく得られず、信頼の基礎となる体験的な知識が欠如していること等に主としてもとづくものといえよう。

 調査インタビューの際、一主婦が「原子力発電所で何百人の人がいままでなんでもなく働いてきたのだから安全性は心配ないのでしょう。」と語った言葉は、安全性に対する信頼感とそれを得るためのPRには、原子力開発の一今日までの10余年の実績こそが何よりも力強い説得力を持つものであることを示唆するものである。

(2)発電所設置に対する態度と安全性の認識
 現実の問題としては、大都市などでその可能性が少なかったり、色んな立地条件の制約があったりするので仮定の問題として、原子力発電所の設置に対する態度を問うた結果は反対が41%、賛成が14%である。



 反対するという者にその理由を開くと、「付近が放射能で汚れるおそれがあると思うから」と「原子炉は爆発する危険があると思うから」という理由をあげる者が、それぞれ21%、18%で、反対回答者のほぼ半数ずついる。

 さらに災害による事故の危険、廃棄物処理に対する不安をいう者が11%、10%で反対者の4分の1ずつあるのを加えると安全性に対する不安を反対の理由とする者は反対者の9割に達する。

 これを、原子力発電所の安全性についての質問との関連でみると、爆発が起こらないことを信用する者では発電所設置に賛成が46%で、反対が25%となっている反面、爆発事故発生について起こるかもしれないという不信組では設置反対が75%で、その理由も爆発の危険と放射能汚染をあげる者が多い。

 以上の回答結果から、今後一層、正しい原子力知識の普及と原子炉運転の内外の実情等についての周知をはかり、ふだんの安全性の確保に努め、信頼感の積み上げに努力することが必要である。



 なお、原子力発電所の設置に賛成する者14%にその賛成理由をきくと、「産業の発展に貢献すると思うから」という者が8%、「科学技術の発展に貢献すると思うから」が5%で、「安全だと思うから」「公害の心配がないから」といったものをあげたのは合わせて4%である。
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