昭和43年7月18日付けで(株)東京原子力産業研究所、取締役社長、浜田秀則から原子力委員会委員長および科学技術庁長官に対し、「東京大学医学部から脳しゅよう患者の治療のため同社の原子炉(HTR)を使用したい旨の申入れがあったので、特別の配慮を要望する」旨の陳情があった。
科学技術庁においては、原子力委員会と打合せの上、できるだけ早く見通しを立てることが望ましいとの判断の下に、正式申請を待たず検討を開始することとし、原子炉、放射線、医療関係の専門家10氏による、検討会を設け本件についての見解を求めた。
専門家検討会は、7月29日付けで科学技術庁長官あてに、HTRを当該治療目的に使用することは可能である旨の報告を行なった。
一方、7月29日付けで、上記原子炉設置者から原子炉等規制法に基づく原子炉の目的変更の申請が提出され、内閣総理大臣は30日、原子力委員会に対し、原子炉等規制法に基づく許可基準の適合について意見を求め、同委員会は同日、これに適合している旨答申した。
東京原子力産業研究所(株)原子炉施設(HTR)の設置変更について(答申)
43原委第183号
昭和43年7月30日
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内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長
株式会社東京原子力産業研究所原子炉施設(HTR)の設置変更について(答申)
昭和43年7月30日付け43原第3893号をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。
記
株式会社東京原子力産業研究所原子炉施設(HTR)の設置変更(使用の目的の変更)に関し、同社が提出した変更の許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。
なお、各号の基準の適合に関する意見は、別紙のとおりである。
別 紙
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律
第24条第1項各号に規定する許可基準の適合に関する意見
1 本変更は、第1号から第3号に規定する許可基準に適合しているものと認める。
2 第4号に規定する許可基準については、昭和43年7月30日付け43原第3893号の貴諮問に添附された専門家の報告にも述べられているとおり、これに適合しているものと認める。
東京原子力産業研究所所有の原子炉の医療用使用についての検討結果
昭和43年7月29日
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科学技術庁長官 鍋島 直紹殿
東京大学教授 向坊 隆
(株)東京原子力産業研究所所有の原子炉の医療用使用についての検討結果
株式会社東京原子力産業研究所が東京大学医学部の依頼を受けて、脳しゅよう治療のため、同社の原子炉(HTR)を使用する件に関し、貴庁からの依頼に応じ、別紙記載の専門家により行なった検討の結果を、下記のとおり報告する。
記
1 今回の医療用使用に際しては、原子炉施設自体については、なんらの変更を加えるものではなく、今回の使用が原子炉施設の安全に対して影響を及ぼすおそれはない。
2 今回の中性子照射治療に際しては、サーマルコラム後方を利用して、中性子線を患部に集束して照射し、他方、ガンマ線をしゃへいするための附属物を設けることとしており、患者の患部以外の身体部位に対する放射線被ばくを極力少なくするような措置が講じられている。
3 病状の急変等の緊急時または停電等の原子炉の異常時に関する対策が配慮されており、患者に対して危険を及ぼすことは考えられない。
4 今回の治療に伴う医師その他の医療関係者、原子炉従事者等の放射線被ばくについては、当事者による適切な注意が払われれば、許容量をこえることは考えられない。
5 本原子炉は、元来医療用使用を目的として建設されたものではないので、今回の使用に際しては若干の不便は免れまいが、以上の検討結果のとおり、これを今回の治療に使用することは可能であると考えられる。
6 本検討会の結論は、以上のとおりであるが、今回の医療用使用を実際に行なうかどうかは、あくまでも主治医の総合的な判断によるべきものであることはいうまでもない。
なお、当然のことではあるが、これを医療用に使用する際には、関係者において細心の注意が払われることを希望する。
別 紙
原子炉の医療使用専門家検討会
梅垣洋一郎 |
国立がんセンター放射線部長 |
江藤 秀雄 |
放射線医学総合研究所科学研究官 |
大山 彰 |
東京大学工学部教授 |
筧 弘毅 |
千葉大学医学部教授 |
喜多尾憲助 |
放射線医学総合研究所医用原子炉室 |
塚本 憲甫 |
国立がんセンター病院長 |
浜田 達二 |
理化学研究所主任研究員 |
弘田 実弥 |
日本原子力研究所高速炉物理研究室長 |
宮川 正 |
東京大学医学部教授 |
向坊 隆 |
東京大学工学部教授 |
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