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三菱原子力工業(株)原子炉(臨界実験装置)
の設置について


原子力委員会

 原子力委員会は、三菱原子力工業(株)原子炉(臨界実験装置)の設置に関する許可の基準の適合について、内閣総理大臣から4月4日付けで諮問を受けた。

 安全性については、原子炉安全専門審査会に審査を指示し、6月19日に審査会長から安全性は確保し得る旨、原子力委員長に報告がなされた。

 原子力委員会としては安全性のほか、平和利用、計画的開発利用、経理的能力等についても審査を行ない、許可の基準に適合する旨、6月20日付けで内閣総理大臣あて次のとおり答申した。

三菱原子力工業(株)原子炉(臨界実験装置)の設置について(答申)

43原委第153号
昭和43年6月20日


  内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長

三菱原子力工業株式会社原子炉(臨界実験装置)の設置について(答申)

 昭和43年4月4日付け42原第5670号(昭和43年6月11日付け43原第3072号をもって一部訂正)をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 三菱原子力工業株式会社が炉物理その他の研究目的をもって埼玉県大宮市北袋町1丁目に設置しようとする濃縮ウラン軽水減速型、熱出力200Wの原子炉(臨界実験装置)1基の設置許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。

 なお、各号の基準の適合に関する意見は、別記のとおりである。

別 記
 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準の適合に関する意見

(平和利用)
1 この原子炉は、三菱原子力工業株式会社が基礎的な炉物理研究、原子炉の設計値あるいは設計手法の確認等の研究の目的をもって使用するものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的開発利用)
2
(1)この原子炉の使用目的は適切であり、原子炉の型式および性能はその使用目的に合致している。

(2)原子炉利用に関する組織および技術的能力は十分であり、その利用効果をあげることができる。
 したがって、この原子炉の設置および運転は、わが国における原子力の開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)
3 原子炉の設置に要する資金は、自己資金および国内金融機関からの借入れにより調達する計画になっており、その内容からみて調達可能と考えられるので、原子炉を設置するために必要な経理的基礎があるものと認める。

(技術的能力)
4 別添の原子炉専門審査会の審査結果のとおり、この原子炉を設置し、その運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

(災害防止)
5 別添の原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり、原子炉施設の位置、構造および設備は、核燃料物質もしくは核燃料物質によって汚染された物または原子炉による災害の防止上支障がないものと認める。

三菱原子力工業(株)原子炉(臨界実験装置の設置)に係る安全性について

昭和43年6月19日
原子炉安全専門審査会


 原子力委員会
  委員長 鍋島 直紹殿

原子炉安全専門審査会
会長 向坊  隆

三菱原子力工業株式会社原子炉(臨界実験装置)の設置に係る安全性について

 当審査会は、昭和43年4月4日付け43原委第95号(昭和43年6月11日付け43原委第149号をもって一部訂正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

1 審査結果

 三菱原子力工業株式会社原子炉(臨界実験装置)の設置に係る安全性に関し、同社が提出した「臨界実験装置設置許可申請書」(昭和42年12月11日付け申請および昭和43年6月8日付け一部訂正)に基づき審査した結果、本原子炉の設置に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。

2 審査内容

1 設置計画の概要
 本原子炉施設(臨界実験装置)の立地条件および施設の概要は、次のとおりである。

1.1 立地条件
(1)一般環境
 本原子炉施設は、埼玉県大宮市北袋町1丁目三菱原子力工業(株)研究所内に設置され、敷地は、約33,000m2の広さをもち、同敷地を含む約150,000m2の構内は、三菱金属鉱業中央研究所、同大宮工場、三菱セメント(株)技術研究所等が設置されており、東側は産業道路、西側は旧中仙道に接している。

 設置予定地点から最も近い人家までの距離は、約65mである。

 敷地周辺は、住宅工場地域であり、半径1km以内の人口は約19,000人、半径5km以内には大宮、与野、浦和の3市の大部分が含まれ人口は約380,000人である。

 大宮市は、首都圏整備法による開発地域の指定を受けており、最近、大工場の進出も多く、また住宅地域の拡大と密集の傾向が見られる。
(2)地盤および地震
 この敷地は、上部をローム層が覆い、その下は、粘土層、砂層、砂礫層の互層からなる洪積層である。

 施設は、地表面下12m~23mの細砂、中砂からなる砂礫層に支持され、ボーリングその他の調査結果によれば、この層は、支持地盤として十分な地耐力を有している。

 また、過去に影響力の大きな地震に見舞われた記録はない。
(3)水利
 この施設の用水は、研究所内の深井戸からの地下水を利用することになっており、用水の所要量からみて運転に支障はない。

 排水は、研究所専用の排水路を通じ芝川へ注がれる。

 また、敷地は台地にあり、河川の氾らん、降雨の滞水等による浸水のおそれはない。
1.2 施設の概要
 本原子炉は、熱出力200Wの濃縮ウラン軽水減速型である。

 炉心は、内径約2.2m、高さ約3.0mのステンレススチール製の上部開放型炉心タンクに組み込まれる。

 燃料は、濃縮度2.7ω/o、3.2ω/oおよび4.4ω/oの二酸化ウランペレットをステンレス被覆管におさめたものを使用し、ペレットを詰め替えることにより、燃料の有効長を52cmから104cmまで変えることができる。

 使用される235Uの量は、2.7ω/oのもの13.68kg、3.2ω/oのもの20.72kgおよび4.4ω/oのもの3.69kgである。

 反応度の制御は、主として水位によって行なわれ、停止装置としては、電磁カップリング方式の安全板5枚が設けられる。

2 安全設計および安全対策
 本原子炉には、次のような安全設計および安全対策が講じられることになっており、十分な安全性を有するものであると認める。

(1)実験の範囲
 臨界実験装置の目的は、燃料の種類、配置等を変えたり、ポイズン棒、模擬ボイド管、液体ポイズン等を挿入して実験を行なうことであり、本原子炉で行なわれる実験の範囲は、次のようなものである。
イ 水対二酸化ウラン体積比;1.9および1.4
ロ 炉心寸法;等価内径26.4cm~105.8cm高さ52cm~104cm
ハ 燃料濃縮度;2.7ω/o、3.2ω/o、4.4ω%およびこれらの組合わせ
ニ 実験用挿入物
 ① 固定模擬制御棒……全等価反応度11%△k/k以下
 ② ポイズン棒……全等価反応度11%△k/k以下
 ③ 模擬ボイド管……全等価反応度5%△k/k以下
 ④ 液体ポイズン……最大濃度は常温における飽和溶解度の1/5以下全等価反応度11%△k/k以下

 上記を組み合わせて実験する場合の全等価反応度は、11%△k/k以下とする。

ホ 水位;水位上昇に伴う潜在的過剰反応度4%△k/k以下
ヘ 実験条件;これらの実験は、圧力、常圧、温度80℃以下、過剰反応度0.5%△k/k以下
で行なわれる。
(2)動特性
 本原子炉は、燃料温度係数、減速材温度係数およびボイド係数が負であるので、反応度外乱に対して自己制御性が高く、固有の安全性を有している。
(3)燃料棒の判別管理
 本原子炉では、濃縮度の異なる燃料棒が用いられるので、色別等により判別管理が十分に行なわれる。
(4)安全保護回路
 安全保護系統は、スクラム、ダンプ、警報回路およびインターロック系からなり、核計装、プロセス計装設備、制御設備およびその他の設備からの信号により、緊急停止、異常警報およびインターロックを行なう。

 スクラムは
① 炉周期が短い
② 中性子束が高い
③ 電源電圧異常
④ 炉心タンク水位異常
⑤ 炉室扉開放
⑥ 手動スクラム
⑦ 地 震
の場合に働くようになっており、その機構は、全板炉心内落下、全排水弁開、給水弁閉および給水ポンプ停止である。

 ダンプは、
① 中性子源引抜時に線型系統出力指示が低い。
② 安全板装置が運転中落下
の場合に働くようになっており、その機構は、全排水弁開、給水弁閉および給水ポンプ停止である。

 異常警報は、
① 炉周期が短い。
② 中性子束が高い。
③ 線型出力指示が低い。
④ ダンプタンク水位が高い。
⑤ ダンプタンク水電導度が増大。
⑥ 放射線量増大(放射線監視設備より)
⑦ 高速給水停止水位へ水位が到達。
の場合に働くようになっており、表示灯の点灯およびブザーによって、警報が発せられる。

 インターロック回路としては
① 起動インターロック
② 安全板引抜インターロック
③ 給水インターロック
④ 給水微調節弁インターロック
⑤ 低速給水停止スイッチ駆動インターロック
⑥ 実験制御棒駆動インターロック
⑦ 高速給水インターロック
⑧ 低速給水インターロック
が設けられ、装置の安全確実な起動および運転が行なわれる。
(5)反応度制御設備
イ 水位制御装置
 水位制御装置としては、高速給水回路、低速給水回路および排水回路が設けられる。

 高速給水回路は、高速給水停止スイッチ位置まで高速給水できるように設計される。

 低速給水回路は、炉心内水位の上昇の速さが反応度附加率にして2×10-2%△k/k/sec以下で低速給水停止スイッチ位置まで低速給水できるように設計される。

 水位による過剰反応度が0.5%△k/kをこえないように後備水位制限スイッチおよび水位上昇を制限する溢流器が設けられる。

 排水回路は、通常排水回路および緊急排水回路からなる。

ロ 安全板装置
 安全板は、スクラム時および電源喪失時に炉心内の案内枠に沿って自由落下するように取り付けられており、安全板の等価反応度は1.5%△k/k以上である。

ハ 実験制御棒設備
 実験制御棒は、制御棒効果測定の際の試料として用いられるが、反応度調整用としても用いられる。

 制御材の全等価反応度は0.5%△k/k以下であり、反応度附加率は2×10-2△k/k/sec以下である。
(6)放射線遮蔽体
 本原子炉では、炉室の外壁が生体遮蔽を兼ねる構造であり、炉室の外壁は地上より高さ約6mまで厚さ約90cmのコンクリート壁とし、作業室に接する壁は厚さ約120cmである。

 炉室の天井は約30cmの厚さのコンクリートであり、炉室の出入口は迷路構造になっている。

日本原子力研究所軽水臨界実験装置(TCA)と比較して、遮蔽壁は約1m高く、天井は約13cm厚くなっており、スカイシャインを減少させるのに有効と考えられる。
(7)廃棄物の放出管理
 気体廃棄物については、ダストモニタおよびガスモニタで汚染度を監視し、フィルタを経て排気孔から大気中に排出される。

 液体廃棄物については一旦、廃水貯留他に貯留し、放射能濃度が法令に定める許容値以下であることを確かめたのち排出される。
(8)耐震上の考慮
 本原子炉施設は、安全上の重要度に従って、第1類、第2類、第3類の3種のクラスに分類され、それぞれ次のように耐震設計が行なわれるので、敷地における地震活動性、地盤の状況等からみて耐震上安全であると考える。
イ 第 1 類
 炉心タンク、炉心支持枠および安全板案内枠の設計地震力は、建築基準法に示された水平震度の3倍の値を水平震度としており、同時にその1/2の値を垂直震度とする。

ロ 第 2 類
 炉室の設計地震力は、建築基準法に示された水平震度の1.5倍の値とする。

ハ 第 3 類
 その他の施設および装置の設計地震力は、建築基準法に示された水平震度の値とする。
3 平常時の被曝評価

 安全設計および安全対策の節で述べてあるように炉主からの放射線の漏洩は十分に遮蔽されている。

 年間積算出力は1kWhr以下であり、この場合、最大の年間放射線量は、作業室約13.5mrem、敷地内で最大と考えられる地点で約39mrem、敷地外では炉心から60mのところで約6.5mrem、100mのところで、約2.5mremであり、敷地外の一般公衆の受ける被曝線量は許容被曝線量より十分小さい。

 また、実験計画によれば、燃料の取扱い、実験用試料の取替え等の作業に際し、従事者が被曝することが考えられるが、この全被曝推定量は、年間約1.7remであり、評価の仮定が安全側にあることおよび従事者の被曝管理が十分に行なわれることを勘案して、この値は容認されるものと認める。

4 事故評価

 本原子炉において発生する可能性のある事故として、水位連続上昇事故、制御棒連続抜出し事故、実験用器材の壊減、燃料の誤装荷、模擬ポイズン棒、模擬制御棒の誤配置等の場合について検討した結果、それぞれ適当な対策が講じられており、本原子炉は十分安全性を確保し得るものであると認める。

 さらに、仮想事故として、炉心タンク水位連続上昇事故、すなわち起動時または運転中運転員の誤操作または装置の故障により連続的に水位が上昇し、正の反応度が附加される場合を想定し、次の仮定を用いて線量を計算している。
① 反応度附加率は2×10-2%△k/k/secとする。
② 核計装、水位制限スイッチ等によるすべてのスクラムが動作しない。
③ 運転員が炉室内放射線モニターの警報により事故を検知して、制御室に設けられた空気弁を手動により開放しダンプ弁を開く。
④ スクラム動作については、安全板動作を無視し、ダンプ弁の開放のみとする。
 解析の結果、放出エネルギーは約102MW・Secとなり、燃料中心最高温度は約620℃に達するが、燃料および燃料被覆材の溶融、破損には至らず、炉室建屋外での被曝線量は最大1.1rem程度であり、また、敷地境界では約0.2remである。

 したがって、本原子炉は、敷地外の一般公衆に対して安全と認められる。

5 技術的能力

 申請者は、長年にわたり、原子力関係各分野において、多くの研究開発を行なってきており、日本原子力研究所の原子炉施設の建設経験を有するほか、発電用原子炉施設の建設にも参加している。

 本原子炉の運転を担当することになっている管理室は、室長(主操作責任者)室長代理(副操作責任者)および室員を含めて10名をもって構成される。

 このうち、日本原子力研究所軽水臨界実験装置(TCA)での運転経験を有するもの3名、原子炉主任技術者の資格を有するもの3名、第1種放射線取扱主任者の資格を有するもの4名である。

 以上の点から、本原子炉を設置するに必要な技術的能力および運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

3 審査経過

 本審査会は、昭和43年4月10日第58回審査会において、次の委員からなる第39部会を設置した。
  高島洋一 (部会長)  東京工業大学
  植田辰洋  東京大学
  浜田達二  理化学研究所
  弘田実弥  日本原子力研究所

 審査会および部会においては、次表のとおり審査を行ない、昭和43年6月11日の部会において部会報告書を決定し、6月19日第60回審査会において本報告書を決定した。

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