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東京電力(株)福島原子力発電所
の変更(2号炉増設)に係る安全性について


昭和43年3月18日
原子炉安全専門審査会報告

昭和43年3月18日

  原子力委員会
    委員長 鍋島 直紹 殿

原子炉安全専門審査会
会長 向坊  隆

東京電力株式会社福島原子力発電所
の変更(2号炉増設)に係る安全性について

 当審査会は、昭和42年9月21日付け42原委第212号(昭和43年2月23日付け43原委第49号および昭和43年3月13日付け43原委第68号をもって一部訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。

  第1 審査結果

 東京電力株式会社福島原子力発電所原子炉施設の変更(低濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却の沸騰水型原子炉1基を増設)に関し同社が提出した「福島原子力発電所原子炉施設変更許可申請書」(昭和42年9月28日付け申請、昭和43年2月22日付け、および3月12日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、本施設の変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

  第2 審査内容

1 変更計画の概要

 本変更は先に設置許可を受けた福島原子力発電所に新たに原子炉を増設しようとするもので、立地条件および施設の概要は次の通りである。

1.1 立地条件
 本変更に伴ない設置される原子炉(以下2号炉という。)は、既設原子炉(以下1号炉という。)に隣設して設置されるもので、敷地および周辺環境の状況、敷地付近の地質、海象、気象、および地震活動性からみた立地条件は、本変更においても変ることはない。

 増設される原子炉施設の支持地盤は、試掘横坑を掘削して精査した結果、支持地盤として十分な耐力を有するものであることが確認されている。

 また2号炉に必要な淡水量は約1,200m3/日であり、1号炉と合わせて2,200m3/日となるが、敷地内で利用できる深層地下水の流動水はほぼ3,000m3/日と推定されるので、変更の結果必要となる用水はすべてこの地下水から確保される。

 復水器冷却用水には発電所前面海域より海水を取って使用され、変更に伴う問題はない。

1.2 原子炉施設
 2号炉は、熱出力約2,381MW(電気出力約780MW)の直接サイクル強制循環沸騰水型である。

 炉心部は円筒形鋼製圧力容器に収められている。

 燃料としては従来の沸騰水型原子炉で用いられているものと同様、燃料棒多数(7×7本)を組立てた集合体548個が使用される。

 燃料には低濃縮二酸化ウラン焼結ペレットを使用し、ジルカロイ-2製の被覆管内に入れられ、その装荷量はウラン約107トンである。

 制御棒はボロンカーバイドの粉末を充填したステンレス鋼管を十字形に配列したもので、圧力容器の下方から水圧により駆動される。

 なお、圧力容器内には気水分離器およびジェットポンプが収められる。

 冷却系は給水系、再循環系および主蒸気系からなっている。

 原子炉の制御は、制御棒の操作および一次冷却材再循環流量の調整によって行なわれる。

 圧力容器、再循環回路等原子炉の主要部分は鋼製格納容器に収められている。

 格納容器は、ドライウェルとサプレッションチェンバを備えた圧力抑制型で、原子炉建家内に設置される。

 そのほか、放射性廃棄物処理施設、放射線管理施設等が設けられる。

2 安全設計および安全対策

 本変更にかかる原子炉施設は、次のような種々の安全設計および安全対策が講じられることとなっており十分な安全性を有するものであると認める。

2.1 核、熱設計および動特性
(1)核、熱設計
 実効余剰増倍率は第1炉心(濃縮度約2.2W/O)の初期には約0.25(△K)となるが、ポイズンカーテンを炉内に装荷することにより、最大約0.13(△K)に抑えられる。

 ポイズンカーテンは最初の燃料取替時に全部取出される。

 第2炉心以降、濃縮度約2.6W/Oの燃料を装荷する計画であるが、その場合も実効余剰増倍率は最大約0.15(△K)に保つことにしている。

 炉心冷却水の圧力および温度は、原子炉出口において定格出力運転時にそれぞれ約72kg/cm2absおよび約286℃であり、定格出力運転時における燃料の最高線出力密度は約0.61kW/cmで最高被覆温度および最高中心温度は、それぞれ約400℃および約2,500℃である。またこの時の最小限界熱流束化(MC HFR)は1.9である。

 タービン発電機トリップ、再循環ポンプ電源喪失などの比較的起こる可能性の大きい事故時にも、最小限界熱流束比(MC HFR)は1.3を下廻らないことが確かめられている。

 本原子炉の燃料の設計基準は、過渡状態でも燃料破損が生じないこととしており、その燃料破損の限界として、限界熱流束(CHF)をこえず、またジルカロイ被覆の円周方向1%塑性歪みをこえないことをめやすとしている。

 これは一部燃料中心溶融が生じても燃料棒は破損しないという実験結果にもとづいたものであるが、過渡出力状態で一部燃料中心溶融が生じた場合の燃料の挙動については、このような新設計による原子炉の運転経験、および被覆材に関する実験等によって確かめてゆくことになっている。

(2)動特性
 本原子炉は、ドップラ効果、冷却材のボイド効果等により負の反応度出力係数をもち、制御棒の操作等に起因する反応度の外乱に対して自己制御性を有している。

 反応度帰還による原子炉系の安定性は、再循環流量による出力の制御範囲を制限する(100%再循環流量に対する出力の100~75%)ことによって、炉心寿命の初期においても十分に維持される。

2.2 燃料
 燃料棒は二酸化ウランペレットを長さ約4mのジルカロイ-2製の被覆管(肉厚約0.8mm)に入れたものである。

 燃料被覆管はペレットによる内部からの支持がなくても外圧によって、つぶれることのない自立形の設計であり、燃料棒上部に設けられるプレナム体積も最高燃焼度35,000MWD/tに応じて核分裂生成ガス等の蓄積により過大な内圧上昇をもたらさないよう十分大きくとってある。

 燃料集合体は上下燃料棒支持板を結びつける8本の燃料棒と1本のスペーサー支持燃料棒によって保持され、燃料棒はすべて長さ方向の自由膨脹ができる構造になっている。

2.3 計測および制御系
(1)核計測系
 核計測については、検知器が炉心の全域に配置され、炉心内の局部的な中性子束上昇が検知できるように設計される。

 なお詳細設計にあたっては、その信頼性の確保について十分配慮されることになっている。

(2)安全保護系
 安全保護系は、電源喪失、回路の断線等に対してフェイルセイフな設計であり、中性子束、原子炉圧力、原子炉水位等の重要な検出要素については、独立した検知回路が多数重複して設けられ、安全動作の確実性を高めるよう配慮されている。

(3)反応度制御系
 制御棒の反応度抑制効果は、合計で実効増倍率の変化にして約0.18(△K)であり、常に炉心の実効増倍率を0.98以下に抑えるだけの停止余裕がある。

 また、最大反応度抑制効果を有する制御棒が引抜かれ、その他のすべての制御棒が挿入された状態で、実効増倍率は0.99をこえることはないようにされ、制御棒はどの1本を引き抜かれた状態でも原子炉を停止させる能力をもっている。

 制御棒は水圧式駆動機構により下方から操作される。

 スクラム動作は制御棒ごとに設けられたアキュムレータの水圧によって行なわれるが、その圧力が低下した場合には炉内圧力によって行なわれる。

 スクラム動作に必要な弁は空気系によって操作され、空気圧の低下に対してフェイルセイフな設計となっている。

 この方式については、使用経験によって信頼性が確かめられている。
 このほか、後備停止装置として手動の液体ポイズン注入系があり、単独で炉を停止させる能力をもっている。

 以上のような配慮がなされているので、いかなる場合でも原子炉の停止は確実に行なわれると考える。

 また、制御棒には、誤って炉心大から脱落した場合の落下速度を制限するために、速度リミッタが設けられる。

 圧力容器の下側には、制御棒駆動機構シンブルが破損しても、制御棒が逸出しないようにシンブル支持機構が設けられる。

(4)制御棒操作
 制御棒の操作は、運転員が所定の手順に従って行ない、操作手順は、安全上、制御棒1本あたりの効果が過大とならないように定められる。

 運転員の誤操作に対しては、後備保護装置として制御棒価値ミニマイザおよび制御棒引抜監視装置が設けられており、誤動作は自動的に阻止される。

 従って、誤って制御棒が炉心から抜けても、制御棒価値ミニマイザの働きによって実効増倍率の増加は0.025(△K)をこえることはない。

 また制御棒引抜監視装置の働きによって部分的に高出力となって燃料損傷を来すような制御棒の連続引抜きもない。

 なおこれらの装置は、安全上重要な役割を演ずるので、その点検を慎重に行なってその信頼性を確保するとともに使用不能時についても十分な対策を講じることになっている。

(5)出力制御系
 炉心冷却材の圧力は初圧調整装置により常に一定に保たれ、冷却材流量は再循環ポンプの回転数を制御することにより調整される。

 すでに述べたように、流量調整による出力制御範囲は、原子炉系の安定性を考慮して定められる。

 炉内の中性子束が、流量に対応して定められた許容限界をこえると、インタロックによって制御棒の引抜きは阻止される。

(6)中央制御室
 中央制御室には、原子炉施設の運転に必要なすべての計測制御装置が設備されており、事故時においても運転員が安全に所要の措置をとりうるように遮蔽、換気等の放射線防護上の配慮がなされている。

2.4 原子炉冷却系
(1)圧力容器、配管等
 圧力容器、配管等は、わが国の法令に定める基準を満足するように設計される。

 また、材料の疲労、応力集中等について解析を行ない、これに十分耐えることを確認することになっている。

 さらに、圧力容器は圧力を受けている間は、容器の温度をNDT+33℃以上に保つようにし必要があるときは、所内ボイラで加熱できるようになっている。

 なお、中性子照射による材料の機械的性質の変化を監視するため、圧力容器内に照射試料を挿入することになっている。

(2)安全弁、逃がし弁、タービンバイパス系等格納器内の主蒸気管には、安全弁および逃がし弁が設けられ、事故時に原子炉系に生ずる異常な圧力上昇を抑えるようになっている。

 また主蒸気管には、定格蒸気量の25%をバイパスして、主復水器に導くタービンバイパス系が設けられ、原子炉起動時、停止時の過渡状態での主蒸気圧力の調整を行なうことができるようになっている。

 そのほか、原子炉停止後の炉心崩壊熱を除去する原子炉停止時冷却系が設けられる。

2.5 燃料取扱系
 燃料取替は、炉心上に水を張り、移動床に取り付けられた燃料つかみ器で行なわれる。

 このつかみ器は、駆動源喪失時においても燃料を落さないような構造に設計される。

 また、燃料取替時に破損燃料を検知する装置が設けられており、破損の大きな燃料は容器に詰められる。

 さらに、燃料取替中は、臨界防止のためインタロックによって制御棒は引抜けないようになっており、また制御棒は、周囲の4個の燃料集合体を取り出さなければ、取出すことができないような構造になっている。

 燃料プールは、原子炉建家内に設けられ、炉心装荷量および1回取出し量以上の燃料ならびに使用済制御棒等を貯蔵する能力を有するように設計され、かつ、冷却、浄化、臨界防止等について十分配慮される。

2.6 廃棄物処理係
(1)気体廃棄物
 2号炉から発生する気体廃棄物のほとんどは、1冷冷却系からのもので、ガス減衰タンク(1日分の貯留容量のもの2基)およびフィルタを通して、放射能レベルの連続測定後標高約10mの台地上に設けられた高さ約120mの1号炉と共用の排気筒から放出される。

(2)液体廃棄物
 液体廃棄物は液体廃棄物処理施設で処理され汚染された廃水は、低レベルのものを除き、放出されない。

 冷却系およびタービン系からの高レベルの機器ドレンは、フィルタおよび脱塩装置によって処理され、補給水として再使用される。

 各建物の床ドレンは、フィルタを通して、サンプルタンクに貯蔵され、放射能レベル測定後放出されるかまたは機器ドレン廃液の処理系へ送られる。

 樹脂再生の際に生ずる廃液は、一般に高レベルであるので、中和後、濃縮、固化される。

 低レベルの液体廃棄物は、復水器冷却水で希釈して放出される。

(3)固体廃棄物
 高レベルの使用済制御棒、ポイズンカーテン、燃料チャンネルボックス等は、燃料プールに貯蔵される。

 その他の固体廃棄物は、ある期間貯蔵タンクで減衰させた後、ドラム缶詰めにして固体廃棄物置場に一時保管され、処分される。

2.7 放射線管理
(1)放射線遮蔽等
 放射線遮蔽は従業員の作業時間に応じ、その被ばく線量が現行法規に規定された許容量を十分下回るように設計される。

 本変更に伴なう工事を実施するに当っては、1号炉からの放射線による被ばくについても十分対策が講じられることになっている。

 換気系は、主要な場所ごとに別系統となっており事故時における放射能汚染の拡大防止等について十分配慮される。

(2)廃棄物の放出管理
 気体廃棄物は放出に先立って放射能レベルが連続的に測定される。

 測定の結果放射能が高い場合には排気筒からの放出は一時中止され、ガス減衰タンクに貯蔵され、気象条件を考慮して放出される。

 最高放出率は1日平均で1号炉については50mCi/sec、2号炉については80mCi/sec(それぞれの線エネルギー0.17MeV相当)に抑えられるが、放出される放射能の量は、できる限り低く抑えることにしている。

 液体廃棄物は、復水器冷却水で稀釈され、その濃度は法令に定める許容値以下にすることにしている。

 固体廃棄物は、これを海洋投棄する場合には関係官庁の承認を受けることにしている。

(3)放射線監視
 発電所の敷地内における放射線監視は、固定モニタによる中央制御室での連続監視、移動モニタによる定期監視、サンプリング測定等によって行なわれる。

 また、個人の被ばく管理に必要な機器も備えられる。

 敷地外における放射線監視については、敷地境界周辺と敷地外の集落とにそれぞれ数個所モニタリングポストが設けられ、さらに放射能観測車も備えられる。

 周辺一般公衆の被ばく線量が法令に定める許容値をこえないことを常に確認することになっている。

2.8 原子炉の非常冷却
 通常の原子炉冷却機能が失われるような事故時においても、原子炉停止後の炉心崩壊熱を除去しうるように、次のような配慮がなされている。

(1)原子炉隔離時冷却系
 原子炉への給水および主復水器が隔離された場合に、蒸気の一部を利用してタービン駆動ポンプにより復水貯蔵タンクまたはサプレッションプールの水を炉内に補給する系統でこれにより炉心水位を維持する。

(2)炉心スプレイ系
 再循環回路の破断のような冷却材喪失事故の場合にサレソッションプール水を炉心上にとりつけられたノズルから燃料集合体にスプレイする系統でこれにより燃料の過熱溶融を防止できるようになっており、この系は独立な2系統からなっていて、非常用電源にも接続される。

(3)高圧注水系
 1次配管の小破断に対しては、単独で、中破断に対しては炉心スプレイ系または低圧注水系と連携して燃料の溶融を防止するための系統でタービン駆動ポンプにより復水貯蔵タンクまたはサプレッションプールの水を給水配管を経て炉心に注入する。

 この系は外部電源を必要としない。
(4)低圧注水系
 炉心スプレイ系のバックアップとして、再循環回路の完全破断のような大破断に対して単独で、中破断に対しては高圧注水系と連携し燃料の溶融を防止する系統である。

 サプレッションプールから冷却水を汲み上げ、破断していない方の再循環配管を通して圧力容器内に注入する。

 この系は非常用電源にも接続される。

2.9 放射性物質の放出防止
 事故時においても、周辺環境に大量の放射性物質が放散されないように次のような配慮がなされている。

(1)圧力抑制型格納容器
 圧力容器、再循環回路等を完全に取囲む格納容器が設けられる。

 格納容器は、ドライウェルおよびそれにつながるサプレッションチェンバからなる圧力抑制型であり、再循環回路破断等の事故によって炉心に蓄積された放射性物質が原子炉建家へ漏洩するのを抑制するようになっている。

 また、格納容器には窒素ガスが充填され、事故に伴うジルコニウム水反応によって発生する水素の燃焼を防止するようになっている。

(2)格納容器冷却系
 サプレッションチェンバ内のプール水をドライウェル内にスプレイできる格納容器冷却系が設けられ、格納容器の圧力抑制効果を高めるようになっている。

 なお、この系は、独立な2系統からなり、非常用電源にも接続される。

(3)隔離弁等
 格納容器を貫通する主蒸気管などの主要な配管にはドライウェルの内外で2個の隔離弁が設けられ、事故時に放射性物質が周辺環境に放出されないようになっている。

 なお、主蒸気隔離弁は十分短い時間(3~4.5秒)で閉止できるように設計されるが、さらに主蒸気管には、破断事故時に冷却材の放出量を制限する流出制限器が設けられる。

(4)非常用ガス処理系
 原子炉建家内は、常時負圧に保たれており、事故時に格納容器から漏洩してくる放射性物質は、非常用ガス処理系が濾過して排気筒から放出され、直接周辺環境に放散されるのを防止するようになっている。

 非常用ガス処理系は、ファン、湿分除去装置、粒子用高効率フィルタおよびチャコールフィルタにより構成され、定期的にその性能を確認できるように設計されている。

 なお、この系は、独立な2系統からなり、非常用電源にも接続される。

2.10 安全防護設備の機能確保
(1)非常用電源等
 2号炉に必要な電力は、主発電機または275kv母線から供給されるが、275kv停電の場合にも1号機より供給を受けることができるようになっている。

 これらの電源がすべて喪失してもディーゼル発電機(2台、うち1台は1号炉と共通の予備)、および所内の蓄電池から供給できるようになっている。

(2)保守点検
 計測および制御系、液体ポイズン注入系、炉心スプレイ系、高圧注水系、低圧注水系、格納容器冷却系、非常用ガス処理系および各種の弁類は、原子炉施設の耐用期間を通じて運転中あるいは停止中に点検または試験し、その機能を確認できるように設計される。

2.11 耐震上の考慮
 原子炉施設は、1号炉の場合と同様に、原則として剛構造とし、重要な建物・構築物は直接岩盤に支持される。

 すべての施設は、安全上の重要度に従って、A、As、BおよびCの4種のクラスに分類され、それらに応じて耐震設計が行なわれる。

 原子炉、原子炉建家等のように、その機能喪失が原子炉事故をひきおこすおそれのある施設および周辺公衆の災害を防止するために緊要な施設はAクラスとする。

 Aクラスの建物・構築物の耐震設計は、基盤における最大加速度が少くとも0.18gの地震波により動的解析を行なって求められる水平震度ならびに建築基準法に示された水平震度(この場合、地域による低減は行なわない。)の3倍を下回わらない値によって行なわれる。

 鉛直震度は、建物・構築物の高さ方向に一定とし、それらの基礎底面における水平震度の1/2を下回わらない値とする。

 この場合、水平および鉛直方向の地震力は、同時に作用するものとする。

 Aクラスの機器・配管類については、運転時の応力と地震力による応力を加え合わせた場合について、応力集中および材料の弾性、そ性等を考慮した解析により耐震設計が行なわれる。

 この場合の水平震度は、前記の地震波に対する動的解析によって求められる値とし、かつ、据付位置における支持構築物の水平震度の1.2倍を下回わらない値とする。

 鉛直震度は、建物・構築物に対する値をとり、水平および鉛直方向の地震力は同時に作用するものとする。

 また、これらの振動によって生ずる変位、変形は機能保持に支障ないものとする。

 次に、原子炉格納容器、制御棒駆動機構等のように安全対策上特に緊要な施設は、Asクラスとし、それらについては、Aクラスの扱いのほかにその機能が保持されることを確認するために、基盤における最大加速度が少なくとも0.27gの地震波による動的解析を行なう。

 特に原子炉格納容器については、設計用地震時応力と事故時内圧との組合せに対してもその機能を保持することが確認される。

 また、タービン系、廃棄物処理系等のように高放射性物質に関する施設は、Bクラス、その他の施設はCクラスとし、それぞれに対し1号炉の場合と同様の耐震設計が行なわれることになっている。

 なお、原子炉圧力容器内構造物、サンプレッションチェンバ等の支持方法については、詳細設計にあたって十分配慮されることになっている。
 また、強震の際には、原子炉を非常停止させるため、地震加速度検出計を設け、自動的に原子炉を停止することができるようになっている。

3 平常運転時の被ばく評価

 平常運転時における被ばく評価は、次の通りであり、敷地周辺の公衆に対して放射線障害を与えることはないものと認める。

3.1 気体廃棄物
 気体廃棄物の放出に当っては、周辺監視区域外における年間被ばく線量が法規に定める値をこえないようにすることは勿論のこと、放出管理を十分に行なってできるだけ被ばく線量を少なくするようにしている。

 放出率は、1日平均で1号炉について最高50mCi/sec、2号炉について最高80mCi/sec(それぞれγ線エネルギー0.17MeV相当)に抑え、これをこえるような運転は行なわないことになっている。

 かりに、1,2号ともそれぞれ最高値で連続放出するとして、気象データを考慮し、年間の積算線量を計算すると、周辺監視区域外の最大値は97mγemで、許容値(500mγem/year)を十分下廻っている。

 実際の運転時には、これよりもかなり下廻ることが予想される。

 また、敷地内外において、所要の放射線監視が行なわれているので、許容値をこえるおそれはない。

3.2 液体および固体廃棄物
 安全設計および安全対策の項で述べたように、液体廃棄物および固体廃棄物の廃棄については、十分な安全対策を講じることになっている。

4 各種事故の検討

 2号炉において発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果、それぞれ次のような対策が講じられており、2号炉は安全性を確保しうるものであると認める。

4.1 反応度事故
(1)起動事故
 運転手順または制御棒価値ミニマイザにより反応度付加は、実効増倍率の変化にして0.025(△K)以下に抑えられており、原子炉起動時に誤って制御棒1本を最大引抜速度で連続的に引抜いたとしても、核的逸走は負の出力係数で抑えられ、かつ、高中性子束スクラムで原子炉は停止する。

 この事故で燃料被覆の破損には至らない。

(2)運転中の制御棒引抜き事故
 定格出力運転中に誤って制御棒1本を連続的に引き抜く場合には、制御棒引抜き監視装置により引抜きが阻止される。

 この事故によって、最小限界熱流束比は1.2を下廻らず、燃料被覆の破損は起らない。

(3)冷水事故
 原子炉を再循環系1系統で部分負荷運転中、停止している外部再循環回路の冷水が誤って炉心に流入しても、燃料の被覆の破損には至らない。

(4)制御棒落下事故 駆動軸から分離して炉心内にとどまっていた制御棒が臨界状態の炉心から脱落しても、制御棒効果は実効増倍率の変化にして0.025(△K)以下に抑えられており、落下速度はリミッタで制限される。

 この場合核的逸走は負の出力係数で抑えられ、かつ、高中性子束スクラムで原子炉は停止する。

 この事故により燃料被覆の一部は破損することも予想されるが、核分裂生成物は1次冷却系内に保留する。

4.2 機械的事故
(1)冷却材流量喪失事故
 運転中に再循環ポンプ1基の軸が破損すると、全体の流量は低下するが、直ちに出力も低下するので、燃料被覆の破損には至らない。

 また、停電により再循環ポンプ2基が同時に停止しても、系の慣性による自然循環があり、流量低下に伴う出力低下および停電によるスクラムにより、燃料被覆の破損には至らない。

(2)冷却材喪失事故
 何んらかの原因により原子炉容器に接続している配管の破断により、冷却材の漏出ないしは喪失があって、炉心の冷却が十分でない場合にも次のような対策が講ぜられている。

 すなわち、小破断に対しては、ドライウェルの温度および圧力の上昇によって検出し、原子炉隔離時冷却系および高圧注水系の動作によって原子炉への注水が行なわれる。

 なお、高圧注水系のバックアップとして自動逃し弁を動作させ炉心圧力を低下し炉心スプレイ系を動作させることになっている。

 中程度の破断に対しては、まず高圧注水系が働くが、原子炉圧力が低下すると、炉心スプレイ系または低圧注水系も動作して原子炉に注水が行なわれる。

 大破断に対しては、原子炉水位の低下および原子炉圧力の減少により炉心スプレイ系または低圧注水系によって注水が行なわれる。

 いずれの場合でもドライウェル圧力高または原子炉水位低の信号でスクラムされ、原子炉は停止する。

 最も苛酷な例として、再循環回路が完全に破断する場合を仮定しても、炉心スプレイ1系統の動作によって燃料被覆の破損は一部に抑えられ、燃料の溶融には至らない。

 この事故によって放出された核分裂生成物は圧力抑制型の格納容器に保留され、さらに原子炉建家内に漏洩したものは排気筒に導かれる前に非常用ガス処理系で処理される。

(3)主蒸気管破断事故
 主蒸気管がドライウェル外の箇所で破断しても冷却材の放出流量は流出制限器で制限され、かつ、流出制限器における流量増加信号等によって主蒸気隔離弁が急速に閉止し、冷却材の放出は短時間で止まる。

 また、主蒸気隔離弁閉スクラムで原子炉も停止する。

 なお、冷却材中の放射能濃度は低く抑えられているので、冷却材とともに大気中へ放散される核分裂生成物の量は僅かである。

(4)燃料取扱事故
 燃料取替は水中で行なわれるが、取扱系の故障によって使用済燃料の集合体1個が落下し、そのすべての燃料棒が破損するような場合にも、核分裂生成物のうち、原子炉建家外に放散されるものは、その量がごく僅かで、しかも、排気筒に導かれる前に非常用ガス処理系で処理される。

(5)電源喪失事故
 常用所内電源がすべて喪失した場合には、安全系も停電するので原子炉はスクラムされ、スクラム後の原子炉は、原子炉隔離時冷却系によって冷却される。

 安全上重要な機器の電源としてはヂィーゼル発電機および所内蓄電池系があるので、常用所内電源および外部電源がすべて喪失したとしても発電所の安全性が損なわれることはない。

(6)その他の機器類の故障
 制御棒駆動系の故障、主要弁類の故障、給水喪失事故、主復水器真空度の喪失、計器用空気の喪失、初圧調整装置の故障等が起った場合でも、原子炉に重大な支障を与えないよう十分な対策がなされている。

5 災害評価

 2号炉はすでに述べているように、種々の安全対策が講じられており、かつ、各種事故に対しても検討の結果、安全を確保しうるものと認めるが、さらに「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は立地指針に十分適合しているものと認める。

5.1 重大事故
 重大事放として、冷却材喪失事故、主蒸気管破断事故およびガス減衰タンク破損事故の三つの場合を想定する。

(1)冷却材喪失事故
 圧力容器に接続している最大口径の配管である再循環回路(外径約70cm)1本が瞬時に完全破断し、冷却材が放出されると仮定する。

 解析の結果では、炉心スプレイ系が作動してその噴霧冷却により燃料の溶融は生じないが、燃料棒本数の75%は、過熱のため被覆の一部に破損がおこる。

 また、事故後のドライウェル圧力は、十分低く抑えられ、約12日後には大気圧にもどる。

 そこで核分裂生成物の放散過程に従って次の仮定を用いて線量を計算する。

① 全部の燃料棒の被覆に破損があったとし500日間全出力運転後の炉心に内蔵されている核分裂生成物中の沃素の1%、希ガスの2%がドライウェル内へ放出される。

 この場合、沃素については、壁面等に吸着される割合を50%、液相、気相の分配係数を100とするが、沃素のうち、10%は有機状のものとしてこれらによる低減を期待しない。

② ドライウェルから、12日間にわたって0.5%/dayの漏洩がある。

③ ドライウェルから漏洩した核分裂生成物は、原子炉建家に入り、そこから換気率100%/dayで、非常用ガス処理系を通り、排気筒から放出される。

④ 非常用ガス処理系では含浸チャコールフィルタで濾過する。

 沃素全体に対する濾過効率は、90%とする。

⑤ 大気中への拡散に用いる気象条件は、排気筒の高さ、現地の気象データ等をもとに「原子炉安全解析のための気象手引」(以下、気象手引という)を参考にして、最初1日間は高さ100m以下均一分布、拡散幅30°、風速1.5m/secとし、残りの11日間は英国気象局法を用い、B型、拡散幅30°、風速1.5m/secとする。

 以上の解析の結果、大気中に放出される放射能は、全沃素が約231Ci(131I換算 以下同様)希ガスが約1.4×104Ci(0.5Mev換算 以下同様)である。

 敷地外において線量が最大となる原子炉から約1kmの地点における線量は甲状腺(小児)に対して約3.6γemおよび全身に対して約2.6mγemとなる。

(2)主蒸気管破断事故
 ドライウェル外で主蒸気管(外径約60cm)1本が瞬時に完全破断し、冷却材の気水混合物が大気中に放出されると仮定する。

 隔離弁の閉止時間は5秒、放出流量は流出制限器によって定格流量の約200%に制限されるものとして冷却材の放出量を解析すると、蒸気約7.9トン、飽和水約10.2トンが放出されることになるが、炉心は、冷却水上に露出しない。

 そこで次の仮定を用いて線量を計算する。

① 事故前の1次冷却材中の核分裂生成物の濃度は原子炉運転中の冷却材放射能濃度の最高限度である66μCi/ccとする。

② 原子炉外に放出される核分裂生成物は、事故前に1次冷却材中に保有されるものと、燃料棒本数の約1%の欠陥のある燃料から事故期間中に新たに放出されるものの和とする。

③ タービン建家内の壁面等へ吸着および凝縮により除去される無機沃素の割合は50%とする。

 沃素のうち10%は有機状のものとしてこれらによる低減を期待しない。

④ 放出された飽和水は、気温33℃、相対湿度40%の大気中に全部蒸発して半球状放射性雲となる。

⑤ 半球状放射性雲は、風速1m/secで風下に運ばれる。

 以上の解析から求めた放射性雲の大きさは、半径90mであり、その放射能は全沃素が約57Ci、希ガス約360Ciである。

 敷地境界における線量は、甲状腺(小児)に対して約14γem、全身に対して約5.7mγemとなる。

(3)ガス減衰タンク破損事故
 ガス減衰タンクが破損し、貯溜されている放射性気体廃棄物が一時に放出されると仮定する。

 そこで次の仮定を用いて線量を計算する。

① 原子炉は、それから放出される気体廃棄物の放射能が24時間減衰後の排気筒放出率に換算して80mCi/secの状態で運転されていたとする。

② ガス減衰タンク1基に1日分の気体廃棄物が貯溜され終った瞬間に、その全量が放出される。

③ 大気中への拡散に用いる気象条件は、気象手引を参考にして英国気象局法を用い、地上放散F型、拡散幅30°とし、また、この事故の場合は、継続時間が短いので風速は1m/secとする。

 以上の解析の結果、大気中に放出される放射能は、希ガス約2.1×104Ciであり、敷地外において線量が最大となる原子炉から約1kmの地点における線量は、約0.5γem となる。

 上記各重大事故時の被ばく線量は、立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150γem全身25γemより十分小さい。

5.2 仮想事故
 仮想事故として、冷却材喪失事故と主蒸気管破断 事故の二つの場合を想定する。

(1)冷却材喪失事故
 重大事故の場合と同じ事故について、炉心スプレイの効果を無視し、炉心内の全燃料が溶融したと仮想する。

 この場合、炉心内にあるジルコニウムの約1/4が、水と反応し、相当量の水素が発生するが、ドライウェルには窒素ガスが充填されているので、発生水素の燃焼は防げる。

 事故後のドライウェルの最高圧力は、設計圧力より低いが、原子炉建家への核分裂生成物の漏洩時間は、永く続く。

 そこで、重大事故の場合と同じ仮定を用いて線量を計算する。

 ただし、次の仮定は、重大事故の場合と異っている。

① 炉心の100%溶融により、内蔵されている核分裂生成物中の沃素の50%、希ガスの100%がドライウェル内に放出される。

② ドライウェルから原子炉建家への漏洩は無限に続く。

③ 大気中への拡散に用いる気象条件は、気象手引を参考にして英国気象局法を用い、排気筒有効高さ100m B型、拡散巾30°風速1.5m/secとする。

 以上の解析の結果、大気中に放出される放射能は、全沃素が約1.8×104Ci、希ガスが約8.5×105Ciである。

 敷地外において線量が最大となる原子炉から約1Kmの地点における線量は甲状腺(成人)に対して約65γem全身に対して約1.4γemである。

 また、全身被ばく線量の積算値は約12万人γemで、めやす線量の200万人γemより十分小さい。

(2)主蒸気管破断事故
 重大事故の場合と同じ事故について破断した蒸気管と直列にある2個の隔離弁のうち1個が働作しないと仮定し、他の1個の隔離弁が事故後5秒で閉鎖した後も圧力容器内の蒸気体積の0.5%/dayの漏洩率で蒸気の漏洩が継続するものとする。

 この場合、隔離時冷却系、残留熱除去系によって炉心の熱除去が行なわれ、隔離弁閉鎖後約30時間で炉内圧力が大気圧に低下すると漏洩は止む。

 そこで、重大事故の場合と同じ仮定を用いて線量を計算する。

 ただし、圧力容器内の液相-気相間の無機沃素の分配係数を100とする。

 また、大気中への拡散に用いる気象条件は、隔離弁閉鎖までに放出される冷却材については重大事故と同じものを用い、閉鎖後に放出された蒸気については、気象手引を参考にして英国気象局法を用いた地上放散F型、拡散幅30°、風速1m/secとする。

 以上の解析の結果大気中に放出される放射能は全沃素が約130Ci、希ガスは約1550Ciである。

 敷地外において線量が最大となる原子炉から約1Kmの地点における線量は甲状腺(成人)に対して約11γemおよび全身に対して約60mγemとなる。

 上記各仮想事故時の被ばく線量は立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300γemおよび全身25γemより十分小さい。

6 技術的能力

 申請者は永年にわたり、原子力発電に関する調査および原子力発電所の建設準備を行なってきており、現在福島原子力発電所1号炉の建設を行なっている。

 発電所の運転に当っては2号炉の運転開始時、約140名の技術者を予定しており、これらの技術者については、現在1号炉の建設に従事している者に加えて、今後さらに国内の諸機関を活用して養成訓練を行なうほか、海外の原子力関係諸施設へ派遣するなど、技術的能力の確保を図っている。

 2号炉運転要員については、1号炉の運転を通じ、また2号炉の試運転期間中に所要の教育訓練を実施することになっている。

 なお、本発電所の建設にあたっては、経験を有するGE社が、原子炉機器、タービン発電機および技術役務の供給ならびに、原子炉、再循環系の据付を行なうことになっている。

 これらの点から、2号炉を設置するために必要な技術的能力および運転を的確に遂行するに足りる技術的能力があると認める。

  第3 審査経過

 本審査会は、昭和42年9月22日第50回審査会において、次の委員よりなる第34部会を設置した。

  川崎 正之(部会長)日本原子力研究所
  安藤 良夫 東京大学
  内田 秀雄 東京大学
  大山  彰 東京大学
  小平 吉男 気象協会
  高島 洋一 東京工業大学
  竹越  尹 電気試験所
  都甲 泰正 東京大学
  浜田 達二 理化学研究所
  久田 俊彦 建築研究所
  弘田 実弥 日本原子力研究所
  牧野 直文 日本原子力研究所
  三島 良績 東京大学

 同部会は通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行なうこととし、昭和42年9月30日第1回会合を開き審査方針を検討するとともに、炉グループ、装置プラントグループ、環境グループを設置して審査を開始した。

 以後部会および審査会においては次表のよううに審査を行なってきたが、昭和43年3月13日の部会において部会報告書を決定し3月18日第57回審査会において本報告書を決定した。

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