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昭和43年度原子力開発利用基本計画


昭和43年3月21日
原子力委員会決定

 Ⅰ 基本方針

 わが国の原子力開発利用は、漸次実用化段階に向って進展しつつあり、その新たな段階に対応して、昭和42年4月に「原子力開発利用長期計画」が改訂されたが、その第2年目にあたる昭和43年度には、動力炉開発計画の本格的具体化をはじめとして、日米、日英原子力協定の改訂、特殊核物質の民有化、核燃料の加工、使用済燃料の再処理等の問題の進展に即応し、開発利用を計画的に強く推進しうるよう必要な措置を講ずるものとする。

 高速増殖炉および新型転換炉の開発については、動力炉開発に関する基本方針および基本計画にもとづき、国のプロジェクトとして強力にこれを推進する。

 高速増殖炉については、原型炉を昭和51年度頃に臨界に至らせることを想定し、そのため、昭和47年度頃に実験炉を臨界に至らしめることを目標に、研究開発をすすめる。

 新型転換炉については、重水減速沸騰軽水冷却型炉を開発することを目標として、昭和49年度頃に原型炉を臨界に至らせることを想定し、研究開発を行なう。

 原子力発電については、わが国の原子力発電所の建設計画が円滑に推進されることを期待するとともに、その国産化を推進するため、核燃料、機器および材料に関する研究を促進し、あわせて、財政資金の融資、税制上の優遇措置等を講ずる。

 核燃料については、その低廉、かつ、安定な供給を図るため、国内における最適な核燃料サイクルの確立に努めることとし、核原料物質および濃縮ウランの確保、核燃料加工事業の育成、使用済燃料再処理工場建設の促進、特殊核物質の民有化等に必要な措置を講ずる。

 原子力船の開発については、「原子力第一船開発基本計画」(昭和42年3月23日改訂)にもとづいて、昭和46年度末の完成を目途に原子力第一船の建造工事をすすめるとともに、原子力第一船の陸上付帯施設の建設、乗組員の養成訓練を行なう。

 放射線利用については、食品照射研究を原子力特定総合研究として推進するとともに、放射線化学等各分野における研究を推進する。

 安全対策については、原子力施設の安全確保、放射線障害の防止、環境における放射能調査研究を推進する。

 さらに、放射性廃棄物の海洋処分に関する調査研究を総合的に推進する。

 国際協力関係については、わが国原子力開発利用の急速な進展に対応し、日米、日英原子力協定を改訂するとともに、原子力先進諸国との協力を積極的に行ない、あわせて、発展途上国とも適切な協力を行なう。

 さらに、昭和43年度においては、核兵器拡散防止条約の審議が進展するものとみられるので、同条約により、平和的利用の発展が阻害されないよう留意するものとする。

 また、多角的な国際協力の必要性の増大にかんがみ、国際原子力機関をはじめ、各種国際機関の活用を図るものとする。

 さらに、原子力開発利用の進展にともない、原子力開発体制の拡充強化が要請されていることにかんがみ、そのために必要な検討を行なう。

 以上のほか、国立試験研究機関等の研究の促進、民間における研究の助成を図るとともに、科学技術者の養成訓練、調査普及活動の強化等必要な施策を講ずる。

 Ⅱ 計画の大綱

1 研究開発の推進
(1)基礎研究
 日本原子力研究所および国立試験研究機関において、わが国独自の創意を発展せしめることを目的とした基礎研究を推進する。

 これら基礎研究は、大学における研究とも緊密な連けいのもとに推進する。

 また、これらの研究のため、日本原子力研究所の施設の共同利用を積極的に行なう。

 さらに日本原子力研究所は同研究所内における各大学共同の利用に供せられる東京大学および東北大学の原子力研究施設の整備に協力する。

(2)動力炉の研究開発
 高速増殖炉および新型転換炉については、動力炉開発に関する基本方針および基本計画にもとづき、動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発を推進する。

 高速増殖炉については、前年度実施した概念設計にひきつづき、実験炉の詳細設計および原型炉の予備調査をすすめ、炉物理実験、主要機器、部品、ナトリウム工学、燃料、材料、遮蔽、計測制御、安全性等の研究開発を行なう。

 これと並行して、前年度にひきつづき、α-γケーブ、ナトリウムループ等の建設をすすめ、また、プルトニウム燃料開発試験施設の増設を行なう。

 新型転換炉については、原型炉の第1次設計研究の成果を検討、評価し、第2次設計研究に着手する。

 また、炉物理実験、伝熱流動実験、主要部品、燃料、材料、安全性等の研究開発を行なう。

 これと並行して、大型臨界実験装置、大型熱ループ、コンポーネントテストループ等の建設を行なう。

 同事業団は、研究開発の効率的な推進を図るため、その業務の一部を日本原子力研究所、民間等に委託するとともに、海外との技術協力を推進する。

(3)在来型炉等の研究開発

(イ)在来型炉
 軽水炉等の在来型炉はすでに実用化の段階に達しており、その国産化のための研究開発は主として民間に期待するが、その推進に資するため、日本原子力研究所の材料試験炉および動力試験炉の有効利用を図るとともに、民間における原子炉、核燃料等の設計製造技術の開発、実証および安全性に関する研究を助成する。

(ロ)原子炉の一般技術
 日本原子力研究所は、各種の原子炉、臨界実験装置を用いる原子炉工学、原子炉物理等の研究を行なう。

 また、国立試験研究機関は、原子炉用金属材料の研究開発を行なう。

 さらに、民間が行なう研究を助成する。

(ハ)試験研究用原子炉の建設、運転等
 日本原子力研究所において、材料試験炉の定常運転を開始し、試験照射を行なうとともに、これに付帯するホットラボラトリー等の施設の整備を行なう。

 また、既設の各種研究用原子炉を用いてビーム実験、照射実験、遮蔽実験を行なう。

(4)核燃料に関する研究開発

(イ)ウラン燃料
 日本原子力研究所は、JRR-2、動力試験炉、材料試験炉、ホットラボラトリー等を使用し、燃料の照射試験を主体とした研究を実施する。

 また、日本原子力研究所の再処理に関する研究については、再処理試験施設において使用済燃料による試験を行ない、また、同研究所は、動力炉・核燃料開発事業団と協力して乾式再処理の基礎的研究をすすめる。

 動力炉・核燃料開発事業団は、採鉱および製錬の試験、遠心分離法によるウラン濃縮技術の研究開発等をすすめる。

 また、民間が行なう動力炉用燃料の設計、製造および評価に関する研究を助成する。

 さらに、セラミック燃料の分野における日米研究協力を推進する。

(ロ)プルトニウム燃料
 日本原子力研究所と動力炉・核燃料開発事業団による共同研究および国際協力により、プルトニウム利用に関する研究を推進する。

 このため日本原子力研究所は、プルトニウムの物性研究、分析化学等の基礎研究を実施し、また、動子炉・核燃料開発事業団は、プルトニウム燃料の加工技術の開発をすすめるとともに、照射試験を実施する。

(5)原子力船に関する研究開発

(イ)原子力第一船の建造
 日本原子力船開発事業団は、昭和42年度に締結した建造契約にしたがって、船体については本年度後半に起工し、来年度初めに進水の運びとなるよう工事を行ない、原子炉については、昭和45年度初めから開始される原子炉艤装工事にそなえて原子炉機器の製造を行なう。

 また、これと関連して、青森県むつ市下北埠頭における原子力第一船の陸上付帯施設の建設、乗組員の養成訓練を行なう。

(ロ)研究開発
 船舶技術研究所は、原子力船の振動動揺対策、遮蔽に関する研究を実施するとともに、原子力船の事故対策に関する研究を行なう。

 また、舶用炉の開発計画の策定に資するため、改良型舶用炉の解析と評価に関する研究を関連諸機関において実施する。

(6)放射線の利用に関する研究開発

(イ)放射線化学
 日本原子力研究所は、放射線グラフト重合による繊維の改質、エチレンの放射線重合等について、中間規模試験を行なうとともに、日仏、日米研究協力の推進を図る。

 また、研究規模の拡大に対処するためコバルト60照射施設を増設する。

 名古屋工業技術試験所等の国立試験研究機関において、放射線化学に関する研究を行なう。

 また、民間が行なう有機物質の放射線化学反応に関する研究を助成する。

(ロ)ラジオ・アイソトープの利用技術
 日本原子力研究所、放射線医学総合研究所および国立試験研究機関は、医学、農業、工業等の各分野におけるラジオ・アイソトープ利用の研究を推進する。

 また、民間が行なうラジオ・アイソトープ利用に関する研究を助成する。

 放射線による食品照射に関する研究については、特定総合研究として関係機関が、それぞれの分担に応じて、効果的にこれを実施するものとする。

 また、関連技術の研究を民間に委託する。

(7)核融合に関する研究
 日本原子力研究所、理化学研究所および電気試験所は、大学と密接な連けいのもとに、高温プラズマに関する研究を行なう。

 また、核融合反応装置の実現を目標とした研究計画の検討をすすめるとともに、これに必要な調査研究を関係諸機関の協力のもとに実施する。

(8)安全対策に関する研究

(イ)原子力施設の安全性
 原子力施設の安全研究については、安全基準および安全評価に関する研究を日本原子力研究所、国立試験研究機関等において実施し、必要に応じて、民間に委託する。

 なお、日本原子力研究所は、軽水炉の安全性実証のための大型モックアップ試験を実施する。

 また、安全性に関する研究分野における日米研究協力を推進する。

(ロ)放射線障害の防止
 放射線医学総合研究所は放射線障害の防止に関する基礎的研究を行ない、特にプルトニウムの内部被曝に関する研究および放射線障害の回復に関する研究を計画的に推進する。

 また、基礎研究、応用研究の能率化を図るとともに、診断、治療等の迅速化に資するため、電子計算機施設の建設を開始する。

 その他、国立試験研究機関においては、各機関が協力して原子力施設の防災対策に関する研究を推進する。

 また、放射性廃棄物の処理処分および放射線障害防止器材等に関する研究を民間に委託する。

(ハ)環境放射能
 放射線医学総合研究所および国立試験研究機関は、ひきつづき環境放射能が人体に与える影響に関する研究、食品の放射能汚染防止に関する研究を行なう。

 また、放射線医学総合研究所、動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力研究所、国立試験研究機関等は協力体制のもとに、放射性物質の海中における挙動およびその海産物への影響等についての調査研究を総合的に推進する。

 とくに放射線医学総合研究所は新たに東海支所に臨海実験場を設置し、海洋生物における放射性物質の濃縮率を究明する。

 その他、放射能測定法およびストロンチウム90の地表蓄積量に関する基礎的研究を民間に委託する。

2 原子力利用の促進

(1)原子力発電
 原子力開発利用長期計画に示された原子力発電見通しに沿ってその実現が図られることを期待するとともに在来型炉の国産化を促進する必要がある。

 このため、民間の研究開発の助成、財政資金の融資、特殊核物質の民有化、使用済燃料再処理施設の建設等に関し所要の措置を講ずる。

(2)ラジオ・アイソトープの利用
 医学、農業、工業等の各分野におけるラジオ・アイソトープ利用に関する研究を促進するとともに、日本原子力研究所アイソトープ事業部においてはラジオ・アイソトープの安定供給につとめ、コバルト60大線源の生産準備をすすめる。

3 安全対策

(1)原子力施設の安全確保および放射線障害の防止
 「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」および「放射性同位元素等による放射線障害防止に関する法律」の施行に万全を期するとともに、今後における新しい型の動力炉等に対する安全基準に関して検討をすすめる。

 なお、核燃料加工事業が具体化し、また、核原料物質の用途が拡大していること等に対処するため、必要な法規の整備を図る。

(2)放射能調査
 放射線医学総合研究所、国立試験研究機関、地方公共団体等は一般環境、食品および人体の放射能水準を調査する。

 また、全国各地にモニタリングポストおよび波高分析器を増設する等、放射能調査体制の整備を図るとともに原子力艦寄港に関連する放射線監視を一層強化する。

4 核燃料物質等に対する措置

(1)核原料物質の探鉱
 本年度における核原料物質の国内探鉱は、別途定める「昭和43年度核原料物質探鉱計画」にしたがって行なう。

 また、動力炉・核燃料開発事業団は、将来における核燃料の確保に資するため、海外においてウラン資源に関する調査を行なう。

(2)核燃料物質等の確保
 本年度における核燃料物質等の需要のうち、試験研究用に供する天然ウランの一部は、国内において生産されたものを充当する。

 濃縮ウラン、プルトニウム等については、輸入により確保する措置を講ずる。

(3)使用済燃料の再処理
 動力炉・核燃料開発事業団は、使用済燃料再処理施設の建設に着手する。

 また、輸送容器の設計基準設定のための試験研究を民間に委託する。

 なお、試験研究用の高濃縮ウラン系使用済燃料については、米国において再処理を行なう。

(4)核燃料の加工
 わが国における原子力発電の本格化にともない国内における核燃料サイクルの確立に資するため核燃料の加工事業の育成につとめる。

 研究用核燃料については原則として国内で加工したものを使用する。

(5)特殊核物質の民有化
 民間における原子力産業活動の自主的発展を期待して、日米原子力協定の改訂に伴い、早期に特殊核物質の民有化を実施する。

5 関連諸施策

(1)民間の研究助成等
 在来型炉の安全性、原子炉材料、核燃料、原子炉機器等の製造加工等に関する研究に重点をおいて民間の研究を助成する。

 また、民間の原子炉技術の向上に資するため、日本原子力研究所の材料試験炉および動力試験炉の有効利用を図る。

 さらに、原子力研究用物品の関税免除等、税制上の優遇措置を講ずる。

(2)国際協力
 新たな段階に応じて全面的に改訂される日米および日英原子力協定について、その円滑な運営を図るものとし、米英両国の原子力関係責任者とそれぞれ原子力協力について協議を行なう。

 海外との技術研究協力については、高速増殖炉、新型転換炉、原子力船、原子炉の安全性、核燃料の研究開発、放射線化学等の各分野に関し、米国、英国、フランス、ドイツ、カナダ等との二国間協力を主として行なうほか、国際原子力機関および欧州原子力機関については、従来にひきつづき、その活動に積極的に参加するとともに、国際原子力機関を通じての技術情報の交換に協力する。

 発展途上国に対する技術援助については、わが国の原子力開発利用の進展を考慮して、適切な協力を行なうものとする。

 保障措置の問題については、わが国における原子力利用の急速な進展に加え、核兵器拡散防止条約の審議とも関連して、ますます重要になると考えられるので、保障措置の効率化に努めることとし、また、原子力平和利用が阻著されることのないよう、配慮するものとする。

(3)科学技術者の養成訓練
 各大学が、原子力関係講座および実験施設をさらに充実し、関係科学技術者の教育、訓練を行なうことを期待する。

 日本原子力研究所および放射線医学総合研究所は、その研究施設および研修施設を活用して、科学技術者の養成訓練を行なうものとする。

(4)東海地区原子力施設地帯整備
 その特殊性にかんがみ昭和41年度に着手された茨城県東海地区地帯整備については、前年度にひきつづき道路の整備等に必要な措置を講ずる。

(5)原子力発電所の立地調査
 原子力発電所の立地調査を新たな地点について行なう。

(6)調査普及活動
 内外における原子力関係情報の収集を行なうとともに、動力炉開発、長期核燃料サイクルに関する総合的調査を実施する。

 また、前年度にひきつづき、産業界における投資、生産、研究開発等について動態調査を行なう。

 原子力の平和利用に対する国民の正しい理解を高めるため、原子力知識の普及活動に努めるものとし、関係諸機関の協力のもとに、体制を整備し、健全な知識の普及を図る。

6 原子力開発機関等の整備

 日本原子力研究所は、材料試験炉の運転開始に備え、大洗研究所の整備を図るほか、高崎研究所における放射線化学の研究施設の増設等を行なう。

 動力炉・核燃料開発事業団は、高速増殖炉および新型転換炉の開発をすすめるため必要な体制の整備を図るとともに、大洗地区における研究施設の建設を行なう。

 また、使用済燃料再処理施設の建設の準備等をすすめるため、人員の増強、機構の整備を図る。

 日本原子力船開発事業団は、定係港の建設着手および乗組員の養成訓練開始にともない、必要な人員の充足を図るものとする。

 放射線医学総合研究所は、茨城県那珂湊市に臨海実験場を設けるとともに、電子計算機棟の建設に着手することとし、そのために必要な人員の充足を図るものとする。

 その他、理化学研究所および国立試験研究機関は必要な施設の整備を図る。

7 予算および人員

 昭和43年度における原子力開発利用を推進するために必要な原子力予算および人員は次表のとおりである。

昭和43年度原子力関係予算政府原案総表


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