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核拡散防止条約が原子力平和利用に及ぼす
影響に関する日米専門家協議について



 去る5月、三木外務大臣と米国フォスター軍縮庁長官との間でなされた合意にもとづいて11月1日、2日の両日、外務省において標記の協議が開催された。

 米側の出席者は、軍縮庁科学技術局次長H.Scoville氏をはじめ軍縮庁、原子力委員会の専門家ならびにフォーラムの代表を含む総勢14名、日本側は服部外務省国際連合局長、村田原子力局長の外学界、産業界の代表を含む23名(保障措置小委員会出席者を含む)であった。

 協議の議題は、保障措置問題、平和利用の研究開発に関する問題、波及効果、ならびにその他の4つに分けられ、とくに保障措置問題については、全体会議の外に保障措置小委員会を設けて、保障措置についての細かい技術的問題について討議した。

 双方の意見は、それぞれの立場のちがいを反映して必らずしも全ての点で一致するまでに至らなかったが、率直に双方の意見を述べ、問題点を指摘し、互いに相手の立場についての理解を深めるという点では所期の目的は達成されたものと考えられる。

 以下各議題毎に討論の要点を列挙する。

Ⅰ 保障措置問題

 全体会議および保障措置小委員会を通じて明らかにされたNPT成立後の保障措置のあり方に関する双方の意見は次のとおりであった。

米側の意見
1 NPTの第3条が最終的に決定されていないので、はっきりしたことはいえないが、NPT下においても現行のIAEAの保障措置制度がそのままの形でとり入れられるものと考える。

2 ただし、IAEAの保障措置制度、方法そのものは技術的進歩等によって、より簡素化をはかり、経済性、有効性を高める方向に漸次改訂してゆくべきであると考える。

 現に米国はこの保障措置の実施方法の改善について研究開発に多くの努力を払っている。

3 米国産業界の一致した意見によると現行のIAEA保障措置制度には設計審査を含め、これまでの原子炉等に対する査察経験に照らしてみても、とくに問題はない。
日本側の意見
1 現行の保障措置制度のもとでは商業機密の漏洩、運転者に対する経済的負担増加などの点から十分とは考えられないので、NPT発効にあたり全面的なreviewが必要である。

2 簡素化、効率化、自動化をはかり、設計審査にともない詳細な資料の提出はやめるべきである。

3 保障措置実施の際、inspectorの能力又は裁量によって施設等の運転者に対し、不当な義務が科せられないような措置を事前に講ずべきである。
日米双方の意見で合意された事項
1 保障措置実施にともなう詳細な種々の問題点について今後ともひきつづき検討するために、日米両国のForum間で緊密な協力をはかること。

2 IAEAの保障措置制度についてInspection manualの制定、inspectorの訓練について、日米両国が協力し、IAEAに対して、積極的な検討を加えるよう働きかけること。
Ⅱ 平和利用研究

米側の意見
1 核爆発装置(nuclear explosive devices)は平和利用、軍事利用の区別が困難であるので、全てこれはNPTの対象になると考える。

2 原子炉暴走実験、核融合、高速炉などは核爆発装置とはみなされず、その他の分野についてもこれを開発する意向によって判断すべきである。
日本側の意見
 わが国の原子力利用は、平和利用に限定されているので、核爆発についてもその研究開発の自由が確保さるべきである。
Ⅲ 波及効果

米側の意見
1 原子力平和利用、例えば動力炉計画は、軍事利用のSpin-Offとは考えられない。

 又、軍事研究のSpin-Off効果はないとはいえないが、costの点からいってSpin-Offを目的として研究開発をすすめることは正当化しえない。

2 米国では濃縮プラントは過去の核兵器開発の副産物であるが、highly-classifiedの部分に含まれているので、情報、施設の提供はできない。

 ただし、NPT自体はウラン濃縮に関する平和目的の研究開発を阻害するものではないと解釈する。
日本側の意見
 核兵器、核爆発の研究開発が核保有国の独占となり、将来核保有国と非核保有国との間でのSpin-Offによってもたらされる新しい平和利用の分野における格差が増大することでは困る。
Ⅳ その他

米側の意見
1 核保有国の核軍縮義務については前文(11)にもあるとおり軍縮のためのclimateを作ることをその目的としており前文(11)を一般条項に入れるというメキシコ案を慎重に検討中である。

2 NPT下ではIAEAの保障措置と並行して、ユーラトムの保障措置を認めるという問題は、両者の保障措置には何ら差がないということであり、一方ユーラトムの団結を確保するという観点から出た考えである。

3 現行のBilateral agreementにもとづく保障措置は、NPT発効後もひきつづき有効であり、とくべつの変更は考えられない。
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