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アメリカ合衆国原子力水上軍艦の寄港問題について


昭和42年11月1日

 標記について原子力委員会は、昭和42年9月7日別紙(1)の原子力委員会委員長の談話を発表し、同年11月1日別紙(2)の見解を決定して同日これを内閣総理大臣に申し述べた。

 政府は、原子力委員会の見解をも参考として、同年11月2日、合衆国原子力水上軍艦の本邦寄港に同意することを決定し、同日米側にその旨通報した。

 なお本件に関する外交文書は別紙(3)の通りである。

(別紙1)

原子力水上軍艦寄港申入れに関する原子力委員会委員長談話

昭和42年9月7日
原子力委員会

 合衆国の原子力水上軍艦の寄港の申入れは、日米安全保障条約に基づくものであるが、原子力委員会としては、原子力潜水艦の寄港の場合と同様に、国民の安全を確保するという見地から、原子力水上軍艦の軍艦としての国際法上の地位を勘案しつつ、安全性について保証を取付ける必要があると考えるので、放射能調査等の対策をも含め、これらの点について検討を進める所存である。

(別紙2)
(発表文)

アメリカ合衆国原子力水上軍艦の寄港問題について

昭和42年11月1日
原子力委員会

 本年9月7日合衆国政府から政府に対し、合衆国原子力水上軍艦の本邦寄港の申し入れがあったので、当委員会は、安全性の問題および万一の場合における補償の問題について検討を行なってきた。

 原子力軍艦は、国際法上軍艦としての特殊な地位を有するものであり、原子力商船に対するのと同様な安全審査その他の措置をとることは不可能であるので、当委員会としては、合衆国原子力水上軍艦の寄港についても、合衆国原子力潜水艦の場合と同様に、両国政府間の交渉を通じて、わが国民、特に寄港地周辺の住民の安全を確保するために必要な保証が明確にされるよう努力を続けてきた。

 今回、政府が合衆国政府から口上書およびエード・メモワールを受け取ったので、当委員会は、これらの文書につき慎重に検討して本件に関する当委員会の見解を申し述べた。

 その内容は次の通りであるの
 (決定文)

アメリカ合衆国原子力水上軍艦の寄港問題について

昭和42年11月1日
原子力委員会

 本年9月7日合衆国政府から政府に対し、合衆国原子力水上軍艦の本邦寄港の申し入れがあったので、当委員会は、安全性の問題および万一の場合における補償の問題について検討を行なってきた。

 今回政府が合衆国政府から口上書およびエード・メモワールを受けとったので、これらの文書につき慎重に検討して、合衆国原子力水上軍艦の寄港に関する安全性の問題および万一の場合における補償の問題について下記のとおり政府に対し当委員会の見解を申し述べることにする。

1 合衆国政府は、口上書およびェード・メモワールにおいて、
(1)外国の港における合衆国原子力軍艦の運航に関する1964年8月24日付けの合衆国政府の声明が、日本国の港および領海における運航中の、通常の原子力潜水艦のみならず原子力水上軍艦にも適用されるものであることを指摘し、

(2)通常の原子力潜水艦の寄港に関する1964年8月17日付けのエード・メモワールにいう原子炉の安全性および運航に関する諸点ならびに責任および補償に関する諸点(放射性廃棄物処理に関する事項を含む。)は、合衆国の原子力水上軍艦にも等しく適用される旨言明し、

(3)合衆国原子力軍艦の日本国の港への寄港について、これらの軍艦が合衆国の港に寄港する場合に適用される安全基準と同一の安全基準が適用されることに関連し、最大想定事故を仮定した場合の安全解析によれば、原子力軍艦がその碇泊地点のの周辺の住民に対し不当な放射線その他の原子核による危険をもたらすものではない旨言明し、

(4)また、原子力水上軍艦のための港湾交通上の考慮は、同種形状の通常の推進力の軍艦のための考慮と同様であることを言明した。
2 当委員会としては、1964年8月24日付けの合衆国政府の声明および1964年8月17日付けのエード・メモワールならびに1967年10月20日付けのエード・メモワールを総合的に検討した結果、前記1の内容がその通り確保されるならば、合衆国原子力水上軍艦の寄港は、わが国民、特に寄港地周辺の住民の安全上支障はないものと判断する。

3 なお、政府が合衆国原子力水上軍艦の寄港を認める場合には、環境の放射能調査および万一原子力損害が発生した場合における補償措置に関して、当委員会が合衆国原子力潜水艦の寄港について示した見解(昭和39年8月26日付け)において指摘した措置と同様の措置を講ずべきである。
 (別紙3)

口上書要旨

昭和42年10月25日

 米国大使館は、米国の原子力水上軍艦の日本への寄港申入れに関し、1964年8月24日付けの外国の港における合衆国原子力軍艦の運航に関する米国政府の声明に言及する。

 さらに、大使館は、外務省に対し、原子力水上軍艦は、日本の港及び領海への寄港の場合には前記の声明に述べられているところに従って運航されることを保証する。

口上書要旨

昭和42年11月2日

 外務省は、米国の原子力水上軍艦の日本への寄港に関する昭和42年10月25日付けの米国大使館の口上書を受領したことを確認する。

 さらに、外務省は、原子力水上軍艦の日本の港及び領海への寄港が米国大使館の前記の口上書で言及されている米国政府声明に述べられているところに従って行なわれることに留意し、かつ、この寄港が日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づくものであることを考慮して、この寄港に異議のない旨をここに確認する。

訳文  エード・メモワール

昭和42年10月20日

 合衆国原子力水上軍艦の日本国への寄港に関して、大使館及び外務省の代表者の間で最近討議が行なわれてきた。

 これらの軍艦は合衆国海軍のその他の水上軍艦とは推進系統が異なるのみであり、かつ、これらの軍艦の寄港は相互協力及び安全保障条約に基づく事前協議の対象となるものではないが、合衆国政府は、通常の原子力潜水艦の寄港の場合と同様に、日本国民の懸念を承知しているので、条約上の権利を行使するに先だって、日本政府とこの問題を討議することとした。

 事前協議にかかる事項については、合衆国政府は、1960年1月19日付けの日米共同コミュニケに述べられているとおり、日本国政府の意思に反して行動する意図を有しない。

 大使館の代表者は、外国の港における合衆国原子力軍艦の運航に関する合衆国政府の声明が、日本国の港及び領海における運航中の、通常の原子力潜水艦のみならず原子力水上軍艦にも適用されるものであることを指摘した。

 大使館の代表者は、通常の原子力潜水艦の寄港に関する1964年8月17日付けのエード・メモワールにいう原子炉の安全性及び運航に関する諸点並びに責任及び補償に関する諸点(放射性廃棄物処理に関する事項を含む。)は、合衆国の原子力水上軍艦にも等しく適用される旨言明した。

 合衆国原子力軍艦の日本国の港への寄港について、これらの軍艦が合衆国の港に寄港する場合に適用される安全基準と同一の安全基準が適用されることに関連し、大使館の代表者は、最大想定事故を仮定した場合の安全解析によれば、原子力軍艦がその碇泊地点の周辺の住民に対し不当な放射線その他の原子核による危険をもたらすものではない旨言明した。

 また、大使館の代表者は、原子力水上軍艦のための港湾交通上の考慮は、同種形状の通常の推進力の軍艦のための考慮と同様であることを言明した。
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