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放射線工業利用実態調査報告書


-科学技術庁原子力局-

昭和42年6月

まえがき

 放射性同位元素および放射線発生装置による放射線の利用は、近年、医療、農業、工業等各方面において活発に行なわれている。

 科学技術庁原子力局は、昭和37年度に、工業分野を対象として、放射性同位元素の利用に関する調査を行ない、その結果を「ラジオアイソトープ工業利用実態調査報告」(昭和38年4月)としてとりまとめた。

 その後、昭和38年度に医療分野での調査を行ない、「ラジオアイソトープ医学利用実態調査報告書」(昭和39年7月)としてまとめた。

 しかし、工業利用については、前回の調査時点から4年を経過したので、今回は放射性同位元素の利用のほかに、放射線発生装置の利用も加えて、工業分野における利用の動向を知るため、ふたたび調査を実施した。

 本報告書は、この調査結果をとりまとめたものである。


  Ⅰ 調査方法

1 調査の目的
 この調査は、わが国の工業分野における放射性同位元素および放射線発生装置の利用の実態を明らかにするとともに、将来の利用計画、利用上の問題点等を調査し、放射線の工業利用の推進に必要な基礎資料を得ることを目的としている。

2 調査の時点
 調査は、昭和41年3月31日現在で行なった。

3 調査の対象
 調査の対象は次のとおりとした。
(1)放射線を利用している企業
 昭和41年3月31日現在、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(以下「放射線障害防止法」という。)に基づいて、科学技術庁長官の許可を受け、または届出た放射性同位元素等の使用事業所を有する民間企業の全部

(2)放射線を現在利用していない企業
 放射線が比較的よく利用されている下記の16業種について、通商産業省企業局の編集した「技術投資調査対象名薄」(昭和41年3月、資本金5,000万円以上の企業を対象としたもの)から各業種について(1)の放射線を利用している企業を除き、それぞれ1/3の抽出率で無作為に抽出した企業
食品工業 繊維工業 パルプ紙工業
化学工業 石油製品石炭製品工業 ゴム製品工業
窯業 鉄鋼業 非鉄金属工業
金属製品工業 機械工業 電気機械工業
輸送用機械工業 鉱業 建設業
電気ガス業
4 調査事項
(1)前記調査対象(1)の放射線を利用している企業については、主として次の事項を内容とした「様式A」(Ⅳ 附録参照)を用いて調査した。
a 事業所の概要
b 原子力関係の研修および留学ならびに関係機関との交流状況
c 原子力関係の特許
d 放射線利用上の問題点
e 放射線利用の理由
f 放射性同位元素および放射線発生装置の利用の実態ならびに将来計画
g 放射性同位元素の使用量および使用予定量
h 放射線利用関係支出実績および支出見込
i 放射線利用の効果
j その他
(2)前記調査対象(2)の放射線を利用していない企業については、主として次の事項を内容とした「様式B」(Ⅳ 附録参照)を用いて調査した。
a 放射線利用計画の有無
b 実施予定年度
c 放射線の利用方法
d 放射線を利用しようとする理由
e 放射線の利用計画がない場合、その理由
f 放射線利用の問題点
g その他
5 調査方法
 調査表を郵送して行なうアンケート調査による。

  Ⅱ 調査結果

1 回答状況
 調査対象1,154件のうち806件の回答があり、回答率は69.8%である。放射線を利用している企業と利用していない企業別の内訳は第1-1表のとおり殆んど差がない。

第1-1表 回答状況

2 概要
(1)放射線の工業利用の方法
 放射性同位元素の主な利用方法はゲージング(計測への利用)、ラジオグラフィー(非破壊検査への利用)、トレーサー(追跡子としての利用)および放射線処理であり、その他の利用方法として、静電除去、発光塗料等も古くから知られている方法である。

 これらのうちかなりのものはすでに実用化し、生産工程中に用いられているが、まだ研究開発段階のものも多く残されている。

 最近世界的に注目されてきたのは、放射線処理の一分野である食品照射と放射性同位元素を用いた小型のの発電器である。

 これらの利用方法について以下に簡単に説明する。

 ゲージングへの利用としては、放射性同位元素の放射線を利用して、種々の物質の厚さ、密度、レベル、水分、物質中の各種成分等を測定するものがある。

 測定方法としては放射性同位元素を密封した線源を測定物質の片側におき、反対側に検出器をおく透過型と線源と検出器を同じ側におく反射型がある。

 測定したい対象が紙、ゴム、プラスチック、金属板等の厚さの場合は厚さ計、液体、スラリー、粉末、粒状固体等の密度の場合は密度計、タンク中の液面、粉体の充填度等の場合はレベル計としてそれぞれ用いられる。

 放射性同位元素を用いたこれら計測器は、測定物質に直接接触しないこと、X線のように電圧の変動に影響されないこと、自動制御に組み入れることができること等の利点をもっているが、さらに、密度計、レベル計の場合は測定対象が腐食性のもの、高温または高圧のものの場合にも利用できるという特徴をもっており、近年各種工業において多く使用され、わが国でもすでに実用化している分野である。

 この他のゲージング利用としては水分計、真空計、積雪計、分析計がある。このうち、各種原料、土中の水分含量を測定するために用いられるのが水分計である。

 これは、中性子線源から出た速中性子が水分の多少によって熱中性子に減速される割合が異ることを利用したもので携帯可能、測定容易な利点がある。

 真空計はα線による気体の電離現象を利用して真空度を測定せるものであり、積雪計は、本質的には密度計と同じ原理で積雪量を測定するものである。

 分析計の中には、石油硫黄分測定装置、ガスクロマトグラフ等がある。

 石油硫黄分測定装置は、原子番号の低い炭素及び水素で成り立っている石油中に原子番号の高い硫黄が混在していると、放射線の透過度が少なくなる原理を利用して、硫黄の含有量を測定するものであり、ガスクロマトグラフへの利用としては、軟ベータ線源を用いて補助検出器として使用され放射線による試料ガスの電離を利用して、試料ガス中の成分濃度を検出するものである。

 ラジオグラフィーは、放射線によって被検体の影像を写真にとり内部の状態を調べる方法である。

 工業的にはX線とγ線が用いられる。γ線ラジオグラフィ一装置は運搬可能で外部電源を必要としない点で有利である。

 従来わが国では主として線源として60Coが用いられていた関係上、厚肉のものに用いられ、薄肉のものには工業用X線発生装置が用いられていた。

 しかし最近わが国でもX線の領域に相当するγ線源として172Ⅰγが開発されたので今後その増加が期待されている。

 放射性同位元素のトレーサーとしての利用は、物質の移動状況を知りたい場合によい方法である。

 試験研究または検査のために用いられているのが現状であるが、生産工程への利用も考えられている。

 また、放射化分析はトレーサーとしてあるいは微量分析のため多く用いられるようになってきた。

 これは原子炉や中性子発生装置によって試料を放射化して分析するもので、極めて微量に存在している元素を迅速に定量できる。

 放射線処理の中には、有機化合物の重合、改質等による化学工業、繊維工業への利用、食品の投滅菌、発芽防水等による食品工業への利用、注射器、医薬品等の殺滅菌による医薬品工業への利用等がある。

 わが国では、これら放射線処理の分野は民間企業において従来から研究開発を行なっていた部門もあるが、主として国が研究開発を推進しており、日本原子力研究所、国公立試験研究機関で実施している段階である。

 その他の利用のうち、わが国で最も多く普及しているのは発光塗料への利用であり、時計等に使用されている。静電除去への利用は海外諸国では広く普及しているが、わが国では極く少ない。

 また、放射線発生装置の利用は、上記に述べた各種利用方法のうち、ラジオグラフィー、放射線処理に主として利用され、放射性同位元素と実ったその特性により、あい補って働くものである。

(2)放射線利用の現状
a 海外の状況
 国際原子力機関(IAEA)は、昭和37年度に「ラジオアイソトープ工業利用に関する国際調査」を実施した。これにはわが国を含め25ヵ国が回答をしているので、その時点における世界の状況を知ることができる。

 その結果によると、一般に放射性同位元素が広範囲に普及している分野は、タバコ産業、製紙産業、(ゲージング)および金属加工業(ラジオグラフィー)であるが、全般的にみればゲージングが他の利用に比べて、圧倒的に多い。国別にみると、米国、英国、フランス、カナダ等が使用機器数、投資額等からみて積極的と思われ、わが国は、まだ、これら諸国にはかなり遅れている。

 世界各国における放射線利用機器台数は第2-1表に示す如く、カナダでは約5,300台、イギリスでは約4,800台と当時のわが国の使用台数545台よりかなり多く使用されている。

第2-1表 各国における放射線利用機器台数

 また、米国はIAEAの調査では台数不明であったが、昭和40年度に米国原子力委員会が民間企業に委託して行なった調査によると、たばこ製造業のみで密度計が2,500台設置されており、化学工業の分野では、ある大化学会社一社のみで、放射性同位元素装備のゲージングを600~700台も設置しており、極めて多数の機器が使用されていることがうかがわれる。

b わが国の状況
 これに対し、わが国の現状を昭和37年度と今回に実施した2回の調査からみよう。
イ 利用方法別の利用状況
 密封線源装備機器は昭和37年度の調査結果では576台であったが、その後4年経過した今回の調査では931台に増加している。

 これは、平均すると年間約90台増加したことになる。

 調査の回答率が前回の88%から今回は72%に減少したことを考慮すると増加数はさらに大きいと考えられる。

 しかし、その増加の殆んどがゲージングで、ラジオグラフィーおよび放射線処理のための放射線照射台数は殆んど増加していない。

 また、ゲージングの中でも著しく伸びた機器と、殆んど増加のみられない機器がある。

 最も著しく増加した機種としては、まず水分計があげられ、37年度当時の10台から40台となっている。その他密度封が28台から95台へ約3.5倍、レベル計が154台から306台へ約2倍、分析計が殆んどなかった状態から44台へと著しく増加しており、厚さ計も127台から206台へ約1.6倍とかなり増加した。

 これに反し、ラジオグラフィーは170台から、157台へ、真空計は34台から32台へ、積雪計は前回同様6台、照射装置は24台から26台となっており回答率が前回の88%から、今回の72%に減少したことを考慮すると、おおよそ、横ばいの状態にあるものと考えられる。

 このように、わが国の密封線源機器は昭和37年度に比べれば今回の調査の時点まで総台数にして約1.6倍となりかなりの発展を示したと云えよう。

 しかし、前に記した先進諸国に比べると、まだ、わが国は、その台数において格段の相違があり、今後も利用台数が増加するものと思われる。

 一方トレーサー利用については、37年度の調査では使用量を調べていないので、今回の調査と使用量についての比較はできないが、核種についてみると前回の調査では25核種が使用されているのに対し、今回の調査では68核種が使用されており、調査研究的な利用を中心として利用の方法が広汎になったことを示している。

 放射線発生装置は今回始めて調査したが、15企業において36台が、主として研究用およびラジオグラフィー用のX線源として使用されている。

ロ 企業別利用状況
 放射線を利用している企業数は昭和37年度においては、放射線障害防止法に基づく許可を受け又は届出を行なった企業225社のうち回答したものは202社であって、これら企業の放射線利用事業所数は318であり、1社当り約1.6事業所であった。

 今回は、放射線障害防止法の許可又は届出に該当する企業、326社のうち236社の回答があり、回答のあった企業の放射線利用事業所数は350、1社当り約1.5事業所でほぼ変りない。

 これら利用企業を資本金別にみると、昭和37年度には、10億円以上の企業が61.3%、1億円以上10億円未満の企業が23.8%、1億円未満の企業が14.9%であった。

 今回は、10億円以上の企業が65.6%、1億円以上10億円未満の企業が19.5%、1億円未満の企業が14.7%であり、傾向はまったく変っていない。いずれも資本金10億円以上の企業が60%以上を占めており、放射線利用の中心となっている。

 今回調査した16業種において、資本金5,000万円以上の企業中10.3%の企業において放射線が利用されている。

 その中でも比率の高いのは、石油製品石炭製品工業、鉄鋼業、電気ガス業、パルプ紙工業等である。

 石油製品石炭製品工業では、レベル計、密度計等の計測への利用と石油中の硫黄分分析装置等の分析計への利用が多く、鉄鋼業では、鉄板の厚さ測定、キュポラのレベル測定、真空溶解炉の真空測定、原料中の水分測定等のため密封線源を利用するほか、トレーサーとしても利用されている。

 電気ガス業では、密度計、分析計等への利用が多く、パルプ紙工業では紙厚測定と、パルプ液面のレベル測定に主として利用されており、このほか、放射線を利用している企業数の多い化学工業を加えこれらの工業が、放射線利用の盛んな業種と云えよう。

ハ 放射性同位元素の核種別利用状況と放射線発生装置の型別利用状況
 放射性同位元素の核種については、非密封のものは68核種が使用されているが、これらの核種のうち使用量の多いものは、発光塗料として用いられている3H,147Pmと、電子工業部品の漏洩試験に用いられている85Kr、それに金属の挙動、工程解析の研究用トレーサーとしてよく用いられ、国内で、供給可能な198Au等の使用量が多い。

 現在使用されている放射性同位元素は特殊なものを除いて殆んどが輸入にまっている現状であり、今後とくに短半減期の核種の国産化が進展すれば尚一層利用の多くなることも期待される。

 密封放射性同位元素は機器によって装備される核種が異なるのは当然のことである。

 今回の調査によればラジオグラフィ一に用いられる核種は60Coが圧倒的で、数量的には75%を占め残りが137Csおよび192Irである。

 厚さ計は、測定対象が紙、プラスチック、セロファン等の場合は、β線放射体の85Kr,147Pm,90Sr,204Tl等であり、鋼板、合金板等の場合はα線放射体の60Co,137Csか又は強いβ線を出す90Sr等が用いられている。

 レベル計と密度計には若干の例外を除いて60Co又は137Csが用いられており、真空計は全てが226Raである。水分計は241Am-Be,226Ra-Beによる中性子線を利用したものであり、積雪計は60Coのみ分析計は、多くが3Hであってその他の核種が若干含まれる。

 照射装置も全てが60Coを利用したものであり、これら密封線源用の放射性同位元素全体の中では60Coの占める比重は高く、量的には全体の約98%を占めている。

 放射線発生装置には、ベータトロン、コッククロフトワルトン型加速器、ヴァンデグラフ型加速器、直線加速器、変圧器型加速器等があり、その他、サイクロトロン、シンクロトロン、大出力のX線発生装置がある。今回の調査では、サイクロトロンおよびシンクロトロンは1件もなかった。今回の調査によれば、設置台数のうち最も多かったのはベータトロンであり、次がコッククロフトワルトン型加速器であった。

 ベータトロンは、発生する高エネルギーの電子をターゲットにあてて発生する高出力のX線により、普通の工業用X線発生装置では撮影不可能な厚い材料の非破壊検査が可能である。

 このため、輸送用機械工業等において使用されているものであるが、その他の種類の加速器は、現在のところ主として研究用に用いられている。

ニ 支出状況
 昭和37年度から40年度までの放射線利用のための総支出額は119億円であり、そのうち研究用の支出が約46%にあたる54億6,000万円、非研究用(生産利用)の支出が約54%にあたる64億4,000万円であった。

 昭和37年度における調査時点では、利用開始時期からこの時点までの企業の支出は、約56億6,000万円であったがうち研究用が約2/3を占め、生産利用のための支出は約1/3にすぎなかった。

 その当時に比べると生産利用のための支出が多くなり、企業においても放射線を生産のために利用する方向に重点を向け始めたところが多くなったと考えられる。

 業種別にみると今回の調査において特に放射線利用についての支出額の多かったのは、電気機械工業、輸送用機械工業およびその他の工業である。

* その他の工業は、放射線を利用している企業のうち、Ⅳ.附録の様式A-1による業種別分類の「その他」に分類された企業をいい、原子力事業および非被壊検査事業が主となっている。

 電気機械工業では、放射線関係機器を研究開発している関係上支出額も多くなり、輸送用機械工業では、大企業において、ベータトロン等を多く使用しているため、また、その他の工業の中には、原子力専業会社が入っており、これらの会社において、研究開発が多く行なっているため、それぞれ支出額が多くなったものと思われる。

ホ 放射線を利用する理由
 企業において今後放射線を利用しようとする。あるいは現在利用している最も主な理由および、利用した結果の効果について調査を行なった。

 これらの結果から、放射線を利用する理由としては、放射線を利用する以外に方法がないという項目が一位になっている。

 次に多いのは、製品の品質を向上させるという項目である。

 その他工程管理上の利点があるという意見もかなり多く、逆に購入した機器に附属していたから放射線を使うことになったという消極的な企業は少ない。

 少くともこれ迄に放射線を利用している企業は大部分が積極的にその利用を意図していたと思われる。

 一方、利用した効果についても同様に品質の向上に寄与したことが明らかとなった。

 しかし、当初意図した定量的な経済効果については、回答が少なく、明確な結論は得られていない。

へ 放射線利用従事者
 これら、企業において、放射線利用に従事している従業員は全部で5,401人である。1企業当りの平均従業員数は25.0人、1事業所当りでは15.4人となっており、昭和37年度の調査結果の1企業当り従業員17.5人、1事業所当り従業員10.8人に比べ、いずれも増加している。使用する機器の種類には、それ程差はないので一企業で取扱う放射線が、当時より多くなったため、従業員も増加したものと思われ、この面からも、放射線障害防止、従業員の安全管理がさらに重要になっているものと思われる。

 そこで障害防止に責任をもっている放射線取扱主任者免状所有者の数をみると、今回の調査では845人の免状所有者があり、放射線を利用している1事業所当り、平均して2人いることになる。

 昭和37年度の時点では1.8人であったので、今回はやや増加している。放射線障害防止法によれば放射線取扱主任者は1事業所当り、少くとも1人は必要であり、また放射線取扱主任者が一定期間以上不在の場合は代理者を選任しなければならないので、1事業所に2人いることが望ましい。

 したがって、事業所全体としては、ほぼ不足のない特況であるが、免状所有者が偏在していることを考慮すると今後さらに養成訓練を行ない、免状所有者の増加を図ることが必要となる。

 また、将来は、さらに放射線利用事業所が増加すると思われるので、今後とも養成訓練は必要である。

 この関係の養成訓練機関として主なものは日本原子力研究所ラジオアイソトープ研修所および放射線医学総合研究所養成訓練部であり、その他、関連する養成機関として、日本原子力研究所原子炉研修所のほか、日本原子力産業会議、日本放射性同位元素協会等の行なっている。短期の講習会がある。

 これら各機関において研修を受けた者のの総数は前回の調査では547人であったが今回の調査では858人となっており4年間に約300人の受講者であった。

 なお今回の調査中最も受講者の多かったのは短期の講習会である、今回の調査において、短期間(4~5日以下)の講習会を頻繁に開催してほしいという希望が非常に多かったところからみても、長期間の講習は、民間企業にとっては受講させにくいと思われる。

 人材の養成は、アイソトープの利用推進には最も重要な要素の一つであるとよく云われている米国原子力委員会から依頼を受けて工業利用の実態を調査したアーサー・D、リトル社報告書(1965年9月)においても、その結論の中に「放射性同位元素の工業利用の発展に影響を及ぼすもっとも重要な要素の一つは、よく訓練され、経験ある、しかも熱意のある信頼できる個人またはグループが必要である」と述べ、その例として、1つの石油会社の中でさえ、アイソトープ液度計、液面計の利用が一方の精油所では普通に実用化されているが、他方の精油所では1台のアイソトープ計測器もない。

 この理由は、単に2つの施設の幹部および技術者の態度が異なるからであると指摘している。
(3)今後の見とおし
 放射線利用に関しての先進諸国に比べ、わが国は、未だ利用が少ないとはいえ、これまでかなりの発展を遂げてきた。今後わが国の放射線利用がいかに進展するかそれとも停滞するか、そのみとおしを立てることは、放射線利用について極めて重要な問題と云える。

 今回は、放射線をすでに利用している企業における将来の動向のみならず、放射線を利用していない企業における将来の利用計画の有無をも調査した。

 その結果は、資本金5,000万円以上の企業においては、現在約290社が放射線を利用しているが、これと同程度の230~340社が今5後年間に新たに放射線の利用を計画している。

 新たに利用を計画している企業を資本金別にみると、資本金10億円以上の企業においては、調査件数の3割以上の企業において利用計画をもっているが、資本金がそれ以下の企業においては、企業全体の1割以下の企業しか利用計画をもっていない。

 何故利用計画がないのかとこう設問に対しては9割以上が、放射線を利用する必要がないからだと答えている。

 利用すべき方法を知らない全然考えていなかったという意見もかなりあったので、積極的に考えてみて放射線利用は企業にとって不必要という場合もあるが、まだ放射線の利用方法を知らずに、あるいは未検計であるために必要性がわからないという例もあると思われる。とくに資本金の少ない企業ではこのような傾向が大きいと思われる。

 放射線利用の発展は、単に新しい企業において使用が始まるというだけでなく、すでに使用している企業におけるその利用頻度の増大、利用機器の増設も重要なファクターであることは云うまでもない。

 この点に関する今回の調査によると、密封線源利用機器は今後数年間に20%の増加が予定されている。

 なかでも、増設予定の多いのは、レベル計、水分計、可搬型ラジオグラフイ一等であり、1台も増設予定のないのは真空計である。

 レベル計、水分計等は、今回の調査までにも大幅な増設が行われており、今後もかなり伸びるという結果は妥当なところであるが、ラジオグラフィーは、37年度の調査時点から今日まで殆んど増加していないにも拘らず、今後の増設予定が多い。

 これは、これまでわが国のγ線ラジオグラフィーは主として60Co,137Csが用いられていたが、最近X線ラジオグラフィーに代替する領域として192Jrのγ線ラジオグラフィーの利点が認織され、源線も国産で容易に供給されるようになったのでγ線ラジオフィーとして、新しい領域を開拓することが可能になったことによりこれに対する期待から、今後の増設予定が外くなっているものと推定される。

 このように、放射線利用の分野は、新しい利用方法や供給手段が開発されるとそれに伴って放射性同位元素又は装備機器の需要が急激に増大する。

 たとえば放射性医薬品の分野では、適切な供給手段がなかったため、数年前には殆んど使用されていなかった99Tcが99Mo からのミルキング(イオン交換樹脂等を用いて、娘核種のみを親核種から分離抽出すること)という手法の開発により利用されるようになり、昭和41年度のわが国の99Moの輸入量は8,000mcにも達し、輸入量として精製放射性同位元素の中では3H,147pm,85Kr,131I,198Au,32Pに次いで第7位を占めるに至った。

 このような例からみても、放射線利用の分野においては絶えざる研究開発による新しい利用方法の開発が非常に重要である。

 非密封放射性同位元素の使用量は、昭和37年度では調査していないが、今回の調査によれば昭和40年度に約4,000Cが使用されていた。これが昭和42年度には約3倍の11,500Cの使用が予定されている。

 放射性同位元素は現在のところ殆んど海外からの輸入に頼っており、わが国で生産されている主は核種で量的に外いのは、35S,198Au等少数にすぎない。

 輸入金額からみても昭和40年度には米国、カナダ、英国等に約4億7,000万円を支払っている。

 放射性同位元素の国産には従来ともわが国にして力を注いでいたが、今後、放射性同位元素の需要量はさらに増加すると意われるので、国内供給体制の充実が望まれるところである。

 放射性同位元素に比べ、放射線発生装置は、まだ、工業利用の面からみれば初期段階であると思われ、40年度までの36台に対し、今後数年間に14台の設置予定があり、かなりの伸びが予想される。

(4)放射線利用上の問題点
 放射線の利用にさいしては、種々の問題点があると思われるので、昭和37年度の調査にひきつづき今回も調査を行なった。

 その結果、放射線を現在利用している企業から多くの意見があり、利用促進上の障害となっていると考えられる事項は、放射性同位元素、同製僚機器および放射線発生装置の価格が高いこと、専門技術者の養生訓練が下十分なこと、放射線利用施設が大げさになり、また放射性同位元素の取扱い方法が面候なこと等である。

 これらの点は昭和37年度にひきつづき今回も多くの企業から意見のあった事項であって、これら諸点について今後検討を行なうことが放射線利用の進展をはかるうえに必要になっている。

 また、37年度の調査において述べられていた事項で、今回問題点としての記載が少なくなった事項は、放射性同位元素が希望時期に入手できないこと、製備機器の取扱いが面倒であること、現場担当者が放射線利用をいやがること等である。

 一方、放射線を現在利用していない企業で問題点として意見のあった事項は専門技術者の少ないこと、放射性同位元素製僚機器の価格が高いことおよび適当な指導機関のないことである。

 これらをまとめて、今後検討を要する事項としては、第一に、人材の問題である。

 前に記したごとく、放射線の利用に理解をもった技術者を外く養成することが、利用促進上重要であることにはいうまでもなく、そのため、現在この方面の研修を行なっている日本原子力研究所ラジオアイソトープ研修所および放射線医学総合研究所養成訓練部を初として、民間等で行なっている講習会の拡充強化をはかることが必要となる。

 第二の問題点として、適当な指導機関が不足しているという意見がある。

 放射線の利用は、非常に多岐にわたっており、放射線の利用を希望している民間企業を指導する機関が普通促進上必要である。

 これら指導機関となるべきものは、大学国立公立研究機関、日本原子力研究所等であるが.現在のところ、大都市または指定地域に集中しているうらみがある。

 今回の調査においても地方の民間企業や、資本金の少ない企業から、適当な指導機関さらにはサービス機関を設置してはしいという要望が多かった、今後は地方および資本金の少ない企業に対する普及指導を強化する方策について検討する必要があろう。

 第三の問題点として、放射性同位元素、装備機器および放射線発生装置の価格が高いという意見がある。

 この点については、今後海外における価格の状況、放射線利用の効果との比較等について、調査を行なう必要があろう。

 第四の問題点として、施設が大げさになったり、取扱が面倒であるという意見がある。

 放射線利用に伴う障害防止の面からの種々の要求は、利用者の側からみればある程度厳しい制限と感じる場合もあろう。

 しかし、放射線障害の重大さを認識すれば、通常の施設にくらべ放射線取扱施設には特別の配慮が必要となったり、取扱方法が若干面倒になることはある程度避けられないことと思われる。

 この点については、外国でも同様であり、たとえば、前記した米国の調査報告書をみても、法規上の条件をみたすことは困難であり、費用がかかるので、これがしばしば放射線利用の発展に対する一つの障害としてあげられているといっている。

 しかし、同時にアイソトープ利用に関して成果を収めた研究グループは、こういった条件はもともと、放射線利用のさいにはつねに存在するもので、あるから、これを障害として認識するよりは、まず放射性同位元素の利用に経験と熟練をもった専門的な人間を養成することである。

 このような人間が多く養成できれば、前述した問題も解決するであろうといっている。

 今回の問題点に関してもまさにこれと同様のことが言えよう。

(5)ま と め
 本調査によって得られた結果によると、わが国の放射線の工業利用は、この分等における先進諸国に比べればまだ格段の差があるが、一応順調に発展してきたと云える。

 しかし、先進諸国の例をみれば、今後まだ放射線利用はさらに増大させる必要があるので、そのため、人材の養成、放射性同位元素の国産化の促進、放射線の新しい利用に関する研究開発の実施、普及指導体制とくに資本金の少ない企業および地方の企業を対象とする普及指導体制の強化等についてさらに検討することが必要である。

3 項目別調査結果

(1)放射線利用の現状
 a 利用の概況
 回答のあった放射線利用企業数は236、これらの企業において放射線を利用している事業所数は360である。

 同時点における放射障害防止法による許可または届出事業所の総数は520であり、調査できた事業所は全体の約69%にあたる。

 放射線が比較的よく利用されている前記16業種については企業数で資本金5,000万円以上の企業の約10.3%において放射線が利用されている。

 この中には工場等で継続的に使用している企業のみでなく、たとえば放射性同位元素をトレーサーとして一時的に研究目的で使用している企業も含まれている。

 業種別の企業における利用率は第3-1図のとおりで石油製品石炭製品工業、鉄鋼業、電気ガス業、パルプ紙工業、化学工業、ゴム製品工業等における利用率が高い。

第3-1図 企業における放射線の使用状況

(注)放射線を利用している企業については、資本金5,000万円以下の企業を除き、回答率の逆数を乗じて算出した。

b 利用企業の分布
 放射線を利用している企業を資本金別にみると第3-2図のとおり、資本金10億円以上100億円末満の企業がほぼ午数の45%を占め、これについて資本金100億円以上の企業が21%、資本金1億円以上10億円末満の企業が20%で、これらを合計して、1億円以上の企業で金利用企業の86%を占めている。

第3-2図 資本金別放射線利用企業数

 昭和37年度に行なった調査の結果では、資本金別の利用企業の割合は、資本金10億円以上の企業が16%、資本金10億円以上100億円末満の企業が45%、資本金1億円以上10億円未満の企業が24であり、これらを合計すると利用全企業数の85を占めることになり、今回と全く同じ結果を得ている。

 その後4年を経過した現在でも同様であるが、放射線の利用に際しては、多くの資金を要すること、専門的な技術者を要することが資本金の小さよ企業への放射線利用の拡大を妨げている原因とみられる。

 一方、放射線利用企業を業種別にみると、第3-1表のとおりとなり、実数では化学工業、鉄鋼業、電気機械工業、パルプ紙工業が多い。

第3-1表 業種別放射線利用企業数

 また、その他の工業もかなりあるが、この中には原子力専業会社と、非破壊検査専門会社が含まれている。

 回答のあった放射線利用企業数は前述のとおり236社であるが、これらの企業における放射線利用事業所数は合計360で、1社平均1.5事業所となっている。

 昭和37年度の調査のさいも1社平均1.5事業所であって変っていない。

 電気機械工業、輸送用機械工業においては、放射線利用事業所が1社で11事業所、12事業所という例もあるが、1社で4事業所以上の企業は極めてすくなく、1社3事業所までの企業が全体の95%を占めている。

c 放射線を利用する理由
 企業が放射線を利用する場合、その目的を知るためにあらかじめ記した6項目の理由について、いずれかひとつを選択する方法をとった。

 その結果を要約すると、第3-3図のとおり、現在すでに放射線を利用している企業での最大の理由としては、「放射線を利用する以外に方法がない」とい理由が最も多い。

第3-3図 企業において放射線を利用する理由

 次いで品質向上「工程管理」の面で期待されており、「労力節約」は、第1の理由としては少ない。

 現在放射線の工業利用で最も多く使用されている厚さ計、レベル計、ラジオグラフィ一等が工程管理、品質向上面での効果が著しいためとみられる。

 今回の「放射性同位元素の利用以外に方法がない」という理由が一番多いのは昭和37年の調査と同じであるが、「品質向上」および「工程管理」上の期待は若干前回より多く、「研究的意味から」および「労働力の節約」が若干前回に比べ少なかったが、全般的にみて37年と41年の調査にはそれ程相違はない。

 これから利用しようとする企業では「研究的意味から」の利用予定が多い。

 当然のことではあるが、放射線の利用が試験的な使用から始まり、効果があれば本格的に、品質、工程の管理等に導入しようという考えによるものとみられる。

d 放射線利用の実態
 放射線の利用方法を大別すると密封放射性同位元素として利用する場合、非密封放射性同位元素として利用する場合および放射線発生装置を使用する場合(原子炉の利用を除く。)の3種になる。
(イ)密封放射性同位元素
 密封放射性同位元素の利用としては、概要の項で述べた如くゲージング、ラジオグラフィーおよび放射線処理のための大線源照射装置の利用が主なもので、その他に種々の用途がある。

 密封放射性同位元素の装備機器台数は、37年度の調査時点は総台数569台であったが、41年度においては第3-2表のとおり931台である。

第3-2表 密封放射性同位元素装備機器台数

 4年間に63%増加したことになり、放射性同位元素の利用はかなり進展したと云えよう。

 特に目立つのは、ゲージングの伸びで、前回の375台から約2倍に増加した。

 これに対し、ラジオグラフィー照射装置は殆んど増加していない。両回とも回答率を考慮に入れていないので、今回は前回第3-2表に比べて回答率の若干悪い点を考えねばならないが、いずれにしてもゲージング以外の機器については余り増加しなかったという結論になる。

 また、核種別の密封放射性同位元素の装備量は第3-3表のとおりであり、装備されている合計量は約29,000cであるが、このうち28,000cは60Coの大線源照射装置であり、その他ゲージンに用いられたものを加え、量的には60Co密封線源全体の約98%を占めている。

第3-3表 密封放射性同位元素の使用量

1 ゲージング
 ゲージングにはレベル計、厚さ計、密度計、分析計、水分計、真空計および雪量計が含まれ、全体で729台設置されているが、このうちレベル計が最も多く306台、ついで厚さ計の206台が多い。

 レベル計、密度計には60Co,137Csの利用が圧倒的に多く、厚さ計はその用途に応じて60Co,137Csなどのγ線エミッター85Kr,147Pm,90Srなどのβ線エミッターが利用されている。

 分析計には各種のものがあるが、最も多いのは3HをECデテクターとしたガスクロマトグラフ装置であり、その他3H,55Fe,90Sr等による石油中硫黄分測定装置、C/Hメーターなどがある。

 水分計はこれまで主として226Ra-Beが用いられていたが、最近241Am-Beが多く利用されるようになってきた。
(i)レベル計
 レベル計の利用は、各種計測器の中で最も多く、計306台にのぼっている。

 業種別にみると第3-4図のとおり、化学工業の112台、繊維工業の90台で総台数の2/3を占めている。

第3-4図 業種レベル計使用台数

 レベル計には、前述のとおり、殆んど60Co,137Csの2核種しか用いられていない。

 化学工業においては種々の反応系の液面制御に利用されており、高温高圧、しかも腐食性の液体に対して、放射性同位元素の液面計は極めて有効なものとされ、1企業で10台、20台と設置している場合もある。

 繊維工業では合成繊維用高分子重合物、ビスコース等の液面にパルプ紙工業ではパルプ溶解液の液面にそれぞれ利用されている。

 そのほか、鉄鋼業における利用もかなり多いが、これは高炉、キュポラの内容物のレベル測定に、窯業においてはガラス溶融物の液面制御に、電気ガス業においては、ガス発生炉のコークスレベル測定に、それぞれ、使用されている。

 レベル計の使用企業は58社、1企業当りの平均設置台数は、5.3台に達している。

(ii)厚 さ 計
 全部で206台利用されているが、業種別にみて、最も多いのが、鉄鋼業の53台である。

 次いでパルプ紙工業の48台、化学工業の32台、繊維工業の20台が多い業種である。

 鉄鋼業での利用例は、鋼板、ステンレス鋼板、亜鉛メッキ板等の厚さの連続測定に用いていて、品質管理、原材料の節約の一助となっている。

 測定対象が厚いので、核種は90Srまたは137Cs が用いられている。

 鉄鋼業と同じような対象に用いられている業種としては、非鉄金属工業(銅板、合金板厚測定)電気機械工業(鋼板)、輸送用機械工業(鋼板)等がある。

 パルプ紙工業では、上質紙、クラフト紙等紙厚の測定に用いられるものでβ線エミッターの各核種、特に204Tl,147Pmが利用されている。

 化学工業では主にプラスチックフィルムまたはセロファンの厚さ測定に利用されている。

 セロファンの測定には14Cが利用されているが、その他の場合には85Kr,90Sr,147Pm,204Tl等が主として用いられている。

第3-5図 業種別厚さ計使用台数


第3-6図 業種別密度計使用台数

 ゴム製品工業における放射線の利用方法としては厚さ計によるもののみであり、他の利用方法はない。90Srまたは204Tlを用いてゴムでカバーしたタイヤコード、圧延ゴムシート等の測定に用いているものである。

 他の例としては、窯業における研磨布紙への接着剤、研磨材の厚さの測定、食品工業におけるチューインガムの厚さの制御等がある。

 なお、厚さ計を設置している企業数は66社であり、1社平均3台を使用している。

(iii)密度計
 全部で95台利用されているが、業種別にみて最も多いのは建設等の23台で、次いで電気機械工業の19台、化学工業の17台等となっている。

 建設業においては、土質、土壌密度測定、浚渫船における含泥率測定等に利用されている。

 電気機械工業では各種液体スラリー等の濃度測定核燃料の密度測定等に利用されている。

 化学工業では有機スラリー、粉体等の密度測定に利用されている。

 核種としては、レベル計と同じく60Co,137Csの2核種が用いられている。

 密度計の使用企業は46社、1企業当りの平均設置台数は2台強である。

(iv)分析計
 全部で44台利用されているが、業種別には、化学工業が16台、電気ガス業が12台、石油製品石炭製品工業が11台、精密機械工業が1台その他の工業が4台となっている。

 分析計の中には種々のものが含まれているが3Hを利用するガスクロマトグラフ装置が17台で最も多く、ついで石油中の硫黄分析および発熱量測定装置が15台となっている。

 その他も主として化学分析用装置である。

(v)水分計
 全部で40台利用されている。

 業種別には鉄鋼業が19台で最も多く、ついで建設業10台、電気ガス業3台、化学工業2台、窯業、電気機械工業、鉱業各1台、その他の工業3台となっている。

 鉄鋼業においてはコークス、焼結原料中の水分測定等に、建設業においては、土壌水分の測定に、それぞれ利用されている。

 核種は、これまで226Ra-Beが多かったが、最近は241Am-Be も使用され始めた。

 企業数は19社で1社当り2.1台である。

(vi)真空計
 全部で3台利用されている。

 業種別には電気機械工業14台、鉄鋼業13台、金属製品工業3台、輸送用機械工業、精密機械工業各1台となっている。

 いずれの業種においても真空溶解炉に用いられるもので226Raを使用している。

 企業数は19社で、1企業当り1.7台である。

(vii)雪量計
 全部で6台利用されているが、全て電気ガス業において利用されているものである。

 60Coを用い、電力会社において水源地の積雪量を遠隔地で知るためのものである。

 企業数は3社で、1社当り2台である。

2 ラジオグラフィー
 ラジオグラフィー用機器は全部で157台利用されている。

 うち大多数が可搬型のもので136台を占め、残りが定置型である。

 ラジオグラフィー用機器は輸送用機械工業39台、機械工業29台、鉄鋼業29台等7業種にわたっているほか、その他の工業30台がある。

 核種としては前述のように60Coが殆んどで137Csもあったが、最近192Irの使用を計画する企業が目立ってきた。

 60Coはα線のエネルギーが60Co等に比べると弱く、従来X線によりラジオグラフィーを行なっていた薄物に対しX線の代替になるのではないかと期待されている。

 欠点は半減期の短いことであるが、諸外国ではすでに192Irによるラジオグラフィーが実用化されており、わが国においても線源が供給できるようになったので今後その利用は伸びるものと思われる。

 業種別にみてその他の工業に相当台数があるが、これは非破壊検査専門の会社において利用されているものである。ラジオグラフィーの利用企業は57社で、1企業当り2.8台となっている。

3 大線源照射装置
 6業種にわたり26台が設置されている。

 2台は特定の目的(真珠、水晶の着色加工)のために設置されているが、他の24台は主として研究用に設置されたものである。

 全てが60Coを利用するもので、1台当り数100Cから5,000Cにわたっている。

 業種別には、繊維工業6社6台、電気機械工業4社5台、化学工業4社4台、建設業1社2台その他(原子力専業を含む。)が6社10台となっている。

 研究用に設置されている照射装置は、各種高分子の合成等主として放射線化学に関する研究が中心となっている。

4 その他の利用方法
 以上の利用方法以外にも、密封線源として種々の利用例がある。

 それを例示すると、鉄鋼業における高炉のインタロック装置への60Coの応用、繊維工業における静電除去器への204Teの利用、機器の校正設備として60Co、137Csの使用等の例がある。

 これらはいずれも利用企業はすくなく、試験的に用いられているか、または、極く特殊な利用方法であり、それ程一般には普及しない性格のものが多い。

(ロ)非密封放射性同位元素
 非密封放射性同位元素の利用企業を業種別にみると第3-8図のとおり化学工業、電気機械工業等が多い。

第3-7図 業種別ラジオグラフィ一使用台数


第3-8図 非密封放射性同位元素使用企業数

 また、核種別にみた数量は第3-4表のとおりであり、3H、147Pm、85Krの使用量が多く、ついで198Au、32P、35S、60Co、140La、14C 等が多く使用されている。

第3-4表 主な非密封放射性同位元素の使用量

 3H、148Pmは、時計等の夜光塗料として大量に用いられているものである。夜光塗料は従来226Raの使用が多かったが、γ線が強い等の理由もあり、3H、147Pm におき代っている。

 このため非密封核種としては、この2核種が最も多く使用されている。ついで85Krの使用量が多いが、これは電気機械工業において、トランジスタ等のリークラスト用に多く用いられている。

 また、60Coも鉄鋼業において高炉炉壁の侵蝕度検査のため用いられているが、これらを除くと、その他の利用方法は、主として、一時的、試験的なものである。

 これらの主な用途としては、流体、粉体の流動、混合、分散状況の調査、磨耗試験、反応機構、代謝機構の研究、その他放射化分析を含む種々な分析等である。

(ハ)放射線発生装置
 放射線発生装置の利用目的は、工業分野においては研究用として利用するか、非破壊検査、放射線化学への応用(プラスチックフィルム等の改質)として利用するかのいずれかになるが、現在のところ放射線化学への応用は1例を除いては見当らない。

 現在では、放射線発生装置を設置するのにかなりの費用を要することおよび後述するように信頼性、故障等の点に問題があるためか、それ程広く利用されているといえず、まだ開発の初期段階である。

 放射線発生装置は36台設置されているが、これを資本金別および業種別にみると第3-5表および第3-9図のとおりである。

第3-5表 資本金別放射線発生装置状況


第3-9図 業種別放射線発生装置
使用台数

 資本金別には100億円以上の大企業において総合数の約70%を占め、1億円末満の企業においては1台も設置されていない。

 業種別にみて最も多い電気機械工業では主として研究に用いられている。

 輸送用機械工業ではベータトロン等により鋳物の厚物に対する非破壊検査を行なっている。

 繊維工業およびその他の工業では研究用に用いられている。

 放射線発生視置を機種別にみると、第3-10図のとおり6種類の加速器が利用されている。

第3-10図 機種別放射線発生装置使用台数

* コッククロフトワルトン型加速器にはダイナミトロン1台を含んでいる。
** X線発生装置は100万電子ボルト以上のX線を発生するもののみである。
+ コッククロフトワルトン型加速器には3台、ヴアンデ、グラフ型加速器には1台の中性子発生装置を含んでいる。


 そのうちベータトロンが最も多く、ついでコッククロフトワルトン型加速器が多い。

 また、コッククロフトワルトン型加速器とヴアンデグラフ型加速器中にはトリウム、ターゲットより中性子を発生させ、それを利用する中性子発生視置が含まれている。

 また、X線発生装置が2台含まれている(原子力基本法第3条第5号に定義されている100万電子ボルト以上のX線を発生するもの)。
e 投資と効果
(イ)放射線関係支出
 放射線利用に関し、投資がどの程度行なわれ、それに対して経済効果がいかに上がったかを調査することは今後の放射線利用を推進するうえに極めて重要な問題である。

 しかし、この点に関して、特に経済効果に関しては調査の回答が少なく、不十分な結果しか得られなかった。

 放射線の利用はまだ企業としても研究開発の段階にある場合が多い。

 研究開発に関する効果判定は、質的にはともかく量的に行なうことが一般に困難であるとよく云われているが、この場合もそれが一原因となったと思われる。

 今回は、昭和37年度から40年度までの4年間における放射線利用関係の支出実績を調査した。

 また、経済効果についても調査を行なった。

 支出実績に関しては第3-6表に示すとおりである。

第3-6表 放射線利用関係支出実績

 4年間の合計は184社119億円にのぼる。

 年間にすると、研究用支出が13億7,000万円、非研究用支出が16億1,000万円合計29億8,000万円になる。

 従って、1社当り、年間1,600万円を平均して支出していることになる。

 昭和37年度に行なった調査のさいには研究用支出が約39億円、生産利用のための支出が約17億円で、その比が約2:1になっていたが、今回の調査の時点では両者がほぼ等しく、むしろ生産利用のための支出が多い。

 このことから企業においては研究投資に重点をおいていたが徐々に生産制用のための投資にも関心を向け始めたことがわかる。

 業種別にみて支出額の多いのは、電気機械工業(年間11億8,800万円)化学工業(年間5億円)輸送用機械工業(年間2億6,200万円)の順となっている。

 1企業当りの支出額で、最も多いのが電気機械工業であり、ついでその他の工業輸送用機械工業、繊維工業、機械工業の順である。

 なお、今回の調査では、これとともに今後の支出予定も調査した。

 詳細は後述するが、対象とした企業中約半数の回答しかなく、確実なデータといいたいが、今後はさらに研究への投資から生産への投資に重点が移ってくると考えられる。

 また、昭和37年の調査の際には今後5年間の支出予定を調査した。そのとき81社で、5年間合計55億5,000万円という予定であった。

 これは1社当り5年間で6,800万支出することになる。

 これに対し今回の調査での支出実績は4年間で1社平均6,500万円を支出しており、むしろ当時の支出予定より多く支出されたことになる。

(ロ)放射線利用の効果
 調査にさいしては、まず放射線利用の効果について検討を行なっているか否かを調査した。

 その結果、回答企業中約40%にあたる92社から行なっているという回答が得られた。

 いかなる効果があったかについては、第3-11図に示すとおり品質向上面での効果が最も著しい。

第3-11図 放射線利用の効果

 非破壊検査による不良部品の排除、厚み測定による品質の一定化等、多くの業種でこの種の効果のあがったことを示している。

 また、ゲージング等はオートメーションの中に組み入れられて利用されている場合も多いので労力節約面でも効果があがっている。

 放射線を利用する、第一の理由として労力節約はあまり期待されていなかっただけに、労力節約の効果については、企業としてかなり注目したものとみられる。

 原材料の節約のあったのは殆んどすべてが厚さ計の利用によるものである。

 なお、その他として指摘のあったのは、研究上有用であること、宣伝効果のあること。工程管理が容易になること等である。

 効果を金額で算定できるときは、それを記すよう依頼したが、これに対しては、23件の回答が得られた。

 この他、たとえば品質の向上といっても、金額的に算出するのは非常に困難であるという回答が多かった。

 経済効果を金額的に算出している場合の内訳は厚さ計10件、ラジオグラフイー4件、レベル計3件、密度計、水分計、照射装置各1件、機器不明のもの1件となっている。

 厚さ計については、10件で約1億円の利益をあげている。

 このうち最も多いのは原材料の節約で、4件、4,200万円の利益をあげている。

 金額を算出していない場合を含め、厚さ計の効果の原因をまとめてみると第3-12図のとおり合計29件となっている。

第3-12図 厚さ計の効果

 ラジオグラフィーでは効果のあがった件数21件、うち金額の算出されているのが4件:約1億円となっている。

 しかし、このうち2件は売上高の増加で、それぞれ4,000万円を計上しているが、これは、製品納入の際の検査にγ線ラジオグラフィーを指示している場合の製品について記入したものであり、これが果して妥当な効果というべきかどうかは疑問である。

 第3-13図に、ラジオグラフィーの効果の要因を示した。

第3-13図 ラジオグラフィーの効果

 この場合は、主として品質の向上に寄与している。

 この他、レベル計において、4,000万円、その他の各機器で、2,500万円程度の効果が報告された。
f 放射線利用に関する交流状況と原子力に関する特許
 放射線利用に関して、他の諸機関との交流状況を調査した結果、民間企業間で共同研究なり、施設の共同利用を行なっているのが一番多いという結果が得られた。

 その中でも、原子力専業会社の施設の共同利用が圧倒的に多い。

 国立試験研究機関、大学、日本原子力研究所等との交流は、いずれも各種の交流形態のものを合計して数10件前後である。

第3-7表 放射線利用に関する交流状況

 特許公告件数は全部で705件ある。

第3-14図 原子力に関する特許

 その内訳は日本の特許公告が484件、外国特許が70件、技術導入等により実施権を有する外国特許が151件であるが、そのうち、放射性同位元素に関するもの112件、放射線発生装置に関するもの217件で残り376件がその他の原子力に関するものである。

 放射性同位元素および放射線発生装置に関するものを企業別にみると、電気機械工業が209件で、合計件数329件中の過半数を占め、これについで、繊維工業の35件、化学工業の30件、輸送用機械工業25件の順となっており、これらの業種が多くの特許を有している。

 電気機械工業が多いのは放射線利用機器の製作を行なっているので、当然であろう。

g 放射線利用関係の従業員
(イ)従業員の数
 回答のあった企業における放射線利用事業所の全従業員は460,354人に達するが、そのうち放射線利用従業員は第3-8表のとおり5,461人である。

第3-8表 放射線利用関係従業員

 これは、全従業員に対して1.2%にあたっている。

 昭和37年の調査のさいには放射線利用従業員は3,459人であった。

 この時に比べて4年間で約2,000人即ち60%増加している。

 今回は5461人のうち工場関係の従業員が全体の84%を占めていて、研究所関係のものが非常に少ない。

 しかし、従業員中の技術者については、当然のことながら研究所では569人、工場908人と、それ程大きな差がなくなる。

 1企業当りの従業員数は平均24.9人、1事業所当りにすると15.4人になる。

 これは、前回の調査の時の平均17.3人および10.8人に比べていずれも増加している。

 1事業所当りの従業員数で多いのは電気機械工業24.5人、電気ガス業20.7人、パルプ紙工業19.7人、繊維工業18.9人等であり、逆に少いのは金属製品工業4.3人、機械工業4.5人、建設業5.0人等である。

 多い企業では放射線利用の種類の多いことが原因とみられるが、また、放射線利用機器の種類にもよると考えられる。

 このため装備機器1台当りの所要従事者を計算してみた。

 これが第3-9表である。

第3-9表 各種の放射線利用機器の所要人数

 一般にラジオグラフイーには従業員が少ない。

 これは、ラジオグラフィーの場合、独立した建屋において限定された従業員のみが従事するのに対し、その他のゲージング類は一連の工程中のある一部に附属するものが多いので、それに関する作業員が全部放射線利用従業員となるためもあろう。

 なお、1企業の所有する台数が多ければ多い程、1台当りの所要人数が減少してくる傾向がはっきり示されている。

(ロ)放射線取扱主任者免状所有者
 回答のあった企業中の主任者免状所有者は合計845人であるが、このうち103人は現在放射線を利用している事業所に所属していない。

 従って、放射線を利用している事業所における主任者免状所有者は742人になる。

 第1種の免状所有者と第2種の免状所有者(第2種の免状所有者は密封線源を使用する場合で、1事業所当り総量が10Ciをこえない場合にその事業所の放射線取扱主任者となれる。)の比率はほぼ1:1である。

 これまでの国家試験合格者総数は第1種が1,456人、第2種が1,690人であるので、それぞれ、ほぼ全合格者中の1/4を占めている。

 なお、放射線を利用している1事業所当りの主任者免状所有者は約2人をこえており、総数では、ほぼ満足できるが、免状所有者の偏在を考えると、さらに養成訓練を行なう必要がある。

第3-10表 放射線取扱主任者免状所有者数

(ハ)研修及び留学
 研修に受講者を派遣した企業は全部で116社で、その数は放射線利用のみでなく、原子力全般について延858人である。

 研修機関別の内訳は第3-15図に示すとおりである。

第3-15図 研修機関別研修人数

 これによると日本原子力産業会議が最も多く315人、ついで日本原子力研究所で、原子炉研修所、ラジオアイソトープ研修所の両者合わせて292人である。

 業種別にみて最も多いのは電気ガス業の329人、ついで電気機械工業の128人、化学工業の95人となっている。

 企業においては、長期の研修を受講させるのは困難で、むしろ短期間の講習会を頻繁に開催した方がよいという希望があり、日本原子力産業会議の受講者が多かったのも、比較的手軽に参加できたからであると思われる。

 留学(教育、研究機関等で6ヵ月以上教育を受けるが研究に従事することを云う。)については企業数にして41社、人数は578人であるが、このうち電気ガス業のみで384人の留学を行ない、これに加えて原子力専業の92人を加えると、この2業種のみで82%に達しており、その他の業種では趣く少ない。

 なお、海外留学は208人、国内留学は370人となっている。
(2)今後の見とおし
a 放射線利用発展の経緯
 昭和37年度に行なった調査により、昭和29年度以降37年度までの発展状況が調査された。

 それによると、31年度頃から放射線利用が本格化し、年ごとに20~30社程度斬らしく利用を開始していた。

 放射性同位元素装備機器は、ラジオグラフィーの使用から始まって厚さ計、レベル計、密度計が順次採用されてきた。

 今回の調査では、37年度以降40年度までの発展の状況を経年的に調査していないため、経年的傾向は不明であるが、放射線利用企業数は約300社で(37年度に200社強)、放射線利用機器も931台(37年度に545台)と、いずれも順調な発展を示した。

 今回は上述したように16業種について、資本金5,000万円以上の放射線を利用していない企業に対しても調査を行なったので、今後の動向については、ある程度の予測のつく資料が得られた。

b 放射線を現在利用している企業における将来の増設等
  放射性同位元素装備機器、非密封放射性同位

第3-16図 放射性同位元素装備機器の今後の設置予定台数

元素および放射線発生装置の将来の設置計画について調査した。

 その結果、放射性同位元素装備機器、今後数年間に約20%の伸びが見込まれ、非密封放射性同位元素については、核種は増加しないが使用量の増加が大きく、放射線発生装置も28%の伸びが見込まれている。
(イ)放射性同位元素装備機器
 回答された設置予定台数は全部で260台である。

 そのうち最も多いのがレベル計の86台、ついで可搬式ラジオグラィーの54台、厚さ計の22台となっているが、現有台数に比べて将来の伸び率の高いのは、水力計、ラジオグラフィ一等である。

 また真空計は設置予定が全然ない。

 今後期待されるのは、192Irを中心とした可搬式ラジオグラフィー、化学工業をはじめ広範な分野に利用されるレベル計及び厚さ計さらに特殊な用途(土壌、各種原料中の水分測定)をもっている水分計等であろうと推定される。

(ロ)非密封放射性同位元素
 将来使用を予定している核種の数は各企業によっそれぞれ増加しているが、全企業を通してみると、現在使用されている核種数68と全く同じである。

 つまり、今後は核種の増加はみられないが、使用頻度および使用量は増加することになる。

 昭和40年度の非密封放射性同位元素の総使用量は約4,030Ciであったが、42年度における使用予定量は、その約3倍にあたる約11,470Ciとなっている。

 主要な核種について今後の使用予定数量をみると第3-11表に示すとおり特定の核種を除いてはかなり増加している。

第3-11表 主要核種の使用量及び使用予定量

 この中でも147Pm 24Na 59Fe 14C等の増加が目立だっている。

(ハ)放射線発生装置
 36台が設置されているが、今後14台分の使用予定がみられる。

 その内訳は第3-12表のとおりであり、これまでと変りなく資本金の多い企業となっている。

第3-12表 放射線発生装置の設置予定台数

その1 資本金別

 その2 業種別
 設置予定の放射線発生装置の種類は、中性子発生装置7台、ベータトロン3台、リニアアクセラレータ1台となっており、その他に機種不明のものが3台ある。
c 放射線を現在利用していない企業における将来の利用計画
 16業種570の企業から回答があったが、そのうち放射線の利用計画を有する企業は全体の14%にあたる79企業であった。

 業種別にみると化学工業がもっとも多く20社で、残りは全業種にわたって数社づつ利用計画をもっている。

 これを資本金別にまとめてみると第3-13表のとおりとなり、今後利用予定のある企業もやはり資本金の多い企業に多く、資本金の少ない企業では利用計画のある率も小さい。

第3-13表 放射線を利用していない企業における利用計画の有無

 以上の結果から、資金5,000万円以上の企業において今後どの程度の企業が放射線を利用するか推定してみる。

 まず、現在放射線を利用している企業のうち資本金5,000万円以上の企業については、回答率の逆数を回答数に乗じて算出すると292社になる。

 つぎに、現在放射線を利用していない企業については、2通りの計算法により算出した。

 (a)回答率の逆数を乗じて抽出率を考慮して計算する。(b)企業から回答のない場合は、利用予定がないからであるという考えによって、利用予定のある企業は単に抽出率の逆数をかけ、全企業数からそれを差引いたものを利用予定のない企業とする場合の2通りとした。

 恐らくこの両者の中間が真実の値に近いであろう。

 この結果を第3-14表および第3-17図に示す。

第3-14表 利用企業および利用予定企業数


第3-17図 資本金利用企業等の比率

 この表に示すとおり、現在の放射線利用企業292社(但し資本金5,000万円以上)に対し、将来使用予定のある企業もほぼ同数の230~340社となっている。

 したがって、今後共かなりの利用企業の増加が期待される。

 これらの将来利用予定のある企業では、いかなる手段を用いるかについて調査した結果によると、最も多いのはゲージングで35件、ついでトレーサー27件、照射19件、ラジオグラフィー13件、放射線発生装置12件、その他1件となっていて、現状の分布とかなり異っている。

 これは始めて放射線を利用するさいには、やはり研究的用途にまず注意が向くため、トレーサーや照射の件数が多くなっているものと思われる。

d 放射線利用関係の今後の支出予定
 今後企業が放射線利用のために、どの程度の支出を予定しているかを知るため、昭和41年度から44年度までの4年間の支出予定を調査した。その結果を第3-15表に示す。

第3-15表 放射線利用関係支出予定

 今後の支出予定は、4年間で約53億円(134社)となり、年間1社当り約1,000万円の支出を予定している。

 この金額は、昭和37年度~40年度における年間支出実績約1,600万円に比べて低いが、これをもって今後の放射線利用のための支出が少なくなるとは云えない。

 放射線利用の経費面での特徴は初期の設備投資が大きいことと云われており、今後新しく放射線利用を行なおうとする企業の経費はこの表には含まれていないからである。

 研究用と生産利用のための投資を比べると、これまで支出実績より今後の支出予定の方が若干生産利用への投資の比が大きくなっている
(支出実績の研究用支出:非研究用支出=1:1.7、
(支出予定の研究用支出:非研究用支出=1:1.34)。
 業種別にみて支出予定額の多いのは、これまでの支出実績と同様の傾向であって、電気機械工業(年間7億7,500万円)、化学工業(年間4億3,800万円)、輸送用機械工業(年間2億500万円)の順となっている。

 1企業当りの支出予定額では最も多いのが電気機械工業であり、ついで輸送用機械工業、その他の工業、化学工業の順となっている。

(3)放射線利用上の問題点
 放射線利用上の種々の問題点について、現在放射線を利用している企業については、23項目について問題の有無を指摘し、現在放射線を利用していない企業については、8項目のうち最も大きな問題と思われる一項目を指摘する方法で調査を行なった。
a 放射線を利用している企業
 現在、放射線を利用している企業についての設問は23項目であったが、そのうち利用者の半数以上から問題があると指摘された事項は11項目に及んでいる。

 昭和37年度の調査は今回とは方法が違うので、これを直接比較は出来ないが、その結果によれば指摘の多かったものから順に、1. 法令による規制が厳しすぎること、2. 放射線取扱主任者の試験が難しいこと、3. 放射性同位元素装備機器の価格が高いこと、4. 放射線利用施設が大げさなこと、5. 希望時期に放射性同位元素の入手が困難なこと、6. 放射性同位元素同装備機器の取扱いが面倒なこと7. 放射性同位元素の利用を現場の担当者がいやがること、8. 放射性同位元素の専門技術者が得難いこととなっていた。

 今回の調査では、問題点の多いものから順にみると1. 放射線発生装置の価格が高いこと、2. 放射性同位元素装備機器の価格が高いこと、3. 技術者の養成訓練を積極的に行なうこと、4. 放射線利用施設が大げさになること、5. 放射性同位元素の価格が高いこと、6. 専門技術者が不十分なこと、7. 放射性同位元素の取扱いが面倒なこと、8. 適当な指導機関がないこと。

 であり、その他「放射線発生装置の取扱方法が面倒なこと。」「専門技術者の知識、技術が不十分なこと、」、「放射線発生装置の故障がおこりやすいこと。」が50%以上の企業において問題点として指摘した事項である。

 前回の調査では放射線発生装置についての調査を行なわなかったが、今回これを放射性同意元素全体についての問題点の指摘率36.4%、放射性同位元素装備機器の40.3%と比較すると、放射線発生装置の52.2%は、問題点の指摘が多い。

 前回に比べ、今回問題がなくなったと思われるのは、「放射性同位元素が希望する時期に入手できないこと。」、「放射性同位元素装備機器の取扱が面倒なこと」および「現場の担当者が放射性同位元素の利用をいやかること」という点である。

 これらに対し、依然問題が残っていると思われるのは、各種機器、放射性同位元素等の価格が高いという問題、専門技術者の養成訓練と所要数の問題、放射線取扱施設が大げさなことという点等である。

 価格が高いということについて、現在、放射性同位元素は多核種小量供給であること、装備機械や放射線発生装置は安定した大量の需給がまだなく、注文生産に近い形であるため、コスト・ダウンができないためとみられる。

 各種機器類については今後需要がさらに増大すれば、価格が下がることも考えられる。

 放射性同位元素については、品質、核種、供給時期等での問題は殆んどなくなり、残っているのは価格だけの問題であろう。

 放射線利用が増大するに伴い、専門技術者がより多く必要となるのは当然のことである。

 現状では、その数が不足しているので、日本原子力研究所ラジオアイソトープ研修所、放射線医学総合研究所養成訓練部等の養成機関の高度化と養成人員の増加を図る必要があり、また、民間で行なっている講習会等も回数の増加が望まれる。

 放射線取扱施設は、障害防止のたてまえからその施設等に特別の配慮が必要とされている。

 放射線取扱施設が大げさであるという指摘が多いが、企業において、適切な施設を建設するよう配慮することが必要であろう。

 放射線利用事業所数は、昭和37年度末に367であったが、その後毎年約50事業所が増加し、40年度末には520になっており、また事業所において使用される放射線利用機器も上述のとおり増加し、一応順調な発展をしてきたとみられるが、以上に記した問題点が解決されれば、なお一層の利用発展が期待されると思われる。b 放射線を利用していない企業 最も指摘の多かったのは、1. 専門技術者が少ないこと。2. 放射性同位元素装備機器の価格が高いこと。3. 適当な指導機関がないことの3点であって、その他の問題の指摘は少なかった。

 これは、現在放射線を利用している企業とほぼ同じような傾向であるが、この場合、指導機関がないという指摘が多い。

 放射線の工業利用に関し、指導普及を行なう機関は、日本原子力研究所、大学及び国立研究機関を除くと、現在、大都市では、東京都立アイソトープ総合研究所、大阪府立放射線中央研究所等があるが、地方では殆んどないといってよい。

 しかし、中小企業への普及を考えた場合、公立試験研究機関を中心にして、指導普及機関の強化をはかることは放射線の利用普及には有効であろう。
(4)その他の事項
 その他の事項として、放射線を利用している企業に対しては、a. 国立研究機関に対し要望する研究テーマb. 放射性同位元素のサービス方法、専門技術者の養成、d.その他の項目の4項目について、また、放射線を現在利用していない企業に対しては、「その他」という項目で回答を求めた。各企業からの回答は統計表に示してあるが、これをまとめると、次のとおりである。

第3-16表 放射線利用企業における利用上の問題点
その1 放射性同位元素等について


その2 専門技術者について


その3 その他の事項について


その4 以上の項目の合計

a 国立研究機関に対し要望する研究テーマ
 国立研究機関に対する要望テーマとして、多かったのは、線源の開発、国産化と、放射線測定器等の開発、照射・放射線化学に関する研究等であった。

b 放射性同位元素のサービス方法
 種々の要望があるが、最も要望の多いのは、線源の借用希望と、放射性同位元の供給サービス機関を東京だけでなく、関西その他各地に設置してほしいという要望である。

 特に、短寿命放射性同位元素については、輸送の時間だけ地方利用者は不利になるという理由で、供給サービス機関の各地方への設置を要望する意見が多い。

c 専門技術者の養成
 専門技術者の養成を目的とした講習会の回数を多くし、また、地方でも行なってほしいという要望がこの項目では多い、しかし、専門技術者といっても要望の多いのは、初級程度のもの、または現場作業者に対する講習という程度のものもかなりある。

d その他
 その他としては、放射線の障害防止に関しての法令について要望が多い。

 要望の内容としては、放射性同位元素の使用、特に現場での使用、記帳、使用場所の変更等についての手続の簡略化、届出制度の拡大、主任者試験に関する要望、手続の窓口を増やすこと(都道府県への移管、関西地方工場地帯での窓口設置)等である。

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