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原子力開発利用長期計画(総論)


昭和42年4月13日
原子力委員会

総論

 Ⅰ 緒論

1 長期計画改訂の背景

 原子力はエネルギー供給の将来における有力な担い手となり、かつ、技術革新の進展に大きな役割を果すものであって、その開発利用をすすめることは科学技術水準の向上、産業構造の高度化と国民生活の福祉に大きく寄与するものである。

 原子力委員会は、このような観点から、わが国の原子力平和利用についての長期計画を策定して、その開発利用を効率的かつ自主的に推進してきた。

 前長期計画は昭和36年2月に策定され、この計画をもととして、開発段階における原子力発電の推進、これにともなう再処理工場の建設計画の具体化、原子力第1船建造計画の具体化、動力炉開発に必要な諸施策の整備、放射線利用の促進等、各分野における開発利用の促進がはかられてきた。

 その結果、わが国における原子力開発利用には著るしい進展がみられたが、他方、世界的に原子力開発利用に関する諸情勢も大きく変化しつつある。

 これらの前長期計画策定以後約6ヵ年間における情勢変化を概観すると、次の諸点があげられる。

(1)最近の海外における原子力発電の急速な進展、とくに米国における軽水炉の著るしい技術的進歩、それにともなう経済性の向上等により、わが国においても、原子力発電の経済性は、近い将来、重油専焼火力発電に十分匹敵しうると見こまれる情勢になってきた。

 この結果、将来著るしく増加することが見こまれるわが国のエネルギー需要に対処し、その供給を長期的かつ合理的に解決するため、原子力発電に対する期待が急速に高まっており、すでに、電気事業者によって計画されている原子力による発電規模は、昭和45年度までに約130万キロワットに達している。

 このような情勢を反映して、関係諸機関において、長期的エネルギー需給における原子力発電の位置づけの検討が行なわれた。

 これらによると、原子力発電の規模は、前長期計画における見とおしを大幅に超過するものとみられるにいたった。

 これらの情勢に対応して、わが国における原子力発電開発の見とおしと、それにともなう措置を再検討する必要が生じてきた。

(2)原子力委員会は、動力炉の開発について、昭和41年5月、「在来型炉の国産化に努めるとともに、高速増殖炉および新型転換炉の開発を国のプロジェクトとしてとりあげ、官民の総力をあげて、可能なかぎり、自主的にその開発を推進する」旨の基本方針を内定した。

 その後、この基本方針の実施に関する具体的計画の検討が行なわれ、その結果、これを長期計画の一環としておりこむ必要が生じてきた。

(3)原子力発電の進展にともない、国内において、核燃料サイクルを確立し、核燃料の安定供給とその有効利用をはかることがますます緊要なこととなってきた。

 このため、核燃料加工事業の育成、今後大量に生ずる使用済燃料の再処理、プルトニウムの利用等、核燃料問題について、より総合的かつ具体的な方策の確立が要求される情勢になってきた。

(4)核燃料については、従来、国有の方針をとってきたが、ようやく原子力発電が実用化するこの時期において、内外の管理体制の整備、安全確保に関する技術の進歩等により、核燃料を民有化し、民間企業に、その責任において、核燃料の購入、使用等を行なわせることが、原子力発電の推進にあたって、より有効であると考えられるにいたった。

 このような考え方のもとに、さきに原子力委員会は核燃料の民有化の方針を決定しているが、政府としても、なお、核燃料の安定供給の確保、核燃料サイクルの確立、平和利用に関する国際約束の履行、安全規制等において果すべき重要な役割があり、これらに関する施策を具体的にすすめる必要性が高まってきた。

(5)原子力船については、その将来性に着目して、世界の主要海運造船国は実用化をめざして研究開発をすすめている。

 わが国においても、このような世界の趨勢に遅れることなく、原子力船建造に関する技術の開発をはかるため、原子力第1船の建造計画をすすめてきた。

 今後、その建造、運航にともなう諸問題を解決するとともに、最近における海外の動向を勘案しつつ、実用船の建造およびそれにともなう研究開発計画の方向と目標を明らかにする必要が生じてきた。

(6)放射線の利用については、利用技術の普及と高度化にともなって、放射線化学、食品照射等の新しい分野における具体的な研究開発をはじめ、放射線利用の一層の発展を促進する必要性が高くなってきた。

(7)核融合の研究は、従来基礎研究の初期的段階にとどまっていたが、この分野においても、世界的な研究開発の進展を考慮して、新たな観点から研究計画を検討する必要が生じてきた。

(8)原子力開発利用の進展にともない、これに即応して、施設および周辺環境における安全上の諸基準の整備、放射線障害防止対策、放射性廃棄物の処理処分等、安全性確保に関する施策をすすめる重要性がさらに高まってきた。

(9)わが国における原子力開発利用の本格化に対応して、核燃料の確保等のための国際協定の改訂、締結、動力炉の開発をはじめとする研究開発分野の効率的遂行に関する国際的技術協力の推進、放射性廃棄物の処分等における安全性確保に必要な国際的諸基準の確立の促進など、国際協力をさらに強化する必要が生じてきた。

(10)原子力開発利用の全般にわたる人材の養成、基礎研究の充実、産業の育成、原子力知識の啓蒙普及等の問題についても、原子力開発利用の各分野における情勢の進展に即応して、再検討のうえ、適切な施策を推進することが必要となってきた。

 以上のように、わが国の原子力開発利用は漸次実用化の段階に入ってきており、このような情勢の進展に対処して、原子力開発利用長期計画を改訂し、長期的な原子力開発利用の方向と方策を明らかにすることが必要であると考えられる。

2 新長期計画の構成

 新しい原子力開発利用長期計画においては、昭和60年度までの約20年間に及ぶ原子力平和利用の諸分野における将来の姿を展望しつつ、とくに、昭和42年度からはじまる約10年間について、各分野における原子力開発利用の推進方策および重点施策を明らかにすることとする。

 本長期計画は、総論と各論とに分け、総論においては、原子力平和利用をすすめるにあたっての基本的な考え方および各分野における開発利用の基本的なすすめ方について述べ、さらに、各分野に共通する研究開発の一般方針と各界の役割についての考え方を示し、その他の重要施策についても基本的な態度と方針を述べることとする。

 各論においては、原子力発電、原子炉開発、核燃料、原子力船、放射線利用、核融合、安全対策、基礎研究、人材養成および科学技術情報の交流について解決すべき主要な問題点と具体的な施策の方向を示すこととする。

 なお、後述するごとく、原子燃料公社は、新しい動力炉の開発のために新設される動力炉・核燃料開発事業団にひきつがれることとなるので、本長期計画における「原子燃料公社」は、同事業団設立以降は、「動力炉・核燃料開発事業団」と読み替えるものとする。

3 原子力開発利用の基本的な考え方

 昭和30年に原子力基本法が制定され、わが国の原子力開発利用が本格的に着手されて以来すでに10年余を経過した今日、各界の努力により漸次実用化がすすめられ、国民生活と産業経済への結びつきもようやく密接なものとなりつつある。

 わが国の原子力開発利用をすすめるにあたっての基本的な考え方は、その理念においては当初から一貫しており、何ら変るものではないが、新たに長期計画を策定するに際し、前述のごとき情勢の進展を考慮して、ここに基本となる考え方を示せば、次のとおりである。

 第一に、わが国における原子力開発利用は、平和の目的に徹してこれを推進すべきことである。

 原子力平和利用の理念は、原子力基本法の制定以来、一貫して維持してきたところであるが、今後とも、これを原子力開発利用の基本理念として堅持する。

 第二に、原子力開発利用は、これを自主的に行なうべきことである。

 わが国の原子力開発利用は、諸外国に比し遅れて着手された事情もあり、今日までその技術基盤を確立するため、海外からの技術導入等により、その推進をはかってきた。

 しかしながら、今後とも技術導入のみに安易に頼ることは、長期的にみた場合、わが国原子力開発利用全般における自主性を損うおそれがあり、加えて原子力の開発が広い分野における科学技術水準の向上と産業基盤の強化に資し、産業構造高度化の支柱となることを考えれば、可能な限り自主的にこれを推進することが必要である。

 第三に、原子力開発利用は、総合的かつ長期的観点から、これを計画的に推進すべきことである。

 原子力開発利用の分野は広汎多岐にわたっており、その開発は、規模が大きく、多額の資金と多数の人材を要するのみならず、その成果が現われるには長い年月を要するものである。

 また、実用化へ移行する段階にある現時点の施策は、長期にわたる原子力開発利用のあり方に大きな影響を及ぼすことになる。

 このような観点から、わが国の原子力開発利用は、長期的な方向づけを明確化するとともに、限られた資金と人材を効率的に活用するため、総合的な見地から計画的にすすめることが必要である。

 第四に、原子力開発利用は、関係各界が協力してひろく国民経済的視野のもとに、長期的な国家的利益を確保するとの見地からこれを推進すべきことである。

 すでに述べたごとく、原子力の開発利用がますます実用化の段階に入りつつあることから、今後における原子力開発利用を自主的かつ計画的にすすめるうえに、民間企業の果すべき役割が一層高まりつつあることが明らかである。

 同時に、原子力開発利用は、研究開発に多額の資金と多数の人材を要すること、国際的関連性が高いこと、安全確保の必要性があることなどから、政府の果すべき役割はもとよりきわめて大きい。

 また、原子力の研究開発は末知の分野が多い先駆的な科学技術に関するものであるため、今後とも学界のひろい分野における研究活動の成果が大いに期待されるところである。

 原子力開発利用があらゆる経済活動の基礎として長期的にはわが国産業経済全般のあり方に大きな影響を及ぼすものであり、しかも、現時点が原子力開発利用の産業化、実用化への移行段階にあることにかんがみ、今後の原子力の開発利用にあたっては、国民全体の利益を重視するとの見地にたち、関係各界は、その役割の重大性を自覚し、協力してこれを推進すべきである。

 Ⅱ 原子力開発利用のすすめ方

1 原子力発電、動力炉開発および核燃料

 わが国経済の正常な発展を維持するには、低廉で安定したエネルギー供給の確保をはかることが不可欠の条件である。

 原子力発電は、経済性向上の見とおしがあること、外貨負担および供給の安定性の面から石油に比して有利であること、燃料の輸送および備蓄が容易であることなどの理由から、低廉な準国内エネルギー源と考えられ、今後、わが国経済の成長を支える大量のエネルギー供給の有力な担い手となるものとしてその早期実用化が要請されている。

 原子力発展の経済性については、昭和45年頃に建設を開始するものについては、その発電コストが重油専焼火力発電と同程度となり、それ以降もひきつづき技術の進歩、原子力発電所単基容量の増大、原子炉機器および燃料の生産規模の拡大等により一層低下し、重油専焼火力発電に比し、はるかに有利となっていくものと考えられる。

 このような経済性の見とおしと、原子力発電の将来におけるエネルギー供給上の重要な役割からすれば、新規電源開発量のなかにしめる原子力発電の割合は可能な限り大きいことが望ましいが、最適な電源の組合わせ等をも考慮すると、昭和60年度におけるその発電規模を3,000万キロワットないし4,000万キロワットと見こむことが適当と考える。

 また、この見とおしから、電気事業者の計画を勘案し、昭和50年度における原子力発電の規模を約600万キロワットと見こむことは、妥当なものと考える。

 これらの見とおしについては、原子力発電に関する技術、経済性等の諸条件が予想以上に好転することも考えられるので、さらに拡大することも期待される。

 なお、昭和60年度以降においては、原子力発電が電源開発の主力となるものと考えられる。

 原子力発電の開発をすすめるにあたっては、このような見とおしに対応して、わが国のおかれた環境に即し、そのエネルギー源としての有利性を最高限に生かすような形で、実用化をはかることが必要である。

 このような観点から、原子力発電の適切な推進をはかるため、在来型炉の国産化、高速増殖炉および新型転換炉の開発ならびに核燃料の安定供給と有効利用をはかるための核燃料の確保と国内における核燃料サイクルの確立につとめなければならない。

 当分の間、わが国の原子力発電は、現在、経済的技術的に実証されつつある軽水炉が、その主流をしめるものと考えられるが、その他の在来型炉についても、十分な実証性が得られるならば、炉型の多様化をはかる等の観点から、わが国において実用化されることが期待される。

 これら在来型炉の建設に際しては、原子力発電所の建設および運転の経験の蓄積につとめるとともに早期に原子力産業基盤の確立をはかる等の観点からその国産化を促進することが望ましい。

 国産化にあたっては、原子炉製造業者が技術導入等によりすすめることを期待し、その促進のため、電気事業者の積極的な協力が望まれる。

 また、政府としては、安全性および核燃料に関する研究開発を推進するとともに、資金、税制上の措置等を講ずる必要がある。

 しかしながら、わが国の原子力発電が軽水炉のみに長期にわたり依存することは、軽水炉が燃料の消費量が多く、しかも、その燃料である濃縮ウランは当面、米国一国にその供給を依存せざるをえない点等を考慮すれば、将来におけるわが国の原子力開発利用に関する自主性の確保ならびに核燃料の安定供給およびその有効利用をはかるうえに、必らずしも望ましいことではない。

 原子力発電の推進にあたっては、資源に乏しいわが国としては、今後予想される核燃料所要量の増加にかんがみ、核燃料の安定供給と有効利用をはかり原子力発電の有利性を最高限に発揮するうえに適切な動力炉を自主的に開発することは、エネルギー政策における重要課題である。

 しかも、動力炉の自主的な開発は、産業基盤の強化と科学技術水準の向上に大きな効果が期待されるものであり、産業構造高度化の支柱の一つとなるものである。

 このため、高速増殖炉および新型転換炉をわが国において自主的に開発することとし、これを「国のプロジェクト」として、強力に推進することとする。

 高速増殖炉は、核燃料問題を基本的に解決する炉型であり、将来の原子力発電の主流となるべきものであるので、その実用化のための研究開発を強力にすすめる必要がある。

 わが国で開発する炉型は、世界の開発状況からみて、現段階において最も有望とみられるナトリウム冷却型の高速増殖炉を開発の目標とし、昭和40年代のなかばまでに実験炉の建設に着手し、昭和40年代後半に原型炉の建設に着手することを目途とする。

 新型転換炉は、軽水炉に比較して核燃料の消費量が少なく、その有効利用に資するほか、核燃料の多様化に寄与するものであり、かつ、高速増殖炉に比較してその経済性が早期に達成される可能性を有しており、その開発はわが国の核燃料政策上も大きな意義を有する。

 したがって、昭和50年代の前半までに実用化することを目途にその開発をすすめることとし、このため、昭和40年代の前半に原型炉の建設に着手するものとする。

 開発の対象とする炉型は、わが国の技術と経験とを活用し、早期実用化の要請にも適合しうるとの観点から、重水減速沸騰軽水冷却型炉をとりあげることとする。

 開発のすすめ方については、さしあたり微濃縮ウランまたは天然ウランにプルトニウムを添加したものを初装荷燃料に使用し、その後は天然ウランの供給のみにより運転を維持できるものを開発する。

 さらに、初装荷燃料から天然ウランのみを用い、かつ、経済性のすぐれたものにこれを改良するため研究開発を行なうこととする。この新型転換炉は、高速増殖炉が実用化されたときにおいても長期間にわたって併存し、その初装荷燃料として必要なプルトニウムを供給する役割をも果すことが考えられる。

 このような新しい動力炉の開発は、わが国としては、かつて経験のない大規模な開発計画であり、その実施にあたっては、長期にわたり、多額の資金と多数の人材を要するものであるので、政府、学界、産業界等各界の総力をあげてこれを推進する必要がある。

 この観点から、開発の責任体制を一元化するため、特殊法人として、動力炉・核燃料開発事業団を設立し、その推進をはかるものとする。

 なお、同事業団の設立にあたっては、原子燃料公社を改組し、その業務をひきつぐことにする。

 このような体制のもとに、新しい動力炉の開発が成功したのちには、これらの動力炉が電気事業者により積極的に実用化されることを期待するが、このため、必要により助成等の措置を講ずるものとする。

 核燃料については、原子力発電の推進をはかるに際して、これにともなう所要量は、今後建設される炉型いかんにもよるが、昭和60年度までに天然ウラン精鉱での9万トン程度に達すると見こまれる。

 この核燃料の需要の増大を背景として、民間企業の責任にもとづく自主的な活動を促進するため、さきに核燃料の民有化の方針を決定したが、原子力発電の推進における核燃料政策の重要性、国際規制物資としての特殊性にかんがみ、民有化ののちにおいても、政府は、その適切な管理のもとに核燃料の平和目的への利用を保管するとともに、核燃料の低廉かつ安定な供給を確保し、さらに、国内においてその有効利用をはかるための施策を講ずる必要がある。

 また、核燃料の供給に関しては、当面、軽水炉が原子力発電の中心となると予想されるので、とくに濃縮ウランの確保が重要であり、このため、国際協定の改訂等を行ない、その供給を確保する必要がある。

 他方、前述のごとき厖大な核燃料所要量の増加と世界的なウラン資源の偏在ならびに米国政府の濃縮ウランの供給政策が委託濃縮制度に変ったことをも考慮し、天然ウランの低廉かつ安定な供給の確保が重要な課題となってきた。

 これらの課題にこたえられるためには、核燃料資源に乏しいわが国においては、さらに国内資源の把握につとめることはいうまでもないが、海外ウラン資源の低廉かつ安定な供給を確保することがとくに必要である。

 ウラン資源の確保にあたっては、需要者が必要のつど購入する方法と長期購入契約、開発輸入方式などを適宜組み合わせた措置を講ずる必要があるが、長期にわたってその安定供給をはかる見地からは、ウラン資源の相当程度を開発輸入方式によって確保していくことが望ましい。

 また、国内において核燃料の安定供給と有効利用をはかるため、すでに述べた新型転換炉および高速増殖炉の早期実用化を促進するとともに、核燃料加工事業の育成、国内再処理体制の整備、使用済燃料から取り出されるプルトニウムの核燃料としての利用の促進等の措置を講じ、わが国に達した核燃料サイクルの確立をはかる必要がある。

 核燃料加工事業については、わが国で使用する核燃料を早期にすべて国内において加工しうるような体制を整えるよう、その育成をはかる必要がある。

 使用済燃料の再処理については、これを国内において行なうこととし、当分の間は、原子燃料公社の再処理工場において行なうものとするが、将来は民間企業において再処理事業が行なわれることが期待される。

 また、新しい再処理方法を開発するために必要な研究開発を行なう。

 プルトニウムは高速増殖炉に使用することが最も望ましいが、これが実用化されるまでには長期間を必要とするので、それまでの間は在来型炉および新型転換炉など熱中性子炉において使用されることが期待される。

 このため、昭和50年頃までに熱中性子炉への利用の技術をを確立して、その有効利用をはかる。

 わが国の原子力発電が、当面米国だけにその供給源が限られる濃縮ウランのみに依存することは、核燃料の安定供給の観点から必らずしも望ましいことではないので、新しい動力炉の開発を推進する必要があることは前に述べたとおりである。

 しかしながら、新しい動力炉が実用化されても、なお、相当量の濃縮ウランが必要であると見こまれる、したがって、将来、濃縮ウランの国内生産を行なうことも考えられるので、これに備えて必要な研究開発を行なうものとする。

 このため、わが国で採用すべきウラン濃縮方式を定めるのに必要な各方式の技術的可能性と経済性の評価に関する資料を昭和50年頃までに得ることを目途として、従来から行なっている遠心分離法の研究開発を継続するほか、気体拡散法などについても調査研究を行なう。

2 原子力船

 最近における世界海運の趨勢をみると、世界経済の発展にともなって増大する国際貿易を背景として、船腹量の増大および輸送構造の近代化、合理化がすすめられ、とくに船舶の高速化、巨大化の傾向はますます顕著なものとなっている。

 この傾向にこたえる高出力推進機関として、原子力推進機関がその有利性を発揮するものと期待され、このため、世界の主要海運造船国においては、国が主体となって原子力船の実用化に関する研究開発をすすめている。

 すなわち、米国およびソ連においては、軍事利用の開発をすすめるとともに、すでに昭和30年代前半に実験船的なものとして貨物船サバンナ号、砕氷船レーニン号をそれぞれ建造運航している。

 また、ドイツにおいては、数年前から、鉱石運搬にも利用できる実験船オット・ハーン号の建造に着手している。

 さらに、英国、フランス、イタリア等の諸国においても、軍事利用を中心としてではあるが、それぞれ開発がすすめられている。

 とくに、米国において原子力高速コンテナー船を建造し、これを極東に配船する計画の検討がすすめられていることは、わが国海軍、造船業の将来に重大な影響を及ぼす可能性があるものとして、注目されるところである。

 また、北欧諸国においても、原子力船建造計画の検討が行なわれており、これらの状況と今後の舶用炉の技術進歩とを考察すると、昭和50年代には、世界的に相当数の原子力胎が実用化されるものと予想される。

 わが国においても、原子力船における国際的優位を確保するため、原子力第1船として海洋観測とともに乗員の訓練にも利用しうる実験船を可能な限り国内技術によって産造することとし、このため、政府は、昭和38年度に日本原子力船開発事業団を設立し、さらに、「原子力第1船開発基本計画」を策定し、これにもとづき、同事業団により、その推進をはかってきたところである。

 しかしながら、世界的な情勢の進展と、その後における諸般の事情の変化にかんがみ、当初の計画を若干変更し、原子力第1船は、特殊貨物等の運搬に供することができるものとして、昭和46年度完成を目途に、昭和42年度から建造に着手することとする。

 この原子力第1船の建造により、船体および舶用炉を一体とした原子力船建造に関するわが国の技術体系が早期に確立されるものと期待される。

 原子力第1船に搭載する舶用炉は、なおその経済性が十分でなく、さらにその向上をはかる必要があるが、前述のごとき諸外国の趨勢、とくに今後における舶用炉の経済性の向上を想定すると、原子力船は、わが国においても、10年後には、30ノットの高速コンテナー船、50万トンの巨大油送船の場合には、在来船に比較してこれと経済的競合しうるものと考えられる。

 したがって、わが国において、原子力船が早期に実用化されるためには、さらに経済性の高い舶用炉が必要であり、今後、原子力第1船の建造運航の成果をも生かし、舶用炉の改良研究を重点的に行なう必要がある。

 これらの研究開発などによって、わが国においても、前述のごとく、10年後には原子力船が実用化される見こみであり、昭和50年代には原子力高速コンテナー船をはじめ、原子力巨大油送船などが、相当数、建造されるものと考えられる。

 したがって原子力第2船の建造に着手する時期としては、昭和40年代後半を目途とすることが適当であり、これにより、原子力船の実用化を積極的に推進することが必要であると考える。

 これらの実用原子力船の建造運航にあたっては、民間企業が中心となることを期待するが、ある程度連続建造の見とおしが得られるまでは、建造費がいく分割高となるものと考えられるので、政府は適切な助成策を講ずる必要がある。

 さらに、今後一層の高速化への要請にこたえるためには、潜水船が有利であり、推進機関が酸素を必要としない等の特色を生かし、原子力潜水船が開発されることも考えられるので、このための調査、研究を行なうものとする。

3 放射線利用

 放射線利用については、わが国の原子力開発利用のなかでもはやくから着手され、今日では、基礎科学の研究分野をはじめ、医学、農業、工業等の広汎な分野において、トレーサー利用、放射線の照射の利用、計測における利用等、多面的様相において行なわれている。

 とくに最近では、短寿命核種および標識化合物の国産化がすすめられる一方、放射線測定器、粒子加速器などの関連機器の発展とも相まって、大量照射の技術や放射化分析の技術が確立されつつあり、利用分野の一層の拡大が期待されている。

 このような情勢のもとにおいて、とくに放射線利用の効果が大きいと期待される分野について、以下に述べる方針のもとに、関係各機関および民間企業の協力のもとに、研究開発をすすめその利用の普及をはかることとする。

 なお、必要な関連機器についても、研究開発を促進する。
(1)医学における放射線利用は、がんなどの悪性腫瘍の治療、各種疾病の診断等、基礎研究分野のみならず臨床分野にも普及しており、これを促進することは国民福祉の向上と密接な関係があるので、大学における研究の一層の充実に期待するとともに、ひきつづき、国立試験研究機関および国立医療機関が中心となり、基礎から応用にわたる研究開発を推進する。
(2)農業における放射線利用は、その性格から国が中心となってすすめるべき分野であるため、大学における基礎研究の充実を期待するとともに、国立試験研究機関において、基礎から応用にわたる各種の研究をすすめることとするが、とくに放射線による品種改良、農業薬剤、肥料等の効率的利用に関する研究を推進する。
(3)工業における放射線利用は、すでに、相当程度、民間企業において行なわれているが、今後ますます広汎に発展する可能性を有しているので、大学における基礎研究の充実を期待するとともに、日本原子力研究所、国立試験研究機関、民間企業において行なう研究を促進する。

 また、利用技術の普及をはかる。

 さらに、アイソトープ電池などの新しい利用の研究開発をすすめる。

(4)今後実用化が期待されている有望な分野としての放射線化学に関しては、その開発を関係各機関および民間企業の協力のもとに重点的な推進する。
(5)食品照射の実用化は、コールドチェーンの普及と相まって、食品の輸送や貯蔵中の腐敗等による損失の防止と流通の安定化に寄与するところが大きいと期待されているので、その早期実用化を目途に、照射食品の食品としての適性および照射技術等に関する研究開発を推進する。

 前述のごとく、放射線利用の一層の拡大普及にともなって、アイソトープの需要は今後とも増大するものと予想される。このような情勢を背景として、アイソトープの国産化を促進するとともに、その頒布を円滑にするための体制を整備する。
4 核融合

 核融合が実用化されたあかつきには、ほとんど無尽蔵のエネルギーの供給が可能となるものであり、将来におけるわが国のエネルギー問題を究極的に解決することが期待される。

 接融合の研究については、米国、英国、ドイツ、フランス、ソ連等の諸国においてプラズマ物理の分野にとどまることなく、核融合を明確な目的とする研究開発を強力にするめており、プラズマの挙動の解明等に大きな成果をあげ、新たな発展段階に入りつつある。

 これらの諸国においては、核融合反応を持続しうる高温プラズマ発生装置である零出力核融合炉の研究開発にその重点を指向するようになった。

 わが国における核敵合に関する研究は、大学を中心として、プラズマの体系的研究の分野では成果を収めてきているが、核融合を明確な目的とする研究開発はほとんど行なわれていない現状である。

 したがって、海外における新しい発展段階に伍して、わが国の研究をすすめるためには、プラズマ物理に関する基礎的な研究の充実をはかるとともに、核融合を明確な目的とする総合的な研究開発を順次計画的に推進すべきであり、このため、わが国の状況に適した装置の型式、研究開発の体制等、その推進方策を早急に検討する必要がある。

 この研究開発は、可能な限り早期に着手することを目途に、必要な準備を行なうものとする。

5 安全対策

 原子力開発利用における安全対策については、法令および安全基準の整備ならびに安全技術の開発、改善等により、万全の安全確保がはかられてきたところであるが、原子力発電の推進、放射線利用の拡大、原子力船の運航等原子力開発利用の進展にともない、さらに実証的な安全研究を強力にすすめるとともに、より具体的、合理的な安全基準の改善整備をはかる等、原子力の実用化の進展に対応した安全確保のための措置を講ずる必要がある。

 安全研究をすすめるにあたっては、とくに実証的研究、海洋の放射能汚染の防止に関する研究等を関係各機関、民間企業等が協力して、計画的に実施するための体制の確立をはかる。

 また、実証的な研究に必要な大規模試験施設の整備を検討する。

 安全対策は、その性格にかんがみ、政府の施策を中心として適切な措置を講ずることが必要である。
(1)原子力施設および原子力船の安全対策としては、その安全評価に必要な実証的試験研究の推進をはかるとともに、より合理的な立地基準、安全基準を整備、改訂することとし、それに必要な研究をすすめる。

 とくに、将来においては大規模な原子力施設を人口集中地帯へ接近して設置し、または、内陸部、軟弱地盤地帯等へ設置する必要性が生ずることも考えられるので、これらの研究開発の意義はきわめて大きいと考える。

(2)放射線防護については、被曝線量の管理等をより体系的に実施するための体制および放射性廃棄物の処分に関する諸基準等の合理的な防護基準の整備をはかる。

(3)今後、原子力施設、なかんずく原子力発電所および再処理施設等の建設、運転の増加にともない、使用済燃料などの輸送および放射性廃棄物の処理処分を行なうにあたっては、国民生活環境への影響を少なくするような方法で実施すべきである。

 とくに、再処理にともなう廃棄物の海洋への放出にあたっては、海洋の放射能汚染の防止に関し、総合的な調査研究を行なって、安全確保の措置を講ずるものとする。

 放射性廃棄物の海洋処分については、国際的関連性があることにかんがみ、処分後の環境のモニタリングを含めて、国際的な協力のもとにその管理体制の整備を検討する。
(4)大量の放射性物質を取り扱う原子力施設は、厳重な法的規制のもとにあって、その周辺環境の安全確保については万全が期せられているので、万一施設に事故が発生したとしても、周辺の公衆に災害が及ぶことはまず考えられない。

 しかし、いかなる場合にも対処できるよう必要な防災対策を樹立しておくことは、きわめて重要である。

 したがって、災害の予防および災害発生時における応急対策等については、災害対策基本法の諸規定にもとづいて、これを総合的から計画的に実施しうる体制を整備する必要がある。

(5)核爆発実験による放射性降下物等による環境の汚染については、放射能の人体に及ぼす影響にかんがみ、十分調査のうえ適切な措置が講じられるべきである。

 このような観点から、環境、食品、人体等の放射能水準に関する調査研究が一元的な体制のもとに実施されてきた。

 今後もひきつづき、これを強力に実施する。
 Ⅲ 研究開発の基本方針

1 自主開発の推進

 わが国における原子力の研究開発にあたっては、従来とも、日本原子力研究所をはじめとする各種研究開発機関等の設立をはかり、自主的な開発につとめてきたところである。

 しかしながら、わが国の原子力開発利用は、先進諸国に比して遅れて着手された事情もあって、とくに実用化のための技術は著しく立遅れており、このため、在来型炉の建設のごとく、主として先進諸国からの導入技術に依存せざるをえない状況にある。

 このような外国技術依存の状況が今後ともつづくならば、長期的にはわが国の原子力開発利用の自主性を損うおそれがある。

 このような情況に対処して、わが国独自の技術を確立し、原子力産業の自主性を確保することが必要である。

 また、原子力の研究開発は、とくにそれが自主的に行なわれるならば、全般的な科学技術水準の向上に先駆的な役割を果すものとして、産業基盤の強化と産業構造の高度化に資し、国民経済の成長に寄与するものである。

 したがって、時機を失することなく、一層強力かつ積極的に、わが国独自の技術の自主的な研究開発を推進する必要がある。

2 基礎研究の充実

 基礎研究は、一面において、新しい技術開発の芽生えとなり、他面、応用研究から開発へと研究を進展させる場合、創意工夫を注ぎこむ源泉となる。

 したがって、基礎研究をあらゆる研究開発活動の基盤となるものである。

 また、原子力開発利用の分野は新しい科学技術に関するものであるため、基礎研究を一層重視すべきである。

 このような観点から、新しい動力炉の開発をはじめとする原子力の研究開発を自主的にすすめるにあたっては、幅広い基礎研究の一層の充実が不可決の要件である。

3 研究開発のすすめ方

 わが国の原子力研究開発は、国情に即した原子力利用の達成のため、長期的総合的視野のもとに、基礎研究から応用研究にわたる各分野で調和のとれた研究開発を有効かつ重点的にすすめる必要がある。

 また、原子力の研究開発は、科学技術の広い分野にわたっており、その進展に先駆的な役割を果すとともに、産業経済に大きい影響を及ぼすものであること、さらに、その推進には、長期にわたり多額の研究投資を必要とすることなどの理由から、国の果すべき役割はきわめて大きく、とくに十分な国の資金を確保する必要がある。

 このため、広汎な原子力開発利用の各分野における多くの研究開発課題のうち、とくに重要性と緊急性が高く、国として重点的かつ組織的にすすめる必要があるものについては、「原子力特定総合研究」あるいは「原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)」として、明確なる体制のもとに、各界の協力を得て、以下に述べる方針のもとにその研究開発を推進するものとする。
(1)原子力特定総合研究
 関連する分野が広く、これらの分野を総合してすすめることにより、大きい効果が期待される研究課題、または、わが国の原子力開発利用を一段と進展せしめうる開発課題については、これを原子力特定総合研究として、政府の調整または計画のもとに関係各機関あるいは民間企業が協力し、分担を明確にしてその研究開発を推進するものとする。

 今後、原子力特定総合研究として実施するものとしては、以下が考えられる。

 熱中性子炉用プルトニウム燃料の研究開発、国産燃料による動力試験炉の出力上昇計画、舶用炉の改良研究、食品照射の実用化研究、核融合に関する研究開発、原子力施設の安全に関する実証的研究、海洋の放射能汚染の防止に関する研究。

(2)原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)
 原子力開発利用における重要な開発課題であって、原子力特定総合研究に比較してさらに大規模の資金と多方面の協力ならびに長期間の研究開発を必要とし、かつ、開発により、将来、国全体として多大の効果が期待される課題については、これを国のプロジェクトとして、国が開発の目標および期間を明確に定め、体制を整備し、広汎な分野にわたる研究開発を系統的、計画的、かつ、総合的に行ない、関係各機関の適切な分担と協力によって、効率的にその推進をはかるものとする。

 さしあたり、国のプロジェクトは、高速増殖炉および新型転換炉の開発計画および原子力第1船の建造計画とする。
4 各研究開発機関の役割

 上に述べた観点から、各研究開発機関の役割は、次のようなあり方が適当と考える。

 大学においては、研究者の創意工夫を生かした自由にして広汎な基礎研究を実施し、研究開発の基礎を広め、かつ、深化させることを期待する。

 とくに、可能な限り、動力炉開発計画などに必要な基礎研究が行なわれることを期待する。

 日本原子力研究所は、わが国の原子力研究活動の中心的役割を果すべきものであり。

 また、原子力特定総合研究および国のプロジェクト等において、重要な役割を果すことが期待される。

 すなわち、基礎研究分野においては、大学、国立試験研究機関等との交流を通じてその基盤を固め、応用研究分野においては、基礎研究との連けいをはかりつつ、開発目標を明確にした研究を行ない、さらにすすんで実用化のための研究開発を行なう。

 また、大型共同施設を整備し、その有効な利用をはかる。

 新たに設立される動力炉・核燃料開発事業団は、高速増殖炉および新型転換炉に関し、必要な研究開発を推進するとともに、使用済燃料の再処理、核燃料の生産、ウラン資源の探鉱等の事業に必要な研究開発をもあわせ行なう。

 日本原子力船開発事業団は、原子力第1船の建造運航を行なうとともに、これに必要な調査研究を行なう。

 理化学研究所は、原子力開発利用の基礎的な分野において、その特色を生かした研究開発を行なう。

 科学技術庁放射線医学総合研究所は、放射線医学に関する基礎研究をすすめるとともに、放射線診断治療および、とくに、放射線障害防止の研究を行なう。

 その他の国公立試験研究機関は、それぞれの機関の特色と地域性を生かし、基礎ないし応用研究を行なって、わが国における自主開発に資する。

5 民間企業への期待

 実用段階に達した技術の実証と企業化およびその改善に関する研究開発は、民間企業において行なわれることを期待する。

 また、民間企業は、国のプロジェクトおよび原子力特定総合研究に対して、積極的に参加し、その成功のために協力するとともに、自己の技術基盤の確立と向上をはかることが期待される。

 Ⅳ 原子力産業の育成、その他の重要施策

1 原子力産業の育成

 わが国の原子力開発利用が実用化の段階に入りつつあることは、すでに述べたとおりである。

 このような現状にかんがみ、原子力開発利用をすすめるにあたっては、原子力産業の果すべき役割がますます大きい。

 政府は、従来とも、関係各機関における研究開発の促進、その成果の民間企業への開放等により、民間企業の技術的能力を向上せしめるとともに、民間企業がみずからの創意と責任において行なうすぐれた研究開発に対しては、補助金等による助成を通じ、わが国原子力産業の育成をはかってきた。

 また、民間企業においても、技術導入等により積極的な努力が重ねられ、この結果、世界的な原子力開発利用技術の進歩と相まって、わが国の原子力産業の基盤はようやく固まりつつある。

 しかしながら、わが国の原子力産業は、軍需等を背景に厖大な研究開発を実施し、原子力発電所の建設等について、多くの経験を有している欧米の原子力産業に比べると、いまだその産業基盤は弱体であるので、今後とも、過当競争の悪影響を生じないよう考慮しつつ、その育成をはかる必要がある。

 このため、政府は「原子力開発利用のすすめ方」の項において述べた諸施策を強力にすすめ原子力産業の育成をはかる。

 また、民間企業の行なう研究に対し委託費、補助金等の確保および原子力開発機関等の行なう発注等に際し適正な予算措置を講ずる。

 さらに、必要に応じ、その育成のための資金、税制上の優遇措置等を講ずるものとする。

2 国際協力の促進

 原子力開発利用の分野における国際協力については、まず、米国をはじめとする先進諸国との協力協定の締結等により、核燃料、原子炉施設、技術情報等の入手をはかり、これら諸国の技術を消化吸収し、わが国における原子力開発利用の促進をはかってきた。

 また、わが国は、原子力平和利用を国際的な観点にたってすすめるため、国際原子力機関など原子力関係国際機関に対しても積極的に参加し、または、これら各機関の活動に協力してきた。

 わが国の原子力開発利用が実用化の段階に到達しつつある今日、一方において、原子力発電の進展にともなう大量の核燃料の入手等を円滑に行なう必要が生じてきている。

 他方、動力炉の開発をはじめとする研究開発の分野において、各国の間で大型共同研究開発計画等が積極的にすすめられており、わが国の研究開発の効率的な推進をはかるためには、このような技術協力を促進する必要が高まってきている。

 さらに、平和利用の保障の面で、国際原子力機関の果す役割もますます増大している。

 このような情勢にかんがみ、今後とも、これら先進諸国との二国間および国際機関を通じての協力をそれぞれの特色を活用して推進する。

 とくに、放射性廃棄物の処分、原子力船の運航等に関しては、たんに一国内の問題にとどまらず国際的にも関連性が高いので、各国共通の安全性に関する国際的な諸基準の確立および国際条約の締結などを、国際機関の活動に協力しつつ、積極的に推進する。

 以上のほか、わが国の国際的地位にもかんがみ、国際原子力機関等の行なう地域活動への協力などにより、主として東南アジア地域の各国に対し、技術援助を行ない、これら地域の経済開発等に寄与することとする。

3.人材養成の充実

 わが国の原子力開発利用を先進諸国に伍して自主的にすすめるためには、それぞれの分野においてすぐれた科学技術者を数多く養成することがきわめて重要な課題である。

 このため、最も重要な役割を果たす大学においては、原子力関係および関連する講座、学科等の増設、増員をはかるとともに、教育、研究施設の大幅な充実が必要である。

 また、日本原子力研究所、放射線医学総合研究所等の養成訓練機関においても、各機関の特徴を生かし、大学卒業後の再教育、あるいは高度の養成訓練を行なうことを目標に、教科課程の拡充と施設の充実をはかり、組織的、体系的な養成訓練を行なう必要がある。

 これらの施策のほか、研究機関の施設の充実、原子力関係科学技術者の待遇改善、海外留学生制度の活用等を積極的に行ない、多数のすぐれた人材が原子力開発利用の分野において活躍しうる環境を整備する必要がある。

4.科学技術情報交読の促進および原子力知識の普及

 最近における内外原子力関係科学技術情報量の著しい増加傾向にかんがみ、その円滑な流通と多面的な利用をはかることが、開発利用を効率的にすすめるうえにきわめて重要である。

 したがって、原子力に関する内外の情報の適切な収集と機械化等による迅速な処理をはかる必要がある。

 また、海外との情報交流について、国際協力の必要性が強く認められるようになってきている。

 これらの事情から、わが国においても、関係する各機関の密接な連けいのもとに、国際的な情報活動にも協力するとともに、原子力に関する情報を専門的に取扱う機能の強化が必要である。

 また、原子力開発利用が各方面にわたって進展しつつある現状にかんがみ、広く国民全般に原子力に関する正しい知識の普及をはかる。
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