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昭和42年度 原子力開発利用基本計画


昭和42年3月28日
原子力委員会決定

Ⅰ 基本方針

 わが国における原子力の開発利用は、着手以来、海外における研究開発の成果を吸収しつつ、その計画的な推進がはかられてきた。

 その結果、わが国における原子力開発利用は実用化の見通しがより明確になるとともに、発電炉、原子力船等の技術を自主的に関発すべき時期に至った。

 このような情勢の進展を考慮して、原子力委員会は、近く、昭和36年2月に策定した「原子力開発利用長期計画」を改訂する。

 本年度は、その初年度として、原子力開発利用長期計画に示された諸施策を効果的に推進することとする。

 高速増殖炉および新型転換炉の関発については、関係各界の総力を結集するため、本年度半ばに原子燃料公社を改組し、新たに動力炉・核燃料関発事業団を設立する。

 また、その実施に当っては、基本方針および基本計画を策定して計画的に推進する。

 また、在来型導入炉による原子力発電については、その国産化を推進するため、安全性および燃料に関する研究開発を促進するとともに、使用済燃料再処理施設の建設計画を重点的に推進する。

 さらに、特殊核物質の民有化に必要な措置をすすめる。

 原子力船の建造については、改訂された「原子力第一船関発基本計画」(昭和42年3月23日改訂)に基づき、将来は、特殊貨物の輸送ならびに乗組員の養成訓練に利用しうるものとして、本年度に、建造に着手する。

 これに関連して陸上付帯施設の建設に着手する。

 放射線の利用については、放射線化学等、各分野における研究を推進するとともに、本年度においては、食品の放射線照射に関し、総合的に研究の促進をはかる。

 安全対策については、原子力施設の安全確保、放射線障害の防止、環境における放射能調査研究を推進する。

 とくに、本年度は、先に策定した方針に基づき、放射性廃棄物の海洋処分に関する調査研究を総合的に推進する。

 東海地区原子力施設地帯については、同地区の特殊性にかんがみ、前年度にひきつづきその整備をはかる。

 国際協力については、研究協力、科学技術者の交流、情報資料の交換、国際原子力機関への協力等をすすめる。

 本年度においては、とくに、動力炉の開発に関し、国際的共同研究等、国際協力を積極的にすすめる。

 さらに、特殊核物質の長期的安定供給を確保するため、日米原子力協力協定を今年度内に更改することを目途に交渉をすすめる。

 また、日英原子力協力協定についても、その更改について、所要の検討を行なう。

 以上のほか、試験研究機関、開発機関等の整備、民間の研究に対する助成、科学技術者の養成訓練、調査普及活動等、必要な施策を講ずる。

Ⅱ 事業の大綱

1.研究開発の推進
(1)基礎研究
 日本原子力研究所および国立試験研究機関において、わが国独自の創意を発展せしめることを目的とした基礎研究を推進する。これら基礎研究は、大学における研究とも緊密な速けいのもとに推進する。

 また、これらの研究のため、日本原子力研究所の施設の共同利用を積極的に行なう。

(2)動力炉の研究開発
 高速増殖炉および新型転換炉の開発については、動力炉・核燃料開発事業団が日本原子力研究所、民間等関係諸機関の協力を得て、大型ナトリウムループおよびα-γケーブの建設、プルトニウム燃料の照射試験、重水減速沸騰軽水冷却型原型炉の設計研究等を行なう。

 同事業団の発足前においては、日本原子力研究所が、高速実験炉および重水減速沸騰軽水冷却型原型炉の設計研究、高速炉の炉物理実験等を行ない、原子燃料公社がプルトニウム燃料の照射試験の準備等を行なう。

 また、同事業団は、研究開発を効率的に推進するため、その業務の一部を日本原子力研究所、民間等に委託するとともに、海外との技術情報の交換、科学技術者の交流、海外燃料照射施設の活用、海外からの技術情報の購入等を行なう。

(3)在来型炉等
(イ)在来型炉
 主として民間における関発に期待するが、国産化を促進するため、試験研究委託費、補助金の交付等により、安全性および燃料に関する研究を中心として推進する。

 日本原子力研究所は、JPDRの高出力密度化計画(JPDR-Ⅱ計画)に基づき、JPDRの改造に着手するとともに、欧州原子力機関のハルデン計画に参加して燃料照射試験等を実施する。

(ロ)原子炉の一般技術
 日本原子力研究所は、各種臨界実験装置を用いた原子炉物理の研究を行なう。

 また、国立試験研究機関等は、原子炉用金属材料の研究開発を推進する。

 さらに、民間が行なう原子炉物理に関する研究を助成する。

(ハ)試験研究用原子炉の建設、運転等
 43年度運転開始を目標に、日本原子力研究所において、材料試験炉の建設をすすめる。

 そのほか、日本原子力研究所は研究用原子炉を活用して、ビーム実験、照射実験、遮蔽実験等を行なう。
(4)原子力船に関する研究開発
(イ)原子力第一船の建造
 先に改定した原子力第一船開発基本計画に基づき、46年度完成を目途に、建造に着手する。

 このため、日本原子力船関発事業団は、建造契約を締結するとともに、陸上付帯施設の建設、乗組員の養成訓練を関始する。

 また、同事業団は、格納容器内機器配置のモックアップ試験等を行なう。

(ロ)研究開発
 船舶技術研究所は、原子力船の振動動揺対策、遮蔽等に関する研究を実施するとともに、原子力船の事故対策に関する研究を行なう。

 また、航海訓練所は、原子力船の運航技術に関する研究を行なう。

 さらに、舶用炉の開発計画の策定に資するため、舶用炉の解析と評価に関する研究を関連諸機関において実施する。
(5)核燃料に関する研究開発
(イ)ウラン燃料
 日本原子力研究所はJRR-2、JPDR、ホットラボ等を活用し、燃料の照射試験を主体とした研究を実施する。

 また、再処理試験施設コールドテストを完了し、ホットオペレーションを行なう。

 原子燃料公社は、採鉱および製錬の試験、遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発、再処理技術の開発等をすすめる。

 民間が行なう動力炉燃料の製造、加工または評価に関する研究を助成する。

 また、セラミック燃料の分野における日米研究協力を推進する。

(ロ)プルトニウム燃料
 日本原子力研究所および原子燃料公社における共同研究および国際協力を通じ、熱中性子炉および高速中性子炉への利用に関する研究を推進する。

 日本原子力研究所は、プルトニウムの物性研究、分所化学等の基礎研究および照射試験を実施する。

 原子燃料公社は、プルトニウム燃料の加工技術の開発をすすめる。
(6)放射線の利用に関する研究開発
(イ)放射線化学
 日本原子力研究所は、繊維のグラフト重合、エチレンの高重合等について、中間規模試験を推進する。

 名古屋工業技術試験所等の国立試験研究機関において、放射線化学に関する研究を行なう。

 また、民間が行なう有機物質の放射線化学反応に関する研究を助成する。

(ロ)アイソトープの利用技術
 日本原子力研究所および放射線医学総合研究所等の国立試験研究機関は、工業、農業、医学等の各分野における放射線利用の研究を推進する。

 また、民間が行なうアイソトープ利用に関する研究を助成する。

 放射線による食品照射については、これを計画的に推進することとし、関係機関がそれぞれの特質を発揮して効果的に実施するとともに関連技術の研究を民間に委託する。

(ハ)アイソトープの製造技術
 日本原子力研究所は、精製アイソトープ等の製造に必要な技術を開発する。

 また、民間が行なう標識化合物の製造に関する研究を助成する。
(7)核融合に関する研究
 日本原子力研究所、理化学研究所および電気試験所は、大学における研究と密接な連けいのもとに、高温プラズマに関する研究を行なう。

 また、核融合に関する今後の研究計画を検討する。

(8)安全対策に関する研究
(イ)原子力施設の安全性
 原子力施設の安全基準および安全評価に関する研究を日本原子力研究所、国立試験研究機関において実施するとともに、民間に委託する。

 また、安全性に関する研究分野における日米研究協力を推進する。

(ロ)放射線障害の防止
 放射線医学総合研究所は、放射線障害の防止に関する基礎研究を行ない、とくに、プルトニウムによる内部被曝に関する調査研究および放射線障害の回復に関する調査研究を実施する。

 放射線医学総合研究所および国立試験研究機関は、原子力施設の防災対策等に関する研究を行なう。

 さらに、原子燃料公社は、日本原子力研究所、放射線医学総合研究所、その他国立試験研究機関等と協力して、放射性物質の海中における挙動およびその海産物への影響についての調査研究を実施する。

 また、放射性廃棄物の処理、処分、放射線障害防止用器材等に関する研究を民間に委託する。

(ハ)環境放射能
 放射線医学総合研究所、国立試験研究機関は、環境放射能が人体に与える影響に関する研究、食品の放射能汚染防止に関する研究等を行なう。

 また、海洋の汚染対策、ストロンチウム90の地表蓄積量に関する基礎的な調査を民間に委託する。
2 原子力利用の促進
(1)原子力発電
 原子力開発利用長期計画に示される原子力発電見通しに沿って、その実現をはかるとともに在来型炉の国産化を促進する必要がある。

 このため、民間の研究関発の助成、財政資金の融資、特殊核物質の民有化に関する具体的措置、使用済燃料再処理施設の建設等に関し所要の措置を講ずる。

(2)アイソトープの利用
 工業、農業、医学等の各分野におけるアイソトープ利用に関する研究を促進するとともに、日本原子力研究所アイソトープ事業部におけるアイソトープ生産、利用技術の開発等を推進する。
3 安全対策
(1)原子力施設の安全確保および放射線障害の防止
 「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」および「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」の施行に万全を期するとともに、安全基準および緊急時対策策定のための検討をすすめる。

(2)放射能調査
 放射線医学総合研究所、国立試験研究機関、地方公共団体等は一般生活環境、食品および人体の放射能水準を調査する。

 また、原子力艦寄港に関連して放射性コバルトなどの微量元素の放射能調査を行なう。
4 核燃料物質等に対する措置
(1)核原料物質の探鉱
 本年度における核原料物質の国内探鉱は、別途定める「昭和42年度核原料物質探鉱計画」に従って行なう。

 また、原子燃料公社は、将来における核燃料の確保に資するため、海外ウラン資源の調査を行なう。

(2)核燃料物質等の需給
 本年度における核燃料物質等の需要のうち、試験研究用に供する天然ウランの一部は、国内において生産されたものを充当する。

 濃縮ウラン、プルトニウム等については、輸入により確保する。

(3)使用済燃料の再処理
 原子燃料公社は、再処理施設の詳細設計を実施するとともに、要員の訓練、再処理施設の建設準備等をすすめる。

 これと並行して使用済燃料の輸送についての調査を行なう。

 また、輸送容器の技術基準設定のための試験研究を民間に委託する。

 なお、高濃縮ウラン系使用済燃料については、米国において再処理を行なう。

(4)核燃料の加工
 核燃料の国産化上問題となる技術的、経済的諸問題について検討を行ない、核燃料加工事業の基盤の確立に努める。

 研究用核燃料については、原則として国内で加工したものを使用する。
5 関連諸施策
(1)民間の研究助成等
 在来型炉についての安全性、燃料の設計または製作についての研究に重点をおいて、民間の研究を助成する。

 また、原子力研究用物品の輸入関税免除等、税制上の措置を講ずる。

(2)国際協力
 日米関係については、本年度内に改訂することを別途に、日米原子力協力協定更改の交渉をすすめる。

 また、特殊核物質の貸借、購入、再処理等の細目協定の有効期限が年度の前半に到来することにかんがみ、これらの更改を行ない、核燃料の入手、高濃縮ウラン系使用済燃料の再処理に万全を期する。

 さらに、核燃料、原子炉の安全性等に関する研究の協力関係を一層深めるとともに、動力炉開発に資するため、高速増殖炉の燃料開発等について共同研究を推進する。

 日英関係については、昭和43年12月期間満了となる日英原子力協力協定の更改について所要の検討を行なう。

 また、高速増殖炉について、技術情報の交換、科学技術者の交流、照射試験等をすすめる。

 日仏関係については、動力炉開発等について科学技術者の交流を行なうとともに、日本原子力研究所が、放射線化学に関して共同研究を行なう。

 国際原子力機関については、その活動に積極的に参加し、また、その主催する原子炉耐震パネル会議および研究炉利用地域専門家会議をわが国において開催する。

 欧州原子力機関については、従来からの協力に加えて、新たに食品照射に関する共同研究計画に参加するほか、日本原子力研究所は、ハルデン計画に参加する。

(3)科学技術者の養成訓練
 各大学が、原子力関係講座および実験諸施設をさらに充実し、関係科学技術者の教育、訓練を行なうことを期待する。

 日本原子力研究所および放射線医学総合研究所は、研修機関および研究施設を活用して、科学技術者の養成訓練を行なう。

 なお、専門的な知識を海外から習得するため、海外留学生を派遣する。

(4)原子力施設地帯の整備
 先に決定した方針に基づき、茨城県東海村周辺地区について、その計画的に調和のとれた発展をはかるとともに、万々一の事故に備えての十分な態勢を確保するため、道路の整備等に必要な措置を講ずる。

(5)原子力発電所の立地調査
 原子力発電所の立地調査を、新たな地点について行なう。

(6)調査普及活動
 内外における原子力関係情報の収集を行なうとともに、動力炉開発に関する調査を実施する。

 また、新たに、産業界における投資、生産、研究開発等について、動態調査を行なう。

 原子力知識の普及については、関連諸機関が協力して、健全な知識の育成につとめる。
6 原子力開発機関等の整備
 本年度は、年度半ばに原子燃料公社を改組して、新たに、動力炉・核燃料開発事業団を設立し、動力炉関発関係業務とともに、原子燃料公社の業務を併せ実施させる。

 日本原子力研究所は、諸事業を円滑に推進するため人員の充足および諸施設の整備をはかる。

 とくに大洗地区においては、大洗研究所を開設するとともに、那珂川からの取水工事の準備を行なう。

 また、財団法人日本放射線高分子研究協会大阪研究所を吸収し、放射線化学の基礎研究部門の充実をはかる。

 原子燃料公社は、再処理施設の設計およびプルトニウム燃料技術の開発等に重点をおいて、人員の充足をはかる。

 放射線医学研究所は、病院部門を拡大するとともに、放射性廃棄物の海洋処分に関する研究のための施設を建設する。

 理化学研究所および国立試験研究機関は、必要な施設の整備をはかる。

7 予算および人員
 本年度における原子力関発利用を推進するために必要な原子力予算および人員は次表のとおりである。

昭和42年度原子力関係予算総表


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