前頁 |目次 |次頁

関西電力(株)美浜発電所原子炉の
設置に係る安全性について

-原子炉安全専門審査会報告-


昭和41年11月16日

原子力委員会
 委員長 有田喜一殿

原子炉安全専門審査会
会長 向坊 隆

関西電力株式会社美浜発電所原子炉の設置に係る安全性について

 当審査会は、昭和41年7月4日付41原委第108号(昭和41年10月27日付41原委第261号をもって訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。

 Ⅰ 審査結果
 関西電力株式会社が、商業発電を目的として福井県美浜町に設置しようとする低濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却の加圧水型原子炉に関し、同社が提出した「美浜発電所の原子炉設置許可申請書」(昭和41年6月13日付け申請および昭和41年10月27日付け訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉の設置に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

 Ⅱ 審査内容
 1 設置計画の概要
 本原子炉の立地条件および施設の概要は、次の通りである。

1.1 立地条件
(1)敷地および周辺環境
 敷地は、敦賀半島北端、西側の丹生湾を形成する岬角部で、敷地の西半部は丘陵東半部は平地となっており、面積は約500,000m2である。

 原子炉は、丘陵の北東側斜面を削りとった岩盤上に設置される。原子炉周辺は標高約3mに整地され、山側の切取法面には十分な保護工を実施することとしている。

 原子炉から敷地境界までの最短距離は、北側地続き部の約700mである。周辺には、北東約1kmに丹生、南東約1.5kmに竹波の部落があり、人口は、1km以内で0人、3krn以内で約600人、5km以内で約700人、15km以内では約65,000人である。

(2)地質
 敦賀半島一帯は、花崗岩層で、敷地付近の丘陵部は、黒雲母花崗岩よりなり、平地部表面は、砂礫層でおおわれている。原子炉設置予定地点における岩盤は地表下約10~30mである。この岩盤には大きな節理はない。原子炉の基礎は十分な耐力を有する花崗岩盤上に置くこととしている。

(3)海象
 丹生湾内は、四季を通じて極めて静穏であり、潮の干満の差は少ない。丹生沿岸流は、一般に微弱であるが、若狭湾の潮流とともに流出し外海と交流している。

(4)気象
 敷地および周辺の風については、敦賀測候所の過去の記録ならびに敷地内および周辺の1年間の観測結果によれば、年間を通じて、北寄りと南寄りに卓越風向が規われている。

 年間の平均風速は、約4m/secであり、静穏の出規頻度は約10%である。大気の安定状態(英国気象局法によるE.F.G型)の出現頻度は、年間約16%であり、このときの風向出現頻度は南東がやや多くなっている。

 逆転層は、年間を通じて約30%発生しているが、その約70%は、排気筒の有効高さ70m以下である。

(5)地震
 過去の記録によると、福井県近辺では被害を及ぼすような大きい地震がたびたびおこっているが、敦賀市では被害がほとんどなかった。

 そのうちで同市街地で僅かながら被害のあった越前岬沖地震のときには、敷地附近は、震央に近いにもかかわらず、被害はほとんどなかった。これは、敷地附近が花崗岩地帯であるためと考えられる。

 従って、今後この地方に大きな地震がおこっても、敷地附近の震度は大きくないものと推定される。

(6)水利
 淡水源としては、敷地より2-3kmの落合川と馬背川およびその流域の地下水を用いることとし、それぞれ貯水槽を設け、敷地内の原水タンクへ送水される。復水器冷却用水は丹生湾奥から取水し、外海側へ放水される。

1.2 原子炉施設
 本原子炉は、熱出力約1,030MW(電気出力約340MW)の加圧水型である。

 炉心部は、円筒形鋼製圧力容器に収められ、燃料としては、低濃縮二酸化ウランペレットをジルカロイ-4被覆管に詰めた有効長約3mの燃料要素を集合体に組立てたものが使用される。その装荷量は、ウラン量約40トンである。

 制御棒は、銀-インジウム-カドミウム合金をステンレス鋼被覆管に収めたもので、その16本をクラスタ状にして燃料集合体の中に挿入する。作動に際しては、原子炉の上方からラッチ式磁気ジャッキにより駆動され、緊急時には自然落下させる。

 さらに、ほう素濃度を調整して反応度制御を行なう化学・体積制御設備が設けられる。なお、この設備は、非常用制御設備としての役目も果すようになっている。

 冷却系としては、原子炉から蒸気発生器への1次系2回路およびタービンへの2次系1回路が設けられる。

 原子炉格納施設としては、原子炉本体および1次冷却系を収容する鋼製格納容器が設けられるほか、その外周にコンクリート壁が設けられ、これらの間の下半部を二重格納構造のアニュラス部としている。

 そのほか、原子炉施設として必要な放射性廃棄物処理施設、放射線管理施設等が設けられる。

 2 安全対策
 本原子炉は、以下のような種々の安全対策が講ぜられることとなっており、十分な安全性を有するものであると認める。

2.1 核、熱設計および動特性
 加圧水型の原子炉は、諸外国においてすでにいくつか建設され、運転経験も得られているので、実証的な資料があり、核、熱設計および動特性についての計画値は、十分に信頼し得るものと考える。

 本原子炉は、減速材温度係数と燃料のドップラ効果にもとづく負の反応度出力係数を持つので、反応度外乱に対して自己制御性が高い。

 なお、減速材温度係数が炉心寿命の初期において、正になることが予測されるが、その絶対値は小さく、過渡現象はドップラ効果によって十分おさえられ、安全制御上問題ないと考える。

 また、Xeによる出力分布の空間振動が発生するおそれがあるが、解析の結果、振動は発散性でなく、かつ周期も長いので、十分安全に対処しうる。

 1次冷却材の圧力および温度は、定格出力運転時においてそれぞれ約157kg/cm2gおよび約322℃であり、燃料の最高被覆温度および最高中心温度は、それぞれ約344℃および約2,150℃で、この時の最小限界熱流束比(DNB比)は、約1.8である。仮に、設計過出力(112%)の場合でも、燃料の最高中心温度は約2,230℃で溶融点よりかなり低く保たれ、DNB比は1.3以上である。

2.2 燃料
 本原子炉の燃料としては、ジルカロイ-4被覆管に二酸化ウランペレットを封入した燃料要素を制御棒案内管および計測用管とともに14×14に組立てた無側板型の集合体が使用される。

 燃料要素は、支持格子によって横方向に支持され、軸方向には自由に膨張を許し、変形および振動を防止するような設計となっている。

 被覆管には、裏面温度がかなり高いこと、冷却水中に水素が多くなることを考え、水素吸収率の小さいジルカロイ-4が使用される。

 その肉厚は、燃料の使用寿命中の腐食に対して妥当と考えられ、管内の自由体積も、燃料集合体の最高燃焼度約35,000MWD/Tに応じ得るように配慮されている。

 しかし、被覆材にジルカロイ-4を使用し、また有効長約3mという長尺燃料は、現在まで内外ともに実用経験が乏しいうえに、期待燃焼度および燃料表面温度もかなり高い。

 これに対しては、上計の設計上の配慮に加えて、燃料加工中の品質管理を十分行なうとともに、先行原子炉における使用実績に十分留意することになっている。また、1次冷却材中の放射性物質濃度を監視することにより、燃料被覆の破損を発見し、定常運転時の破損率を低くおさえることにしている。

2.3 計測および制御系
(1)核計測系
 中性子束は、圧力容器外周に設置された検出装置により測定される。また炉内に置かれた可動小型中性子束検出器により必要に応じて中性子束分布が測定される。

(2)安全保護系
 安全保護系は、多重チャンネル構成で、中性子束、原子炉圧力等重要な測定に対して“2 out of 3”方式などの論理回路を形成し信頼度を高め、さらに電源喪失、回路の断線等に対してフェイルセイフの機能をもたせて安全性を高めるよう配慮されている。

(3)反応度制御系
① 反応度制御の方法
 反応度制御系は、制御棒クラスタおよび化学・体積制御設備よりなる。前者は、その位置調整により、原子炉の出力変化および高温停止に必要な反応度制御を行なうとともに、スクラム操作にも使用される。

 後者は、1次冷却材中のほう素濃度調整により、燃料の燃焼、核分裂生成物の毒作用による比較的緩慢な反応度変化に対する補償と低温停止時における余剰反応度の吸収に使用されるほか非常用制御設備の機能も有する。

 初装荷炉心および平衡炉心の最大超過反応度はそれぞれ28%△k/k以下および23%△k/k以下で最も反応度効果の大きい制御棒クラスタ1本が炉心に挿入できない場合でも、制御系の反応度制御能力は、それぞれ29%△k/k以上および24%△k/k以上(うち、いずれも制御棒クラスタ約4.5%△k/k)であり、常に1%△k/k以上の停止余裕があるよう設計される。

 さらに、運転中常に必要な停止余裕を確保するため、制御棒クラスタが挿入位置限界値に近づいたとき、停止余裕監視装置により、警報を発するよう設計される。

② 制御棒クラスタ
 制御棒クラスタの位置調整は、磁気ジャッキ式厳動装置により上方から駆動されるが、スクラム動作は制御棒クラスタが自重で炉心内に落下することにより行なわれる。

③ 化学・体積制御設備
 ほう素濃度の調整は、化学・体積制御設備により、1次冷却材の注入・抽出およびイオン交換によって行なうが、いずれの場合も、濃度の変化にもとずく原子炉の反応度変化は緩慢で、原子炉の運転制御に支障を与えることはない。

 また開発試験の結果によれば、原子炉の制御に影響を与えるようなほう酸の析出および化学作用等はないことが明らかになっている。
(4)出力制御系
 原子炉の出力は、蒸気発生器入口および出口における1次冷却材温度の平均値が負荷に応じた値をとるように制御棒クラスタの位置を調整することにより自動制御される。

(5)加圧器
 加圧器は±5%/分のランプ状、±10%のステップ状負荷変化に対しても1次冷却材圧力を許容範囲内に制御する機能を有する。また加圧器上部には、安全弁および逃がし弁を設けて1次冷却系に発生する異常圧力上昇を制限する。

(6)中央制御室
 中央制御室には、原子炉施設の運転に重要なすべての計測制御装置が設備されており、事故時においても運転員が安全に所要の措置をとり得るように遮蔽、換気等の放射線防護上の配慮がなされている。

2.4 圧力容器および1次冷却系配管
 圧力容器および配管は、わが国の法令に定める基準を満足するように設計、製作される。また、材料の疲労および応力集中などについて解析を行ない、これらに十分耐えることを確認することになっている。

 さらに、圧力容器は、圧力を受けている間容器の温度をNDT+33℃以上に保つようになっている。なお、中性子照射によるNDT値の上昇については圧力容器内に照射試料を挿入し、定期的に監視することになっている。

2.5 原子炉冷却系
 事故時においても、原子炉の熱除去が完全に行なえるように、次のような配慮がなされている。
(1)安全注入設備
 安全注入設備は、高圧注入および低圧注入の二つの系統からなり、1次冷却材喪失事故時にほう酸水を圧力容器に注入し、燃料温度の過度の上昇を防止して、燃料の破損、溶融、燃料被覆管のジルコニウム-水反応を防止する機能を有する。

 ポンプおよび配管は多重性を持たせた設計とし、ポンプの電力は非常用電源からも供給される。

(2)その他
 余熱除去設備により原子炉停止後の崩壊熱除去を行なうほか、2次冷却系には蒸気ダンプ設備および大気放出弁を設けている。
2.6 燃料取扱系
 燃料取替は、原子炉上部のキャビティにほう酸水を水張りし、水中で燃料取扱設備を用いて行なわれる。燃料取替中は、仮に、制御棒クラスタが全部取出されたとしても、原子炉を未臨界に保てるようにほう素濃度が調整される。

 使用済燃料貯蔵水槽は、原子炉補助建屋内に設けられ、4/3炉心相当以上の貯蔵容量を有し、使用済燃料を鉛直に保持して水中貯蔵するようになっている。

2.7 電源設備
 原子炉施設に必要な通常の電力は、主発電機または、275KV母線から供給されるが、さらに、予備の77KV系からも受電できる。これらの電源が喪失しても、原子炉施設の安全性確保に必要な電力はディーゼル発電機および蓄電池から供給できるようになっている。

2.8 廃棄物処理
(1)気体廃棄物
 本原子炉から発生する気体廃棄物の大部分は、1次冷却材中のほう素濃度を変更する際の排水とともに出てくるもので、ガス減衰タンク(23日分の貯留容量のもの4基)およびフィルタを通し、放射能レベルの連続測定後原子炉格納容器端の排気筒から放出される。

(2)液体廃棄物
 液体廃棄物は、液体廃棄物処理施設で処理されるが、ごく低レベルのものを除き、原則として放出されず、固化される。
 ごく低レベルのものは、復水器冷却水で希釈して放出される。その濃度は、わが国の法令に定める許容値以下にすることとしている。

(3)固体廃棄物
 廃棄樹脂、蒸発濃縮器廃液等は、十分放射能を減衰させたのち、固化、ドラム缶詰めにして一時貯蔵保管される。なおこれらを海洋投棄をする場合は、関係官庁の承認を受けることとしている。
2.9 放射線遮蔽
 遮蔽については、従業員の作業時間に応じ、その被ばく線量が、法規に規定された許容値を十分下まわるように設計される。

2.10 放射線監視
 発電所内における放射線監視は、固定モニタによる中央制御室での連続監視、移動モニタによる定期監視、サンプリング測定等によって行なわれる。また、個人の被ばく管理に必要な機器も備えられる。

 所外の放射線監視については、敷地境界附近および周辺の適当な場所に設層したモニタリングポストでの積算線量の測定および排水モニタによる連続監視が行なわれ、さらに、放射能観測車も備えられる。

2.11 放射性物質の放出防止
 事故時においても、放射性物質の放散による従業員および周辺の居住者の放射線被ばくを極力抑制するため、原子炉施設の主要部分は、耐圧性の密閉容器中に収容される。
(1)原子炉格納施設
 原子炉格納施設は、鋼製格納容器およびその外周コンクリート壁からなり、両者の間の下部は密閉格納構造のアニュラス部を構成する。格納容器を貫通する配管および配線はアニュラス部に集められる。

(2)原子炉格納容器空気再循環設備
 この設備は、除湿装置、高効率エアフィルタ、加熱コイル、冷却コイルおよび循環送風機ならびによう素フィルタからなり、通常運転中は原子炉格納容器内の空気の温度調整および除塵を行なう。また、1次冷却材喪失事故時等には原子炉格納容器内圧の減少をはかるとともに、原子炉格納容器内に浮遊する核分裂生成物(とくによう素)の除去を行なうようになっている。

(3)アニュラス排気設備
 アニュラス排気設備は、フィルタ装置および排風機からなり、この設備によりアニュラス部を常に負圧に保つとともに、原子炉格納容器内に放射性物質が放出されるような事故時には、アニュラス部の空気をフィルタで濾過したのち排気筒から放出する。

(4)隔離弁
 原子炉格納容器を貫通する主要な配管には隔離弁を設け、事故時に放射性物質が外部に漏洩しないように設計されている。

(5)原子炉格納容器スプレ設備
 原子炉格納容器スプレ設備は、内部および外部の両スプレ設備からなり、1次冷却材喪失事故時に、原子炉格納容器内圧の減少をはかる機能を有している。
2.12 安全防護設備の機能確保
 原子炉安全保護回路、安全注入設備、原子炉格納容器空気再循環設備および各種の弁類は、原子炉施設の耐用期間を通じて、その機能を確認するため、運転中あるいは停止中に点検または試験ができるように設計される。

2.13 耐震上の考慮
 原子炉施設は、原則として剛構造とし、重要な建物、構築物は、直接岩盤に支持される。すべての施設は、安全上の重要度に従って、A、B、Cの3種のクラスに分類され、それぞれに応じて耐震設計が行なわれる。

 このような方針に従い以下に述べるように設計された建物、構築物、機器、配管類は、敷地における地震活動性、地盤状況等からみて耐震上安全であると考える。
(1)設計震度等
① Aクラス
 原子炉、原子炉格納施設等のように、その機能喪失が原子炉事故をひきおこすおそれのある施設および周辺公衆の災害を防止するために緊要な施設は、Aクラスとする。

 建物、構築物の水平震度は、基盤における最大加速度が少なくとも300ガルの地震波に対し、ならびに、建築基準法に示された水平震度(ただし、地域による低減は行なわない、以下同様)の少なくとも3倍の地震力に対し、それぞれ安全であるよう設計するために定められる値とする。

 また、鉛直震度は、建物、構築物の高さ方向に一定とし、それらの基礎底面における、水平震度の1/2を下まわらない値とする。

 この場合、水平および鉛直方向の地震力は、同時に作用するものとする。

 機器、配管類の水平震度は、上記の地震波に対する動的解析によって定められる値とし、かつ、据付位置における支持構築物に関し、建築基準法に示された水平震度の3.6倍を下まわらない値とする。

 また鉛直震度は、建物、構築物に対する値の1.2倍とし、水平および鉛直方向の地震力は同時に作用するものとする。

 また、機器、配管類の振動によって生ずる変形、変位はそれらの機能の保持に支障のないものとする。

 安全対策上特に緊要な原子炉格納容器、原子炉停止装置、ほう素制御系の施設は、Aクラスの扱いのほかに、その機能が保持されることを確認するために、基盤における最大加速度が少なくとも400ガルの地震波による動的解析を行なう。

② Bクラス
 原子炉補助建屋、廃棄物処理設備等のように高放射性物質に関する施設はBクラスとする。

 建物、構築物の水平震度は、建築基準法に示された水平震度の1.5倍を下まわらない値とする。また、鉛直震度は、建物、構築物の高さ方向に一定とし、それらの基礎底面における水平震度の1/2を下まわらない値とする。

 この場合、水平および鉛直方向の地震力は、同時に作用するものとする。

 機器、配管類の水平震度および鉛直震度は、いずれも据付位置における支持構築物の震度の1.2倍を下まわらない値とし、水平および鉛直方向の地震力は同時に作用するものとする。ただし、共振するおそれのあるものについては、動的検討によってその震度を修正する。

③ Cクラス
 その他の施設はCクラスとし、建物、構築物の水平震度は、建築基準法に示された水平震度を下まわらないものとする。機器、配管類については必要と認められるものについて耐震設計を行なうものとし、その場合の震度は、据付け位置における支持構築物の震度の1.2倍を下まわらない値とする。
(2)設計法
 建物、構築物については、前記(1)の設計震度等を適用し、建築基準法に準拠して耐震設計が行なわれる。機器、配管類については、運転時の応力と地震力による応力を加え合わせた場合について、応力集中および材料の弾性、そ性等を考慮した解析により耐震設計が行なわれる。

 特に原子炉格納容器については、前記(1)の①で述べたことのほか、冷却材喪失事故時の内圧、温度条件をも考慮して設計が行なわれる。
 3 平常運転時の被ばく評価
 平常運転時における被ばく評価は、次のとおりであり、敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。
(1)気体廃棄物
 平常運転時の気体廃棄物は、タンクに貯留して減衰させた後、各月1~2回程度気象条件を考慮して排気筒から放出し、周辺監視区域外の被ばく線量をできる限り低くおさえることにしている。平常運転時としての最悪条件として、燃料被覆の破損率を5%と仮定し、このような条件が、1年間継続するとして、減衰タンクで45日間減衰したのち、大気中に放出される場合の放射性物質の量を計算すると、希ガスで年間最大約7,500Ciとなる。

 仮にこれが同一方向に放出されるとし、年間の気象データ、建物による風の吹きおろし効果を考慮して、年間の積算線量を計算しても、周辺監視区域外の最大値は、許容値(500mrem/year)の約1/20となる。

 なお、敷地内外において、放射線監視設備を設けて十分な監視を行なうこととしている。

(2)液体および固体廃棄物
 安全対策の項で述べたように、液体廃棄物の放出および固体廃棄物の廃棄については、十分な安全対策を講ずることになっている。
 4 各種事故の検討
 本原子炉において発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果、それぞれ次のように対策がなされており、本原子炉は、十分な安全性を確保し得るものであると認める。

4.1 反応度事故
(1)制御棒クラスタ引抜事故
 運転員の誤操作または機器の誤動作により、最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本を最大速度で連続的に引き抜いても、核的逸走は負の出力係数でおさえられ、かつ、中性子束高スクラムにより原子炉は停止するので、燃料被覆が破損することはない。

(2)ほう素希釈事故
 運転員の誤操作または化学・体積制御系機器の誤動作による炉心内のほう素濃度の減少にもとづく反応度添加率は、制御棒クラスタの連続引抜きによる反応度添加率より小さい。従って、運転員が、適当な措置をとる時間的余裕が十分にある。

(3)冷水事故
 停止中の1次冷却回路の急速起動または蒸気発生器への過剰給水により、冷水が炉心に流入しても、中性子束高スクラムにより原子炉が停止するので燃料被覆が破損することはない。

(4)制御棒クラスタ落下事故
 運転中に最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本が落下し、熱出力分布に歪みを生じても、制御棒の落下を検出し、タービン負荷を自動的に切下げ、安全に運転を継続できる。

(5)制御棒クラスタ逸出事故
 制御棒クラスタ駆動機構の圧力ハウジングが破損し、制御棒クラスタ1本が瞬時に抜け出しても運転中は制御棒クラスタがほぼ引き抜かれた状態にあるため、そのための反応度添加量は少なく他の制御棒クラスタにより、原子炉を停止できる。

(6)燃料取替事故
 燃料の取替中、運転員の誤操作もしくは機器の誤動作により、燃料集合体が炉心に落下しても、水中のほう素濃度が高いので臨界に達することはない。
4.2 機械的事故
(1)1次冷却材流室喪失事故
 原子炉運転中、1次冷却材ポンプが機械的故障、電源喪失あるいは、運転員の誤操作により、2台同時に停止しても、1次冷却材流量低スクラムまたは1次冷却材ポンプ電源喪失スクラムにより原子炉は停止し、系の慣性により1次冷却材流量は急激に減少しないので、燃料被覆が破損することはない。

(2)1次冷却材喪失事故
 配管が破断し、充てんポンプによる加圧器水位の維持が困難となれば、原子炉の圧力と加圧器の水位の減少により、安全注入系が作動し、さらにスクラムにより原子炉は停止し燃料の過熱をおさえる。

 この事故により、燃料被覆の一部が破損しても燃料から放出される核分裂生成物は、その量が僅かで、原子炉格納容器内に保留され、原子炉格納容器空気再循環設備で除去される。希ガス等原子炉格納容器から漏洩したものは、アニュラス排気設備を経て排気筒へ導かれる。

(3)蒸気発生器細管の破損事故
 蒸気発生器細管の破損により1次冷却材が2次系へ流出すると、蒸気発生器のブローダウン配管と空気エゼクタの2個所に設けた放射線モニタにより事故を検出して、原子炉を停止する。このとき2次系へ流出する放射性物質が建屋外に放出されても、敷地周辺の公衆に対する被ばく線量は、低いので支障がない。

(4)主蒸気管の破断事故
 主蒸気管が破断すると、蒸気発生器での熱交換量が急増し、原子炉出力は異常に増加するが、中性子束高スクラムあるいは、原子炉可変圧力低スクラムにより原子炉は停止する。なお、放出される蒸気には、放射性物質は含まれない。

(5)燃料取扱事故
 燃料の取扱中、使用済燃料1個が装置の故障で落下し、一部が破損しても、操作はすべて原子炉格納容器内または、原子炉補助建屋内の水中で実施されており、いずれの場合も、水中から放出される核分裂生成物は、その量が僅かであり、フィルタで濾過した後、排気筒から放出される。

(6)気体廃棄物処理設備の破損事故
 気体廃棄物処理設備の配管やタンク等が破損しても、放射性気体は、換気設備により濾過された後、排気筒を経て放出される。この場合、敷地周辺の公衆に対する被ばく線量は、十分低いので支障がない。

(7)その他の事故
 制御棒クラスタ駆動装置、主要弁類、蒸気発生器2次側給水設備等の故障または誤動作、復水器真空度の喪失、電源の喪失等があっても、いずれも十分な対策がなされている。
 5 災害評価
 本原子炉はすでに述べたように、種々の安全対策が講ぜられることになっており、かつ、各種事故に対しても検討の結果、安全性を確保し得るものと認めるがさらに「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次の通りで、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は、立地指針に十分適合しているものと認める。

5.1 重大事故
 重大事故としては、圧力容器に接続している最大口径の配管である1次冷却系配管(内径約70cm)1本が原子炉出口ノズル付近で瞬時に破断し、破断口南端から1次冷却材が放出される事故を想定する。

 解析の結果では、二酸化ウランの溶融点に達する燃料はない。しかし、燃料のうち90%が被覆管破損を起こすと予測される約600℃をこえる。また42%の燃料ペレットが、約1,400℃をこえる。

 さらに炉心内のジルコニウムの約1/5が水と反応する。原子炉格納容器内の圧力は、放出された1次冷却材により、急上昇するが、原子炉格納容器空気再循環設備および原子炉格納容器内外スプレにより冷却され、設計圧力をこえることなく、事故後約3時間以内に内圧は大気圧近くまで減少する。

 そこで核分裂生成物の放散過程に従って、次の仮定を用いて線量を計算する。
①事故後の放出率および出力密度の分布を考慮して、約1,400℃をこえる燃料ペレットからは全炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス42%、よう素21%、固体核分裂生成物0.42%相当分が放出されるものとし、また約1,400℃をこえない燃料ペレットで被覆管の破損している燃料要素からは、全炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス1%、よう素0.5%、固体核分裂生成物0.01%相当分が放出されるものとする。

 なお、燃料外に放出されたよう素のうち10%は、有機よう素であり、無機よう素の50%は、壁面等に吸着されるものとする。

②原子炉格納容器内に浮遊するよう素は、原子炉格納容器空気再循環設備のよう素フィルタにより大部分が除去されるが、その除去効率は、無機よう素に対して90%、有機よう素に対して70%とする。

③格納容器からの漏洩率は、事故後24時間まで0.1%/day、それ以降30日まで0.045%/dayとする。

④原子炉格納容器内からの漏洩は、その90%が配管や配線の貫通するアニュラス部に生じ、また10%は、原子炉格納容器のドーム部で生ずるものとする。

 なお、アニュラス部に漏洩したものはアニュラス排気設備により、排気筒から放出されるが、この場合のアニュラス排気設備のよう素フィルタの除去効率は90%をとる。この結果、大気中に放出される放射能は、よう素が約11Ci(131Ⅰ換算、以下同様)、希ガスが約34,000Ci(0.5MeV換算、以下同様)である。

⑤大気中への拡散に用いる気象条件は、排気筒の高さ、現地の気象データをもとに「原子炉安全解析のための気象手引」を参考にして、高さ55m以下均一分布、拡散幅30°有効拡散風速2m/secとする。
 以上の条件を用いて計算した結果、敷地外で線量が最大となるのは境界(原子炉から700m)であってその地点の線量は、小児甲状腺に対して約1.1rem、全身に対して約3remである。

 これらの計算からみて、立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150remおよび全身25remになる地点は、非居住区域に十分含まれる。

5.2 仮想事故
 仮想事故としては、重大事故と同じ事故について安全注入系の効果を無視して炉心内の全燃料が溶融したと仮想する。また、原子炉格納容器空気再循環設備の効果は、重大事故の半分と仮定する。

 この場合、炉心内のジルコニウムの多量が水と反応するが、原子炉格納容器内の最高圧力は、重大事故の場合とほぼ同じである、線量を重大事故の場合と同様に仮定して、計算する。ただし、次の仮定は重大事故の場合と異なっている。
①炉心の100%溶融により、内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス100%、よう素50%、固体核分裂生成物1%相当分が原子炉格納容器内に放出される。

②原子炉格納容器からアニュラス部へ漏洩して、アニュラス排気設備で濾過されるもの、および原子炉格納容器ドーム部から漏洩するものは、いずれも地表面から放出されることになると仮定する。この結果、大気中に放出される放射能は、沃素が約50Ci、希ガスが、約80,000Ciである。

③大気中での拡散に用いる気象条件は、「原子炉安全解析のための気象手引」を参考にして、英国気象局法を用い、F型、拡散幅30°、有効拡散風速2m/secとする。
 以上の条件を用いて計算した結果、敷地外で線量が最大となるのは、境界(原子炉から700m)であつてその地点の線量は、甲状腺(成人)に対して約3rem、全身に対して約9remである。

 これらの計算からみて立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300rem、全身25remによる地点は、低人口地帯に十分含まれる。

 また、全身被ばく線量の積算値は、約1.4万人-remであり十分小さい。

 6 技術的能力
 申請者は、長年にわたり原子力発電に関する調査および原子力発電所の建設準備を行なってきている。

 美浜発電所の設置および運転には、約170名の技術者を予定しており、これらの技術者については、日本原子力発電株式会社、日本原子力研究所または海外の原子力関係諸施設へ派遣する等技術的能力の確保を図っている。

 なお、本原子炉の建設に当っては、経験を有するウエスチングハウス(WH)社が建設を行なうことになっており、さらに、原子炉全般にわたる運転、保守、燃料取替計画等については、WH社の指導、訓練を受けることにしている。

 これらの点から、本原子炉を設置するために必要な技術的能力および運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があると認める。

 Ⅲ 審査経過
 本審査会は、昭和41年7月5日第39回審査会において、次の委員よりなる第24部会を設置した。

 内田 秀雄 (部会長) 東京大学
 安藤 良夫 東京大学
 江藤 秀雄 放射線医学総合研究所
 小平 吉男 気象協会
 後藤清太郎 電力中央研究所
 表 俊一郎 建築研究所
 吹田 徳雄 大阪大学
 都甲 泰正 東京大学
 久田 俊彦 建築研究所
 弘田 実弥 日本原子力研究所
 三島 艮績 東京大学
 川瀬 二郎 気象庁
 渡辺 博信 放射線医学総合研究所

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行なうこととし、昭和41年7月9日第1回会合を開き、審査方針を検討するとともに、炉グループ、環境グループ、耐震グループを設置して、審査を開始した。

 以後、部会および審査会においては、次表のように審査を行なってきたが、昭和41年10月21日の部会において部会報告書を決定し11月26日第44回審査会において、本報告を決定した。
前頁 |目次 |次頁