前頁 |目次

昭和40年度原子力年報の総論



  §1 概況
 わが国が原子力開発利用に着手してから、10周年を迎えた昭和40年度は、この10年間における開発利用の経過を回顧して、このうえに新たな目標を確立し、その展望のもとに一層の進展をはかるべく検討がすすめられた。

 原子力開発利用は、すでにわが国においても広汎な分野にわたって着々と推進されているが、40年度は、その中心課題である原子力発電の分野において、発電所の建設計画が一層具体化され、また、将来の原子力発電のすすめ方について新たに各方面で検討が行なわれた。

 なかでも動力炉の開発について、海外における急速な進展にかんがみ、立遅れたわが国の動力炉開発を強力に推進する必要が認められ、開発の基本方針を確立するための検討がすすめられた。また、原子力船、放射線利用などの分野においても、今後における開発利用の方向についての検討がすすめられた。

 (10年の回顧)
 先進諸国に10年余の遅れをもって出発したわが国の原子力開発利用は、当初から、その推進にあたって、或る程度実用段階に入った技術については、主として民間の研究開発および海外からの導入技術に期待し、他方、今後新たに開発さるべき大きな課題については、主として国が中心となってその研究開発を自主的にすすめることとし、このことは、36年に原子力委員会が策定した「原子力開発利用長期計画」(長期計画)においても明らかにされている。

 原子力委員会は、この方針のもとに、開発利用および研究開発を計画的に推進すべく努力をはらってきた。

 すなわち、日本原子力研究所(原研)および原子燃料公社(公社)を中心とする研究開発体制の確立につとめ、広汎な分野において基礎研究を含む研究開発の推進をはかり、研究開発および利用面に必要な施設の整備を促進するとともに、安全の確保をはかるため、関連法規の整備をはじめとする安全対策を確立し、いまやこの10年間をもって一段階を画し、将来の発展を期待し得るにいたった。

 このようにして、試験研究用の原子炉については、原研のJRR-1、JRR-2などを海外から購入する一方、国産1号炉(JRR-3)を建設したのをはじめ、いくつかの研究用原子炉が国産技術により建設された。

 また、動力炉の開発については、原研の動力試験炉(JPDR)による試験研究をはじめ、核燃料加工技術あるいは炉材料および機器などの関連技術について研究開発がすすめられた。民間企業においても、これらの研究開発がすすめられるとともに、さらに海外からの技術導入によりその技術基盤の強化に努力がはらわれた。

 このような進展にともない、動力炉の燃料、材料の研究開発を一層強化するために原研における材料試験炉(JMTR)の建設が、39年度から開始されるにいたった。

 放射線の利用は、わが国ではすでに戦前から物理学および化学あるいは生物学等の基礎的な研究分野のほか、医療や工業の実際にも用いられてきたが、これらの経験をもととして、昭和25年のラジオアイソトープ輸入の開始以来、今日までに飛躍的にその利用分野を拡大し、工業、医学、農林水産業およびその他の科学研究などの広汎な分野にわたって多岐多様な利用がはかられており、これらの技術水準は諸外国に匹敵し得る水準に到達している。

 最近には、新たに放射線化学の工業化あるいは食品保存のための放射線照射等に関する研究開発が注目されている。原子力委員会は、このような放射線利用の各分野について科学技術庁放射線医学総合研究所(放医研)などの国立試験研究機関、原研高崎研究所、理化学研究所等における研究開発の促進をはかるとともに、ラジオアイソトープの生産、廃棄物処理についても必要な措置を講じてきた。

 原子力船の開発については、はやくからその検討が行なわれ、基礎的な調査研究がすすめられた。原子力委員会は、これらにもとづき、38年に原子力第1船開発基本計画を策定し、日本原子力船開発事業団(事業団)においてその具体的な推進がはかられている。

 原子力発電に関しては、将来におけるわが国のエネルギーの安定供給に重要な位置を占めることが明らかであり、原子力委員会は、その将来の発展に備えて、当面、海外で実証された原子炉を導入することとし、この考え方に従って日本原子力発電(株)(原電)が設立された。原電では、その1号炉として英国の天然ウラン黒鉛減速ガス冷却炉(コールダーホール改良型)を導入し、東海発電所の建設がすすめられてきた。

 同炉は、約6年の建設期間をへて、ようやく営業発電が開始されようとしている。この東海炉の建設は、今後の動力炉の建設に関し貴重な経験を与えた。これにつづく原電2号炉は米国の濃縮ウランを用いる沸騰水型軽水炉**を選定し、41年4月から、福井県敦賀市の敷地にその建設工事が開始された。

 また、38年10月、わが国最初の原子力発電に成功したJPDRは、その後、各種の試験研究および要員の養成訓練に活用され、41年3月末までに約4,300万キロワット時が発電された。

 (原子力発電の進展)
 原電の敦賀炉につづいて、かねてから東京、中部、関西の各電力会社においても原子力発電所の建設が検討されていたが、40年度には、関西、東京の両電力会社の計画がさらに具体化され、建設予定地の確保、炉型の選定を終り、41年の6月および7月に原子炉設置許可の申請が行なわれた。以上の3社以外の電力会社においても、原子力発電所建設計画が検討されつつある情勢にある。

 わが国におけるこれらの原子力発電所建設計画による発電規模は、原子力委員会が長期計画において示した前期(昭和36年から45年)100万キロワットの見通しに達する見込みであり、さらに後期(昭和46年から50年)600万ないし850万キロワットの見通しを超える趨勢である。

 一方、通商産業大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会においては、わが国の総合エネルギー政策について原子力発電を含めて各種エネルギーの位置づけが審議され、産業界においても、長期の原子力発電の見通しについての検討が行なわれ、ともに、将来における原子力発電の役割が高く評価され、その規模も大きく想定されている。

 このように、わが国において原子力発電に対する積極的な気運が高まったのは、
 まず、最近のわが国における急増する電力需要に対処するため、重油専焼の大容量新鋭火力発電所の建設が陸続としてすすめられているが、これらの電力用重油も含めてほとんど海外に依存している石油消費量が急速に高まり、将来のエネルギーの安定供給を確保するうえから、重大な影響を及ぼすことが考えられ、エネルギー供給源の多様化をはかる必要が認められてきたこと、

 次に、海外における原子力発電をめぐる動向、とくに米国において軽水炉の経済性と技術的信頼性とが実証され、さらに、濃縮ウランの入手についても当分不安のないことが明らかにされ、この軽水炉は、わが国においても十分経済性をもつことができ、しかも、近い将来には火力発電を凌ぐ低コストによって発電を行ない得る確信が深められ、電力企業の基盤を一層強化する見通しが得られたこと、
などがあげられる。

 原子力委員会は、これら軽水炉など在来型導入炉***の国産化および改良については主として民間産業界における開発に期待し、国としては、原研におけるJPDRによる軽水炉燃料国産化研究の推進をはじめ、燃料加工技術および安全性に関し、試験研究の促進をはかることとしている。

 また、国内における使用済燃料再処理****体制の早期確立をはかるため、公社における再処理工場の建設を促進している。

 さらに、核燃料の所有方式については、濃縮ウラン、プルトニウム、ウラン-233は現在も国有がつづけられているが、わが国の原子力発電が現実化しつつあるこの時期に、米国における特殊核物質民有化の措置が明らかにされたこともあり、原子力発電を推進するにあたって、濃縮ウラン、プルトニウム等も民間が自主的に所有運営することがより効果的であると判断して、これを民有化する方針を固め、必要な措置について検討をすすめている。

 英国において開発され、発電用として商業的に実用化された原子炉であり、燃料には天然ウラン、減速材には黒鉛、冷却材には炭酸ガスを用いている。なおフランスでも、同形式の炉が実用化されている。

** 加圧水型炉とともに、米国において開発された代表的な動力炉である。減速材および冷却材として用いられる軽水を炉心で沸騰させ、その高温蒸気によりタービンを回転させる型式の原子炉であり、燃料には低濃縮ウランを用いる。

 なお、加圧水型炉は、高圧の一次冷却水が炉心で加熱され、熱交換器において二次冷却水を蒸気とし、この蒸気によってタービンを回転させるものである。燃料には沸騰水型炉と同じく低濃縮ウランが用いられる。

*** 在来型炉とは、動力用原子炉として商業的に実用化された原子炉をいい、米国の軽水炉の沸騰水型炉および加圧水型炉ならびに英国およびフランスの天然ウラン黒鉛減速ガス冷却炉がある。

 わが国にかける原子力発電所の建設は、当面これら在来型炉を輸入もしくは技術導入による国産により行なわれる。

**** 再処理とは、原子炉から取り出した使用済燃料に化学的な処理を行ない、未燃焼のウラン(減損ウラン)やあらたに生成されたプルトニウム-239等の燃料物質を抽出することであり、核燃料の有効利用をはかる観点から、早期に国内で再処理を実施することが望まれている。

 (動力炉開発の基本方針の検討)
 前述のごとく、わが国の原子力発電が長期にわたり軽水炉を中心としてすすめられたならば、濃縮ウラン燃料の所要量は、前述の産業界による長期見通しによれば、1985年(昭和60年)までに天然ウラン精鉱に換算して約10万トンを消費するものと推定され、さらに2000年(昭和75年)には、約30万トンに達するものとみこまれている。

 この量は、1965年(昭和40年)8月に、欧州原子力機関(ENEA)が集計した自由諸国の相当確度の高いウラン埋蔵量の推定値約65万トン(天然ウラン精鉱、1ポンドあたり5ないし10ドルの比較的安いもの)に対比しても、尨大なものであり、しかも、上述の消費量は核燃料問題を根本的に解決し得る高速増殖炉がかなりはやく出現したとして推定されたものである。

 海外において濃縮ウランの対外的供給能力を有しているのは米国のみであり、わが国の原子力発電を軽水炉にのみ頼ってすすめることは、核燃料の安定供給をはかるうえに、またエネルギー政策の自主性を確保するうえに、必らずしも望ましいことではない。ウラン資源はもとより、エネルギー資源に乏しいわが国としては、1国のみにその供給を依存することなく、核燃料の供給源の多様化ならびにその有効利用をはかり得る動力炉を開発し、発電体系に組みいれることが、きわめて有意義である。

 したがって、エネルギー政策の確立に資するうえから、さらに、わが国の科学技術水準の向上と産業基盤の強化をはかるうえからも、動力炉の開発を可能な限りみずからの手ですすめることがきわめて肝要である。

 原子力委員会は、このような観点から、新たに総合的見地からわが国の動力炉開発の基本方針を検討するため、39年度から、関係各界の協力を得て動力炉開発懇談会を開催し審議を行なった。

 この間、ワーキンググループにおける作業、動力炉開発調査団の海外調査等の報告を勘案し、41年3月にいたり、原子力委員会は、核燃料の安定供給とその効率的利用をはかり得る核燃料政策に立脚し、新型転換炉および高速増殖炉**の開発を国のプロジェクトとしてとりあげ、強力に推進することを骨子とした動力炉開発の基本方針をとりまとめた。このプロジェクトは、10余年間にわたって千数百億円以上の経費を要するものとみこまれており、わが国ではかつて経験のない大型プロジェクトであり、国をあげて強力に遂行すべきことが要請されている。

 高速増殖炉は、自己が消費する核燃料以上に新たな核燃料(プルトニウム)を生産、すなわち増殖する動力炉であるが、これが実用化されたときには、将来の核燃料問題を根本的に解決するという核燃料政策上重要な意義をもっている。しかし、その実用化には、なお、未解決の技術的問題が多く、諸外国においても15年ないし20年を要するものとみられている。

 このため、在来型炉に比しより有利な経済性をもち、さらに天然ウランの使用により核燃料利用の多様化をはかり得る新型転換炉の開発がきわめて大きな意義をもっているのである。

 しかも、このような新型転換炉は、プルトニウム転換比が高く、高速増殖炉が実用化されたときに必要となる多量のプルトニウムの供給にも適しており、かつ、高速増殖炉が経済性を獲得したとしてもなお相当期間にわたって併行して用い得る動力炉であり、さらに将来は、トリウム燃料を利用することによって、熱中性子増殖炉***への可能性をもっている。
 高速増殖炉および新型転換炉の開発は、海外においても、積極的に推進されており、動力炉開発の分野において立遅れているわが国としては、いまこそ、この立遅れを克服して、国情に即した動力炉の開発をすすめ、わが国原子力産業基盤の確立をはからなければならない。

 原子力委員会は、41年度に、上述の考え方にもとづく動力炉開発の基本方針を根幹として、原子力発電の長期見通しの修正などをおりこんで、36年の長期計画の改訂を行なう予定である。

 在来型炉よりも、転換率の向上、核燃料の有効利用、核燃料利用の多様化あるいは経済性の向上などを目指して、各国が開発をすすめている熱中性子炉。このうち、カナダの開発した重水減速重水冷却炉(CANDU)および英国の開発した改良型ガス冷却炉(AGR)は、すでに準在来型炉(セミプルーブン)とよばれるにいたっている。

** 原子炉で消費される以上の核分裂性物質を生産する(すなわち核分裂物質を増殖する)動力炉。ウラン238からのプルトニウムの生成を多くするためにウラン238の中性子吸収を増大させる必要がある、このためウラン238以外の中性子吸収を少なくする必要があるので、減速材を用いず、核分裂で発生した高速中性子により連鎖反応が行なわれる。冷却材としては、液体金属(ナトリウム、カリウムなど)、スチームなどが用いられる。

*** 高速増殖炉に対して、高速中性子が減速され周囲の物質と熱的に平衡状態に達した熱中性子による核分裂連鎖反応を利用して核分裂性物質の増殖を行なう動力炉であり、この場合トリウムに中性子を吸収させウラン233を増殖させる方式のみが可能である。

  §2 海外における動力炉開発の進展
 近年、諸外国においては、動力炉の開発が急速にすすみ、これにもとづき、原子力発電の実用化は驚異的な進展をみせ、その経済性および安全性に対してきわめて高い信頼が寄せられるにいたった。

 わが国の原子力開発利用は、その基本的な方向において、海外の動向と密接な関連をもってすすんでいる。以下、動力炉開発の動きを中心に、40年度の海外諸国における原子力開発の動向を概観してみよう。

 (米国)
 米国における軽水炉の開発は、とくにいちじるしい進展をみせ、その単基発電容量はますます大規模化する傾向にあり、その経済性は地域により十分在来火力と競争しうることとなり、米国の電気事業者は競って原子力発電所の建設計画を具体化することとなった。

 10年前には、商業発電を目的とする原子力発電所をもたなかった米国において、今日、すでに12州において16基の発電用原子炉が稼動し、7州において8基が建設中である。

 このような趨勢から、米国においては1970年代の初期には、全発電量の10%ないし15%が原子力発電になるものと予想されている。また、米国が1965年までに諸外国に提供した軽水炉は、15基に達している。米国ではこのような内外における原子力発電所建設計画の進展に対処して、すでに1964年に、原子力法が改正され、これらの軽水炉の燃料として用いる濃縮ウラン等の特殊核物質は、1973年までに民有化されることとなっている。

 これにより、企業の自由競争の原則に立脚して、原子力技術の改善進歩を促進し、将来における原子力発電の健全な発展をはかることが意図されている。

 さらに、この民有化の措置と同時に、1969年から民間および海外諸国がウラン濃縮を米国政府に委託し得ることとなった。このための基準案は、1965年10月に発表された。

 このような特殊核物質の民有化とウランの委託濃縮業務開始の措置にともなって、米国の産業界はその巨大な資本を背景として、原子炉の建設から燃料の供給、さらに使用済燃料の再処理にいたるまで一貫したサービスを供給する体制を確立する動きを示しており、これは、米国内はもとより、わが国を含めて諸外国に大きな影響を及ぼすことが予想されている。このような動きとともに米国政府は、1966年2月、濃縮ウランの外国に対する供給枠の増加を発表し、さらに、長期供給の用意があることを明らかにした。

 このようにして、技術的、経済的に原子力発電の有利性を実証しつつある軽水炉と、これを裏づけるための核燃料供給の保証とを通じて、米国は、国内的には原子力発電所建設の一層の推進をはかるとともに、対外的には軽水炉による原子力国際市場の開拓へと大きく前進することとなった。

 米国では、このような軽水炉の実用化と併行して、その原子力技術に関する指導的地位をひきつづき維持するとともに、核燃料の有効利用をはかる観点から新型転換炉および高速増殖炉の開発を積極的にすすめている。

 新型転換炉については、従来、多種の炉型について、併行的に開発がすすめられてきたが、1965年にいたり、これらの研究開発の結果について検討が行なわれ、開発炉型を少数にしぼり、それぞれの研究内容を調整して新型転換炉の実用化に関する研究開発が促進されることとなった。

 すなわち、核燃料利用率の向上、トリウム資源の活用、発電コストの一層の低減等を目的として、高温ガス炉、シードブランケット炉**、重水減速有機材冷却炉***および溶融塩炉****を対象に開発がすすめられることとなった。高温ガス炉については、電気出力4万キロワットのピーチボトム炉の完成をまって、電気出力33万キロワットの実用発電所が米国原子力委員会の援助のもとに建設されることとなっている。

 重水減速有機材冷却炉については、重水炉に関する経験が豊富なカナダとの協力によりその開発が行なわれ、目下原型炉*****の設計研究がすすめられている。

 シードブランケット炉は軽水炉技術に立脚して開発がすすめられているものであり、従来計画されていた大型炉の建設がとりやめとなったが、さらに長寿命燃料の開発を中心とした研究開発がすすめられることになった。溶融塩炉については、熱出力1万キロワットの実験炉******が完成し、現在各種の試験がすすめられている。このうちシードブランケット炉および溶融炉は将来、熱中性子増殖炉に発展させることが期待されている。

 ガス冷却炉の冷却材の温度を高温にすることにより、熱効率の向上をはかり、経済性向上を目的とした原子炉。この場合、冷却材はへリウムを使うのが普通であり、燃料には高濃縮ウランとトリウムを用い、U-233の転換率の向上をはかっている。

** 高濃縮ウランの種(シード)を中心に、トリウムのブランケットを配置したユニットを多数組合せた燃料を炉心とした原子炉で、減速材および冷却材として軽水が用いられる。この原子炉は、米国で軽水炉技術に立脚して開発されているものであり、トリウムをウラン-233に転換させるものである。この炉は転換率が、かなり高くなることが期待されている。

*** 重水減速炉の一種として開発されているもので、冷却材の圧力を低くしうるという利点などから、冷却材にターフエニルやポリプェニル等の有機物を用いた動力炉であり、燃料には天然ウランまたは微濃縮ウランを用いる。最近、米国において、発電と海水脱塩の2重目的をもつプラントとして建設が計画されている。

**** 主に、米国で開発されている原子炉で、ウランおよびトリウムの溶融塩を燃料として用い、減速材には黒鉛を用いるものである。この型の動力炉は、原理的には燃料の連続再処理が可能であり、また転換率がかなり高くなることが期待されている。

***** 特定の型式の動力炉を開発するにあたり、試作用として実用規模に近いものを製作し、その炉の経済性の検討、運転経験等を得るために使用される原子炉。

****** 開発の目標とする原子炉について、その炉の動的な特性などの基礎資料を得るために使用される小規模な原子炉。

 高速増殖炉については、はやくから実験炉および臨界実験装置によって研究開発がすすめられている。

 現在、民間では、エンリコフェルミ原子力発電所を使用して、発電炉の運転経験を蓄積しつつ、照射試験の計画がすすめられているが、米国原子力委員会においては、燃料照射試験の重要性にかんがみ、新たに照射用大型実験炉として高速中性子束試験施設(FFTF)の建設が決定された。また、実験炉SEFORの建設計画が西ドイツと共同してすすめられている。

 これらの成果をもとに、米国では1969年に電気出力30万ないし40万キロワットの原型炉を建設することが検討されている。このように米国では、高速増殖炉の実用化を急いでいる。とくに、英国、ソ連等における高速増殖炉計画の進展に刺激され、米国の計画は一層強く促進される傾向にある。

 (英国)
 英国においては、ウィルファ原子力発電所の発注をもって、第1次原子力発電計画にもとづく発注がすべて終了し、1964年に策定した第2次原子力発電計画が着手されることとなった。

 英国では、コールダーホール原子力発電所の建設以来、一貫してガス冷却炉の開発がすすめられてきたが、第2次原子力発電計画にもとづくダンジネスB原子力発電所の建設に際しては、米国における軽水炉実用化のいちじるしい進展にともない、軽水炉を自国で開発した改良型ガス冷却炉(AGR)**とならべて炉型選定の対象とするにいたり、世界から注目されるところとなった。

 1965年5月、英国動力相は、同等の基準による比較検討の結果、AGRは技術的および経済的に有利であり、将来における発展の可能性も大きいとしてAGRの決定を発表した。

 このダンジネスB原子力発電所における入札の結果により、同年10月、英国動力相の発表した「燃料政策白書」において、AGRをもとにさきの第2次原子力発電計画を修正して、さらに300万キロワットを原子力発電規模に追加し、1970年から1975年にいたる6年間におけるその建設規模を800万キロワットとすることが明らかにされた。

 このような国内における原子力発電の推進とともに、英国ではさらに原子力国際市場への進出が企てられ、AGRをはじめ自国で開発した動力炉を関係諸国に提供するための活動が積極的にすすめられている。

 こうして英国では、AGRを半ば実証炉とすることに成功しているが、このAGRの開発と併行して水冷却方式による動力炉の開発の必要も認められ、新型転換炉として蒸気発生重水炉(重水減速軽水冷却炉)の開発が行なわれ、現在電気出力10万キロワットの原型炉を1967年に運転開始することを目標として建設中である。

 高速増殖炉については、英国は、つとに、その研究開発に着手し、電気出力1万5000キロワットのドーンレイ実験炉において各種実験を実施し、この経験などをもとに、原型炉の建設について検討がすすめられていた。

 1966年2月にいたり、1971年に運転開始を行なうことを目標に、電気出力25万キロワットの原型炉の建設が決定された。この英国における原型炉建設計画は、各国の高速増殖炉の開発を強く刺激し、各国の開発計画がかなり促進されることとなった。

 (フランス)
 フランスでは、1946年の第5次原子力開発計画にもとづき、自主的に開発した黒鉛減速炭酸ガス冷却炉(EDF型炉)による合計約250万キロワットの原子力発電所の建設がすすめられる一方、対外的にも、1972年運転開始を目ざして、スペインに両国の共同出費による原子力発電所の建設計画がすすめられており、このほかスイスなどを対象に国際的な進出がはかられている。

 また、フランスは自国に相当量のウラン資源を保有しているが、原子力の将来の発展に備えてウラン資源の枯渇に対処するため、カナダなどからウラン資源の入手をはかる努力が重ねられている。

 新型転換炉については、EDF炉の経験にもとづき、その技術を改良発展させ経済性を一層向上させる意図のもとに重水減速炭酸ガス冷却炉の開発がすすめられ、1967年運転開始を目標に、電気出力7万3000キロワットの原型炉EL-4の建設がすすめられている。

 高速増殖炉については、すでに実験炉ラプソディーの建設がすすめられており、1968年から1969年に原型炉の建設を開始することが計画されている。

 開発目的の原子炉について、中性子の挙動など炉物理に関する問題を臨界点近くで究明するための装置。

** 英国が天然ウラン黒鉛減速ガス冷却炉の技術を基礎として開発した動力炉。燃料には低濃縮ウラン、減速材には黒鉛、冷却材には炭酸ガスを用いる。この概念をさらに発展させると高温ガス炉になる。

 (カナダ)
 カナダでは、豊富な国内ウラン資源を背景として、従来、独自の立場で重水減速重水冷却炉(CANDU)の開発がすすめられてきた。カナダは水力資源が豊かであり、原子力の開発はエネルギー需給の点からは、必ずしも急がれる事情にはないが、原子力産業の育成をはかる観点から原子力の開発に鋭意とりくんでいる。カナダでは、原子力産業の基盤強化をはかるとともに、対外的に重水炉市場の開拓が企図されており、すでにインドに対してCANDU炉が輸出されたが、さらに1965年5月、パキスタンとの間に電気出力13万キロワットのCANDU炉供給の契約が調印された。

 このCANDUの経験にもとづき、その経済性を向上させるとともに、CANDU型を改良した重水減速軽水冷却炉(CANDU-BLW)の開発が着手され、1971年に運転開始することを目標に電気出力25万キロワットの原型炉の建設計画がすすめられている。

 (西ドイツ)
 わが国と同じく原子力の開発利用におくれて着手した西ドイツにおいては、独自の原子力技術を早急に確立して、西ドイツを世界の主要原子力国にまで高め、将来、国際市場へ進出することが企図されており、科学研究省を中心に官民一体の努力が傾注されている。

 すなわち、米国からの導入技術によって、原子力発電所の建設計画がすすめられ、2号炉からは国内メーカーを主契約者とするなどの措置によって国産技術確立への努力がはらわれている。

 新型転換炉については、核燃料の有効利用、経済性の向上などをあわせ目標とし、各種の炉型について併行的に開発がすすめられている。すなわち、西ドイツ独自の構想によるペブルベッド型高温ガス炉の開発がすすめられるとともに、西ドイツのおかれた環境に即した動力炉として重水減速炭酸ガス冷却炉の開発も行なわれている。

 高速増殖炉についても、西ドイツでは、積極的にその開発がすすめられており、前述した米国SEFOR計画への参加とともに、1968年に電気出力20万ないし30万キロワットの原型炉を建設する計画がすすめられている。

 なお、西ドイツでは、動力炉開発の一環として、軽水冷却型の舶用炉の開発がすすめられている。この炉は、サバンナ号およびレーニン号につづく世界第3番目の原子力船としてすでに船体の建造が完了したオットーハーン号に搭載されることとなっている。

 (ソ連)
 ソ連では、1954年、世界ではじめて電気出力5000キロワットの黒鉛減速軽水冷却炉による原子力発電に成功し、また、原子力砕氷船レーニン号に用いた軽水炉の改良を行ない、これらの炉型による原子力発電所の建設がすすめられている。

 これらの原子力発電所の多くは、エネルギー資源の地域的偏在を解消するため、とくにシベリア地方に建設されている模様である。さらに、高速増殖炉に関しては、はやくから研究開発がすすめられてきた。最近、カスピ海沿岸に、海水脱塩を加えた2重目的の電気出力35万キロワットの高速増殖炉の建設がすすめられ、各国から注目されている。

 また、ソ連では、ドブナの国際合同原子核研究所における基礎研究をはじめ、動力炉開発の分野にいたるまで幅広い国際協力が主として東欧諸国との間にすすめられている。

 (その他の諸国)
 以上の各国のほか、イタリアでは、各種の在来型炉が外国からの導入により建設され、その特性が比較検討されており、一方、新型転換炉として、重水減速軽水冷却炉(CIRENE)の開発がすすめられており、最近には、高速増殖炉の開発計画が検討されている。

 また、ベルギー、フランス、西ドイツ、イタリア、オランダおよびルクセンブルグの6ヵ国をもって構成される欧州原子力共同体(EURATOM=ユーラトム)においては、重水減速有機材冷却炉の開発がすすめられている。

 また、経済協力開発機構(OECD)の下部機構である欧州原子力機関(ENEA)においては、高温ガス炉のドラゴン計画および重水減速重水冷却炉のハルデン計画がすすめられている。このほか、高速増殖炉の研究開発も地域内諸国の協力により,また米国との協力により、その促進をはかっている。このほか、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、スペインなどにおいても、それぞれ重水減速炉の開発が行なわれている。

 (その他の事項)
 このような世界各国における原子力発電と動力炉開発の動きに対し、1965年度には核燃料に関連する動きがめだち、これに関連して核燃料賦存量の推定も行なわれた。すなわちENEAがその事業の一環として建設をすすめてきたユーロケミックの使用済燃料再処理施設は、ほぼ完成に近づいた。

 また米国では、ニュークリア・フュエル・サービス(NFS)社が民間企業としてはじめて使用済燃料の再処理施設の建設をすすめていたが、同社の再処理施設は、建設が完了し、本格的な運転が開始された。英国原子力公社では、第2次原子力発電計画にAGRが採用されたことにかんがみ、ケープンハーストのウラン濃縮施設を改造し、微濃縮ウランの安定的供給に備えることとなり、一方、ウインズケールにおいて濃縮ウラン燃料の再処理施設の建設が開始された。

 ENEAでは、原子力発電の進展にかんがみ、そのために必要な核燃料の需給関係を想定する目的で世界のウラン資源の推定を行ない、1965年にこれを発表した。これによると、イエローケーキ1ポンドあたり5ドルから10ドルまでのいわゆる安いウランの相当確度の高い賦存量は、約65万トンとされており、このほか値段の高いウランは、今後発見される可能性のあるウランを含め相当量あるとみこまれている。

 このように先進諸国においては、動力炉の関発を鋭意すすめるとともに、核燃料確保のための措置を講じ、さらに、動力炉の開発にあたっては、国際協力によりその促進をはかっていることが注目される。

  §3 動力炉開発方針の検討
 概況で述べたとおり、原子力委員会は、動力炉開発懇談会を開催して動力炉開発方針の検討を行ない、41年3月、動力炉開発の基本となる考え方をとりまとめた。原子力委員会は、この考え方にもとづき41年5月、「動力炉開発の基本方針について」を内定した。

 一方、衆議院の科学技術振興対策特別委員会においても、動力炉開発小委員会の小委員長報告により、動力炉開発計画の策定を強く要請した。原子力委員会は、関係各方面と協議のうえ、近く動力炉開発の基本方針を正式決定する予定である。

 なお、同内定案にもられている動力炉開発の方針の大要は、次のとおりである。

 (基本となる考え方)
 原子力発電の実用化は、経済原則に従ってすすめられるべきものであり、また、その開発利用をすすめるにあたっては、わが国のおかれた環境に即し、そのエネルギー源としての有利性を最高限にいかすよう努めることが望ましい。

 わが国としては、このような観点から核燃料の安定供給と効率的利用をはかるために国内における核燃料サイクルの確立およびこれに立脚した動力炉の開発に努めるべきであり、わが国の科学技術水準の向上と産業基盤の強化に資するため、動力炉の開発は可能なかぎり、自主的にこれを行なうことが肝要である。

 核燃料の使用に関して、ウラン鉱の採掘、ウランの製錬、燃料の加工、原子炉における使用、使用済燃料の再処理、再処理によって得られた残存ウラン、プルトニウム等の再加工、原子炉におけるこれらの再使用等、核燃料利用の循環路をいう。燃料供給の安定化をはかるためには、国内において核燃料サイクルの確立をはかることが最ものぞましい。

 (動力炉の開発)
 上記の基本となる考え方にもとづき、高速増殖炉および新型転換炉については、その開発を計画的、かつ、総合的に推進するため、これを国のプロジェクトとしてとりあげるものとする。

 在来型炉については早急にその国産化をはかるものとする。
イ 高速増殖炉
 高速増殖炉は核燃料問題を基本的に解決し、かつ、将来の原子力発電の主流となるべきものであり、その重要性にかんがみ、早期に自主的開発に着手するものとする。しかし、高速増殖炉において研究開発すべき要素は多く、その実用化の時期までは、15年ないし20年を要するものとみなされる。

 したがって、その開発にあたっては、基礎的技術の蓄積に努めるとともに、国際協力をも行なって、自主的開発の効率的推進をはかることが必要である。

 プロジェクトのすすめ方は、臨界実験装置等による基礎的研究ならびに実験炉および原型炉の建設を推進するものとする。

 開発スケジュールとしては、40年代のなかばまでに実験炉の建設に着手するものとする。

ロ 新型転換炉
 新型転換炉は、高速増殖炉に比し早期に実用化することが期待され、在来型炉に比し核燃料の効率的利用、多用化等の観点から有利であり、経済性のあるものを原子力発電計画にくみいれることは、きわめて有意義であると考える。

 したがって早急にこれを実用化することを目途として、海外技術を有効に吸収しつつ、適切な自主的開発に努めるべきである。新型転換炉のうち、早期実用化の要請をみたし、かつ、天然ウランを使用しうるものは、重水減速沸騰軽水冷却炉と重水減速炭酸ガス冷却炉であると考えられるが、軽水炉の技術と経験の活用が可能であり、資本費低減の可能性がある前者をまず動力炉開発プロジェクトの対象としてとりあげる。

 開発スケジュールとしては、40年代のなかばまでに原型炉の建設に着手することとする。

ハ 在来型炉
 在来型炉については、すでに海外からの輸入による建設が始められている軽水炉が、今後当分の間、わが国の原子力発電の中心をなすとみられているので、すみやかにその国産化が可能となるよう努めるものとする。

 在来型炉の開発は、原子炉製造業者が技術導入によって行なうものであるので、その国産化および改良は、主として産業界の開発に期待する。政府としては、主として燃料および安全性に関する研究開発について必要な措置を講ずべきである。さらに初期段階における在来型炉の国産化を促進するための資金、裁判上の措置を講ずるものとする。

ニ 開発体制
 高速増殖炉および新型転換炉の開発計画は、わが国としては、かつて経験のない大規模プロジェクトであり、その実施にあたっては、長期にわたり、多額の資金と多数の人材を要するものであるので、この計画を円滑に遂行するためには、政令関係機関、学界および産業界の相互協力と積極的な参加が必要である。

 したがって、高速増殖炉および新型転換炉の開発計画の実施にあたっては、国家資金を根幹とし、民間の積極的な資金協力を得るほか、技術と経験の活用という見地から、民間技術者の参加協力を可能とするような体制をつくる必要がある。

 このため、高速増殖炉および新型転換炉の原型炉開発を担当する機関として42年度を目途に特殊法人の新設を行なうものとし、それまでの開発準備のための組織を原研に設けるものとする。
 この方針のもとに、41年6月、原研に動力炉開発臨時推進本部を発足させた。

  §4 原子力発電の進展
 40年度は、動力炉開発方針の検討がすすめられるとともに、原子力発電所の建設についても着実な進展がみられた。このような情勢から関係各方面でも原子力発電に対して大きな期待が寄せられており、原子力発電はいよいよ実用の域に達しようとしている。

 原電の東海発電所(電気出力16万6000キロワット)は、各種の故障があいつぎ営業運転開始が大幅におくれていたが、改修工事が鋭意すすめられた結果、近く営業運転を開始しうる見込みとなった。

 また、同社の敦賀発電所(電気出力32万2000キロワット)については、安全性等の審査をへて、41年4月、内閣総理大臣から設置の許可が与えられ、米国ゼネラル・エレクトリック社と建設の契約が締結され、本格的な建設工事が着手された。また、原電にひきつづき東京電力および関西電力は、それぞれ原子力発電所の建設計画を具体化している。

 すなわち、東京電力では、出力40万キロワットの福島原子力発電所を福島県双葉都双葉町および大熊町にまたがる地域に設置することとし、関西電力では、電気出力34万キロワットの美浜原子力発電所を福井県三方郡美浜町に設置することとして、それぞれ準備をすすめている。

 これらの原子力発電所の建設については、すでに内閣総理大臣に対して設置許可の申請が行なわれている。

 民間電気事業者の原子力発電に関する長期計画として、中央電力協議会は40年12月に40年度電力長期計画を発表した。これによると、50年度までに、電気事業者が運転を開始する原子力発電の容量は484万1000キロワットであるとされている。

 また、日本原子力産業会議は、41年1月に原子力発電の長期見通しを発表し、50年度の原力発電の規模は484万1000キロワット、60年度は、4276万キロワット、75年度は、1億6445万キロワットと想定している。

 通商産業大臣の諮問機関として40年7月に設置された総合エネルギー調査会は、原子力を含む各種エネルギーの位置づけに関する検討を行なっており、将来の総合エネルギー政策の観点から原子力に対してきわめて大きい期待が寄せられている。

 41年3月に行なわれた同調査会原子力部会の中間報告では、50年度の原子力発電規模は500万キロワット、60年度の原子力発電規模は3000万キロワットないし4000万キロワットとするのが適当であろうとしている。

  §5 原子力船の開発
 わが国における原子力船の開発に関しては、38年に、原子力委員会が策定した原子力第一船開発基本計画の線にそって、事業団において、設計がすすめられ、39年度末、造船業者との間に建造契約の折衝が行なわれたが、契約成立にいたらなかった。その後、事業団と造船業者および原子炉製造業者の間で、さらに契約交渉がすすめられてきたが、40年7月に事業団から船価見積額約60億円が提示された。

 原子力委員会は、これが原子力船専門部会等の議をへて予算化された第一船建造費36億円とはなはだしくかけ離れており、かつ、その内容には少なからず不確定な要素が含まれているので、この際原子力第一船の建造着手を若干延期し、上期開発基本計画の実施上の問題について検討を加えることとした。

 このため、8月から学識経験者を中心として、原子力船懇談会を開催することとした。一方、この懇談会の審議に資するため、科学技術庁は海外舶用炉開発状況調査班を派遣した。

 懇談会では、基本設計等の再検討、上記の見積価格に対する船価低減の可能性の検討を行ない、さらに舶用炉輸入の検討も行なうこととしている。

 このため、事業団においても、国産舶用炉搭載船の設計の再検討が行なわれ、また、不確定要素の解明に努力がはらわれるとともに、西ドイツのオットーハーン号搭載の舶用炉について輸出の経験をもつ米国パプコック・アンド・ウイルコックス社に対し、第一船搭載舶用炉の予備設計を依頼した。

 原子力委員会は、懇談会の検討結果などを勘案して、早急に今後の開発方針を決定する予定である。

  §6 放射線の利用
 放射線の利用は、工業、医学、農林水産業等広範囲にわたっており、かつ、最近はその利用方法もますます多岐多様なものとなっている。これらの放射線を使用する事業所数は、40年3月末において、1321に達している。

 原子力委員会は、41年度においても各分野における放射線利用に関する研究の促進をはかり、とくに食生活の向上と食品の流通機構の改善をはかることを目的とする放射線照射による食品の保存、殺菌の実用化方策の検討を開始するとともに、アイソトープの生産、頒布、廃棄物処理事業等を一貫して行なう原研アイソトープ事業部の整備を行なった。

 工業の分野では、放射線化学の研究開発面に一段の進歩がみられ、原研高崎研究所においてエチレンの高重合中間規模試験に成功するとともに国公立試験研究機関、民間企業等において新製品開発の努力がはらわれた。

 また、放射線測定器、粒子加速器等の放射線利用関連機器の国産化が急速にすすめられた。 医学の分野では、核医学が医療用計測機器の精密化、短寿命アイソトープおよび標識化合物の国産化とともに急速な進展をみせ、また癌などの悪性腫瘍に対する放射線治療技術の開発にともない、コバルト-60、セシウム-137などの放射線照射装置の全国的な普及が促進された。

 農林水産業の分野では、植物の品種改良や施肥法などの研究が行なわれ、その成果は着実に実際面に応用されており、40年度には、食品照射に関する研究が各方面の協力のもとに行なわれることが検討された。

 ラジオアイソトープの供給は、現在主として輸入に依存しているが、原研のJRR-3の整備がすすみ、また同研究所のアイソトープ事業部の強化がはかられるに従って国産アイソトープの生産も増大しつつある。

  §7 安全対策
 原子力開発利用の推進にあたっては、原子力関係施設の従事者および一般図民の安全確保をはかることはきわめて重要なことである。このため、原子力委員会を中心として安全確保に万全を期する努力がひきつづきはらわれた。

 まず、法令の整備においては「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)について、原子力船の入港に関し所要の規制を加えた改正が40年5月に行なわれたが、これにともなう施行令などの改正のほか、原子炉事故などの報告について実情に即した改正がひきつづき40年度中に行なわれた。

 また、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(障害防止法)に関しても、国際放射線防護委員会(ICRP)勧告をとりいれた改正など、現状に即するよう施行令、施行規則の改正が行なわれ、41年5月からそれぞれ施行された。

 放射線審議会においては、障害防止法施行令の改正に係わる技術的基準に関し審議され、その答申が行なわれるとともに、ICRP勧告の一部修正にともなう意見などについて関係行政機関に対し意見具申が行なわれた。

 原子炉安全専門審査会は、原電敦賀発電所原子炉をはじめ、原研の高速臨界実験装置などについて審査を行なった。

 原子力委員会は、原子炉安全基準専門部会の作成した「原子炉安全解析のための気象手引」を検討し、原子炉安全専門審査会に対して、これを今後行なう安全審査の際の指針とするよう指示した。

 また、再処理施設安全専門部会は、原研の再処理研究施設および公社の再処理施設の安全性について検討を加えている。

 原子力船安全基準専門部会は、原子力船運航に関する基本的な技術基準について検討している。

 さらに、原子力委員会は、40年5月、原子力事業従業員災害補償専門部会が答申した「原子力従業員の原子力災害補償に必要な措置について」を検討したうえ、40年8月、この答申にそって原子力従業員の原子力災害補償の措置について実施をはかるよう関係方面に指示した。

 東海地区原子力地帯整備に関し、原子力委員会は、39年12月、原子力施設地帯整備専門部会が答申した

 「東海地区における原子力施設地帯の整備方針」について検討をすすめたが、さちに40年6月、この答申にそって、茨城県が、科学技術庁の委託により作成した「東海地区原子力施設地帯の整備計画」についての報告を受けた。原子力委員会は、40年8月、上記答申および報告書を勘案し、東海地区の特殊性にかんがみ、この地区に限り地帯整備を行なうこととし、41年度に道路等の整備が行なわれることとなった。

 核実験にともなう放射性降下物に関する調査は、39年度にひきつづき実施された。

 とくに、40年5月、41年5月に、中共が行なった大気圏内核実験に対処して、内閣に設置されている放射能対策本部は、防衛庁、気象庁などにおける放射能観測を強化し、浮遊塵、雨水等の放射能調査を実施したが、とくに対策を講じる必要は認められなかった。
 また、米国原子力潜水艦の佐世保港寄港に関し、定期調査のほか、寄港前後の環境放射能調査が実施された。41年6月には、横須賀港にも入港し、同様の調査が実施されたが、いずれの場合も放射能水準に変化が認められなかった。

  §8 国際協力
 わが国は、原子力平和利用に関して、常に世界各国との密接な協力を行なうよう努力をはらってきた。40年度には、国際原子力機関(IAEA)の第9回総会が東京で開催された。IAEAの総会がウィーンを離れて開催されたことは、その創設以来はじめてのことであり、この機会に、各国代表がわが国の原子力開発に深い認識をもったこと、および、各国代表とわが国原子力関係者との会談を通じて広く国際協力の道がひらけたことは、きわめて大きい意義があった。

 また、同総会で、原子力資材の軍事目的の転用防止に関する新保障措置規則が付議され、総会後の理事会で正式に決定された。この新規則は、従来、研究用原子炉のみに限られていた保障措置の適用を、熱出力10万キロワット以上の商業用発電炉等の大型原子炉にも拡大し、その実施にあたっては、主として核物質に着目する方式をとっている。

 この新保障措置規則の採択は、原子力平和利用の確保をはかるIAEA憲章におけるその任務をさらに具体化したものであり、また、わが国もかねてからその実規を希望していたものであって、同総会の成果の一つとして注目される。

 さらに、40年度においては、とくに研究協力の積極的な推進がはかられた。すなわち、ENEAの共同事業への参加をはじめとして、ユーラトムとの研究協力についての交渉、英国との高速増殖炉に関する研究協力の実施およびフランスとの放射線化学の分野における研究協力の実施がすすめられた。

 このほか、日米原子力協力協定の保障措置のIAEAへの移管にひきつづき、日英、日加両保障措置の移管も、関係諸国とIAEAとの間で、日英については40年5月、日加については8月、それぞれ協定の内容について最終的な合意に達し、近く実現される予定である。

  §9 予算および人員の規模
 40年度原子力関係予算は、現金119.5億円、債務負担行為額14.5億円である。これを39年度と比較すると、現金額においては11.5億円(10.6%)の増額、債務負担行為額においては70.2億円(83.3%)の減額となっている。

 40年度予算においては、材料試験炉の建設、原子力第一船の建造、使用済燃料再処理施設の設計、アイソトープセンターの整備、国産動力炉の開発、高速増殖炉の研究、プルトニウム燃料の研究等重要継続事業の計画的推進に重点がおかれている。

 予算額の内訳を主な機関についてみると、原研は、政府出資額66.6億円(9.9%増)、債務負担行為額5.5億円である。その主なものは、材料試験炉建設費として、現金額13.6億円、債務負担行為額2.1億円、アイソトープセンターの整備費として、現金額2.3億円、国産動力炉の開発費として現金額0.7億円、高速増殖炉の研究開発費として、現金額2.4億円、債務負担行為額1.8億円、原子炉の整備運転費として、現金額4.2億円、債務負担行為額0.2億円、高崎研究所の整備費として、現金額4.8億円、債務負担行為額1.3億円、その他の研究開発費として、現金額16.6億円,ならびに関連事業費として、現金額1.8億円である。

 公社は政府出資額19.7億円(2.5%減)、債務負担行為額4.0億円、プルトニウム燃料研究施設費として、現金額3.8億円ならびに核燃料物質の探鉱費として、現金額2.1億円である。

 事業団は、政府出資額7.2億円である。なお、第1船建造計画の延期にともない,当初予算7.2億円を2.8億円に補正減額した。

 放医研の予算は、現金額5.3億円(0.4%増)である。

 そのほか、国立試験研究機関関係の総予算額は、現金額5.8億円、債務負担行為額0.6億円である。

 40年度末の定員は、科学技術庁原子力局および水戸原子力事務所が156名、原研が1,879名(125名増)、公社が657名(41名増)、事業団が70名(3名増)、放医研403名であり、合計3,165名である。これは39年度末の定員と比較すると、169名の増加となっている。

 原子力委員会が31年に、①アイソトープの生産頒布、②技術者の養成訓練、③利用に必要な基礎的・共通的研究を構想とするアイソトープセンター設立を決定した。原研はこれを受け、ラジオアイソトープ事業部を設け、それぞれの活動を行なうこととしている。

前頁 |目次