昭和41年度原子力予算

昭和40年8月19日原子力委員会調整額決定


 原子力委員会は、昭和41年度原子力予算(原子力局および各省庁からの要求総額約223億円、国庫債務負担行為額約50億円)について慎重に検討を重ねていたが、8月19日、以下のような調整額を決定した。

昭和41年度原子力関係予算の見積方針

I 基本方針
 わが国が原子力開発に着手して以来約10年、この間、海外における研究成果を吸収しつつ、日本原子力研究所、原子燃料公社等を中心に基礎的研究開発の態勢を整える一方、開発利用の面においても原子力発電所の建設、原子力船の建造および放射線利用について、計画的な推進をはかってきた。しかしながら、原子力の開発は基礎的研究から実用段階に移行するという重大な時期にさしかかっており、種々克服すべき問題も生じてきている。今や、これらの問題の解決をはかるとともに、長期的観点に立ち原子力の開発利用について具体的指針を確立し、かつ、その推進をはかることが要請される。
 原子力委員会としては、原子力発電の開発については今後のわが国のエネルギー供給の担手となるべき原子力発電の重要性にかんがみ、極力、エネルギー供給の自立体制を確立する見地から、核燃料の安定供給と効率的利用をはかるための国内における核燃料サイクルの確立および動力炉の自主的開発を強力に推進する。その実施にあたっては、新型転換炉および高速増殖炉の研究開発を国のプロジェクトとして各界の協力のもとに進め、また、海外で開発された在来型導入炉の建設および国産化を促進する。
 さらに、国内における再処理体制を確立するため、再処理施設を建設する。
 原子力船の建造については「原子力第一船開発基本計画」の実施上の問題点を十分検討の上各界の協力を得て、可能な限り早急に軌道にのせる。
 放射線の利用については、既定方針にしたがい日本原子力研究所において必要な施設の整備をはかるとともに、国立試験研究機関等において、広範囲にわたる放射線利用に関する研究を促進する。
 茨城県東海村には、原子力開発の中心的機関である日本原子力研究所、原子燃料公社等をはじめとする多数の原子力施設が設置されているので、住民の安全の確保と当該地帯の健全な発展をはかるため、これら施設に隣接した地域に限り、道路、有線放送施設等公共施設の整備について必要な予算措置を講ずる。
 以上のほか、国立試験研究機関、理化学研究所等における原子力開発研究の推進、民間に対する試験研究補助金、委託費の交付、国際協力の推進、原子力施設の安全対策等原子力開発利用を総合的に推進するのに必要な諸施設等についても、その重要性にかんがみ慎重に配慮し、所要の予算額を計上する。
 また、研究開発体制の整備、特に動力炉の研究開発の推進、安全対策の強化の面から必要なものに限り行政機関の人員、機構を充足強化する。
 以上の方針に基づき慎重に調整を行なった結果、41年度原子力予算は、各省庁行政費を含めて約155億円および国庫債務負担行為額約30億円である。また、行政機関の定員増を含め、原子力開発機関等に必要な人員増は284名である。これらの資金および人員は、今後わが国における原子力開発利用を着実に進展させるために最少限必要なものであるので、その確保を強く要請する。

II 主な事業

1.動力炉の研究開発
 41年度においては、動力炉開発のための実施計画の立案ならびに研究開発体制および施設の整備を進めることに重点を置くとともに、必要な研究についてこれを推進する。
 すなわち、新型転換炉については、これまでの調査研究の成果をいかし、設計および調査を実施する。高速増殖炉については、その研究に必要な高速臨界実験装置の建設を前年度に引き続き行なうほか、大型ナトリウムループの建設に着手する。在来型導入炉については、その国産化を促進するため、動力試験炉(JPDR)の改造、試験研究委託費、補助金の交付等により安全性および燃料に関する研究を推進する。また、これらの各炉型の研究開発の推進に必要な材料試験炉(JMTR)を前年度に引き続き既定計画に沿って建設する。(必要経費38.4億円国庫債務負担行為額17.6億円)

2.原子力第1船の建造
 一応原子力船の建造に必要最小限の経費を計上するほか、必要な試験研究を実施する。(必要経費約1億円)

3.使用済燃料再処理施設の設計
 46年度完成を目標に41年度においては、前年度に引き続き再処理施設主工程の詳細設計を実施する。
 (必要経費5.1億円国庫債務負担行為額約9億円)

4.東海地区原子力施設地帯整備
 41年度から東海地域における道路の整備、有線放送施設の設置等に係る事業についての必要な補助措置を講ずる。(必要経費約2.7億円)

III その他の主要な事項

1.原子炉の運転等
 日本原子力研究所の原子炉による研究開発を円滑に行なうため、原子炉および機器の整備をはかる。また、わが国における原子炉および臨界実験装置の運転ならびに研究に必要な核燃料を調達する経費を計上する。(必要経費約12.8億円国庫債務負担行為額約4.2億円)

2.放射線の利用
 前年度に引き続き、日本原子力研究所におけるアイソトープ事業部および高崎研究所における放射線化学中間規模試験施設の整備をはかるとともに、国立試験研究機関等において、また民間における研究の助成により農業、医学等の分野における放射線の利用に関する研究を促進する。(必要経費約9.6億円国庫債務負担行為額0.4億円)

3.民間企業に対する研究補助および研究委託
 前年度に引き続き民間の行なう重要な試験研究について補助することとし、41年度においては、在来型導入炉の国産化の重要性にかんがみ、動力炉の燃料に関する研究に重点をおいて助成する。
 また、国が行なう必要のある試験研究のうち、民間において実施することがより効果的なものについては、これを民間に委託することとし、41年度においては、在来型導入炉の安全性に関する試験研究に重点をおいて委託する。(必要経費約4.1億円)

4.安全対策の強化

(1)原子力利用に伴う安全対策前年度に引き続き放射線医学総合研究所、日本原子力研究所等において、また、前記委託費の交付を通じて放射線障害防止ならびに原子力施設の安全の確保およびこれらに必要な研究を実施する。なお、水戸原子力事務所による放射能監視業務の強化をはかる。(必要経費10.5億円)

(2)放射能調査の強化放射性降下物の人体に与える永続的影響にかんがみ、環境、食品、人体等の放射能の調査および研究を引き続き実施することとし、とくに裏日本における調査を強化する。また、放射性廃棄物の海洋処分に関し、海洋汚染の調査研究の強化および原子力施設の設置に備えて、環境放射能の調査を強化する。(必要経費約1.2億円)

(3)原子力船入港にともなう港湾調査原子力船入港に備えて、本年度から主要港周辺の気象、海象、人口分布等に関し、必要な調査に着手する。(必要経費約0.04億円)

5.国際協力の推進
 国際協力を一層強力に推進するため、前年度に引き続き、米国等諸外国との研究協力を推進するとともに、科学技術者の交流、情報の交換等を積極的に行なうほか、新たに欧州原子力機関の事業への参加をはかる。(必要経費約2.2億円)

6.人材の養成前年度に引き続き、日本原子力研究所の原子炉研修所およびアイソトープ研修所ならびに放射線医学総合研究所養成訓練部において原子力関係科学者の養成訓練を行なうほか、専門技術を習得させるため海外に留学生を派遣する。(必要経費約1.2億円)

7.行政機構の整備
 今後、動力炉開発を国のプロジェクトとして各界の協力のもとに強力に推進することが必要であり、それぞれの計画の調整、予算の見積り配分等を一元的に行なうため、原子力局に「動力炉開発課」を新設する。そのほか、アイソトープ使用事業所等の増加に対処し、放射線障害防止業務等の実施の円滑化をはかり、また、水戸原子力事務所の業務の増大に対処するため職員11名の増員を行なう。さらに、国際協力を一層推進するため、科学アタッシェについて所要の増員を行なう。

IV 原子力関係機関等に必要な経費

1.日本原子力研究所
 既にのべた事業のほか、大洗地区の整備、拡充ならびに東海研究所および高崎研究所の研究部門の充実、研究サービス部門の整備等を含め、41年度における同研究所に必要な経費の総額は、約97.8億円(うち、政府出資約94.1億円)および国庫債務負担行為額約17.9億円である。また、動力炉開発、放射線化学中間規模試験、材料試験炉の建設等の本格化に伴う人員の充足に重点を置き、200名の増員を行なう。

2.原子燃料公社
 既にのべた事業のほか、核原料物質の探鉱および製錬、プルトニウム燃料の研究開発等を含め、41年度における同公社に必要な経費の総額は、約23.9億円(うち政府出資約23.3億円)および国庫債務負担行為額約9億円である。また、再処理およびプルトニウム部門の整備に重点を置き57名の増員を行なう。

3.日本原子力船開発事業団
 既にのべた「原子力第一船開発基本計画」の実施上の問題点の検討に必要な経費のほか、運営管理費を含め41年度における同事業団に必要な経費の総額は、約2.6億円(うち政府出資約1.9億円)である。

4.放射線医学総合研究所
 特別研究の充実、第2研究棟の建設等を含め、41年度における同研究所に必要な経費の総額は、約7億円である。また、特別研究の充実に重点をおき、16名の増員を行なう。

5.国立試験研究機関および理化学研究所
 国立試験研究機関における放射線の利用、原子炉材料、原子力船等に関する研究および核原料物質等の探査を含め、41年度において国立試験研究機関に必要な経費の総額は、約7.3億円である。また、理化学研究所におけるサイクロトロンおよびバンデグラフ型加速器の建設を含め、41年度において同研究所に必要な経費は、現金額約2.7億円、国庫債務負担行為額約0.4億円である。

昭和41年度原子力関係予算概算要求事項別総表


  1. 昭和41年度日本原子力研究所予算概算要求総括表



  2. 昭和41年度原子燃料公社予算概算要求総括表


  3. 昭和41年度日本原子力船開発事業団予算概算要求総括表


  4. 昭和41年度放射線医学総合研究所予算概算要求


  5. 国立機関の試験研究に必要な経費









  6. 試験研究の補助委託に必要な経費


  7. 核燃料物質の購入等に必要な経費


  8. 原子力技術者の海外派遣に必要な経費


  9. 放射性廃棄物処理事業の助成に必要な経費


  10. 放射能調査研究に必要な経費



  11. 理化学研究所に必要な経費


  12. 原子力発電所立地調査に必要な経費


  13. 東海地区原子力施設地帯整備に必要な経費


  14. 原子力委員会に必要な経費


  15. 放射線審議会に必要な経費


  16. 原子力局の一般行政に必要な経費




  17. 日本科学技術情報センターに必要な経費


  18. 関係各省庁における行政費