資料

放射線障害防止法の施行状況について

昭和40年3月31日現在

はじめに

 原子力平和利用の一分野である放射性同位元素等の放射線利用は近年ますます発展拡大を示している。
 わが国における放射性同位元素の使用も、第1表の輸入量の推移に見るごとく、年々増大しているが、昭和37年からは、これらに日本原子力研究所で製造された国産の放射性同位元素の使用も加わっている。
 こうした放射線の利用は、当然人体への障害の危険を伴い、放射性同位元素の増加とともに、その取扱いについて何らかの法的規制が必要になった。
 昭和31年、科学技術庁が発足し、原子力局において法案制定の調査検討が進められたが、翌32年、国際放射線防護委員会(ICRP)の1954年勧告を尊重して「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」および「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(以下、放射線障害防止法という。)が公布された。放射線障害防止法は、その後昭和35年に法施行2年間の経験に加えて、ICRPの1958年の勧告を尊重して改正されたが、昭和39年ICRPから1962年の新勧告がだされており、これについても放射線審議会において審議が行なわれている。
 放射線障害防止法は、放射性同位元素や放射線発生装置の使用を許可または届出制とし、また、放射性同位元素の販売や廃棄を許可制として、それぞれ、その施設や取扱いを定められた基準に適合させることによって放射線障害の防止を行なおうとするものである。放射線障害防止法による許可届出事業所も年々増加をつづけ、昭和40年3月末現在、使用事業所1,204、販売所19、廃棄事業所4に達している。

  第1表 主要放射性同位元素の輸入量

  第2表 使用事業所数の推移

 

I 使用、販売および廃棄事業所の状況

1.使用事業所

 放射線障害防止法に規定する放射性同位元素や放射線発生装置を使用しようとするものは、同法にもとづき、事前に科学技術庁長官の許可をうけなければならない。ただし、1工場または1事業所当り、密封した放射性同位元素総量100ミリキュリー以下を使用する場合は届出でよい。許可または届出による使用事業所数は第2表に見るごとく、昭和40年3月末現在許可863、届出341、総計1,204に達し、前年度に比してそれぞれ70、24、合計94で8.4%の増加となっている。
 これらの事業所を機関別に下表のごとく分類して、その年度別の推移を見ると、第3表および第1図のごとくなる。39年度における事業所数の機関別の分類によると医療機関36.4%、研究機関20.7%、教育機関10.8%、民間機関29.6%、その他2.5%となる。

1−1 医療機関

 使用事業所数の約36%が医療機関である。医療機関における使用は放射線障害防止法の対象外としている放射性医薬品の使用を除けば、密封状態のラジウム226、コバルト60等の照射器具や装置がほとんどで、これらは悪性腫瘍などの治療に用いられている。
 放射線発生装置は、診断用エックス線装置などは放射線障害防止法の対象外になっているので、これを除けば、ベータトロンや直線加速装置などの医療用放射線発生装置を備える病院の数はまだ多くない。

第1図 使用事業所の推移

  第3表 使用事業所数の機関別推移


  第4表 使用事業所都道府県別機関別数


第2図 使用事業所都道府県別分布

第5表 主要都府県における使用事業所数

 ラジウム226による悪性腫瘍の治療は古くから行なわれており、広く普及している。しかし、近年コバルト60やセシウム137等、人工の放射性同位元素の医療用利用の伸びが著しく、とくに、500〜3,000キュリー程度のコバルト60による遠隔照射装置の使用が急増しており、癌等の悪性腫瘍の治療にその偉力を発挿している。これら遠隔照射装置には利点が多いが設備費等の理由で一般診療所や小規模な病院には採用されにくく、この面の治療が大病院に集中する傾向を強めている。
 これらの医療機関を国、公、私立別に分類すると第6表のごとくなり、当初は国、公立病院の使用が多かったが最近は私立病院の使用が過半数を占めるに至った。

第6表 医療機関組織別事業所数

 医療関係使用事業所を病院、診療所別に見ると第7表のごとく、一般病院402、一般診療所36、計438で、病院総数6,621、診療所総数62,363のそれぞれの6.1%および0.06%にすぎず、昭和36年に米国の病院においては約33%の使用率を示しているのに比べて、その普及割合はまだまだ低いので、今後はますます増加すると考えられる。

   第7表 医療機関都道府県別事業所数


1−2 研究機関

 放射性同位元素や放射線発生装置は、当初から、理学、工学、農学、医学等の各分野において研究用として活発に使われてきた。 
 研究機関における放射性同位元素の利用方法は種々多様であるが、他の機関と比較すると非密封放射性同位元素や、サイクロトロン、ファンデグラーフ型加速装置等放射線発生装置の使用が多い。
 これらの研究機関を国、公、私立別に分類すると第8表のごとくなる。当初は国立研究機関における使用が多かったが、最近は民間会社関係の試験研究機関における使用の増加が目立っている。

第8表 研究機関組織別事業所数


第9表 研究機関における使用普及度

※総理府統計局「1964年科学技術研究調査報告」(昭和39年4月現在)による。
 自然科学関係研究機関に、自然科学関係の大学付置研究所を加えたもの。

 研究機関における普及率は第9表のとおりで現在すでにかなりの高率を示しており、これら機関の絶対数は他の機関に比較するとあまり多くないので今後の大幅な増加はあまり考えられない。

1−3 教育機関

 教育機関における放射性同位元素等使用事業所は、高等学校等数件をのぞいて、ほとんどが大学各学部である。
 大学は、教育機関であるとともに研究機関としての性格を合わせもっており、使用事業所である大学学部の約80%が非密封放射性同位元素を使用している。
 学部も、工学部、理学部、農学部、医学部、薬学部等理工系各学部にわたっている。また、これら学部を国、公、私立別に見ると、第10表のごとく、国立が圧倒的に多い。研究機関に分類されている国立大学の付置研究所、研究施設まで含めて考えると、国立大学における放射性同位元素等の使用の割合はかなり高いといえる。

第10表 教育機関組織別事業所数

 教育機関における普及率は第11表のとおりで、今後の増加については研究機関におけると同様、きわめて少ないものと考えられる。

第11表 教育機関における使用普及度

※文部省大学学術局大学課「昭和39年度全国大学一覧」(昭和39年4月現在)による昼間部 理、工、農、医 、薬、歯学部のほか教養、文理、学芸の各学部を含む。

1−4 民間機関

 昭和40年3月末現在の民間機関使用事業所数は、許可224、届出132、計356に上り、業種別に分類すると、第12表のごとくほとんどあらゆる業種にわたっている。
 民間機関においては、当初、研究、実験的な利用が多かったが、近年は厚み計や液面計のような工場現場用測定装置への利用が大幅に増加している。
 昭和40年3月末現在民間関係事業所(会社付属研究所を含む。)の放射性同位元素装備機器許可台数を機種別に分類すると、第13表のごとく、厚み計液面計等工場の工程設備内に組入れられる測定装置が54.8%を占め、この面の工業利用の過半数を占めている。また、39年3月末現在と比較すると液面計、厚み計、密度計(水分計)が大幅に増加しているのが見られる。

第12表 民間機関業種別使用事業所数


第13表 民間機関(含民間研究所)
     工業利用装備機器許可台数

 非破壊検査用照射装置も保有台数が多いが、これらは、溶接部や鋳造物の内部欠陥の検査に使われている。 液面計、厚み計、非破壊検査装置について年度別に使用の許可を受け、または届出を行なった事業所を見ると第14表のごとくなり、液面計、厚み計については、最近ますます増加の傾向にあるといえる。また、これらの装備機器の一事業所ごとの許可台数の分布を見ると第15表のごとくなり、液面計、厚み計については、1事業所で2台以上10台までを使用している事業所が過半数を占めている。また、20台以上を使用している事業所が液面計で3、厚み計で1あることも注目に値する。


第14表 装備機器(液面計、厚み計、非破壊検査装置)
年度別事業所(含民間研究所)の推移


第15表 装備機器(液面計、厚み計、非破壊検査装置)
許可台数別事業所(含民間研究所)分布状況

1−5 その他の機関

 その他としては、自衛隊関係、行政官庁、建設省地方建設局工事々務所などがある。密封小線源による教育、訓練用や調査的な使用が多く、一時的な使用がかなりを占めている。

2 販売および廃棄事業所

2−1 販売所

 販売所の許可は昭和33年度1件、37年度1件、38年度10件、39年度7件と合計19件である。
地域別では、東京都13、兵庫県3、神奈川県・京都府・茨城県各1となっている。
 放射性同位元素の販売の形態は多種多様であるが、これらを大別するとおよそ次のように分けられる。

A 放射性同位元素を輸入し、詰替して販売を行なうもの

B 原子炉、サイクロトロン等によって放射性同位元素を製造し販売するもの

C 機器を製作し、放射性同位元素を装備して販売するもの

D 標識化合物を製造販売するもの

E 発光塗料の製造し販売するもの

F 放射性同位元素を装備した機器の販売するもの

G 現物を扱わないで放射性同位元素またはその装備機器を輸入するもの

 昭和40年3月末までに許可した販売所を上記によって分類すると、A1件、B3件、C10件、D3件、E2件で、F・Gは申請中のものがある。
 販売所における施設についてみると、すでに許可した販売所はおおむね使用の許可をとっており、販売のために必要な詰替、貯蔵および廃棄の各施設は使用の許可のための施設の共用、またはその一部の使用によっている。
 なお、販売業については、申請をしているが、現在保留となっているものが多い。これらのほとんどは前記Gに該当する輸入業者で、現物を扱うことがなく、従って、そのための施設を持たないものであり、今後の検討が必要である。

2−2 廃棄事業所

 廃棄業の許可は、38年度に3件、39年度に1件の許可を行なった。これらはいずれも日本放射性同位元素協会の事業所であり、地域別にみると茨城県、大阪府、宮城県および福岡県に各1件ずつある。

3 利用形態別の使用事業所の状況

3−1 非密封放射性同位元素

 昭和40年3月末現在、非密封の放射性同位元素を使用する事業所は360に上り、全使用事業所の約30%にあたる。
 非密封放射性同位元素使用事業所の機関別内訳は、第16表のとおりで、教育機関と研究機関が圧倒的に多く、両者で83%を占めている。

第16表 非密封放射性同位元素機関別使用事業所数

 このように非密封放射性同位元素の利用は、当初ほとんどが化学、生物等の実験研究用に限られていたが、製鉄用高炉炉壁の侵蝕調査、金属中の不純物の挙動研究、ロータリキルン内の物質の移動調査など実際の工業面の利用や建設土木関係におけるダムの漏水、地下水の移動、河川の流量調査などにも拡がってきている。なお、治療用の非密封放射性同位元素の使用は放射性医薬品として薬事法に委ねられている。

第17表 コバルト60 1c以上を装備する機関別照射装置許可台数


第18表 セシウム137 1c以上を装備する機関別照射装置許可台数


3−2 照射装置

 昭和40年3月末における、1c以上のコバルト60およびセシウム137を装備する機器の機関別許可台数は第17表および第18表のとおりである。
 コバルト60については1c〜100cまででは、ほとんどが、民間機関における非破壊検査用であり、100c〜10,000cまではほとんどが癌等の悪性腫瘍の治療に使われている。今後、これらの設置はさらに増加するものと思われる。その他、研究機関、教育機関において、化学反応促進や合成繊維等の物性研究、植物の品種改良等、種々の研究実験に使われている。
 セシウム137については10c未満における非破壊検査、液面計などの装備機器による使用が大部分を占め、1,000c以上の利用は医療用がわずか6件でその普及率はコバルト60に比するときわめて低い。

3−3 放射線発生装置

 放射線障害防止法に規定する放射線発生装置の機関別許可台数は第19表のとおりである。
 研究、教育機関では、各種の発生装置が使われているが、これら両機関で全体の73%を占めている。

第19表 放射線発生装置許可台数

 民間機関では、ベータトロンの使用が多いが、このほとんどは、ボイラー、高圧容器等の非破壊検査に使われている。
 医療機関における放射線発生装置の使用は未だ少ないが、ベータトロンと直線加速装置は、癌等の悪性腫瘍の治療に使われており、とくに前者は最近増加の傾向にある。なお、前年に比較してみると総数で19台の増加となり、うちコッククロフト型が12台と大幅な許可の増加を示している。


II 放射線取扱主任者

 放射線取扱主任者の資格には第1種と第2種があり、いずれも国家試験によりその免状が与えられる。

 放射線取扱主任者免状所有者数は、第20表のとおりで、昭和40年3月末現在の機関別分類は第21表のごとくなっている。

第20表 放射線取扱主任者免状所有者数


第21表 機関別放射線取扱主任者免状所有数

 医療用の使用事業所では、医師を取扱主任者に選任することができるので、放射線取扱主任者の有資格者数は使用事業所数を大幅に上回っている。しかし、その他の機関では一部の事業所への免状所有者の偏在傾向が見られ、中小企業などで新たに使用をはじめようとする場合などには問題があろう。
 なお、放射線取扱主任者試験合格率を年度別にあげると第22表のごとくなり、第2種については平均合格率40.5%であるが、第1種についてはわずか27.1%で相当低率といえる。


第22表 放射線取扱主任者試験合格率一覧



 付属資料

 職業人の被曝線量

  1 昭和39年度γ線従事者年間積算被曝線量(日本)



2.昭和39年度原子炉関係従事者被ばく線量(日本)(年間)

3.イギリス原子力公社の例(1963年4月1日〜1964年3月31日)

 19,500人のうち、13週3remをこえたものは、5件であり、うち4件はガンマ線による被ばく、他の1件は3Hの吸入によるものであった。なお1961年度は8件、1962年度は6件であった。

4.アメリカ放射線作業従事者の被ばく線量(1963)