原子力委員会

原子力施設地帯整備専門部会答申


 原子力委員会は、昭和37年9月19日開催された定例委員会において、東海地区原子力施設地帯整備に関する計画のうち原子力に関するものを検討するため原子力施設地帯整備専門部会の設置を決定した。
 同部会は、37年11月の第1回部会以降審議を続け、第2回部会において、まず、人口分布小委員会を設置し、都市計画策定の基礎になる考え方をまとめるとともに、地帯整備の対象地区について検討するため5回の小委員会を開催し、38年7月中間報告を行なった。この中間報告に沿って地帯整備の具体的計画について検討をすすめるため、38年7月都市計画小委員会が設置された。同小委員会は8回の開催および現地視察を行ない、39年6月中間報告を行なった。
 この報告を受けた専門部会は、慎重に検討を加えた結果、都市計画小委員会のほぼ報告どおりの内容を12月23日の部会において決定し、原子力委員会に対し答申した。
 専門部会の答申書は次のとおりである。

原子力施設地帯整備専門部会答申書

昭和39年12月23日  

  原子力委員会委員長 愛知揆一殿

原子力施設地帯整備専門部会    

部会長 飯沼一省  

答申

 原子力施設地帯整備専門部会は「東海地区原子力施設地帯整備に関する計画のうち原子力利用に関するもの」について検討するため昭和37年9月設置され、その後人口分布、都市計画等について審議を行なってきましたが、その結果をとりまとめましたので、ここに報告致します。
 なお、本報告に基づく地帯整備の実施に当たっては、国の積極的な努力を要望するとともに、地元の発展を阻害することのないようご考慮願います。

原子力施設地帯整備専門部会構成

部会構成員

 会長 飯沼 一省  都市計画協会会長
    井上 五郎  日本原子力産業会議顧問
    今井 美材  原子燃料公社理事長
    高橋幸三郎  前 原子燃料公社理事長
    岩上 二郎  茨城県知事
    雄川 一郎  東京大学教授
    小西 則良  首都圏整備委員会事務局長
    関盛 吉雄  前 首都圏整備委員会事務局長
    水野  岑  前 首都圏整備委員会事務局長
    谷藤 正三  前 首都圏整備委員会事務局長
    駒井健一郎  (株)日立製作所取締役社長
    佐久間 彊  自治省行政局長
    左合 正雄  東京都立大学教授
    島田 喜仁  通商産業省企業局長
    佐橋  滋  前 通商産業省企業局長
    鈴木 一司  前 茨城県議会原子力開発特別委員長
    田島 英三  立教大学教授
    館林 宣夫  厚生省環境衛生局長
    五十嵐義明  前 厚生省環境衛生局長
    塚本 憲甫  放射線医学総合研究所長
    鶴海良一郎  建設省都市局長
    丹羽 周夫  日本原子力研究所理事長
    菊池 正士  前 日本原子力研究所理事長
    丹羽雅次郎  農林省農地局長
    任田 新治  前 農林省農地局長
    堀  武夫  運輸省官房長
    今井 栄文  前 運輸省官房長
    佐藤 光夫  前 運輸省官房長
    広瀬 真一  前 運輸省官房長
    松井 達夫  早稲田大学教授
    安川第五郎  日本原子力発電(株)会長
    渡辺 覚造  茨城原子力開発協議会会長

1.はしがき
 本専門部会は「東海地区原子力施設地帯整備に関する計画のうち原子力利用に関するもの」について検討するため、昭和37年9月設置された。
 このため、本専門部会は「人口分布小委員会」(主査田島委員)および「都市計画小委員会」(主査松井委員)の2小委員会を設け一定の仮想条件に基づき審議を進めた結果「人口分布小委員会」は38年7月第3回専門部会において、また「都市計画小委員会」は39年6月第4回専門部会においてそれぞれ中間報告を行ない、その結論は了承された。
 「都市計画小委員会」の中間報告は「人口分布小委員会」の中間報告の結論に準拠し、適正人口分布と地域の開発計画に見合う将来人口の伸びとの調整をはかりつつ対象地域内の事情を慎重に考慮して適正な整備計画の策定のための基本方針の確立をはかっている。
 本専門部会は、これらの中間報告を基礎として本専門部会の答申を作成した。

2.基本的考え方
 この答申の基本的考え方は、次のとおりである。

(1)原子力施設地帯の住民の安全の確保と福祉の増進を前提として、人口や各種施設の配置とその規模の適正化を期しつつ、この地帯の健全な発展をはかることを目標とする。

(2)具体的には、原子力施設地帯を3段階に分け、原子力施設隣接地区(原子力施設からおおむね2km未満)には、つとめて人口の増加が生じないよう、近傍地区(おおむね2km以上6km未満)には、規模の大きい人口集中地区が存在しないようそれぞれ配慮する。また、その他の周辺地区(おおむね6km以上)には、人口の増加が正常に行なわれるよう留意する。

(3)したがって、東海村および水戸対地射撃場を中心とする原子力施設地帯の理想像を端的にいえば、白亜の原子力施設を、公園、緑地等のグリーン・ベルト地帯がとりまき、その周囲には工場その他居住用以外の諸施設が配置され、さらにその外側には住宅が整備され、また、これらを結ぶ道路、衛生施設等が完備されることである。

(4)原子力施設地帯の整備は、原則として現行法の枠内で考え、具体的内容は、主として各市町村の都市計画に反映させる。

(5)既に都市計画を実施中のものおよび決定済みのものについては、できる限りこれを尊重する。

3.具体的整備方針

(1)人口分布、施設配置の適正化

(a)原子力施設隣接地区
 東海発電所を中心とした隣接地区の昭和35年現在の人口は3,088人であり、45年の人口は3,700人となると推定される。この地区については、この見通しをこえる今後の人口増加は望ましくない。また、住居のほか、乳幼児、小児および児童の多く集まる施設の新設も望ましくない。
 水戸対地射爆撃場の中央部を中心とした隣接地区の昭和35年現在の人口は263人であり、45年の人口はほぼ横ばいとなると推定される。したがって、人口の増加については問題はないが、前述同様、乳幼児等の多く集まる施設等の新設は望ましくない。
 東海発電所の隣接地区については、次のような手段により人口の増加を防止する必要がある。

(イ)公園、緑地等の拡大
 国または地方公共団体が地域の振興策の一として地区内の土地を買収し、空地、緑地を必要とする公共施設(公園、運動場等)各種試験場(農業試験所、林業試験所等)を積極的に配置するほか、民間の同様の施設を誘致する。

(ロ)農業地区としての発達促進
 地区内の農地を将来にわたって農地として確保するため、適切な農業構造改善投資を積極的に行ない、農業地区として発展をはかる。

(ハ)国、公有緑地の保存
 地区における国、公有緑地としては、東海発電所北方の県有林約9万坪、同じく西方および南方の村有林約2万坪等がある。これらについては、永久に緑地として保存する。

(ニ)土地の買収または地役権の設定
 前述(イ)、(ロ)または(ハ)の措置によってもこの地区の人口の増加を防止し得ない場合には必要に応じ、国または原子力事業者による土地の買収または地役権の設定について考慮する。

(b)原子力施設近傍地区
 原子力施設近傍地区には、規模の大きい人口集中地区があることは望ましくない。このような観点から将来特に問題となる地区は、日立市久慈町、東海村東海駅付近および勝田市勝田駅を中心としたその東部一帯である。
 これらの地区については、そこに形成される予定の人口集中規模を縮少することが望ましい。
 このため、次のような手段を講ずるほか、農地の転用に当たっては慎重に取り扱うことが必要である。

(イ)都市計画法および首都圏整備法による調整都市計画施設の配置を検討することにより、住居地区の配置を適正にし、人口集中の規模を縮少しうる。これは、地元市町村の申出を前提とするため、一部地区については開発面と規制面との調整の困難はあろうが、あらゆる場合に有効な手段である。特に、この場合、日立市東南部については、久慈町の旧市街地に近い方に工場を、西側の遠い方に住居を、また、東海村については、住居地区はなるべく駅の西側に配置することが望ましい。
 さらに、勝田市については、首都圏整備法に基づき市街地開発区域として指定されている地区の一部を開発区域からはずせば可能であるが、その区画整理事業がすでに進行中であるので、この方法は難かしいと思われる。しかし、現在開発の進んでいる地区には特に強い空地地区の指定を行なうとともに、現在区画整理事業を行なっていない地区で今後開発が行なわれる場合にも同様に人口の密集が起こらないよう強い空地地区の指定を行なうよう努めることは、最少限必要なことであると思われる。

(ロ)国、公有の緑地等の転用抑制
 この地区における国、公有の緑地等としては、日立市の国、市有林(約8万坪)、東海村の国立療養施設敷地(約11万坪)、勝田市の自衛隊施設(約15万坪)等があるが、これらを将来定住人口の増加をきたすような用途として払い下げることは、避けるべきである。

(ハ)緑地等の拡大
 国または地方公共団体が、問題となる地区内の土地を買収し、空地、緑地を必要とする公共施設(試験研究機関、レクリエーション施設等)を積極的に配置するほか、同様の民間施設を誘致する。

(c)その他の周辺地区
 その他の周辺地区については、特別な規制は行なわれないものとし、隣接地区および近傍地区との関連において、道路、上下水道等の整備を行なう等生活環境の改善をはかるべきである。

(2)道路
 原子力施設地帯の市町村においては、それぞれ都市計画法に基づき道路計画を進めている。これらの計画は、産業および日常活動のために計画されたものであるが、万々一の場合の避難上の必要からみると多少の補足が必要である。
 すなわち、東海村の駅周辺については、同村の都市計画道路のほか、導入寺から原坪に至る路線および岡から豊岡に至る路線の新設が必要である。また、日立市久慈町については、同市の都市計画道路のほか、原坪から南高野に至る路線、石名坂町から成沢町に至る予定線の新設および南高野町から大橋に至る私鉄日立電鉄沿いの路線の改良が必要である。
 これらの市町村の計画道路は、上述の趣旨にかんがみ、国としてもその事業実施について特段の配慮を払うことが望ましい。

(3)上下水道等
 原子力施設地帯の上下水道等の整備については現在、地元地方公共団体において、整備計画が検討されているが、原子力施設地帯としての特殊性を考慮すると、この地帯を総合的な観点から整備するという配慮が必要である。特に用排水を含めた環境モニタリングは、一層強化する必要がある。上水道、工業用水道、下水道別内訳の概要は、次のとおりである。

(a)上水道
 上水道(表流水利用分のみ)については、日立市は、現在、給水人口12万人に相当する水量として、久慈川から工事中のものを含めて0.502m3/secの用水の供給をしようとしているが、将来の人口増加に伴い需要が増加すると考えられることおよび久慈川からの取水が限度にきていることにかんがみ、那珂川からの取水が計画されることが望ましい。勝田市は、すでに用水している0.083m3/secに加えて、給水人口10万人を目標に那珂川から0.322m3/secを確保する拡張工事を進めているが、首都圏開発地域整備計画との関連において、さらに拡張整備をはかることが検討されている。
 東海村については、未だ具体的計画はないが、将来は、那珂川からの勝田市との共同取水による上水の確保の検討が必要である。

(b)工業用水道
 工業用水道については、茨城県は総額942百万円で37年度から8ヵ年計画の勝田市、および那珂町(将来は日立市まで延長する予定)を給水区域とする那珂川工業用水道布設事業を実施中であり、これが完成すると1日当り10万m3の工業用水の供給が確保されることとなる。

(c)下水道
下水道については、勝田市においては高揚下水路が38年に完成し、また、大島下水路の着工(40〜44年)が予定されている。また、東海村においても、駅周辺および長掘住宅団地等を対象にした下水路の着工(41〜43年)が予定されている。
 原子燃料公社は、現在、東海村の新川に排水しており、また、今後建設予定の原子力関係民間企業も同様の計画を有しているが、新川は地形上の理由により河口閉塞を起こすこともあり、現状では原子力施設の排水路として必ずしも十分でないので、川口の改修または専用排水路の新設等の措置が必要である。

(4)港湾
 当該地域内の港湾としては、日立港および大洗港の2港がある。前者は、昭和32年度に築港が開始され、現在5,000トン級船舶用岸壁2バースを完成し、さらに10,000トン級船舶用岸壁の建設が進められている。また、後者は、36年に築港が開始され、500トン級船舶用岸壁の建設が目標とされている。
 これら現状にかんがみると、港湾施設については、一応問題はないものと考えられるが、将来、使用済燃料の再処理等に関連する輸送が現実化した場合、現状および将来の計画で十分かどうかを検討する必要があると思われる。

4.あとがき
 茨城県東梅村およびその周辺の市町村は、わが国の原子力センターとして発展しつつあり、また、近代的産業都市として最近急速に成長を遂げようとしている。
 しかしながら、この地帯を「原子力施設地帯整備」の観点から見た場合、上述のとおり種々の対策を速かに講ずる必要があるものと考える。
 したがって、この地帯の特殊性にかんがみるとき、その調和的発展のためには、これらの対策を都市計画等に反映させることが是非とも必要である。
 この施策は、原子力産業の健全な発展と地元住民の福祉の向上のために行なわれるものであり、民間の協力をえて、国と地元地方公共団体が一体となって、その積極的な推進に努めることが肝要である。