昭和40年度原子力平和利用研究委託費
要望題目および同研究費補助金要望課題



 昭和40年度における原子力平和利用研究委託費に係る試験研究題目および同研究費補助金に係る試験研究課題ならびに交付申請書の提出期間については、昭和40年2月27日付科学技術庁告示第2号および第3号として官報で別紙のように告示された。
 昭和40年度予算政府原案による原子力平和利用研究委託費は161,000千円,同研究費補助金は154,000千円,合計315,000千円である。原子力局では申請の締切りをまって直ちに審査を始め、関係各省庁の意見と日本学術会議の推薦する学識経験者の意見を参酌して交付原案を作成し、庁議にはかったうえ交付を決定する。
 交付決定の日は39年度の場合6月20日であったが、40年度においても39年度とほぼ同様と考える。
 以下、要望する試験研究題目、課題の内容および選定の基礎となる考え方を示す。

1.昭和40年助成の重点
 昭和40年度助成の重点としては、原子力平和利用長期計画に盛られた開発の実現に資する試験研究をとりあげることとする。
 このため研究委託費の対象としては原子力施設の安全基準および安全評価に関する試験研究に重点をおくとともに、あわせて軽水冷却型またはガス冷却型動力炉の解析および評価に関する試験研究にも重点をおく。
 研究費補助金の対象としては軽水冷却型またはガス冷却型動力用原子炉の設計または製作技術に関する試験研究とそれに使用する燃料および材料の照射に関する試験研究に重点をおく。

2.委託費
 委託費に係る試験研究は、国が自ら行なうべき性質を有する試験研究のうち、国立機関で行なうよりは他に委託することが当該試験研究をより効果的に遂行しうるものと考えられる試験研究を対象とするものである。
 昭和40年度においては、具体的には(1)原子力施設の安全基準(2)原子力施設の安全評価(3)軽水冷却型またはガス冷却型発電用原子炉の解析および評価(4)船舶用原子炉の解析および評価(5)高速増殖炉関連技術(6)放射性廃棄物および放射線障害防止に関する試験研究をとりあげる。
 これらの試験研究題目は、39年度までの試験研究の成果および遂行状況を勘案し、これらの基礎の上に関連分野の進歩と要請に適合するように考慮し、かつ系統的に研究が促進されるよう選定されたものである。

(1)原子力施設の安全基準に関する試験研究
 原子力施設の安全基準に関する試験研究はその性質上とりあげるべき問題点も多く、相当長期にわたり、また広く各方面の衆知を結集しなければならないものである。40年度は圧力容器の構造設計基準については前年度に引きつづいてノズル、スカート部等の不整個所の応力解析、低サイクル疲労および破壊ならびに非破壊試験技術について行ない、構造設計の基礎を確立する。動力用原子炉の熱設計基準に関しては原子炉炉心の熱安定限界についてとり上げる。燃料被覆の安全基準についてはより高温度での強度試験で行なうほか欠陥の強度に及ぼす影響を求める。原子力施設の耐震設計基準については構築物の振動特性データの集積と解析を継続するほか、圧力容器と配管複合系の振動特性についても考慮する。

(2)原子力施設の安全評価に関する試験研究
 原子力施設の安全評価に関する試験研究は研究遂行上技術的困難性を伴うことから、これまでは研究が比較的遅れていた分野であるが、動力炉の開発利用が急激に具体化しつつある現状にかんがみ、すみやかに試験研究の推進をはかることが必要である。以上の観点から40年度においては原子炉炉心の被損または溶融事故の防止、原子炉格納施設の構造および機能について前年度に引きつづいて試験研究を行ない各種試験条件の範囲を広げその信頼度の向上をはかるとともに、さらに格納容器外への放射性ガスの挙動または除去機能ならびに炉心注水系の機能に関しての試験研究を考慮する。これと並行して冷却材喪失事故時の解析法の確立をはかる。 これら試験研究の成果を諸外国において行なわれる試験研究結果とも対比して、わが国の特殊事情に適合した合理的な安全性の評価の確立を期待する。

(3)軽水冷却型またはガス冷却型発電用原子炉の解析および評価に関する試験研究
 原子力発電の開発は当面民間技術を基礎とする軽水冷却型およびガス冷却型発電用原子炉の進歩に期待するところが大きい。これらの型式の動力炉の改良進展の方向とその技術的問題点を解析し、これを評価することは、わが国の動力炉開発計画に反映させるため国として実施すべき重要な題目である。これらの評価に必要な基礎資料をえるため40年度は下記のテーマを中心に試験研究を行なうとともに、プルトニウム利用の解析についての試験研究をも考慮する。
 イ)核過熱型発電用原子炉の総合解析に関する試験研究
 ロ)高比出力密度炭酸ガス冷却型発電用原子炉の総合解析に関する試験研究

(4)船舶用原子炉の解析および評価に関する試験研究
 原子力船の開発は日本原子力船開発事業団を中心に進められているが、原子力第1船に引きつづいて今後建造が期待される実用的な原子力船にとう載される船舶用原子炉の改良進展の方向とその技術的問題点を把握するため、有望と考えられる型式の原子炉について解析および評価を行なうことが必要である。
 このため40年度は小形軽量化した軽水冷却型船舶用原子炉の解析を行ない技術的問題点の摘出をはかる。

(5)高速増殖炉関連技術に関する試験研究
 高速増殖炉の開発は国の総力をあげて行なうべきであるが、開発のためには解決を要する幾多の問題点がある。これらの問題点のうち民間に委託するほうがより効果的と考えられる試験研究のうち40年度はナトリウム冷却系機器の開発を中心に行なう。

(6)放射性廃棄物および放射線障害防止に関する試験研究
 放射性廃棄物の処理に関しては、これまでは主として基礎データの集積に主眼が向けられてきたが、40年度は前年度に引きつづいて実用的な処理方法、処理技術の開発を重点にとりあげる。一方、処分についてはまだ基礎的研究の段階にあるので放射性廃棄物の海洋投棄をはじめ高レベル放射性廃棄物の貯蔵の問題について基礎的研究を継続する。
 放射線障害防止に関しては重要な研究題目であるため、前年度に引きつづき障害防止用器材等の開発をとりあげるとともに新たに問題となってきた密封線源装備機器に関する試験研究をとりあげる。

3.補助金
 補助金は民間で自主的に推進する試験研究のうち、原子力関係技術育成のため国がその試験研究費の一部を交付することにより、当該試験研究が促進され、原子力開発の推進にその成果が期待される試験研究を対象として行なうものである。昭和40年度においては具体的には、(1)軽水冷却型またはガス冷却型動力用原子炉の設計または製作技術(2)動力用原子炉用燃料または材料の照射(3)炉物理実験用測定機器、燃料および材料(4)アイソトープまたは放射線の利用に関する試験研究をとりあげる。

(1)軽水冷却型またはガス冷却型動力用原子炉の設計または製作技術に関する試験研究軽水冷却型およびガス冷却型動力用原子炉の開発については、多くの部門において海外で開発されている各種の技術を導入し、これらの技術を消化して動力炉国産化のための技術基盤を確立するよう研究開発が進められてきた。その結果、動力炉に関する技術水準が高められ、いま一歩の研究開発により国内技術の活用が可能と考えられる分野も多くなってきた。これらのうち国産化推進の見地から重要と考えられるものを選んで38年度から重点的に助成してきたが、40年度においては39年度に引きつづいて圧力容器の加工技術をとりあげ熱履歴と特殊溶接法を中心に行なう。また制御棒の加工技術については制御材の加工およびそれらの組立に関する試験研究をとりあげる。燃料要素の組立加工については前年度試験研究実施中に問題となった被覆管および端栓部溶接についても考慮するが、さらに40年度は燃料体としての炉外特性評価試験を重点的にとりあげる。新たに本年度から炉設計の精度向上のため、炉設計技術に密接に関連した解析および熱ループによる実験、臨界実験装置による実験等の試験研究をとりあげる。この他40年度においては計測回路および素子の信頼度向上に関する試験研究をとりあげることとする。

(2)動力用原子炉用燃料および材料の照射に関する試験研究
 動力炉用燃料および材料については製造技術についてはほぼ確立されたとみなしうる状況になっているが、原子炉内における照射試験によりその使用限界と実効性を確かめる必要がある。これらの目的のためにJMTRの建設が進められており、この完成にともない利用されることとなっているが、さしあたり40年度は38、39年度に引き続いて海外の材料試験炉による照射試験をさらに進展させることとする。本年度とりあげる試験研究としては二酸化ウラン燃料については燃料国産化に関連して、現在建設計画が進められている動力用原子炉用燃料の平均燃焼度以上の条件での照射が行なわれることを期待する。鉄鋼の照射については高張力鋼および低温用鋼を中心に照射が行なわれ、資料の充実をはかることを期待する。

(3)炉物理実験用測定機器、燃料および材料に関する試験研究
 40年度補助金交付の重点は(1)および(2)におかれているが、炉物理実験用測定機器、燃料および材料に関する試験研究もまた将来の動力炉開発の進展に欠くことのできないものである。このうちわが国の自主的開発能力の培養および国内技術の萌芽育成の観点からも重要と考えられるものに対して助成を行なうことが必要である。この分野の試験研究はきわめて広範多岐にわたるものであるが、40年度は39年度に引きつづいて炉物理実験上必要とされる測定機器については性能向上が期待されるような試験研究をとりあげる。セラミック系または分散型燃料に関する試験研究については、改良された二酸化ウラン燃料の開発、核燃料として有望視される化合物の特性評価試験などをとりあげる。また被覆材としては高温耐食性または強度のすぐれた金属または合金の開発もしくはそれらの特性評価試験についても考慮する。これらの試験研究、とくに燃料についての成果を諸外国において行なわれる結果とも対比して、研究内容の充実をはかる。

(4)アイソトープまたは放射線の利用に関する試験研究アイソトープまたは放射線の利用に関する試験研究は、民間における新しい着想に基づく技術の育成をはかることとし、39年度に引きつづいてとくに実用化の期待される有機標識化合物の製造研究、製造工程管理への放射線の利用および河川の水質汚濁防止のためのアイソトープ利用に関する試験研究をとりあげる。さらに放射線化学については日本原子力研究所高崎研究所における試験研究と関連した放射線化学反応を中心にとりあげるが、目下問題化しつつある食品照射についても考慮する。このほかアイソトープまたは放射線の利用に関連して各方面から要望のある実用的な放射線の測定方法および耐放射線材料の開発についての試験研究をとりあげる。

〔別紙〕

科学技術庁告示第2号

 原子力平和利用研究委託費交付規則(昭和32年7月科学技術庁告示第5号)第1条第2項及び第2条第2項の規定に基づき、昭和40年度原子力平和利用研究委託費に係る試験研究題目及び申請書の提出期間を次のように定める。

 昭和40年2月27日

 科学技術庁長官 愛知揆一

 昭和40年度原子力平和利用研究費託費に係る
試験研究題目及び申請書の提出期間

I  試験研究題目は、次のとおりとする。

1.原子力施設の安全基準に関する試験研究
 (1)圧力容器の構造設計基準に関する試験研究
 (2)動力用原子炉の熱設計基準に関する試験研究
 (3)燃料被覆の安全基準に関する試験研究
 (4)原子力施設の耐震設計基準に関する試験研究

2.原子力施設の安全評価に関する試験研究
 (1)軽水冷却型原子炉炉心の溶融事故の防止に関する試験研究
 (2)原子炉格納施設の構造及び機能に関する試験研究
 (3)大気中における放射性ガスの挙動に関する試験研究

3.軽水冷却型又はガス冷却型発電用原子炉の解析及び評価に関する試験研究

4.船舶用原子炉の解析及び評価に関する試験研究

5.高速増殖炉関連技術に関する試験研究

6.放射性廃棄物又は放射線障害防止に関する試験研究

 (1)放射性廃棄物の処理又は処分に関する試験研究
 (2)放射線障害の防止用器材又は薬剤に関する試験研究
 (3)密封放射線源装備機器の安全性に関する試験研究

II 申請書の提出期間は、昭和40年3月1日から昭和40年3月31日までとする。


 科学技術庁告示第3号

 原子力平和利用研究費補助金交付規則(昭和32年4月科学技術庁告示第2号)第1条第2項及び第2条第2項の規定に基づき、昭和40年度原子力平和利用研究費補助金に係る試験研究課題及び申請書の提出期間を次のように定める。

 昭和40年2月27日

 科学技術庁長官 愛知揆一

昭和40年度原子力平和利用研究費補助金に
係る試験研究課題及び申請書の提出期間

I 試験研究課題は次のとおりとする。

1.軽水冷却型又はガス冷却型動力用原子炉の設計又は製作技術に関する試験研究

 (1)圧力容器の加工技術に関する試験研究
 (2)制御棒の加工技術に関する試験研究
 (3)燃料要素の組立技術又は特性に関する試験研究
 (4)計装回路の信頼度向上に関する試験研究
 (5)核設計又は熱設計の精度向上に関する試験研究

2.動力用原子炉用燃料又は材料の照射に関する試験研究

 (1)二酸化ウラン燃料の照射に関する試験研究
 (2)圧力容器用鋼材の照射に関する試験研究

3.炉物理実験用測定機器、燃料又は材料に関する試験研究

 (1)炉物理実験用測定機器に関する試験研究
 (2)セラミック系燃料又は分散型燃料に関する試験研究
 (3)被覆材料用金属の開発に関する試験研究

4.アイソトープ又は放射線の利用に関する試験研究

 (1)有機標識化合物の製造に関する試験研究
 (2)製造工程管理への放射線利用に関する試験研究
 (3)河川の水質汚濁防止のためのアイソトープ利用に関する試験研究
 (4)有機物質の放射線化学反応に関する試験研究
 (5)放射線の測定方法に関する試験研究
 (6)耐放射線材料の開発に関する試験研究

II 申請書の提出期間は、昭和40年3月1日から昭和40年3月31日までとする。