資料

放射線障害防止法の許認可状況


目次

はじめに

I 使用、販売および廃棄事業所の現状

1.使用事業所

1-1 医療機関
1-2 研究機関
1-3 教育機関
1-4 民間機関
1-5 その他の機関

2.販売所および廃棄事業所

3.利用の主な形態

3-1 非密封放射性同位元素
3-2 コバルト60照射装置
3-3 放射線発生装置

II 放射線取扱主任者

はじめに
 原子力平和利用の一分野である放射性同位元素等の放射線利用は近年大きな発展拡大を示している。
 わが国における放射性同位元素の使用も、第1表の輸入量の推移に見るごとく、年々、増大しているが、昭和37年からは、これに日本原子力研究所で製造された国産の放射性同位元素も加わり使用されている。
 こうした放射線の利用は、人体への障害の危険を伴うので、放射性同位元素の使用が増加すると共に、その取扱い等について何らかの法的規制が必要になった。
 昭和31年、科学技術庁が発足し、原子力局において調査検討が重ねられたが、翌32年、国際放射線防護委員会ICRPの1953年勧告を尊重して「核原科物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」および「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(以下、放射線障害防止法という)が公布された。放射線障害防止法は、その後昭和35年にICRPの1958年の勧告を尊重して法施行2年間の経験を加え、改正されたが昭和39年ICRPから1962年の新勧告がだされており、これについても検討が行なわれている。
 放射線障害防止法は、放射性同位元素や放射線発生装置の使用を許可又は届出制とし、又、放射性同位元素の販売や廃棄を許可制として、夫々、その施設や取扱いを定められた基準に適合させることによって放射線障害の防止を行なおうとするものである。放射線障害防止法による許可届出事業所も年々増加を続け、昭和39年3月末現在、使用事業所1,110、販売所12、廃棄事業所3に達している。

第1表 主な放射性同位元素の輸入量


I 使用、販売および廃棄事業所の現状

1.使用事業所

放射線障害防止法に規定する放射性同位元素や放射線発生装置を使用しようとするものは、同法にもとづき、事前に科学技術庁長官の許可をうけなければならない。但し、1工場又は1事業所当り、密封した放射性同位元素総量100ミリキュリー以下を使用する場合は届出でよい。

 許可または届出による使用事業所数は第2表に見るごとく、増加しており、昭和39年3月末現在許可792、届出318、総計1,110に達している。
 これらの事業所を機関別に下表の如く分類して、その年別の推移を見ると、第3表および第1図のごとくなる。

使用事業所の機関別分類

医療機関:医療法にもとづく、すべての病院および診療所

研究機関:すべての研究所(教育機関または民間機関にもうけられているものを含む)

教育機関:大学の学部およびその他の教育機関

民間機関:民間の工場または事業所

その他:以上のいずれにも属さぬもの

更に、昭和39年3月末における都道府県分布は第4表および第2図のとおりで、このうち事業所数の多い主要な都府県をとってみると、第5表に見るごとく7都府県で過半数を占めている。

第1図 放射性同位体元素等使用事業所数の推移

第2表 放射性同位元素等使用事業所数の推移

第3表 放射性同位元素等使用事業所数の推移

第4表 放射性同位元素等使用事業所数の推移

第5表 主要都府県放射性同位体元素等使用事業所数

第2図 放射性同位元素等使用事業所都道府県分布


 以下、各機関ごとにその使用事業所の概況を述べる。

1-1 医療機関
 使用事業所数の約36%が医療機関である。医療機関における使用は放射線障害防止法の対象外としている放射性医薬品の使用を除けば、密封状態のラジウム226、コバルト60等の照射器具や装置がほとんどで、これらは悪性腫瘍などの治療に用いられている。
 放射線発生装置も、診断用エツクス線装置などは放射線障害防止法の対象外になっているので、これを除けば、ベータトロンや直線加速装置など医療用放射線発生装置を備える病院の数は少ない。
 ラジウム226による悪性腫瘍の治療は古くから行なわれており、広く普及している。しかし、近年コバルト60やセシウム137等、人工の放射性同位元素の医療用利用の伸びが著しい。とくに500〜3000キュリー程度のコバルト60による遠隔照射装置の使用が急増しており、癌等の悪性腫瘍の治療にその偉力を発揮している。これら遠隔照射装置には利点が多いが、設備費等経済的な理由もあり、一般診療所や小規模な病院には採用されにくく、この面の治療が大病院に集中する傾向を強めている。
 医療関係使用事業所を、病院、診療所別に見ると第6表のごとく、一般病院366、一般診療所35、計401で、その普及割合は低いといえる。
 医療機関における放射線防護の状況を見ると、コバルト60照射装置等では、おおむね設備が整っているので問題は少ないが、ラジウム226、コバルト60の針や管では、設備や取扱い、管理の面で不十分なものも見られる。特に、使用施設についての許可を必要としない届出使用の場合は、その傾向が強い。

第6表 医療機関放射性同位元素使用事業所数

1-2 研究機関
 放射性同位元素や、放射線発生装置は当初から、理学、工学、農学、医学等各分野において研究用として活発に使われてきた。
 研究機関における放射性同位元素の利用方法は種々多様であるが、特に、非密封放射性同位元素や、サイクロトロン、ファンデグラーフ型加速装置等放射線発生装置の使用が多い。
 これらの研究機関を国、公、私立別に分類すると第7表のごとくなる。当初は国立研究機関における使用が多かったが、最近は民間会社関係の試験研究機関における使用の増加が目立っている。
 研究機関における放射線障害防止の状況は、民間会社関係の試験研究機関では、おおむね設備、管理共良好であるが、国公立の機関では一般に十分とは云い難い。

第7表 研究機関使用事業所数

1-3 教育機関
 教育機関における放射性同位元素等使用事業所は、高等学校等数件をのぞいて、ほとんどが大学各学部である。
 大学は、教育機関であるとともに研究機関としての性格も合わせもっており、使用事業所である大学学部の80%以上が非密封放射性同位元素を使用している。
 学部も、工学部、理学部、農学部、医学部、薬学部等理工系各学部にわたっている。又これら学部を国、公、私立別に見ると、第8表のごとく、国立が圧倒的に多い、研究機関に分類されている国立大学の付属研究所、研究施設まで含めて考えると、国立大学における放射性同位元素等の使用の割合はかなり高いといえる。

第8表 教育機関使用事業所数

1-4 民間機関
 昭和39年3月末現在の民間機関使用事業所数は、許可195、届出124、計319である。業種別に分類すると、第9表のごとく、ほとんどあらゆる業種にわたっている。
 民間機関においても、当初は、研究、実験的な利用が多かったが、近年は厚み計や水分計のような工場用測定装置への利用が大巾に増加している。

第9表 民間機関業種別使用事業所数


 昭和39年3月末現在民間工業関係事業所(工業会社付属研究所を含む)の放射性同位元素装備機器保有台数を機種別に分類すると、第10表のごとく、厚み計、液面計、密度計(水分計)、真空計等、工場の工程設備内に組入れられる測定装置が68.3%を占め、工業利用の中心になっている。

第10表 民間機関(含民間研究所)工業利用
放射性同位元素装備機器保有台数


 非破壊検査用照射装置も保有台数が多いが、これらは、舶用機器や圧力容器等の内部欠陥の検査に使われている。
 民間機関における放射線障害防止は、施設的にはおおむね良好であるが、管理面で一部不十分なものも見られる。

1-5 その他の機関
 その他としては、自衛隊、公立工業指導所、工事事務所などがある。密封小線源による教育、訓練用が多いが、一時的な使用も多い。

2.販売所および廃棄事業所
 販売所の許可は昭和33年度1件、37年度1件、38年度10件と合計12件である。
 地域別では、東京都8、兵庫県2、京都府、茨城県各1となっている。放射性同位元素の販売の形態は多種多様であるが、これを大別するとおよそ次の様に分けられる。

A.放射性同位元素を輸入し、詰替して、販売を行なうもの。

B.原子炉、サイクロトロン等によって放射性同位元素を製造し販売するもの。

C.放射性同位元素装備機器を製造して販売するもの。

D.標識化合物を製造販売するもの。

E.発光塗料を製造して販売を行なうもの。

F.放射性同位元素装備機器の販売を行なうもの。

G.放射性同位元素または装備機器の現物を扱わない輸入業者。

昭和38年度までに許可した販売所を上のように分けてみると、A1件、B1件、C5件、D3件、E2件で、F、Gは申請中のものがある。
 販売所における施設についてみると、すでに許可した販売所はすべて使用許可もとっており、販売のために必要な詰替、貯蔵および廃棄の各施設は使用許可のための施設の共用、またはその一部の使用によっている。
 なお、販売業については、申請をしているが現在、保留となっているものが多い。これらのほとんどは輸入業者で、現物を扱うことがなく、従って、そのための施設を持たないものであり、今後の検討が必要である。
 廃棄業の許可は37年度まで1件もなかったが、38年度に3件の許可を行なった。これらはいずれも日本放射性同位元素協会の事業所である。

3.利用の主な形態

3-1 非密封放射性同位元素
 昭和39年3月末現在、非密封の放射性同位元素を使用する事業所は336で、全使用事業所の約30%にあたる。
 非密封放射性同位元素使用事業所の機関別内訳は第11表のとおりで、教育機関と研究機関が圧倒的に多く、両者で83%を占めている。

第11表 非密封放射性同位元素使用事業所数


 このように非密封放射性同位元素の利用は、ほとんど化学、生物等の実験研究用に限られているが、近年、製鉄用高炉炉壁の侵蝕調査など、実際の工業面にも拡がってきている。なお、治療用の非密封放射性同位元素の使用は放射性医薬品として薬事法に委ねられている。

3-2 コバルト60照射装置
 昭和39年3月末における、1キュリー以上のコバルト60を装備する機器の機関別保有台数は第12表のとおりである。

第12表 1キュリー以上のコバルト60を装備する照射装置保有台数


医療用は、最もその利用の多い分野で、ほとんど、癌等の悪性腫瘍の治療に使われている。今後、その設置はかなり増えるものと思われる。
 民間機関では10キュリー未満のものが多いが、これらのほとんどは、非破壊検査用である。
 研究機関、教育機関における利用は、化学反応促進や合成繊維等の物性研究、植物の品種改良等、種々の研究実験に使われている。

3-3 放射線発生装置

放射線障害防止法に規定する放射線発生装置の機関別保有状況は第13表のとおりである。

第13表 放射線発生装置保有台数


研究、教育機関では、各種の発生装置が使われているが、これら両機関で全体の80%を占めている。
 民間機関では、ベータトロンの使用が多いが、そのほとんどは、ボイラー、高圧容器等の非破壊検査に使われている。
 医療機関における放射線発生装置の使用は未だ少ない。ベータトロンと直線加速装置は、癌等の悪性腫瘍の治療用に使われている。

II 放射線取扱主任者

放射線取扱主任者の資格には第1種と第2種があり、いずれも国家試験によりその免状が与えられる。
 放射線取扱主任者免状所有者数は、第14表のとおりで、昭和39年3月末現在、その機関別分布は第15表のごとくなっている。

第14表 放射線取扱主任者免状所有者数

第15表 機関別放射線取扱主任者免状所有者数


医療用の使用事業所では、医師を取扱主任者に選任することができるので、放射線取扱主任者の有資格者数は、使用事業所数1,110を大巾に上廻っている。しかし、一部の事業所への免状所有者の偏在傾向が見られ、中小企業などで新たに使用をはじめようとする場合などには問題があろう。(完)