原子力委員会

合衆国原子力潜水艦の寄港問題
に関する原子力委員会の見解


原子力委員会は、合衆国原子力潜水艦の寄港問題について8月28日以下のとおりその見解を発表した。
 当委員会は、昨年2月20日合衆国原子力潜水艦の寄港問題について見解を発表し、以来最近に致るまで安全性の問題について検討を続けて来た。
 この検討を行なうに当って当委員会は、原子力潜水艦が国際法上軍艦としての特殊な地位を有するものであることから、国内で建造する原子力船の場合のような安全審査を行なうことはもちろん、外国原子力商船に対すると同様な措置をとることも不可能であることを前提として来た。これが国際慣行上やむをえないものであることは、先に発表した当委員会の見解の中にすでに述べたとおりである。
 従って当委員会としては、両国政府間における交渉を通じて、わが国民、とくに寄港地周辺の住民の安全を確保するために必要な保証を明確にし、その措置に遺憾なきを期するための努力を続けて来た。
 このような立場から、当委員会は、合衆国原子力潜水艦の寄港に関する安全性の問題および万一の場合における補償の問題について、従来両国政府間における交渉の過程において政府と緊密な連絡をとって来たが、今回、政府が合衆国政府から口上書および声明を受け取ったので、これらの文書につき慎重に検討して当委員会の総合的見解を政府に対し申し述べた。
 その内容は、下記のとおりである。


1.安全性の問題に関し、合衆国政府は、その声明の中で以下の諸点を明らかにしている。

(1)合衆国政府は、同国原子力潜水艦の原子力推進装置について原子炉の設計上の安全性に関する諸点、乗組員の訓練および操作手続が、同国原子力委員会および原子炉安全審査諮問委員会によって審査されるものであることを保証すること。

(2)合衆国政府は、同国の港における原子力潜水艦の運航に関連してとられる安全上のすべての予防措置および手続が、わが国の港においても厳格に遵守されることを保証すること。

(3)わが国の港において、周辺の一般的なバックグラウンド放射能に測定しうる程度の増加をもたらすこととなるような放出水その他の廃棄物は、原子力海水艦から排出されることはなく、廃棄物の処理基準は、国際放射線防護委員会の勧告に適合していること。

(4)寄港期間中原子力潜水艦の乗組員は、同潜水艦上の放射線管理および同潜水艦に接した近傍における環境放射能のモニタリングについて責任を負うこと。また、合衆国政府は、同潜水艦が放射能汚染をもたらす危険があるとは認められないことを確認するため、その近傍において日本政府がその希望する測定を行なうことに同意していること。

(5)日本政府の当局は、寄港中の原子力潜水艦の原子炉に係る事故が発生した場合には、直ちに通報されること。

(6)合衆国海軍は、通常、日本政府当局に対し、少なくとも24時間前に、その原子力潜水艦の到着予定時刻および停泊または投錨の予定位置につき通報すること。

 さらに、両国政府間における交渉の経緯を通じて、合衆国政府は、安全性の問題に関し、以下のような諸点を明らかにした。

(1)合衆国の原子力潜水艦がわが国の港へ寄港する場合には、それが合衆国の港に寄港する場合に適用される安全基準と同一の安全基準が適用されること。この点に関し、原子力潜水艦が寄港するわが国の港の周辺における安全性の考慮にとって適切であると信ずるあらゆる情報を日本政府が提供するものと合衆国政府は了解していること。

(2)原子力潜水艦は、合衆国公衆衛生局および原子力委員会の両者により審査された同国海軍の放射線管理の手続きおよび基準に従い、その放射性排出物を安全な濃度水準および分量に制限するよう要求されていること。

(3)1959年1月に艦船局原子力推進部が作成した合衆国原子力軍艦の放射性廃棄物処理に関する報告に記載されている同国海軍の指令は、改訂されて、同報告に述べられてある合衆国標準局便覧第52号ではなくて国際放射線防護委員会および合衆国標準局便覧第69号による新たな一層厳格な勧告を反映したものとなっていること。

(4)原子力潜水艦の液体排出物は、わが国の法律および基準ならびに国際基準に完全に適合するものであること。

(5)使用済み汚染除去剤は、港内または陸地近辺では決して放出されることはなく、また既知の漁区の近傍ではいかなる所においても放出されることはないこと。

(6)原子力潜水艦の燃料交換および動力装置の修理は、わが国または、その領海内においては行なわれないこと。

(7)放射能にさらされた物質は、通常、わが国の港にある間は、原子力潜水艦から搬出されることはなく、例外的な事情の下で、放射能にさらされた物質が搬出される場合においても、それは危険を生ずることのない方法で、かつ、合衆国の港においてとられる手続に従い行なわれること。

(8)原子力潜水艦は、通常は、港へ直接進入しまたは港から直接出航する場合に限りわが国の領海を通過し、その際は、通常の航路および航行補助施設を利用すること、また港への出入は、通常、日中に行なうこと。

2.以上を総合的に検討した結果、当委員会としては、前記1に掲げた諸点の内容がそのとおり確保されるならば、合衆国原子力潜水艦の寄港は、わが国民、とくに寄港地周辺の住民の安全上支障はないものと判断する。

3.なお、政府が同国原子力潜水艦の寄港を認める場合には、環境の安全を確保するため、政府において次の措置をとるべきである。

(1)あらかじめ寄港地についてバックグラウンドの測定等必要な環境調査を行なうこと。

(2)停泊水域および原子力潜水艦が停泊中はその近傍における放射能のモニタリングを行なうこと。

(2)停泊水域および原子力潜水艦が停泊中はその近傍における放射能のモニタリングを行なうこと。

(3)必要に応じわが国近海の放射能を調査すること。

4.万一寄港する原子力潜水艦に関連して原子力障害が発生した場合に、その損害に基づく請求であって日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力および安全保障条約第6条に基づく協定の適用を受けないものは、外交上の経路を通じて処理されることとなっているが、この場合、被害者に対しては、国内の原子炉の運転等による原子力損害が発生した場合に「原子力損害の賠償に関する法律」によって行なわれる補償と均衡を失しないように国がその責任において適切な措置を講ずべきである。