ラジオ・アイソトープ医学利用実態調査結果


I まえがき
 RIの利用は歴史的にはかなり古く、わが国においてもすでに大正時代に利用された事実がある。しかしながらそれが本格的に利用されるようになったのは、原子力開発が盛んになり、各種RIの輸入が始められた昭和25年以降のことである。
 科学技術庁原子力局は、本格的な利用が開始されてから十数年を経た今日のRI利用の実態を把握し、利用上の問題点および希望意見などを知り、今後より一層円滑にRIの利用開発を促進するために、昭和37年度からRI利用実態調査を開始した。
 昭和37年度においては、工業分野を対象とした調査を行ない、その結果を「ラジオ・アイソトープ工業利用実態調査報告」(昭和38年4月)として報告した。
 昭和38年度においては、医療分野を対象として調査を行ない、その結果をとりまとめたものである。

II 調査の概要

1. 調査の目的
 この調査は、わが国のRIの医療への利用の現状を把握するとともに、将来計画、利用上の問題点および希望意見を知ることにより、今後のRIの医学利用促進に関する基礎資料を得ることを目的とする。

2. 調査の時点
 調査は、昭和38年11月1日現在で行なったが、放射線照射装置および放射線照射器具の数量については購入時の数量が、.また密封されていないRIの使用数量については、昭和37年度中(昭和37年4月1日から昭和38年3月31日まで)の実績で調査された。

3. 調査の対象と調査の単位
 調査の対象は医療法人および個人が経営するものを除く全国の病院である。調査の単位は病院であって、標本は厚生省医務局編さんの病院要覧(1960〜1961年版)にもとづいて、層別一段抽出法により抽出した。
 すなわち医療法人および個人が経営するものを除く全国の病院を、経営者の形態によって11の層に分け、第1表に示す抽出率によって無作為に調査病院を抽出した。

第1表 標本抽出の状況

4. 調査事項

i)使用状況

ii)使用予定

iii)使用実績

iv)RI利用上の問題点

v)RI利用上の希望意見

vi)RI関係作業従事者

vii)教育訓練

5. 調査方法
 調査は郵送調査の方法で行なった。調査票の発送は昭和38年11月1日に行ない、調査票の回収は当初昭和38年12月末日を予定していたが、回収率を大きくするため昭和39年2月末日まで延期した。

6. 調査結果の推計方法
 回収された調査票は原子力局において集計した。推計方法は、回答された調査票の数字に抽出率の逆数を乗じて行なった。

III 用語の説明

《ラジオ・アイソトープ(RI)》
 放射線を放出する同位元素もしくはその化合物またはこれらの含有物であって放射線を放出する同位元素の濃度が0.002μc/gをこえ、かつ、密封されている場合にあっては次表の数量をこえるものをいう。
 ただし、原子力基本法に規定される核燃料物質および核原料物質は含まない。



《密封されていないRI(非密封RI)》
 その正常なる使用の過程において放射能汚染をひきおこすおそれのあるRI《密封されたRI》その正常なる使用の過程において開封、破壊、漏えい、浸透等により放射能汚染をひきおこすおそれのないもの。
 これは放射線照射装置および放射線照射器具に分類される。

《放射線照射装置》
 100mc以上の密封されたRIを装備している照射機器

《放射線照射器具》
 100/μc以上100mc未満の密封されたRIを装備している照射機器

《RI関係作業従事者》
 RIを取り扱う作業に従事し、またはこれを介助する者をいう。

IV 結果の概要

1. 回収状況
 調査標本753件のうち、646件が回収された。これは全体の85.7%に相当する。このうち4件は当該病院がすでに廃止または合併されてしまった旨を伝えている。受取人不明または不在(廃止されてしまって経営主体がなくなってしまっている。)という理由で返送されてきたものが21件あった。
 これは全体の2.8%を占める。(第1図参照)層別の回収状況は第2表に掲げるとおりである。

第1図 回収および回答状況

第2表 回収状況

2. 総論

A 発展の経過
 RIの医療への利用はかなり早くから行なわれていたのであるが、昭和32年頃までは天然の放射性同位元素である226Raがほとんどであった。しかしながら昭和32年以降になると人工核種の入手が容易になり、利用件数および利用方法の両面において進展がみられるに至った。特に、国(その他)の経営する病院は早くから積極的にRI利用を進めてきている。このことは、この層に属している国立大学付属病院が早くからRIの医療への利用の有為性に注目し、研究部門と密接に連けいを保ち、積極的にその実用化を図ってきたためと思われる。
 放射線照射装置は、昭和33年度頃から毎年平均35台の割合で増加し、1台当りの平均線源畳も利用開始当時は約60キュリーであったが、現在では約1,300キュリーのものが一般的になっている。
 放射線器具は数量的にはほぼ一貫した増加をたどっているが、核種は昭和32年頃を境として226Raから60Co、その他の人工核種へと変わっている。
 非密封RIの利用もわずかずつではあるが増大しており、利用核種も多くなっている。

B 利用の現状
 調査時点におけるRI利用病院数は、全対象病院数2,260の14.4%にあたる327となっている。経営主体別にみてRI利用の普及率の高いのは国(厚生省)、国(その他)および日赤などが経営する病院であって、それぞれ総数の41.8%、42.8%および32.4%となっている(第3表を参照)。
 放射線照射装置を所有している病院は183、放射線照射器具を所有している病院は270、非密封RIを使用している病院は93となっている(第5表を参照)。
 放射線照射装置は、現在231台が使用されている。核種としては半減期の長いγ放射体である60Coが主であるが、最近では137Csも注目されはじめている。これらは主として各種悪性腫瘍の治療に用いられている。放射線照射装置は、従来深部放射線治療に用いられていたX線と比較してエネルギーが強力で均等照射がしやすく、また副作用も少ないという利点を持っている。昭和37年度には約173,000名の患者に対して利用され、「腫瘍の消失または縮少をみた」「手術と併用することにより再発を防ぎ得た」などという顕著な効果が報告されている。
 放射線器具には、針、カプセル、ペレット、アプリケーター等いろいろなものがある。針は主として悪性腫瘍および血管腫などの治療に用いられており、核種としては数ミリキュリーの226Raおよび60Coが用いられている。カプセルおよびペレットも1個当りの数量が1桁ほど大きいだけで、核種もその用途も針とはあまりかわらない。アプリケーターは、血管腫または表層の悪性腫瘍の治療に主として使用されている。線源としては10ミリキュリー程度の90Srが利用されている。
 現在器具として利用されている各核種の数量は226Ra約30,000ミリキュリー、60Co約15,500ミリキュリー、90Sr約1,200ミリキュリー、その他約52,400ミリキュリーとなっている。昭和37年度に放射線照射器具による治療を受けた患者は40,948名となっている。(以上第6、7表を参照)これによる顕著な効果としては「子宮膣部癌、上口唇癌などに使用して全治した。」「血管腫に対して使用し、これをほとんど消失せしめた。」などが報告されている。
 非密封RIは、臓器の機能診断や癌性内部疾患の治療に有効である。核種としては32P、131I、198Au が主である。昭和37年度には32P約13,500ミリキュリー、131I約37,900ミリキュリーおよび198Au約35,500ミリキュリーが利用されている。これらは約39,300名の患者に対して利用され、甲状腺の機能診断、甲状腺腫瘍の早期発見、貧血の原因の究明などにおいて顕著な効果が上げられている。
 RI関係作業従事者は、現在医師1,497名(内専従357名)、看護婦1,095名(336名)、薬剤師24名(3名)およびその他の関係者498名(195名)となっている。つまり、1病院当り平均して医師4.6名(1.1名)看護婦3.2名(1.0名)、薬剤師0.07(0.01)およびその他の関係者1.5名(0.6名)がこれらの作業に従事していることになる。
 RI関係作業従事者の教育訓練は、現在日本原子力研究所ラジオ・アイソトープ研修所および放射線医学総合研究所養成訓練部において実施されており、ラジオ・アイソトープ研修所においては基礎および高級課程が、放射線医学総合研究所では防護および医学課程が設けられている。これら教育訓練機関の存在については、使用病院および新設予定病院の2/3以上は知っているが、実際にこれらの機関で教育訓練を受けた者はきわめて少なく、わずか198名となっている。このほか原子力産業会議をはじめ関西原子力懇談会などいろいろな機関の行なっている短期講習を受講した者が、183名いるが、これらのほとんどは医者であり、その他はまったく教育訓練を受けていないといってもよい。

C 今後の見通し
 今後の見通しとしては、昭和42年頃までに126の病院が新規に利用を始めることを予定しており、また現在使用している327の病院のうち180の病院が増量または増設を予定している。
 これらの病院によって新たに購入される予定の放射線照射装置は72台(102,000キュリー)、放射線照射器具は約1,800ミリキュリーとなっている。
 非密封RIの年間消費量は昭和42年頃までには現在よりも約31,000ミリキュリー増加するものと思われる。
 また、RI関係作業従事者の教育訓練も積極的に考えられている。受講希望は防護および医学課程に対して多く、昭和39年度にはそれぞれ207および168名、昭和40年度以降においては225名および231名が受講を希望している。

D 利用上の問題点および希望意見
 RIを医療に利用する場合の問題点としては「設備経費がかさむ」「放射線障害防止に関する措置が厄介」「廃棄物処分に困る」および「技術者が得難い」などがあげられる。
 そして利用を円滑にすすめるために「補助金制度を設けること」「機器、RIの格安化をはかること」「地域毎にRIセンターを設置(または既設施設を活用)するなどして、RIの入手、フィルムバッチサービス等の円滑化をはかること」「講習会を頻繁に開催したり、簡単なパンフレット等を配布して知識の普及をはかること」などが希望されている。

3. 各論
A 利用の現状
 a 使用病院の分布
 調査時点におけるRI利用病院数は327であって全対象病院数2,260の14.4%となっている。
 経営主体別にその普及率をみてみると第3表に示すとおりとなっている。普及率の高いのは、国(厚生省)、国(その他)、日赤、都道府県などが経営する病院であって、それぞれの総数の41.8%、42.8%、32.4%、20.7%となっている。

第3表 経営主体別のRl使用病院数 

地域別のその分布は第4表のとおりである。

第4表地域別のRI使用病院数

 医療におけるRIの利用方法としては、機械器具の中にRIを密封してその放出する放射線を利用する方法と、密封することなく一般の薬品と同様に、内服、塗布、注射などして利用する方法とがある。前者には放射線照射装置と放射線照射器具とがある。

 これら放射線照射装置、放射線照射器臭および非密封RIの普及状況を眺めてみると、放射線照射装置を所有する病院は183(全対象病院の8.1%)放射線照射器具を所有する病院は270(11.9%)、非密封RIを使用している病院は93(4%)となっている。経営主体別の詳細は第5表および第2図のとおりである。

第5表 型式別Rl利用普及状況

b 用途と使用量

 前にも述べたように、医療分野においてRIは放射線照射装置、放射線照射器具または非密封RIとして利用されている。

 放射線照射装置は現在231台が使用されているが、放射線源用核種としては半減期の長いγ線放射体である60Co(222台)または137Cs(9台)が利用されている。これらは主として各種悪性腫瘍の治療に用いられている。装置1台当りの平均核種は60Coの場合は約650キュリー、137Csの場合は約2,000キュリーとなっている。

放射線照射器具には、針、カプセル、ペレット、アプリケーター等いろいろなものがある。針には1本当り数ミリキュリーの226Raおよび60Coが利用されている。これは悪性腫瘍および血管腫などの治療に主として使用されている。カプセルおよびペレットも用途においては針とほとんど同じであるが、核種量は1個当り数10ミリキュリーであって、針の場合に比べて1桁ほど大きい。アプリケーターは血管腫または表層の悪性腫瘍の治療に主として使用されている。線源としては数10ミリキュリー程度の90Srが利用されている。

 臓器機能診断用トレーサまたは治療用医薬品として非密封状態で使用される核種としては32P、181I、198Auなどが主なものである。32Pは主として悪性腫瘍、血管腫などの治療に、131Iは甲状腺の機能診断、甲状腺腫瘍などの治療に198Auは癌性腹膜炎や肋膜炎などの治療に利用されている。

 主な核種の使用数量は第6表のとおりである。

第6表 主要Rlの使用量

c 利用度

 RIによる診断治療をうけた患者数を一つの指針として、RIの利用の状況をみてみよう。

 昭和37年度の放射線照射装置、放射線照射器具、または非密封RIを診断治療に用いられた患者数(実数)は、それぞれ172,671名、40,948名および39,330名であり、1病院当り平均943.5名、153.3名および437名となっている。(第7表参照)

第7表 37年度の患者数

 層別にこれをみてみると、放射線照射装置では社会保険関係団体、国(その他)、市町村および日赤などが経営する病院が1,808.7/病院、1,767.6名/病院、1,660名/病院および1,121名/病院ときわめて高い利用度を示している。これに反して、公益法人および農協が経営する病院はわずか22名/病院および56名/病院と利用度は低い。
 放射線照射器具では国(厚生省)および国(その他)の病院が他にくらべてひときわ利用度が高く255.4名/病院および388名/病院となっている。
 非密封RIでは、国(厚生省)、国(その他〕および日赤の病院が、557.7名/病院、534.6名/病院および533名/病院と高い利用度を示している。

第2図 経営主体別のRl利用状況

d 利用の利点

 放射線照射装置を使用して病院の53%が装置を利用することによる利点は「X線に比較してエネルギーが強力であり、均等照射が行なわれ効果が大である。また副作用も少ない。」にあるといっている。これに類似しているものとして、「副作用が少なく、操作が簡単である」(11%)、「十分なる病巣線量が得られる」(10%)、「従来のX線に比較して深部線量が多く、皮膚障害は軽度であり、副作用が少ない。」(8%)等があるが、とにかく装置を利用することによる利点は上述した言葉で代表し得るようである。その他の利点としては「故障が少ない」「X線と比較した場合電気料が安い」などから「維持費が安い」(8%)ということがあげられている。また137Cs利用者は60Coに比して半減期の長いことを最大の利点として述べている。

 放射線照射器具を利用することの利点に関しては利用病院の58%がいろいろと述べている。利点として最も多くの病院があげたのは「価格が安い(60Coに関してのみ)」(13%)および「半減期が長く、取り扱いが簡単で使用上便利である」(13%)である。これらは取り扱い面に関するものであるが、治療面における利点としては「安全で副作用が少ない」(7.8%)、「直接病巣内部に挿入可能であり、比較的健康部位は照射されない。」(4.5%)、「線量分布が良好であり、腫瘍組織に対する効果が最大で、周囲組織の障害が比較的少ない。」(3.3%)などがあげられている。その他に「手術不可能者にも使用できる」、「遠隔照射の効果が期待しがたい場合の治療に効果的である」、「β線治療のため術者の被曝がほとんどない(90Srアプリケーターに関して)」などが述べられている。

 非密封RIの利用の利点として、利用病院の80%が「シンチグラムにより迅速かつ正確な診断が可能である」と述べている。これは非密封RIの総括的な利点ともいうべきものであろう。実際の治療効果の面では「131I、32Pを利用する治療効果は良好である」(10%)、「微量物質の動静、消長を促えることができ、生体の機能調査に役立つ。」、「腫瘍の良性、意性の鑑別に有効である。」(各3.3%)があげられている。技術的な面では「取り扱いが便利である。」、「検査方法が簡素化した」、「体外より診断が可能である」、「患者の苦痛が少なく診断ができる」などが述べられている。

e 利用による顕著な効果

 RIを使用している旨回答のあった109病院のうち約1/3の36病院が、RI利用による顕著な効果について情報を提供した。ここに、その代表的なものを例記する。

〈放射線照射装置〉

 ○肺癌、食道癌、子宮癌、悪性リンパ腺腫瘍などにおいては、腫瘍の縮少または消失、喀分泌物疽中癌細胞の縮少、または消失、自覚症状の消退など優秀な治療効果をみることがある。特にこれに化学療法を併用すればその効果はさらに向上せしめ得る。

 ○照射治療は手術と共に癌に対する主要な役割を演じている。再発件数は激減し、皮膚癌などの表在性のものに対しては特に顕著な効果があり、完全な治癒効果を示す。また、末期的手術不能者のような症例において延命効果に顕著なものがある。

 〇60Co照射のみで腫瘍が縮少し、効果が顕著な例が3例、術後照射で再発を認めないものが10例ある。

 ○右乳癌術後右鎖上腺転移(女62才)、顔面部皮膚癌(77才)、胃癌(68才)のすべてが60Co照射により癌が消失、現在健康である。

〈放射線照射器具〉

 〇226Raを頸部粘膜癌、上口唇癌、子宮膣部癌などに使用し、非観血的に全治せる症例が10数例あり、またその病巣縮少により手術が可能となった例は多数ある。

 ○2年2ヵ月の子供の頭部の指頭大の血管腫に対し、1週1回、1回量として10mgの226Ra(棒)30分照射で、3ヵ月続けほとんど全治

 ○生後4ヵ月の子供の左上はくの海綿様血管腫中癌に対し、1週1回10mgの226Ra(棒)を1時間照射することを4ヵ月続けることにより全く消失した。

〈非密封RI〉

 ○他の診断法で診断困難であった原発性肝癌および転移肝癌を明瞭に診断した。5例

 ○悪性甲状腺腫瘍を比較的早期に発見2例

 ○数年間原因不明の貧血により治療を受けるも全く改善がみられなかった者が131Iの使用によりようやく粘液水腫という診断がついたため貧血の治療ができた。

○甲状腺癌肺転移症の患者(女42才)に計90mcの131Iを投与したところ胸部の転移性陰影を全く消失し、健康を回復した。

181Iによる甲状腺機能こう進症の治療において82%の治癒率を得た。

B 利用発展の模様

 a 発展の経過
 第3図および第4図は病院におけるRIの医療への利用発展の模様を示したものである。これからRIは昭和30年以前にもかなり使用されていたことがうかがわれるが、そのほとんどは226Raを主とする放射線器具であった。それが人工核種が入手し得るようになってから次第に医療方面への有用性が認められるようになり、その利用が進展してきた。なかでも国(その他)の経営する病院ではRI利用をすべてにわたって早くから進めてきたようである。
 これには研究部門と密接に関連をもち、RI利用の有為性を早くから認め、これを積極的に診療に採り入れてきた国立大学付属病院の実績が大きく寄与していると思われる。
 放射線照射装置は、昭和30年より前においても使用されてはいたが、わずかに6台を数えるのみであり、1台当りの平均数畳も64キュリーときわめて少なかった。放射線照射装置の利用が増大したのは昭和33年度頃からであり、台数は72台となった。この頃になると1台当りの平均数畳も350キュリーとなり、以後さらに増加し、現在では1,300キュリー程度のものが利用されるようになっている(第8表参照)。核種は従来60Coのみであったが、最近では137Csも注目され始めている。
 放射線照射器具は昭和30年以前からかなり使われており、その後もほぼ一定した増加をみせている。しかしながら利用核種は昭和32年頃を境としてかわっている。すなわち昭和32年以前においては天然の放射性同位元素である226Raが圧倒的に多かったが、昭和32年以降においては60Coその他の人工核種の利用が増大している。(第9表参照)
 第10表は非密封RI利用の年度推移を示している。今回の調査ではその開始年度が不明であるものが約1/3もあり、これから適確な推論を下すことはむずかしいが、非密封RIの場合には顕著ではないが、着実に利用が進展していることがうかがわれる。しかしながらこれを利用しているのは前述したように国(その他)の経営する病院が主であり、他はきわめて少なく、ぽつりぽつりと使用が開始されているというのが現状である。

     第3図 RI使用病院の推移             第4図 利用の推移


第8表 放射線照射装置の推移

第9表 放射線照射器具の推移


第10表 非密封Rl利用病院の年度推移


b 今後の見通し
 昭和42年頃までについての利用の予定が明らかになった。これによると、現在放射線照射装置、放射線照射器具または非密封RIのいずれかを利用しているが、さらにいずれかを増量または増設することを予定している病院は180ある。また、いずれかを新設することを予定している病院は126となっている。このことからもRIの医療への利用は今後一層増加するであろうことが期待される(第1図および第3図参照)。
 昭和42年頃までに新たに購入を予定されている放射照射装置は72台であり、総量は約102,000キュリーとなっている。また放射線照射器具は約1,800ミリキュリーが新たに購入されるものと思われる。
 非密封RIの年間消費量は、昭和42年頃までには現在より約31,000ミリキュリー増加することが推察される。

C RI関係作業従事者と教育訓練状況

 a RI関係作業従事者
 RI関係作業に従事している医師、看護婦、薬剤師およびその他の関係者は、それぞれ1,497名(内専従357名)、1,095名(336名)、24名(3名)および498名(195名)となっている。つまり1病院当り平均して医師4.6名(内専従1.1名)、看護婦3.2名(1.0名)、薬剤士0.07名(0.01名)およびその他の関係者1.5名(0.6名)となっている。(第11表参照)

第11表 Rl関係作業従事者の状況

 特に国(その他)の経営する病院においては、1病院当り医師12.9名(内専従0.4名)と他の層にくらべてずっと多くの医師が従事していることを示している。このことからこの層においてはRIが各分野の診療に広く利用されていることがうかがわれる。

b 教育訓練

i)研修の認知
 現在RI関係作業従事者の教育訓練機関としては、日本原子力研究所ラジオ・アイソトープ研修所と放射線医学総合研究所がある。ラジオ・アイソトープ研修所では基礎課程および高級課程が、放射線医学総合研究所では防護課程および医学課程が実施されている注)。
 これら研修に対する各病院の認知の状況は第12表のとおりである。これによると、このような研修が行なわれていることを認知している病院は全体の約47%が、また新設予定病院ではその約76%が研修の実施されていることを知っている。
 層別では、国(厚生省およびその他)、農協保険関係団体などではかなり知られているが公益法人、市町村およびその他の法人ではあまり知られていない。

注:昭和39年4月より放射性薬学課程が新たに設置された。

第12表 研修の認知の状況

ii)受講経験

 日本原子力研究所ラジオ・アイソトープ研修所の主催する基礎課程および高級課程、放射線医学総合研究所の主催する防護課程および医学課程ならびにその他原子力産業会議、関西原子力懇談会など種々の機関が主催する短期講習を受講した経験のある者を有する病院数は、それぞれ39、3、54、54および99となっている。また受講経験者数は、それぞれ48名、3名、81名、66名および183名となっている。このうち現在RIを使用している者は45名、3名、69名、36名および117名であって現在RI関係作業に従事している者でこれら研修を受けている者はきわめて少ないことがわかる(第13表参照)。

第13表 RI関係の研修受講経験、受講希望の状況

iii)受講希望

昭和39年度および昭和40年度以降におけるRI関係の研修の受講希望を調べた。
 第13表でわかるように、研修の受講は熱心に希望されており、昭和39年度だけでもこれまでの受講者数を大きく上回る希望がある。とくに、放射線医学総合研究所の医学課程および防護課程の受講を希望するものが多く、昭和37年度には、207名および168名、昭和40年度以降には225名および231名となっている。

D 利用上の問題点と希望意見

a 問題点
 医療分野におけるRI利用上の問題点を知るために経済面、技術面、サービス面、人に関する面およびその他の面に関して、主として現在RIを使用中の病院に対し、問題点の提出をもとめたところ、これら病院のほとんど全数に近い93%が何らかの問題点があることを表明した。第14表は問題点を表明した使用病院の割合を示している。

第14表 Rl利用上の問題点

 この表にもみられるように「設備経費がかさむ」という意見はもっとも支持されており、各層ともかなり多くの病院が同意を表明している。ついで「放射線障害防止に関する措置が厄介」という意見の支持率が高いが、主としてこれを支持しているのは国(厚生省およびその他)、都道府県、市町村、済生会および会社の経営する病院である。また「廃棄物処分に困る」および「技術者が得難い」もかなり支持されている。これらの主な支持層は、それぞれ前者は国(厚生省およびその他)、都道府県、会社であり、後者は国(厚生省)、都道府県、済生会、農協である。

b 希望意見
 使用中の病院の94.4%が利用上のいろいろな希望意見を述べている。
 希望意見についても、問題点の場合と同様に経済面、技術面、サービス面、人の面およびその他の面の5つに分けて調査された。
 希望意見の多かったのは、経済面に対する「補助金制度を設けること」、「機器、RIの格安化をはかること」、サービス面に対する「地域毎にRIセンターを設置(または既設施設を活用)するなどして、RIの入手、フィルムバッヂサービス等の円滑化をはかること」および人の面に対する「講習会を頻繁に開催したり、簡単なパンフレット等を配布して知識の普及をはかること」などである。