日本原子力研究所インパイルループの設置に伴う安全審査


 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更(JRR−2およびJRR−3に対するインパイルループの設置)の安全審査について、昭和39年3月17日および5月4日付をもって内閣総理大臣から諮問のあったところ原子力委員会は7月8日付をもって次のとおり答申した。

 日本原子力研究所のインパイルループの設置(JRR−2にEFTL−2、HWL−1 、LNTL 、TLW−1−50を設置、JRR−3に核分裂ガス拡散ループを設置)に伴う東海研究所原子炉施設の変更の安全性については、同研究所が提出した安全性に関する書類(38原研11−6号、38原研07−2号、39原研11−2号)に基づいて審査した結果、下記の原子炉安全専門審査会の安全性に関する報告書のとおり安全上支障がないものと認める。

(記)

原子炉安全専門審査会の報告

(昭和39年7月3日付)

I 審査結果

 日本原子力研究所が設置する原子炉施設の変更に係る安全性について、同研究所が提出した安全性に関する審査のための書類(昭和39年3月12日付38原研11−6号、同38原研07−2号および39年4月8日付39原研11−2号)に基づき審査した結果、以下のインパイルループの設置に伴う原子炉施設の変更に関する安全性は十分確保されるものと認める。

II 変更内容

 JRR−2に4本のインパイルループ(EFTL−2炉中照射装置、HWL−1炉中照射装置、JRR−2低温照射装置(LNTL)、TLW−1−50)が、JRR−3に1本のインパイルループ(核分裂ガス拡散ループ)が設置される。

III 審査内容

 III−1各インパイルループの概要
(1)EFTL−2
 本装置は、JRR−2の水平実験孔HT−1にとりつけられる水ループである。回流される水の圧力は3kg/cm2G以下(循環ポンプ出口)、温度は55℃以下(照射筒出口)である。

 照射試料は主として金属ウランおよび二酸化ウランであり、最大使用量は3.5g(U−235量)である。

(2)HWL−1
 本装置は、JRR−2の水平実験孔HT−6にとりつけられる水ループであり、EFTL−2を小型に改良したものである。回流される水の圧力は3.5kg/cm2G以下(循環ポンプ出口)、温度は65℃以下(照射筒出口)である。照射試料は主として金属ウランおよび二酸化ウランであり、最大使用量は3.5g(U−235量)である。

(3)LNTL
 本装置は、JRR−2の水平実験孔HT−9にとりつけられる低温照射装置であり液体窒素で冷却されたヘリウムガスが回流される。ヘリウムガスの圧力は0.3kg/cm2G以下(送風機出口)、温度は−190℃以上(照射筒入口)である。照射試料は主として銅および黒鉛であり、核燃料物質は使用されない。

(4)TLW−1−50
 本装置は、JRR−2の水平実験孔HT−15にとりつけられる水ループであり、回流される水の温度〔160℃以下(照射筒出口)〕と圧力〔12kg/cm2G以下(循環ポンプ出口)〕は自動制御が可能である。照射試料は主として原子炉燃料および原子炉材料であり、ウランの最大使用量は14g(U−235量)である。

(5)核分裂ガス拡散ループ

 本装置は、JRR−3の垂直実験孔VC−3にとりつけられる核分裂ガスの拡散ループである。冷却材として水〔圧力3kg/cm2G以下(循環ポンプ出口)、温度70℃以下(冷却水ジャケット)〕が、キャリアーガスとしてヘリウム〔圧力1kg/cm2G以下(ヘリウムボンベ出口)、温度250℃以下(インターナルトラップ出口)〕が回流される。照射試料は主としてセラミック質のウラン燃料であり最大使用量は0.7g(U−235量)である。

III−2安全保護設備

 各イパイルループにはループの異常状態を検止し、安全を確保するために下記の安全保護設備が設けられている。

(i)EFTL−2 警報装置、スクラム装置、緊急冷却装置

(ii)HWL−1 同上

(iii)LNTL 警報装置、ヘリウム送風機停止装置

(iv)TLW−1−50 警報装置、ループトリップ装置、スクラム装置、緊急冷却装置、非常電源設備

(v)ガス拡散ループ 警報装置、スクラム装置、緊急冷却装置

III−3 原子炉の熱出力に対する影響

 インパイルループの内部で発生する熱は、各インパイルループの独立した冷却系によって十分に除去されるので、JRR−2およびJRR−3の熱出力に対する影響はない。

III−4 原子炉の動特性に対する影響

 JRR−2およびJRR−3の動特性に関する安全性については、それぞれ1.2%△k/kおよび1.5△k/kの階段状の反応度外乱があっても安全であることがすでに認められている。JRR−2の4本のインパイルループの反応度は、いずれも0.05%△k/k以下であり、JRR−2の動特性に対する影響はない。またJRR−3のガス拡散ループの反応度は0.4%△k/k以下であり、JRR−3の動特性に対する影響はない。
 なお、LNTL以外のループにおいては、試料の挿入取出は原子炉の運転停止中に行なわれる。

III−5 平常時の安全対策

(1)遮蔽
 各インパイルループにおいて、従事者が常時接近するおそれのある個々の装置表面の放射線量率の設計値は2mrem/hである。
 なお、インパイルループにおいては、実験孔の取付部から放射線が、漏洩することもありうるので、空間線量率が2mrem/hをこえる場所がでてくることも予想されるが、そのような場合は、立入制限区域を設定し、管理を十分に行なうこととなっている。

(2)試料および廃棄物の処分
 試料は、研究終了後廃棄物処理場保安規定に従って処分される。冷却水および廃ガスは、それぞれJRR−2保安規定またはJRR−3保安規定に定める許容値以下にされた後、ホットドレインまたは煙突に排出される。

III−6 事故評価

(1)EFTL−2およびHWL−1
 電源停止等の原因による冷却材停止事故および配管破損等の原因による冷却材そう失事故ならびにNaK封入カプセルの化学的事故について検討を行なった。冷却材停止事故ならびに冷却材そう失事故については、流量低下によりスクラム信号が発せられると炉は250m.sec以内に停止するので、核燃料物質の溶融やカプセル被覆の溶融が起こることはない。なお、以上の解析では、緊急冷却系の効果を考慮していないが、スクラム信号が発せられると緊急冷却系が作動し、試料の冷却が行なわれることとなっている。
 NaK封入カプセルの化学的事故については、万一ピンホールが生じたとしても、封入されるNaKの量が少ないので、NaKと水との化学反応による爆発現象は起こらない。なお、ピンホール部分よりNaKが漏洩すると、イオン交換塔の表面の放射線量率がかなり大きくなることが予想されるが、NaK封入カプセルを用いる場合には、あらかじめ必要部分に遮蔽を追加することとなっている。

(2)LNTL
 低温照射装置固有の爆発事故について検討を行なった。この装置ではヘリウムガスの回流方式が採用されるので、酸素が凝縮することはなく、仮に真空系の故障により空気が混入するとしても、照射筒内管の温度が、酸素の沸点より高くなるので、酸素が凝縮する可能性はほとんどなく爆発現象が起こることはない。

(3)TLW−1−50
 冷却材停止事故および冷却材そう失事故について検討を行なった。本ループにおいては、一次系配管は照射筒内外管の上部に接続しており照射筒内部の水がそう失することはない。したがって冷却材そう失事故の経過内容は、冷却材停止事故のそれとほぼ同様である。冷却材停止事故については試料表面温度の上昇および流量低下によりスクラム信号が発せられると炉は250msec以内に停止するので核燃料物質の溶融や試料ホールダーの溶融が起こることはない。以上の解析では、緊急冷却系の効果を考慮していないが、スクラム信号が発せられると緊急冷却系が作動し試料の冷却が行なわれることとなっている。
 なお、本ループについては、冷却系の使用圧力および温度が比較的に高いので、特に照射筒自身の破損事故の可能性について検討を行なった。その結果(i)照射筒の材料強度は最高使用圧力および温度に十分耐えるものであり、かつ溶接部分の検査は十分に行なってあること。(ii)圧力の異常上昇に備えて照射筒に逃がし弁が設けてあること。(iii)照射筒は照射中性子束の積算値が1020nvt程度になったら廃棄されること。(iv)照射筒はその外側を重コンクリートプラグおよび不銹鋼外套に包まれて実験孔に挿入されていることの点から、照射筒の破損事故は起こらないものと認められる。したがって、実験孔の破損が起こることは考えられない。

(4)核分裂ガス拡散ループ
 冷却水配管の破損事故およびヘリウム配管の破損事故について検討を行なった。冷却水配管の破損事故については、本ループの照射プラグは垂直に挿入されるので、ジャケット部の冷却水がなくなることはなく、また流量が低下すると原子炉はスクラムし、加熱ヒーターも断たれるので、照射試料や照射プラグ内筒の溶融が起こることはない。
 ヘリウム配管の破損事故については、ヘリウム配管が、炉上面で切れ、生成されたクリプトン、キセノンが瞬時に炉室内に拡散した場合事故直後より炉室内に無限時間滞在する従業員の全身被ばく線量は約2remである。なお、沃素はインターナルトラップによりとらえられるが、仮に生成された沃素の0.1%が瞬時に炉室内に拡散するとして、従業員の甲状腺の被ばく線量を計算すると被ばく線量は無限時間で約0.5remである。

IV 審査経過