原子力委員会

廃棄物処理専門部会報告


 原子力委員会は昭和36年2月22日開催された定例委員会において、原子力平和利用開発の進展に伴い、今後増大すると予想される放射性廃棄物を合理的に処理するための方策を検討することを目的として、廃棄物処理専門部会を設置した。
 同部会は、同年3月31日以降審議を重ね、37年4月11日審議事項をとりまとめ中間報告を行ない、引続き放射性廃棄物の処理、処分に関する基本的考え方、管理、発生量の推算及び研究開発について検討し、39年6月12日の廃棄物処理専門部会において決定し、同月24日の定例委員会にその結果を報告書として提出した。
 廃棄物処理専門部会の報告は次のとおりである。

廃棄物処理専門部会報告

昭和39年6月12日

原子力委員会委員長

          佐藤栄作殿

廃棄物処理専門部会部会長

三宅泰雄

 廃棄物処理専門部会は昭和36年3月31日以降放射性廃棄物の処理についての基本方針等につき、審議を重ねてきたが、このたびその結論を得たので、ここに報告します。

 はじめに

 廃棄物処理専門部会は、昭和36年3月31日以降放射性廃棄物の処理及び処分についての基本方針等につき審議を重ねてきたが、このたびその結論を得た。

 なお、本報告書は、将来わが国の原子力の開発に伴って発生する相当量の放射性廃棄物の処理処分の基本的考え方をまとめたものである。

 審議の経過

 昭和35年10月19日原子力委員会において放射性廃棄物処理懇談会を開催し、その後処理打合せ会を設け、廃棄物の処理処分に関する基本方針等について検討を加えた。この懇談会に引き続き昭和36年2月22日廃棄物処理専門部会が設置され、今までに23回の専門部会を開催し、この問題について審議が行なわれた。
 なお、専門部会のもとに、処理及び処分の二つの小委員会が設けられ、それぞれ15回、13回の小委員会を開催し、昭和39年5月28日専門部会に対する報告を行なった。

           部会構成員

部会長 三宅泰雄 東京教育大学教授
      左合正雄  東京都立大学教授
      田島英三  立教大学教授
      山本寛   東京大学教授
      吉岡俊男  日本原子力発電(株)技術部長
      檜山義夫  東京大学教授
      坂本猛   原子燃料公社再処理準備室長
      佐々木忠義 東京水産大学教授
      小田滋   東北大学教授
      宇田道隆  東京水産大学教授
      角谷省三  (株)荏原製作所原子力部長
      佐々木秋生 日本放射性同位元素協会理事
      渡辺博信  放射線医学総合研究所 環境衛生研究部長
      斎藤信房  東京大学教授
      花岡資   農林省水産庁調査研究部長
      館林宣夫  厚生省環境衛生局長
      乙竹虔三  通産省企業局次長
      高田健   運輸省船舶局原子力船監理官

第1章 放射性廃棄物の処理処分に関する基本的考え方

(1)原子力の開発に伴って、放射性廃棄物が発生するが、その処理処分については、人体に及ぼす影響が許容レベル以下でなければならない。ここで、人体に及ぼす影響とは、個人並びに集団に対する身体的並びに遺伝的影響をいうものとする。

(2)放射性廃棄物の処理処分にあたっては、ICRP勧告を十分に尊重するものとする。

(3)放射性廃棄物の処理処分については、安全の確保とともに、経済性についても十分な配慮を払うものとする。

(4)放射性廃棄物の海洋処分については、わが国における海洋利用の特殊性を十分に考慮するものとする。

(5)放射性廃棄物の海洋処分については、国際的に密接な関係があるので、国際見地からの配慮を十分に払うものとする。

(6)放射性廃棄物の処理処分については、なお、未解決の分野が多いので、今後更に研究開発を促進するものとする。

(備考)

(i)次の第2章以下に述べることは、現状程度の規模の放射性廃棄物を処理処分する場合は、必ずしもあてはまる必要はない。

(ii)処理とは、放射性廃棄物の処分に先だって行なわれる操作加工等をすることを、また、処分とは必要な処理を経た廃棄物を環境へ放出、投棄等をすることをいう。

第2章 放射性廃棄物の処理、処分および管理

(1)処理方式

 放射性廃棄物の処理方式は、廃棄物の性状(気体、液体、固体)処理の対象となる放射性物質の種類及び放射能レベル等によって異なってくる。処理はそのあとの処分の前提として行なわれるものであるが、これらの処理方式は結局濃縮減容、希しゃく拡散及び貯留減衰の三つの方法に基づくものである。
 処理については、原則として、高いレベルのものはそのまま、あるいは、処理を経て貯蔵し、中程度及び低いレベルのものは適当な処理を経て貯留、あるいは、処分するが、低いレベルのもののうちには立地条件及び周辺の状況等を考慮して、処理を経ないで処分できるものがある。要するに、処理に関しては、環境の汚染に伴う障害を防止し、安全に、かつ、経済的に処理できる方式を考慮することが必要であり、このために使用する装置等については、除染係数(D.F)、処理能力、耐久性、施設費、運転費、運転の安全性、放射線しゃへい等及び処理作業より生ずる副生廃棄物について考慮する必要がある。
 以下に廃棄物を気体、液体及び固体に分けてそれらの処理についてのべる。
 気体廃棄物は、その性格上、各原子力施設において処理することになり、この点他の廃棄物の処理と異なっている。その処理方法にはフィルターによる除染、触媒結合、洗じょう等が考えられる。
 次に、液体廃棄物については、中程度及び低いレベルの処理が問題となり、処理方法として、イオン交換樹脂法、蒸発法、凝集沈でん法、ろ過法等があり、また、その他、生物処理法等もある。蒸発法は、施設費、運転費は高いが、106程度の高い除染係数がとれる点で比較的信頼のできる濃縮方法である。しかし、揮発性の物質を含む廃液には適さない欠点がある。イオン交換樹脂法は除染係数103程度で比較的高いが、非放射性の共存雑イオン濃度あるいは、有機物質濃度が高いと不経済な処理になる欠点があるので、一次冷却水や蒸発処理後の凝縮水の除染などに適する。凝集沈でん法は除染係数は小さいが、汚染度が小さく処理する量が多い場合には処理費が安いので有利である。
 しかし、処理対象の核種等によっては適さないものもある。このように、これらの処理方式により、最も適した処理方式を選ぶことが大切であり、また、これらの組合わせによる多段処理方式についても考慮する必要がある。
 最後に固体廃棄物については、放射性物質を含む動物死体、各種の原子力施設より発生する可燃性及び不燃性の廃棄物、原子炉燃料の再処理施設から発生する廃棄物、並びに照射用ガンマ線源の減衰したものなどがあり、必要に応じ異なった処理を考えなければならない。現在の技術では、高いレベルのものはそのまま、中程度及び低いレベルのものは、濃縮減容して貯蔵することになる。濃縮減容の方法には、焼却圧縮等の方法があるが将来、処理処分について適切な技術が開発されると考えられるので、これらに関する技術については今後大いに検討する必要がある。
 また、処理方式の経済性の検討にあたっては、処理と処分の関連の上において総合的な観点から考慮を払う必要がある。

(2)処分方式
 放射性廃棄物の処分としては、大別して閉込め方式、拡散方式及び準閉込め方式が考えられる。
 これら放射性廃棄物の処分については、これらに基づく環境中の放射性物質の濃度が許容されるものでなければならない。
 閉込め方式とは、容器等を使用して放射性廃乗物を安全であるように一定の地域に閉込める方式である。例えば、高いレベルの廃棄物を永久貯蔵地域等に廃棄貯蔵する場合がこれである。
 拡散方式とは、環境の拡散能力等を利用して、廃棄物が安全に拡散されるようにする方式で、例えば低いレベルの廃棄物を周囲の状況を考慮して環境に処分する場合がこれである。
 これら二つの方式は、わが国の状況からみて妥当な方式であると考えられる。
 準閉込め方式とは、例えば自然環境の一部を容器等として利用し、閉込め方式に準じて安全に廃棄物を環境へ処分する場合がこれである。自然の地質構造の利用等がこれに相当する。しかし、この方式は、わが国では、ちょう密な人口、狭あいな国土、複雑な地質構造、地震などの多い条件など特殊な事情があるので、将来、処理処分についての適切な技術が開発されない限り、安全に処分することが困難な場合が多いので、現状においては適当でないと考えられる。

(3)管理方式

 放射性廃棄物を処分する場合には、個人及び集団の被ばく線量を、国際的に認められた許容線量以下にたもち、国民を放射線障害から保護するよう必要な措置をとらなければならない。そのため、処分の前後において適当な調査を行ない、それによって、廃棄物の処分量、核種、処分の様式、場所、その条件などが管理されなければならない。
 処分にあたっての実施計画、処分の様式、地域、処分された廃棄物の種類、量など必要な事項についても、あわせてその記録等を保管、整備し、その結果によって必要な規制等の措置を行ない、環境の汚染を常に防止するように行政的な管理を行なう必要がある。
 なお、処分に際してのモニターやサーベイの実施にあたっては、おのおのの処分方式に適した調査の方法をとると共に環境の状況に良く適合した計画を立て、調査の対象、頻度及び地点についても十分考慮することが必要である。

(4)海洋処分に伴う技術的事項

(i)処分海域の設定とその計画についての考え方未処理の照射ずみ燃料並びに照射ずみ燃料の再処理における核分裂生成物の分離の第一工程からの廃液のような極く高いレベルのものを、海洋に処分してはならないことは明らかであるが、海洋処分の計画あるいは処分の海域を決めるにあたっては、投棄された放射性物質が公衆に障害を与えないように、処分されなければならない。放射性廃棄物の放出や投棄後の容器からの漏出等により、海水中に放射性物質が出た場合、その放射性物質は、海洋の諸条件によってそれぞれ異なった動きを示す。その動きには、移流拡散による希しゃく、沈でん、吸着、生物への濃縮等があるが、いずれも処分後の廃棄物の人体への影響を左右する重要な因子である。このため放射性廃棄物の海洋処分を計画し、処分海域を決めるにあたっては、次の事項について考慮する必要がある。

(イ)海流と潮流による移流−海洋上層の大きな流れに海流と潮流がある。潮流は潮汐による周期的な流れで、とくに沿岸における水の動きに大きな影響を持つ、沖合での放射性物質の移流は、海流によるものが重要である。海流は、ある幅をもって蛇行しながら流れる。海流中の水と外側の水との混合はあまり早くないので、放射性物質がいったん海流にのると遠くまで帯状になって流れて行く。海洋では中・深層にも緩やかな流れがある。
 酸素含有量の少ない層では、一般に海水の移流は小さいと考えられる。

(ロ)海洋の成層構造−海洋は、一般に深さと共に水の密度が増し、鉛直的に安定な構造をしている。表面から50〜100mまでの上層では混合が速い。これより深くなると密度が急に増し、水温は急に下がる。更に深くなると密度はゆるやかに増し安定中・深層となる。成層の鉛直安定度が大きいほど海底付近で放出あるいは漏出した放射性物質が、海洋の上層に影響を与えることが少ない。

(ハ)水平拡散−海流、潮流の他に、乱流による水平拡散がある。この拡散が速いほど放射性物質の希しゃくも速い、水平拡散の速さと気象との間には、著しい相関があり、静穏な日には放射性物質の拡散は起りにくい。

(ニ)沿岸水の停滞−沿岸水は、全体として大きな水塊をつくり、外洋水と容易にまじり合わない。沿岸水の寿命は場所によって違うが、短かくて数ヵ月、長ければ数年におよぶ。
 なお、(ニ)、(ホ)については主として放出にあたって考慮する場合が多い。

(ホ)鉛直拡散−上下方向の鉛直拡散は水平拡散に比べれば、その速度は桁違いに遅い。
 しかし、これは処分された放射性物質が海底から上層へ現われるまでの時間を決める重要な素因である。現在、海洋の鉛直拡散についての資料はきわめて乏しい。

(ヘ)湧昇流−深層水が表面にうきあがる現象で、黒潮にときどき出現する冷水塊などは、その一例である。
 このような湧昇流のある海域では、深層に投棄した放射性物質がまもなく海の表面に現われることがあり、しかも、沖合いの深層水が、沿岸付近の表面に出てくる場合もある。

(ト)海底の状態−深海の海底は青泥、赤粘土、軟泥等でおおわれている。海底が軟かい所では容器が海底に到着した場合、破壊の恐れが少なく、また、容器が破壊される確率が小さい。

(チ)深度−投棄された放射性廃棄物が底引き網等によって引きあげられる恐れがなく、しかも魚類のせい息の少ない深度の所を考慮する必要がある。この深度としては、一般的に2,000m以深が考えられる。
 なお、深さ2,000m以上の所に投棄したとしても湧昇流などによって放射性物質が再び海洋の上層に現われることもありうるので、湧昇流の有無などについて十分調査し、漁場や産卵場付近への投棄はさけるべきである。
 (ハ)から(チ)までにのべたことは主として投棄にあたって考慮する場合が多い。

(リ)その他−以上のほか、海況、地形、気象、海洋生物、水産物、海域の利用度、その他必要な事項について十分考慮する必要がある。

(ii)処分に必要な海域の諸条件
 処分にあたっては、その付近からとれる水産物の生産や消費などについて調べる必要があり、これらに大きい影響を与えないようにすべきである。漁場や有用魚類の産卵場製塩場付近への処分は、さけるべきである。
 投棄海域としては、海水の移流、交換流が少ない所、すなわち酸素含有量が比較的少なく、漁場から離れしかも平たんな軟かい海底をもつ海域を考える必要がある。
 わが国の場合、例えば、太平洋沿岸から600マイル(約1,000km)以上沖の海域が上の条件に近いと考えられる。オホーツク海、東支那海は、漁場としての利用度が高く、日本海の海水は、酸素含有量が多く、また、日本海溝は海底地形が複雑なので必ずしも上の条件の総てをみたしているとはいえない。これらの海域の投棄海域としての可否を考えるに当っては、今後、更に詳細な調査を行なう必要がある。
 沿岸への放射性廃棄物の放出に当っては、その廃液が十分に海水によって希しゃくされて漁場、養殖場などに達するときには、そこから生産される水産物が食品の許容濃度をこえないような場所が選ばれなければならない。そのためには、あらかじめその付近の海流、底質、生物相、漁業、養殖業、生産物の消費、その他の海洋の利用、人口密度等について調べなくてはならない。一方、その地点の海洋生物の放射性廃棄物の吸着、濃縮、その他の機構について定量的に研究する必要がある。
 なお、将来、海洋処分海域を決めるにあたっては今まで述べた諸点のほか、処分される廃棄物に含まれる放射性物質の核種及びそれらの量、処分される容器の数量等を考慮し、これら処分される放射性物質の海洋及び海洋生物に含まれる濃度を評価することが必要である。

(iii)海洋投棄用容器
 放射性廃棄物を容器に封じ込んで、海洋に投棄する場合の目的としては

(イ)放射性物質を一定期間容器内にとどめて、減衰させる。

(ロ)一定期間すぎた後、放射性物質は、容器から漏出すると考えられるが、その漏出率を制限できる。

 上に述べた二つの目的にしたがって、海洋投乗用容器には、十分な耐久性、耐圧性、耐食性等を有することが望まれるが、同時に、その経済性についても考慮する必要がある。その場合投棄する放射性物質の核種、半減期、量及び海況についても投棄地点の海水、海洋生物等の放射性物質の濃度を評価し、それぞれの状況に最も適した容器を使用することが必要である。

(5)海洋処分に関する評価と規制
 放射性廃棄物による海洋汚染がいかなる経路機構によって、人体に影響を引き起すかについて、量的な関係を研究することにより、海洋処分の方法並びに行政的規制を適切に行なうことができる。
 この際、影響については、外部被ばくによるものも同様に考えなければならない。
 海洋汚染には一時的汚染、局地的汚染、広域または長期的汚染が考えられる。
 一般に海洋に処分された放射性物質は、海水から海洋生物に摂取され、それらの水産食品、海洋から生産される食塩から直接人体に影響を与える場合と、飼料、肥料等を経由して陸産の食品に入り間接的に人体に影響を与える場合が考えられる。水産生物の汚染経路は、海水から直接放射性物質が摂取されるのと、間接に汚染された餌料生物を摂取することによって起るものとがあるが、実際に汚染された海洋では双方が同時に起っている。この双方のいずれにしても海水中の放射性物質の濃度が海洋生物中の濃度を決定することを十分に考慮する必要がある。なお、許容量については、正常な状態においてはICRPの一般公衆に対する最大許容量及びそれに基づく飲食物の最大許容濃度を基準にすることが適当であると考える。
 処分量については、付近住民および一般国民の保護を目的とし、急性的影響(一時被ばく)と慢性的遺伝的影響(長期被ばく)の双方を考えて評価する必要がある。
 そのために、海洋処分について各種の調査を行ないその結果をもとに次の二つの段階で海洋処分の制限を行なう。

(i)放出又は投棄地点の付近の海水中の放射性物質の濃度が、そこで食用のために水揚される水産物の種類、量及びその消費の状況を考慮し、許容量をこえないように処分量を制限する。その際理論と実験によって、処分地点の海水に応じた許容濃度を定め、それをこえないように、放出や投棄の量を決めることが必要である。

(ii)付近住民及び一般国民によって摂取される水産物を調査し、水産物から摂取される放射性物質の量が、これらの人々の許容量をこえないようにする。
 また、海洋処分に関しては、行政的な管理の必要上、適当な機関により、海洋処分に関する資料を整備し、規制を行なうとともに、特に投棄地域については、適当な行政機関において指定することがのぞましい。
 公海における主要な漁場等の海域については、国際的に保護海域として取扱うようなことも、将来、考慮する必要があろう。
 なお、海洋処分の国際性に鑑み、国際的なとり決め等について十分考慮を払う必要がある。

〔備考〕
 ここでいう海洋処分には、放出と投棄が考えられる。放出とは、放射性物質を含む液体を海中に直接流し出すことをいう。また、投棄とは、放射性廃棄物を容器に入れて深海に投ずることをいう。

第3章 放射性廃棄物発生量の推算

(i)放射能レベル区分
 放射性廃棄物の放射能レベルについては、国際的な基準がなく、かつ、すべてに当てはまる妥当な区分を考えることは不可能である。ここでは便宜上、廃棄物の処理や発生量の推算の必要から、次表に示すレベル区分をとることにした。核種等については特に考慮していないので、不均衡な点があるものと思われる。

 従って、明らかな核種の放射性廃棄物については、別に考慮する必要があろう。

 なお、このレベル区分は、上に述べた目的のための区分であって、処分の際にそのまま適用するためのものではない。



(ii)廃棄物発生量

 ここでは便宜上、このレベル区分に従って放射性廃棄物の発生量を年次的に推算した。次表(p.7)に示す廃棄物の放射性物質の量や体積は、一定の前提条件をおいて推算されたもので、その原子力施設から一次処理を経て出された直後のものである。放射性物質の量については、その後の減衰を考えていない。体積についても、一次処理以後の減容、濃縮、希しゃく等の処理をしない値をとっている。
 昭和38年度に発生する廃棄物は、4,300〜4,400キュリー程度と考えられるが、そのうち、4,300キュリー程度(400〜500m3)は固体廃棄物で、更に固体廃棄物キュリー数の90%以上は高いレベルのものであると考えられる。液体廃棄物は45,000m3前後と体積は大きいがその放射能は1.5〜2.0キュリー程度である。
 気体廃棄物は3.5〜4.0キュリー程度が発生すると推算されている。しかし、10年後の昭和48年度には、発電炉、再処理施設等がそれぞれ運転に入っており、発生する廃棄物は、4.03×108キュリーと推算される。
 固体廃棄物は2.3×105キュリー程度となるものと推算されるが、そのキュリー数の95%は、高レベルのものと考えられる。 
 液体廃棄物は4.01×108キュリー程度発生するものと考えられるが、そのうち、低レベルが約20キュリー、中レベルのもの66,000キュリーと考えられ、ほとんどは、極高レベル(4.0×108キュリー)であると推算される。
 気体廃棄物は1.7×106キュリー程度発生するものと考えられるが、そのうち低いレベル7×105キュリー、中レベルのものは、1×106キュリー程度、高いレベルは2.3×103キュリー程度である。

 なお、使用済燃料の発生量の推定は、原子力委員会再処理専門部会報告書(昭和37年4月11日)により、未知の部分については適当な仮定を設けて毎年増加するものと仮定し、試算したものである。従って、原子力発電計画の変更等により、今後変わる可能性のある数値である。

年度別廃棄物発生量 (38〜48年度)


第4章 放射性廃棄物の処理処分に関する研究開発

 原子力の開発が進むにつれて放射性廃棄物の発生量が増加することになると思われるが、その処理処分に関しては、今後とも必要な研究開発を推進することが望ましい。

(1)放射性廃棄物の処理に関する研究開発

(イ)極く高いレベル廃液の固化に関する研究

(ロ)原子力施設等から発生する放射性不活性ガス、よう素等の処理に関する研究

(ハ)有機廃液の処理及びスラッジの処理に関する濃縮法あるいは、焼却法等についての研究

(ニ)放射性廃棄物の分離選別に関する研究

(ホ)動物死体の処理に関する調査研究

(ヘ)放射性廃棄物の運搬容器並びに極めて高いレベルのものの運搬、移動方法等に関する研究開発

(2)放射性廃棄物の処分に関する研究

(i)海洋処分に関する研究

(イ)放射性核種の濃縮係数及び食物連鎖(food chain)等に関する海洋生物学的研究

(ロ)放射性廃棄物の海洋における拡散、混合等放射性廃棄物の挙動並びに海洋処分に適する海域の要素に関する調査研究

(ハ)放射性廃棄物の海洋投棄用容器に関する研究

(ニ)放射性廃棄物の海洋処分に関する放射能の測定及び分析技術並びに調査方法等に関する研究

(ii)原子力施設等から発生する気体廃棄物の大気環境内における移動、拡散等及び大気中に放出する処分方法に関する研究

(iii)放射性廃棄物の海洋処分以外の処分に関する研究あとがきこれまで述べてきたことは、将来の原子力の開発に伴って発生する相当量の放射性廃棄物の処理処分の考え方についてである。
 しかし、これらについては、今後広く内外のこの方面の科学的な研究開発と国際的な管理規制を参考にし、改善をはかることが必要と考えられる。
 なお、今後、改善をはかるにあたっては、将来放射性廃棄物が、ますます多く発生してくる事にかんがみ、一層安全な海洋処分の方式を確立することは必要であろう。

廃棄物処理専門部会の報告書について

 原子力委員会は、廃棄物処理専門部会報告書に基づき昭和39年7月15日開催の定例委員会において、次のとおり決定した。
 原子力委員会は、昭和39年6月12日廃棄物処理専門部会から、放射性廃棄物の処理処分に関する報告書の提出を受けた。
 本問題の重要性にかんがみ、当委員会としては、同報告書の放射性廃棄物の処理処分に関する基本的考え方の趣旨を尊重し、当面同報告書において必要としている放射性廃棄物の処理処分に関する研究開発の推進を図りつつ、今後の原子力の開発の進展に応じて所要の方策をたてて行くものとする。
 なお、同専門部会は、諮問事項について審議を終了したので、これを解散するものとする。