原子力委員会 廃棄物処理専門部会報告 原子力委員会は昭和36年2月22日開催された定例委員会において、原子力平和利用開発の進展に伴い、今後増大すると予想される放射性廃棄物を合理的に処理するための方策を検討することを目的として、廃棄物処理専門部会を設置した。 廃棄物処理専門部会報告
廃棄物処理専門部会は昭和36年3月31日以降放射性廃棄物の処理についての基本方針等につき、審議を重ねてきたが、このたびその結論を得たので、ここに報告します。 はじめに 廃棄物処理専門部会は、昭和36年3月31日以降放射性廃棄物の処理及び処分についての基本方針等につき審議を重ねてきたが、このたびその結論を得た。 なお、本報告書は、将来わが国の原子力の開発に伴って発生する相当量の放射性廃棄物の処理処分の基本的考え方をまとめたものである。 審議の経過 昭和35年10月19日原子力委員会において放射性廃棄物処理懇談会を開催し、その後処理打合せ会を設け、廃棄物の処理処分に関する基本方針等について検討を加えた。この懇談会に引き続き昭和36年2月22日廃棄物処理専門部会が設置され、今までに23回の専門部会を開催し、この問題について審議が行なわれた。 部会構成員 部会長 三宅泰雄 東京教育大学教授 第1章 放射性廃棄物の処理処分に関する基本的考え方 (1)原子力の開発に伴って、放射性廃棄物が発生するが、その処理処分については、人体に及ぼす影響が許容レベル以下でなければならない。ここで、人体に及ぼす影響とは、個人並びに集団に対する身体的並びに遺伝的影響をいうものとする。 (2)放射性廃棄物の処理処分にあたっては、ICRP勧告を十分に尊重するものとする。 (3)放射性廃棄物の処理処分については、安全の確保とともに、経済性についても十分な配慮を払うものとする。 (4)放射性廃棄物の海洋処分については、わが国における海洋利用の特殊性を十分に考慮するものとする。 (5)放射性廃棄物の海洋処分については、国際的に密接な関係があるので、国際見地からの配慮を十分に払うものとする。 (6)放射性廃棄物の処理処分については、なお、未解決の分野が多いので、今後更に研究開発を促進するものとする。 (備考) (i)次の第2章以下に述べることは、現状程度の規模の放射性廃棄物を処理処分する場合は、必ずしもあてはまる必要はない。 (ii)処理とは、放射性廃棄物の処分に先だって行なわれる操作加工等をすることを、また、処分とは必要な処理を経た廃棄物を環境へ放出、投棄等をすることをいう。 第2章 放射性廃棄物の処理、処分および管理 (1)処理方式 放射性廃棄物の処理方式は、廃棄物の性状(気体、液体、固体)処理の対象となる放射性物質の種類及び放射能レベル等によって異なってくる。処理はそのあとの処分の前提として行なわれるものであるが、これらの処理方式は結局濃縮減容、希しゃく拡散及び貯留減衰の三つの方法に基づくものである。 (2)処分方式 (3)管理方式 放射性廃棄物を処分する場合には、個人及び集団の被ばく線量を、国際的に認められた許容線量以下にたもち、国民を放射線障害から保護するよう必要な措置をとらなければならない。そのため、処分の前後において適当な調査を行ない、それによって、廃棄物の処分量、核種、処分の様式、場所、その条件などが管理されなければならない。 (4)海洋処分に伴う技術的事項 (i)処分海域の設定とその計画についての考え方未処理の照射ずみ燃料並びに照射ずみ燃料の再処理における核分裂生成物の分離の第一工程からの廃液のような極く高いレベルのものを、海洋に処分してはならないことは明らかであるが、海洋処分の計画あるいは処分の海域を決めるにあたっては、投棄された放射性物質が公衆に障害を与えないように、処分されなければならない。放射性廃棄物の放出や投棄後の容器からの漏出等により、海水中に放射性物質が出た場合、その放射性物質は、海洋の諸条件によってそれぞれ異なった動きを示す。その動きには、移流拡散による希しゃく、沈でん、吸着、生物への濃縮等があるが、いずれも処分後の廃棄物の人体への影響を左右する重要な因子である。このため放射性廃棄物の海洋処分を計画し、処分海域を決めるにあたっては、次の事項について考慮する必要がある。 (イ)海流と潮流による移流−海洋上層の大きな流れに海流と潮流がある。潮流は潮汐による周期的な流れで、とくに沿岸における水の動きに大きな影響を持つ、沖合での放射性物質の移流は、海流によるものが重要である。海流は、ある幅をもって蛇行しながら流れる。海流中の水と外側の水との混合はあまり早くないので、放射性物質がいったん海流にのると遠くまで帯状になって流れて行く。海洋では中・深層にも緩やかな流れがある。 (ロ)海洋の成層構造−海洋は、一般に深さと共に水の密度が増し、鉛直的に安定な構造をしている。表面から50〜100mまでの上層では混合が速い。これより深くなると密度が急に増し、水温は急に下がる。更に深くなると密度はゆるやかに増し安定中・深層となる。成層の鉛直安定度が大きいほど海底付近で放出あるいは漏出した放射性物質が、海洋の上層に影響を与えることが少ない。 (ハ)水平拡散−海流、潮流の他に、乱流による水平拡散がある。この拡散が速いほど放射性物質の希しゃくも速い、水平拡散の速さと気象との間には、著しい相関があり、静穏な日には放射性物質の拡散は起りにくい。 (ニ)沿岸水の停滞−沿岸水は、全体として大きな水塊をつくり、外洋水と容易にまじり合わない。沿岸水の寿命は場所によって違うが、短かくて数ヵ月、長ければ数年におよぶ。 (ホ)鉛直拡散−上下方向の鉛直拡散は水平拡散に比べれば、その速度は桁違いに遅い。 (ヘ)湧昇流−深層水が表面にうきあがる現象で、黒潮にときどき出現する冷水塊などは、その一例である。 (ト)海底の状態−深海の海底は青泥、赤粘土、軟泥等でおおわれている。海底が軟かい所では容器が海底に到着した場合、破壊の恐れが少なく、また、容器が破壊される確率が小さい。 (チ)深度−投棄された放射性廃棄物が底引き網等によって引きあげられる恐れがなく、しかも魚類のせい息の少ない深度の所を考慮する必要がある。この深度としては、一般的に2,000m以深が考えられる。 (リ)その他−以上のほか、海況、地形、気象、海洋生物、水産物、海域の利用度、その他必要な事項について十分考慮する必要がある。 (ii)処分に必要な海域の諸条件 (iii)海洋投棄用容器 (イ)放射性物質を一定期間容器内にとどめて、減衰させる。 (ロ)一定期間すぎた後、放射性物質は、容器から漏出すると考えられるが、その漏出率を制限できる。 上に述べた二つの目的にしたがって、海洋投乗用容器には、十分な耐久性、耐圧性、耐食性等を有することが望まれるが、同時に、その経済性についても考慮する必要がある。その場合投棄する放射性物質の核種、半減期、量及び海況についても投棄地点の海水、海洋生物等の放射性物質の濃度を評価し、それぞれの状況に最も適した容器を使用することが必要である。 (5)海洋処分に関する評価と規制 (i)放出又は投棄地点の付近の海水中の放射性物質の濃度が、そこで食用のために水揚される水産物の種類、量及びその消費の状況を考慮し、許容量をこえないように処分量を制限する。その際理論と実験によって、処分地点の海水に応じた許容濃度を定め、それをこえないように、放出や投棄の量を決めることが必要である。 (ii)付近住民及び一般国民によって摂取される水産物を調査し、水産物から摂取される放射性物質の量が、これらの人々の許容量をこえないようにする。 〔備考〕 第3章 放射性廃棄物発生量の推算 (i)放射能レベル区分 従って、明らかな核種の放射性廃棄物については、別に考慮する必要があろう。 なお、このレベル区分は、上に述べた目的のための区分であって、処分の際にそのまま適用するためのものではない。
(ii)廃棄物発生量 ここでは便宜上、このレベル区分に従って放射性廃棄物の発生量を年次的に推算した。次表(p.7)に示す廃棄物の放射性物質の量や体積は、一定の前提条件をおいて推算されたもので、その原子力施設から一次処理を経て出された直後のものである。放射性物質の量については、その後の減衰を考えていない。体積についても、一次処理以後の減容、濃縮、希しゃく等の処理をしない値をとっている。 なお、使用済燃料の発生量の推定は、原子力委員会再処理専門部会報告書(昭和37年4月11日)により、未知の部分については適当な仮定を設けて毎年増加するものと仮定し、試算したものである。従って、原子力発電計画の変更等により、今後変わる可能性のある数値である。 年度別廃棄物発生量 (38〜48年度) 第4章 放射性廃棄物の処理処分に関する研究開発 原子力の開発が進むにつれて放射性廃棄物の発生量が増加することになると思われるが、その処理処分に関しては、今後とも必要な研究開発を推進することが望ましい。 (1)放射性廃棄物の処理に関する研究開発 (イ)極く高いレベル廃液の固化に関する研究 (ロ)原子力施設等から発生する放射性不活性ガス、よう素等の処理に関する研究 (ハ)有機廃液の処理及びスラッジの処理に関する濃縮法あるいは、焼却法等についての研究 (ニ)放射性廃棄物の分離選別に関する研究 (ホ)動物死体の処理に関する調査研究 (ヘ)放射性廃棄物の運搬容器並びに極めて高いレベルのものの運搬、移動方法等に関する研究開発 (2)放射性廃棄物の処分に関する研究 (i)海洋処分に関する研究 (イ)放射性核種の濃縮係数及び食物連鎖(food chain)等に関する海洋生物学的研究 (ロ)放射性廃棄物の海洋における拡散、混合等放射性廃棄物の挙動並びに海洋処分に適する海域の要素に関する調査研究 (ハ)放射性廃棄物の海洋投棄用容器に関する研究 (ニ)放射性廃棄物の海洋処分に関する放射能の測定及び分析技術並びに調査方法等に関する研究 (ii)原子力施設等から発生する気体廃棄物の大気環境内における移動、拡散等及び大気中に放出する処分方法に関する研究 (iii)放射性廃棄物の海洋処分以外の処分に関する研究あとがきこれまで述べてきたことは、将来の原子力の開発に伴って発生する相当量の放射性廃棄物の処理処分の考え方についてである。 廃棄物処理専門部会の報告書について 原子力委員会は、廃棄物処理専門部会報告書に基づき昭和39年7月15日開催の定例委員会において、次のとおり決定した。 |