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日本における原子動力利用の必要性とその計画



 原子力委員会は、第3回ジュネーブ会議に提出する“日本における原子動力利用の必要性とその計画”と題する論文要旨を、第48回定例会議において決定したが、その本論文が去る4月22日の第12回定例会議において決定された。なお、本論文は英語およびフランス語の2ヵ国語に翻訳されて提出されることになっている。
 本論文は次のとおりである。

日本における原子動力利用の必要性とその計画

日本原子力委員会

 緒言

 わが国はエネルギー資源が極度に乏しく、大部分を輸入に頼らざるをえない宿命を負っているにもかかわらず、過去10年間高い経済成長を果たしてきた。わが国は今後も高い経済成長を維持するであろう。このような高い経済成長を続けてゆくためには、常に技術革新が要求され、産業構造の高度化を図らなければならないとともに、低廉なエネルギーの安定確保を図ってゆかなければならない。
 わが国は原子力利用の開発、研究には約10年の経験しか有していないが、原子力平和利用には強い熱意をもっているのもこのためである。
 原子力委員会は、1961年に「原子力開発利用長期計画を策定して、原子力開発利用の意義と目標およびその方針を明らかにした。

1.エネルギー需給の長期の見通し

 「原子力開発利用長期計画」の策定の基となった「国民所得倍増計画」は、1960年に政府に与り定められた。この計画はわが国経済の安定成長を図るため、1970年を目標年次として、国民経済規模を倍増することを目標に国民総生産(GNP)の伸びを年率7.8%としている。
 この計画によると、総エネルギー需要は、1970年に1959年の2.3倍(303百万トン(7,000kcal/kg石炭換算以下同じ))、1980年には3.9倍(514百万トン)と見込んでいる。
 総エネルギー中、電力需要は、1970年に235×106MWh、1980年に430×106MWhで、それぞれ1959年の2.8倍および5.1倍としているが、その他のエネルギーは、両年次において2倍および3.2倍となっている。(第1表参照)
 一次エネルギーの供給についてみると、総量は1970年に1959年の2.1倍(283百万トン)、1980年に3.4倍(455百万トン)と見込んでいる。このうち、1970年および1980年にそれぞれ水力は1959年の1.5倍(91.9×106MWh)、1.7倍(105.9×106MWh)と低調なのに比べ石油の伸びは3.5倍(98百万kl)、7.2倍(199百万kl)と急激になっている。全供給エネルギーの1959年、1970年および1980年における構成比率は、水力については27.6%、19.5%、14%と漸減し、石炭についても37.8%、28.7%、22.2%と減少をたどっているのに比べ、石油については29.5%、49.6%、62.6%と著しい増大を示している。これら増大するエネルギーをほとんど海外にあおがねばならず、そのため全エネルギーに対する輸入エネルギーの比率は、1959年の33.6%から1970年58.8%、1980年には72.5%と増大する。
 1970年における電力供給規模は、水力91.9×106MWh、火力169.7×106MWhで、火力の全電力に対する比率は1959年の36%から1970年には65%へと大きく増大し、発電設備は10%の供給予備能力を含めて1970年には水力21,520MW、火力31,480MWの規模が必要であるとしている。(第2表参照)

第1表エネルギー需要見通し

第2表 一次エネルギー供給見通し

2.長期エネルギー政策と原子力発電の意義

 「国民所得倍増計画」においては、長期エネルギー政策の基本的方向として、経済性を中心とする合理的なエネルギー供給構造の確立、輸入エネルギーの外貨負担の軽減、需要に応ずる供給量の安定的確保に重点をおいた対策を推進する必要があるとしている。
 このような経済成長の見通しを背景として1961年に原子力委員会は、「原子力開発利用長期計画」を策定した。原子力発電の開発の意義について、当委員会は次のとおり考えている。

1)1970年度までには36,220MW、1971〜1980年度には48,190MWの新規発電設備の開発を必要としている。

2)これら、発電設備は、適地の漸減のため水力資源の新たなる開発にあまり多く期待できず、火力に重点がおかれる。

3)火力発電の所要燃料は、そのほとんどを輸入石油に依存せざるをえない。

4)より安価なエネルギー源の開発およびその多様化をはかることが必要である。

 以上の前提に立って考えた場合、原子力発電を取り入れることはきわめて大きな意義があると考える。原子力委員会は、長期計画において、1970年までに1,000MWE、次の10年間(1971〜1980)に6,000〜8,500MWEの原子力発電が達成されると定めている。
 わが国の経済の伸びは著しく4年前に「国民所得倍増計画」にて予想したGNPの平均年増加率7.8%に比し、1959年から1962年までの実績では15.3%の高率を示し、エネルギー需要についても、1959年に比しすでに年増加率は約13%となってきているところから、将来のエネルギー需要は倍増計画で推進されたもの以上に増大することが明らかで、特に電力の需要は急増し、大規模火力発電施設の建設が必要となってくると思われる。
 したがって、低廉と安定供給の2原則を共にみたす原子力発電の重要性が益々増大してくるであろう。
 最近、通商産業省産業構造調査会総合エネルギー部会においても、将来のエネルギー政策を再検討し、その報告書においても同様な考え方を示している。
 このような発展に鑑み、長期計画で示した原子力発電所建設の目標は、将来是非とも達成されねばならぬのみならず、ある時期にはそれ以上のものとされなければならなくなるであろう。

3.原子力発電計画と諸問題

(1)原子力発電の経済性の見通し

 電力需要の増大にともなって、今後建設される火力発電所の大部分は、重油専焼火力発電所となるものと予想される。その発電原価は、設備の大容量化による建設単価の低下、熱効率の上昇、石油価格の低下等によって今後さらに改善され、1970年頃には、1kWh当りほぼ6.7ミルないし8.4ミル程度になるものと考えられる。
 これに対して原子力発電による発電原価は、海外における発電炉開発に関する資料、発電炉の運転経験等を参考とし、これにわが国の特殊事情として金利の高いこと、耐震設計の必要であること等を考慮して行なわれた試算によっても、1970年前後には前記重油専焼火力発電による発電原価とほぼ同程度になるものと思われる。
 さらに、原子力発電は、その技術の発展の可能性からみて、将来は重油専焼火力発電より有利になることが予想される。

(2)原子力発電計画

 上述のごとく、原子力発電の見通しとして、当委員会作成の長期計画では、1970年までの期間(準備段階)に約1,000MWEの原子力発電所が建設され、1971〜1980年の期間(実用段階)に6,000〜8,500MWEが開発されるとしている。
 対象炉型については、わが国が原子力の平和利用の研究開発に諸外国より遅れてスタートしたという事情から、1960年代は、海外の開発ずみの炉を導入することとなり、軽水冷却型炉および黒鉛減速ガス冷却型炉が主たる対象となるであろう。
 これらの型の炉は逐次国内においても製作されることとなるであろう。
 なお“1970〜1980年の後半には今後新たに開発される新しい型式の発電炉も若干建設される”ものと考える。
 また、核燃料の需要については、1970年には天然ウラン換算数百トン程度、1980年には数千トン程度にも達するものと思われる。
 わが国のウラン資源は、原子燃料公社を中心として探鉱、試掘を行なっているが、人形峠地区(鳥取県)、その他においてU3O8換算で合計2,000トン程度のウラン埋蔵量が確認されたに過ぎないので、核燃料の供給については輸入に依存しなければならない。
 天然ウランの輸入はさし当り困難はないものと考えられるが、濃縮ウランについては米国、IAEA等からの供給に期待している。
 また、再処理施設については、天然ウランおよび低濃縮ウランの使用済燃料を年間約200トンを処理できる施設の建設計画を1970年の完成を目途として準備をすすめている。

(3)原子力発電所の建設

 日本原子力研究所が米国GE社から購入した動力試験炉(JPDR)(出力12.5MWE)は、1963年10月に完成したが、今後これを使って各種の試験研究を行ない将来の原子力発電技術に役立たせることとしている。1970年までの1,000MWE原子力発電計画に対する電気事業者の建設計画は次のとおりである。

(i)日本原子力発電(株)*

 現在茨城県東海村に出力166MWE、黒鉛減速炭酸ガス冷却型の発電所を英国GEC社から購入建設中であり、1965年3月に完成の予定である。
 同社はこれに引き続き出力250〜300MWEの発電所を福井県敦賀市に建設する予定である。この発電所は、軽水冷却型を採用することになっており1964年度に着工、1968年度に完成の予定である。

*日本原子力発電(株)は、初期段階における原子力発電の企業化のため実用規模原子力発電炉の建設、運転を目的として、民間電力会社、電源開発会社および電気機械メーカー等の出資によって1957年11月に設立された。


(ii)電力会社

 電力会社の建設計画としては、関西、東京、中部の各電力会社が、1969〜1970年完成を目標にそれぞれ300MWE前後の原子力発電所の建設を予定し、このため必要な建設候補地の確保立地調査等の準備を進めている。
 日本原子力発電(株)の建設計画の目的は、海外で実用化されている発電炉について、わが国における不確定要因を解明し、以降の計画を円滑に進めることにある。一方、上記の三電力会社の計画は、開発準備段階において、企業としての総合的経験を習得し、1970年以降の本格的な実用化を円滑に導びこうとするものである。このようにわが国における原子力発電事業は民間企業がその開発主体となるので、原子力発電の経済性は会社にとって重大な問題である。
 原電1号炉は、最初に完成する実用炉であるが、その発電コストは予期以上に高くなる見通しである。今後建設される上記の軽水型炉の発電コストは、8.4ミル/kWh前後と推算され、同規模の重油専焼火力発電のコストよりやや高い。
 したがって、1970年までの開発準備段階における原子力発電を推進するためには、民間電気事業者の計画を政府が援助しなければならない(委員会は原子力発電の援助策として、低利財政資金の融資、使用済燃料の国内再処理体制の整備およびそれと関連ある所要の買い上げの具体的措置について現在検討を進めている。

4.動力炉の研究開発

 将来の動力炉に関する開発研究については日本原子力研究所が中心となって、現在原型炉の概念設計がすすめられている。
 この型の原子炉の研究開発は、1975年以降に実用になることを期待して、「国産動力炉計画」として、委員会により1963年以来推進されている。
 またプルトニウム燃料の有効利用の見地から高速増殖炉の研究開発を促進することとしており、1963年から高速臨界実験装置の建設に着手している。この炉の将来の具体的な開発方針については現在委員会において検討がすすめられている。

5.原子力船の開発

 原子動力利用の今一つの重要な分野として、船舶推進への利用があるが、当委員会は将来、原子力船が在来船と経済性において匹敵するようになることを期待している。わが国は、世界的造船国、海運国として原子力船の建造技術を身につけておくことはぜひとも必要であると考えている。
 政府は1963年に日本原子力船開発事業団を設立し、ここに約6,700総トンの海洋観測船を建造させることとした。本船に搭載する原子炉は出力35MWの軽水型である。
 本船は、わが国の原子力第一船は1968年に完成の予一定で、1969年から2年間の実験運航を行なった後、海洋観測に利用することとしている。