原子力委員会

原子炉安全審査調査団報告書提出


昭和39年3月30日


 原子力委員会は、わが国における原子力発電計画の具体化の情勢にかんがみ、米国における原子炉安全審査の実態を調査するため、原子炉安全審査調査団を昭和38年10月14日から2週間にわたって、米国原子力委員会へ派遣したが、同調査団から、本年3月30日付をもって、原子力委員会委員長あて下記報告書の提出があった。

原子炉安全審査調査団報告書

 はしがき
 本調査団は、米国における原子炉安全審査の実態を調査し、もってわが国における原子力発電計画の具体化にともなう原子炉の安全審査に資するため、原子力委員会により米国へ派遣されたものである。
 調査団は、米国における調査にあたり、主として発電用軽水炉の安全審査について、次の二つを調査すべきであると考えた。一つは、行政上いかなる手続により安全審査を行なっているかということと、もう一つは、技術上いかなる観点で安全性の判断を下しているかということである。
調査団は、昭和38年10月14日から2週間にわたって、米国原子力委員会を訪問し、主に規制局関係の多くの職員から、懇切な説明を聞き、かつ十分な質疑を行ない、調査すべき点は一応調査して来たつもりである。
 本報告書では、米国原子力委員会において調査して来たままを要約して述べ、心要なところにはわが国の事情も参考のため引用しておいた。もとより、国情の違いもあり、また米国のやり方が必ずしも完全とはいえないであろうから、米国でやっている通りにわが国でやる訳にはゆかないであろう。しかし、われわれの調査したことが、わが国における発電用原子炉の安全審査の資となれば幸いである。
 本報告書を原子力委員会に提出するに当って、米国原子力委員会関係者の便宜供与に対し深甚の謝意を表するものである。

I 行政関係

1.規制関係組織

 AEC(委員5名)の下に General Manager に属するグループと Director of Regulation に属するグループの二つがある。 General Manager の主要な任務は、軍事用および民間用の原子力を推進するための研究開発で Dir. of Regulation は保健安全および許可規制を受持っている。われわれ調査団が会ったのは、主として後者の職員である。
 Dir. of Regulation の下には、次の三つの Division がある。

① Div. of Radiation Protection Standards(DRPS)FRC(Federal Radiation Council)の放射線防護の基準、レベル、線量等に関する勧告に基づき working rule を決める。

②Div. of Licencing & Regulation(DLR)

 原子炉、燃料およびRI関係の許認可および規制を行なう。

③ Div. of Compliance(DC)

 建設中、試験中の検査ならびに運転開始後の定期検査等を行なう。DCは5ヵ所に地方事務所を持っている。
 これらに従事している人数は、大体 DRPS 30人、DLR 150人、DC 120人、合計約300人であって、原子力関係の業務に深い経験を有する者が多い。
 また、AECには、DLRが行なう許認可の諮問機関として ACRSがある。委員は各分野の専門家15名からなり、part time である。
 わが国にも part time の30名の専門家および政府職員からなるACRSと同様な原子炉安全専門審査会がある。審査会は原子力委員会の内部機関であり、原子力委員会は安全審査上諮問機関的性格を有するものである。

2.許認可手続

 法律には、建設認可と運転許可という順に、二つの手続をとらなければならないことが規定されている。これらの許認可に際しての安全上の基準は、公衆に災害を及ぼさないという保証があることである。法律上の二つの手続の前に、非公式段階として立地に関する事前検討を行なっている場合がほとんどで、安全審査の点からは、実際上3段階の step by step 方式といえる。
 このような方式を採用している理由は、原子炉技術が進歩途上にあるので、最初の1回の審査だけで最終的に許可を与えることは実情に合わないと考えているからである。なお、米国の法制上、このような方式を受け入れ易いということもあろう。step by step 方式の場合は、運転許可は、詳細設計が固まり、建設が完了した時期に与えられる。この許可に先立つ立地の事前検討および建設認可は、中間的な判断を下すための審査を行なうものであるから、その時には設計方針および概略値以上の詳細なデータは必ずしも必要としない。したがって、認可時までは少人数、少金額でできるので、申請者に過分の負担をかけない。
 わが国の発電用原子炉の許認可手続には、最初に内閣総理大臣の原子炉設置許可(およびほぼ同時に通産大臣の事業許可)があり、それにしたがって通産大臣の工事施行認可がある。この場合、最初の段階で安全審査を行なって許可を与え、認可は許可の範囲内で行なわれる。したがって、わが国の手続は、法制上も、安全審査の点からも、one step 方式といえる。

(1)非公式段階 Informal Stage

 AECは、申請者に対し、非公式段階としての立地の事前検討を推奨しており、実際に多くの申請者に対してやっている。この事前検討は、立地選定について申請者を指導し、かつ助言を与えるもので、申請者の要請によっては、候補地が容認できるものであることについて非公式な見解を出している。また候補地がある設計の原子炉のみに適するというような助言も行なうし、欠点を指摘することもある。
 なお、わが国では正式の原子炉設置許可申請の前に審査会(当時の原子炉安全審査専門部会)がいわゆる予備審査を行なったことがある。申請者が、申請書を揃えるに至っていない時点において、特に原子炉の設計方針あるいは立地条件の概要に関して予備的に作成した説明書に基づいて、審査会が事前に審議したものである。予備審査の結果は、予備的見解として申請者へ非公式に伝達されているものもある。

(2)建設認可 Construction Permit

① Preliminary Hazard Summary Report(PHSR)

 申請者は、PHSRを申請書に添えて提出する。PHSRには、立地条件を特に十分記述する必要がある。しかし、原子炉については、この時点で設計を細かく進めている訳ではない。中間的判断のためには必ずしも細かいことまで必要ないのでそれほど詳しく記述する必要はない。

②AEC(DLR)の審査

 DLRの審査では、project officer 20名のうち、普通2名が直接担当する。まず申請者、製作者、consultant 等と非公式に会合を持つ。DLR で審査の後、多くの場合、AEC側から追加質問が出され、申請者側はamendmetを提出する。

③ ACRS への諮問

 DLR の職員から、独自の解析にもとづく概要報告書(数項目にわたる10頁位のもの)を出して、ACRSに諮問する。
 ACRSは、必要に応じて小委員会(大型炉では5~6名、小型炉では2~3名)を作って検討する。ACRSがさらに情報を必要とするときは、DLR職員が申請者側と会う。またACRSが非公式に直接会うこともある。
 ACRSからAECへの答申書は、結論を示すのみで、それが出された過程を示す義務はない。またACRSは、諮問委員会として consultant の役目をするのみで、権限、責任はない。
 わが国では、設置許可の際、審査会が個々の安全審査を詳細に行なっている。

④ AEC Position

 ACRSからの答申書を根拠にして、DLRからAEC Position が staff paper として出される。small case(研究炉、医療用炉、臨界装置)については、これで建設認可となる。

⑤聴問会 Public Hearing

 Important case(商業炉、動力試験炉、試験炉)の場合、聴問会が開かれる。聴問会は、AEC直属のAtomic Safety & Licencing Board(1名の法律家と2名の技術者からなる合議体)により開催され申請者、AEC職員が証言し、利害関係人の陳述が行なわれる。聴問の後 Board は、認可についての中間決定を行なう。

⑥異議申立

 中間決定に不満のある者は、20日以内にAECへ異議申立ができる。
 AECの決定にさらに不満があれば、高等裁判所次いで最高裁判所へ提訴する。(Fermi炉の事件では最高裁判所まで提訴したが、このような例はFermiのみである。)

⑦認可証交付建設認可証が交付されれば、原子力部門の建設も開始される。建設認可証は原子炉の proven の程度により、次の三つに分類される。

 a proven type の原子炉では、無条件の認可証を交付する。
 (例えば、Dresden の動力炉と同じ設計方針である場合)

 b 一般に多少 proven でない部分があるのが普通である。このような場合には、条件付の認可証を交付する。交付後は proven でない部分の研究開発について定期的に(例えば、6ヵ月毎)報告を出させて審査を続ける。
 (例えば、Dresden の動力炉と設計方針は大体同じだが制御棒、燃料棒のように重要な点で若干異なる場合)

  c 全く新しい型の原子炉、または事項を含む場合には、暫定建設認可証を交付する。この場合には、建設完了までにすべての点について prove させる。
 (例えば Yankee 動力炉の化学的停止装置、Fermi 炉の温度係数等、あるいは被覆しない燃料を使うような場合)

(3)運転許可 Operation Licence

① 運転許可の申請、審査運転許可申請書は、建設が完了し、燃料挿入が近づいたとき Final Hazard Summary Report(FHSR)を添えて提出する。FHSRには、Preliminaryの場合と違って、次の記述が追加されていなければならない。

i completion of design

ii operating organization

iii basic operation procedure

iv emergency plans

v Technical Specification の草案(下記参照)

 HSRの書き方は、AEC Licensing Guide(Purpose,Organization and Contents of Hazards Summary Reports for Power Reactors,Aug.,1962)として公表されている。
 AEC側における審査は、まずFHSRおよび検査官の報告書を検討し、important caseの場合、ACRSに諮問する。原則として許可の場合は、聴問会を行なわないが、異議申立者があれば聴聞会を開催する。このように、建設認可の場合に準ずる手続にしたがって行なわれる。

② 技術仕様 Technical Specification

 運転許可証には、重要な設計、運転上の制限や手続を明示した技術仕様が付けられる。技術仕様に明示された事項を変更するには、許可変更手続を採らなければならない。
 技術仕様を作ることにしたのは、1959年頃、VBWRで種々の細かい変更が続出し、その度に申請をしていたので(18ヵ月間に45回も変更申請があった)手続上非常にわずらわしく、どこまでの変更を申請すべきかの判断にも困ったからである。そこでFHSRの重要点を Technical Specification として明記し、この事項の変更には申請を要することを定めた。
 明示する事項は、その事項の変更が次のような結果を生ずる場合である。

i 事故の Probability が増す場合

ii 事故の大きさが変わる場合

iii 事故の種類が増す場合

 申請者がFHSRを出す時に、Technical Specification の草案も出させる。そして申請者とも検討の後、AECが Technical Specification を書く。申請者と意見の合わない時は、ACRSに聞くこともある。
 Technical Specification には、operating limit(function)を示す。即ち遮蔽の場合、寸法は記入せず、外側のradiation level を示すごときである。
 Technical Specification に記されている事項の変更でも、安全上重要な関係がないときは、AECの Facility Licensing の Section のみの責任で認めることができる。

3.原子炉立地基準 Reactor Site Criteria Guide

 初期段階の原子炉建設は Idaho のような大きな所で始められた。しかし、原子力潜水艦の原型炉を海軍の要請で New York 州に置くため、初めて球形コンテナーを使った。これが離隔と安全防護系との調和の始りである。

(1)立地基準を作った場合の考え方は次の通りである。

①平常運転時の放射能放出は、経済の問題で、普通金をかければどんなにも少なくできる性質のものである。したがって、立地は常時放出によっては決められない。

②立地は、事故発生の可能性によって決められるべきものであり、事故発生の可能性はあると考えなければならない。しかし、WASH-740のような予想外の大事故を仮定したなら、それに適合するような場所は米国にもない。

③現実的立地選定は、credibleなbazardの上限を与える事故としてのMCAに基づいて考える。

④ MCAの場合、離隔距離は安全防護系によって変るので、両者の調和を考えなければならない。

⑤ 大都市に原子炉を設置するような場合には、離隔距離を事実上零にする必要があるが、その時は次のような概念を取らざるを得ない。

 a 放射能放出事故が起り得ないこと

 b 仮に、著しい事故が起っても、公衆に対する放射線災害を防ぐための安全防護系があること

(2)立地基準で明確にした主要な点は、次の通りである。

① 立地選定の際、原子炉および周囲等についての考慮すべき主要な因子を明示した。

② consideration の beginning point としてMCAの概念を確立した。(IIの1の(1)MCAの考え方の項参照)

③ 十分な保証がある場合には、安全防護系の有効性を期待することができる。

④ 非居住区域、低人口地帯および人口中心距離設定の概念を確立した。

⑤ site の特性を評価するために、被曝線量の指標として、全身25rem、甲状腺300remを採用した。甲状腺300remは、現在考えている原子炉のMCAから見て、大き過ぎも小さ過ぎもしないものを選んだ。したがって、300remを変えれば、MCAを初め、立地基準全体も変えねばならなくなる。
 300remは、緊急時許容線量ではない。米国では緊急時許容線量という考え方は持っていない。緊急時に被曝線量を小さくするためには、合理的な限り、あらゆる手段をも講じる。もし、緊急時許容線量を決めるとしたら、指標線量よりもっと小さいものを選んだだろう。

(3)米国の立地基準に相当するわが国のものとしては、原子炉安全基準専門部会が38年11月に原子力委員会に報告した「原子炉立地審査指針」がある。
 この指針では、原子炉事故時の公衆の安全確保に関する3項目の基本的目標を明示している。個々の審査に当っては、従来の安全審査の先例にならってまず重大事故を想定し、暫定的に全身25rem、甲状腺150rem(小児)を用いて非居住区域の適否を判断すること。さらに重大事故を超えるような仮想事故を仮定し、米国等の指標線量を参考として、非居住区域の外側の地域を評価することとしている。

II 技術関係

1.MCA

(1)MCAの考え方

 MCAは、Credible な事故の最大のもの(または災害解析のため仮想した分裂生成物の最大放出量)を示すものであるが、Site Criteria Guide が出されるまで、敷地選定上の分裂生成物放出量としては大きなものを考えすぎていた。Site はできるだけ広いことが望ましいが、必要以上に広くとる必要はなく、したがって、Site 決定の基となるMCAも、商業用動力炉の場合、経済性をも考慮して、必要かつ十分なものをとればよい。
 Site Criteria Guide では consideration のbeginning point としてMCAの概念を確立した。即ち、このguide ができるまでは、敷地選定のためのMCAとしてはっきりと示されたものはなかったが、この guide の参考書類のTID-14844には、加圧水型を対象としたMCA時の建家内への分裂生成物の放出量として、noble gas100%、Iodine 50%、solid 1%の数値を示し、一つの指針を与えた。
 しかし、“Credible”の判断は、AECおよび申請者の各々の主観によってなされており、両者の間に異なる所があっても、AECは敢えてcompromiseすることはせず、AECが考えたMCAに基づいて総合的に判断し、Siteが条件に適合すればよいとAECは考えている。例えば San Onofre の場合、申請者であるSCEは6%の分裂生成物の放出で災害評価を行なっていたが、AECは、100%の core meltdown に基づいて計算し、立地条件、気象条件 engineering safeguard の効果等を考慮し、総合的に判断して建設認可を与えた。
 Test reactor の場合には、原子炉自体の特性の外に、挿入物による問題もあり、AECは maximum credible accident をこえるような hypothetical accidentを想定して評価することもある。この場合は“maximum severe accident one can possibly postulate”を考えることになる。
 MCAは、概念としてはSite Criteria Guide で確立されたが、その実態は具体的につきとめられていないので、その実態を見極めるためにSTEP計画が進められている。

(2)冷却材喪失事故

① AECでは、過去の2、3の例(Elk River,VBWR等)から pipe rupture は、possible accidentであるという立場をとっており、MCAとして主冷却管の破断を想定している。しかし、rupture mechanism については明らかでないので、GEと contract して破断に関する実験を進めている。

②一次系破損時のcoolant behavior についての研究は、ANL,Univ.of Minnesota およびWH等で行なわれている。しかし現在まで現象を明らかにする実験結果は十分でなく、解析は比較的簡単な前提に立って行なっているようである。
 blowdownの今後の実験計画としては、LOFT(Loss of Fluid Test)とCTF(Containment Test Facility)とがある。

(3)核的事故

① 動力炉では、制御棒の動きも定まっており、反応度増加率も大きくならないように設計されており、nuclear excursion は問題にならないが test reactor,fast reactorでは問題である。

② SPERT の実験は、excursion の自己停止機構、温度係数、ボイド係数、ドップラー効果などの feed back characteristics,damage の threshold、反応度挿入時の炉心の安全さの余裕、許容しうる反応度の値等のデータを得るために行なわれるもので、この研究で、どこまで反応度挿入が許されるかが明らかとなり、Safe levelがわかる。

③ SPERTは、今まで板状燃料炉心の実験を行なって来たが、今後動力炉の動特性を知るために、低濃縮の酸化ウラン燃料炉心の実験を行なう。
 NTF(Nulcear Test Facility)は、さらに大型の酸化ウラン燃料の原子炉で excursion test を行なう。

(4)分裂生成物の放出

 事故時の分裂生成物の放出に関しては、AECはその放出過程を究明するとともに事故の結果を最小にする施設の実験、研究を行なっている。

① AECでは、炉心が溶融したときnoble gas100%、Iodine 50%、solid 1%が放出されるという概略の値を現在ではとっているが(TID-14844)もっと正確な値を求めたいと考えている。またfuel melt については、現在100%溶融をとっているが、AECとしては申請者が100%の炉心溶融が起らないという証明をなしうれば100%の溶融は考えないといっている。

② 燃料被覆の perforation に関する問題は、AECでは Material Branch の受けもっている仕事であり、高燃焼度燃料については、Vallecitos の試験がある。

③ 燃料から出た後の分裂生成物の diffusion,trans-port, コンテナー内の分布などの時間的変化、さらにはコンテナー表面への吸着、コンテナーからの漏洩などが重要な問題であり、これに関しては次のような実験計画が進められている。
 ORNLのNuclear Safety Pilot Plant は、最近完成されたもので、1,500ft3のコンテナーの内に圧力容器を置き、その中で燃料サンプルを溶融させて、模擬1次系からコンテナー内に分裂生成物を放出し、さらにコンテナーからの漏洩を測定する。1964年1月から実験が始められるが、10,000cまでの燃料溶融の状態の試験ができる。
 Hot Cell Containment Mock-upは、比較的小規模で、燃料から出る分裂生成物の behavior を重点的に研究する。
 CTF(Containment Test Facility)は、30,000ft3のコンテナー内に電熱炉心をもった模擬原子炉を置いてcritical flow の問題、blowdown,コンテナー内の圧力上昇などについて調べる。またスプレー、フィルターなどについても実験を行なう。
 以上の実験は、すべて実際の原子炉ではなく、模擬実験であるが、LOFTでは一次系破損事故に伴う分裂生成物の放出過程および blowdown の現象について actual test が行なわれる。
 これらの実験により、分裂生成物については、従来の小規模なtestでは得られなかった実状に近いデータが得られるであろう。

2.PID(Post lncident Device)

 Site Criteria に“Credit could be given to consequences limiting safeguard.”とあり、申請者は、PIDの効果を期待する場合には災害評価にクレジットをとって申請できる。
 事実 Hazard Report ではフィルターなどのPIDについてクレジットをとった hazard evaluation が行なわれている。しかし、AECでは、従来災害評価の計算中にこれらのPIDのクレジットはほとんどとっていない。その理由として“representing condition でのactual test がない”ことを挙げているが、従来はクレジットをとることを認めなくても Site Criteria に合致するのでとらなかったとも考えられる。
 今後testにより実証されたものについては、クレジットをとることを認めるといっており、どの程度の実証が必要であるかということは N.S.Savannahにおけるフィルター、Humboldt Bay のpressure suppression system の場合の基礎実験にうかがえるであろう。
 各種のPIDについて、現在AECの見解は、

① コアースプレーについては、representing condition での test がなく、災害評価の計算にクレジットをとることを認めた例はない。

② 安全注入系(SIS)についても、testはなく、災害評価の計算にクレジットをとった例はない。
 しかし、AECが上記の計算結果に基づいて総合判断する場合にも、SIS等のクレジットを全くとらないというのではない。
 例えばSan Onofre では、詳細設計が固っていなかったので、災害評価の計算にはSISのクレジットをとらなかったが、SISが付いているので認可したといっている。

③ コンテナースプレーについては、実験をしようとしている(CTF)。クレジットをとった例はない。クレジットをとる場合には常にcheckしうることが必要である。

④ フィルターについては、実験室でのデータは相当あるが、事故時の実規模でのテストがないので割引して考える。N.S.Savannah では、99.99%のクレジットをとることを要求してきたが、AECは99%として認めた。陸上炉では未だ認めた例はないが、SCEのSan Onofre については、ACRS からAECへの答申にフィルターを付けることを recommend している。また Connecticut Yankee では、クレジットをとることが認められようとしている。

⑤ foam system は、小規模の実験はあるが、大規模の実験は不十分と思われる。未だ実例はないが将来は有望である。
 これら PID は炉心の溶融防止の装置と、分裂生成物が出た後の放散を制限する装置とに分けて考えると、AECではむしろ後者に重点を置いているようであり、コアースプレー、安全注入系などの研究開発は必要であるとはいっているが、現実の計画は余りない。LOFT の計画でも、まず事故がどの位大きくなるかを見ることを第1として、コアースプレー、安全注入系は設けない。しかし CTF ではコンテナースプレー、フィルターの試験も行なわれる。
 結局、PIDのクレジットのとり方は、actual condition における test による実証と、運転開始後の保守および試験による信頼性の確保に重点がおかれている。
 わが国では、PIDの効果の理論、解析方法の確立と有効性の確認を目的とし、SAFE Project として昭和38年度から、コンテナースプレー、コアースプレーの1/10程度の non nuclear model による component engineering test が進められている。

3.格納施設

 米国では、炉心の溶融を防止する装置の開発が十分でない現段階では、格納施設が最も重要な安全防護施設であると考えており、災害評価(TID-14844)においても、分裂生成物の放出の制限に最も大きな役割を果している。
 格納施設の種類の選択とプラントの立地条件との関係については、特に確立されたcriteriaはないが、最近商業用大型動力炉が大都市の近傍に建設される状勢から従来の一重コンテナーに代って新しい格納施設の概念がでてきた。即ち、Humboldt Bay,Bodega Bay の pressure suppression system,Malibu Beach などの doublebarrier containment 等である。前者は一次系被断直後の圧力上昇を抑制し、格納容積を小さくできるので一般に地下構造がとられている。しかし、そのためleak location の検出が難しく、また、dry Well とsuppression chamber の設計圧力の差から生ずる圧力試験の問題がある。一方、後者の double barrier では完全であれば no leak という大きな利点があるが、pump back system の機能の確保、outer membrane の漏洩箇所の改修、thermal stress の問題ならびに圧力試験の際のstored energy 等の問題がある。
 CTFではPressure Suppression Containment やカナダの ducted container など各種格納施設の基礎試験を行なう。
 格納容器の設計について、AECとしては、間もなく公表されるASMEのSec.IIを採用する考えである。また耐震の問題については、地震の際にも十分機能を発揮できるよう設計建設しうると考えている。
 格納容器が分裂生成物の放出に対する最も重要な防壁であるということから、現実の問題として、漏洩防止対策とその試験方法の開発が緊要な課題となってきている。溶接部分についてはX線検査を行なった部分からの漏洩の例はなく、問題は penetration の部分からの漏洩と考えられる。その箇所としては、

① penetration air lock,accesso pening

② isolation valve, ventilation valve などである。これらの部分については竣工時のみならず定期的に penetration test を行ない、さらにcontinuous leakage monitor を置くことが望ましいと考えている。
 一般に、格納施設の漏洩試験は、施設内に機器が設置された後に行なわれることが必要であるが、実際には、最初機器搬入前に低い圧力から高い圧力まで漏洩率を測定して圧力と漏洩率の関係を明らかにしておけば、その後は低い圧力のテストだけでよいとしている。漏洩率の圧力依存性は、それぞれの格納容器で異なり、現在では未だ理論式、計算式のみに頼りきれないので、上記のような方法がとられる。

4.STE計画(Safety Test Engineering Program)

 STE計画は、原子炉事故時の原子炉系の behaviorを明らかにし、原子炉事故の結果についての情報をうるために計画されたものである。
 MCAは、概念としては一応Site Criteria で確立されたものとしているが、災害評価のためには、多くの不確定因子を含んでおり、conservative な仮定の下に計算が行なわれている。従って、この計画ではこれらの不確定因子を究明して原子炉事故の実態を見極めようとするものである。
 この計画には、LOFT(Loss of Fluid Test),NTF(Nuclear Test Facility),SNAPTRAN が包含されている。NTFは大型酸化ウラン炉心のexcursion test,SNAPTRANは、宇宙開発原子炉のtransient testであるが、この計画の中心は一次系被損事故の実験を行なうLOFT計画である。
 LOFT計画は、50MWtの加圧水型原子炉でpaper studyは1962年中に終わり、architect engineer としては1963年6月に Kaiser Engineering が決まり、Babcock&Wilcox が consultantとなっている。実験計画は次の4段階に分れている。

① Stage Iは、nonradioactive core のblowdown test であって、冷却材の blowdown の特性の検討およびIodineを用いた分裂生成物の transport の実験が行なわれる。

② StageIIは、分裂生成物蓄積のための運転期間で、その間原子炉の運転データを得、必要な物理実験が行なわれる。

③ StageIIIは、radioactive core の冷却材喪失の実験であり、この事故の災害の上限を見出す。LOFT計画では、MCAに相当するような大破損事故のactual test は1回しか行なえない様子であるので、統計的データとしては不足の感がある。

④ StageIVは、Follow-on Program で、特別な安全装置(スプレー、フィルター、フォームシステム等)の効果の評価がなされる。
 このLOFT計画は、冷却材喪失時の事故の大きさの上限を見出すことに重点があるので、コアースプレー、安全注入系などは設置しない。コンテナースプレーは設置するが、back up 装置として考え、実験には使用しない。
 破断個所としては、入口パイプを考えているが、それが炉心の上部になるか、下部になるか決っていない。上部にすることが必ずしも安全側にあるとはいえない。
 Stage Iの実験でStage IIIのactive core での実際の破断個所を決めることになっている。

5.地震

 AECの地震に関する知識は、TID-7024“Nuclear Reactor and Earthquakes”に集成されている。また、審査に際しては、各種の機関、個人に consultant を依頼しているのが現状である。AECの地震に対する考え方は、

① 安全審査の基準としてはdetailed analysis よりも assumption の合理性に重点を置いている。

② 対象地点の地震としては、過去に起った最大地動(ground motion)と同様な地動を考慮する。

③ 設計基準としては、地震で施設に変形が生じても原子炉は安全であることを考える。

④ 安全評価に際しては、地震で pipe rupture が起ることがあると考えても container はその時でも機能を果すよう設計、建設できると考える。
 なお、実例として、San Onofre の耐震設計および地震の検討は、現時点で満足できるものであり、Bodaga Bay については excavation の data を整理できるまでは、はっきりしたことはいえないというのがAECの考え方であった。
 わが国の実例としては、原電東海発電所、原研JPDRがあり、耐震設計は基本的には静的な設計法にもとづいて行なわれた。しかし、JPDRの格納容器構築物には動的解析によるcheckも行なわれた。今後は、研究が進むにしたがって、動的設計に次第に重点が置かれるようになろう。

6.気象

 AECは、安全審査の際の大気拡散式としては、従来から主として Sutton の式を使用してきたが、最近では Sutton の式を改良し、結局 Pasquill-Meade の式(英国法)に近い方式を開発しつつある。わが国では従来から英国法を採用している。
 事故時の災害評価に使用する気象状態の想定については、AECはTID-14844において、風速1m/sec、逆転(inversion)を伴う場合につき計算している。かかる気象状態の出現率は、米国のほとんどの地域に対して、約20%である。しかし、各々のsiteについて気象の観測dataが得られる場合には、それから災害評価に使用する気象状態を決めた例がある。
 わが国では、Siteの気象観測を行なっており、災害評価に用いた気象条件の考え方は米国と略同様である。