原子力委員会 原子炉安全審査調査団報告書提出 原子力委員会は、わが国における原子力発電計画の具体化の情勢にかんがみ、米国における原子炉安全審査の実態を調査するため、原子炉安全審査調査団を昭和38年10月14日から2週間にわたって、米国原子力委員会へ派遣したが、同調査団から、本年3月30日付をもって、原子力委員会委員長あて下記報告書の提出があった。 原子炉安全審査調査団報告書 はしがき I 行政関係 1.規制関係組織 AEC(委員5名)の下に General Manager に属するグループと Director of Regulation に属するグループの二つがある。 General Manager の主要な任務は、軍事用および民間用の原子力を推進するための研究開発で Dir. of Regulation は保健安全および許可規制を受持っている。われわれ調査団が会ったのは、主として後者の職員である。 ① Div. of Radiation Protection Standards(DRPS)FRC(Federal Radiation Council)の放射線防護の基準、レベル、線量等に関する勧告に基づき working rule を決める。 ②Div. of Licencing & Regulation(DLR) 原子炉、燃料およびRI関係の許認可および規制を行なう。 ③ Div. of Compliance(DC) 建設中、試験中の検査ならびに運転開始後の定期検査等を行なう。DCは5ヵ所に地方事務所を持っている。 2.許認可手続 法律には、建設認可と運転許可という順に、二つの手続をとらなければならないことが規定されている。これらの許認可に際しての安全上の基準は、公衆に災害を及ぼさないという保証があることである。法律上の二つの手続の前に、非公式段階として立地に関する事前検討を行なっている場合がほとんどで、安全審査の点からは、実際上3段階の step by step 方式といえる。 (1)非公式段階 Informal Stage AECは、申請者に対し、非公式段階としての立地の事前検討を推奨しており、実際に多くの申請者に対してやっている。この事前検討は、立地選定について申請者を指導し、かつ助言を与えるもので、申請者の要請によっては、候補地が容認できるものであることについて非公式な見解を出している。また候補地がある設計の原子炉のみに適するというような助言も行なうし、欠点を指摘することもある。 (2)建設認可 Construction Permit ① Preliminary Hazard Summary Report(PHSR) 申請者は、PHSRを申請書に添えて提出する。PHSRには、立地条件を特に十分記述する必要がある。しかし、原子炉については、この時点で設計を細かく進めている訳ではない。中間的判断のためには必ずしも細かいことまで必要ないのでそれほど詳しく記述する必要はない。 ②AEC(DLR)の審査 DLRの審査では、project officer 20名のうち、普通2名が直接担当する。まず申請者、製作者、consultant 等と非公式に会合を持つ。DLR で審査の後、多くの場合、AEC側から追加質問が出され、申請者側はamendmetを提出する。 ③ ACRS への諮問 DLR の職員から、独自の解析にもとづく概要報告書(数項目にわたる10頁位のもの)を出して、ACRSに諮問する。 ④ AEC Position ACRSからの答申書を根拠にして、DLRからAEC Position が staff paper として出される。small case(研究炉、医療用炉、臨界装置)については、これで建設認可となる。 ⑤聴問会 Public Hearing Important case(商業炉、動力試験炉、試験炉)の場合、聴問会が開かれる。聴問会は、AEC直属のAtomic Safety & Licencing Board(1名の法律家と2名の技術者からなる合議体)により開催され申請者、AEC職員が証言し、利害関係人の陳述が行なわれる。聴問の後 Board は、認可についての中間決定を行なう。 ⑥異議申立 中間決定に不満のある者は、20日以内にAECへ異議申立ができる。 ⑦認可証交付建設認可証が交付されれば、原子力部門の建設も開始される。建設認可証は原子炉の proven の程度により、次の三つに分類される。 a proven type の原子炉では、無条件の認可証を交付する。 b 一般に多少 proven でない部分があるのが普通である。このような場合には、条件付の認可証を交付する。交付後は proven でない部分の研究開発について定期的に(例えば、6ヵ月毎)報告を出させて審査を続ける。 c 全く新しい型の原子炉、または事項を含む場合には、暫定建設認可証を交付する。この場合には、建設完了までにすべての点について prove させる。 (3)運転許可 Operation Licence ① 運転許可の申請、審査運転許可申請書は、建設が完了し、燃料挿入が近づいたとき Final Hazard Summary Report(FHSR)を添えて提出する。FHSRには、Preliminaryの場合と違って、次の記述が追加されていなければならない。 i completion of design ii operating organization iii basic operation procedure iv emergency plans v Technical Specification の草案(下記参照) HSRの書き方は、AEC Licensing Guide(Purpose,Organization and Contents of Hazards Summary Reports for Power Reactors,Aug.,1962)として公表されている。 ② 技術仕様 Technical Specification 運転許可証には、重要な設計、運転上の制限や手続を明示した技術仕様が付けられる。技術仕様に明示された事項を変更するには、許可変更手続を採らなければならない。 i 事故の Probability が増す場合 ii 事故の大きさが変わる場合 iii 事故の種類が増す場合 申請者がFHSRを出す時に、Technical Specification の草案も出させる。そして申請者とも検討の後、AECが Technical Specification を書く。申請者と意見の合わない時は、ACRSに聞くこともある。 3.原子炉立地基準 Reactor Site Criteria Guide 初期段階の原子炉建設は Idaho のような大きな所で始められた。しかし、原子力潜水艦の原型炉を海軍の要請で New York 州に置くため、初めて球形コンテナーを使った。これが離隔と安全防護系との調和の始りである。 (1)立地基準を作った場合の考え方は次の通りである。 ①平常運転時の放射能放出は、経済の問題で、普通金をかければどんなにも少なくできる性質のものである。したがって、立地は常時放出によっては決められない。 ②立地は、事故発生の可能性によって決められるべきものであり、事故発生の可能性はあると考えなければならない。しかし、WASH-740のような予想外の大事故を仮定したなら、それに適合するような場所は米国にもない。 ③現実的立地選定は、credibleなbazardの上限を与える事故としてのMCAに基づいて考える。 ④ MCAの場合、離隔距離は安全防護系によって変るので、両者の調和を考えなければならない。 ⑤ 大都市に原子炉を設置するような場合には、離隔距離を事実上零にする必要があるが、その時は次のような概念を取らざるを得ない。 a 放射能放出事故が起り得ないこと b 仮に、著しい事故が起っても、公衆に対する放射線災害を防ぐための安全防護系があること (2)立地基準で明確にした主要な点は、次の通りである。 ① 立地選定の際、原子炉および周囲等についての考慮すべき主要な因子を明示した。 ② consideration の beginning point としてMCAの概念を確立した。(IIの1の(1)MCAの考え方の項参照) ③ 十分な保証がある場合には、安全防護系の有効性を期待することができる。 ④ 非居住区域、低人口地帯および人口中心距離設定の概念を確立した。 ⑤ site の特性を評価するために、被曝線量の指標として、全身25rem、甲状腺300remを採用した。甲状腺300remは、現在考えている原子炉のMCAから見て、大き過ぎも小さ過ぎもしないものを選んだ。したがって、300remを変えれば、MCAを初め、立地基準全体も変えねばならなくなる。 (3)米国の立地基準に相当するわが国のものとしては、原子炉安全基準専門部会が38年11月に原子力委員会に報告した「原子炉立地審査指針」がある。 II 技術関係 1.MCA (1)MCAの考え方 MCAは、Credible な事故の最大のもの(または災害解析のため仮想した分裂生成物の最大放出量)を示すものであるが、Site Criteria Guide が出されるまで、敷地選定上の分裂生成物放出量としては大きなものを考えすぎていた。Site はできるだけ広いことが望ましいが、必要以上に広くとる必要はなく、したがって、Site 決定の基となるMCAも、商業用動力炉の場合、経済性をも考慮して、必要かつ十分なものをとればよい。 (2)冷却材喪失事故 ① AECでは、過去の2、3の例(Elk River,VBWR等)から pipe rupture は、possible accidentであるという立場をとっており、MCAとして主冷却管の破断を想定している。しかし、rupture mechanism については明らかでないので、GEと contract して破断に関する実験を進めている。 ②一次系破損時のcoolant behavior についての研究は、ANL,Univ.of Minnesota およびWH等で行なわれている。しかし現在まで現象を明らかにする実験結果は十分でなく、解析は比較的簡単な前提に立って行なっているようである。 (3)核的事故 ① 動力炉では、制御棒の動きも定まっており、反応度増加率も大きくならないように設計されており、nuclear excursion は問題にならないが test reactor,fast reactorでは問題である。 ② SPERT の実験は、excursion の自己停止機構、温度係数、ボイド係数、ドップラー効果などの feed back characteristics,damage の threshold、反応度挿入時の炉心の安全さの余裕、許容しうる反応度の値等のデータを得るために行なわれるもので、この研究で、どこまで反応度挿入が許されるかが明らかとなり、Safe levelがわかる。 ③ SPERTは、今まで板状燃料炉心の実験を行なって来たが、今後動力炉の動特性を知るために、低濃縮の酸化ウラン燃料炉心の実験を行なう。 (4)分裂生成物の放出 事故時の分裂生成物の放出に関しては、AECはその放出過程を究明するとともに事故の結果を最小にする施設の実験、研究を行なっている。 ① AECでは、炉心が溶融したときnoble gas100%、Iodine 50%、solid 1%が放出されるという概略の値を現在ではとっているが(TID-14844)もっと正確な値を求めたいと考えている。またfuel melt については、現在100%溶融をとっているが、AECとしては申請者が100%の炉心溶融が起らないという証明をなしうれば100%の溶融は考えないといっている。 ② 燃料被覆の perforation に関する問題は、AECでは Material Branch の受けもっている仕事であり、高燃焼度燃料については、Vallecitos の試験がある。 ③ 燃料から出た後の分裂生成物の diffusion,trans-port, コンテナー内の分布などの時間的変化、さらにはコンテナー表面への吸着、コンテナーからの漏洩などが重要な問題であり、これに関しては次のような実験計画が進められている。 2.PID(Post lncident Device) Site Criteria に“Credit could be given to consequences limiting safeguard.”とあり、申請者は、PIDの効果を期待する場合には災害評価にクレジットをとって申請できる。 ① コアースプレーについては、representing condition での test がなく、災害評価の計算にクレジットをとることを認めた例はない。 ② 安全注入系(SIS)についても、testはなく、災害評価の計算にクレジットをとった例はない。 ③ コンテナースプレーについては、実験をしようとしている(CTF)。クレジットをとった例はない。クレジットをとる場合には常にcheckしうることが必要である。 ④ フィルターについては、実験室でのデータは相当あるが、事故時の実規模でのテストがないので割引して考える。N.S.Savannah では、99.99%のクレジットをとることを要求してきたが、AECは99%として認めた。陸上炉では未だ認めた例はないが、SCEのSan Onofre については、ACRS からAECへの答申にフィルターを付けることを recommend している。また Connecticut Yankee では、クレジットをとることが認められようとしている。 ⑤ foam system は、小規模の実験はあるが、大規模の実験は不十分と思われる。未だ実例はないが将来は有望である。 3.格納施設 米国では、炉心の溶融を防止する装置の開発が十分でない現段階では、格納施設が最も重要な安全防護施設であると考えており、災害評価(TID-14844)においても、分裂生成物の放出の制限に最も大きな役割を果している。 ① penetration air lock,accesso pening ② isolation valve, ventilation valve などである。これらの部分については竣工時のみならず定期的に penetration test を行ない、さらにcontinuous leakage monitor を置くことが望ましいと考えている。 4.STE計画(Safety Test Engineering Program) STE計画は、原子炉事故時の原子炉系の behaviorを明らかにし、原子炉事故の結果についての情報をうるために計画されたものである。 ① Stage Iは、nonradioactive core のblowdown test であって、冷却材の blowdown の特性の検討およびIodineを用いた分裂生成物の transport の実験が行なわれる。 ② StageIIは、分裂生成物蓄積のための運転期間で、その間原子炉の運転データを得、必要な物理実験が行なわれる。 ③ StageIIIは、radioactive core の冷却材喪失の実験であり、この事故の災害の上限を見出す。LOFT計画では、MCAに相当するような大破損事故のactual test は1回しか行なえない様子であるので、統計的データとしては不足の感がある。 ④ StageIVは、Follow-on Program で、特別な安全装置(スプレー、フィルター、フォームシステム等)の効果の評価がなされる。 5.地震 AECの地震に関する知識は、TID-7024“Nuclear Reactor and Earthquakes”に集成されている。また、審査に際しては、各種の機関、個人に consultant を依頼しているのが現状である。AECの地震に対する考え方は、 ① 安全審査の基準としてはdetailed analysis よりも assumption の合理性に重点を置いている。 ② 対象地点の地震としては、過去に起った最大地動(ground motion)と同様な地動を考慮する。 ③ 設計基準としては、地震で施設に変形が生じても原子炉は安全であることを考える。 ④ 安全評価に際しては、地震で pipe rupture が起ることがあると考えても container はその時でも機能を果すよう設計、建設できると考える。 6.気象 AECは、安全審査の際の大気拡散式としては、従来から主として Sutton の式を使用してきたが、最近では Sutton の式を改良し、結局 Pasquill-Meade の式(英国法)に近い方式を開発しつつある。わが国では従来から英国法を採用している。 |