資料

原子力研究をめぐる諸問題

-日本原子力研究所の改革について-


1.国民生活において原子力の将来利用される方向とその産業構造への影響
 将来、原子力が利用される分野は、実に広範にわたり、原子力技術の開発なくしては、一流工業国としての地位を確保することはできないであろう。
 すなわち、原子力は、新しいエネルギー源として発電をはじめ船舶推進等に利用される。また、放射線として医療、工業、農業の分野で多岐にわたって利用され、その直接的な利用効果は大きいものがある。同時にその開発利用を通じて在来技術に大きな刺激を与え、技術水準の向上をもたらす間接的効果があることも忘れてはならない。
 戦後遅れてスタートしたわが国としては、今後の開発努力によって、原子力利用の分野においても確固たる地位を占めなければならない。

(1)原子力利用の方向

(イ)原子力のエネルギー源としての利用

 ①原子力発電
 産業発展のために不可欠の要素であるエネルギーを長期にわたり廉価に、しかも安定して確保することは、わが国の経済発展を可能ならしめる鍵ともいうべきものである。
 原子力発電は、①近い将来重油発電と経済性において対抗できることが期待されること。②極めて少量で多量のエネルギーを発生する核燃料を使用するので、石油に比し輸送、備蓄の面で有利であって、供給源の多様化と相まって、供給の安定化に貢献すること。③重油に比し所要外貨が少なく、国際収支上も有利であることなどに鑑み、わが国においても積極的、計画的にその開発を進めつつある。
 原子力発電は、世界的にみて昭和45年頃には本格的実用化の段階に入るものと期待されている。わが国でも20年後に新設される発電設備の大部分は原子力によるものと考えて間違いないであろう。
 しかしながら、さらに長期にわたる観点からみて、高速増殖炉が実用化されれば、核燃料資源の利用が著しく効率的となり、原子力発電の理想的な形が確立されることとなる。
 さらに速い将来、資源的に制約を受けるウラン等によらない核融合が実用化すれば、利用しうるエネルギー資源は、無限に拡大され、エネルギー資源の不足の問題は解消するに至るであろう。

 ②推進動力としての利用
 経済の伸長に伴う貿易量の増加と相まって船舶需要は増大する一方である。この需要を満たすためには、船舶の大型化と高速化を図らねばならない。この点からみて大型高速船として有利な原子力船が、将来重大な役割を果すに至ることが期待される。
 昭和45~50年頃には、原子力船の経済性は、在来船と競争しうるに至るものと予想され、将来、原子力船の活躍する分野の拡大も可能となろう。

(ロ)放射線利用

 原子力利用の他の一面であるアイソトープおよび放射線の利用については、国民生活の向上、産業の発展に及ぼす影響は極めて広く、かつ、多岐にわたる。
 例えば、医療の分野においては、主として血液循環系統の障害の診断、ガンの治療等に利用されている。将来は各種臓器の機能障害をより適確迅速に診断、治療するために利用されるようになるであろう。
 また、工業の分野においては、計測制御機器への利用、トレーサーとしての利用の面で急速に発展しており、今後生産工程の合理化、品質改善等に大きく貢献しよう。さらに、放射線化学が工業的に実用されれば、化学工業は、放射線の利用によってその性格を一新する可能性がある。保存食品の包装などに利用される強化ポリエチレンとか金属と同程度の耐磨耗性を持ったポリオキシメチレンが放射線照射によって製造ないしは工業化されようとしているのは、その先駆とみることができる。
 さらに、農業の分野においては、放射線照射による品種改良、アイソトープトレーサーによる施肥法の改善などの面では既に幾多の成果をあげており、農水産物の保存性を放射線照射によって改善するための研究も行なわれている。将来放射線は、この分野にさらに広く利用され農水産業の体質改善、その流通機構の合理化に大いに寄与するであろう。

(2)原子力利用と産業構造の変化

 以上に述べたように原子力の開発利用は、発電、海運、医療、工業、農業等の広い分野においてはかり知れない利用の可能性を有しているもので、これらの分野における利用の将来の進展は、例えば、低廉な電力の供給や船舶の高速化と航続力の飛躍的増大などによって、電力、海運等の産業を効率化し、これらの産業自体の発展に役立つとともに、わが国経済の基盤の強化に貢献するであろう。
 また、これらの産業における原子力利用の進展は、その先行条件として原子炉その他原子力関係機器の製造を担当するいわゆる原子力産業の伸長を促進する。
 さらに、またこのような原子力産業の発展は、高度の科学技術、例えば新金属の開発、材料純度、機器性能の飛躍的向上等を要求し、これら関連産業の技術の進歩をもたらすこととなる。これらの技術進歩は、単に原子力利用の分野に限らず、広く他の産業にも利用され、新たな需要を生み出すことになろう。このようにして原子力利用の進展は、単なる原子力産業の発展のみにとどまらず、二重三重にその効果をおよぼし、窮極のところ技術革新を通じて産業構造の高度化を招来するものと考える。

2.原子力の日本における位置

(1)わが国の原子力開発利用の基本的な考え方

 前述のとおり、原子力は、国民生活ないし国民経済に重要な位置を占めるべきものであって、次の理由からその研究開発は政府が中心となり、民間の協力を得て強力、かつ、効率的に進める必要がある。

(イ)原子力の研究開発には巨額の資金を必要とすること。

(ロ)わが国のエネルギー資源の賦存状況、エネルギー需給の見通し等からみてエネルギーの低廉かつ安定的供給に対する要求が強いわが国は、他国以上にこれらを満たすに至る原子力の平和利用を推進する必要があること。

(ハ)核兵器の開発で蓄積した強力な技術基盤と施設のうえに立って原子力の平和利用を推進している先進諸国と異なり、そのような技術基盤を持たず、かつ、遅れて着手したわが国としては、その遅れを早急に取り戻す必要があること。

(ニ)原子力の研究開発は、新しい高度な技術の集積のうえに成り立つものであり、それを進めるに当っては、衆智を集める必要があること。
 以上のような観点から、わが国は、昭和31年原子力委員会発足とともに、原子力開発利用のための長期基本計画を策定し、36年にはそれを改定するなど、原子力の研究開発利用の基本方針を明らかにし、その推進に幾多の努力を払ってきた結果、分野によってはかなりの成果を収めている。

(2)先進諸国とわが国との比較

 いまわが国の原子力の開発利用状況を先進諸国との対比において概観すると、次のとおりである。

(イ)開発事情の特徴

 先進諸国における原子力開発、特にその中心となる原子力発電の進め方は、それぞれの国の原子力開発の沿革、エネルギー事情等によってかなり異なっている。
 米、英、仏等にあっては、核兵器開発で蓄積された強力な技術基盤と施設のうえに立って政府が主体となって開発を進めている。このうち、経済的に恵まれている米は、濃縮ウラン型原子炉のうち、将来経済性を期待しうるあらゆる炉型の開発を広範に推進している。また、英、仏、加は、資源的に比較的恵まれているとしても、遠からず原子力発電に大きく依存しなければならないと考えていること、技術水準が高いので、自主的に開発する方針をとっていること等のため、当面、開発目標を少数の特定の炉型におき、これに集中して研究開発を推進している。さらに、ソ連は、各種の動力炉の開発を進めているが、未開発在来エネルギー資源に恵まれているため、米と比較すると、これらの開発規模は小さく、長期的な観点から高速増殖炉、核融合等の研究開発に比較的重点をおいている。
 他方、これらの諸国よりも遅れて平和利用を目的とし、原子力開発に着手した西独においては、エネルギー事情は英、仏とほぼ同様であるが、当面、民間事業者が実用炉を外国から導入するのと併行して、政府が主となって独創的な炉型の開発に力を注いでいる。
 わが国における研究開発は、前述の基本的な考え方を基に推進され、その初期の段階では、外国技術のうち優れたものを集約的に吸収し、技術水準を向上させることに努力が払われてきた。今後はこれら導入炉の国産化およびその改善を図る一方、わが国に適した動力炉の開発等、独自の技術開発に重点をおいて推進されねばならない。

(ロ)原子力予算(平和利用のみ)

 先進諸国は、原子力の平和利用のために毎年多額の政府予算を計上している。わが国は、米、英、仏、西独、伊、加等に次いで世界で第8位である。各国の原子力予算を昭和37年度について比較すると、わが国の約80億円(大学関係施設費を入れると約90億円)に対し、英は約13倍(UKAEAは政府支出予算のほか、相当額の事業収入があるので、事業支出はさらに大きい。)、西独は約4倍となっている(米は軍事利用の一部を含め約100倍)。また、昭和33年以降37年までの増加率は、わが国の1.2倍弱に対し、英はほぼ横道い(別に事業収入が増えているので、実質はもっと多い。)、西独は約3倍、伊は約2倍に達している。

(ハ)原子炉設置状況

 先進諸国は、数多くの研究炉を設置し、原子力発電所も世界で28基(4万kW以上のもの)が実用に供されている。建設中のものを含め研究炉および発電炉の合計数は米がもっとも多く189基、次いで英の47基、ソ連の27基、仏の24基、西独の17基、伊の14基が続き、わが国は13基で世界第7位に位する。

(ニ)原子力発電

 先進諸国における原子力発電開発の状況をみると、昭和38年9月現在、米は約380万kW、英は約500万kW、仏は約100万kW、伊は約60万kWが運転または建設中である。
 わが国は、昭和36年2月原子力委員会が策定した「原子力開発利用長期計画」(昭和36年を初年度とする20年計画。以下「長期計画」という。)において前期10年に約100万kW、後期10年に600万~850万kW程度の原子力発電の建設を期待しており、現在日本原子力発電(株)および電力中央3社が前期に完成予定の5商業発電所を建設ないし建設準備中である。
 昭和40年度の総発電設備に占める原子力発電設備の割合は、わが国の0.4%(原電1号炉のみ)に対し、米0.6%、英5.8%、仏3.7%、伊2.8%になるものと見込まれる。

(ホ)原子力船

 非軍事利用の分野における原子力船の開発は、ソ連では原子力砕氷船レーニン号が昭和34年12月完成し、米では貨客船サンバナ号が37年3月完成している。また、西独でもすでに建造に着手し、英はベルギーと共同で舶用原子炉の研究開発を意欲的に行なっている。このほか、伊はユーラトム、ノルウェーはスウェーデンとそれぞれ協力体制のもとに原子力船の研究開発を進めている。
 世界有数の海運、造船国であるわが国は、昭和38年度から総額約60億円で原子力第1船の開発に着手し、43年度に完成、さらに実験運航を経て46年度にその開発計画を終了する予定である。したがって、わが国の先進諸国に対する原子力船開発の遅れは、船の完成時期で比較し、ソ連に対し約9年、米に対し約7年となる。

(ヘ)放射線の利用

 アイソトープの利用を中心とする放射線利用は、前述のとおり医学、工学、農学の各分野において広く利用される可能性をもっている。特に医学利用および農業利用の分野においては、わが国における開発利用はかなり進み、その状況は先進諸国に比肩しうるものとなっている。アイソトープの使用件数(使用事業所)を昭和37年現在で比較してみると、わが国の約1,000ヵ所に対し、米は約倍、西独および仏が約1.2倍となっている。またアイソトープの生産体制も軌道に乗りつつあり、近い将来ほとんど大部内のアイソトープは、国産でまかなうことが可能となるはずである。

3.あるべき原研の姿とその発展像

(1)原研の設立の趣旨とその役割

(イ)前述のとおり、諸外国にもまして原子力の開発利用の必要性が大きいにもかかわらず、先進諸国に比し著しく遅れてスタートしたわが国としては、これを急速に取り戻す必要がある。
 原子力の開発に着手するに当っては、

①巨額の投資を必要とし、かつ、当面直ちに報いられる可能性が少ないので、資金の大部分を国が賄う必要があること。

②研究開発は、国情からみて集中的に行なうことが効率的であること。

③この困難な国家的事業を行なうため人的にも、物的にも国の総力を結集する必要があり、そのため民間の人材や出資をも期待し、かつ、弾力的な運営を行ない得る組織とすることが望ましいこと。

 などの事情により、わが国原子力の研究開発推進の中枢的機関として、「特殊法人日本原子力研究所」(以下「原研」という。)が設立されることとなった。

(ロ)原研は、発足以来前述の長期計画にしたがって各種の施設の拡充整備を進め、今日では初期的段階から第二の発展段階に移行しようとする時期にきている。
 したがって、現在原研が指向すべき研究開発の重点は、

①基礎研究の促進を図ること。

②基礎研究と実用化とのかけ橋的役割を果すための研究開発を実施すること。

③目的を明らかにしたプロジェクト、特に動力炉の開発プロジェクトを中心に学界、産業界と密接な協力関係を確立し、これに意欲的に取り組むこと。

 なお、上記基礎研究は、原子力研究開発に関連し、将来わが国独自の創意を発展せしめることに配慮して、大学等の研究と十分な連けいを保ち、実施する必要がある。
 施設の整備が進み、研究の実績を加えるにしたがって③の比重が大きくなってくることを期待する。
 以上のほか、原研は、次のような事業を行なうこととなっている。

①研究施設を各界の利用に供して、所外の研究に広く協力すること。

②原子力に関する科学技術者を教育して所要の訓練を行なうこと。

③アイソトープの製造頒布、廃棄物処理等の事業を行なうこと。

(2)原研の将来の発展像

 先進諸国の原子力開発においては、常に国の機関が先導し、民間に対する原子力技術の供給源となっている。わが国の場合は、先進諸国より遅れて出発し、研究開発に着手するとともに、外国の技術、設備の導入が併行して行なわれたという特殊事情のために、原研が民間に対して十分な指導的役割を果してきたとはいい難い。しかし、原研の理想像は、先進諸国の開発機関のように、わが国原子力研究開発の指導的中核的役割を果すものとなることである。
 このためには、原研の研究開発は、少数の特定の目標に研究を集中するプロジェクト研究を中心として、これに必要な基礎分野の研究開発を含めて行なうものになって行かなければならない。
 これをさらに具体的にみると、次のとおりである。
 まず「原子炉」に関する研究開発としては、

 第1に、既設の研究炉あるいは近く建設に着手される材料試験炉の活用を通じて、舶用炉を含め動力炉として既に実用化の域に到達しつつある原子炉の改良および国産化に貢献すること。

 第2に、わが国に適した動力炉の開発を進めること。

 第3に、高速増殖炉の開発を進めて、燃料資源の有効利用とその経済性の向上に寄与すること。

などをあげることができ、その成果は産業界に漸次利用されて行くようにならなければならない。
 次に「放射線化学」の研究に関しては、高崎研究所において中間規模試験を中心に開発研究を進め、工業化の見通しが得られたのは速かに産業界に移してその成果を結実させていかなければならない。
 また「アイソトープ」に関しては、アイソトープセンターの整備充実によって、原研は、わが国におけるアイソトープの利用研究、製造頒布および廃棄物処理の中心として発展することが期待される。
 さらに、その後について展望すると、核融合反応の平和利用を実現することなど、原研に残されている課題は極めて大きい。
 原研は、学界、産業界との共同研究および委託研究についても一層の力を用いる必要がある。また、原研の施設が学界、産業界が行なう研究開発のために、従来にも増して広く利用されることが必要である。
 このようにしてわが国の原子力の研究開発の関係者が、原研を中心として結びつきを強め、緊密な協力関係を確立することが望ましい原研の発展像である。
 また、原研は、単に国内における原子力の研究開発推進の中枢的機関たるにとどまらず、アジア地域における原子力の平和利用のための研究開発に貢献し、かつ、広く先進諸国の同種機関と対等に協力し得るものとならなければならない。

4.原研の問題点

(1)経営管理

(イ)経営管理

 原研は、その事業遂行に当り種々の面で困難な事情を有している。例えば①設立ないしその後の急速な人員の充実に際し、学界、産業界など多方面から人員を集めたこと、②研究者、特殊技術者、一般技術者、事務関係者など多種多様の職種構成になっていること、③わが国として経験の少なかった大規模な施設を有する研究所であることなどがそれである。
 原研の経営者は、これらの困難を克服するため、管理面に種々努力を払ってきたが、この際組織および運営の面からみて、次の諸点についての改善が必要であると考える。

①理事長が東海研究所の所長を兼務し、他の理事もそれぞれの部門を細分して担当しているためややもすれば、理事会議の運用が総合的な見地に上って事業運営の方針を十分審議し得ないうらみがあること。また各年度の事業計画や理事会議の審議の結果が研究所全体に十分浸透せず、そのため事業体として組織的活動に欠ける面のあること。

②上層部の権限委譲、専決処理が必ずしも十分に行なわれず、しかも業務の進捗度を常時把握し、適確な指示を与え得る総合調整機能が十分でないこと。また予算、人員等は、業務の進捗度のいかんにかかわらず、年度当初割り当てられた枠に固定し、その結果、運営が弾力性のないものになっていること。

③所内の各級階層の段階における意思統一の決定を行なう組織が十分に活用されていないため、下部の意見が組織的、制度的に上部に伝達され難いうらみがあること。

④東海研究所の組織は、あまりにも平面的に細分化されているため、業務の総合的、効率的な運営を困難にしていること。

(ロ)給与・昇進制

 原研は、財団法人時代のめぐまれた給与ベースを受けついで発足し、その後数次にわたって国家公務員に準ずる給与改訂が行なわれてきた。特に研究員の処遇については、昭和34年の給与問題に関する中労委あっせんを契機にその優遇措置として研究手当が新設された。
 このような事情であるので、現在においても、公務員およびこの種特殊法人に比し、その給与の優位性は保持されているものと考える。原研は、特に優秀な研究者の確保を必要とするため、その給与水準は、民間を含めて考えても相当の水準のものであるべきであり、また、その職務が特に社会的責任の加重される原子炉およびその付帯設備の運転に関連する職務に従事する者にも特殊な考慮を払うことが適当であると考える。この見解のうえに立って漸次給与制度の適正化を図って行くべきであることは、昭和37年11月に明らかにしたところである。
 しかし、現在の給与制度においても、ある程度弾力的な運用が可能であるので、昇給昇格に際し、職種に応じ適正な勤務評価を行なって、能力がある者がそれに酬いられるようにすること等対策が全然ないとはいえない。しかるに現在は、このようなことも行なわれない結果、年功序列主義におちいっていることは一つの大きな欠陥であると考える。

(ハ)士気、モラル等

 原研は、わが国における原子力研究開発のセンターとして時代の脚光を浴びて発足した機関であって、発足の初期における職員は、いわゆるパイオニア精神をもって、東海研究所の建設に挺身し、士気、モラルともに高かった。やがて厚生面から紛争を生じ、32年秋頃研究員の東海移駐問題を契機として労使の信頼関係は漸次冷却して今日におよんでいる。
 他方、年々急激な増加をみてきた人員は、すでに述べたように、学歴、専門経歴等を異にし、しかもかなり異なった職場環境のもとで働くので、職員の協調融和を図って行くことが困難な面がある。
 しかしながら職員の一人一人が、その持つ力を十分発揮するためには、士気、モラルの向上を図らなければならないことはいうまでもない。この意味において職員に対する教育訓練に力を入れ、就業規程を励行し、信賞必罰を行ない、年功序列を排し、昇給昇格に職員の勤務評価をとり入れなければならない。また、原研という特殊な経営体に適した能力のある経営者、管理者、研究指導者の多数を得ることが難しく、このために若年層のこれらに対する信頼感がうすいことなどについて対策を講ずる必要がある。

(2)研究管理

 研究所経営の成否は、研究管理の巧拙にかかることが大きい。原研のように大規模な特殊法人の研究所の管理は、わが国として初めての経験であり、それだけに原研の研究管理については、慎重な配慮がなされるべきである。
 原研における研究管理は「基礎研究」に対するものと、「その他の研究」(応用研究、開発研究)に対するものとの2つの分野に応じてそれぞれ適切に行なわれるべきものである。
 まず「基礎研究」に対する管理は、人員、予算の面のマネージメントを中心に研究の環境を整え、研究者の創意を最大限に発揮させることを主眼として行なわれなければならない。
 「その他の研究」に対する管理は、研究テーマの選別と調整を行なうことはもちろん、その研究の達成には内容的にも時間的にも相当な制約を受けることを前提として行なわれるべきである。
 しかもこの両者に共通して必要なことは、所全体としての立場から研究相互間の調整を行ない、研究成果を評価してその成果を一貫して活用する体制をしくことである。評価の結果、研究の方向を変更する必要がある場合あるいはやむを得ず研究を打切る必要がある場合には慎重な配慮の上断行すべきである。
 従来原研においては、研究管理の考えが十分であったとはいい得ない。むしろ研究は管理の対象とすべきものではないという風潮があったとように見受けられた。現在の原研における研究管理は、主として研究室若しくはそれ以下の単位で行なわれているのが実情であり、全体的観点からの管理が十分でない。そのため研究の進捗度を監視し、督促することが行なわれず、また研究の質的相違に対する配慮も、研究相互間の調整も十分に行なってはいない。
 もちろん、研究の調整を行なうための機関が存在しないわけではないが、その機能は弱体である。部長会議、研究室長会議等もある程度このような機能を果し得るが、これらの連絡会議は、その性質上平面的連結調登は行ないうるとしても、立体的な研究調整機能を発揮し得るものではない。
 したがって研究管理体制の確立は焦眉の急務の一つである。

(3)経営管理と研究管理

 原研は、原子力の研究助発を総合的、かつ、効果的に行ない、その使命を達成するために、前述のとおり研究分野に応じ適切な研究管理を円滑に実施しなければならない。
 したがって、原研の運営において、研究管理が重要であるのは当然である。しかしながら、原研は、単に研究部門だけから成り立っものではない(38年度未定員、研究開発部門463人、運転管理部門434人、研究サービス部門245人、建設部門60人、研修所24人、事務部367人、計1,593人)、したがってかりに研究管理が如何に適切に行なわれたとしても、例えばオペレーターの養成訓練等の不備により原子炉その他施設の円滑な運営が行なわれない場合には、研究の円滑な実施を期待することはできない。
 いま研究管理に密接に関連したこれらのいわゆる経営管理について問題点を述べると、次のとおりである。

(イ)技術系業務に対する管理

 原研では、最近原子炉をはじめとして、ホットラボ、再処理試験施設等各種の施設が逐次定常的稼動に入る段階となっている。従来はこれらの施設も研究開発の初期的段階にあったため、研究者が直接業務に携わるという事例が少なくなかった。運転が次第に定常化してくるにしたがい、運転管理を専業とする運転要員がこれに替わることとなり、原研内における運転要員の比重は増大する傾向を示している。
 したがって、従来不十分であった運転業務に携わる職員の計画的賛成と適正な配置に努めるよう措置しなければならない。
 他方、各種施設に配置される運転要員等の技術系職員を研究所全体にわたって横断的に統轄する組織(例えば運転技術部等)が確立されていないことが、これらの職員に孤立感を抱かせ、昇進の希望を失なわせることとなっている。これが、研究員に対する処遇との相違を意識せしめ、両者の協力関係に好ましからざる影響を与えていると見られるので、この点を改善する必要がある。

(ロ)サービス部門等の分離

 また、現在の原研では、中央分析室、、計算センター等の研究サービス業務の拡充が進み、あるいは照射業務の受注、アイソトープの製造等いわゆる事業的色彩の強い業務が増加する傾向にある。これらの業務は、研究と分離して管理すべきである。
 以上が研究管理に密接に関連した経営管理の問題であるが、このほか、放射線下の作業等安全性の確保について特に配慮を要する問題もある。
 したがって、原研の管理は、研究管理を中心としてその他管理を含め総合的、効率的な管理を行ない得るよう機構を改善する必要がある。

(4)労務問題

 原研は、既に述べたとおり、その経営を行なうに当って、特殊かつ困難な諸条件がある。特に原研の労働関係は労使対等の原則に立脚した一般労働法規の適用を受ける反面、給与、諸手当等の労働条件をなすものにつき国の監督に服するという民間企業と異なった制約がある。さらに放射線下の作業という新しい特殊な分野を含んでいる。したがってこれらの諸問題を内包する原研の労働問題の解決は容易ではない。
 また、政府関係の研究機関であるため、民間事業若しくは公益事業と異なり業務の停滞が経営を危機に陥れたり、国民生活に直接的な影響を与えることが少ないことが、労使間の紛争を長引かせ、かつ、ストライキを安易に頻発させる傾向を生んでいることは否定できない。
 しかるに、労組は良識を欠く傾きがあり、経営者はとるべき措置、対策を十分講ぜず、安易な妥協を重ねる傾向のあったことが事態を一層複雑かつ深刻にし、今日の如き不安定な労使関係を招来したものといえよう。 
 したがって、原研が今後その事業の円滑な遂行を図って行くためには、その業務の規模、実体等の進展に即応した管理体制を確立するとともに、紛争の原因となるような諸問題は努めて早期に解決を図り、労使双方が相協力して原研の目的を達成するよう努力することが必要である。
 以下原研労組の特殊性等について述べてみたい。

(イ)原研労組の生い立ち

①原研労組の結成と労使の主な紛争

 原研労組は、昭和31年6月(財団法人時代)約100名の職員をもって結成された。結成以来現在までにおける労使紛争の主なものは、次のとおりである。

(a)32年9月東海村移駐問題

(b)33年12月機構改正問題

(c)34年6月正常な労使関係の確立、給与制度の改善、研の体制の整備等の問題(中労委提訴、中山あっせん)

(d)36年3月ベースアップ問題(中労委提訴、藤林あっせん)

(e)38年11月動力試験炉運転停止問題 

②実力行使の経緯

 スト権の行使は、現在までに約70回にもおよんでいる。34年2月に科学技術産業労働組合協議会(科労協)が、また35年11月に政府関係特殊法人労働組合協議会(政労協)が結成され、これらの加盟組合との統一行動などの影響もあって、年々とその回数を増し、昭和38年は1年間に約40回行なわれた。
 また近年ストの予告時間が極度に短縮され、抜打的に行なわれることもある。

③所属団体および地位

 原研労組は、34年2月に結成された科労協および35年11月に結成された政労協に所属しており、それぞれの中核として有力視され現在におよんでいる。

(ロ)原研労組の特質

①民間における労働組合と同じように労働法規の完全適用を受ける労働組合であること。

②組合員の範囲については、未だ協約の取決がないが、組合員の中には、副主任研究員および課長代理の職位にあるものも含まれており、組合組織率は概ね90%前後の高率を示していること。

③組合員の年令が若く(平均約28才)、かつ、学卒者が多い(約40%)ことが一部組合活動に熱心な者に他の多くの無関心な層が引きずられ易くしていると考えられること。

④職員の集団的な生活環境が組合活動の活発化を容易にしているとみられること。

⑤民間企業のように、労使のトラブルが経営の危険を招来する度合が少ないことおよび研究業務であることに起因し、社会に対する直接的影響がうすいため、職員一般がトラブルに対して安易な気持をもつ傾向があること。

(ハ)労使懸案事項の概要と労組の主張

①労働協約

 一般労働協約は、労使間に小委員会を設けて協議されたが、昭和36年頃から個別協定の積上げの方向をとり、一般労働協約締結の協議は現在行なわれていない。

②争議協定

 24時間スト予告について、最近まで守られていた慣行に戻したいとする所側の申入れに対し、組合は事前通告でよいという立場をとっていたが、今般大型炉を対象として、24時間のスト予告を内容とする争議協定(有効期限昭和40年3月末日まで)が締結された。

③ベースアップ

 所側は、国家公務員の給与改訂に準じて、昭和38年10月以降の実施について準備中であるが、組合は、職務給的賃金(研究手当、役職手当等)のてっ廃、労働時間の短縮等を主張している。

④勤務時間中の組合活動

 所側は、勤務時間における組合活動の適正化について、組合に対し申入れを行ない、協議の呼びかけを行なっている。未だ本格的協議には入っていない。

⑤放射線労働に関する取決

 放射線被曝を伴う作業を拒んだことをもって、不利益な取扱いをしない旨の労使の取決があるが、さらに組合からおよそ次のような主張がなされている。

(a)法定被曝線量をこえて被曝したときは、障害となって発現しなくとも、その超える部分について補償すること。

(b)法定被曝線量以下の部分については、放射線手当を支給すること。

(5)監督官庁法規

(イ)原研関係の法規としては、日本原子力研究所法、同法施行規則、日本原子力研究所の財務および会計に関する総理府令等がある。
 これらの法規に基づき、理事長は原子力委員会の同意を得て、副理事長、理事、監事および顧問は原子力委員会の意見を聞いて内閣総理大臣が任命している。研究所の業務は、原子力委員会の議決を経て、内閣総理大臣が決める原子力の開発および利用に関する基本計画に基づいて行なわなければならないこととされている。

(ロ)次に、内閣総理大臣の認可または承認、若しくは内閣総理大臣への報告を必要とするものは、次のとおりである。

 一般的なもの 

 定款の変更、付帯業務、研究の委託および受託ならびに事業計画の認可または承認、組織に関する規程の届出

財務および会計に関するもの

 資本金の増加、予算、資金計画、財務諸表、利益の分配、借入金、重要財産の処分、予算の流用、予備費の使用の認可または承認、給与および旅費に関する規程、予算の繰越、収入支出等の届出または報告若くは通知給与および退職手当の支給基準(定款)

(ハ)そのほか、内閣総理大臣は原研に関する一般監督権、報告の徴収および立入検査権を有しており、これら権限に基づき現在承認または報告等を求めているものは、次のとおりである。

 業務状況報告書、収入支出状況報告書、研究実績報告書、共済会の決算報告等。

 共同利用の条件および利用料金、アイソトープの頒布価格、共同研究についての承認。

 原子炉の安全性についての審査

(ニ)以上が監督官庁と原研との監督関係に関する法規およびそれに基づく運用の概要である。
 これらは、原研のわが国原子力研究開発推進の中核的機関としての性格を考慮しつつ、政策的ないしは財務会計的見地からの規制を行なおうとするもので、その自主性を十分尊重し、国の立場からみて必要最小限のものに限っているものと考える。
 人員、予算特に人件費について制限があるのは、この種法人については当然のことである。したがって理事者の裁量がこのような制限の中にとどまることをもって、自主性が阻害されていると考えることはできない。

(6)学界との協力

(イ)原研が原子力の研究開発を推進するためには学界に期待するところ極めて大であるとともに、原研の研究成果の学界に対する貢献もまた大きくなって行かなければならない。
 特に、原研が国産動力炉、高速増殖炉の開発等新しい業務を開始するに当っては、これらプロジェクト研究等について学界の協力が不可欠であることを忘れてはならない。

(ロ)すでに原研は、学界と①開放研究室の設置等による原研施設の共同利用 ②研究指導者としての学界人の招へい等により相互に協力を行なってきた。今後も共同研究の実施など原研の研究に対する学界の積極的な参加を求める努力を惜しんではならない。

(ハ)すなわち、今後は、前記プロジェクトの進展に伴い、一層計画的に協力を進めるため、積極的に学界のために原研施設の開放、研究者の受入体制の整備、共同研究計画の設定等を行ない、原研における研究と大学における研究の緊密な連けいを図る必要がある。

(7)産業界との協力

(イ)原研は、わが国原子力研究開発のセンターであり、原研における成果は、窮極的には産業界に利益をもたらすべきものである。
 原研は、既に述べにたように一応必要な研究施設、研究体制の整備を終わり、いよいよ国産動力炉、高速増殖炉の開発などをはじめとする新しい業務にとりかかる段階に到達している。他方産業界も海外技術の導入等により、その技術基盤を強化してきており、上記の開発に大きな協力を果しうるまでに成長している。
 原研が、これらの開発を行なうためには、自らも体制の整備を行なうなど、総力をあげてこれに当らなければならないことはもちろんであるが、同時にまた、このように成長してきた産業界の協力を得ることも極めて必要である。このため産業界の協力に期待する分野を具体的に、あらかじめ計画におりこみ、積極的に協力をよびかける等の努力をすべきである。

(ロ)従来、原研と産業との協力は、民間研究者の受入れ、共同研究の推進、原研施設の開放等により行なわれてきた。しかしこれらの制度が十分に運用されてきたとはいい難い。最近は、産業界からも種々批判があったことを謙虚に反省し、民間研究者の受入部門の調整、受け入れられた研究者の環境の改善を図っているとはいえ、さらにプロジェクト研究の実施に当って、特に工学部門における産業界の協力体制を強化するための新しい具体的な制度、方法などを確立する必要がある。

(ハ)そのほか、産業界の開発に期待している導入炉の国産化に対し原研が協力することは、わが国原子力の研究開発の推進を図るうえに重要であるので、事情の許すかぎり、その実施に当って、民間産業界と十分密接な連けいを保ちながらこれを推進する必要がある。

(8)地域分離と機構

(イ)原研は、従来東海研究所を中心として拡大してきた。東海地区には、建設中のものを含め5基の原子炉、ホット・ラボ、再処理試験施設など大型施設の建設整備が集中的に行なわれたため、敷地の点からみて、かなりその余地が乏しくなってきたものといいうる。

(ロ)原研は、今後とも東海地区を中心に発展すべきであると考えるが、これを拡張して行く場合は、東海より距離的にみてあまり遠くない地点に衛星的な研究所、事業所を配置することが望ましい。昭和37年度に高崎に放射線化学の工業化を目的とした中間試験を行なう等を目的とする高崎研究所が設立され、また38年度から大洗地区にアイソトープの開発利用と動力炉の開発のための施設の敷地が確保されることになったのは、この考え方に基づくものである。

(ハ)上記の衛星的な研究所、事業所は、それぞれに機能に応じで性格づけ、体系づけて行くことが必要である。
 すなわち「高崎研究所」は、東海地区とは別個な機能に集約されているので、その独立性は相当程度認めなければならない。
 また「大洗地区」には、動力炉開発のセンターとしての機能を期待し、東海地区と切り離すことが困難であるので、当分の間は東海研究所と一体的なつながりをもつものとして考える必要がある。
 さらに「アイソトープセンター」の事業は、地域的には分散し、アイソトープの製造は、東海研究所の原子炉およびアイソトープ製造工場において、また廃棄物の処理事業、アイソトープの利用開発研究は大洗地区において、その養成訓練は東京において行なわれる。しかしこれらを機能的角度から一つの組織として体系づけて行く必要がある。

(ニ)なお、地域分離と機能に関連して、予算の編成、執行、人事管理、労務管理など各事業所に共通する問題を原研全体としての立場から総合的に統轄を行なう機能が充実されることも大切な課題であって、人員の二重投資をできる限り避ける方針のもとにこのような機能の強化を図る必要がある。

5.原研の規模の現状と将来、将来のプロジェクトと原研の現状

(1)原研の規模の現状と将来

(イ)原研は、昭和31年設立以来38年度までに約350億円の資金が投入され、人員も約1,600人に達している。この間、研究開発に必要な施設の建設整備は、東海研究所を中心に進められ、一応の整備を終える段階に至った。しかし、現在までは遅れてスタートしたわが国の原子力の研究開発を可能な限り急速にレベルアップすることに努力を集中したので、施設の大半は基礎的研究あるいは一般の応用研究のために整備されたものである。

(ロ)以上の段階を原子力開発の第一段階とみるならば、次の段階は上記の施設あるいは設備を利用して、本格的な研究開発を実施し、具体的な成果をあげるとともに、それらの成果を活用する段階で、今やそれに入ろうとするところである。

(ハ)将来における原研のおおむねの規模を考えてみると、まず「東海研究所」については、施設の整備もほぼ飽和点に近づいているので、大型施設の建設は今後は予定せず、既定の施設を駆使して研究活動を続けて行くこととなる。そのためには人員が今後とも増強されなければならないが、その限度は2,000人程度であろう。
 次に「大洗地区」については、動力炉開発のセンターとしての機能を期待することとしており、現在の計画では今後10年間に材料試験炉の建設、国産動力炉原型炉の建設を予定している。このためには、人員約700人が必要である。さらに高速増殖炉の開発を考慮すれば、その所要人員は約1,000人に達するものと見込まれる。
 さらに「高崎研究所」については、現在第1期整備計画を推進しているが、引き続く第2期計画、さらに将来の発展を考えると、その所要人員は400人を上まわると考える。最後に「アイソトープセンター」については、コバルト60製造工場、核分裂生成物分離工場を建設し、わが国のアイソトープの需要の増大に応ずる計画であり、最終的な所要人員は400人程度と考える。

(ニ)これらの各研究所は、およそ10年後には、上述程度の規模となるものと予想されるので、合計すれば人員は、本部を含め約4,000人、また、今後10年間の所要資金は、およそ1,200億円に達するものと考える。

(ホ)その後の原研の開発面の任務としては、高速炉の開発、さらには核融合反応の研究などがあげられる。これらの事業を本格化するには、改めて別箇の敷地と機構が必要となるであろう。

(2)将来のプロジェクトと原研の現状

(イ)多岐にわたる研究開発を特定の目標に向って集中し、関係分野の密接な連けいのもとに組織的、計画的に推進するプロジェクト研究は、原研の重要な使命であるが、いまやその推進は従来にもまして重要となっている。

(ロ)今後の主たるプロジェクトとしては、国産動力炉開発計画および高速増殖炉の研究開発がある。前者は、昭和38年から開始され、独立の組織が中心となって、関連研究室から研究員を集め、民間産業の協力のもとに設計研究と詳細計画の立案を進めている。本プロジェクトが本格的開発段階に入るのは昭和40年以降であり、さらに組織の拡充と協力体制の確立が必要となる。後者は、未だ独立の組織を形成するには至っていないが、炉物理、プルトニウム燃料、ナトリウム等の技術の三分野において関連研究室が連絡をとりつつ研究を行なうとともに、プロジェクト化の作業を進めている。

(ハ)前記の動力炉開発プロジェクト以外に研究炉燃料、軽水型燃料の国産化計画、JPDRの出力上昇計画、放射線化学の工業化を目標とする中間規模試験(このうち、エチレンの重合に関するプロジェクトは本年2月発足した。)、使用済燃料再処理の研究計画等があげられる。

6.改革の諸点

 原子力は、多くの各分野において国民生活と密接な関係にあり、今後のわが国経済の発展の鍵ともなるべきものであり、その開発利用は大いに推進しなければならない。
 原研は、かかる原子力研究開発推進の中核的機関であり、これに課せられた使命、役割は、極めて重くかつ、大きい。
 原研は、設立以来既に8年を経過し、原子炉その他研究施設は急速に充実し、その業務も複雑化を加え、これに伴ってその組織運営に種々の不備が生じてきたことは、以上に述べたとおりである。
 原研がその重大使命を円滑かつ効率的に達成しうるよう所要の改革を図らねばならないと考える。
 その改革を要すべき諸点の概要は、おおむね次のとおりである。

(1)使命観の徹底

 原研は、初期的段階としての施設の整備も一応終わり、第二の発展段階に入ろうとしているが、この際、わが国原子力研究開発推進の中核的機関たるの使命感に徹し、各人がその能力を十分に発揮するよう人心の刷新と士気の向上に努めるべきである。このため、人材の確保を図りつつ、能力評価を基礎とした給与昇進制の確立、適材適所主義の徹底、信賞必罰の励行、教育訓練の充実を行なうべきである。

(2)経営組織とその機能の改善強化

 急速にぼう大複雑化した原研の組織についてその管理機能が十分に発挿されるよう特に理事者機能の強化、研究管理機構の新設強化、労務管理、機構の整備充実、安全衛生管理機構の充実に重点をおいて経営組織とその機能の改善強化を図るべきである。

(3)学界、産業界との提携

 今後ますます学界、産業界と一体となって研究開発を行なう必要があるプロジェクトと取り組まねばならず、またそれが学界の研究の推進、産業界の技術水準の向上をもたらす所以のものであることに鑑み、研究協力と人材の交流によってその協力を得るように努め、原子力の研究開発のセンターとしての役割を果さねばならない。なお、原研の施設は、他に求め難いものがあるので、学界、産業界に解放、その利用に供することに留意する必要がある。
 以上、日本原子力研究所を中心としてわが国原子力政策の現状と将来について述べてきた。原子力の開発利用の重要性に思いを致すとき、先進諸国からの遅れを速やかにとり戻し、原子力利用を本格化するために、政府は、今後とも原研を中心としてその研究開発を積極的に推進することが肝要であると考える。
 当委員会としては、既に長期計画でわが国の原子力の研究開発の進むべき方向を示してきたが、この際原研をめぐる諸問題を契機として原子力政策を一層充実し、より効率的な原子力の研究開発が行なわれ、国民生活の発展に貢献しうるよう力を尽し、国民の期待に応える所存である。