資料 原子力研究をめぐる諸問題 1.国民生活において原子力の将来利用される方向とその産業構造への影響 (1)原子力利用の方向 (イ)原子力のエネルギー源としての利用 ①原子力発電 ②推進動力としての利用 (ロ)放射線利用 原子力利用の他の一面であるアイソトープおよび放射線の利用については、国民生活の向上、産業の発展に及ぼす影響は極めて広く、かつ、多岐にわたる。 (2)原子力利用と産業構造の変化 以上に述べたように原子力の開発利用は、発電、海運、医療、工業、農業等の広い分野においてはかり知れない利用の可能性を有しているもので、これらの分野における利用の将来の進展は、例えば、低廉な電力の供給や船舶の高速化と航続力の飛躍的増大などによって、電力、海運等の産業を効率化し、これらの産業自体の発展に役立つとともに、わが国経済の基盤の強化に貢献するであろう。 2.原子力の日本における位置 (1)わが国の原子力開発利用の基本的な考え方 前述のとおり、原子力は、国民生活ないし国民経済に重要な位置を占めるべきものであって、次の理由からその研究開発は政府が中心となり、民間の協力を得て強力、かつ、効率的に進める必要がある。 (イ)原子力の研究開発には巨額の資金を必要とすること。 (ロ)わが国のエネルギー資源の賦存状況、エネルギー需給の見通し等からみてエネルギーの低廉かつ安定的供給に対する要求が強いわが国は、他国以上にこれらを満たすに至る原子力の平和利用を推進する必要があること。 (ハ)核兵器の開発で蓄積した強力な技術基盤と施設のうえに立って原子力の平和利用を推進している先進諸国と異なり、そのような技術基盤を持たず、かつ、遅れて着手したわが国としては、その遅れを早急に取り戻す必要があること。 (ニ)原子力の研究開発は、新しい高度な技術の集積のうえに成り立つものであり、それを進めるに当っては、衆智を集める必要があること。 (2)先進諸国とわが国との比較 いまわが国の原子力の開発利用状況を先進諸国との対比において概観すると、次のとおりである。 (イ)開発事情の特徴 先進諸国における原子力開発、特にその中心となる原子力発電の進め方は、それぞれの国の原子力開発の沿革、エネルギー事情等によってかなり異なっている。 (ロ)原子力予算(平和利用のみ) 先進諸国は、原子力の平和利用のために毎年多額の政府予算を計上している。わが国は、米、英、仏、西独、伊、加等に次いで世界で第8位である。各国の原子力予算を昭和37年度について比較すると、わが国の約80億円(大学関係施設費を入れると約90億円)に対し、英は約13倍(UKAEAは政府支出予算のほか、相当額の事業収入があるので、事業支出はさらに大きい。)、西独は約4倍となっている(米は軍事利用の一部を含め約100倍)。また、昭和33年以降37年までの増加率は、わが国の1.2倍弱に対し、英はほぼ横道い(別に事業収入が増えているので、実質はもっと多い。)、西独は約3倍、伊は約2倍に達している。 (ハ)原子炉設置状況 先進諸国は、数多くの研究炉を設置し、原子力発電所も世界で28基(4万kW以上のもの)が実用に供されている。建設中のものを含め研究炉および発電炉の合計数は米がもっとも多く189基、次いで英の47基、ソ連の27基、仏の24基、西独の17基、伊の14基が続き、わが国は13基で世界第7位に位する。 (ニ)原子力発電 先進諸国における原子力発電開発の状況をみると、昭和38年9月現在、米は約380万kW、英は約500万kW、仏は約100万kW、伊は約60万kWが運転または建設中である。 (ホ)原子力船 非軍事利用の分野における原子力船の開発は、ソ連では原子力砕氷船レーニン号が昭和34年12月完成し、米では貨客船サンバナ号が37年3月完成している。また、西独でもすでに建造に着手し、英はベルギーと共同で舶用原子炉の研究開発を意欲的に行なっている。このほか、伊はユーラトム、ノルウェーはスウェーデンとそれぞれ協力体制のもとに原子力船の研究開発を進めている。 (ヘ)放射線の利用 アイソトープの利用を中心とする放射線利用は、前述のとおり医学、工学、農学の各分野において広く利用される可能性をもっている。特に医学利用および農業利用の分野においては、わが国における開発利用はかなり進み、その状況は先進諸国に比肩しうるものとなっている。アイソトープの使用件数(使用事業所)を昭和37年現在で比較してみると、わが国の約1,000ヵ所に対し、米は約倍、西独および仏が約1.2倍となっている。またアイソトープの生産体制も軌道に乗りつつあり、近い将来ほとんど大部内のアイソトープは、国産でまかなうことが可能となるはずである。 3.あるべき原研の姿とその発展像 (1)原研の設立の趣旨とその役割 (イ)前述のとおり、諸外国にもまして原子力の開発利用の必要性が大きいにもかかわらず、先進諸国に比し著しく遅れてスタートしたわが国としては、これを急速に取り戻す必要がある。 ①巨額の投資を必要とし、かつ、当面直ちに報いられる可能性が少ないので、資金の大部分を国が賄う必要があること。 ②研究開発は、国情からみて集中的に行なうことが効率的であること。 ③この困難な国家的事業を行なうため人的にも、物的にも国の総力を結集する必要があり、そのため民間の人材や出資をも期待し、かつ、弾力的な運営を行ない得る組織とすることが望ましいこと。 などの事情により、わが国原子力の研究開発推進の中枢的機関として、「特殊法人日本原子力研究所」(以下「原研」という。)が設立されることとなった。 (ロ)原研は、発足以来前述の長期計画にしたがって各種の施設の拡充整備を進め、今日では初期的段階から第二の発展段階に移行しようとする時期にきている。 ①基礎研究の促進を図ること。 ②基礎研究と実用化とのかけ橋的役割を果すための研究開発を実施すること。 ③目的を明らかにしたプロジェクト、特に動力炉の開発プロジェクトを中心に学界、産業界と密接な協力関係を確立し、これに意欲的に取り組むこと。 なお、上記基礎研究は、原子力研究開発に関連し、将来わが国独自の創意を発展せしめることに配慮して、大学等の研究と十分な連けいを保ち、実施する必要がある。 ①研究施設を各界の利用に供して、所外の研究に広く協力すること。 ②原子力に関する科学技術者を教育して所要の訓練を行なうこと。 ③アイソトープの製造頒布、廃棄物処理等の事業を行なうこと。 (2)原研の将来の発展像 先進諸国の原子力開発においては、常に国の機関が先導し、民間に対する原子力技術の供給源となっている。わが国の場合は、先進諸国より遅れて出発し、研究開発に着手するとともに、外国の技術、設備の導入が併行して行なわれたという特殊事情のために、原研が民間に対して十分な指導的役割を果してきたとはいい難い。しかし、原研の理想像は、先進諸国の開発機関のように、わが国原子力研究開発の指導的中核的役割を果すものとなることである。 第1に、既設の研究炉あるいは近く建設に着手される材料試験炉の活用を通じて、舶用炉を含め動力炉として既に実用化の域に到達しつつある原子炉の改良および国産化に貢献すること。 第2に、わが国に適した動力炉の開発を進めること。 第3に、高速増殖炉の開発を進めて、燃料資源の有効利用とその経済性の向上に寄与すること。 などをあげることができ、その成果は産業界に漸次利用されて行くようにならなければならない。 4.原研の問題点 (1)経営管理 (イ)経営管理 原研は、その事業遂行に当り種々の面で困難な事情を有している。例えば①設立ないしその後の急速な人員の充実に際し、学界、産業界など多方面から人員を集めたこと、②研究者、特殊技術者、一般技術者、事務関係者など多種多様の職種構成になっていること、③わが国として経験の少なかった大規模な施設を有する研究所であることなどがそれである。 ①理事長が東海研究所の所長を兼務し、他の理事もそれぞれの部門を細分して担当しているためややもすれば、理事会議の運用が総合的な見地に上って事業運営の方針を十分審議し得ないうらみがあること。また各年度の事業計画や理事会議の審議の結果が研究所全体に十分浸透せず、そのため事業体として組織的活動に欠ける面のあること。 ②上層部の権限委譲、専決処理が必ずしも十分に行なわれず、しかも業務の進捗度を常時把握し、適確な指示を与え得る総合調整機能が十分でないこと。また予算、人員等は、業務の進捗度のいかんにかかわらず、年度当初割り当てられた枠に固定し、その結果、運営が弾力性のないものになっていること。 ③所内の各級階層の段階における意思統一の決定を行なう組織が十分に活用されていないため、下部の意見が組織的、制度的に上部に伝達され難いうらみがあること。 ④東海研究所の組織は、あまりにも平面的に細分化されているため、業務の総合的、効率的な運営を困難にしていること。 (ロ)給与・昇進制 原研は、財団法人時代のめぐまれた給与ベースを受けついで発足し、その後数次にわたって国家公務員に準ずる給与改訂が行なわれてきた。特に研究員の処遇については、昭和34年の給与問題に関する中労委あっせんを契機にその優遇措置として研究手当が新設された。 (ハ)士気、モラル等 原研は、わが国における原子力研究開発のセンターとして時代の脚光を浴びて発足した機関であって、発足の初期における職員は、いわゆるパイオニア精神をもって、東海研究所の建設に挺身し、士気、モラルともに高かった。やがて厚生面から紛争を生じ、32年秋頃研究員の東海移駐問題を契機として労使の信頼関係は漸次冷却して今日におよんでいる。 (2)研究管理 研究所経営の成否は、研究管理の巧拙にかかることが大きい。原研のように大規模な特殊法人の研究所の管理は、わが国として初めての経験であり、それだけに原研の研究管理については、慎重な配慮がなされるべきである。 (3)経営管理と研究管理 原研は、原子力の研究助発を総合的、かつ、効果的に行ない、その使命を達成するために、前述のとおり研究分野に応じ適切な研究管理を円滑に実施しなければならない。 (イ)技術系業務に対する管理 原研では、最近原子炉をはじめとして、ホットラボ、再処理試験施設等各種の施設が逐次定常的稼動に入る段階となっている。従来はこれらの施設も研究開発の初期的段階にあったため、研究者が直接業務に携わるという事例が少なくなかった。運転が次第に定常化してくるにしたがい、運転管理を専業とする運転要員がこれに替わることとなり、原研内における運転要員の比重は増大する傾向を示している。 (ロ)サービス部門等の分離 また、現在の原研では、中央分析室、、計算センター等の研究サービス業務の拡充が進み、あるいは照射業務の受注、アイソトープの製造等いわゆる事業的色彩の強い業務が増加する傾向にある。これらの業務は、研究と分離して管理すべきである。 (4)労務問題 原研は、既に述べたとおり、その経営を行なうに当って、特殊かつ困難な諸条件がある。特に原研の労働関係は労使対等の原則に立脚した一般労働法規の適用を受ける反面、給与、諸手当等の労働条件をなすものにつき国の監督に服するという民間企業と異なった制約がある。さらに放射線下の作業という新しい特殊な分野を含んでいる。したがってこれらの諸問題を内包する原研の労働問題の解決は容易ではない。 (イ)原研労組の生い立ち ①原研労組の結成と労使の主な紛争 原研労組は、昭和31年6月(財団法人時代)約100名の職員をもって結成された。結成以来現在までにおける労使紛争の主なものは、次のとおりである。 (a)32年9月東海村移駐問題 (b)33年12月機構改正問題 (c)34年6月正常な労使関係の確立、給与制度の改善、研の体制の整備等の問題(中労委提訴、中山あっせん) (d)36年3月ベースアップ問題(中労委提訴、藤林あっせん) (e)38年11月動力試験炉運転停止問題 ②実力行使の経緯 スト権の行使は、現在までに約70回にもおよんでいる。34年2月に科学技術産業労働組合協議会(科労協)が、また35年11月に政府関係特殊法人労働組合協議会(政労協)が結成され、これらの加盟組合との統一行動などの影響もあって、年々とその回数を増し、昭和38年は1年間に約40回行なわれた。 ③所属団体および地位 原研労組は、34年2月に結成された科労協および35年11月に結成された政労協に所属しており、それぞれの中核として有力視され現在におよんでいる。 (ロ)原研労組の特質 ①民間における労働組合と同じように労働法規の完全適用を受ける労働組合であること。 ②組合員の範囲については、未だ協約の取決がないが、組合員の中には、副主任研究員および課長代理の職位にあるものも含まれており、組合組織率は概ね90%前後の高率を示していること。 ③組合員の年令が若く(平均約28才)、かつ、学卒者が多い(約40%)ことが一部組合活動に熱心な者に他の多くの無関心な層が引きずられ易くしていると考えられること。 ④職員の集団的な生活環境が組合活動の活発化を容易にしているとみられること。 ⑤民間企業のように、労使のトラブルが経営の危険を招来する度合が少ないことおよび研究業務であることに起因し、社会に対する直接的影響がうすいため、職員一般がトラブルに対して安易な気持をもつ傾向があること。 (ハ)労使懸案事項の概要と労組の主張 ①労働協約 一般労働協約は、労使間に小委員会を設けて協議されたが、昭和36年頃から個別協定の積上げの方向をとり、一般労働協約締結の協議は現在行なわれていない。 ②争議協定 24時間スト予告について、最近まで守られていた慣行に戻したいとする所側の申入れに対し、組合は事前通告でよいという立場をとっていたが、今般大型炉を対象として、24時間のスト予告を内容とする争議協定(有効期限昭和40年3月末日まで)が締結された。 ③ベースアップ 所側は、国家公務員の給与改訂に準じて、昭和38年10月以降の実施について準備中であるが、組合は、職務給的賃金(研究手当、役職手当等)のてっ廃、労働時間の短縮等を主張している。 ④勤務時間中の組合活動 所側は、勤務時間における組合活動の適正化について、組合に対し申入れを行ない、協議の呼びかけを行なっている。未だ本格的協議には入っていない。 ⑤放射線労働に関する取決 放射線被曝を伴う作業を拒んだことをもって、不利益な取扱いをしない旨の労使の取決があるが、さらに組合からおよそ次のような主張がなされている。 (a)法定被曝線量をこえて被曝したときは、障害となって発現しなくとも、その超える部分について補償すること。 (b)法定被曝線量以下の部分については、放射線手当を支給すること。 (5)監督官庁法規 (イ)原研関係の法規としては、日本原子力研究所法、同法施行規則、日本原子力研究所の財務および会計に関する総理府令等がある。 (ロ)次に、内閣総理大臣の認可または承認、若しくは内閣総理大臣への報告を必要とするものは、次のとおりである。 一般的なもの 定款の変更、付帯業務、研究の委託および受託ならびに事業計画の認可または承認、組織に関する規程の届出 財務および会計に関するもの 資本金の増加、予算、資金計画、財務諸表、利益の分配、借入金、重要財産の処分、予算の流用、予備費の使用の認可または承認、給与および旅費に関する規程、予算の繰越、収入支出等の届出または報告若くは通知給与および退職手当の支給基準(定款) (ハ)そのほか、内閣総理大臣は原研に関する一般監督権、報告の徴収および立入検査権を有しており、これら権限に基づき現在承認または報告等を求めているものは、次のとおりである。 業務状況報告書、収入支出状況報告書、研究実績報告書、共済会の決算報告等。 共同利用の条件および利用料金、アイソトープの頒布価格、共同研究についての承認。 原子炉の安全性についての審査 (ニ)以上が監督官庁と原研との監督関係に関する法規およびそれに基づく運用の概要である。 (6)学界との協力 (イ)原研が原子力の研究開発を推進するためには学界に期待するところ極めて大であるとともに、原研の研究成果の学界に対する貢献もまた大きくなって行かなければならない。 (ロ)すでに原研は、学界と①開放研究室の設置等による原研施設の共同利用 ②研究指導者としての学界人の招へい等により相互に協力を行なってきた。今後も共同研究の実施など原研の研究に対する学界の積極的な参加を求める努力を惜しんではならない。 (ハ)すなわち、今後は、前記プロジェクトの進展に伴い、一層計画的に協力を進めるため、積極的に学界のために原研施設の開放、研究者の受入体制の整備、共同研究計画の設定等を行ない、原研における研究と大学における研究の緊密な連けいを図る必要がある。 (7)産業界との協力 (イ)原研は、わが国原子力研究開発のセンターであり、原研における成果は、窮極的には産業界に利益をもたらすべきものである。 (ロ)従来、原研と産業との協力は、民間研究者の受入れ、共同研究の推進、原研施設の開放等により行なわれてきた。しかしこれらの制度が十分に運用されてきたとはいい難い。最近は、産業界からも種々批判があったことを謙虚に反省し、民間研究者の受入部門の調整、受け入れられた研究者の環境の改善を図っているとはいえ、さらにプロジェクト研究の実施に当って、特に工学部門における産業界の協力体制を強化するための新しい具体的な制度、方法などを確立する必要がある。 (ハ)そのほか、産業界の開発に期待している導入炉の国産化に対し原研が協力することは、わが国原子力の研究開発の推進を図るうえに重要であるので、事情の許すかぎり、その実施に当って、民間産業界と十分密接な連けいを保ちながらこれを推進する必要がある。 (8)地域分離と機構 (イ)原研は、従来東海研究所を中心として拡大してきた。東海地区には、建設中のものを含め5基の原子炉、ホット・ラボ、再処理試験施設など大型施設の建設整備が集中的に行なわれたため、敷地の点からみて、かなりその余地が乏しくなってきたものといいうる。 (ロ)原研は、今後とも東海地区を中心に発展すべきであると考えるが、これを拡張して行く場合は、東海より距離的にみてあまり遠くない地点に衛星的な研究所、事業所を配置することが望ましい。昭和37年度に高崎に放射線化学の工業化を目的とした中間試験を行なう等を目的とする高崎研究所が設立され、また38年度から大洗地区にアイソトープの開発利用と動力炉の開発のための施設の敷地が確保されることになったのは、この考え方に基づくものである。 (ハ)上記の衛星的な研究所、事業所は、それぞれに機能に応じで性格づけ、体系づけて行くことが必要である。 (ニ)なお、地域分離と機能に関連して、予算の編成、執行、人事管理、労務管理など各事業所に共通する問題を原研全体としての立場から総合的に統轄を行なう機能が充実されることも大切な課題であって、人員の二重投資をできる限り避ける方針のもとにこのような機能の強化を図る必要がある。 5.原研の規模の現状と将来、将来のプロジェクトと原研の現状 (1)原研の規模の現状と将来 (イ)原研は、昭和31年設立以来38年度までに約350億円の資金が投入され、人員も約1,600人に達している。この間、研究開発に必要な施設の建設整備は、東海研究所を中心に進められ、一応の整備を終える段階に至った。しかし、現在までは遅れてスタートしたわが国の原子力の研究開発を可能な限り急速にレベルアップすることに努力を集中したので、施設の大半は基礎的研究あるいは一般の応用研究のために整備されたものである。 (ロ)以上の段階を原子力開発の第一段階とみるならば、次の段階は上記の施設あるいは設備を利用して、本格的な研究開発を実施し、具体的な成果をあげるとともに、それらの成果を活用する段階で、今やそれに入ろうとするところである。 (ハ)将来における原研のおおむねの規模を考えてみると、まず「東海研究所」については、施設の整備もほぼ飽和点に近づいているので、大型施設の建設は今後は予定せず、既定の施設を駆使して研究活動を続けて行くこととなる。そのためには人員が今後とも増強されなければならないが、その限度は2,000人程度であろう。 (ニ)これらの各研究所は、およそ10年後には、上述程度の規模となるものと予想されるので、合計すれば人員は、本部を含め約4,000人、また、今後10年間の所要資金は、およそ1,200億円に達するものと考える。 (ホ)その後の原研の開発面の任務としては、高速炉の開発、さらには核融合反応の研究などがあげられる。これらの事業を本格化するには、改めて別箇の敷地と機構が必要となるであろう。 (2)将来のプロジェクトと原研の現状 (イ)多岐にわたる研究開発を特定の目標に向って集中し、関係分野の密接な連けいのもとに組織的、計画的に推進するプロジェクト研究は、原研の重要な使命であるが、いまやその推進は従来にもまして重要となっている。 (ロ)今後の主たるプロジェクトとしては、国産動力炉開発計画および高速増殖炉の研究開発がある。前者は、昭和38年から開始され、独立の組織が中心となって、関連研究室から研究員を集め、民間産業の協力のもとに設計研究と詳細計画の立案を進めている。本プロジェクトが本格的開発段階に入るのは昭和40年以降であり、さらに組織の拡充と協力体制の確立が必要となる。後者は、未だ独立の組織を形成するには至っていないが、炉物理、プルトニウム燃料、ナトリウム等の技術の三分野において関連研究室が連絡をとりつつ研究を行なうとともに、プロジェクト化の作業を進めている。 (ハ)前記の動力炉開発プロジェクト以外に研究炉燃料、軽水型燃料の国産化計画、JPDRの出力上昇計画、放射線化学の工業化を目標とする中間規模試験(このうち、エチレンの重合に関するプロジェクトは本年2月発足した。)、使用済燃料再処理の研究計画等があげられる。 6.改革の諸点 原子力は、多くの各分野において国民生活と密接な関係にあり、今後のわが国経済の発展の鍵ともなるべきものであり、その開発利用は大いに推進しなければならない。 (1)使命観の徹底 原研は、初期的段階としての施設の整備も一応終わり、第二の発展段階に入ろうとしているが、この際、わが国原子力研究開発推進の中核的機関たるの使命感に徹し、各人がその能力を十分に発揮するよう人心の刷新と士気の向上に努めるべきである。このため、人材の確保を図りつつ、能力評価を基礎とした給与昇進制の確立、適材適所主義の徹底、信賞必罰の励行、教育訓練の充実を行なうべきである。 (2)経営組織とその機能の改善強化 急速にぼう大複雑化した原研の組織についてその管理機能が十分に発挿されるよう特に理事者機能の強化、研究管理機構の新設強化、労務管理、機構の整備充実、安全衛生管理機構の充実に重点をおいて経営組織とその機能の改善強化を図るべきである。 (3)学界、産業界との提携 今後ますます学界、産業界と一体となって研究開発を行なう必要があるプロジェクトと取り組まねばならず、またそれが学界の研究の推進、産業界の技術水準の向上をもたらす所以のものであることに鑑み、研究協力と人材の交流によってその協力を得るように努め、原子力の研究開発のセンターとしての役割を果さねばならない。なお、原研の施設は、他に求め難いものがあるので、学界、産業界に解放、その利用に供することに留意する必要がある。
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