資料

第2回日加原子力技術会議議事概要



〔日時〕昭和38年10月15日(火)14.00~17.00

〔場所〕赤坂プリンスホテル

〔参加者〕

カナダ側

J. L. グレイ(Dr. J. L. Gray) カナダ原子力会社総裁

G. C. バトラー(Dr. G. C. Butler)同生物保健物理部長

W. M. キャンベル(Dr. W. M. Campbell)同化学冶金部長

G. A. ポン(Dr. G. A. Pon)同改良型発電所技術部長

D. B. プリモウ(Mr. D. B. Primeau)同研究官

D. A. ヒルトン(Mr. D. A. Hilton)カナダ大使館書記官

日本側

石川一郎 原子力委員会委員

西村熊雄 同     委員

駒形作次 同     委員

菊池正士 日本原子力研究所理事長

高橋幸三郎 原子燃料公社理事長

島村武久 科学技術庁原子力局長

梅沢邦臣 同     次長

粟野鳳  外務省国際連合局科学課長

〔議題〕

(1)最近の日本およびカナダの原子力研究開発の進捗状況

(2)カナダにおける重水炉開発の状況(NPD炉の運転状況、CANDU炉の建設進捗状況、新重水炉建設計画等カナダ側から説明)

(3)日本における国産動力炉開発計画

(4)重水に関する問題(重水の製造計画、予想価格等につきカナダ側から説明)

(5)原子力の研究開発についての両国政府の民間企業に対する財政的技術的助成策(両国の現状を相互に説明)

〔議事概要〕
 冒頭まず日本側を代表して石川委員から大要次のとおり挨拶が行なわれた。

(石川)
 今回第2回の日加原子力会議を開催することになったが、グレイ総裁以下カナダ側関係者の来日に対し厚くお礼申し上げる。日本の原子力開発は15~20年も先進国におくれてスタートしたので、今その差をつめるべく努力している最中である。日加両国は太平洋をへだてた隣国であり、カナダは土地が広く人口が少ないが、他方日本はその反対であるというように国情が対照的である。したがって、お互いにその点を補い合って、日加両国が種々の面で一層強く結ばれることを心から希望している。
 次いでグレイ総裁がカナダ側を代表して大要次のとおり挨拶した。

(グレイ)
 今度来日できたことは大変に嬉しい。私は日本が原子力開発について非常に積極的だと思っている。私達は重水炉については多少の経験があり、また天然ウランの使用はカナダに益するところが多い。この会議を通じてお互の経験を交換したい。私達も得るところがあり、貴方の国でも得るところがあるというのが最も望ましいと思う。
 それから、第1議題である最近の日本およびカナダ原子力研究開発の進捗状況の説明に入り、まず西村委員から最近の日本における原子力開発の状況について別添資料1にもとづき大略次のとおり説明があった。

(西村)
 最近の日本の原子力開発については次の4つの項目に分けて述べたい。

1. 原子力発電関係

2. 原子力界でのその他の話題

3. 核燃料物質

4. 国際協力

 まず1.については、従来から東海村に建設中であったコールダーホール改良型動力炉はいよいよ1965年春に完成する予定であり、JPDRは本年8月すでに臨界に達し、10月中には日本で最初の電力を発生する予定である。日本原子力発電(株)はコールダーホール改良型に続いて第2号炉を福井県下に建設することに決定したことを公表し、東京、関西、中部の3電力会社も各々の動力炉建設計画を発表した。これらを総合してみると、長期計画に述べられている1970年までに100万kWの原子力発電を実現するという目標は達成できる見込みである。
 2項についてはさらに次の4つにわけられる。
 すなわち、

a.国産動力炉開発計画の着手

b.原子力船開発事業団の発足

c.高速臨界実験装置の建設

d.放射線化学に関する研究開発を中間規模で実施するための高崎研究所の充実

である。

 3項に関しては原研におけるプルトニウム特別研究室の一部が完成し、Pu4.3gを米国から輸入して予備実験を行なっており、1965年頃には公社のプルトニウム冶金、加工の一連の研究施設が完成する見込みである。

 4項についてはアジア太平洋原子力会議等が開催されたことをここで述べたい。
 次いでポン博士が、カナダにおけるCANDU以外の最近の重水炉計画について述べた。

(ポン)
 重水型動力炉については各種のクーラントの使用を検討しているが、それには重水、軽水、有機材がある。まず重水冷却型については出力457MWの発電炉について設計を行なったが、その要旨はTable Iのごとくである。

TABLE I
SELECTED FEATURES OF 457 MWe PRESSURIZED D2O COOLED REACTOR




TABLE II
CAPITAL COST ESTIMATES 457 MWe PRESSURIZED D2O・COOLED REACTORS

TABLE III
UNIT ENERGY COSTS 457 MWe SINGLE REACTOR STATION PRESSURIZED D2O-COOLED


 なお、これに関し燃料の形状を簡単にして、加工費の低減をねらうと共に、一方炉の大型化によって一層安い発電コストが期待される。
 有機材クーラントとUCはCompatibility がよく、かつUCの密度はUO2の1.3倍、熱伝導度はUO2の5.5倍となり、さらに中性子経済も改善され、したがって25~30%程度UO2の場合よりバーンアップはよくなる。また、クーラントの温度を400℃とすれば効率は36~37%になるはずである。
 軽水のクーラントは、fog, boiling,圧力管方式の3つの状態のものにつき研究しているが、軽水クーラントの利点は、

1.コストが安いこと

2.タービンとの直接サイクルができること。

3.放射線照射や高温状態で分解したりすることがないこと。

4.技術的な面での性質がよく知られていることである。

 以上を要約すると次のとおりとなる。

1.垂水クーラントの450MW位の発電炉は世界中どこの場所でも在来の電力と競合できる。たとえ100MW程度のものでも場所によっては競合できよう。

2.有機材クーラントにはUCが適しているので、燃料費がkWあたり0.5ミル安くなる。

3.軽水は技術的経験が豊富である。

 次いでキャンベル博士が、材料面について説明した。

(キャンベル)
 Zr-2はCANDU の基礎となった材料である。放射線による損傷および腐蝕が心配されたが、今のところ大変調子がよい。しかし将来の重水冷却型にはZr-2.5%Nbを用いたい。その他Zr-2.5%Nb-0.5%Cuの使用も考えているが、後者については冷間加工の可能性があり、そのことによって加工が容易になろう。
 一方有機材クーラント炉に関しSAP(Al+4~15%Al2O3)の開発をすすめている。今のところ、高純度のSAPを得るのは難しいが、それはまだ商業的に行きわたった材料となっていないからである。もちろん、low ductility は根本的な難点ではある。
 米国ではZr-NbはH2を吸収するので有機材と一緒には使わなかったことがあるが、カナダの実験ではCl2を10ppm以下にすれば問題ないことがわかった。
 その他軽水クーラントの boiling, fog についてもZr-Nb系のものまで使うべく研究している。その研究結果はまだ十分にえられてはいないが、Nbの含有量を増やした2-phase の場合でも使えそうである。
その他UO2については swelling とgas release が問題である。
 次いでグレイ総裁が国際関係について説明した。

(グレイ)
 米国との関係はよくなっているが、英国との関係は必ずしも好転していない。重水型動力炉技術のロヤルティに関し UKAEA のメーキンス総裁との間で合意に達したので、来週調印されるはずである。またインドも280MWの CANDU 型をニューデリー郊外に建設することになろうが、この場合セーフガードが問題になろう。パキスタンもカラチ付近に重水型動力炉を作る計画を持っているが、この場合の問題は資金である。その他フィンランド、UAR、イスラエルが重水型動力炉の建設に関心をもっている。
 以上の説明があってから菊池原研理事長から次の質問があった。

(菊池)
 この場合 void coefficient は、positive か?

(ポン)プラスの傾向である。
 直ちに第2議題カナダにおける重水炉開発の状況に入り、グレイ総裁が説明した。

(グレイ)
 NPDは1年ばかり運転しているが大きな問題はない。特に炉関係の部分はきわめて好調である。第1期運転は62年10月1日から11月12日までであったが、この間の故障の主なものはターピンの緊急停止バルブのトラブルと重水の flow out であった。flow out した重水は150ガロンにも達したが、これらのincident により、原子炉は70%の稼働率であった。
 第2期運転は、第1期運転後の修理の関係で63年2月12日に始まり3月25日に終わったが、この期間は full 運転し、かつ故障もなかった。

 第3回は4ヵ月にわたる運転であり、63年5月6日~9月5日まで実施した。稼価率は80%であり、その停止の原因は、

1.重水のサンプルラインの故障

2.ディーゼル・発電機の故障

 であった。以上3回の運転の総稼働率は78%であり目標の80%をやや下まわった。しかし次の運転の稼働率は90%位が期待できる。また重水のロスについてもNPDでは12ポンド/dayであったが、将来は大型炉で総量の2%/year位になるものと思われ、これはクーラント用重水の5%位にあたる。
 CANDUは64年に完成し、65年から商業発電を実施する予定である。建設費は8,000万ドルの目標を少し下まわりそうである。
 オンタリオ・ハイドロは近い将来の目標として2,000MW(500MW×4)の原子力発電を考慮しているが、そのうち最初の2基については設計をすでに開始している。建設費は1基あたり2億3,000万ドルを予想している。建設は来年の今頃までには開始されよう。この建設費は$100/kWだけ石炭専焼の発電所より高いが、この分を federal に provincial gov.'t で負担することになる。オンタリオ・ハイドロが、新たに設計を開始したのはNPDとCANDUの成功に満足しての結果である。

(菊池)この場合 spray は重水か軽水か。

(グレイ)重水である。

(菊池)Zrはどの位のコストと見積られているか。

(グレイ)$30/ポンドでZrチューブが米国において作られているので、これを基礎にしている。

(西村)CANDUの建設に関し、国内、国外で使われた費用の比はどの位か?

(グレイ)重水の購入費を除いて71%がカナダ国内、17%はUK(主にタービン)、12%はUSである。

(駒形)NPDの重水のロスは12ポンド/dayだそうだが、どこの部分が最も多いか?

(グレイ)継手は至るところ問題がある。しかしだんだんロスの畳も減少し、5ポンド/day位にはなろう。この数字は回収不能の本当のロスだ。

 次いで議題3 日本の国産動力炉開発計画について駒形委員から別添資料2に基づき、主に原子力委員会側からの説明があり、次いで原研菊池理事長から本件に関する原研の役割、現状等について、別添資料3のとおりの説明があった。

(グレイ)このプロジェクトを進めるのは荒川氏の委員会か。

(菊池)違う。私が Chief になっている。

(グレイ)荒川氏の委員会は消滅したのか。

(西村)いや suspended だ。

(菊池)日本ではクーラントとして boiling, gas cool, Organics の3種にしぼり、fog はやらない。このために、原研から調査員4名をすでにカナダに派遣した。

(グレイ)濃縮ウランの入手は外国に依存しなければならないので面白くない。その点で日本は正しい方向に向かっていると思う。またいろいろの proven 炉を買うのも有益だろう。カナダも CANDU に3億ドルの研究費を投入している。

(ポン)ボイラーについては専門家が evaluate しているのか。

(菊池)東海村の所員がやっている。

(ポン)ボイラーの evaluate に関しては、私の知る限り楽天的なものと悲観的なものとがある。私はconservativな方である。

(菊池)今は、feasibility を問題にしているのでcost estimation 等は後の問題だ。

(グレイ)gas coolant は高価になろう。また AECL では canning にベリリウムは考えていない。
 次いで議題4 重水に関する問題に移り、

(グレイ)重水については3つの問題がある。

それは、

1.losing
2.cost down
3. H3の保健上の問題

である。

 重水を国産化する問題については、重水プラントの建設計画が今までに4つの案が提出されたが、そのうち2つは qualify されている。66年4月には生産が開始されるが、最初の5年間は総量1,000tの買上げを政府がguaranteeする。また AECL の持つ技術の使用は royalty なしである。工場の立地については、政治的要素、石炭のコスト等の諸要素によって決められるが、まだ最終的には決定していない。最初のコストは年産200tとして$22/ポンドより高くはならないと思う。最初の8年間は政府が買上げを行ないたいと思っているが、年産320t位になれば$17/ポンド位を見込めよう。しかし現在の発電コストの計算にあたっては$20/ポンドを採用している。
 次いで議題5政府による民間助成策に入り、まず駒形委員から別添資料4の線に沿って説明があった。
 特にわが国の委託費には、土地の購入、賃借費、研究室等の建築費および人件費は含まれていないことが述べられた。

(グレイ)材料等の照射試験は日本国内でやっているのか。

(駒形)いまのところ外国に出している。

(グレイ)AECLも毎年500万ドルの研究契約を実施しているが、今後数年は多分もっと増額されるであろう。また商業的に生産された燃料を firm price(fixed price)で購入したい。研究補助金の支出は minor way であり、政府の他の部門で行なっている。AECLは研究・開発委託費を交付している。なお、tax のため必要経費の150%の金額を交付する方法が始められつつある。

(キャンベル)主なコントラクターはカナダ GE(CANDU の燃料、新Zr合金)、AMF Atomics(CANDUの燃料)Tompson Products(Zr tube,SAP tube)カナダWH(Zr製品)であり、他にエルドラド社とUCの研究を小規模にやっているが、これは重要なものではない。

(西村)ここで2つお尋ねしたい。①はCANDUに使った費用のうちカナダ国内に投下された割合②はカナダGE、カナダWHのアメリカ資本はどの位の割合か。

(グレイ)8,000万ドルの建設費のうち6,000万ドル位が国内で使われている。しかも国内では AECL の開発した技術を Royalty free,non exclusive で使用している。これは UKAEA あたりと違うところだ。カナダGE社はアメリカ資本が99.8%位、カナダWH社は90%位だ。

(高橋)カナダは依然として再処理を考えないのか。

(グレイ)Puが欲しい向きには spent fuel を売るかも知れないが、自身で再処理をしないという方針はここ当分変更しない。

(島村)カナダは諸外国と重水型動力炉についてどんな協力関係をもっているか?

(グレイ)英国とは agreement を結んでいる。インドとも近い将来 agreement が結ばれよう。米国の民間企業とは種々のコントラクトを結んでおり、これにより年間100万~500万ドル位の収入がある。

(石川)カナダが支払うということはあるのか。

(グレイ)ない。重水炉については一番進んでいるからだ。

次いで次回会議の打合わせに入り

(グレイ)1年後に第3回をカナダで開催することとしたい。

(石川)9月のジュネーブ会議のあととしたいがどうか。

(グレイ)しかし直後ではカナダ側の人達もヨーロッパを回るであろうから工合が悪い。正確な日時はあとで連絡して決めたい。

(日本側)結構である。

○別添資料1 最近の1年間における日本の原子力開発の進展

○別添資料2 国産動力炉開発計画について

○別添資料3 The role of JAERI and Progress of Work at JAERI in Heary Water Reactor Devel opment

〇別添資料4 民間の原子力研究開発に対する政府の助成について