資料


昭和37年度原子力年報の総論


   目次
§1 序説
§2 動力利用
§3 放射線の利用
§4 研究開発
§5 開発体制
   1.機構
   2.予算
§6 国際交流と協力
§7 その他

§1 序説
 世界における平和目的の原子力開発がスローダウンに入ったといわれだしてから数年になるが、1962年すなわち昭和37年はこの状態が終りに近づき、その開発が再び生気を取戻しはじめた年とみることができる。
 原子力の開発がスローダウンに入った最大の原因は、原子力平和利用の中心である原子力発電が技術開発の予想以上の困難さと、世界的エネルギー供給事情の好転のため経済性の見通しが難しくなったことにあるが、まず、この間の現象を説明するのに好適の例として、欧州を挙げることができる。 かつて欧州では、エネルギーの専門家が集って将来におけるエネルギー需給の見通しを検討した結果、需要の増加とともにエネルギーの輸入が激増し、その輸入のための支払いが将来の欧州経済にとって過重な負担となることが予想され、この憂うべき事態の緩和をはかる手段の一つとして原子力の利用達成が焦眉の急務であるとの結論をえた。このため欧州の原子力界は1956年頃からとみに活気を帯びるようになり、さらにその頃に起ったスエズの動乱による中近東石油の輸入途絶は、これに拍車をかけた。ところが、この動乱は短期に終り、一方、この頃から世界各地には石油鉱床の発見がつづき,その埋蔵鉱量は空前の増加をみるにいたった。さらに戦後復興の進捗とともに欧州の経済は立直り、その外貨事情は好転し、エネルギーの消費者は、欧州産であろうと欧州外からの輸入であるとを問わず、価格が安くて使用に便利な種類のエネルギーを自由に選択できるようになった。また、そのような選択が欧州経済の発展のために好ましいと考えられるようになった。
 このため原子力の利用は、それが経済性を確立していない限り、将来にそなえての準備程度以上に推進する必要はなくなった。一方、石油火力発電の原価は予想以上に低下したのに対し、原子力発電原価の引下げは、その技術開発の困難さに妨げられて、予想のように捗らず、結局原子力発電所の建設は1959年頃から消極的となった。
 しかしながら、このような状態にあっても、将来にそなえての研究開発は着々とすすみ、世界最初の原子力発電所とし送電をはじめた英国のコールダーホール発電所は、1956年以来運転をつづけ、これについで完成したフランスのマルクール、英国のチャペルクロスドイツのカールの各発電所もそれぞれ運転経験を積んだ。これらの努力と経験の蓄積によって、原子力の将来に対する見通しは、次第に明るくなり、その発電原価の引下げの見通しも確実性を増してきた。最近では原子力の発電原価が在来エネルギーによる原価と競争しうる時機の到来を1960年代の後半とみるのが有力となってきた。 このような情勢の変化によって、この数年間ほとんど新規計画の登場のなかった欧州の原子力発電所建設計画にも、1962年の春に入って急速に新計画の追加が相次ぐようになった。これを数量的に眺めるためすでに完成したもの、建設中のもの、建設計画中のもののすべての段階にある原子力発電所の出力の合計を求めてみると、1958年から1962年までの3年余りは800万キロワットから900万キロワットまで、僅かに100万キロワットしか増加しなかったものが、1962年4月以降年末までの僅かに9ヵ月の間に、900万キロワットから1160万キロワットヘと、260万キロワットの急増をみた。
 このような変転に比べるとはるかにエネルギー供給事情に恵まれた米国では、当然のことながら欧州におけるほど原子力発電所の建設は、積極的となっていない。全エネルギーの消費量、電力の消費量ともに欧州を凌駕しているにもかかわらず、1962年において運転中の原子力発電所は欧州の半量の67万キロワット、建設ないし建設を計画中の原子力発電所の合計も、欧州の3分の1に満たない300万キロワットにすぎない。
 しかしながら、このような環境にあっても、大統領の諮問に答えて、米国の原子力委員会が1962年11月に提出した答申には、同国の原子力開発の将来にとって明るい見通しと希望が盛られている。また、これに先立って、いくつかの大型原子力発電所の建設計画が、産業界から提出され、とくにニューヨークの市内に設ける100万キロワットの原子力発電所の計画が登場したことは欧州ほど明確ではないとはいえ、米国における活動の積極化を物語るものとみて差支えなかろう。
 その他の諸国においても、たとえば、インドでは、原子力発電所の建設計画が具体化し、ブラジルでもその建設を考えるようになった。
 このように世界的に、原子力の開発があらたな活動期あるいは開発の第2期とも呼ぶべき新時代を迎えたのがこの1962年とみることができる。
 ところで、これらの原子力発電所は、米国では主に軽水減速冷却型、英、仏両国では、黒鉛減速ガス冷却型、カナダでは、垂水減速冷却型と、いずれも、それぞれの国で独自に開発した原子炉を使用しているが、将来にそなえての新型式の原子炉についても各国で熱心に研究がつづけられている。1962年における研究の趨勢としては、9月に開かれた欧州原子力産業会議の第1回大会においても、11月に発表された米国大統領への答申においても、原子燃料の有効利用の立場から将来の姿として高速増殖炉が強調されたことである。また、高速増殖炉の実用化までの過渡的期間を埋め、さらに、その後においても発展を期待しうる転換炉として、重水減速系あるいはスペクトラルシフト方式の原子炉が重視されてきた。
 一方、発電に比べればまだ試験研究の域を脱しないが、1962年には、原子力船の開発計画も進展をみた。すでに、米国とソ連では、原子力利用の第1船が試験運航をつづけているにもかかわらず、その経済性の困難から、両国につづいて開発をすすめる国はなかったが、この年に入って、ドイツにおける計画がすすみ、また、英国でも計画を一段と推進しようとしている。
 つぎに、原子動力の利用から離れて、放射線の利用について述べると、医療、工業、農業、その他の面で地道な研究がつづけられ、利用技術は漸次進歩を重ねている。これらについては、この年が、とくに飛躍的な成果を収めた年というには当らないが、欧州では、放射線照射による食糧保存の研究が盛んとなり、また米国では、その製品が兵員の食糧として、はじめて食膳に供せられるようになったことは見逃してはならないであろう。
 このような世界的環境の中にあって、わが国における原子力の開発を眺めてみると、まず第一にあげなければならないのは、わが国においても、また、原子力の開発が活動期を迎えたことであろう。
 わが国は、31年に、英国から発電炉を導入する方針を決めて以来、その建設ならびにこれについで米国から導入する試験用発電炉の建設は、進捗しているが、その後、これにつづく発電所建設計画の具体化は進展しなかった。
 しかしながら、このような状態も世界における傾向と同様に、37年に入ると事情が一変して、英国型発電所につづく米国型第2号発電所の建設計画、さらにこれにつづく第3号発電所の建設計画等が具体化してきた。また、将来における原子力発電所の国産化にそなえ、新型式の発電用原子炉の開発について検討がはじめられたのもこの年である。
 一方、新年来懸案であった原子力船の開発計画が具体化し、また、放射線化学についての研究開発計画も一段と進捗した。そのほか、原子力についての各種の国際会議が、わが国で開かれたのもこの年の特徴で、これは、わが国における原子力開発の躍動開始に対する諸国の関心の現れである。
 以下、わが国におけるこれらの状況について述べる。

§2 動力利用
 わが国における原子力発電については、31年に英国から発電炉を導入する方針を決め、その所有と運転のために創立された日本原子力発電(株)が東海村で電気出力16万6000キロワットのコールダーホール改良型原子力発電所の建設をつづけている。また、これについで電気出力1万2500キロワットの米国製沸騰水型試験用発電炉の建設が、同じく東海村の日本原子力研究所で行なわれており、近く臨界に達する予定である。
 しかしながらこの数年間、これらにつづく発電所の建設計画は必らずしも予想どおりに捗らなかったが、37年にいたって日本原子力発電(株)は東海発電所につづく第2号発電所として、米国から導入する軽水型原子炉による発電所を福井県に建設することに決定した。また、これと相前後して、東京、中部、関西の3電力会社が、45年頃までにそれぞれ出力30万キロワット前後の原子力発電所を完成させる計画を明らかにした。
 これらの計画発表によって、原子力委員会が45年までの原子力発電計画の目標としている100万キロワットの実現に、明るい見通しがえられるようになった。
 しかしながら、このような発電計画は、すでに原子力発電が他のエネルギーとの競争上有利であるために計画されたものではなく、むしろ将来の発展性を期待しているものである。したがって、世界的なエネルギー革命の進展、すなわち、固体エネルギーから流体エネルギーへの移行の流れの中にあって、将来のエネルギー需給構造について明確な見通しと総合的視野に立つエネルギー政策の確立をはかることは、原子力発電の将来性を判断する上からも強く要望されるところである。
 政府は、現在総合エネルギー政策を確立するため、通商産業省の産業構造調査会に総合エネルギー部会を設け、各種エネルギーの問題点あるいは長期的な需要構造等について検討を行なっている。
 この部会での審議の過程で明らかにされたところによると、10年後の47年度には、わが国の全エネルギー供給量のうち国内炭の占める割合は現在の26%から19%に減少し、その代りに、現在40%を占めている石油は63%に増加して、輸入エネルギーの比率は約70%に達すると予想されている。
 このようにエネルギーの海外依存度がとくに高くなるわが国としては、当然・エネルギー供給の安定性について真剣な考慮をはらう必要がある。
 同じ輸入エネルギーであっても、原子力は、石油に比べて、供給の安定性が高い。それは、石油の供給地の多くが、安定しない地域で、かつ、石油は、大量の輸送を必要とするのに対し、原子力のエネルギー源である原子燃料の供給地は、世界で最も安定した地域であり、しかも、エネルギー当りの原子燃料の輸送量は石油とは比較にならないほど少量ですむからである。
 また、輸入の不円滑にそなえての備蓄についても原子燃料の貯蔵は、石油に比べてはるかに容易であり、その費用も極めて少額ですむ。
 さらに、エネルギーの供給源を原子力を加えることによって多様化することは、それだけ供給の安定性を増す。
 いうまでもなく、エネルギー政策の最大の目標は、エネルギーの低廉かつ安定的な供給をはかることにあるが、以上述べたように、原子力は、供給の安定性の要請に応じうるのみでなく、さらに、技術の進歩、大容量化等により逐次低廉化し、原子力発電の経済性が確立する時期も遠くないと見込まれる。このような見地から、原子力委員会は、原子力発電の積極的推進をはかることを必要と考え、その具体的な方途について電気事業者および関係製造業者との懇談の場を持って検討をすすめている。
 発電とならんで原子動力利用の今一つの柱である原子力船の開発については、原子力船専門部会を設けて検討をすすめてきたが、37年6月その第1船として、政府および民間の共同出資による特殊法人によって約6,000総トンの海洋観測船を44年度までに完成すべきであるとの結論をえた。原子力委員会はこの答申を受けて第1船の設計、建造、実験運航を実施する日本原子力船開発事業団を設立することとした。

 §3 放射線の利用
 わが国における放射線の利用は、昭和12年に理化学研究所のサイクロトロンによりアイソトープを生産し、化学、生物学の研究に応用したのがはじまりである。その後、第2次大戦により一時中断されたが、25年にアイソトープ輸入が再開されて以来、急速にその利用がすすみ医療、工業、農業などの分野で多大の貢献をしている。
 アイソトープを使用している事業所数は、37年度末現在、約1,000箇所に達している。このうち医学関係が最も多く、約3分の1を占めているが、今後は、現在試用的段階にある工業分野での利用が増加するものと予想される。このような実情にかんがみ、37年度には、アイソトープ工業利用の実態調査が実施された。その結果によると、アイソトープは各種の業種に利用されているが、事業所数は、大企業の場合でも1社当り1~2箇所というのが多く、今後、本格的にアイソトープを工程管理などに利用しようとする過程にあるとみられる。
 アイソトープの供給については、現在、ほとんど全量を輸入に依存しているが、国内での生産体制の確立もすすめられている。すなわち、日本原子力研究所は36年にアイソトープ製造試験施設を設置し、JRR-1、JRR-2を利用して短寿命のアイソトトープ十数種類の試験製造を開始し、37年8月には、需要者への一部供給をはじめた。
 さらに39年に予定されているJRR-3の定常運転にともない、アイソトープの本格的生産を行なうべく、製造施設の建設がすすめられている。
 一方、放射線利用の新分野として、その将来に大きな期待がもたれる放射線化学については、大規模施設を整備して、従来化学工業界、大学等ですすめられてきた研究結果の中間規模試験を実施するため、日本原子力研究所に、あらたに高崎研究所が設けられることとなった。38年3月に同研究所の建設が着手され、4年間で完成される予定である。同研究所は、38年4月に発足したが、その運営については、産業界の要望をとくに受け入れやすくするよう配慮されており、また研究員も大幅に民間から受入れられる。

 §4 研究開発
 わが国における原子力の研究開発が、本格的に開始されて以来7年を経て、広範な分野にわたり基礎的研究、開発研究がすすめられており、その成果も逐次あがりつつある。
 わが国で、はじめて原子の火がともされたのは、32年8月であったが、その後、研究炉の設置は急速に進展し、37年末現在の状況は、運転中のもの8基、建設中のもの3基で、合計11基である。運転中の8基の研究炉のうち、5基は米国から購入したものであるが、その建設、運転によって、貴重な経験を蓄積することができた。他の3基、日立研究炉、東芝研究炉およびはJRR-3はいずれも日本の技術によって設計、製作されたものである。
 日立研究炉および東芝研究炉は、それぞれ(株)日立製作所、東京芝浦電気(株)が多額の資金を支出し、自社および関係会社の技術を結集して建設したものである。なお、これらの研究炉の建設には、政府の補助金が交付された。
 JRR-3は、通称国産1号炉といわれているもので、その設計から完成まで、日本原子力研究所を中心に、産業界、学会を含め多数の原子力関係機関の協力によって完成されたもので、アイソトープ生産、各種工学試験に利用される。この国産1号炉の設計研究は、遠く29年にさかのぼる。29年といえは、ようやくわが国における原子力の開発が、その緒についた頃である。当時としては、この原子炉の完成が、原子力開発の当面の目標であり、日本学術振興会は通商産業省の委託をうけ、原子炉設計の基礎研究委員会を設け、アイソトープ生産を主目的とする研究炉として、設計研究をはじめた。その後、日本原子力研究所が発足し、この仕事をひきつぎ、産業界、学界、国立試験研究機関の協力をえて設計を完了し、34年には、製作が開始された。この設計には、多数の民間企業が参加し、設計分担は、そのまま製作にひきつがれた。
 この国産1号炉は、関係者の努力の結晶として37年9月臨界に達した。この炉の建設は、設計技術のはか核燃料、関連機器および材料の製造技術などわが国の原子力技術全般の水準向上に、はかり知れない貢献をした。今後、この炉の利用が本格化すれば、アイソトープの生産、核燃料技術の開発などの分野で、その真価を発揮するであろう。
 国産1号炉につづく2号炉ともいうべき、国産動力炉の開発計画の検討が、原子力委員会に専門部会を設けて、37年8月以来すすめられている。わが国の原子力発電は、当面海外で安全性と経済性の確認された炉を導入するという形ですすめられるが、将来原子力発電が本格的に実用化される時期までには、現在確立された炉型より進歩したもので、わが国の核燃料事情その他の国情に適した炉型を開発することを目標にしている。
 この専門部会は、開発対象とすべき炉型の選定、開発体制および計画実施のすすめ方について一応の結論をえたので、38年5月に報告書を原子力委員会に提出した。
 また、高速増殖炉の開発については、日本原子力研究所の発足当初から基礎的な研究が実施されてきた。また冷却材でナトリウムやナックについては、民間における研究を助成するとともに、36年度からは、民間企業と日本原子力研究所との共同研究として技術開発がすすめられている。一方、高速増殖炉に適した燃料再処理法についても、日本原子力研究所で塩化物分溜法の基礎研究がすすめられており良好な結果がえられている。
 これらの基礎研究の結果にもとづいて、日本原子力研究所は、7~8年後には、高速実験炉を建設することを目標において、さし当り38年度には臨界実験装置の建設に着手しようとしている。このように高速増殖炉の開発は、原子力委員会がさきに策定した原子力開発利用長期計画の線に沿ってすすめられている。
 わが国の原子力開発も、このように自らの手で動力炉開発をすすめたり、また、海外から導入する動力炉についても、初期装荷燃料はともかく、逐次燃料を国産化すべき段階に近づきつつある。
 このため、燃料・炉材料の照射試験が、原子炉製作技術の開発上極めて重要な意味をもつので照射試験専用炉つまり材料工学試験炉の必要性が強調された。原子力委員会でも専門部会を設けて検討してきたが、日本原子力研究所がその建設、運営に当ることとし、さし当り38年度には予備的調査に着手することとなった。
 核燃料の分野における試験研究としては、天然ウラン燃料については、JRR-3燃料の製造加工を主軸として、従来、ウランの製錬から完成燃料の検査まで、日本原子力研究所、原子燃料公社、産業界、国立試験研究機関で多岐にわたってすすめられてきた。その結果JRR-3の燃料は2次装荷から国産によることができるようになった。
 濃縮ウラン系燃料の加工については、主として民間企業で技術開発が行なわれているが、日本原子力研究所の半均質臨界集合体、日立研究炉などの燃料は、国内で加工された。この分野での技術開発は、主として二酸化ウランを対象として、近い将来軽水動力炉燃料を国産化することに目標をおいてすすめられており、振動充填法については各研究機関が協調して開発を行なっている。
 一方、日米研究協力の第1着手として、燃料技術についての協力が具体化しつつあり、38年5月には、酸化物系および炭化物系燃料についての専門家会議が開催された。
 つぎに、今後かなり長期にわたって技術開発を要するのは、燃料再処理およびプルトニウム燃料技術である。これらは、今後かなりの規模で動力炉の運転が行なわれれば、その経済性を確保し、さらに、将来の高速炉開発にそなえ、使用済燃料を有効に活用するのに必要な技術である。
 燃料再処理については、再処理専門部会での検討および海外調査団の調査の結果、43年頃には、0.7~1.0トン/日処理規模の再処理工場を完成する必要があるとの結論に達し、原子燃料公社で、38年皮からその設計に着手することとなった。
 燃料再処理技術の開発は、日本原子力研究所、原子燃料公社の共同研究としてすすめており、使用済燃料を実際に使用して試験のできる施設(ホットケーブ)が近く完成する。完成後には、JRR-3の使用済燃料の一部を処理し、将来の再処理工場の運転に必要な技術の習得に努めるものである。
 プルトニウムについては、かねてから検討してきたが、37年秋、米国に調査団を派遣してプルトニウムの利用についての技術的・経済的見通し、関連技術の開発状況を調査させた。プルトニウムは、長期的には高速増殖炉燃料として利用することを目標として計画をすすめているが、当面熱中性子転換炉燃料として利用する道もある。
 その有効利用をはかることは、わが国の核燃料問題の中心課題であるがプルトニウムを動力炉の燃料として利用するための技術は、海外においても未開発分野が多く、わが国としては、燃料設計、加工技術等全く今後の問題である。プルトニウム燃料技術の開発は、日本原子力研究所と原子燃料公社との共同プロジェクトとして推進することとしている。
 わが国の原子力技術の開発は、日本原子力研究所、原子燃料公社、国立試験研究機関、民間企業、大学等多くの機関によってすすめられている。原子力の動力利用が、実用化の段階に近づいてきたため、各機関の力を結集して推進しなければならない課題がふえてきた。このため、開発プロジェクトを設定し、明確な方針にもとづいてその実施に当らねばならない。しかしわが国では、この種の計画は類例が少なく、多くの科学技術者の確保、特許の帰属等困難な問題が多いが、原子力研究をその利用に結びつけるためには、ぜひとも克服しなければならない課題である。

 §5 開発体制

1.機構
 わが国の原子力についての政府関係機構は、行政、研究開発の分野とも逐年整備されつつある。研究開発の分野においては、日本原子力研究所、原子燃料公社放射線医学総合研究所などを中心に、業務内容、陣容とも充実されつつあるが、37年度においては、あらたに原子力船の開発機構の基礎が固められた。
 原子力船の開発については、原子力委員会は、原子力船専門部会を設置し、基本方針の検討をすすめてきたが、37年6月に、第1船の開発機構として民間・政府共同出資の特殊法人が適当である旨の結論をえた。
 政府としては、原子力第1船の設計、建造および実験運航を、主たる目的とする特殊法人日本原子力船開発事業団の設立に必要な措置を講じ、関係法案を国会に提出し、38年6月承認された。
 このほか、37年度にあらたに発足した機構および38年度に新設される組織は、つぎのとおりである。
 36年9月、ソ連が核実験を再開して以来、放射性降下物問題がクローズアップされ、政府は内閣に放射能対策本部を設置した。また、この問題についての責任体制を確立するため、原子力委員会設置法の一部を改正して従来から所掌してきた放射能調査分析、対策研究に加えて、放射性降下物による障害の防止に関する基本に関することを併せて、原子力委員会が所掌することとなった。このため、原子力委員会設置法の一部を改正する法律は、37年4月公布・施行された。
 これに対応して、原子力についての行政機関である科学技術庁原子力局も、あらたに、放射性降下物による障害防止に関し、関係行政機関が講ずる対策の総合調整を行なうことになり、放射能課が新設された。
 また、茨城県東海村地区には、各種の原子力関係施設が集中的に設置されつつあるのでこの地区における放射線監視を充実し、原子炉施設等の安全対策を強化するため、科学技術庁の水戸原子力事務所が、38年度に設置されることとなった。
 一方、放射線化学の研究の中核的機構となる日本原子力研究所の高崎研究所が、38年4月に発足した。

2.予算
 原子力関係政府予算の最近5年間の推移は、右図のとおりである。図でわかるように金額的には38年度予算は、従来の80億円前後の水準から100億円の線に近づいた。これを内容的にみても、国産動力炉の開発、高崎研究所の建設、高速増殖炉開発第1着手としての臨界実験装置の建設、プルトニウム燃料技術開発のための施設建設、燃料再処理工場の設計、日本原子力船開発事業団の設立等、多彩かつ意欲的なもので、懸案事項のいくつかを解決し、原子力の研究開発をその実用化に推進するための基礎が固められつつある。
 このように、38年度予算によって、多くの新規事業がスタートすることになるが、これらの39年度以降における拡充、進展を裏づける予算の拡大が必要である。
 38年度予算の概要はつぎのとおりである。

(i)日本原子力研究所

① 国内の研究開発機関の参加を求め、将来性の期待できる動力炉について基礎設計から建設まで一貫して行なうプロジェクトを確立するため38年度は、主として概念設計を行なう。(予算:現金額4,000万円、本件関係定員増4名)

② 東海村地区には、すでに原子力諸施設が多数集中しているので、あらたに国産動力炉、材料試験炉およびラジオアイソトープ諸施設の用地として,132万平方メートル(40万坪)を入手することとし、このうち38年度は、33万平方メートル(10万坪)を購入する。(予算:現金額8,500万円)

③ 高崎研究所の建設については、37年度にひきつづき、60Coの中間規模試験室、2MeVの加速器中間試験室等の建設を完了せしめるとともにラジオアイソトープ工学実験室、モックアップ試験室等の建設を行なう。(予算:現金額10億5,000万円、債務負担行為額4億7,000万円、本件関係定員増24名)

④ 原子炉の運転および建設関係については、JRR-1が、従来にひきつづき、定常運転を行なうほか、JRR-2も定常運転に入る。JRR-3は出力上昇試験を行ない、JPDRは、38年度には全出力運転に入る予定である。
 また、原子力船における遮蔽の研究を行なうためのJRR-4は39年度中に完成の予定で建設工事をすすめる。
 材料工学試験炉については、従来行なってきた調査研究にもとづき、39年度に建設に着手することを目標に仕様書の作成を行なう。
 さらに、従来行なってきた高速増殖炉に関する研究を、より本格化するため、高速炉臨界実験装置の建設に着手する。(予算:現金額11億7,000万円、債務負担行為額1億6,000万円、本件関係定員増18名)

⑤ JRR-3の本格的運転に対処して、39年度中に完成の予定で、ラジオアイソトープ製造設備の建設を行なう。(予算:現金願2億3,000万円、本件関係定員増3名)

⑥ その他研究施設関係として各種原子燃料検査のためのホットラボの拡充に着手するほか、プルトニウム特別研究室の内装、再処理試験用ホットケーブの建設、廃棄物処理増設等を行なう。(予算:現金額7億4,000万円、債務負担行為額10億1,000万円)
 各種の試験研究関係については、従来行なってきた研究開発を一層推計することとし、とくに、プルトニウムの研究を本格的に開始する。

⑦ このほか、わが国の各原子力研究機関における研究成果を海外に紹介する業務を一層強化する等重要事業の推進をはかる。(予算:現金額9億5,000万円、本件関係定員増61名)

《原研総予算:現金額59億9,000万円〈24%増〉債務負担行為額16億4,000万円、うち政府出資現金額56億4,000万円、定員増120名、38年度末合計1,604名》

原子力予算の推移

(ii)原子燃料公社

① 国産ウラン鉱石を対象とする採鉱、製錬の技術は、今日までの試験によって、一応の成果をえたので、パイロットプラント規模による工業

化試験を実施し、将来の本格的生産にそなえるため、この試験工場を人形峠鉱山に建設する。(予算:現金額4,300万円、債務負担行為額1億2,000万円)

② プルトニウム燃料の研究開発を行なうため、プルトニウム燃料の研究施設等の建設を行なう。(予算:現金額1億9,000万円、債務負担行為額8億円、本件関係定員増11名)

③ 1日あたり0.7~1.0トン程度処理規模の使用済燃料再処理工場の建設を目途とし、これに関する資料購入および詳細設計を行なう。(予算:現金額1億5,000万円、債務負担行為額5億9,000万円、本件関係定員増7名)

④ 核原料物質の探鉱については、37年度にひきつづき、人形峠鉱山および東郷鉱山に重点をおいて、探鉱を実施するほか、山形・新潟県境の小国地域、新潟県三川・赤谷地域等の探査を組織的に行なう。このほか人形峠鉱山において、水力採鉱試験を実施する。(予算:現金額2億8,000万円)

《公社総予算、現金額16億2,000万円〈18%増〉債務負担行為額15億1,000万円、うち政府出資現金額15億5,000万円、定員増21名、38年度末合計581名》

(iii)放射線医学総合研究所

 放射線調査部門の強化等、従来行なってきた事業をさらに推進するほか、新規事業として緊急時対策に関するプロジェクト研究、養成訓練棟の建設を行なうとともに外来研究員の受入体制の整備をはかる。

《放医研総予算:現金額5億3,000万円〈16%増〉定員増30名38年度末合計391名》

(iv)国立試験研究機関

 各省庁所属の国立機関においては、従来にひきつづき、放射線利用、原子炉工学、核融合反応、放射線標準、放射線障害防止、原子力船の安全対策等について研究を行なう。とくに、原子炉工学の基礎的分野および放射線利用の面において研究の充実をはかる。(予算:現金額5億8,000万円、債務負担行為額7,800万円)

(v)民間における研究の助成および研究委託

 原子炉の安全性、事故解析および核融合に関する研究等に対して委託費を、また、軽水型動力炉およびガス型動力炉の開発に関する研究、放射性同位元素の利用の研究等に対して補助金を交付する。(予算:現金額委託費1億5,000万円、補助金1億6,000万円、計3億1,000万円)

(vi)放射能測定調査研究

 核実験にともなう放射性降下物の防護については、従来放射能調査分析および対策研究等の強化をはかってきたが、38年度においても、ひきつづきこれら調査研究等の一層の充実、強化を期するものとする。(予算:現金額9,200万円)

(Vii)核燃料物質等の入手

 日本原子力研究所をはじめ大学その他の原子炉、または臨界実験装置等に使用される濃縮ウラン等の購入または借り入れ等のため必要な措置を講ずる。(予算:現金額1億900万円、債務負担行為額5,500万円)

(viii)国際協力その他

 外国の原子力関係科学技術者の招へいおよび外国との科学技術者の相互交流を行なうとともに、科学技術者の海外派遣を積極的に行なうものとする。とくに国際協力を一層効果的に推進するため、欧州に原子力関係に主眼を置いた科学アタッシェを1名増員する。(予算:現金額4,400万円)

(ix)放射性廃棄物処理事業の助成放射性廃棄物回収貯蔵業務を、さらに円滑に推進するために必要な貯蔵施設の建設および器具の整備を行なうものとし、このため廃棄物処理事業補助金を交付する。(予算:現金額900万円)

(x)理化学研究所

 理化学研究所が行なう原子力平和利用研究に対しては、従来、委託費または補助金を交付することによりその促進をはかってきたが、38年度からはこれらの研究に対する予算措置は、理化学研究所の他分野における研究と同様に、政府出資によることとなった。38年度においては、サイクロトロンの建設、核融合反応の研究、アイソトープ利用の研究等を行なう。(予算:現金額2億3,000万円、債務負担行為額4億2,000万円)

(xi)日本原子力船開発事業団

 38年度から、原子力第1船の建造に着手し、その過程において、投合的な研究開発を行なうこととする。このため原子力第1船の設計、建造および実験運航を主たる内容とする9ヵ年計画を作成し、その実施を特殊法人日本原子力船開発事業団を設立して行なわせることとする。(予算:現金額1億5,000万円、うち政府出資額1億円)

(xii)原子力発電所立地調査

 原子力発電所の立地調査を従来の図上調査に加え、地質および気象の面から現地について行なうこととする。(予算:現金額600万円)

(xiii)水戸原子力事務所

 茨城県内に水戸原子力事務所を設置し、当該地区の原子力行政事務の実施に万全を期することとする。(予算:現金額900万円、定員6名(うち配置換2名))

(xiv)原子力局の一般行政

 従来行なってきた各種行政事務のほか、原子力施設安全対策、国際協力、各種調査企画等をさらに円滑に行なうため必要な措置を請ずる。(予算:現金額1億2,000万円)

(xv)各省庁関係行政

 国際原子力機関との折衝、原子力船の規制、原子力発電所の規制等について、それぞれ関係各省庁は必要な行政を行なうが、これらに要する行政費は、関係各省庁の予算に直接計上する。(予算:現金額1億円)

 §6 国際交流と協力
 37年度には、国際的な研究協力が、主として米国との間で具体化した。すなわち、米国のハンフォード事業所に、プルトニウム関係技術者を長期派遣することが、38年3月に決定したのをはじめ、日米間の研究協力も、前述のとおり進展をみた。
 一方、37年12月には、日米原子力会議が日米両原子力産業会議の共催で開催され、両国の原子力委員会の代表も非公式ながら参加して、核燃料、原子炉の安全と敷地、原子力災害補償、原子炉の研 究開発など相互に関心の深い問題について、意見を交換した。
 また、わが国とフランスおよび英国との間においても、日仏原子力技術会議、日英原子動力シンポジウムを契機として、具体的な技術協力の素地をつくることができた。
 一方、アジア諸国において原子力開発の分野で指導的地位にある各国代表者の参集を求め、各国が当面している行政上、技術面での共通の問題を討議し、地域的協力による解決方策を探求する機会を提供することを目的として、日本政府が主催して、38年3月、原子力平和利用推進のためのアジア・太平洋諸国会議を開催した。この会議には、アフガニスタン、オーストラリア、セイロン、中華民国、インド、インドネシア、イラン、日本、大韓民国、ニュージーランド、パキスタン、フィリッピン、タイ、ベトナムの14ヵ国の代表ならびに国際原子力機関はじめ多くの国際機関も参加した。討議の結果、国際原子力機関の地域事務所をアジア地域に設け、同機関のアジアにおける活動を充実すること、今後国際原子力機関の主催によりこの種の会議を随時開催することに明るい見通しがえられ、アジア地域における原子力分野での国際協力のきっかけをつくることができた意義は、高く評価されている。

 §7 その他
 原子力関係の法制については、すでに、一応の体系が整っており、37年度に、あらたに発足した基本的法制はない。しかし、現在原子力委員会で専門部会を設置して検討をすすめているものとしては、原子力事業従業員の災害補償および茨城県東梅村地域を対象とする原子力施設の地帯整備の問題がある。