原子力委員会

動力炉開発専門部会の報告について


 原子力委員会は、昭和37年8月15日、動力炉開発専門部会の設置を決定し、国産動力炉開発のための計画に必要な事項について諮問したが、去る5月20日、同専門部会(部会長荒川康夫)から原子力委員会に下記の報告書が提出された。同報告書は、国産動力炉開発の目標、開発の進め方、炉型の選定等についての専門家の見解を述べたものである。

(記)

国産動力炉開発計画について

 わたくし共の専門部会は、国産動力炉開発のための計画に必要な事項について諮問をうけ、昨年9月以来審議を続けております。
 貴委員会が当初昭和37年度末迄に結論を得るべく期待されましたのに対し当部会の審議の現況は、遺憾ながら、示された事項のすべてについて最終的な答申をなし得る段階にまで達しておりませんが、諸般の情勢を考慮致しまして、この際これまでの検討の経緯をとりまとめお知らせすべきであると考え、ここに報告書を提出致します。

原子力委員会・動力炉開発専門部会構成

部会長 荒川康夫   電力中央研究所理事
委員  今井美材   原子燃料公社理事
     草野光男  (株)明電舎研究所長
     柴田万寿太郎(株)日立製作所電機事業部次長兼原子力部長
     杉本朝雄   日本原子力研究所理事
     武田栄一   東京工業大学教授
     中尾常世   日本原子力研究所工学部長兼開発室長
     西堀栄三郎  日本原子力研究所理事
     野田順二   電気事業連合会事務局長
     藤岡信彦   電源開発(株)企画部長
     馬郡 巌   通商産業省企業局参事官
     三島良績   東京大学教授
     向坊 隆   東京大学教授
     山田太三郎  工業技術院電気試験所電力部長
     山本広三郎  富士電機製造(株)原子力部長
     横須賀正寿  三菱原子力工業(株)技術部長兼研究所副長
     吉岡俊男   日本原子力発電(株)取締役技術部長
     吉村国士   日本原子力事業(株)調査開発部長
     脇坂清一   東京電力(株)技術部次長
 幹事 本永秀彦   原子力局研究振興課長
     福永 博    〃  政策課
     川島芳郎    〃  調査課
     元田謙     〃  核燃料課
     牧村信之    〃  原子力開発機関監理官付
     長柄喜一郎   〃     〃
     一文字正三   〃  研究振興課
     間野 忠    〃    〃
参加者 明比道夫   富士電機製造(株)
     穴原良治      〃
     大内信平   日本原子力研究所
     大谷浩洋   (株)日立製作所
     小田島宏三  東京電力(株)
     亀田晃之   日本原子力事業(株)
     川人武樹   東京電力(株)
     河原誠二   日本原子力研究所
     佐々木史郎  東京電力(株)
     沢井 定   日本原子力研究所
     塩官広海   日本原子力事業(株)
     杉本栄三   日本原子力研究所
     武井満男      〃
     竹越 伊   工業技術院電気試験所
     田中秀夫   日本原子力事業(株)
     中村熈栄   日本原子力研究所
     中村康治   原子燃料公社
     浜田博也  (株)明電舎
     日比栄一   日本原子力事業(株)
     藤原良治   電源開発(株)
     松木佐登志 (株)日立製作所
     村上昌俊   日本原子力研究所
     望月士郎   三菱原子力工業(株)
     森島国雄   (株)日立製作所
     湯原 豁   日本原子力発電(株)

 I 国産動力炉開発の意義と目標

1.動力炉の開発に限らず、一般に長期にわたり多数の人材と多額の費用とを投ずべき研究開発計画を設定するときには、はじめにその計画の有する意義を十分に検討し、目標を明確に定めておくことが、非常に大切である。そうでないと、計画の中途で目標を見失い、往々にして失敗のもとになる。この意味で、本部会における審議の当初から、動力炉開発の意義ないし国産動力炉の性格範囲について、いろいろな視角から論義が交わされた。

2.わが国における動力炉の研究開発計画の進め方については原子力委員会が昭和36年2月に決定した原子力開発利用長期計画によれば、

(1)外国技術の導入による国内技術基盤の早期造成

(2)国内における創意工夫の育成による技術水準の総合的引上げという2本の柱が中心になっている。

 これを同計画の原子力発電の開発計画にてらせば、(1)は、現在日本原子力発電(株)が東海村に建設中の発電1号炉や、先般敦賀地区に敷地の決定を見た同社の発電2号炉の例に見るように、海外諸国において既に高度に開発され、実際の運転経験によってその実用性が相当程度証明されたものについて、昭和36年に始まる前期10年間において、具体的に進められることになっているが、(2)については、長期計画の後期における発展段階としての将来の姿が展望されているにとどまる。すなわち後期10年間に設置される発電炉の型式の推定はきわめて困難であることを認めつつも、一応ガス冷却型と軽水冷却型が主な対象となり、これに今後新たに開発される型式の発電炉が若干は建設されるであろうとされている。
 これから見て第1の柱は民間企業との結びつきが濃厚であるのに対し、第2の柱はむしろ官民の研究機関との関連が深いといえるであろう。

3.本部会の審議の対象とすべき国産動力炉とは、どのような性格をもったものであろうか、あるいはあるべきであろうか。これに対する本部会の了解は前記2本の柱のうち後者、換言すれば長期計画の後期10年間において建設されると見られる新たに開発される型式の発電炉を対象として、創意工夫の育成と技術水準の向上をはかるということであった。
 いま長期計画に示された原子炉研究開発プログラムを振りかえって見ると、将来実用規模の動力炉にまで発展する見通しのあるものとして

(イ)重水減速炉
(ロ)半均質炉(ガス冷却およびBi冷却)
(ハ)高速増殖炉

の3種が考えられている(図参照)。そして特に半均質炉に対しては、日本原子力研究所を中心として、基礎と応用の両部門を縦横両方面に総合した共同研究体制を確立し、研究開発の目標を早期に達成するために国の計画としてのプロジェクト設定が示されたのである。しかるにこのプロジェクトはその後必ずしも予期したとおりの進展を見せていない実情にある。
 一方高速増殖炉に関しては、当時さし当っては炉の開発自体に対するプロジェクト化は考えられておらず、別途プルトニウム燃料の研究開発について日本原子力研究所と原子燃料公社の共同のプロジェクト研究が定められているだけである。

4.しかしながら現在時点において本部会に与えられた諮問事項である「国産動力炉開発のための計画」について考えてみるならば、とるべき途は大きくわけて二つになるであろう。すなわち一つは、プルトニウム燃料開発のプロジェクトと併行して高速増殖炉の技術開発をプロジェクト化する方向であり、他は、新しい型の熱中性子転換炉の技術開発をプロジェクト化する方向である。

原子炉研究開発プログラム

5.ところで、本部会の設置理由(昭和37年8月15日原子力委員会決定)によれば、今回設定されるべき国産動力炉開発計画に期待されていることは二つある。
 すなわち

(イ)これまでに培養された国内技術を基盤として、わが国の特殊事情のもとに、将来性の期待出来る型式の動力炉を自からの手で、基礎から建設まで一貫して開発すること。

(ロ)わが国の原子力開発の自主性ならびに技術的水準をさらに向上させ、その総合的開発能力を一段と強化育成すること。

である。
 この二つの期待は、互いに関連するものではあるがあえてこれを

(1)将来商業ベースにおいて実用化される確率の高い国産動力炉を開発することに重点をおく立場と

(2)開発の自主性(これはある意味で創意工夫の育成につながる)に力点をおいて、国内技術水準の向上と研究体制の強化をはかる面を重視する場。

 とに分けるならば、そのいずれをとるかによって、計画の内容や実施の手順がかなり異なったものになる。
 前者の立場をとれば、動力炉の大容量化に伴う工学的技術開発、経済性の評価追求が計画遂行に当っての重要課題となり、また後者の立場をとれば、創意工夫を尊重しつつ比較的小規模な理学的実験的研究が計画の中心として指向されるであろう。
 本部会においては、これらの点について、官民、産学それぞれの立場から意見がひれきされたが、今回の国産動力炉開発計画は、実用炉の開発を第一義的な目的とし、その目標に向ってわが国の原子力開発能力を総合的に結集すべきであり、技術水準の向上や研究体制の強化等は計画遂行に伴って得られる効果として期待すべきものであるという見解が現在のところ多数を占めている。

6.そこで仮りにこのような見解が是認されたとして、前記の二つの途のいずれか、すなわち高速中性子増殖炉か熱中性子転換炉かを考えて見る。
 高速増殖炉は、昭和37年11月に公表された「米国大統領へのAEC報告」を引用するまでもなく、人類が必要とするエネルギー資源を半ば永久的に確保するという意味で原子力利用の本命ともいうべき動力炉であって、特にエネルギー資源に恵まれていないわが国としては、最も将来性を期待すべき型式のものである。しかしながら、高速増殖炉の開発をわが国が今直ちに自からの手で基礎から建設まで一貫して始め、前提条件に示された期間に完成し得るかというと、それは非常に困難である。またこれまでに培養されたこの方面の国内技術の基盤も弱いと言わざるを得ない。
 このような考えから、本部会においては、今回の国産動力開発計画の対象から高速中性子増殖炉を一応除外するということにほぼ意見の一致をみた。しかしこれは決して高速増殖炉開発を軽視したからではなく、むしろ逆にその緊要性を痛感するが故に、本部会に示された審議の前提条件とは異なる条件のもとに、別途のプロジェクトとして、早急かつ強力に推進されることを期待するものである。

7.このようにして今回の動力炉開発計画の対象としては、熱中性子転換炉が残ることになるが、これは大きく分けて次の二つになる。

(イ)既成型の転換炉の改良型

(ロ)まだ実験開発段階にある新型転換炉

 前者はたとえば英国のGCRの改良型、米国の軽水炉の高温化を狙う核過熱炉などである。これらはそれぞれの国で実用の域に達した既成転換炉の基盤の上に、既にかなり高い水準にまで開発が進められており、余り遠くない将来に商業的なルートで実現に移されると思われる。そうだとすれば、わが国の国産増殖炉開発計画の対象領域は、上記(ロ)のカテゴリに属する新型熱中性子転換炉ということになる。

 II 開発計画設定における基本的問題

8.新型熱中性子転換炉と一口に称しても、背景となる設計理念や境界条件によって多種多様な炉型が考えられる。したがって、炉型選定の技術的細目比較を行なう以前に、選択基準をある程度限定すべき基本路線があらかじめ与えられることが望ましい。しかしながら、それは必然的にわが国の原子力政策に関連し、依存するものであるから、本部会の審議のらち外の問題だとも考えられる。にもかかわらず、本部会は、審議を進める上に必要な範囲で計画設定の基本路線につき、以下に述べるような考案を行なった。

9.第1は核燃料政策に関する問題である。すなわちわが国の将来における核燃料の供給源を安定に確保するという見地から、天然ウラン、トリウム、濃縮ウランおよびプルトニウムの入手をどのように判断し、これらの間の燃料サイクルの姿をどのように予測するかということである。
 将来日本の原子力発電の規模が相当大きくなった場合、核燃料の所要量の大部分は、これを海外からの輸入に依存せざるを得ないであろうが、出来れば自国産の核燃料をなるべく利用すべきである。その点でわが国はトリウム資源に恵まれておらず、トリウム燃料開発技術も国内でほとんど培養されていない。一方濃縮ウランは、これを日本で大量に生産し得る可能性はまず考えられず、海外からの輸入についても制約がある。ただし、低濃縮ウランの海外からの入手は、将来かなりの期待をもち得ると予想され、また「大統領へのAEC報告」においては、海外友好諸国に対する委託濃縮という途が将来の問題として示唆されている。
 天然ウランは国産供給源の見通しもある程度あり、またその開発利用のための国内技術も相当進められつつある。また海外からの天然ウラン輸入については、将来これを国際自由市場において入手する可能性が十分考えられる。
 このような考察から、本部会は、新型熱中性子転換炉の選定に際して天然ウランまたは低濃縮ウランを使用するという基本線を守るのが適当であると考える。

10.以上の結果は、わが国の将来の燃料サイクルにおいて、トリウム−ウラン233系よりもまず、ウラン−プルトニウム系をとるということになる。そこで次にわが国のプルトニウム政策如何という問題に直面するわけであるが、これについては、本部会は、昨年秋、米国に派遣されたプルトニウム調査団の調査に特に大きな関心をもち、その報告書から教えられるところが多かった。
 プルトニウムが将来高速増殖炉の燃料として貴重なものであることはいうまでもないが、高速増殖炉の実用発電所が運転を開始するのは少なくとも今後15年ないし20年を要すると見られるので、その間において既成転換炉の使用済燃料中に含まれるプルトニウムを何等かの方法で処置しなければならない。もとより、プルトニウムは高速増殖炉に使用するのが最も効率的であるがそれまでの間においては既成型動力炉でも使用し、また新型転換炉でも利用することを検討する必要もあろう。また、高速増殖炉が一応完成され、運転を開始しても、種々の制約から倍増時間をあまり短かくすることは困難であると予想される。したがって、増殖炉用のプルトニウムを製造する役目を兼ねた熱中性子転換炉が高速増殖炉と並行して建設され、運転される期間が相当長い間存在するとも考えられる。そうだとすれば、今後、開発されるべき新しい型の熱中性子転換炉は、なるべくプルトニウム転換比の高い炉型であることが望ましい。この考え方は、とりもなおさず、「米国大統領へのAEC報告」などに見られる、いわゆる二重経済の思想である。しかしながら、一方において天然ウランからスタートして使用済燃料の価値をゼロとしても、引合うまで燃焼率をあげようとする方式や、あるいは、使用済燃料をそのまま適当の時期まで貯蔵する方式もあり得るので、これらについても日本の国情に照して、検討の余地がないではない。

11.しかしながら、仮にプルトニウムの製造を兼ねた新しい型の転換炉と高速炉との組合せによって、プルトニウム燃料の将来の需給がバランスするとしても、そこに経済性の裏付けがなければ実用にはならない。ところが、これから開発され、10数年後に実用される新しい型の動力炉を用いる原子力発電所の経済性すなわち、在来の汽力発電所や既成動力炉を用いる原子力発電所に対して経済的に太刀打ちできるかどうかを評価し、判定することは、現在の時点では不確定要素が余りにも多いので如何に検討を加えてもほとんど不可能に近い。ただこの場合、原子力発電に特有の経済特性からして、資本費の低減に重大な関係をもつ発電ユニットの規模が特に重要な意義を有することは疑いない。化石燃料を使用する在来汽力発電所で現在計画中のもののユニット容量は、わが国ですでに500MW、米国では1,000MWしかも将来に向って更に大規模化が進められる形勢にある。また既成転換炉を用いる原子力発電所についても、米英共にすでに500MWないし700MWの容量で設計されている。したがって、今後10〜15年後の実用化を目指して新たに開発を計画する熱中性子転換炉は、これらと経済的に対抗しえるために少なくとも1基1,000〜1,500MWの容量を前提としなければならない。そして、このユニット容量の大規模化とともに、高温高圧の蒸気を発生しうる動力炉を要求する傾向となろう。

12. 上記のユニット容量の大規模化は、また発送電系統の構成上の要請からも必至である。すなわちわが国における電力需用の急速な上昇傾向から見て、将来の電力系統のピーク時総電力は今後10年を出でずして優に1,000MWのユニット容量をその系統構成要素として選定しうるほどに拡大されるであろう。他方発電所の立地はますます困難の度を加えつつある。したがって一つの発電所への発電力の集中は避けられない傾向にある。この事はまた国産動力炉開発計画の実施手帳に大きな影響を及ぼす。すなわち新型転換炉が長期計画の後期10年において、仮りに1,000MWの規模において実用化されることを期待するならば、従来の一般工業設備開発に関するスケールアップの経験的法則にかんがみ、少なくとも出力200MWの実証目的の発電所を数年間運転すべきであり、またこの実証目的の原子力発電所を設計し建設するためには、電気出力数万kWの原型炉を長期計画の前期10年中に開発する必要がある。そうなると、本部会に与えられた審議の前線条件の中に示されている実験炉の段階を踏むだけの時間的余裕が乏しくなる。このような考慮もあって、本部会の審議においても、実験炉(電気出力数千kW)の建設による研究の段階はむしろ省略して直ちに原型炉(電気出力数万kW)に手をつけるべきであるという意見がかなり有力であった。しかし、このような手順をとり得るためには、選定されるべき炉型式も自から限定されて来るであろう。

 III 炉型式の選定

13. 今回の「国産動力炉開発計画」の対象を選択するに当って考慮すべき全般的な枠について、本部会においていろいろな角度から検討した概要を以上に述べた。
 それは必ずしもまだ結論に到達したとはいえないが、開発すべき炉型式とその規模の選定の範囲はこれによってかなりせばめることができた。すなわち炉型式選定に関する予備的な意見交換の結果、一応

(イ)高速増殖炉の開発は別途のプロジェクト設定を期待する。

(ロ)既成転換炉の改良型の開発は先進国における進歩状況に注目する。

(ハ)有機材減速炉は、現在わが国に技術的な基盤が相当あるとは言い難く、また、発電炉としての性能改善に将来解決すべき問題が多いと予想されるので除外するということにし、残された重水減速型、ガス冷却型およびナトリウム冷却型についてさらに、作業班を設けて詳細な調査を行ない、それを本部会の審議にかけた。

14. しかしながら、上記3種の類別は、いわば便宜的な大わけであって、減速材や冷却材の組合せを変えただけでも、いろいろの新しい炉型式が考えられ、それらを比較対照した場合の長所短所について多くの議論をなし得る。その主なものとして、例えば次のような意見が出された。

(1)ナトリウム冷却型は、高速増殖炉の開発に必要な液体金属冷却技術の修得に役立つ点で魅力があるが、これは別途高速増殖炉の開発プロジェクトが推進されるならば、その中に含ませ得るので、強いて強調する必要はあるまい。

(2)ガス冷却型は、(イ)金属被覆燃料を用い、黒鉛等の固体減速材を使用するものと、(ロ)燃料炭化物を黒鉛と混合した燃料体を黒鉛さやの中に封入した燃料要素を用い、黒鉛を減速材とするものとに大別されるが、前者のうち、magnox型は、ほぼ実用化の段階に達した既成炉型で、またCO2ガスで冷却する英国のAGRもその改良型と見られるから、今回の計画の対象とする意義はうすい。しかし、その他のものの中には熱効率向上など、動力炉として相当高性能化の可能性のあるものもあり、また、時期的に見て比較的速やかに原型炉開発に進み得る利点もあるからあながち捨てさるべきではないが、冷却材としてのヘリウムの人手や漏洩に問題を生ずる懸念もある。
 一方、(ロ)の金属被覆燃料を用いない半均質型のガス冷却炉は、さらに高温化を狙った進歩した炉型であるが、もし、それが高濃縮ウランを必要とし、あるいはトリウム−ウラン233系の燃料サイクルを前提とするならば、わが国のとるべき燃料政策の観点から一考を要する。もちろん、これを数パーセント程度の濃縮ウランにかえることも可能であるが、その場合でも金属被覆を用いない炭化物燃料体の開発には相当の年月を要すると思われ、直ちに原型炉規模の炉に手をつけることは困難であろう。

(3)重水減速型の中で、冷却材に重水を用いるCANDU型は、すでに、カナダでかなり開発が進められており、むしろ既成型に属すると見られるので、今回の計画の対象として取り上げる意義は少ない。
 これ以外の冷却材、すなわち、ガス、軽水、水蒸気、有機材などを用いる新型重水炉が、今回の計画の対象として浮んでくるが、その概念化には建設単価の引下げや蒸汽条件の改善などの可能性について、さらに最適化の作業を進めて見ないと判定は困難である。ただ重水減速型は上に述べたナトリウム冷却型およびガス冷却型と異なり、天然ウランを燃料として使用しえる唯一つの型式であることは見落し得ない点であるが、一方、純技術的観点を離れ、重水の海外からの輸入と国内における生産という経済的問題があることを忘れてはならない。
 なお、部会として重水減速型を第1候補に挙げるまでには至らなかったが、これを計画の対象として選定することについて日本原子力研究所側その他一部の専門委員から強い支持意見が述べられたことを付記しておく。

15. 以上によって当部会の炉型についての考え方の大体の方向は明らかであると思うが、しかしながら、今直ちに特定の炉型を選定することは時機尚早で、少なくとも昭和38年度においては、日本原子力研究所の中に開発準備の組織を設け、外部からの参加協力を得て、概念設計を行い、その上で「国産動力炉開発計画」の細目案を作成することが望ましい。その際には、当部会が審議した計画期間、燃料政策、実用化への見通し等の基本的事項を重視して予め作業の進め方を明らかにすべきである。

 IV 開発体制、開発スケジュールおよび経費

16. 本部会に諮問された審議事項の(2)は、「開発体制と分担、開発スケジュールおよび経費の見積り等、開発のための基本的事項」となっている。本部会はこの問題を審議するに当って、作業班を設け、一応の調査を行なった。しかしながら、前述のように選定すべき炉型についても、まだ結論を得るに至っていない現在、今後10年以上にわたる長期の計画の実施予定を今全部きめてしまうことには少なからぬ無理がある。むしろ、最初の数年間についてはなるべく具体的に、将来については相当大きな弾力性をもたせて考えることが重要である。

17. このような考えのもとに、国産動力炉開発計画のスケジュールを考えてみると、まず、(イ)原型炉(電気出力30〜50MW)の開発プロジェクトを策定し、所要の研究を実施しつつ、設計、製作、建設、試験および運転の各過程を行なう第1段階と、ついで、(ロ)上記の原型炉開発プロジェクトの成績を評価し、その成果をとり入れて、更にこれを実用大型炉に結びつけるためにデモンストレーション炉(電気出力150〜200MW)を開発する過程からなる第2段階とに分けることができるであろう。

18. 上記の第1段階は、即刻にもこれに着手することが望ましい。すなわち、差し当って昭和38年度から日本原子力研究所内に原型炉開発の準備ならびにこれが推進の母体となる組織(以下動力炉開発室と仮称する。)を設け本部会のこれまでの審議を基盤として概念設計の作業を開始する。この作業にはなるべく外部諸機関(特に民間製造業者および電気事業者)から適格有能な人材を出向によって参加させ、あるいは必要に応じて作業の一部を契約によって外部諸機関に委託する。この作業の主たる目的は、設計研究の過程を通じて各種概念設計の第一次比較検討を行ない、国産動力炉開発計画の対象とすべき炉型を選定することにあり、おそらく約1ヵ年の期間を必要とすると予想される。したがって、この期間中作業実施の衝に直接あたる動力炉開発室とは別に、作業の方向づけに常に関与し、更に作業の結果にもとづく原型炉開発計画の細目立案を検討するため、「原型炉開発計画委員会」(仮称、以下「計画委員会」と称する。)を設置することが望ましい。この計画委員会は専門家のグループであって、日本原子力研究所内部職員のほか、原子燃料公社、学界、電力会社製造業者、関係官庁からも委員を選出して構成するものとし、日本原子力研究所理事長の諮問機関とするものとするが、それは単なる形式的の諮問機関に終わることなく、計画委員会における討議が十分活発に行なわれ、またその審議の結果が出来るだけ実施に移されるべく努力されるよう運営されることが肝要である。

19. 今回の「国産動力炉開発計画」は、いうもでもなく、国が原子力政策の一環として、国家資金により実施するものである。それ故、もしも、差当って既存の原子力開発機関を対象とするということならば、上記のように日本原子力研究所を中心とし、これに他機関が参加協力するという体制で出発するのが適当な行き方である。しかし、国の計画である以上、日本原子力研究所の内部組織である動力炉開発室によって作業され、理事長の諮問機関である計画委員会の審議を経た開発計画案は、これをさらに国の機関である原子力委員会において正式に決定し、実施に移されるべきである。
 本計画の具体的実施にあたっては、既成動力炉の導入開発促進やその国産化、高速増殖炉の研究開発計画等を含む動力炉開発全般について、ウェイトの置き方や緩急順序の調整など範囲の広い総合的検討を、わが国の限られた経済力とマンパワーの下で、また、国家財政との見合いにおいて進めるが肝要である。

20. 昭和39年度以降は、選定された炉型につき、決定された計画細目に従って、原型炉の詳細設計に入り、かたわら必要な研究開発を実施することになる。この段階に対して日本原子力研究所としては、前記の開発室を拡充発展させて、開発実施組織を確立すると共に理事長の任命する開発実施の責任者に相当の権限を付与して、計画の促進を計る必要があろう。
 一方、これに対応して、前記の日本原子力研究所理事長の諮問機関である計画委員会も多少その性格と構成を変更し、計画の実施について外部の諸機関の総力を結集することを目的として、運営の円滑をはかるための連絡機関とするのが適当である。

21. 以上第1段階の初期における開発のスケジュールとその体制について、やや具体的な構想を、本部会における審議の途上発表された各委員の意見を総合して述べたが、その後の進め方は、計画の進展に即してそれぞれ適当な時期にとりきめるよう、弾力的に考えた方がよいと思料され、現在あまり細目まで固定してきめることは望ましくない。そのような考えから、はたまた審議の時間的制約から本部会に諮問された開発計画に要する経費および人員については、遺憾ながら数量的な答を示しえる段階に達していない。ただ諸外国の類似の計画から推察して、もし、出力数万キロワットの原型炉から出発するとすれば、デモンストレーション炉は別としても、少なくとも総経費百億円前後、さらに開発が困難な場合には、これを上まわることを予期せねばなるまい。

22. 以上のほか、たとえば研究開発に伴う特許権の帰属、外国特許と技術交流の限界など、本部会の審議の話題には上ったが、未解決のまま残されている問題がまだ少なからずある。ただ、最後に民間側委員から次の2点がかなり強く要望された事を付言しておく。

(イ)今回の「国産動力炉開発計画」に必要な経費は、全額を国庫で負担し、協力の名のもとに、参加民間会社に有形無形の経済的負担をかけぬよう配慮して欲しい。

(ロ)民間への研究開発委託は、合理的な研究契約の下に為さるべきで、その方式、制度を確立してほしい。このことは、これを裏から言えば、計画実施の責任を負う日本原子力研究所の予算計上とその運用手続において十分配慮される必要がある。