原子力局

ラジオ・アイソトープ工業利用実態調査結果



   目次

1 緒  言

(1)調査の目的
(2)調査の範囲
(3)調査の方法
(4)回収の状況

2 各  論

(1)使用の概況

(イ)使用者の分布、企業規模
(ロ)RIの用途と使用量
(ハ)RI関係の投下資金
(ニ)RI利用発展の模様

(2)RI利用の実態

(イ)ゲージング

 a レベル計
 b 厚み計
 c 真空計
 d 密度計
 e その他

(ロ)ラジオ・グラフィー
(ハ)トレーサー
(ニ)その他

(3)研究開発

(イ)研究投資
(ロ)研究開発の概要
(ハ)特許

(4)RI関係従事者

(イ)RI関係従事者
(ロ)放射線取扱主任有資格者
(ハ)養成訓練

(5)経済効果

(イ)ゲージングの経済効果
(ロ)ラジオ・グラフイーの経済効果
(ハ)トレーサーの経済効果

3 RI利用の理由と問題点

(1)RI利用の理由
(2)RI利用上の問題点および希望意見

1 緒言

 わが国における原子力開発は昭和30年頃着手されたが、RIの利用はこれより早く、昭和25年にRIの輪入が開始され、当初におけるRIの研究への利用から、最近においては、工場の生産工程にまで広く利用され、大いにその効果を挙げている。昭和37年には、国産Rlの販売も開始され、本格的なRI製造工場の建設も始められたので、RIの開発利用はさらに飛躍的発展を期待される段階に至った。
 この時にあたり、RI利用の発展に備えて、RI利用の実態を十分把握するため、各種の基礎資料を収集することが必要となり、37年度においてはRI工業利用実態調査を行なうこととした。

(1)調査の目的
 この調査はわが国における各企業のRI工業利用の現状を把握するとともに、今後のRI工業利用の開発方針の策定等に資することを目的としたものである。

(2)調査の範囲
 調査対象は、一般生産会社等におけるRI工業利用(研究および生産)の問題に限定し、現在RIを使用中のものおよび使用の可能性がある会社、計360社とした。
 この調査においては、加速器、X線発生装置に関するものは除外した。
 調査項目は一般調査(RI全般)と特殊調査(ゲージング、ラジオ・グラフイー等)とに分け、利用の実態と経済効果を中心に調査した。

(3)調査の方法
 調査の方法は、アンケート方式によるメール・サーベイの方法を主として行なったが、調査表の上に十分表わせないこともあり、集計上の問題点もあると考えられるので、現場における聞き取り調査も一部併用した。
 また、調査表の配付に先立ち、東京、名古屋、大阪において、記入要領説明会を開催して調査の完全を期した。
 調査時点は昭和37年3月31日とした。

(4)回収の状況
 調査表の返送期限を8月15日とし、その後もさらに回収の徹底をすすめたところ、調査表を配布した360社中317社から回答があり、88%という良好な回収率を得た。


2 各論

(1)使用の概況
 本調査によるRI利用会社数は202、関係事業所数は318で、同時点における民間RI使用認可事業所数363の88%であった。また、今後引続き、あるいは新規にRI使用を予定するものは247社であった。(表1参照)

(イ)使用者の分布、企業規模

(表2)によりRI使用会社数および事業所数を業種別にみると、会社数は化学工業、鉄鋼業、電気機械業、紙・パルプ業、機械業、非鉄金属業、繊維業等に多い。

 RI使用事業所数は、巨大企業においても1社当り1~2という場合が圧倒的に多く、この限りにおいてはRIは未だ試用段階を脱していないとも言える。

 企業規模別にみたRI使用の状況は、(図1)にみられるとおり、資本金1~50億円未満の企業がその半数以上を占め、1億円未満の企業はきわめて少ない。

(ロ)RIの用途と使用量

 RIの用途別利用会社数は、(表3)に見られるごとく、ゲージング利用が圧倒的に多く、202社の約半分がこれを行なっており、ついでラジオ・グラフィー、トレーサー利用、放射線化学の順になっている。

 業種別にその用途をみると、紙・パルプ業、電力業、ゴム製品業においては、ゲージングに用いられまた鉄鋼業、機械業、造船造機業などでは、ラジオ・グラフィーのウェイトが高い。

 RIの核種別使用量とそれを使用している会社数を示したものが、(図2)、(図3)である。これによれば、ゲージング、ラジオ・グラフィー、放射線化学に用いられる密封線源が、主にトレーサーに用いられる開放線源に比して圧倒的に多い。

表1 回答および使用状況

表2 Rl使用会社の業種別内訳

表3 RI利用の用途


図1 企業規模

 密封線源の中でも60Coの使用が最も多く、開放線源では、逆に少ない。


図2 RI使用量


図3 RI使用量

(ハ) RI関係の投下資金

(表4)は、現在までの原子力関係およびRI関係の資金投下の状況を示したものである。この結果からみると、RIを含む原子力全般の総投資額は約390億円であるが、このうちRI関係のそれは合計57億円でその比率は約15%である。
 原子力全般に対してRI関係の投資の割合が大きい業種は、紙・パルプ業、ゴム製品業・その他で、原子炉開発関係に緑の深い業種である原子力専業、電気機械業、非鉄金属業、機械業、電力業での比率はきわめて低い。
 RI関係投資額中、研究投資と生産利用投資との割合は、2:1と研究にウェイトが大きいが、今後5ヵ年の予想ではほぼ同等と見られている。
 生産利用投資が研究投資以上に大きい業種は、紙・パルプ業、鉄鋼業、機械業、化学工業等で、これらにおいては厚み計、レベル計等のゲージング利用やラジオ・グラフィー利用が生産工程によく組み込まれていることを示している。

(ニ) RI利用発展の模様
 (図4)は、RI利用会社の推移を、また(図5)に設備機器の購入時期を示したもので、RIの利用の順調な伸びを示しているが、32年および35年に設備機器の購入台数が減少しているが、32年頃においては景気の影響があったのではないかと思われる。

(2)RI利用の実態
 RIが利用されている分野は、(表3)の如く、ゲージングが104社と圧倒的に多く、ついで、ラジオ・グラフィー64社、トレーサー58社、放射線化学32社とつづいている。
 このうち、トレーサーと放射線化学はいずれも工程解析や純研究用で、その使用は一時的もしくは断続的であるが、恒久的に製造工程や現場に使用されているのは、ゲージングとラジオ・グラフィーである。(表5)にみるとおり、照射装置は31台、RI実験室は54、機器は545台に達している。

表4 投下資金

(イ)ゲージング
 RIのゲージング利用は、レベル計、厚み計、密度計、雪量計、真空計、水分計等からなり、前者は、RIから出る放射線の物質への吸収特性を応用したものであり、真空計は放射線の電離能を、水分計は中性子散乱を利用したものである。
 使用される核種は、計測器の種類によって異なり、レベル計は60Co、137Csが大部分を占め、厚み計は、90Sr、204Tl、147Pmが多く、密度計は137Cs、60Co等、真空計は226Ra、水分計はRa-Beとなっている。


図4 RI使用会社の推移

図5 RI関係設備機器の購入時期

表5 使用設備機器

(a)レベル計
 レベル計は液体、粒体、スラリー等のレベルを測定するため装置外部あるいは内部においた線源からの放射線の強さが流体のレベルの移動によって変わることを応用したものである。業種別にみると化学工業の56台、繊維業42台、紙・パルプ業26台等のように装置工業によく使用されている。
 化学工業では、従来、不可能であった高温高圧の反応装置内の液面や、ガス発生炉中のコークス・レベルの測定に、繊維業では高分子重合物の溶融液のレベルの測定に、また、紙・パルプ業ではティップやこれを蒸解してきたパルプのレベル測定、また、鉄鋼業では、キューポラの内容物のレベル測定等に利用されている。
 使用している核種は60Co、137Csのようにエネルギーの大きい放射線を出すものがほとんど占めている。

(b)厚み計
 厚み計は全部で127台であるが、鉄鋼業の37台、紙・パルプ業の20台、化学工業の13台、電気機械業の12台、ゴム製品業の11台などの順に多く使用されている。
 鉄鋼業では、鋼板等の厚みの測定に紙・パルプ業においては、各種の紙の听畳測定に、また、化学工業やゴム製品業において、プラスティック、フィルム、シート、レザーやゴムシートの測定等に使用されている。このように厚み計は従来きわめて困難であったシート状物体の連続測定を可能ならしめ、大いにその効果を挙げている。なお核種としては鋼板やゴムシートのような厚物には90Srが、紙やプラスティック、フィルム、シートのような薄物には204Tl、147Pmなどが使用されている。

(c)真空計
 226Raのα線の電離能を利用したもので、34台全部が電気機械業、鉄鋼業、機械業など重工業部門の鋳造用真空溶解炉や放電管の真空度測定などに利用されている。これはその操作が簡単で、しかもその記録値を連続的に送ることができ、制御に好適であるという利点がある。

(d)密度計
 28台中ほとんどが137Cs、60Coの密度計である。非鉄金属業(6台)では、重液選鉱における重液密度測定に、電力業(6台)においては、貯炭量の推定のためのかさ比重の測定、ダム建設のための地盤の密度測定に、また建設業(5台)では、送泥管中の合泥量や地盤の密度測定に利用されている。

(e)その他
10台あるRa-Beの中性子を利用した水分計は、それぞれ地中の水分、石炭中の水分、鉄鋼業における焼結原料中の水分測定などに使用されている。なお、電力業において、水測地の積雪量を測定するのには、従来、測定員がその都度現場に行ってスノー・サンプラーによって測定していたが、この方法に代わって、60Coの雪量計が使用され、遠隔地から、また自動的に記録できるようになった。現在6台が稼働している。

(ロ)ラジオ・グラフィー
 ラジオ・グラフィーに利用しているのは64社で、主として金属素材製品の非破壊検査に使用されるので、重工業においてその使用が盛んである。すなわち、鉄鋼業が23社、39台、機械業が10社、38台、造船造機業が9社、27台、電気機械業が6社、32台等と使用している。
 (表6)にみられるとおり、使用される核種は60Co135台、137Cs32台とエネルギーの大きい線源が使用されている。また可搬型と定置型があるが、手軽に使用できる可搬型が全体の3/4を占めている。使用される対象は、鉄鋼素材、鋼管、バルブ、ポンプ、その他複雑な形状の鉄鋼製品、溶接箇所等である。
 ラジオ・グラフィーの代替法としては超音波やX線が広く使用されているが、欠陥の種類が判定し難いとか、厚物や複雑な形状のものの検査が困難である等の欠点がある。これに対して、RIを利用する方法は小型であり、また同時に多数の試料の検査が可能である等の長所があるため次第に普及しつつある。

(ハ)トレーサー
 RIをトレーサーに利用しているのは58社で、電気機械業、鉄鋼業、化学工業、非鉄金属業等において、各種のRI約40種類が使用されている。
 トレーサー利用の分野を大別すると、

① 流体、固体、またはイオンの移動の追跡

② 反応や生体の代謝機構の解明

③ 摩耗および侵蝕の試験

④ 分析への応用

⑤ 気密試験

等となる。
 ゲージングやラジオ・グラフィーにおけるRIの利用は生産工程に組入れられ恒久的になっているのに反して、トレーサーは、生産工程の改善など研究的にまた必要に応じて一時的に使用されるものが大部分であるというように、使用上大きなちがいがある。

(ニ) その他
 照射装置を用いてRIを放射線化学に利用しているのが19社(照射装置は25台)あるが、その内訳は繊維業8社(10台)、原子力専業3社(7台)、化学工業3社(3台)等となっており、繊維のグラフト重合、高分子、低分子の合成等の研究に使用されている。
 この他、計測器の較正用等にRIを利用している会社が32社ある。

(3)研究開発

(イ)研究投資
(表4)のとおり、97社がRI関係の研究に投資

表6 ラジオ・グラフィー利用状況

表7 研究開発の状況

している。投資額は全体で3,886百万円で、うち原子力専業1,474百万円(38%)で最も多く、以下電気機械業928百万円(24%)、繊維業388百万円(10%)、化学工業339百万円(9%)、造船造機業199百万円(5%)等が多い。
 投資額の大きいものと主として、60Co照射施設やトレーサー実験室建設に要したものである。

(ロ)研究開発の概要
 202社中127社が何らかのRI関係の研究開発を行なっている。
 (表7)は分野別に研究開発の状況を示したもので、トレーサー利用の研究は58社、ラジオ・グラフィーの研究開発は34社、放射線化学は32社、ゲージングの実用化研究は29社と多く、機器の試作、開発もまた22社で行なわれている。
 トレーサーの利用は、すでに述べたごとく、研究開発の目的に使用されている。ラジオ・グラフィーは、その実用化にあたってX線とは種々異なった条件で使用することが要求されるので、その適用性についての予備試験が必要となり、鉄鋼業、機械業等の使用者が行なっている。
 ゲージング用機器の実用化研究は、その大部分が、市販の機器を購入して、それを製造工程に組み入れた際の諸条件の決定、確認を行なうためのものである。
 各種放射線機器の試作、研究は電気機械業と精密機器業において盛んに行なわれており、政府の研究助成金もこの分野に多く支出されている。

 その他のものとしては、標識化合物の製造研究や廃棄物処理、放射線遮蔽、螢光染料等の研究が行なわれている。

(ハ) 特許
 RI関係特許(実用新案をふくむ)は、44社から合計576件の出願があり、そのうち187件が公告されている。
 業種別にみると、放射線機器の試作研究、またその生産を盛んに行なっている電気機械業、精密機器業や、また、放射線化学の活発な研究を行なっている原子力専業、繊維業、化学工業からの出願が非常に多い。

(4)Rl関係従事者

(イ)RI関係従事者
 RI関係従事者数は、約3,460名と推定される。従って、1社当りの従事者数は17.3名であり、1事業所当りのそれは10.8名である。
 過半数の会社が1~10名の従事者を有しており、80名以上の従事者を有する会社は6社である。
 (図6)に見られるように、電気機械業、鉄鋼業化学工業、精密機器業、紙・パルプ業等の業種に多くの従事者がいる。
 なお、研究従事者は、約800名で、全従事者の23%である。

(ロ) 放射線取扱主任有資格者
 放射線を取扱う事業所は、法律によりRIの使用量、使用条件によって、第1種または、第2種の放射線取扱主任者を選任することになっているが、いずれも国家試験による資格審査が行なわれている。
 第1種放射線取扱主任有資格者は計453名、第2種のそれは計126名で、合計579名に及んでいる。
 第1種は、電気機械業115名、化学工業55名、非鉄金属業45名、繊維業、原子力専業の各40名等大線源やトレーサーを使用している業種に多く、また第2種は、電気機械業28名、鉄鋼業22名、紙・パルプ業13名、化学工業11名等ラジオ・グラフィーやゲージングを使用する業種が多くなってきている。


図6 RI関係従事者の状況


(ハ)養成訓練
 (表8)は、各種のRI関係研修機関での研修状況を示したもので、RI研修所の基礎課程がRI関係技術者の養成に大きな役割を果たしている。また社外のRI関係短期講習会受講者は相当多いが、これは日本原子力産業会議、日本放射性同位元素協会その他の関係団体が開講している5日以上の各種講習会を対象にしたもので数多く開催されている。
 なお以上のほか、原子力全般の海外留学生192名、国内留学生249名が派遣されている。

   表8 ラジオ・アイソトープ研修所講習会、受講者

(5)経済効果
 経済効果は、RIを工場、現場において使用することによって、従来の代替法に比較した年間においていくらの純利益をもたらしたかを評価することによって得たものである。
 しかし調査に対する回答数も少なく、また、生産費の節約や顧客関係の改善等の潜在的利益を評価することが非常に困難なため、正確な数字はだし得なかったが、大体の様子はつぎのとおりである。

(イ)ゲージングの経済効果
 ゲージングのうち、厚み計の採用は、多くの場合、連続測定法として大きく評価されている。その効果は、主として、原料の節約と、品質の向上、労賃の節約等の形で認められており、中には、数千万円の純利益が挙がっているとしているものがある。
 レベル計は、従来その測定がきわめて困難であった。スラリー、粒体、粉体、溶融物質等の流体のレベル測定において、その効果が大きく評価され、品質の向上、原料費の節約、労賃の節約の形で表われている。そして1件あたりの効果に数十万円~数百万円となっている。
 その他のゲージング機器では、いずれも労賃の節約の形で利益をもたらしている。

(ロ)ラジオ・グラフィーの経済効果
 ラジオ・グラフィーは、X線装置の適用困難、または不可能な対象に進んで使用されているが、その効果は主として、不良品の減少および顧客関係の改善その他の潜在的利益の向上に認められており、前者については1,000万円~2,000万円の利益を計上しているのが4件あった。
 労賃については、利益をあげるよりもむしろ損失の方が多くなっている。

(ハ) トレーサーの経済効果
 トレーサーは、工程の改善、その他研究目的に一時的に使用されるもので経済効果の算出はきわめてむずかしいが、工程の改善や研究成果を評価の対象として推定した。
 以上をとりまとめた結果が(表9)である。

 表9 RI利用による年間純利益

3 Rl利用の理由と問題点

(1)RI利用の理由
 RI利用の理由を利用分野別に示したのが(表10)である。
 全体的にみると、「RI以外に方法がない」というのが最も多く、ついで「品質の向上、工程管理等の技術的メリットが高い」「研究的な意味から」などの順に多くなっている。これにより、RIは新しい工程管理の手段として、また、一方技術的貢献の可能性が高いので、研究的意味から採用されている状況をうかがい知ることができる。

表10 Rlを利用する理由

(2)RI利用上の問題点および希望意見
 調査の結果、第1に挙げられる問題点は、主任者試験を含めて、RI関係法規が、きびしすぎること、第2に、RI機器が高価でかつ、取扱いが面倒であり、取扱い施設が大仕掛になること、第3に、RIの入手を含む各種サービス業務が十分に行なわれていないこと等の問題が提起された。そしてこれらの点を解決するための、RI利用促進上の希望意見としては「法的規制の適正化とRI取扱資格の再検討」が最も強く、さらに「RI関係技術者の養成訓練対策の改善」「RIの供給の円滑化」「RI利用技術の開発促進」や「利用上のサービス機能充実」等がこれにつづいていた。