プルトニウム調査団、報告書を提出



 プルトニウム調査団は昨年9月11日から約1ヵ月にわたり、米国におけるプルトニウム・リサイクル計画の実情について調査を行ない、このほど、原子力委員会に報告された。以下報告書の全文を紹介する。

第1章 総括

 米国における原子力発電開発は現段階においては低濃縮ウラン−軽水型のものが最も進んでおり、数年後には米国においても在来の火力発電と経済的に競争出来るようになると予想されている。しかし、今日の段階で発電コストの算出は、純粋な商業ベースの上に立っていない。特に次の3点に問題が残る。

1)濃縮ウランの価格

2)再処理費

3)プルトニウムの買戻し価格

 米国原子力委員会はなるべく早い機会にこれらを商業ベ−スに乗せ、少なくとも2)と3)については政府価格をはずしてゆく方針をとっている。我々の調査の対象は3)に関連する問題が主となっているのだが、皆それぞれ密接に関連があるので1)、2)についてもおのずからある程度の調査が必要であった。

 濃縮ウランの価格は当分政府価格ははずしえない。しかし、現在でも実際にかかるコストから、算出される価格と政府価格のひらきは一般に考えられている程大きいものではないらしいが、機密事項に属することで明らかでない。

 再処理の事業については、米国政府はすでに民間に移すことを考慮している。民間の申出価格が政府価格の15%増になればはずすといっている。現在20%増付近にあるといわれ、処理量が増大する1970年頃には完全に民間ベースで処理出来ると見込まれている。

 今回の調査団の主たる調査対象となった3)については、プルトニウムに商業的価値をつけるためには、その有効な用途を見出さなければならない。Hanfordを中心に行なわれているプルトニウム・リサイクル・プログラムはそのために設定されたもので、まず第一着手として、使用済燃料を処理して得られるプルトニウムを軽水炉にリサイクルすることにより、プルトニウムの商業的価値を確立することを目的としている。プルトニウムの燃料としての価格は、核的特性および加工の難易によって定まる。1963年から実施されようとしている9.5ドル/gという政府の買上価格は、上記の点を考えても妥当と推定されたものであるが、十分な実証的基礎は今後の展開にまつ以外にない。この結論は1970年頃になるということである。これに対するHanfordの人達の見通しはかなり明るい。

 プルトニウムの価値について今一つ重要な点は、これを高速増殖炉用燃料として使用することである。今日まだ高速炉自体が実用の域に達していないが、燃料としての価値は非常に高くなるであろうということは多くの人の一致した意見である。

 しかし、たとえ高速増殖炉が出来ても種々の制約から倍増時間(doubling time)をあまり短くすることはむずかしいと予想される。したがって、電力需要が増大しつつある限り、増殖炉だけでは要求を満たすことは出来ず、増殖炉用のプルトニウムを製造してゆく役目を兼ねて熱中性子による発電と高速炉による発電が並行して行なわれる時期が、相当の長期にわたって存在することになろう。熱中性子炉による発電の経済性ならびに存在意義は、高速炉との共存関係によって真価を出すものと思われる。

 この点に関して注目すべきは、1962年5月に行なわれたシーボルグ委員長の声明である。これによると現在の熱中性子炉による、原子力発電を経済的に行なわせることが出来るような高品位のウラン鉱の埋蔵量はエネルギーに換算して石油、石炭のそれと比較してその何分の1かにすぎない。したがって、人類が将来にわたって半永久的にエネルギー資源を確保する意味からも、増殖炉の開発が不可欠で、これが原子力の本命ともいうべきであるという見解である。

 こういう意味で高速増殖炉の開発には非常な努力が払われているが、現在建設中あるいは計画中のプロトタイプの発電所の運転経験を入れて大容量の実用発電所が出来て、さらにその経験を生かして改良された二代目の発電所が運転を開始する時期をこの型の炉の一応の完成期とすれば、今後15年ないし20年を要すると考えられる。

 以上のごとくプルトニウム燃料の開発は、高速炉用の燃料開発と並行して熱中性子炉用としてまず軽水炉によるリサイクルの技術を開発してプルトニウムの燃料としての経済性を確立することを目標とし、それが完成されるまでのある期間は、政府は適当の価格でプルトニウムを買上げ、技術開発を助成する。また、その経験を増殖炉用の燃料の開発に役立てようというのが、米国におけるプルトニウム利用開発の基本的態度である。

 我々調査団の任務は、上記のごとき米国の現状を報告し、今後原子力委員会あるいは産業界において原子力発電の導入あるいは開発計画を立てるため、あるいはプルトニウムの研究計画をたてるための参考資料として提出するにあるが、プルトニウムのことがにわかに問題となり、我々調査団派遣の因となったのは、米国のプルトニウムを含めた燃料政策の変更が日本の原子力発電開発計画におよぼす影響を心配されたことにあるので、以上の観察に基づいて使用済燃料処置の問題、およびわが国におけるプルトニウム研究の在り方について意見を付しておきたい。

 使用済燃料について今日まで考えられてきた処置は、燃料供給契約に従って相手国に引取って貰うのであって一見非常に簡単のようであるが、上述のように相手国でもまだ濃縮ウラン、再処理、プルトニウム等の価格が商業ベースにのっておらず、政府価格によって取引されている現状であるから、相手国の政策の変動がただちにわが国の発電コストに影響することになり、原理的に好ましいことではない。今回のプルトニウムの買上価格の問題が発生したのもその一例である。しかし、問題が単にそれだけであるならば遠からず商業ベースに乗るまでの暫定的の方法と考えることが出来るが、実はその上に使用済燃料の輸送の問題が加わって来る。これは単に経費だけの問題でなく安全問題、補償問題とからんで国際的に解決を要する問題である。いずれは解決されても当然燃料費に負担がかかり海外では採算がとれてもわが国ではとれぬことになりかねない。

 次に考えられるのは、使用済燃料をそのまま適当の時期まで貯蔵する方法である。商業ベースで物を考えるならば、この方法はウランやプルトニウムをそのまま寝かせることになる。したがって再処理費との見合で事を決すべきである。

 天然ウランからスタートするカナダ方式によれば、使用済燃料の価値をゼロとしても引合うまで燃焼率をあげるのであって、この方式は、現在すでに濃縮ウランに比し、商業ベースに近い天然ウランを燃料とする点、さしあたり再処理を必要としない点で、わが国にとっては魅力的であるがまだ十分保証されておらず、原子力委員会の設定したわが国の原子力発電計画の初期に採用することはむずかしい。

 第3の方法は、わが国に再処理施設、プルトニウム燃料加工施設を造り、発電計画の初期に米国で行なわれているプルトニウム・リサイクル計画に準じて、国内でプルトニウムを軽水炉へリサイクルする方法である。前2者と比較して国内技術の開発に貢献する積極的の意味もあり最善の策と思われるが、これらの施設の建設に要する費用は優に百億を越えるから、建設の時期、その設備能力は具体性のある発電計画と密接な関連のもとに決定されなければならない。

 いずれにせよ近き将来米国においてはプルトニウムの商業的価格が明らかになる見通しが十分なので、原子力発電を促進するためには、使用済燃料に関して政府のなんらかの措置が必要であろう。

 プルトニウムの研究開発のやり方については、まずプルトニウムの物理的、化学的、金属学的のかなり広範に渡る基礎研究およびその取扱技術の修得とともに燃料要素開発のための照射試験、製造加工等に関する工学的研究が必要である。炉開発との直接の関連においてはプルトニウムを熱中性子炉にリサイクルすることは高速炉が完成するまでの過渡的方法として採られるべきものであることは上記のことから明らかであるがその過渡期がかなり長期に渡ることも考えられ、わが国の原子力発電開発の初期の段階にもそのような方法が採用される可能性がある。したがって原研のJPDR等を用いてウラン・プルトニウムの混合燃料の研究を進めるのも大いに意義があろう。また、高速炉用の燃料研究も高速増殖炉開発計画の一環として大いに推進する必要がある。

 また、米国においてはプルトニウム専焼の熱中性子炉の開発計画はなく、わが国でも特にそれを考える理由はないと思われる。

 プルトニウムの研究は保安的見地からも、また経済的見地からも小規模に個々別々に行なうことは好ましくない。官民を一体とした協力体制のもとに強力に行なわれることが望ましい。

 全般的に見て米国においては原子力の平和利用の将来性については確心を持っているが、完全に民間ベースに乗せるためにはなお政府資金による技術の開発の必要性を認め、適当な助成策を講じつつ両者協力して開発を進めている段階である。

 原子力発電の将来の見通しがかなり明らかになって来た今日、わが国でも原子力開発を促進するため開発計画を再検討し、政府の役目、民間の役目を明らかにし、具体性のある計画をたてることが原子力の研究ならびに開発の前提条件として何より強く要請される。


第2章 米国原子力委員会(AEC)の方針

 AECの核燃料およびプルトニウム政策に対する考え方の要旨は以下の通りである。

2−1特殊核物質の民有移管

 AECは、原子力発電をなるべく民有ベースで推進するという方針のもとに核燃料政策の転換を準備中であり、本年1月からの議会に原子力法の改正案を提出し、特殊核物質の政府所有を民有に移管したいと考えている。

 ただし、民間業界は特殊核物質を即時買取らねばならぬということではなく、1963年7月1日から1972年6月30日までは、政府から特殊核物質を賃借することが認められ、さらに1972年6月30日までに運転開始した炉については1972年7月1日以降5年間の分割払いが特に認められる模様である。

 1973年7月1日以降運転開始の炉は、特殊核物質を一時払いで購入することが要求される予定である。

 なお賃借が認められるのは国内の炉であって、海外に対してはAECが売却の権限を有している。

2−2 プルトニウム政策

(イ)買戻し価格

 現行原子力法によれば、プルトニウムは国有であり私企業の動力炉等で生産されるプルトニウムはAECが購入する義務があり、その購入価格は7年を限度として保証しうる権限を有している。現在の買戻し価格はPu金属で国内に対しては30$/g、海外に対して12$/gを適用している。

 AECは前述のごとく特殊核物質の民有移管に伴い現行法を改正し、7年の価格保証の権限が切れる1963年6月30日以降はプルトニウムの購入義務をなくし、民有を認め、政府の統制の無い自由市場において、需給が均衡し、価格が自由に決定されることを希望している。しかし、1963年7月から自由市場が成立するまでの過渡期数年間は、暫定的にプルトニウム価格を保証するため、予算の範囲内で購入する必要性を考慮している。

 なお、この暫定価格保証期間が何年継続されるかは自由市場成立の時期と関連があり、いまAECがこれを明言出来る段階にないが、プルトニウムの推定燃料価格*に基づいてきめることを希望しており、いまのところPu金属9.5$/g*、硝酸プルトニウム8$/g程度の価格で買戻すことを考慮しているようである。

 また、米国が海外に供給した濃縮ウランから生じるプルトニウムに対しては、国内のプルトニウムに対するのと同一価格を適用することを考慮している。

 これに関連し、米国はプルトニウムの燃料価値確認のための技術開発にここ数年多量のプルトニウムを必要とするので海外から相当量のプルトニウムを購入する必要があると考えているとの意見も表明された。

(ロ)プルトニウムの価値

 現在 Hanford,ORNL 等の各研究所でプルトニウムを各種熱中性子炉にリサイクルした場合の価値の理論計算を行なっているが、AECでは本計算はまだ未確定の要素が多く、その結果としての推定価値はこれをそのまま価格に適用できる段階にはないと考えている。

 しかし、過渡期間での価格として考えられている9.5$/g(金属)は、現在理論計算の結果出されているプルトニウムの推定燃料価値約7〜13$/g fissileからみても、かなりいいところにきていると考えているようである。なおこれに関連する問題としてプルトニウム価格とプルトニウムの同位元素比との関係であるが、現行価格(30$/gおよび12$/g)ではこれと無関係の一本価格になっている。

 しかし、1963年7月以降の価格を同位元素比によって変えるべきかどうかは未定であり、AEC内には、プルトニウムの燃料価値が明らかでない段階で同位元素比により別価格とすることは、問題をさらに複雑化するとの意見もある。

2−3 研究開発計画

(イ)プルトニウム・リサイクル計画

 AECはプルトニウムを熱中性子炉でリサイクルする研究開発計画化として、まずHanfordにおけるプルトニウム・リサイクル計画に年約800万ドルの予算を計上し、これを強力に推進するとともに、次いで軽水炉を用いて研究開発することを計画している。

 AECとしてはこれら計画の目標達成時期(技術的経済的な見通しの完了時期)を1970年においているが目下計画は順調に進捗しており、AECは1970年以前に計画が達成されるものと期待している。

(ロ)高速炉開発計画

 AECは、1975年までに商業用発電炉としての高速炉の技術、経済性が確かめられることを希望しているが、その時期までに、技術的に解決を要する諸問題が多々あり、特に、高バーンアップ燃料およびナトリウム技術の開発、安全性の確立などが必要であると考えている。プルトニウムの価値は高速炉に利用することが熱中性子炉利用よりも高いことはもちろんであり、また高速炉用プルトニウムは熱中性子炉で発生するプルトニウムを利用することが有利であるから、AECは熱中性子炉の開発と並んで高速炉の開発にも力を入れ、両者を並行的に進めてゆかねばならぬと考えている。

 なお、AECの方針中特に注目すべき点として考えられるのは、

(i)特殊核物質の民有移管を考慮していること。

(ii)プルトニウムの民有移管に伴い、プルトニウムの買戻しのための暫定措置を考慮していること。しかし買戻し価格およびその継続期間の保証が必ずしも明らかでない。

(iii)プルトニウム利用の研究開発計画としては熱中性子炉、高速炉の両者を並行的に進めることを考え、計画達成の目標時期を前者1970年、後者1975年としていること。

などがあげられる。

 これらは、日本の今後の核燃料政策ならびにプルトニウム利用の研究開発計画樹立の上に大きい影響をおよぼす問題とみられる。


* 現行の買戻し価格および推定燃料価格「現行の買戻し価格、国内30$/金属gは兵器用の価格であり、かかる価格を続ける事は、国内の原子力産業の健全な発展を阻害するとの考え方で推定燃料
 価格が考慮されている。また海外12$/gは、1961年6月30日以前の235U価格を基準として235Uとプルトニウムとのエネルギー換算によったものであるが、61年7月から235U価格が引下げられたのでそれによって計算すれば、プルトニウムの推定燃料価格は約20%減の約9.5$/gになる。」


 第3章 米国におけるプルトニウム利用研究開発の計画および現状

3−1原子炉開発の現状と計画

(イ)PRTRによる実験計画

 プルトニウムを熱中性子炉でリサイクルする場合、対象となる同位元素組成は、239Pu:70〜30%、240Pu:15〜40%、241Pu:8〜16%、242Pu:残余であり、燃料中のプルトニウムの濃度は補給燃料が濃縮ウランであるか天然ウランであるかに依存して1%以下から数%の範囲にある。熱中性子炉におけるプルトニウムの物理はプルトニウムの同位元素チエインと、それらが低いエネルギーにて、顕著な共鳴をもっているために235Uのそれよりはずっと複雑である。したがって照射につれて各同位元素の濃度がどのように変るか、炉特性の変化はどうかといった燃焼実験や積分実験や理論計算などの研究を行なうため、PRTRによる実験計画が推進されている。

 PRTRはプルトニウムの熱中性子炉へのリサイクルについての技術的開発を目的として建設された試験炉で、1960年11月臨界、1961年7月以後、全出力運転を行なっており、その後約1年間UO2,Pu−Al,UO2−PuO2燃料等について照射を行なっているが、PRTRの全運転量も8,550MWDであり、UO2−PuO2についての照射は緒についたばかりである。1962年9月上旬試験中のMgO−PuO2燃料要素が破損し現在修理中である。

 これら照射燃料のバーンアップの測定等は、PRCF(Plutonium RecycleCritical Facility)により行なわれている。

 プルトニウムを燃料とした場合制御上の問題として遅発中性子の割合β(235Uの約1/3)と温度係数がある。PRTRについての測定では、炉内のプルトニウムの増加とともにβは減少し理論的結果と同じ傾向を示すが、制御には問題のないこと、また温度係数も238Uが十分あれば十分の負の温度係数になることが報告されている。

 かかるPRTRの運転により、動力炉の条件中でプルトニウムを天然ウランと組み合わせて熱中性子炉に利用できることが、一応実証できたとみられよう。しかし、Pu−Al合金燃料要素は比較的その反応寿命が短く、かなり頻繁な取り替えを必要とした。そして現在は混合酸化物燃料要素に取り替えつつあり、この変更によって燃料要素の炉心での寿命は3ないし4倍になると期待されている。したがって、熱中性子炉でのプルトニウムの使用にあたってPuO2−UO2なる一様装荷への傾向がかなりはっきりしつつあるようにみうけられる。なお、PRTRは重水炉であるが、これは便宜上のもので物理的解析や、試験用燃料要素の挿入が簡単にできるなどの理由によるものである。

(ロ)EBWRによる計画その他

 PRTRに関する研究の進行により、第2段の研究として軽水格子内における物理定数を研究するためEBWRの炉の25%(6×6array)をPuO2−UO2でおきかえ照射試料をHanfordのPRCFで試験することが計画されている。

 さらに第3段階としてPWRの格子にプルトニウムを用いる研究はWestinghouseのSaxtonの炉を用いる計画が提案されており、AECで目下検討中である。

 以上の計画の進行により Hanfordでは、1965年までにはプルトニウムを用いた炉の物理的性質が明らかとなり、1966年までにはEBWR等による実験により、軽水炉へのプルトニウム・リサイクルについて技術的知識を十分得ることが出来るであろうと考えており、次いで大規模動力炉での開発研究が開始されるであろうから1970年には経済的にも軽水炉におけるプルトニウム・リサイクルが非常によくわかるであろうとの見通しをもっている。

 このように米国ではプルトニウムをリサイクルするための大規模動力炉としては軽水炉を考えている点は注目に値する。

(ハ) 高速炉の開発情況

 高速炉の開発は現在建設中のEBR−II,Enrico Fermiなどの完成の促進とともに1000MWe程度の高性能炉の設計建設を目標に努力されているが、今後なお開発を要する多くの問題点がある。その主なものは、

(i)燃 料

(ii)信頼するに足るナトリウム循環装置(ポンプバルブ、熱交換器、蒸気発生器等)

(iii)炉心内での燃料要素の機械的配列と燃料要素の取扱装置

(iv)炉の動特性をふくめての炉物理、特に大型炉の安全特性

などである。

 高速炉に使用した場合プルトニウム、235Uよりすぐれ与えられた炉心寿命に対し必要な装荷量は235Uの約2/3で済み、また、増殖比はプルトニウムの方が0.3程度高い。

 したがって、将来の商業用発電炉は最初からプルトニウム燃料で運転されるものと思われる。

 しかし、プルトニウム燃料の大型炉においては、ナトリウムの反応度係数が正になる傾向が強いことが、安全特性についての解析上の主要点となっている。ドップラー効果をふくめてこれら動特性を調べることを一つの大きい目的としてANLではFRET,GEではEFCR(Experimental Fast Ceramic Reactor)という実験炉の計画がなされている。ナトリウム取扱機器については、特に大容量のポンプ、大型の蒸気発生器の開発が必要と言われているが、さらに高温化に向ってナトリウムや材料のデータ、ナトリウムとその汚染物(とくに炭素と酸素)についての化学の十分な理解が必要といわれている。

 次に現在開発中の高速炉の現状を述べよう。

(1)Enrico Fermi炉

 出力100MWeの高速炉で第一次燃料はジルコニウム被覆のU−10wt%Moの金属ピン(0.158"φ)を用いているが、二次燃料はステンレス鋼、UO2分散型燃料を考えている。1960年12月ナトリウムを入れ1000゚Fで非核的試験(non nuclear operation)を行なっている。この温度は100MWe運転の時の出口温度より200゚F高い温度であるが機器に腐食の気配もなくポンプ(10,000ガロン/分、1,000HP)も5,000時間以上良好に運転している。

 現在熱交換器のストレス腐食のための修理や熱遮蔽のホウ素処理黒鉛の取り替え、炉心つり下げ部(corehold down figure)、燃料支持板(fuel support plate)の修理が行なわれており1963年早々に臨界になる予定である。

(2)EBR−II

1961年秋、ナトリウムなしの臨界実験が行なわれ、その後、付属系の最終据付も終わり、1963年3月ナトリウムを入れた臨界に到達する予定である。

 初期燃料はUFs合金であるが、第二次燃料はU20wt%Pu10wt%Fs合金*をNb1%,Zr被覆管にナトリウムボンドして用いる予定である。しかし、プルトニウムをUFs合金に加えることは、照射下での安定性と被覆材との両立性に関して困難な問題を生じている。


* Fs合金(Fissium Alloy)特種核物質と核分裂生成物による合金を示す。



(3)Fast Ceramic Reactor 計画 AECとの契約のもとにGEが実施しているものでセラミック燃料の高バーンアップ、高出力をねらって増殖率をぎせいにしても経済性を強調したものである。20%PuO2−UO2についてカプセル試験が行なわれ、その結果は良好なものであった。

 すでに述べたように、EFCRの計画があり、520MWeの設計も行なわれている。これでは10,000MWD/Tの平均燃焼度をとり、分裂生成ガスは、燃料ピンにガス室を付けて対処している。

 1975年における燃料サイクル費は1ミル/kWh以下と計算されている。

 (ニ) プルトニウム利用についての見通しプルトニウムの利用については高速炉の燃料として用いるか、熱中性子炉でリサイクルするかこのいずれかが考えられる。この場合、プルトニウムの核的性質からみて前者が有利なことは明らかであるが高速炉の開発はなかなか困難な問題を含んでおり、米国においてもこの経済的見通しを得るには1975年頃までかかるもようである。したがってAECはこの間プルトニウムを熱中性子炉でリサイクルすることを考えており、前述のとおりPRTR, EBWR,PWR型実験炉等における開発研究により、1970年までに軽水型熱中性子炉でのリサイクルについての経済的見通しをつける計画である。次表は米国における熱中性子炉でのリサイクルならびに高速炉開発の見通しとしてGE社で示された一例である。

GEにおけるプルトニウム利用の見通し

 このように米国においても当分の間、熱中性子炉による高速炉用のプルトニウムの生産と熱中性子炉でのリサイクルによる経済的プルトニウムの利用が行なわれるものと思われるが、実験炉にもかなりの量のプルトニウムが使用されるであろう。さらに高速炉の開発が進めば、プルトニウムを媒介として熱中性子炉と高速炉の間で二重経済性(dual economy)が成立するだろうとの見通しも行なわれている。

 これに対し、カナダは天然ウラン重水炉によるワンス・スルー方式の採用を考慮し、今後比較的長期にわたってプルトニウムの最大利用は親物質である238Uとともに炉内で使用するのが有利であって、プルトニウムを抽出して使用することは、大型動力炉の発電費をなんら減少させるものでないと考えている。

 かかるカナダ方式に対する米国の態度は、大容量重水減速炉は高い転換比を期待出来るが、現在の設計では経済性の点で他の型式の炉ほど魅力的でないと考えている。

 3−2 プルトニウム価値の評価について

 発電炉から生じるプルトニウムは売却してもよいしリサイクルしてもよい。プルトニウム価格が高いほどプルトニウムを売却することによって、ウランのみを用いたサイクルの場合の燃料費は下がり、逆にプルトニウムをリサイクルする場合は上昇するであろう。このようにプルトニウム価格の高低に伴って両サイクルの燃料費は相反する傾向を持つから、これら燃料費の均衡するプルトニウム価格が存在し、この均衡するプルトニウム価格は経済的なリサイクルの可能性を与える限界点であり、この値を以って通常プルトニウムの価値と定義している。これはまた上述の両サイクルの燃料費が同じであることからIndifference Valueともいわれている。

 要するにプルトニウムの価値は市場価格でなく、ウラン価格を基準として相対的に定められた価値である。

 周知の通り燃焼とともにプルトニウムは各種の高次同位元素を造るが、プルトニウムの価値はそれらの含有率に敏感に影響されるので、その値は経済的要因のみでなく、原子炉型式に大きく支配される。

 HanfordをはじめORNL,GEなどではPWR,BWR,GCR,D2O炉、OMRなど各種の炉型を対象とし、主として継続サイクルにおけるプルトニウムの価値の研究を活発に行なっている。

 プルトニウムの価値は前述の定義からもわかるように発電コストと直接の関係はなく、またこれから直ちに燃料サイクルの選択が行なえるものでもないが、各種原子炉間のプルトニウム授受による経済的見通しやプルトニウム価格の決定に際して重要な根拠を与えるであろう。

 計算内容の細部は各研究者によってかなりの相違はあるが、熱中性子炉でのリサイクルにおけるプルトニウムの価値はおおよそ7〜13$/grにあって、AECが過渡期間での価格として考えているものとそう遠くはない値が得られている。

 また表にみられるように、ここ10〜15年間は熱中性子炉でのリサイクルによるプルトニウム需給の調節期間であって、高速炉用インベントリーがプルトニウム需要の主なものとなるのは、1970年代の中頃以降となろう。したがって、その前後は熱中性子炉からでるプルトニウムは高速炉に逐次リサイクルされて、両サイクルの燃料費が均衡するまでプルトニウムの価値は上昇する。GEはこのような高速炉開発の初期に考えうるプルトニウムの価値の極値はおおよそ15$/grであって、その結果燃料費は下がり、軽水炉で1.5ミル/kWh以下になることを予想している。

 なお、熱中性子炉と高速炉による二重経済の過程を経てさらに高速炉の技術が進み発電コストが低下すれば、プルトニウムの価値は高速炉のみによって定まる新しい極値に落付くであろうとしている。

 さて、この種の計算に用いられる物理常数や経済因子については、現在のところ不確定要素が極めて多い。物理定数については、既述のプルトニウム・リサイクル計画に従って蓄積されるデータにより逐次修正されねばならないが、多くの場合、燃料費が極小となるような条件で計算しており、この極値をとる近傍では炉心寿命の燃料費におよぼす影響が小さいので、計算されたプルトニウムの価値は、物理的な不確定要素に比較的鈍感であるといわれている。

 一方、経済因子に関し、加工、再処理、輸送費などは直接プルトニウムの価値を左右する上、上記の研究でもそのとり方はまちまちであって、これら結果の比較に当っては注意を要する所である。

 例えば加工費について言えば、Hanfordではその加工費の増加として高々10〜20$/kg、これがプルトニウムの価値に与える影響は0.5〜1$/gr・fissileとしORNLではこれらをそれぞれ60$/kg、2〜3$/gr・fissileと考えている。

 またGEでは、この加工費増加は年間少なくとも1トンのプルトニウムを扱えば、低濃縮ウランの加工費の10%よりは少なく、いずれ規模が大きくなれば2〜3$/kgまでになると見込んでいる。さらに加工費が50$/kg付近であれば、長寿命燃料の魅力少なく、また、物理的不確定要素も燃焼度が高いほど大きくなることと相まって、中間寿命(15,000〜25,000MWD/T)を対象としてプルトニウムの価値の評価を行なっている。

 これに反しNUMECでは次にも述べるように高燃焼を狙い、加工費の増加としても極めてひかえめな、100$/kg以上を考えているのはGEと全く対象的である。

 これらの計算は既述の通りほとんど継続リサイクルに限られているので、原子炉間で燃料のやりとりを行なうような場合についての考察は今後に待つべきものが多い。

 熱中性子炉にプルトニウムを利用した場合の利点は235U所要量の節約ばかりでなく、特異の高次核種を造ることに着目すると、興味ある使用法が考えられることである。

 すなわち、減速度によって異なるが、プルトニウムの濃縮度をある程度以上に高めると、その飽和性やスペクトルの硬化によって反応度が却って低下するという負性抵抗(Negative resistance)特性と、一般にプルトニウム系では燃焼とともにスペクトルが軟化することを利用すると、反応度の変化を少なくしてしかも長寿命の炉心が得られる。

 したがってこの場合、高バーンアップの達成に必要な反応度は235Uの場合に比べ少ないから、制御方式に対する制限が著しく緩和される利点がある。

 NUMECの計算によると240Pu12%のプルトニウムを用いると炉心寿命60,000MWD/T、容量500MWT(150MWe)のPWRについて、ウラン、プルトニウムの加工費をそれぞれ100$/kg、200$/kg(プルトウムのクレジット12$/gr)とすると低濃縮ウランの場合初期keff1.3で適正な燃料費は2.52mill/kWhになるのに対してプルトニウムの場合は初期keff1.1〜1.18で適正な燃料費は2.2mill/kWhになると述べている。しかしプルトニウム燃料のバ一ンアップがどれだけとれるか問題である。

 なお、プルトニウムの場合熱領域での中性子の補獲割合が大きいが生成する240Puの断面積が238Uに比べて2桁ほど大きいので、これは少量でも親物質としての使命を十分果すことができる。

 したがって、ウラン系と違って核分裂物質と親物質との存在比を適当にしてこれらの均衡を保って燃焼させると、所謂フェニックス燃料(Phoenix fuel)と称される長寿命、高燃焼度(〜15年,〜200,000MWD/T)の燃焼実現の可能性がある。

 しかしこれはまだ概念の域を出ず、しかも既述の通り加工費が低減すれば動力炉の経済性は必ずしも燃料寿命にのみ依存しないから、長寿命が最大の要求であるような宇宙用動力炉等の特殊用途として興味をひくにすぎないと考えられている。

 3−3 燃   料

(イ)熱中性子炉への利用の開発

 AECのプルトニウムリサイクル計画が軽水炉を中心に立案されている関係から、燃料開発の重点は当然酸化物系セラミック燃料にしぼられている。Pu−Al燃料は、この分野における豊富な経験のゆえに上記計画の初期段階に重要な役割を演じはしたが、バーンアップを高くとれない等の理由から、動力炉用の燃料開発の対象からは、すでに除外されている。カーバイド系燃料は、その優秀な特性にもかかわらず、軽水炉への適用が困難であり、また、この種の燃料に適した熱中性子炉が実用化の域に到達する以前に、高速炉によるプルトニウム・リサイクルが実現するであろうとの見通しから、熱中性子炉用燃料としての開発はほとんど行なわれていない。

 分散型、サーメット型の資料も、特にプルトニウム・リサイクル計画との関連の上で開発されている例はほとんどない。

 軽水炉用燃料として酸化プルトニウムが使用される場合、その取り扱いの面から燃料を次の3つの型に分けて考えるのが適当であろう。第1の型は酸化プルトニウム燃料をスパイクとして使用する場合でこの際、比較的少量の高濃度プルトニウムを分離して取扱えるため、処理、加工設備を小さく出来るのが特長であるが、炉工学上の問題に加えて、この種の燃料の加工、照射に関する経験がはなはだ貧弱である点からの不安が常につきまとう。最近PRTRで起ったMgO−PuO2型燃料の破損がどのような原因によるものかはまだ明らかではないが、高度の照射にたえるこの種の燃料が開発されるためには、まだ相当の時日を要するものと思われる。また処理設備の点でもプルトニウムの高次同位元素が増加した際にホットラボ位いの設備が要求されるため、後述のUO2−PuO2に比べて必ずしも安くならないとの議論もあり、これも今後の検討にまたねばならない。Hanfordでは上記のMgO−PuO2の他にZrO2−PuO2,Zr−Pu等を開発しており、また、BMIでは、PuO2−Al2O3、また、Nb中に30wt%のPu Si2を分散した型等をスパイク燃料として検討している。

 第2の型はいわゆるPuO2とUO2の“混合酸化物(mixed oxides)ので、これにはこの両者の単なる物理的混合による“無作為混合法(random mixed)”と、両者が固溶体を形成して均一に混合している“均一混合法(homogeneous mixed)”の2つが考えられる。前者は、燃料加工直前までPuO2をUO2と分離して取り扱えるため、スパイク燃料と同様処理設備を小さく出来る特長をもつが、一般に“無作為混合法”では高密度への成型が困難でセグリゲーションを起しやすいと言われており、また、照射により局部溶融を起す危険もある事が実験的にも示されている。NUMECではこれに対し特殊な混合法を開発し、均一混合法に劣らぬ混合試料を得て、現在照射試験により比較を行なっているが、Hanfordその他の大勢は、均一混合法に向っている。

 均一混合法は、原料水溶液の段階でプルトニウムとウランを混合し、これからの共沈によって均一な混合物を得ようとするものである。

 グローブボックス内での取扱量の多くなる欠点は、ウランの遮蔽効果が期待出来るため相当に老化したプルトニウム(240Pu40%程度)も、改良されたグローブボックスによって取り扱えるといった利点で相殺されるという意見もあり、また、照射試験の結果も、高速炉の項で後述する通り楽観的である。さらにこの方法で得られた粉末はUO2粉末と比較的似た挙動を示すので、従来UO2燃料について開発されて来た燃料加工技術が容易に応用出来るのも大きな利点であり、AECもこの方式の開発に最も力を入れている。

 第3の型は、同一燃料棒内の位置によってプルトニウムの濃度を変化させる形式で、炉内中性子密度を平均化するため、プルトニウム濃度を上、下部に濃く、中央部に薄くする形、また熱伝導の悪さを補う意味で燃料断面の円周側に濃く中心部に薄くする形等がHanfordによって提案されているがこれはまだ可能性の段階にすぎない。

 燃料加工の開発の重点は、ここ数年の間に、焼結、スエージング、振動充填法とめまぐるしい変遷をとげ現在は振動充填法が最も注目を浴びている。これらの技術は先ずUO2について十分開発された後、混合酸化物に適用されるため、加工技術の開発と混合酸化物の製造、照射試験との間には、それぞれ若干の時差が認められる。例えば、HanfordのPFPP(Plutonium Fabrication Pilot Plant)では現在、スエージングから振動充填法への移行期にあると考えられ、NUMECでは、混合酸化物への振動充填法試験は未だ行なわれていない。上記の3加工法の比較では、Hanfordでは振動充填法の経済的技術的優位性を強調しているがNUMECは加工製品の不合格品が出た場合、振動充填法では燃料棒1本が駄目になるに比べ、焼結法ではペレット1個のくり返しですみ、また、振動充填法では成型燃料の到達可能密度が他の2法より低い点等を指摘して、必ずしもこれに同調していない。したがってスエージングの将来についてもHanfordでは、被覆材の加工欠損、遠隔操作の困難さ等を理由に戦線収束の気味であるのに対し、NUMECでは被覆材欠損も技術的に十分克服出来、また各種加工法に適した原料粉末の製造法にさらに検討すべき点が多いとして、これら粉末製造条件と製品加工度の相関究明に力を入れ新しくスエージング機械をプルトニウム研究所に設備して開発を始めようとしている。振動充填法は遠隔操作に適しまた、複雑な燃料形態にも適用可能である等の大きな利点をもつが、到達密度では他の2法におよばない。実用的な充填密度は理論充填密度より約7%下った所にあるといわれるから、現在のような燃料棒の内径から見て3粒度成分以上の混合が困難な場合、理論密度90%以上の達成はむずかしい。また必要粒度の高密度粉末の製造も現在開発中の段階で、Hanfordでは“ダイナパック(Dynapak)”による衝撃圧搾法、溶融塩電解法等に重点を入れているが、いずれもまだUO2について応用されているだけで、混合酸化物への適用はこれからである。NUMECではこれら“不定型の原料”に対し、“球状原料”の優位性を指摘しているが、これも混合酸化物に応用されていない振動充填法の将来はこれらの点の開発とともに、燃料形態、特性等に関する炉物理側からの検討結果と相まって決定されるべき問題で米国内において各種燃料加工法に対する評価の足並が必ずしもそろわない原因もこの辺にあると思われる。振動充填法の方式としてはHanford,GE,NUMECがいずれも電磁法を採用し、Hanfordでは周波数を変化させて燃料の共鳴点を通過させることによって充填がはかられるとしているのに対し、ORNLでは圧搾空気による方法を開発し、g値を上げて充填を行なっている点特異的である。

(ロ)高速炉への利用の開発

 熱中性子炉用燃料が、混合酸化物−本にほとんどしばられて来ているのに対し、高速炉用燃料は金属セラミックの2本立ての開発が現在も進められておりAECとしては1965年までに、このいずれに重点をおくかの決定を行ないたいことを希望している。

 成型加工、再処理の容易さ、増殖率の高さ等の利点にもかかわらず、金属燃料の将来への見通しは、このところやや悲観的である。ANLでEBR−IIの2次装荷用として開発されているPu−U−Fs合金燃料は、U−Fs合金燃料に比して、その温度照射に対する安定性、被覆材との相互拡散特性等が明らかに劣っている。例えばU−20%、Pu−10%、Fs合金では、370℃で既に相当の膨脹変形が起こり、実際の炉内照射では650℃、15,000MWD/T(1.2%バーンアップ)で膨脹変形による被覆材の欠損が認められた。

 現在被覆材の厚みを増す等の手段で2%までバーンアップを上げる努力を試みており、さらに将来は、トリウムベース合金の使用により5%に到達する事を目標としているが、見通しは明らかでない。この他BMIではPu−U−Nbの好高温特性を報告しているが、照射結果は出ていない。LASLで開発されている溶融金属燃料は、技術的に解決すべき問題が多く、AECの高速動力炉開発計画には含まれていない。

 セラミック高速炉用燃料として現在もっとも具体化しているのは、EFCR用の20%、PuO2−UO2燃料である。金属燃料とは対象的にその被照射特性は良く焼結およびコールド・ステージングした均一混合した酸化物をGETRで650℃、100,000MWD/T(13%バーンアップ)まで照射した結果では、燃料は中心に空隙を生じ、分裂生成ガス逸出率は、10〜70%に達するが、燃料としての使用を不可能とするような現象は現われずステンレス鋼の被覆材も全然欠損しなかった。GEではさらに、振動充填の技術をHanfordと共同で開発するとともにANLのTREATを用いて極限条件における燃料の膨脹移動(dislocation)、セグリゲーション(segregation)、被覆材欠損等の試験を行なっている。

 加工成型、再処理の複雑さに加え、酸化物系燃料の欠点とされるのは、金属燃料と比較した際の増殖率の低さであるが、カーバイド系燃料はこの点を補い、さらに高い熱伝導率によって燃料棒単位長さ当りの出力比を上げ得る等の利点が期待されている。

 この系統の燃料についてはANLをはじめ、多くの研究所で基礎的な検討が加えられている段階であるがUnited Nuclear のプルトニウム研究所では、目標をUC−PuCの混合炭化物にしぼり、酸化物と黒鉛の反応によって得た粉末のペレット焼結による照射試料の製造を行なっている。いずれにせよカーバイド系に関しては、その照射試験もUCについて17,000MWD/Tで満足すべき結果が得られている程度で PuCに至っては、化学量論的な組成の燃料製造の可能性さえ基礎的にも未確認の状態であるから、この実用化は当分先の事になろうと予想される。

 サーメット、あるいは分散型等については、BMI等でいくつかの検討が行なわれているが、増殖率の低い事を理由に、AECでは関心を示していない。

 3−4 再処理

(イ)熱中性子炉リサイクルへの開発

 近年における新化学処理法開発への異常な努力にもかかわらず、唯一の実証ずみで確実な再処理法としてのピューレックス法の王座はゆるいでいない。各所におけるプルトニウム・リサイクルコストの算出は、すべてこのピューレックス法による再処理を想定して行なわれている。

 一方、従来のピューレックス法をさらにプルトニウム・リサイクルに適当したものに改良する努力がORNLを中心として払われて来ており、特にTBPに代るものとしてプルトニウムの抽出率が高く、放射能による損傷の少ないアミン系統の抽出剤が注目されているイオン交換樹脂による再処理はこれに比し頭打ちでHanfordにおける各種新イオン交換装置の開発も、現在は全く中止されている。

 ANLではここ2〜3年来直接弗化によりウラン・プルトニウムを分離回収する方法を重点的に開発して来たが、基礎的検討をほぼ終了し、現在パイロットプラント規模の弗化装置を建設中である。ORNLの溶融塩弗化法、BNLのNO2弗化法等にプルトニウムの回収を組込もうとの動きもあるが、これはまだ準備段階といってよい。これら弗化法の開催は、プルトニウム・リサイクル計画とは全く独立に行なわれている。

 乾式法ではHanfordにおける溶融塩電解によるPuO2−UO2の分離析出表が、再処理と燃料加工を直結出来るという利点のゆえに注目されて来たが、この実用化にはまだ数年を要すると考えられている。

 主な難点は耐食性金属材料のない事、遠隔操作の困難な事等で、製品中、炭素含量の多い事も問題となっている。

 実際の照射燃料についての試験はまだ行なわれていないが、除染率は100程度が見込まれ、湿式法に比べ不十分ではあるが、遠隔操作による燃料加工を行なうならば、リサイクルは可能であると考えられている。

 この他熱中性子炉リサイクルを目的とした乾式法は少ないが、高速炉の項でのべるMg−Al法、Mg−Zn法等の分別沈澱法は、溶融塩電解法と同程度の除染率が期待出来、熱中性子燃料への応用も考えられている。乾式法全体についていえる事は、材質、遠隔操作等技術的問題が未だ山積している事で、早急に実用化される見込みは薄い。

(ロ)高速炉リサイクルへの開発

 EBR−IIの炉心燃料に関しては、すでに溶融法と遠隔燃料成型を直結する方法が確立され、“Fuelcycle Facility”が建設途上にある。また、溶融法の除染率を上げる手段としてCaまたはCa−Znによる稀土類の選択抽出等も検討されている。同じ炉のブランケットからのプルトニウムの抽出分離のためにはMg−Znによる分別沈澱法が実験室規模で開発されている。これは一旦金属燃料をMg−Zn合金中に溶解した後マグネシウム含量を上げてウランを選択的に沈澱せしめ、この上澄からMg−Znを揮発せしめる事によってプルトニウムを回収しようとするもので、後にのべるように、若干の改変を加えてセラミック系燃料にも適用が可能である。これに似た方法としてはBMIとDowChemicalが共同開発したMg−Al法があり、またLASLでは水銀を用いる分別沈澱法を開発している。

 この他、各研究所で多彩な乾式法の研究が行なわれているが、現時点での実用化には技術的問題点の多すぎるのが、この分野の研究に共通した現象である。

 酸化物燃料の分野では、特に高速炉燃料用としての再処理法が独立に開発されている例は少ない。ANLでは酸化物を塩素化して溶融塩中に溶解し高Mg−Znによって選択還元を行なうか、あるいは、酸化物のままで高Mg−Znによる還元を行なって溶融合金とし、上述のMg−Zn法と同様に処理することを考えている。

 Hanfordの溶融塩電解法も、実用化すれば高速炉燃料の再処理法として有望と思われるが、GE側ではむしろ着実な方法として湿式法を考えている。

 カーバイド系燃料の再処理はさらに先の問題となるが、ANLでは先ず、カーバイドを酸化して、Mg−Zn法を適用し、溶体に炭化水素を吹込む等の方法で再びカーバイドとして回収する事を考えている。ORNLとUnited Nuclearの共同研究は通常の湿式法を想定しているが、溶解段階で高濃度の硝酸を使用する事によりワックスの生成は防げるとしている。

 いずれにせよ高速炉燃料の再処理は当分先の問題として、重点的な開発を受けていないのが、一般情勢であり、今後の研究にまつ所が多い。

 3−5 プルトニウム取扱施設と管理

 米国には各国立研究所の他、NUMEC,United Nuclear,GE等プルトニウム取扱いの許可を得ている民間施設が数ヵ所ある。国立研究所はその操業方式、防護細則等について管轄の“AEC支部”(AECの支部で管轄地域がそれぞれ走っている)に報告するほかは特にプルトニウム取扱いについて許可を得る必要はないが、民間施設では時前に詳細な計画を提出してAECの許可を得る事になっている。

 この審査にあたりAECとしては原子力法に定める放射線防護基準以外に具体的な公式基準は持ち合わせず、その都度管轄AEC支部が審議し、さらにAEC本部で検討されているのが実情である。一般的に言って、AECの各支部はその管轄地域にある設施発展の歴史的背景により、施設のあり方、運営基準等につきそれぞれ独自の見解をもつに至っており、このため時折AEC支部と本部との間の意見調整に手間どる事態が生じ、これが施設管理者の悩みの種となるとともに各施設間でその設計、運営方針に相当の違いの出て来る一つの原因ともなっている。しかしこれまでの永い経験を通し、プルトニウムの取扱いに対する統一的見解も徐々に出来上りつつあり、例えば、水溶液以外の形態では50μg以上の取扱いはグローブボックスの中で行ない、水溶液では場合により数mgまでよく設計されたフードでの使用が許可されるとの了解もあるといわれる。

 プルトニウムの取扱いで起りうる最悪の事故が臨界と火災による外部汚染であるという点では、各施設の意見は比較的一致している。臨界に対しては質量制限が最も容易で確実な方法とされ、グローブボックスでの取扱量を制限すると共に、その出入に対して厳重な管理を行なうのが一般の方向である。通常研究用施設では1グローブボックス内に250gが上限値として採用されている。一方大規模な研究施設(パイロットプラント)の固体物質を取扱うグローブボックスでは例えばHanfordにおいては1グローブボックス内4.5kg、1バッチ2.8kgの上限を設定している。これはプルトニウム金属の臨界量5.6kgから考えてかなり大胆な取扱いである。また火災に対しては、グローブボックス内に溶融塩粉末の消化剤を装着している所が多いが、その他の点では各施設ともまちまちである。

 金属、カーバイド等発火性物質を取扱うグローブボックスは不活発気体で置換して作業するが、常温での取扱いは一般に窒素で十分であるといわれている。グローブボックス内部のものの取出しは、共通してプラスチック袋中に高周波シールする方法がとられている。廃棄物からのプルトニウムの回収再使用は一般に行なわれておらず、積置いてAECを通じ回収の引受手を探す等の方法がとられている。

 プルトニウムを取扱う場合、放射線障害に関連してプルトニウムの取扱施設の作業域雰囲気にα線をなくする必要がある。その最も効果的な方法はプルトニウムをグローブボックス内に閉じ込め、そのグローブボックスから作業域に向けて気流の流れる可能性を防止する事が各所で採用されている。このためグローブボックス内部は常に0.7〜1.5インチH2O程度の負圧に保たれるのが常識であり、また作業域は外部に対し若干の負圧に保たれ、これは通常0.1インチH2O程度が多い。

 グローブボックス設計にあたってのモジュール方式*採用には賛否両論がある。ANL,NUMEC等は採用側であり、Hanford,BMI等は非採用側であるが一般的にいって施設の規模が大きいほど採用による利益は大きく、規模が小さく、作業内容が特殊目的に限定されている場合には大した意味がないと言えよう。

 プルトニウムの高次同位元素によるγ線および中性子線からの遮蔽の問題は、240Pu20%以上の取扱経験がないため、現在の所、特に問題とはなっていない。ただ従来の計算結果は誇大すぎるとの意見が多く、GEでは近く新しい結果を発表する予定であるが、相当の老化プルトニウムでも、鉛ガラス、鉛入りゴム手袋程度で取扱えるとの観測がある。

 この他細部にわたっての検討は各論にゆずるが、一般的に言って国立研究所の設備は多目的な研究を予想して建設されているため高価であって、また、全施設が必ずしも十分に活用されていないとの印象を受けるが、民間施設のそれは特殊目的に限定して経済的に作られており、その活用度も大きく、参考となる点も多いように思われる。


*: モジュール方式とはボックスの部分の規格を統一してその組合せでボックスを組立てる方式をいう。