放射能対策本部の動き

食品中に含まれる放射性ヨウ素に関する知識の普及について(要旨)

1.汚染の現状

 昭和37年8月上旬以降の核実験の影響で、食品中に含まれる放射性ヨウ素(I-131)はかなり増加した。とくに9月における東京市販の牛乳中のI-131は月平均で93μμc/lとなり、昨年秋のソ連の核実験直後の値よりも高い値を示したが、10月に入ってからは次第に減少している。なお、10月前半の平均値は67μμc/lである。野菜については昨年秋の核実験直後の値の約10分の1位いであった。

2.I-131の性質

 I−131とはわれわれが日常摂取を欠かすことができないヨードが放射能を持ったものである。その放射能の半減期は約8日であるため、放射能の強さは8日後には始めの半分になり、16日後には始めの4分の1になる。I−131によって汚染されて間もない新鮮な食品等の摂取による体内、とくに甲状腺に入ってくる。甲状腺が相当の線量を受けた場合は、その機能に影響等があらわれることもある。しかし半減期が短いため、人体に摂取されるまでの間にかなりの日数が経過すると食品に含まれるI-131はわずかなものになる。たとえば2ヵ月経過すると食品中のI-131は、始めの量の約200分の1位いになる。

 したがってI-131の対策としては、まず第1に貯蔵・加工等によって体内に摂取するまでの期間を延ばすことである。

3.成人と乳幼児

 体内に取り入れられたI-131からうける線量を考えてみると、成人と比較して乳幼児とくに人工栄養児は多量の線量をうけ、さらに同じ線量をうけた場合でも乳幼児は放射線に対する感受性が高いので食品中に含まれるI-131からの放射線について考えるときには、成人のうける影響の度合は乳幼児に比較してはるかに少ないものと思われる。

4.現在行なわれている調査の状況

 放射能対策本部はさきにのべた食品中のI-131の状況のもとにおいて、放射性降下物による汚染の状況が地域によりかなり異なる点も十分考慮に入れる必要があると考え、東京市販の牛乳のみでなく、新たに数地域の牛乳および野菜中に含まれるI-131の調査をこの際行なうこととした。なお、この調査の状況は下記のとおりであって、現在のところI-131については地域的な差異の傾向は幸いにあまりみられていない。

5.今後の推移

 秋が深まるにつれて、一般に牧草を食べている乳牛は干草等を食べるようになるので、I-131の摂取量は著しく減少すると考えられる。

6.米英におけるI-131についての指垂十

 米国の指針によればI-131の年間の総摂取量が36,500μμc以上に達すると考えられる場合は、I-131の摂取量を少なくするような対策を講ずることになっている。英国の指針も米国の指針とほぼ同様である。

7.I-131の摂取量

 日本における牛乳の摂取量は、一般に欧米に比べてかなり少なく、人工栄養児の場合はほぼ同じであるが、その場合でも、米英の指針を差し当り参考にして考えてみると、現在程度の状態が続いたとしてもそれらの指針の濃度には達しないものと思われる。

8.むすび

 以上述べた種々のことから推して、現在程度の状態においては、乳幼児、妊産婦が食品とくに牛乳を常時摂取することは何ら心配はないものと言える。

 したがって、I-131を含んでいる食品に対する不安により、発育盛りの乳幼児や妊産婦の牛乳摂取量が減少し、栄養が不十分にならないようにすることが肝要である。

○ 食品中の放射性ヨウ素について

 本年8月以降、北極海方面等で行なわれているソ連の核実験の影響を受けて、9月における東京市販牛乳中のI-131濃度が増加し、月間平均値で9μμc/lの値を示した。

 放射能対策本部では、東京以外での汚染状況を知るため、宮城、新潟、大阪の3府県から、牛乳および野菜をとり寄せ、公衆衛生院および放射線医学総合研究所に分析調査を依頼中のところ、分析結果の一部が判明した。

 10月2日〜18日における東京市販牛乳のI-131濃度の平均値は59μμc/lと減少した。

 一方10月8日〜18日の各地の牛乳中のレベルの平均値はそれぞれ宮城:95μμC/l、新潟:52βc/l、大阪:54μμc/lとなっている。

また葉菜中のI-131の10月5日〜19日の平均値は、東京:230μμc/生kg、宮城:80μμc/生kg、新潟:93μμc/生kg、大阪:43μμc/生kgを示した。

 放射能対策日誌

10月18日(木)

 第7回放射能対策本部長顧問会議

 最近の放射性降下物による汚染の状況ならびに食品中に含まれる放射性ヨウ素に関する知識の普及について検討。

10月23日(火)

 第28回放射能対策本部幹事会

 食品中に含まれる放射性ヨウ素に関する知識の普及について等を検討。