原子力委員会

昭和38年度原子力予算概算要求に関するの委員会決定

 昭和38年度原子力予算については、原子力局および各省庁からの要求総額約290億(現金分)に対し慎重な検討を重ねていたが、8月29日開催の第29回定例会議において以下のように委員会として調整額を決定した。

昭和38年度原子力関係予算見積方針

原子力委員会

37.8.29

基本方針

 原子力の平和利用は、世界的にスローダウンの時代に入ったといわれながら、この数年の間における世界主要諸国の原子力平和利用に投じた資金は着実に増加し、開発の努力はなお意欲的に続けられており、とくに最近、各国の開発努力はとみに高まりを見せ、今やいわば地固めを終えて積極的推進の時代に入りつつあることは、深く認識されなければならないところである。わが国においても、関係者の努力はたゆむことなく続けられ、漸く原子力開発利用の基盤の確立を見つつあるが、本年に入って顕著となってきた一般経済情勢の変調のために民間企業の研究投資は減退の傾向を見せ、ひいては海外主要国に著しくおくれをとるおそれもあるように思われるので、かねて原子力平和利用推進の中枢をなしてきた国の果すべき役割が、従前にもまして一層増大するに至ったと考える。

 わが国における原子力の研究開発の推進を図るにあたっては、昨年2月当委員会が決定した原子力開発利用長期計画に沿って各種試験研究を強力に促進することはもとよりであるが、昭和38年度においては、とくに一般的基礎研究を終了して応用研究にすすむというように研究開発の進展に伴い一の段階から次のより高次の段階へと、画期的な展開を遂げようとしている研究課題について、深く配慮することとした。原子力船の建造、国産動力試験炉の研究、プルトニウム研究、人形峠鉱山の試験的開発等について、昭和38年度において新たな段階の研究に着手することを必要と考えるに至ったのはこのあらわれである。

 また、わが国の原子力開発利用が10年に近い歴史を経て、研究開発段階をおおむね終了したとみられる分野も漸次あらわれるに至ったので、当委員会は、経済性、関係者の利便等の見地から、研究開発を促進する体制と実用を促進する体制とが当然にその形を異にすべきであることを考慮し、実用段階に到達した分野については従来とは異なる促進方策を樹立することとした。放射性同位元素の利用に関し、新しい体制を準備することとしたのは、このゆえである。

 その他研究設備の整備に伴う研究開発の拡大および従来の研究開発の基礎の上に立って将来大いに発展すべきものの推進には、とくに重点を置き、一方においてその推進に伴って増加する各種研究については、総合的見地から重要性を検討して、思い切った調整を行ない、研究開発費の最も効率的な使用を図った。

 また、人員、機構については、当面必要不可欠のものに局限することとした。この結果、昭和38年度原子力予算は約119.1億円および国庫債務負担行為額約56.3億円となった。この額は、今後のわが国における原子力開発利用を円滑に進展させるために必要なものであるので、その確保を強く要望する。

主な事項

1.原子炉の建設、運転

 わが国における原子炉および臨界実験装置は、日本原子力研究所をはじめ、大学、民間企業のものをあわせて、38年度末には原子炉11基および臨界実験装置6基が稼働する見込みである。

 38年度における日本原子力研究所の原子炉についてはJRR−2は、高出力での定常的運転を行ない、37年度中に完成するJRR−3は出力上昇試験を行なう。またJPDRは年度初期には全出力運転に入りJRR−4は年度中には臨界に達する見込みである。

 材料試験炉については、従来行なってきた調査研究を基として、39年度に建設に着手することを目標に38年度には仕様書作成を行なう。

 さらに、従来行なってきた高速中性子炉に関する研究をさらに本格化するため、高速炉臨界実験装置の建設に着手する。

 これら原子炉の設計、建設、運転のための経費および大学、民間企業の原子炉等に使用する濃縮ウラン燃料を海外から入手するための経費として38年度に必要な額は約14.4億円および国庫債務負担行為額約2.4億円である。

2.原子力第1船の建造

 原子力船に関する研究開発は、数年間にわたって慎重にすすめられた結果、わが国原子力第1船の建造に必要な予備的な研究段階をおおむね終了するとともに、原子力船の将来の性能について、より明確な見通しを得ることができた。

 一方、海外先進国における原子力船の開発は、原子力船の設計建造および運航を通じて急速にすすめられつつあり、わが国としても世界一の造船国の地位を維持するために、原子力船の経済性が確立されると見られる10年後までに原子力船に関する技術を開発しておかなければならない。そのためには、実験目的の原子力船を実際に建造し、その過程において総合的な研究開発を実施することが必要である。

 よって当委員会は、原子力第1船の設計、建造および実験運航を主たる内容とする9ヵ年計画を作成し、その実施を特殊法人日本原子力船開発協会(仮称)を設立して行なわせることとする。

 このため38年度に必要な経費として、約1.6億円(うち政府出資1.1億円)を見積った。

3. 日本アイソトープセンター(仮称)の設立

 アイソトープの利用は、近く開始される本格的国産化とあいまって飛躍的に増大するものと期待されアイソトープの利用の増大に伴って多量の廃棄物を処理する必要が生ずる。これに対処して、従来、社団法人日本放射性同位元素協会が行なってきたアイソトープの領布および廃棄物の処理の事業を継承し、より有効安全に実施させるため、日本アイソトープセンター(仮称)を設立する。

 なお、現在日本原子力研究所が行なっているアイソトープの生産およびアイソトープ取扱技術者の養成訓練の事業をも、できるだけ近い将来、このセンターに吸収せしめる方針である。

 このために38年度に必要な経費として約3.5億円および国庫債務負担行為額約3.7億円を見積った。

4. 研究開発

(1)プルトニウム

 使用済燃料の再処理によって得られるプルトニウムの燃料としての利用は、原子力発電を推進するための燃料サイクルの確立に重大な意義を有するので、プルトニウム燃料の研究開発を一層推進するため、必要な研究施設の整備を図る。38年度に必要な経費は、日本原子力研究所関係約1.2億円、原子燃料公社関係約2.1億円および国庫債務負担行為額約8.1億円である。

(2)使用済燃料の再処理

 使用済燃料の再処理については、従来よりその規模、処理方式等について検討を重ねてきたが、一方わが国における原子炉からの使用済燃料が数年後には相当量蓄積することが推定されるので、38年度には原子燃料公社において0.7トン/日〜1トン/日の規模の再処理工場を対象として基礎

 資料購入および詳細設計をすすめるほか、日本原子力研究所においては研究のためのホットケーブを整備する。このために38年度に必要な経費は、原子燃料公社関係約1.7億円および国庫債務負担行為額約6.1億円、日本原子力研究所関係約1.1億円および国庫債務負担行為額約3.1億円である。

(3)国産動力試験炉

 わが国における原子力開発の自主性を高め、技術水準を向上させ、その総合的開発能力を一段と育成するためには、将来性の期待できる動力炉の開発を自らの手で基礎から建設まで一貫して行なうことが最も効果的であるので、わが国における研究開発機関の参加を求め、日本原子力研究所を中心として開発研究に着手する。38年度には概念設計、実験炉、一次設計、実施計画の検討を行ない、燃料体の開発研究に着手する。これに要する38年度経費は約0.6億円である。

(4)人形峠鉱山の試験的開発

 国産ウラン鉱石を対象とする採鉱、製錬の技術は、今日までの試験によって一応の成果を得たのでパイロットプラント規模による工業化試験を実施し、将来の本格的生産に備える。このために、1日あたり鉱石処理量50トン程度の規模の粗製錬試験工場を、人形峠鉱山に建設する。これに要する38年度経費は約1.1億円および国庫債務負担行為額約1.3億円である。

5.動力炉国産化の研究助成等

 民間における動力炉の研究開発については、技術導入によりある程度技術水準も高められてきているが、わが国の特殊事情からみて必要な開発に対し研究助成を行ない、動力炉国産化の基盤を早急に確立することとする。

 このため、研究委託費の対象としては、わが国の特殊事情に適応した安全設計、事故解析等の研究に重点をおき、また、研究費補助金の対象としては、国産技術の進歩改良、ならびに軽水炉、ガス冷却炉の海外技術の消化に重点をおき、なお、原子力開発の進展に伴い、原子炉用材料、燃料の照射試験が必要欠くべからざるものとなってきたので、38年度においては、とくにこれに対する研究費補助金の枠を新設し、交付方式に特別の配慮を行なう。

 以上に要する38年度助成金および関連経費の総額は約5.3億円である。

6.安全対策

 原子力施設の増加に伴い、その安全確保および緊急時対策の重要性はますます高くなっている。緊急事態に対処するため、原子力施設の緊急時における対策手引書を作成し、これを十分普及せしめる等、必要な施策を行なう。また、原子力施設の密集している東海村地区において安全上必要な施策を強力に押しすすめるため、38年度には科学技術庁の地方支部局として東海原子力事務所を設置する。

 原子力施設の安全性に関する研究および障害防止に関する研究も従来に引き続き、国立試験研究機関、日本原子力研究所、委託事業等により行なう。

 放射線取扱施設から放出される放射性廃棄物の処理な安全に、かつ、適確に行なうため、放射性廃棄物処理事業を38年度に設置を予定している日本アイソトープセンター(仮称)により行なわしめる。

 以上安全対策のため、38年度予算として、約3.0億円および国庫債務負担行為額約0.8億円を見積った。

7.放射能対策

 従来に引き続き、環境、食品、人体等に関する放射能調査の充実を図るほか、新たに人体の被ばく線量の調査を開始するとともに放射能対策に必要な研究をさらにすすめ、放射能対策の基盤の強化を図る。

 38年度におけるこれら放射能対策に必要な経費として1.8億円を見積った。

8.国際協力

 わが国の原子力研究開発の進展と海外における積極的な研究開発の状況からみて、国際間の研究協力の実施、科学者、技術者の交流、資料情報の交換等は、ますますその重要性を増しているので、38年度においてはこれらを積極的にすすめるとともに、とくに留学生の受入れ方式の改善強化を図り、国際協力の実を挙げることとする。

 また、国際原子力機関の加盟国としての活動を強化し、各種国際会議、専門家会議、シンポジウム等へ積極的参加を図る。さらにアタッシェの増強等により、海外の原子力開発情報の積極的吸収を図るとともに、海外諸国との緊密な速けいをとるものとする。

 38年度におけるこれら国際協力に必要な経費として約1.6億円を見積った。

9.人材養成

 原子力関係科学技術者の需要の増大に応ずるため国内の原子炉研修所、アイソトープ研修所および放射線医学総合研究所養成訓練部の施設の拡充整備、研修課程の充実を行なう。

 また、高度の専門技術を習得せしめるため、引き続き海外に留学生を派遣する。

 このための経費として、38年度には約1.0億円を必要とする。

10.原子力開発機関等

(1)日本原子力研究所

 既に述べた事業のほか、放射線化学中央研究所の整備拡充、将来の発展に備えて敷地の購入等併せ38年度において必要な経費は総額約71.3億円(うち政府出資約67.7億円)および国庫債務負担行為額約30.0億円である。また研究者および研究補助者の不足に対処するため207名の増員を行なう。

(2)原子燃料公社

 既に述べた事業に必要な経費を含め、38年度において必要な経費は総額19.1億円(うち政府出資約18.4億円)および国庫債務負担行為額約15.5億円である。また、プルトニウム燃料、使用済燃料再処理等の研究の進展に伴い、34名の増員を行なう。

(3)放射線医学総合研究所

 放射能調査部門の強化、東海支所の充実、研究業務の整備拡充等に必要な経費を併せ、38年度に要する経費は、約7.2億円、および国庫債務負担行為額約0.8億円である。また、これら研究所の充実に伴い、科学研究官1名を含め、111名の増員を行なう。

(4)その他

 国立試験研究機関の原子力部門に必要な経費は総額約7.4億円および国庫債務負担行為額約0.8億円、理化学研究所の原子力部門に必要な経費は約2.3億円および国庫債務負担行為額約4.8億円である。

11.行政機構の拡充

 茨城県東海村およびその周辺には、多数の原子力施設が設置されており、安全上の見地からこれら施設の監督を強化する等の必要が著しくなってきたので、現地に科学技術庁の地方支部分局として東海原子力事務所を設置し、原子力局の事務を分掌させることとする。

 なお、38年度の増員は東海原子力事務所を含め12名とする。

 東海原子力事務所の設置に要する経費は、38年度において、約0.3億円および国庫債務負担行為額約0.1億円を見積った。

昭和38年度原子力関係予算事項別線表

昭和38年度日本原子力研究所支出予算概算総括表


昭和38年度日本原子力研究所収入予算概算額

原子燃料公社に必要な経費


放射線医学総合研究所に必要な経費