廃棄物処理専門部会中間報告書を提出

 廃棄物処理専門部会においては昭和36年3月31日以降、(1)放射性廃棄物の処理ならびに処分についての基本方針の検討、(2)IAEA海洋投棄、パネル勧告案等の検討を議題として、審議を重ねてきたが一応のとりまとめができたので中間報告を提出したので以下に全文を紹介する。

昭和37年4月11日

 原子力委員会
   委員長 三木 武夫殿

廃棄物処理専門部会
部会長 斎藤 信房

 廃棄物処理専門部会は昭和36年3月31日以降、放射性廃棄物の処理ならびに処分についての基本方針の検討およびIAEA海洋投棄パネル勧告案等の検討を目的として審議を重ねてきましたが、ここに現在に至るまでの審議結果をとりまとめましたので中間報告をいたします。

  部会長  斎藤 信房  東京大学教授
  専門委員  左合 正雄  東京都立大学教授
    〃  三宅 泰雄  東京教育大学教授
    〃  田島 英三  立教大学教授
    〃  山本  寛  日本原子力研究所主任研究員
    〃  吉岡 俊男  日本原子力発電(株)技術部長
    〃  桧山 義夫  東京大学教授
    〃  坂本  猛  原子燃料公社企画室長
    〃  佐々木 忠義  東京水産大学教授
    〃  小田  滋  東北大学教授
    〃  宇田 道隆  東京水産大学教授
    〃  角谷 省三  (株)荏原製作所原子力室長
    〃  佐々木 秋生  日本放射性同位元素協会理事
    〃  渡辺 博信  放射線医学総合研究所環境衛生研究部長
    〃  花岡  資  農林省水産庁調査研究部長
    〃  五十嵐 義明  厚生省環境衛生局長
    〃  江上 竜彦  通産省原子力産業参事官
    〃  蜂須賀 国雄  運輸省官房企画課長

審議の経過

 昭和35年10月19日原子力委員会に放射性廃棄物処理懇談会が設けられ処理打合会、処分打合法にわかれて審議をすすめた。

 この懇談会を引継いで昭和36年2月22日廃棄物処理専門部会が設置され、今までに10回の専門部会を開催し、審議が行なわれた。

  第1回専門部会
  昭和36年3月31日
  第2回 〃
  4月25日
  第3回 〃
  5月23日
  第4回専門部会
  6月27日
  第5回 〃
  7月11日
  第6回 〃
  10月31日
  第7回 〃
  11月27日
  第8回 〃
  12月19日
  第9回 〃
  昭和37年2月1日
  第10回 〃
  2月19日

 この間、処理小委員会、処分小委員会が設けられそれぞれ具体的事項について検討された。

I 放射性廃棄物の処理ならびに処分の基本方針の検討

1.基本的な考え方

(1)原子力開発を推し進めるに際して、放射性廃棄物は不可避の副産物であるが、これによるわれわれの生活環境への汚染は、できうる限り避けることが望ましい。

 したがって、現在の知識から安全であることが保証されないような場合には、放射性廃棄物の処分は監視が可能で安全な環境内にとどめるべきである。

(2)一般に放射性廃棄物の処理、処分を具体的に確立するためには、処理、処分によって一般環境の汚染の許される限度を設定することが要請される。この点についてはICRP勧告においても概念的に指摘しているところであるが、放射性廃棄物の処理方針としては、国民線量の立場から放射性廃棄物に対して線量の割り当てを決定することが望ましい。

(3)わが国における放射性廃棄物の国内的な廃棄についてはICRP勧告に沿って法律により規制しているが、放射性廃棄物の処分とくに海洋投棄については国際的にも深い関連があるので、国際的視野において確立すべきであり、またわが国における海洋利用の特殊性よりみて慎重に実施すべきであろう。

(4)放射性廃棄物の処理、処方の分法については、まだ未解決の分野があるので、今後さらにその研究開発を積極的に推進する必要がある。

2.放射性廃棄物の処分

(1)放出地点主義と被曝地点主義

 放射性廃棄物を処分する場合、放射性廃棄物を自己の管理しうる事業所の構内にて管理し十分安全と考えられる方法で構外に放出した後は自ら監視しない放出地点主義に基づくものと、施設周辺をモニターする被曝地点主義に基づくものとにわけて考えることができる。

 この両方式は相対立するものでないことはいうまでもないが、たとえ被曝地点主義をとったとしても、放出口における放出量、放出濃度等のチェックを行なう必要があり、また反対に放出地点主義をとったとしても、一般人の被曝の可能性に対して配慮を怠たるべきでないことは当然である。

 実際面からみれば、廃棄についての経済性、予想される被曝量などから廃棄物の種類、濃度、総量および廃棄の方法、頻度等の要因に応じ、いずれかのシステムに重点が置かれる。

 通常の小規模な放射性同位元素使用施設等ではその使用する放射性同位元素の量および種類からみて放出地点主義に基づいて放出して差支えないと考えられる。ただ、河川に相当の頻度をもって放射性同位元素を廃棄するような場合とか、使用している放射性同位元素が特殊なものである場合などについては、被曝地点主義的な面も考慮する必要がある。

 また原子炉施設等ではその事業の規模、処分される廃棄物の総量などから被曝地点主義に重点を置くことが適当である。

 さらに、原子力船は海上を自由に航行するものであるから廃棄物管理のやり方は放出地点主義によらざるを得ないが、放出地点の選定、放出濃度、放出頻度等は当然被曝地点主義的な考え方によって慎重に決定すべきであろう。

 環境のモニタリングについては一般公衆に対する障害防止という立場と一地区に二つ以上の事業所が集中している場合、これを総合するという立場から国または地方自治体等の第3者機関によって事業所の行なったモニタリング結果を検討するかまたは別個のモニタリングを行なう必要があろう。

(2)処分方式

 放射性廃棄物の処分の方法としては、大別して閉込め方式、拡散方式および準閉込め方式が考えられる。

 閉込め方式とは放射性廃棄物を一定地点に安全に閉込めて一般環境へ廃棄物が出ていかないようにする方式であって、たとえば、現在各国が行なっている使用済燃料再処理の高レベル廃液などのタンク貯蔵がこの方式に属する。

 拡散方式とは一般環境の拡散能力を巧みに利用して、廃棄物が安全な程度に拡散されるようにする方式で、たとえば低レベル廃棄物のうちごく低いものを海洋に廃棄する場合がこれである。

 準閉込め方式とは、一般環境の一部を使用しても放射能の人間への還元がきわめてすくなく、なんらの障害もおこさないような方式によって廃棄物を一般環境へ放出する方式である。たとえば、天然の地質構造の利用がこれに相当する。すなわち土壌のイオン交換能を利用し、放射性物質が地下水にまで浸透してくる所要時間などを計算し、その地下水を利用するときはもはやその放射能が十分安全な低いレベルになっているようにする方式である。

 準閉込み方式はちょう密な人口、狭あいな国土、複雑な地質構造、地震などの多い環境条件などからわが国においてはその実施が困難と考えられる。

 低レベルの液体、気体の放射性廃棄物のうちごくレベルの低いものについては、公衆の障害防止上一般に安全と認められるので、拡散方式によって差支えないであろうが、低および中レベルの廃棄物は適切な処理方式によってこれを閉込め方式により処分すべきであろう。

 高レベルの放射性廃棄物に対しては放射線障害防止の立場から閉込め方式を廃棄物処分の原則とすべきである。

 この原則に基づいて、まず、実行可能と考えられる最終処分方式を選び、最終処分の形にまで持って行くための処理方式の開発研究を行ない、経済性、安全性について総合的に実用性を検討し、わが国情に適した最終処分方式を確立すべきである。

(3)最終処分方式

 高レベルの放射性廃棄物の処分方式としては現状では閉じ込め方式を原則とすべきであることは前述のとおりであるが、現在各国が行なっているタンク貯蔵等の閉じ込め方式は常に監視を必要とするので最終的な処分とはいえない。したがって処分を行なった後は管理を要しない段階の処分方式すなわち最終処分方式を確立する必要がある。

 この最終処分方式としては次の2方式があげられる。

(i)容器に入れて深海に投棄すること。

(ii)放射性廃棄物を人の立ちいることの不可能なかつ漏洩の恐れのない土中に埋没したり、天然の堅牢な洞窟あるいは岩石層に入れること。

 これらの方式については放射性廃棄物の最終処分の問題の重要性にかんがみ、経済性、安全性について最も望ましい方式を確立するため、大きな努力を払って研究を進めなければならないが、国土が狭あいで、地震のあるわが国では最も可能性のある最終処分方式としては深海投棄であろう。

 このため、海洋投棄を目標として処理方式および容器等についての総合的な研究開発を強力に行なう必要がある。

 なお、現状では容器に入れ海洋に投棄する場合でも、廃棄物は低および中レベルのものに止めるべきで、高レベルのものについてはその研究の進展により、安全性が確認されるまでは行なうべきでないと考える。

 現行の放射線障害防止法では、放射性廃棄物の土中埋没は認められていない。わが国における地下水の分布とその利用状況、人口の分布状況などからみて、放射性廃棄物の土中埋没による処分は好ましい方法ではなく、今後も現行法通り禁止すべきであると考える。

 しかし、人の立ち入ることの不可能でありかつ漏洩のない土中、天然の堅牢な洞窟あるいは岩石層無人島など放射性廃棄物の処分の可能な場所の調査発見には努力すべきであろう。

3.海洋処分

(1)海洋処分と放射能レベル

 低レベルの放射性廃棄物のうちごくレベルの低いものは拡散方式によって海洋に廃棄して差支えないと考えられる。また低および中レベルのものは容器に封入し深海に処分することは許されてよいと考えられる。しかし、この場合でも投棄場所、投棄の頻度および全放射能の組成と量はもちろんのこと、海洋投棄の容器については一定の制限をもうけて行なうべきである。さらに容器の材料、包装(package)等安全性に関連ある重要要素についてはさらに研究を推進する必要がある。

(2)モニタリング

 放射性廃棄物の海洋処分により国民に還ってくる放射能による被ばく量を推定し、またそれによる放射線障害を防止するため、海洋処分の地点と関連せしめた海洋モニタリングを計画的に実施する必要がある。そのためさらにモニタリング方法、サンプリング等の調査研究および標準化を推進すべきであるが、それと共に処分地点と関連させたモニタリングすべき海域、地点、回数、記録の保持方法およびモニタリング結果の評価方法等を確立する必要がある。

 また海洋のモニタリングはその性格および目的からみて国または地方自治体が行なうのが適当であると考える。

(3)海洋投棄の地点

 放射性廃棄物の海洋投棄の場所としては、日本の周辺の大陸柵およびその外縁は利用度がきわめて高い点からみて許されるべきではない。また、大陸柵およびその外縁以外の一般公海も、場所により魚場として、相当ひろく利用されている所もあり、また船舶航路、海底電線、海洋学的な条件などをも十分考慮する必要があるので投棄場所は将来法令で指定し、その海域に対してのみ処分すべきであろう。なお投棄に際してはその都度国の許可を得る必要があろう。

 なお処分の詳細な記録は当該事業所および国、その他適当な機関で保有しておくことが必要である。

 また漁業その他の観点からわが国にとって利害関係のある公海については、特に利害関係の深い海域を保護区域(protected zone)として指定することを国際的な観点において考慮することが必要であろう。

(4)海洋投棄に関する研究開発

 拡散方式を除く海洋処分の方法としては容器に入れて深海に投棄する方法が適当であることはすでに述べたが、放射性廃棄物を容器に入れ深海に投棄する場合でも現段階では種々未解決の問題が残されているのでつぎのような研究を推進すべきである。

(i)ガラス化その他による廃棄物の固化方法

(ii)耐圧、耐蝕容器の試作とその試用研究

(iii)投棄の対象となる海域について海洋の諸要素たとえば海流(特に底層流)海底の地形、構造、生物相などについての調査研究

(iv)海洋生物における放射性同位元素の濃縮の調査研究

(v)海洋モニタリングの方法

 なお、海洋に放射性廃棄物を実験的に処分してその影響を調査することは慎重な計画と相当な規模および経費をついやせば、相当の効果も期待されるが現状では色素等の利用その他物理的、化学的および生物学的な方法によって推定する方法を採用すべきであろう。

4.事故対策

 放射性廃棄物の処理、処分、保管、輸送等の過程において発生する事故原因としては、地震、洪水などの天災、火災、管理および運転の誤り、交通事故装置等の故障、容器の破損などが考えられる。

 放射性廃棄物の量と質に応じて、安全性および障害防止の面から、耐火性、耐震性、立地条件などをあらかじめ考慮して廃棄物の処理、処分、保管を行なうべきであり、また、装置、容器等の材質、安全面を考慮して決定すべきであろう。また運転、管理は十分に検討された作業基準に従って行なうようすべきである。

 さらに実際に各種の事故の起こった場合を想定し、その障害の影響する程度、範囲の推定方法、取るべき安全対策、汚染除去方法など具体的に確立しておく必要がある。

(あとがき)

 放射性廃棄物の処分による人類の福祉への悪影響をできるかぎり少なくすることは当然であり、その努力には万全をきすべきであるが、現在の科学水準からみて可能な処分方式について検討した。

 この中間報告では放射性廃棄物に対し、低、中、高レベルという区分をしたが、この各々については今後具体的方法を確立するためには客観的に定義することが必要であるので、今後引き続き検討する予定である。また、本報告中に述べた基本的な方針は定性的なものであって、これを実施するに当っては問題ごとに各種要因を解析して定量的にする必要があるので、この点さらに審議を重ねる方針である。わが国の放射性廃棄物の処理、処分の具体的方式を確立するために今後積極的な試験研究の成果にまつところが大きいと考えるのでその推進を強く要望するものである。

II IAEA放射性廃棄物の海洋投棄に関するパネル勧告案等の検討

 1958年10月以来数回にわたり開催された放射性廃棄物の海洋投棄に関するパネル(ブリニールソンパネル)、1961年1月開催された放射性廃棄物の海洋投棄に関する法律問題パネル(ルソーパネル)、1961年4月開催された放射性廃棄物の海洋投棄に対するモニタリングに関するパネルおよび1961年9月開催された放射性廃棄物の海洋投棄に関する科学、法律、合同パネルについてそれぞれパネル出席者から本専門部会に対し報告が行なわれた。

 このうち1960年4月に出されたブリニールソンパネル報告書(ブリニールソン報告)は廃棄物処理懇談会の処分打合会で検討し、これに対する意見をまとめている。その内容については参考を参照されたい。

参 考

IAEA「放射性廃棄物の海洋投棄に関するパネル報告」(ブリニールソン報告)の検討

 検討結果

 廃棄物処理懇談会処分打合会では昭和35年10月17日開催された廃棄物処理懇談会の決定に基づき昭和35年11月2日からIAEA海洋投棄に関するパネル報告(プリニールソン報告)の各項目ごとにわが国の事情を考慮しつつ検討した結果、昭和36年2月14日つぎのような結論を得た。

 なお処分打合会の構成員はつぎのとおりである。

 処分打合会構成員

氏 名
所 属
 (長)  三宅 泰雄   東京教育大学
 吉田 耕造   東京大学
 桧山 義夫   東京大学
 庄司 大太郎   海上保安庁
 市川 竜資   放射線医学総合研究所
 猿橋 勝子   気象研究所
 深井 麟之助   東海区水産研究所
 竹内 能忠   気象研究所
 岡野 真治   理化学研究所
 坂岸 昇吉   日本原子力研究所
 渡辺 精一   理化学研究所
 中井 甚二郎   東海区水産研究所
 佐々木 忠義   東京水産大学