一般人の緊急被ばくに関する基本的考え方についての放射線審議会の答申

 一般人の緊急被ばくに関するICRPのステートメントが、原子炉の設置許可に関する審査上重要な関連を有するため、この観点からの同ステートメントに関する意見を求められていた放射線審議会は、8月18日以下のような答申を行なった。

36放審議第1号
昭和36年8月18日

内閣総理大臣 池田勇人殿

放射線審議会会長 木村健二郎

一般人の緊急被ばくに関する基本的な考え方について(答申)

 標記の件について、昭和35年2月4日35原第276号をもって、1959年11月6日付国際放射線防護委員会(ICRP)ステートメントに関する当審議会の意見を求める旨の諮問があったので、同年3月当審議会の部会として緊急被ばく特別部会を設け審議を重ねて来たが、昭和36年7月28日に開催された第9回総会において下記のとおり結論を得たので答申する。


 1959年(昭和34年)英国医学研究審議会(MRC)は、原子炉施設の事故の際に一般公衆が摂取する食物の1日当たりの最大許容摂取量(以下「許容摂取量」という。)を勧告した。

 一方、同年ICRPは、緊急事態の際の原子炉施設の周囲の住民の被ばくについて広範囲の検討を重ねた結果、本問題については許容摂取量を勧告したMRC報告が有益、かつ、健全な解決への道となるという結論に到達した。

 当審議会においても上記諮問に対する答申としてはMRC報告批判を行なうことを適当と認めた。

 同報告に対する当番議会の意見を要約すれば次のとおりである。

1. 許容摂取量の算出に当たり、緊急事態において特に考慮しなければならない放射性核種として、I−131、Sr−89、Sr−90およびCs−137を対象とし、それぞれの核種につき決定蔵器として甲状腺(I−131)、骨または骨髄(Sr−89およびSr−90)および全身(Cs−137)をとりあげたのは妥当と考えられる。

2. MRC報告においては、英国の食物習慣の立場からミルクを重視しているが、わが国の食生活は一般的に欧米の場合と異なる点に留意すべきであると考えられる。

3. 線量の評価単位としてSr−90については年間線量率をとり、その他の核種については集積線量をとっているのは、合理的であると考えられる。

4. 許容摂取量算出の基礎として甲状腺に対するI−131の緊急被ばく線量25remとしているのは、安全な範囲にあるものと考えられる。

5. 許容摂取量算出の基礎として骨または骨髄に対するSr−89の緊急被ばく線量を集積線量15remとし、Sr−90の緊急被ばく線量を年間線量率を1.5remとしているが、安全側に立って閾値がないと仮定してこれらの許容値による白血病誘発の確率を計算しても、その発生率は極めて低いと考えられる。

6. 許容摂取量算出の基礎として全身に対するCs−137の緊急被ばく線量を集積線量10remとしているのは、安全な範囲にあるものと考えられる。

 一方、この許容線量による寿命短縮については、動物実験によってその効果を推定してもその影響は極めて小さいものと考えられる。

7. MRC報告のI−131、Sr−89およびSr−90の3核種の混合被ばくについての考え方は、1958年のICRP勧告の考え方によっているが、上記3核種と、Cs−137との混合被ばくについてもこのICRP勧告の考え方によるべきであると考えられる。