放射線防護条約及び同勧告について 前号でその概要を簡単に紹介した放射線防護条約および同勧告(略称)の全文を本号に掲げることとする。 ◎電離放射線からの労働者の防護に関する条約 (第115号) 国際労働機関の総会は、理事会によりジュネーヴに招集されて、1960年6月1日にその第44回会期として会合し、この会期の議事日程の第4議題である電離放射線からの労働者の防護に関する提案の採択を決定し、この提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定したので、次の条約(引用に際しては、1960年の放射線防護条約と称することができる。)を1960年6月22日に採択する。 第1部 一般規定 第1条 この条約を批准する国際労働機関の各加盟国は、法令、実施細則または他の適当な方法により、この条約を実施することを約束する。この条約の規定を適用するに当たって、権限のある機関は、使用者および労働者の代表者と協議しなければならない。 第2条 1 この条約は、作業の過程において労働者を電離放射線に被曝させるすべての活動に適用する。 2 この条約は、密封または非密封の放射性物質および電離放射線発生装置であって、これらから受ける電離放射線の線量が一定の限度であるため、第1条にいうこの条約を実施するためのいずれかの方法によりこの条約の規定の適用を免除されるものには適用しない。 第3条 1 電離放射線から労働者の健康および安全について労働者を有効に防護することを確保するため、その時利用しうる知識に照らして、あらゆる適当な措置がとられなければならない。 2 この目的に必要な規則および措置が採用され、かつ、効果的な防護に不可欠の資料が利用しうるようにしておかなければならない。 3 前記の効果的な防護を確保するため、
第2部防護措置 第4条 第2条にいう活動は、この部にいう防護を確保するように準備され、かつ、運用されなければならない。 第5条 労働者の電離放射線による被曝をできる限り低い水準に限定するため、あらゆる努力が払われなければならず、また、すべての関係当事者は、不必要な被曝を避けなければならない。 第6条 1 身体の外部または内部の線源から身体に受ける電離放射線の最大許容線量および体内に摂取することができる放射性物質の最大許容量は、第1部の規定に従って、各種類の労働者について定めなければならない。 2 前記の最大許容線量および最大許容量は、知識の進歩に照らして、絶えず検討しなければならない。 第7条 1 放射線作業に直接従事する次の労働者について、第6条の規定に従って、適当な水準を定めなければならない。
2 16才未満のいかなる労働者も、電離放射線を含む作業に従事してはならない。 第8条 放射線作業に直接従事しない労働者であって、電離放射線または放射性物質による被曝のおそれのある場所にいるかまたはその場所を通過するものについて、第6条の規定に従って、適当な水準を定めなければならない。 第9条 1 電離放射線による危険のあることを示すため、適当な警告手段を使用しなければならない。これに関する必要な情報は、労働者に提供しなければならない。 2 放射線作業に直接従事するすべての労働者は、健康および安全に関して労働者を防護するためにとるべき予防手段ならびにその理由については、就業前および就業中において十分な説明を受けなければならない。 第10条 法令は、作業の過程において労働者の電離放射線による被曝を含む作業に関し、同法令に定める方法による通報を行なうことを定めなければならない。 第11条 適用されている水準が守られているかどうかを確認する見地から、電離放射線および放射性物質による労働者の被曝を測定するため、適当な監視が労働者および作業場について行なわれなければならない。 第12条 放射線作業に直接従事するすべての労働者は、就業前または就業直後に適切な医学的検査を受けなければならず、その後も適当な間隔を置いて医学的検査を受けなければならない。 第13条 放射線による被曝の性質もしくは程度またはそれらの組合わせのため、次の措置を直ちにとらなければならない場合については、第1条にいうこの条約の実施方法の1によって定めなければならない。
第14条 いかなる労働者も、適格な医学的助言に反する電離放射線による被曝のおそれのある作業に雇用され、またはその作業に引き続き雇用されてはならない。 第15条 この条約を批准する各加盟国は、この条約の適用を監督するため適切な検査機関を設けるか、または適切な検査が実施されていることを確認することを約束する。 第3部最終規定 第16条 この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知するものとする。 第17条 1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長により登録されたもののみを拘束する。 2 この条約は、2加盟国の批准が事務局長により登録された日の後12ヵ月で効力を生ずる。 3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後12ヵ月で効力を生ずる。 第18条 1 この条約を批准した各加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から5年の期間の満了の後、登録のため国際労働事務局長に通知する文書によってこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、それが登録された日の後1年間は効力を生じない。 2 この条約を批准した各加盟国で、1に掲げる5年の期間の満了の後1年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、さらに5年間拘束を受けるものとし、その後は、この条に定める条件に基づいて、5年の期間が経過するごとにこの条約を廃棄することができる。 第19条 1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准および廃棄の登録をすべての加盟国に通告しなければならない。 2 事務局長は、通知を受けた2番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日について加盟国の注意を喚起しなければならない。 第20条 国際労働事務局長は、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准および廃棄の完全な明細を、国際連合憲章第102条による登録のため、国際連合事務総長に通知しなければならない。 第21条 国際労働機関の理事会は、必要と認める時に、この条約の運用に関する報告を総会に提出しなければならず、また、この条約の全部または一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を審議しなければならない。 第22条 1 総会がこの条約の全部または一部を改める条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
2 この条約は、これを批准した加盟国で改正条約を批准していないものについては、いかなる場合でも、その現在の形式および内容で引き続き効力を有する。 第23条 この条約の英語およびフランス語による本文は、ひとしく正文とする。 以上は、国際労働機関の総会が、ジュネーヴで開催されて1960年6月23日に閉会を宣言されたその第44回会期において、正当な採択した条約の真正な本文である。 以上の証拠として、われわれは、1960年8月8日に署名した。 総会議長 ルイス・アルヴァラド ◎電離放射線からの労働者の防護に関する勧告 (第114号) 国際労働機関の総会は、理事会によりジュネーヴに招集されて、1960年6月1日にその第44回会期として会合し、この会期の議事日程の第4議題である電離放射線からの労働者の防護に関する提案の採択を決定し、この提案が1960年の放射線防護条約を補足する勧告の形式をとるべきであることを決定したので、次の勧告(引用に際しては、1960年の放射線防護勧告と称することができる。)を1960年6月22日に採択する。 I 一般規定 1 この勧告は、法令、実施細則または他の適当な方法により、実施すべきである。この勧告の規定を適用するに当たって、権限のある機関は、使用者および労働者の代表者と協議すべきである。 2(1) この勧告は、作業の過程において労働者を電離放射線に被曝させるすべての活動に適用する。 (2) この勧告は、密封または非密封の放射性物質および電離放射線発生装置であって、これらから受ける電離放射線の線量が一定の限度であるため、1にいうこの勧告を実施するためのいずれかの方法によりこの勧告の規定の適用を免除されるものには適用しない。 3 1960年の放射線防護条約第3条2の規定の実施のため、すべての加盟国は、国際放射線防護委員会が随時行なう勧告および他の権限のある機関の採択する基準に対し十分な考慮を払うべきである。 II 最大許容水準 4 1960年の放射線防護条約第6条、第7条および第8条に掲げる水準は、国際放射線防護委員会が随時勧告する当該数値を十分に考慮して定めるべきである。さらに、体内に摂取することができる空気および水中の放射性物質の最大許容濃度はこれらの水準に基づいて定めるべきである。 5 1960年の放射線防護条約第6条、第7条および第8条に掲げる最大許容水準ならびに、4に掲げる体内に摂取することができる空中および水中の最大許容濃度をこえないことを確保するため、集団的および個人的防護について適切な措置が執られるべきである。 III 有資格者 6 使用者は、放射線防護問題を企業のために担当する有資格者を任命すべきである。 IV 防護方法 7(1) 集団的防護方法により有効な防護が確保される場合には、施設面および作業面のいずれについてもこれが優先すべきである。 (2) 集団的防護方法で不十分な場合には、個人的防護設備を使用し、および必要に応じ、適切な防護措置をとるべきである。 8(1) 防護装置、機械および器具は、すべて、それが意図する目的を達成するように設計されるかまたは改造されるべきである。 (2) 防護装置、機械および器具について、それが好調であるか、満足に操作されているか、適切に配置されているか、所要の防護機能を果たしているかどうかを確認する目的で、定期検査を行なうためのあらゆる適切な措置をとるべきである。特に、防護装置、機械および器具は、使用前および作業工程、設備または遮蔽に変更を生じたときは、そのつど検査すべきである。 (3) 防護装置、機械および器具に発見されたいかなる欠陥も、直ちに修理すべきである。もし必要ならば、このような欠陥があるものが取り付けられている設備は、直ちに使用をやめ、欠陥が除去されるまで使用すべきではない。 (4) 権限のある機関は、防護設備、特に監視設備の主要な点について適切な方法で、かつ、定期的に検査することを要求すべきである。 9(1) 非密封線源は、その毒性に対し十分な考慮を払って取り扱うべきである。 (2) 取扱方法は、放射性物質が体内に侵入する危険および放射性汚染の拡大を最小限度にとどめる見地から選定すべきである。 10 あらかじめ、次のことについて計画を樹立すべきである。 (a)放射性汚染の危険のある放射性物質の密封線源からの漏洩または同線源の破損を、できるだけ急速に検知すること。 (b)必要な場合には、すべての関係機関の即時の協力を得て、放射性汚染の拡大を防止するため、および除染を含むその他の適当な安全予防手段を適用するため、直ちに改善措置をとること。 11 労働者を電離放射線による被曝を含む線源およびこのような被曝または放射性汚染のおそれのある区域は、適当な場合には、わかりやすい警戒手段で表示すべきである。 12 企業が使用または貯蔵する放射性物質のすべての線源については、密封たると非密封たるとを問わず、適当に記録しておくべきである。 13(1) 権限のある機関は、放射性物質を使用または所有する使用者または企業に対し、これらの物質の使用について所定の様式に従い報告を提出するよう要求すべきである。 (2) 権限のある機関は、放射性物質を使用しない場合にそれを貯蔵しておくべき条件を定めるべきである。 14 いかなる放射性物質も、権限のある機関の定める通告を行なうことなく、他の使用者または企業へ移動されるべきではない。 15(1) 放射性線源の紛失、置き忘れ、盗難または損傷があったと信ずる理由のある者は、6に掲げる有資格者に対し、またはこれが不可能なときは、有質格者にできる限りすみやかに通報すべき責任を有する他の者に対し、直ちに通報すべきである。 (2) 紛失、盗難または損傷が確認された場合には、権限のある機関に対し、遅滞なく通報すべきである。 16 放射線作業に妊娠可能な年令の婦人を従事させることに伴う特殊の医学的問題の見地から、当該婦人が強度の放射線の危険にさらされないようにするためあらゆる考慮を払うべきである。 V 監視 17(1) 適用されている水準が守られているかどうかを確認する見地から、電離放射線および放射性物質による労働者の被曝を測定するため、適切な監視が労働者および作業場について行なわれるべきである。 (2) この監視は、外部放射線については、フィルム、線量計その他の適当な方法で行なわれるべきである。 (3) この監視は、内部放射線については、最大許容水準に近いか、またはそれをこえたと信ずる理由のある場合には、次の事項に関する検査を含むべきである。
(4) 監視は、全身被曝の測定のほか、最大の障害を受けるおそれのある身体の部分に対する部分被曝の測定を可能にするものであるべきである。 18 権限のある機関は、適当なときは、作業場を離れる者の手、身体および衣服の汚染を検知する目的で検査を行なうことを要求すべきである。 19 1960年の放射線防護条約およびこの勧告の規定に従って監視を行なう者は、この業務を遂行するのに十分な設備および便宜を提供されるべきである。 VI 医学的検査 20 1960年の放射線防護条約に掲げるすべての医学的検査は、適当な資格を有する医師によって実施されるべきである。 21 1960年の放射線防護条約第13条に掲げる場合については、すべての必要な特殊の医学的検査が実施されるべきである。 22 前諸項に掲げる医学的検査の経費は、労働者に負担させるべきではない。 23 前記の医学的検査を行なう医師には、当該労働者の労働条件を確認するために十分な便宜を提供すべきである。 24 前記の医学的検査を受けるすべての労働者については、権限のある機関の定める要件に従って健康記録が作成され、かつ保存されるべきである。 25 その健康記録は、全国的に標準化された形式のものとすべきである。 26 労働者の集積線量が雇用に関連して考慮されるため、実行可能な限り、24に定める労働者が作業の過程において受けたすべての線量に関する完全な記録が保存されるべきである。 27 1960年の放射線防護条約第14条に定める医学的助言の結果、通常の雇用において電離放射線による被曝を今後受けることが望ましくないとされた労働者については、適当な代替的雇用を与えるため、あるゆる合理的な努力を払われるべきである。 VII 検査および通報 28 1960年の放射線防護条約第15条に掲げる検査機関は、放射線障害に十分精通し、かつ、電離放射線防護について助言を行なう資格のある者を相当数保有するか、またはそれらの者をいつでも利用しうるようにしておくべきである。 29(1) この検査機関の代表者には、施設、器具または作業方法に認められる欠陥であって、電離放射線により労働者の健康または安全に脅威をもたらすと信じられる合理的な理由があるものについては、これを改善するための措置をとる権限を与えるべきである。 (2) この検査機関の代表者が前記の措置をとることができるようにするため、法令に定める司法または行政機関に提訴する権利を留保して、代表者は、次のことを要求する命令を発しまたは発せしめる権限を与えられるべきである。
30(1) すべての加盟国は、電離放射線の線源の分布および使用を監督する措置をとるべきである。 (2) これらの措置は、次のことを含むべきである。
31 使用者は、権限のある機関に対し、その定める通報を、電離放射線による被曝を含む作業の最終的停止について行なうべきである。 VIII 使用者および労働者の協力 32 使用者および労働者の双方は、電離放射線防護措置の実施に際しもっとも緊密な協力を確保するため、あらゆる努力を払うべきである。 以上は、国際労働機関の総会が、ジュネーブで開催されて1960年6月23日に閉会を宣言されたその第44回会期において、正当な採択した勧告の真正な本文である。 以上の証拠として、われわれは、1960年7月20日に署名した。 総会議長 ルイス・アルヴァラド |