原子力損害の賠償に関する法律

目次

第1章 総則(第1条・第2条)
第2章 原子力損害賠償責任(第3条−第5条)
第3章 損害賠償措置
  第1節 損害賠償措置(第6条・第7条)
  第2節 原子力損害賠償責任保険契約(第8条・第9条)
  第3節 原子力損害賠償補償契約(第10条・第11条)
  第4節 供託(第12条−第15条)
第4章 国の措置(第16条・第17条)
第5章 原子力損害賠償紛争審査会(第18条)
第6章 雑則(第19条−第23条)
第7章 罰則(第24条−第26条)

  附則

  第1章 総則

(目的)
第1条 この法律は、原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め、もって被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。

(定義)
第2条 この法律において「原子炉の運転等」とは、次の各号に掲げるもの及びこれらに附随してする核燃料物質の運搬、貯蔵又は廃棄をいう。

一 原子炉の運転
二 加工であって政令で定めるもの
三 再処理であって政令で定めるもの
四 核燃料物質の使用であって政令で定めるもの

2 この法律において「原子力損害」とは核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ばすものをいう。)により生じた損害をいう。ただし、次条の規定により損害を賠償する真に任ずべき原子力事業者の受けた損害及び当該原子力事業者の従業員の業務上受けた損害を除く。

3 この法律において「原子力事業者」とは、次の各号に掲げる者(これらの者であった者を含む。)をいう。

一 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号。以下「規制法」という。)第23条第1項の許可(承認を含む。次号及び第3号において同じ。)を受けた者(同法第39条第5項の規定により原子炉設置者とみなされた者を含む。)
二 規制法第13条第1項の許可を受けた者
三 規制法第52条第1項の許可を受けた者
四 日本原子力研究所
五 原子燃料公社

4 この法律において「原子炉」とは、原子力基本法(昭和30年法律第186号)第3条第4号に規定する原子炉をいい、「核燃料物質」とは、同法同条第2号に規定する核燃料物質(規制法第2条第7項に規定する使用済燃料を含む。)をいい、「加工」とは規制法第2条第6項に規定する加工をいい、「再処理」とは、規制法第2条第7項に規定する再処理をいい、「放射線」とは、原子力基本法第3条第5号に規定する放射線をいう。

  第2章 原子力損害賠償責任

(無過失責任及び責任の集中)
第3条原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する真に任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでない。

2 前項の場合において、その損害が原子力事業者間の核燃料物質の運搬により生じたものであるときは、当該核燃料物質の受取人である原子力事業者がその損害を賠償する責に任ずる。

第4条 前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責に任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責に任じない。

(求償権)
第5条 第3条の場合において、その損害が第三者の故意又は過失により生じたものであるときは、同条の規定により損害を賠償した原子力事業者は、その者に対して求償権を有する。ただし、その損害が原子炉の運転等の用に供される資材の供給又は役務(労務を含む。)の提供(以下「資材の供給等」という。)により生じたものであるときは、当該資材の供給等をした者又はその者の従業員に故意があるときに限り、これらの者に対して求償権を有する。

2 前項の規定は、求償権に関し特約をすることを妨げない。

  第3章 損害賠償措置

    第1節 損害賠償措置

(損害賠償措置を講ずべき義務)
第6条 原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置(以下「損害賠償措置」という。)を請じていなければ、原子炉の運転等をしてはならない。

(損害賠償措置の内容)
第7条 損害賠償措置は、原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結若しくは供託であって、その措置により、1工場若しくは1事業所当たり(原子炉を船舶に設置する場合にあっては、1隻当たり)50億円(政令で定める原子炉の運転等については、50億円以内で政令で定める金額とする。以下「賠償措置額」という。)を原子力損害の賠償に充てることができるものとして科学技術庁長官の承認を受けたもの又はこれらに相当する措置であって科学技術庁長官の承認を受けたものとする。

2 科学技術庁長官は、原子力事業者が第3条の規定により原子力損害を賠償したことにより原子力損害の賠償に充てるべき金額が賠償措置額未満となった場合において、原子力損害の賠償の履行を確保するため必要があると認めるときは、当該原子力事業者に対し、期限を指定し、これを賠償措置額にすることを命ずることができる。

3 前項に規定する場合においては、同項の規定による命令がなされるまでの間(同項の規定による命令がなされた場合においては、当該命令により指定された期限までの間)は、前条の規定は、適用しない。

    第2節 原子力損害賠償責任保険契約

(原子力損害賠償責任保険契約)
第8条 原子力損害賠償責任保険契約(以下「責任保険契約」という。)は、第3条の規定による原子力事業者の損害賠償の責任が発生した場合において、一定の事由による原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を保険者(保険業法(昭和14年法律第41号)又は外国保険事業者に関する法律(昭和24年法律第184号)に基づき責任保険を営むことができる者に限る。以下同じ。)がうめることを約し、保険契約者が保険者に保険料を支払うことを約する契約とする。

第9条 被害者は、損害賠償請求権に関し、責任保険契約の保険金について、他の債権者に優先して弁済を受ける権利を有する。

2 被保険者は、被害者に対する損害賠償額について、自己が支払った限度又は被害者の承諾があった限度においてのみ、保険者に対して保険金の支払を請求することができる。

3 責任保険契約の保険金請求権は、これを譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、被害者が損害賠償請求権に関し差し押える場合は、この限りでない。

    第3節 原子力損害賠償補償契約

(原子力損害賠償補償契約)
第10条 原子力損害賠償補償契約(以下「補償契約」という。)は、第3条の規定による原子力事業者の損害賠償の責任が発生した場合において、責任保険契約によってはうめることができない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を納付することを約する契約とする。

2 補償契約に関する事項は、別に法律で定める。

第11条 第9条の規定は、補償契約に基づく補償金について準用する。

    第4節 供託

(供託)
第12条 損害賠償措置としての供託は、原子力事業者の主たる事務所のもよりの法務局又は地方法務局に、金銭又は総理府令で定める有価証券によりするものとする。

(供託物の還付)
第13条 被害者は、損害賠償請求権に関し、前条の規定により原子力事業者が供託した金銭又は有価証券について、その債権の弁済を受ける権利を有する。

(供託物の取りもどし)
第14条 原子力事業者は、次の各号に掲げる場合においては、科学技術庁長官の承認を受けて、第12条の規定により供託した金銭又は有価証券を取りもどすことができる。

一 原子力損害を賠償したとき。
二 供託に代えて他の損害賠償措置を講じたとき。
三 原子炉の運転等をやめたとき。

2 科学技術庁長官は、前項第2号又は第3号に掲げる場合において承認するときは、原子力損害の賠償の履行を確保するため必要と認められる限度において、取りもどすことができる時期及び取りもどすことができる金銭又は有価証券の額を指定して承認することができる。

(命令への委任)
第15条 この節に定めるもののほか、供託に関する事項は、総理府令・法務省令で定める。

  第4章 国の措置

(国の措置)
第16条 政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者が第3条の規定により損害を賠償する責に任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。

2 前項の援助は、国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする。

第17条 政府は、第3条第1項ただし書の場合においては、被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにするものとする。

  第5章 原子力損害賠償紛争審査会

(原子力損害賠償紛争審査会)
第18条 科学技術庁に、附属機関として、原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲介を行なわせるため、政令の定めるところにより、原子力損害賠償紛争審査会(以下「審査会」という。)を置くことができる。

2 審査会は、次の各号に掲げる事務を処理する。

一 原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行なうこと。
二 前号に掲げる事務を行なうため必要な原子力損害の調査及び評価を行なうこと。

3 前2項に定めるもののほか、審査会の組織及び運営並びに和解の仲介の申立及びその処理の手続に関し必要な事項は、政令で定める。

  第6章 雑則

(国会に対する報告及び意見書の提出)
第19条 政府は、相当規模の原子力損害が生じた場合には、できる限りすみやかに、その損害の状況及びこの法律に基づいて政府のとった措置を国会に報告しなければならない。

2 政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力委員会が損害の処理及び損害の防止等に関する意見書を内閣総理大臣に提出したときは、これを国会に提出しなければならない。

(第10条第1項及び第16条第1項の規定の適用)
第20条 第10条第1項及び第16条第1項の規定は、昭和46年12月31日までに第2条第1項各号に掲げる行為を開始した原子炉の運転等に係る原子力損害について適用する。

(報告徴収及び立入検査)
第21条 科学技術庁長官は、第6条の規定の実施を確保するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し必要な報告を求め、又はその職員に、原子力事業者の事務所若しくは工場若しくは事業所(原子炉を船舶に設置する場合にあっては、その船舶)に立ち入り、その者の帳簿、書類その他必要な物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。

2 前項の規定により職員が立ち入るときは、その身分を示す証明書を携帯し、かつ、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。

3第1項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

(通商産業大臣又は運輸大臣との協議)
第22条 科学技術庁長官は、第7条第1項の規定による処分又は同条第2項の規定による命令をする場合においては、あらかじめ、発電の用に供する原子炉に係るものについては通商産業大臣、船舶に設置する原子炉に係るものについては運輸大臣に協議しなければならない。

(国に対する適用除外)
第23条 第3章、第16条及び次章の規定は、国に適用しない。

  第7章 罰則

第24条 第6条の規定に違反した者は、1年以下の懲役若しくは10万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第25条 次の各号の一に該当する者は、1万円以下の罰金に処する。

一 第21条第1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
二 第21条第1項の規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者第26条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人その他の従業者が、その法人又は人の事業に関して前2条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

附則

(施行期日)
第1条この法律は、公布の白から起算して9月をこえない範囲内において、政令で定める日から施行する。

(経過措置)
第2条 この法律の施行の際現に規制法第23条第1項の許可を受けている者(同法第39条第5項の規定により原子炉設置者とみなされている者を含む。)については、この法律の施行の日から3月間は、第6条の規定は、適用せず、かつ、この法律の規定による改正前の規制法第23条第2項第9号に掲げる事項の変更の許可に係る同法の規定及び同法第78条第3号(同法第23条第2項第9号に係る部分をいう。)の規定は、なおその効力を有する。その期間内に第7条第1項の承認を申請した場合において、その申請について承認又は不承認の処分を受けるまでの間も、同様とする。

2 日本原子力研究所については、この法律の施行の日から3月間は、第6条の規定は、適用しない。前項後段の規定は、その期間内に日本原子力研究所が第7条第1項の承認を申請した場合について準用する。

(科学技術庁設置法の改正)
第3条 科学技術庁設置法(昭和31年法律第49号)の一部を次のように改正する。

第9条第4号の次に次の1号を加える。

四の2 原子力損害の賠償に関すること。

(規制法の改正)
第4条 規制法の一部を次のように改正する。

第20条第2項に次の1号を加える。

五 原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号)第6条の規定に違反したとき。

第23条第2項第9号を削る。

第24条第1項第4号中「核燃料物質、核燃料物質によって汚染された物」を「核燃料物質(使用済燃料を含む。以下同じ。)核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。以下同じ。)」に改め、同項第5号を削る。

第26条第1項中「、第8号又は第9号」を「又は第8号」に改める。

第31条第2項中「第5号並びに」を削る。

第33条第2項に次の1号を加える。

七 原子力損害の賠償に関する法律第6条の規定に違反したとき。

第39条第5項中「、第8号又は第9号」を「又は第8号」に改める。

第56条に次の1号を加える。

六 原子力損害の賠償に関する法律第6条の規定に違反したとき。

第76条中「、第23条第2項第9号、第24条第1項第5号」を削る。

第78条第3号中「、第8号又は第9号」を「又は第8号」に改める。

第5条 この法律の施行前にした行為及びこの法律の施行後この規定による改正前の規制法第26条第1項(同法第23条第2項第9号に係る部分をいう。)の規定がその効力を失う前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

理由

 原子力損害の特殊性にかんがみ、原子力損害が生じた場合における被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資するため、無過失責任、損害賠償措置、国の援助等原子力損害の賠償に関する基本的制度を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。