原子力委員会 昭和36年度原子力開発利用基本計画 昭和36年4月5日原子力委員会決定 原子力委員会は、昭和36年2月8日新たに「原子力開発利用長期計画」を決定発表して、わが国における原子力開発利用の今後進むべき方向を明らかにした。 本年度は、長期計画の初年度として、将来にわたって計画を円滑に推進せしめるため、日本原子力研究所、原子燃料公社をはじめ、大学、国立試験研究機関における研究の推進および施設の整備、民間企業における研究の助成、原子力施設の安全性および放射線障害防止の確保、原子力災害補償制度の確立等に重点をおいて計画を進める。 以下、本年度において果されるべき事業の大綱を示す。 1.開発態勢の整備 (1)研究開発機関の整備 日本原子力研究所においては、JRR-3を完成するとともに、引き続きJPDRおよび軽水炉臨界実験装置の建設、再処理試験用ホットケーブの建設、5.5MeVバンデグラーフの建設、JRR-2用ループの据え付け等既定計画の推進を図る。また本年度においては主として原子力船における遮蔽の研究を行なうためのスイミングプール型原子炉の着工、材料工学試験炉の調査および概念設計、放射線化学中央研究所機構の設置準備等を行なう。 原子燃料公社においては、前年度に引き続き粗製錬および精製錬の工業化試験、燃料要素の検査技術の開発試験等を行なう。また新たに、二段採掘法および水力採掘法の採鉱試験を行なうとともに、再処理、プルトニウム燃料、ウラン濃縮等の研究開発の準備に着手する。 放射線医学総合研究所においては、アルファ線棟、医療用リニアアクセレレータ等の建設に着手する。 また農林省が茨城県下に建設する放射線育種場を完成するほか、電気試験所に大線量の標準測定法の研究のためのリニアアクセレレータを、運輸技術研究所に原子力船安全対策の研究のための高速電子計算機等を設置するほか各国立試験研究機関においても、それぞれの特長を生かした研究を推進するようさらに態勢の整備を図る。 さらに核融合反応については、電気試験所、民間企業等における研究を引き続き推進する。一方名古屋大学に新たにプラズマ研究所が設置されることになっている。 (2)原子力施設の安全性および放射線障害防止 原子力委員会に原子炉安全専門審査会を設け、原子炉安全審査機能の充実強化を図り、原子炉の安全審査に遺憾なきを期する。 さらに原子炉をはじめ、各種の原子力施設の安全性を確保するため、従来に引き続き原子炉等規制法、放射線障害防止法等の施行に万全を期する。また、これらの法律の実施をより有効にするため原子力施設についての検査官制度を確立するとともに、原子炉安全基準等の作成に努力する。 原子力船の安全対策については、「1960年国際海上人命安全条約」の調印に伴い、特に安全性、放射線障害防止等に関連する技術的および法律的諸問題を解明し、必要な措置を講ずる。 放射性廃棄物の処理については、前年度に引き続き日本放射性同位元素協会の行なう処理事業を助成するとともに、放射性廃棄物の処理、ならびに処分についての基本方針、国際原子力機関の海洋投棄パネル勧告等の検討などを行なう。 (3)国際規制物資の管理 核燃料その他国際協定に基づいて入手される物資については、常に適切妥当な管理が必要であるので原子炉等規制法の改正を行ない、管理制度の確立を図るとともに管理の万全を期するものとする。 (4)原子力災害補償制度 「原子力損害の賠償に関する法律」および「原子力損害賠償補償契約に関する法律」の制定により原子力災害補償の基本的制度が確立されるので、その具体化を推進する。 また、原子力施設の従業員に対する放射線障害に関する補償制度についても関係方面と協力してその充実を図る。 (5)原子力施設地帯の整備についての措置 原子力開発体制を確立するためには、原子力のもつ特殊性から考えて今後増加するとみられる大規模な原子力施設について、その立地の適正化を期するとともにその周辺の環境および放射線監視施設の整備を行なうことが必要であるので、これら所要の措置について検討を行なう。 (6)放射能調査 放射能調査は、わが国およびその周辺の放射能分布、生活環境の汚染度等につき調査し、その影響および今後の原子力開発利用の推進に関する基礎資料を作成することを目的として、前年度に引き続き国公立試験研究機関等において、大気、海洋、地表、土壌、動植物、食品、人体等の放射能の調査を行ない、またこのための分析法の確立、測定器の整備充実を図って精度の向上に努める。 (7)原子力産業の育成 原子力産業育成のため関税免除等の税制上の優遇措置をとるほか、民間企業のすぐれた研究に対し補助金および委託費を交付する等の助成措置を積極的に講ずる。 (8)科学技術者の養成訓練 日本原子力研究所原子炉研修所においては、高級課程1回16名および一般課程2回40名の研修を行なうほかJRR-1を利用する短期訓練3回45名の研修を行なう。 日本原子力研究所ラジオアイソトープ研修所においては、基礎課程7回224名および高級課程4回60名の研修を行なう。 放射線障害防止に関しては、放射線医学総合研究所において保健物理部門を主とするコース1回60名の研修を行なう。 大学においては、原子力関係の講座等および研究部門をさらに増設整備して、科学技術者の教育養成を行なうことになっている。 これら国内養成訓練機関の整備状況と照応しつつ、海外の原子力関係科学技術の習得を行なうため前年度に引き続き科学技術者の海外派遣を行なう。 36年度は、このため一般留学生約70名、国際原子力機関フェローシップ約35名の派遣を考慮する。 (9)国際協力 原子力開発利用の進展に伴い、その円滑な推進を図るためには、益々国際協力の必要性が高まって来ている。このため締結された国際協定の円滑な運用を図るとともに、国際原子力機関等の国際機関の業務に積極的な協力を行なう。すなわち米国、英国およびカナダとわが国との間の協定における保障措置の国際原子力機関との協定への移管、放射線防護に関する国際的基準の制定、原子力損害民事責任に関する最少限度の国際的基準に関する国際条約、原子力船運航者の責任に関する国際条約等に関する活動への積極的な参加、協力、技術、経済、技術情報等に関するシンポジウム、パネル、ゼミナー等への出席、理論物理の国際センターの設立のための準備委員会への代表派遣、ユーラトムへの日本代表部の設置による情報交換の促進、欧州原子力機関との接近等、重要な国際協力の活動を行なう。 以上の他国際協力の一環として重要な国際原子力機関による研究活動への協力、すなわち研究契約、技術援助、フェローシップ、共同研究、訓練コース等の計画を推進する。特に、中近東、東南アジアのフェローシップの受け入れを積極的に行ない、国際協力の実を挙げるよう努力する。 これら国際協力関係の増加に伴い、新たに原子力局に国際協力課を設置して体制を整備する。 (10)原子力知識の普及 原子力開発利用の健全な発展を図るため関係機関の協力のもとに、引き続き原子力映画の作成を行なうとともに、原子力デー、講演会、映画、テレビ等による原子力知識の普及活動を活発に行なう。 (11)人員の拡充整備 本年度における計画を遂行するため、日本原子力研究所においては、前年度より150名増員して1,347名とし、原子燃料公社においては50名を増員して526名とし、また放射線医学総合研究所においては63名を増員して288名とする。 さらに原子力行政事務の増大に対処するため原子力局の人員を9名増員して141名とする。 2.原子炉の設置、運転等 (1)日本原子力研究所における原子炉の設置、運転等JRR-1は従来通り定常運転を行ない、共同利用を実施する。 JRR-2については、定常運転に入った後、一部共同利用を開始する。JRR-3の建設工事は上期中にその大部分を終了し、本年度内に臨界試験を行なう。 遮蔽研究の基礎実験および原子力船の遮蔽設計に必要な諸実験を実施するため、新たにスイミングプール型原子炉の建設を関係機関との密接な連絡のもとに推進する。 JPDRについては引き続き建設工事を進め、年度末までに建屋をほぼ完成し、格納容器の据え付け工事を完了する。 また軽水炉臨界実験装置の建設に着手する。 材料工学試験炉については、引き続き調査を行なうとともに、設置計画の検討を進める。 (2)日本原子力発電株式会社における原子炉の設置 日本原子力発電株式会社の発電1号炉については、前年度に引き続きその建設工事が進められるが、発電2号炉については、建設についての予備調査を進めるものとする。 (3)その他の機関における原子炉等の設置および運転 35年度より建設中の私立3大学の教育用原子炉および民間企業の教育訓練用原子炉は本年度内に完成する予定であり、関西方面に設置される予定の大学共同利用原子炉については、設置が具体化されるものと見られる。 さらに大学、民間企業等における臨界および臨界未満実験装置の建設について、その促進を図る。 3.核原料物質の探鉱および採鉱ならびに核燃料の需給 (1)核原料物質の探鉱および採鉱 本年度における核原料物質の探鉱は、前年度に引き続きウラン鉱賦存の可能性がある地域のうち、主として堆積岩地域を対象として行なう。 地質調査所においては、エアーボーン・カーボーン、地質鉱床概査等により約20,000平方キロメートルの地域について放射能強度分布調査を実施するほか、前年度までに実施した調査の結果、放射能強度分布が特に異常な地区に対して地質鉱床概査等を実施し、放射能異常の原因を究明する。 さらに、ウラン鉱床の賦存が推定される数地域については、地質鉱床概査、地化学探鉱等により鉱床調査を実施して、鉱床の賦存状況の概算を明らかにし、今後の探鉱に関する基礎的資料をうる。また、人形峠および東郷鉱山周辺地区に対して地震探鉱を行ない、基盤構造探知の手段としての地震探鉱法の適応性について検討を行なう。 原子燃料公社においては、前年度に引き続き人形峠鉱山および東郷鉱山ならびにそれらの周辺地区に賦存する堆積型ウラン鉱床に重点をおいて探鉱を行なうほか、地質調査所等の行なう基礎調査の結果、有望と認められた地区および原子燃料公社所有鉱区等について随時探鉱を行なうこととし、地質鉱床精査、物理探鉱、地化学探鉱等の地表探鉱延べ約5,000人日、試錐探鉱約21,000メートルおよび坑道探鉱約5,300メートルを実施する。 また、民間企業の行なう探鉱に対しては従来に引き続き探鉱奨励金を交付して、その促進を図る。 採鉱については、原子燃料公社が引き続き人形峠鉱山において採鉱試験を行なうこととし、36年度は、二段採掘法および水力採掘法に関する試験を実施し、安全かつ効率的な採鉱方式の確立を図る。 (2)核燃料の需給 本年度における核燃料の需要量としては、ウラン鉱石約720トン、ウラン精鉱約16トンおよび濃縮ウラン約113キログラム(U235換算)のほか、金属ウラン、ウラン化合物、トリウム化合物等が若干量見込まれる。 ウラン鉱石は、人形峠鉱山および東郷鉱山における探鉱ならびに人形峠鉱山における採鉱試験により供給し、ウラン精鉱はその大半を原子力協定等による輸入に依存するが、一部は国産鉱石の粗製錬工業化試験により供給される。また金属ウランおよびウラン化合物は、原子燃料公社および民間企業の行なう精製錬工業化試験により供給される。また金属ウランおよびウラン化合物は、原子燃料公社および民間企業の行なう精製錬工業化試験によるほか、原子力協定等に基づいて確保するものとする。 濃縮ウランおよびプルトニウムについては、日米および日英の原子力協定により入手する。 4.研究開発 (1)基礎研究 学術的基礎研究、原子炉理論、核物理、固体物理等の基礎研究は、大学のほか日本原子力研究所、国立試験研究機関等が中心となって推進する。 (2)原子炉および関連機器、材料の研究開発
(4)原子力船の研究開発 本研究については、運輸技術研究所において前年度に引き続き振動動揺対策、原子力船の波浪中における運動性能等に関する研究を進めるとともに、新たに原子力船安全対策の研究を行なうため高速電子計算機を設置する。 民間に対しては、実船を使用して振動、動揺、スラミング等の外力が原子炉に及ぼす影響およびその対策に関する研究、原子力船における遮蔽計算に関する研究、原子力船の設計に関する研究等を期待し、これらの助成を行なうこととする。 また、日本原子力研究所に主として原子力船の遮蔽研究を行なうためのスイミングプール型遮蔽研究用原子炉を設置する。 (5)核融合反応の研究 本研究については、大学、電気試験所および民間企業における高温プラズマの発生、測定法、測定器等についての研究を引き続き推進するとともに、民間に対しては助成を行ない、大学における研究と緊密な連けいを保ち効率的に研究を進める、また日本原子力研究所においては直接発電方式との関連において核融合反応の予備的研究およびMHD方式直接発電の予備実験に着手する。 (6)アイソトープ利用の研究開発
(7)放射線化学の研究開発 日本原子力研究所、国立試験研究機関および民間企業において、前年度に引き続き高分子の加圧重合、グラフト重合、固体重合、低分子化学の反応促進、触媒の活性化、食品の殺菌保蔵、木材に対する放射線効果の研究等を行なうとともに、民間における放射線による化学反応の促進、放射線による物質の改善、放射線化学用線源の開発等に関する研究の助成を行なう。 また、日本原子力研究所においては、放射線化学中央研究機構の設置準備を進め、今後の研究開発に備えることとする。 (8)放射線障害防止に関する研究開発
(9)原子力施設の安全性に関する研究 原子力施設の安全性に関する研究は、特に強力に推進するものとするが、本年度においては日本原子力研究所による研究炉の特性および安全性の研究、遮蔽に関する研究、原子炉の動特性に関する研究ならびに汚染の検出および除去に関する研究、気象研究所による放射性汚染ガスの拡散に関する研究、建築研究所によるコンテナの耐震設計基準に関する研究等を実施するほか、民間における原子力施設の事故解析、安全設計等に関する研究の助成を行なう。 5.予算 この基本計画を遂行するために必要な原子力予算は7,683,572千円、債務負担額1,838,576千円であり、その内訳は下表のとおりである。 昭和36年度原子力関係予算 |