放射線障害防止法施行令等の改正について

 「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」は、その一部を放正する法律がさる5月2日に昭和35年法律第78号として公布されていたが、このたび、10月1日から施行されることとなった。この法改正に伴って、同法施行令等に所要の改正を行なう必要があった。一方、国際放射線防護委員会(ICRP)は昭和33年9月に、従来の勧告に代わる新たな勧告を行なったので、この新勧告の趣旨に沿うよう同法施行令等に所要の改正を行なう必要もあったので、この際、これら2点以外の諸点についても法施行後の経験にかんがみて全面的な再検討を行なった結果、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令」、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行規則」および「放射性同位元素の数量等を定める件(告示)」の全面改正を行なうこととし、それぞれ、昭和35年政令第259号、昭和35年総理府令第56号および昭和35年科学技術庁告示第22号として、いずれも、9月30日に公布し、翌10月1日から施行された。

 なお、従来の「放射線取扱主任者試験の実施細目および放射線取扱主任者免状の交付等に関する規則」は廃止し、その内容は、すべて、新施行規則のなかに包含されている。

 なお、国際放射線防護委員会の新勧告は、従来の勧告の短期間の被ばく量許容値をもとにした考え方を大幅に修正し、個人および集団全般の長期間にわたる身体的障害、特に遺伝的障害を考慮して、放射線職業人に対しては13週間線量と集積線量の両方を規定し、間接的作業人および周辺居住人に対しては年間線量を規定している。同委員会は、従来からしばしば放射線からの人体の防護に関する勧告を行なってきているが、国際的にその権威が認められており、また、わが国の放射線関係諸法規は、同委員会の従来の勧告の線に沿って技術的基準が定められてきた。総理府に設置されている放射線審議会でも、新勧告の趣旨を関係法令に取り入れるよう、昭和34年8月と昭和35年2月に、内閣総理大臣あてに意見を具申していた。このような経緯からみて、新勧告の趣旨を採用する必要があったわけである。また、放射線障害の防止に関する技術的基準を定めようとするときは、放射線審議会に諮問しなければならないので、今回の改正にあたっては、施行令、施行規則および告示の改正案のうち技術的基準に関する部分について、昭和35年7月に同審議会に諮問した。翌8月に、審議会から若干の点について修正を要するほか諮問案のとおりで適当である旨の答申が行なわれたので、指摘のあった点については、当初の改正案を修正した。

 改正の要点は、次のとおりである。

 法改正に伴う改正点
(1)使用の届出制の範囲
 法改正によって、密封された放射性同位元素の使用に一部届出制が採用されたが、その範囲を、1工場または1事業所あたりの使用の総量が100ミリキュリー以下の場合とした。

 また、届出使用者の貯蔵施設の基準を許可使用者の場合と同様とし、使用の届出、使用の変更の届出等の手続事項を定めた。

(2)使用の場所の一時的変更の届出
 許可使用者が使用の場所を一時的に変更するときに届出で足りる場合の範囲を、10キュリー以下の密封された放射性同位元素を非破壊検査、地下検層、河床洗掘調査または展覧、展示もしくは講習のためにする実演の目的で使用する場合とした。

(3)廃棄業者に関する規制
 廃棄業者が新たに許可制となったことに伴い、許可の申請等の手続事項を許可使用者および販売業者の場合に準じて定めた。また、廃棄物詰替施設、廃棄物貯蔵施設および廃棄施設の基準、詰替え、保管、運搬および廃棄の基準その他諸義務規定についても、許可使用者および販売業者の場合に準じて定めた。

(4)放射線取扱主任者
 放射線取扱主任者免状を第1種および第2種に区分したことに伴い、第2種放射線取扱主任者免状を有する者を放射線取扱主任者に選任することができる事業所等の範囲を、1工場もしくは1事業所あたりの総量が10キュリー以下の密封された放射性同位元素のみを使用する工場もしくは事業所または密封された放射性同位元素のみを販売する販売所とし、その他の工場、事業所、販売所または廃棄事業所については、第1種のものでなければならないこととした。
 第2種放射線取扱主任者免状に係る試験は、法令および管理技術(測定、物理学、化学および生物学の簡易なものを含む。)の2課目とし、密封された放射性同位元素の取扱いまたは管理に必要な範囲および程度で行なうこととした。

 ICRP新勧告の採用に伴う改正点
(1)管理区域の設定
 外部放射線が1週間につき30ミリレムをこえ、空気中濃度が最大許容空気中濃度の10分の3をこえ、水中濃度が最大許容水中濃度の10分の3をこえ、または表面密度が最大許容表面密度の10分1のをこえるおそれのある場所は管理区域とし、その境界には、壁、さく、なわ張り等を設けなければならないこととした。

(2)放射線作業従事者と管理区域随時立入者の区分
 放射性同位元素、放射線発生装置または放射性廃棄物の取扱い、または管理のために放射線施設または管理区域に常時立ち入る者を放射線作業従業者とし、その他の立入者(一時的立入者を除く。)を管理区域随時立入者とした。この両者に対しては、被ばく量の許容値、被ばく量の記録方法、健康診断の回数等の規定が異なっている。

(3)放射線作業従事者の被ばく量の許容値
 放射線作業従事者の被ばく放射線量は、最大許容被ばく線量(3月間につき3レム)と最大許容集積線量(18才以降平均5レム)との両方をこえないようにしなければならないこととした。ただし、事故の際の緊急作業に従事する場合には、男子に限って、12レムまで被ばくすることができる。

 最大許容集積線量とは、集積線量(その時までに被ばくした総放射線量)についての許容値であり、年令に応じて定められている。年令をN才とすると、5(N-18)がその時における許容値である。

(4)管理区域随時立入者の被ばく量の許容値
 管理区域随時立入者の被ばく放射線量は、1年間につき1.5レムをこえないようにしなければならないこととした。

(5)放射線施設に設けるしゃへい物
 放線線施設には、放射線を、施設内の常時立入場所(作業場所)において1週間につき100ミリレム以下に、かつ、事業所境界および事業所内の居住区域において1週間につき10ミリレム以下にしゃへいする能力を有するしゃへい壁その他のしゃへい物を設けなければならないこととした。

 常時立入場所に対するしゃへいは、放線線作業従事者の年平均5レムの被ばく量許容値に対応しており、事業所の境界等に対するしゃへいは、一般居住人が年間0.5レムをこえて被ばくすることのないように施設面において担保したものである。

(6)空気中または水中の放射性同位元素の濃度
 最大許容空気中濃度および最大許容水中濃度は、1週間につき100ミリレムの外部放射線による被ばく量に対応するように修正された。したがって、一般に、従来の許容値よりも厳格なものとなっているが、しかし、全面的に再検討したので、若干の核種については、従来より緩和されている。また、原則として、8時間の平均濃度を対象とすることが明確にされた。

 内部被ばくの場合の被ばく量の算定にあたっては、最大許容濃度の空気または水を呼吸し、または飲用することが週100ミリレムの放射線量率の外部放射線に被ばくすることに相当するものとして被ばく量を算出することとしている。

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