原子力委員会

昭和36年度原子力予算の委員会決定

総 額 約120億 円

 昭和36年度原子力予算については、原子力局および各省庁からの要求総額180億円(現金分)に対し慎重な検討を重ねていたが、8月24日開催の第36回原子力委員会定例会議において以下のように委員会として調整額を決定した。

 

昭和36年度原子力関係予算見積方針

原子力委員会
35. 8. 24

 わが国における原子力の研究開発は、昭和29年度その緒について以来堅実な発展を示し、研究開発の基盤も着々整備されてきた。しかし、産業構造高度化への寄与あるいは将来におけるエネルギー供給構造の変化等の面において、原子力の開発利用がわが国国民経済上占める地位の重要性を考慮するとき、また積極的に研究開発を進めつつある世界の大勢に照らしてみて、わが国における原子力の研究開発利用の推進には、なおいっそうの努力を傾注する必要がある。

 特に昭和36年度は、近く改訂される原子力開発利用長期基本計画の初年度であり、従来継続してきた基礎および応用両面の研究の深化を進めることはもちろん、新長期計画が指向する新たな課題に対応し、長期的かつ総合的な視野に立った基礎研究の推進、研究開発体制の充実および諸施策の積極的な遂行を期し、長期計画実施の基礎を固める要がある。

 昭和36年度原子力関係予算の見積りにあたっては、各省庁における研究開発の規模および内容の拡大深化に伴い,研究の調整の要はますます大となっているので、総合的見地からきびしく重複を排し、かつ、緊要度のいかんを十分に検討して研究費の最も効率的な使用を心掛け、また人員機構の増大については必要最少限度に止める等思いきった調整を行なった。

 その結果、昭和36年度原子力関係予算は、約120億円となったが、この見積額は、わが国原子力研究開発利用の促進のためには必須の額であり、その確保を強く望むものである。
 以下、昭和36年度において実施すべき主要項目を掲げると次のとおりである。


1.原子炉の運転および建設

(イ)JRR-2に引き続き、新たにJRR-3を運転し、試験研究を行なう。
(ロ)JPDR(動力試験炉)および水冷却炉臨界実験装置の建設を促進する。
(ハ)主として船舶用原子炉の遮蔽研究を行なうため、日本原子力研究所においてスイミングプール型原子炉の建設に着手する。

2.原子炉の開発研穿

(イ)半均質炉等の増殖炉については、日本原子力研究所を中心として試験研究を強力に推進する。
(ロ)引き続き材料試験炉開発のための調査を行なう。
(ハ)その他の原子炉の開発については民間企業における研究を促進する。

3.原子炉に関連する機器および材料の研究

(イ)原子炉に関連する機器について、民間企業に対し助成金を交付して研究を促進する。
(ロ)原子炉および関連機器に必要な材料について、日本原子力研究所、金属材料技術研究所等の研究を強化するとともに、民間企業に対して助成金を交付して研究を促進する。

4.核燃料対策

(イ)核原料物質の探鉱については、地質調査所および原子燃料公社による概査および精査を組織的に行なうとともに核原料物質の採鉱については、将来の採鉱方法を確立するため原子燃料公社において、引き続き採鉱試験を行なう。
(ロ)核燃料の製造については、原子燃料公社において製錬に関するパイロットプラントの連続運転を続行し、製錬方式の確立を図るとともに、日本原子力研究所、原子燃料公社および民間企業における加工、検査等に関する研究を促進する。
(ハ)核燃料の再処理については、日本原子力研究所および原子燃料公社が協力して研究を進める。
(ニ)核燃料の使用増加に伴い、その計画的利用の促進を図り、合わせて国際協定の義務履行を円滑ならしめるため、計量管理制度を確立する。

5.核融合反応および直接発電の研究

(イ)核融合反応については、日本原子力研究所、電気試験所および民間において、高温プラズマおよびその発生装置、測定方法等の研究を推進する。
(ロ)日本原子力研究所においては、プラズマ応用による直接発電の研究に着手する。

6.原子力舶の研究開発

(イ)日本原子力研究所、運輸技術研究所および民間において、原子力船開発に必要な基礎研究を推進する。
(ロ)原子力船の就航に対する準備体制を確立する。

7.放射線利用の研究

(イ)放射線化学については、日本原子力研究所、国立試験研究機関の研究を強化するとともに、民間に助成金を交付し、その施設を整備して研究の促進を図る。
(ロ)日本原子力研究所、国立試験研究機関等における放射線利用をさらに促進する。

8.原子炉安全対策

(イ)原子炉安全審査機構の確立と運営の充実を図るとともに検査機能の拡充に力を注ぎ、原子炉の安全確保に万全を期する。
(ロ)原子炉安全性に関する研究を強化する。

9.放射線障害防止対策

(イ)日本原子力研究所、国立試験研究機関および民間における放射線障害防止のための研究を強化する。
 特に放射線医学総合研究所は、その中心的機関としてさらに研究を推進するとともに、医療用リニアアクセレレータを病院に設置し、放射線診療の機能を拡大する。
(ロ)廃棄物処理については、民間に補助金を交付し、事業の適切な実施を図る。
(ハ)原子炉等規制法、放射線障害防止法等の整備に伴い、検査機能の充実を図り、障害防止の万全を期する。

10.放射能調査
 引き続き放射能調査を実施し、合わせて資料の有効適切な利用を図る。

11.人員の充実と人材の養成

(イ)日本原子力研究所、原子燃料公社、放射線医学総合研究所の施設整備と並行して、研究開発業務を促進するため、引き続き必要な人員の充実を行なう。
(ロ)研究開発の進展に伴い高度な専門技術、知識を必要とする科学者、技術者を養成するため、高級課程および専門課程について、留学生を海外に派遣する。
(ハ)原子炉研修所、アイソトープ研修所、放射線医学総合研究所養成訓練部を拡充し、科学者、技術者の養成を積極的に行なう。

12.国際協力

(イ)国際原子力機関の加盟国として、国際会議を開催する等積極的な協力を行なう。
(ロ)各国の協同開発に協力するため国際的な諸計画へ参画するとともに原子力災害補償制度、原子炉安全基準、放射性廃棄物の投棄基準等国際的基盤に立った国際会議、各種の専門家会議等へ積極的に参加する。
(ハ)アタッシェの増員およびその活動強化により、海外の研究開発情報を積極的に吸収するとともに海外との緊密な連けいを図る。
(ニ)海外との技術交流を円滑に促進するため専門家の招へい、留学生の受入れ、海外調査員の派遣等を行なう。

13.原子力災害補便利度
 第三者に対する原子力災害補償制度を確立し、その適切な運営を図る。
 なお、原子力事業従業員に対する災害補償制度の確立を期する。

14.原子力施設周辺地帯の整備
 原子力施設周辺地帯についての適切な地域計画を可能ならしめる措置および放射線管理体制の整備について検討する。

15.原子力知識の普及
 今後における原子力の開発利用の進展に対応して、原子力に関する正しい知識を一般に普及し、原子炉の開発、放射線利用、原子力平和利用における安全性等について適正な国民常識のかん養に努める。

昭和36年度原子力予算総表