原子力開発利用長期基本計画基礎となる考え方 I 長期基本計画改訂の目的 さきに昭和31年9月、原子力開発利用長期基本計画を内定したときから4年の間に、原子力をめぐる世界および国内の情勢には大きな変化があった。その第1は、海外における核原料面での見通しが好転したこと。第2は、電力需要が予測以上に増大するとともにエネルギー供給構造に大きな変化がおこり、石油が急激に伸びてきたこと。第3に、在来火力発電コストの著しい低下が予想されるに至ったこと。そして第4には、この期間中に原子力関係の技術が進展するに伴い、多くの新しい問題を解明するために必要な研究開発の量の大きさについても、広く認識されるに至ったことなどが挙げられるだろう。 このような情勢の変化がある一方、原子力平和利用に関するわが国の科学的技術的知識もこの間に著しくたかまり、当時はほとんど明らかでなかった問題も、その後次第に数値的にはっきりしつつあり、今後の見通しについても、それだけ正確度をましたと言える状態になってきている。 したがって、今回の長期本計画においては、上述のごとき事情を十分勘案の上、原子力発電、原子力船、核燃料および材料の開発、放射線の利用、核融合ならびにこれらすべての基盤となる研究開発のすすめ方、原子炉の安全性対策、対射線障害防止などを総合的に改めて検討するとともに、開発利用の時期および段階についても再検討を加え、さらに国際的観点に立って、わが国原子力平和利用の健全な発展に最も効果的に寄与するための長期計画をたてるものとする。 II 計画の範囲および期間 原子力開発利用のための長期基本計画をたてるにあたっては、原子力発電および原子力船のごとき動力としての利用、アイソトープ利用および放射線化学のごとき放射線としての利用、核燃料および材料の開発利用、ならびにこれら3部門を開発するための基盤となるべき研究開発のすすめ方の四つの柱をもって計画の基本線とし、さらにIにおいて述べた諸点を十分考慮に入れ、これらを総合的見地に立って調整し策定する必要がある。 本計画は、一応1980年までの20年間を対象とするが、特に前半10年間における原子力開発利用のすすめ方に重点を指向し、この期間についてはできるだけ具体的な計画をたて、後半の10年間については、前半の期間における開発計画が具体化するにしたがって進展すると予想される将来の姿を展望するものとする。 III 計画策定の方針 (1)原子力発電について
(イ)前期段階においては、主として原子力技術の育成発展、技術者養訓成練に資するため、発電用原子炉数基程度を建設する必要がある。この期間の努力が、後期10年あるいはそれ以後の発展を左右するものであることを考え、その推進にあたっては、政府が適切な施策を講ずるとともに、民間の製造者側、使用者側すべての協力が必要である。
(ロ)発電用原子炉型としては、天然ウラン型および濃縮ウラン型につき、経済性および安全性の考慮のもとに、それぞれの特長を生かしつつ、適当に組み合わせて開発するのがよいと考えるが、さしあたっては、黒鉛減速ガス冷却型に引き続き、軽水冷却型について適当な時期に海外技術を導入し、なるべく早くこれらの国産化をはかるものとし、さらに有機材冷却型についても、海外における開発進展とにらみ合わせ開発段階の後半において、必要に応じ技術導入を考慮する。 なお、上記炉型の技術導入に際しては、原子力発電の将来の発電規模との関連において必要な限度の技術提携を認めることとする。
(ハ)前期段階における原子力発電の規模については、上述の理由により必ずしも固定した目標を設定することは適当ではないが、おおよその見通しとしては、1970年において合計100万kW前後と考える。また1970年以降の発電規模については、主としてエネルギーおよび電力需要の見通し、発電施設の利用率、国内原子力技術の発展速度(特にプルトニウムの開発利用)等と関連して検討されねばならないが、一応の推定としては新規火力発電設備建設容量に対し後期10年のうち前半5年間には15%〜20%、後半5年間には20%〜25%程度開発されるものと考える。(経済企画庁の日本経済の長期展望によって推算すれば1980年における原子力発電合計500万〜800万kW)
(ニ)増殖炉については、先進国においてもまだ研究中の段階であるが、将来、核燃料の有効利用をはかるためにも、また熱中性子炉との効果的な組合せによる原子力発電の総合的な効率を高める上にも増殖炉の開発はきわめて重要な課題であり、しかも将来開発がすすめば、他の炉型と経済的に十分競争できると予測されるのみならず、さらに発電コストを低下せしめる可能性もあると考えられるので、上記型式とは別個に適当な熱中性子増殖炉および高速中性子増殖炉につき、1970年代半ばに実用化の段階に入ることを目標として研究開発をすすめる。この場合、なるべくわが国の技術による研究開発を推進するが、同時に海外の技術情報をも積極的に取り入れ、さらには海外機関との共同研究を具体化する等の方法により、効果的に進展せしめるよう努力する。
(ホ)原子力発電が、正常な姿において計画に組み入れられるためには、原子炉安全性の確保が何よりも大切であるので、各方面における安全性に関する研究をひろく推進するとともに、原子炉安全審査体制を確立し、災害補償体制の整備とあいまって、この面における期待に十分応えられるよう措置する。 (2)原子力船について
(イ)原子力船が経済的に引き合うようになるのは、原子炉開発の見通しと関連し、1970年代とみられる。したがって、将来の国際競争に備え、原子力船建造および運航の経験を得るため、適当規模の原子力船1隻を建造する方針を樹立する。その完成は1970年を目標として、それまでに舶用炉をふくめ原子力船国産化の体制を確立するとともに、各分野の研究開発を促進してその成果を上記の原子力船建造に結集するように努力する。
(ロ)原子力船推進用炉型としては、諸外国における経験およびわが国原子力発電用動力炉開発の成果からみて最も適切な炉型を選ぶ必要があるが、現状においては、軽水冷却型が第1船推進用として適当しているものと考えられる。しかしながら、原子力船が実用期に入るころには、上記炉型のほか、有機材冷却型等も有力な可能性をもつものとみられる。
(ハ)原子力船は陸上原子力施設とは異なる事情があるので、原子力船の安全基準、管理体制、造船および港湾施設、災害補償体制等について必要な国内的措置を講じなければならない。これらの措置は、原子力船の建造に看手する前にはっきりした見通しを得ることが必要であり、かつ、海外においても原子力商船が近々に運航される情勢にあるので、わが国としては早急に上記の体制を確立するものとする。
(ニ)さらに原子力船が実用期に入り、これが商業的に運航されるためには、国際的な管理方式、災害補償体制等が完備されている必要があるので、わが国の商業的原子力船の建造に着手すると考えられる1960年代末までには、これらの体制が確立できるように努力する。 (3)核燃料について
(イ)核燃料の供給については、当分の間海外のウラン資源に依存することになろうが、国内資源の探鉱については、さらに積極的にこれをすすめ新たなウラン資源の発見に努力する。
(ロ)採鉱および粗精錬については、上記の探鉱成果および海外ウラン市場の動向とも関連するが、国産資源の活用、技術の育成等の観点から、適当規模においてすすめるものとする。
(ハ)海外から輸入する天然ウランは、できるだけ精鉱の段階で輸入し、精製錬および加工は国内で行なう方向へ推進する。この場合の生産規模については需要と見合わせて定めるが、さしあたっては年産100トンないし200トン程度の規模による開発をすすめるものとする。
(ニ)濃縮ウラン燃料については、さしあたり海外から燃料要素の形で輸入することとなろうが、漸次加工を国内で行ないうるよう努力する。
(ホ)将来、天然ウラン燃料と濃縮ウラン燃料のいずれの開発に重点をおくかは、主として開発される原子炉型式に関係するが、特に濃縮ウランについては、将来その需要が著しく伸びた場合、経済的な供給源を確保しなければならないという問題もあるので、プルトニウムの濃縮ウラン燃料への代替の可能性をなるべく早く見究め、その検討に基づいて、方針を定めるものとする。
(ヘ)ウラン濃縮については、さしあたって遠心分離法を中心に研究をすすめるものとする。濃縮ウランの国内生産を実規模にまで発展させるかどうかは、プルトニウム燃料利用の可能性の解明、さらに濃縮ウラン燃料の将来の需要および海外からの輸入可能性の見通し等との関連において定める。
(ト)燃料の再処理は、プルトニウム燃料の研究開発の進展と見合った時期に実施するものとし、そのため日本原子力研究所および原子燃料公社が共同して研究をすすめる。上記の研究と見合って適当な時期に原子燃料公社に再処理パイロット工場を建設することを考える。
(チ)トリウムに関しては、日本原子力研究所を中心とする熱中性子増殖炉の研究開発の進展と関連しつつその開発をすすめる。 (4)放射線の利用について
(ロ)アイソトープの生産については、海外価格の低下傾向と見合わせ、経済性を考慮しつつ国産化をすすめることとし、さしあたっては短寿命核種および特殊なアイソトープの国産に重点を置く。
(ハ)放射線化学は、将来急速に発展することが予想されるので、主として民間の自主的開発に期待するが、新しい分野であるので必要と認めるものについては助成策を講じ民間の研究開発を促進する。
(ニ)さらに多額な資金を要する大規模線源施設を備え、これを利用する研究を強力に推進するために、なるべく早い時期に放射線化学センターを日本原子力研究所に設ける必要があると考える。 放射線化学センターには、大量線源のコバルト60照射装置のほか、使用済み燃料による方法、特殊な加速器を利用する方法を合わせて取り入れることとし、さらに将来、新しい方法、たとえば原子炉を利用する方法の研究がすすめば、化学用原子炉の設置をも考慮する。 (5)研究開発のすすめ方 さらに将来にわたり、原子力の研究開発を有効に進展させるためには国際間の協力がますます必要と考えられるので、既存の双務協定および国際原子力機関を通ずる政府間協力をいっそう推進するほか、必要な場合には他の諸国との間の双務協定の拡大を考慮し、さらに欧州原子力機関あるいはユーラトムのごとき地域機関と新たに協力関係を結び、原子力技術開発のための情報交換を強化し、すすんではこれらとの間の共同研究の推進を考える。
(ロ)将来の発展のためにわが国としては、原子力の平和利用の各分野にわたって研究開発をすすめる必要があるが、特に重点的に推進すべき課題としては、次のごときものが挙げられる。
(ハ)研究開発をすすめるにあたって各機関の果たす役割は次のとおりである。
(6)養成訓練について なお、必要な科学技術者数の見通しについては、原子力の開発利用計画との関連においてたてられねばならないが、この場合、原子力の研究開発に直接つながる部門のみならず、特にその基盤となるべき関連部門の科学技術者養成の重要性を十分考慮に入れる必要がある。 (7)そ の 他 |