原子力委員会

東芝、日立原子炉設置に関する委員会の答申定

 原子力委員会では、昭和35年3月25日付で諮問を受けた東京芝浦電気株式会社および日立製作所の研究用原子炉の設置について審議を行なっていたが、結論を得たので次のとおり4月27日付で内閣総理大臣あて答申を行なった。

35原委第42号
昭和35年4月27日

内閣総理大臣
  岸 信介殿

原子力委員会委員長
中曽根 康弘

東京芝浦電気株式会社の原子炉の設置について(答申)

 昭和35年3月25日付35原第710号をもって諮問のあった東京芝浦電気株式会社の原子炉の設置について審議した結果、下記のとおり答申する。


 東京芝浦電気株式会社が研究用および教育訓練用の目的をもって神奈川県川崎市大師河原に設置する濃縮ウラン・軽水減速・不均質型(スイミングプール型)熱出力最高100kWの原子炉1基の設置許可申請は、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。

 なお、各号の基準の適用に関する意見は、次のとおりである。

○核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可基準の通用に関する意見

平和利用
1.この原子炉は、東京芝浦電気株式会社が、研究用および教育訓練用の目的をもって使用するものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

計画的開発利用
2.東京芝浦電気株式会社がこの原子炉を設置し、研究用および教育訓練用に利用することについては、(1)その使用目的が適切であって、原子炉の型式、性能もその使用目的に合致している。(2)必要とする燃料は、少量でその入手に支障がない。(3)原子炉利用に関する技術陣容および運転資金も十分でその利用効果は確保しうる。(4)なお、この原子炉の試作研究については、昭和33年、昭和34年の両年度にわたり科学技術庁から原子力平和利用研究費補助金の交付を受けている。したがって、この原子炉の設置、運転は、わが国の原子力開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

経理的基礎
3.原子炉の設置に要する資金は、関係附帯経費を含め、総額約7億4千万円であり、その調達にあたっては、そのうち、原子炉格納施設および付属施設費約3億2千万円は、日本原子力事業株式会社の協力にまつこととなっており、残額の約4億2千万円については、東京芝浦電気株式会社の昭和34年度および35年度の設備費のうちに、原子炉施設費(原子力平和利用研究費補助金約1千8百万円を含め5千5百万円)および土地費(約3億6千万円)として計上されており、同社の資金調達計画の内容等からみて、その調達は可能と考えられるので、原子炉を設置するために必要な経理的基礎があるものと認める。

技術的能力
4.この原子炉の設置計画は、東京芝浦電気株式会社の関係職員をもって構成する教育訓練用原子炉委員会によって進められているが、同社は、わが国における原子力研究開始以来、日本原子力研究所の原子炉施設の製作を分担する等、原子炉等の設計、製作に関し研究と経験を重ねており、また、この設置計画の実施にあたっては、特に日本原子力事業株式会社と技術援助契約を締結し、その設計製作に万全を期しているのでこの原子炉を設置するために必要な技術的能力があると認める。

 また、原子炉の運転管理は、同社の鶴見研究所原子炉管理室が担当し、中堅技術者26名をもって構成している。これら構成員中、外国において原子炉の運転訓練を受けた者2名、現在留学中の者3名、原子炉主任技術者筆記試験合格者3名、放射線取扱主任者試験合格者2名がおり、それぞれ運転管理、放射線管理、実験研究指導の各部門に適切に配置され、さらに、原子炉の運転利用に関し、原子炉管理室長の諮問機関(原子炉安全防護班)をも設けているので、原子炉の運転管理を適確に遂行するに足りる技術的能力があると認める。

災害防止
5.原子炉施設の位置、構造および設備については、別添の原子炉安全審査専門部会のこの原子炉の安全性に関する審査結果のとおり核燃料物質、核燃料物質によって汚染された物または原子炉による災害の防止上支障がないものと認める。

損害賠償措置
6.この原子炉に関する損害賠償措置としては、原子力保険事業の免許を受けた損害保険会社と普通保険約款および風水害拡張担保特約による保険契約を締結することとなっており、その保険金額は1億円、保険契約の締結期間は、原子炉施設に核燃料物質を搬入する時からすべての核燃料物質を搬出する時までとされているので、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令第5条の3の基準に適合するものと認める。

(別添)

昭和35年4月19日

原子力委員会委員長
中曽根康弘殿

原子炉安全審査専門部会部会長
矢木  栄

東京芝浦電気株式会社原子炉の安全性について

 当部会は、昭和35年3月28日付をもって審査の結果の報告を求められた標記の件について、別記の審査経過により結論を得たので報告します。

I 審査結果
 東京芝浦電気株式会社が研究用および教育訓練用の目的をもって神奈川県川崎市大師河原に設置する濃縮ウラン・軽水減速・不均質型(スイミングプール型)熱出力最高100kWの原子炉1基について、原子炉設置許可申請書に基づいて審査した結果、この原子炉の設置の安全性は十分確保しうると認める。

II 審査内容

1.原子炉の特性
 スイミングプール型原子炉は、比較的大きな負の温度効果を持った上、出力が増加して水の沸騰が起こると出力の異常上昇を抑えるので、本質的に固有の安全性を持っている。

 この原子炉は、熱出力定格30kWであり、また、最高100kWで12時間の連続運転が可能である。燃料要素および炉心構造は、BORAX-1と類似し、中性子寿命や温度係数、ボイド係数がそれぞれBORAX-1とほぼ等しい、と考えられるので、その特性は、およそBORAX-1の経験から類推することができる。

 まず、この原子炉では、即発臨界以上にならないように、超過反応度は0.2%以下に計画されており、燃料装填にあたってこれを確認することになっている。したがって、BORAX-1の経験からみれば、この大きさの超過反応度では、突然これが原子炉に加えられても、暴走はもちろん、燃料溶融を起こさないと考えてさしつかえない。

 また、この原子炉は、100kW運転時においても、プール水の温度上昇は約1.2℃/時であって、自然循環による冷却方式で十分である。ただ、温度効果のため

場合によって実験や運転を継続できないことも起こりうるが、安全上支障はないと考える。

2.原子炉の保護系
 この原子炉は、中性子束上昇、原子炉周期減少、プール水位低下、原子炉重の放射線レベル上昇、地震等によって緊急停止を行なうフェイルセイフな安全保護系を備えて安全性の向上を計っている。特に中性子東上昇の検出には、独立な2系統を用いてその信頼度を増している。さらに、緊急停止までに至らない原子炉の異帯状態に対しては、十分な警報設備を備えている。

 また、この原子炉の運転にあたっては、インターロック回路によって、誤操作を防ぐようになっており、特に、制御板については、2枚を同時に引き抜くことができないようになっている。さらに、安全上必要な設備に対しては、緊急電源も準備されている。

 また、プール水取出しの外部配管系の故障によって、サイフォン作用で連続的にプール水が放出されないよう三方弁を利用し、水位が下れば弁を空気中に開放して水の漏出を停止するようになっている。

 以上の安全保護系の計画は、この原子炉の安全運転確保のために妥当なものであると認める。

3.燃料要素
 この原子炉の燃料要素は、U-235を20%に濃縮した金属ウランを30.4重量パーセソト含有するU-Al合金で、アルミニウム(1100)で被覆された燃料板10枚を等間隔にアルミニウム(1100)の側板に固定した構造で、76.2mm×76.2mm角、全長1,003mmのものが、炉心に25個装荷される。板状核心は、厚さ2.52mmで、ウランはU-Al4という化合物の形でアルミニウム中に分散している。これに厚さ0.38mmの被覆が圧延によって圧著されており、製造に際して圧着の完全性を検査したのち、燃料要素に組み立てられている。炉心冷却水は常に浄化されており、正常運転時の100kWの出力でも燃料板中心温度は冷却水温度に対して20℃以上は高くならないので、被覆材料の耐食性は十分確保される。また、側板への燃料板の固定に際して、腐食促獲のおそれのあるろう接法を用いず、機械的固定法を採用していることは、耐食性の確保からも好ましいと考える。

 万一、燃料被覆にピンホールが生じて、水モニタ、または水サンプリングによってプール水の汚染が検出された場合には、ただちに原子炉を停止し、破損燃料要素を交換することになっているので安全上支障はないと考える。

4.放射殺陣書対策
(1)放射線遮蔽
 γ線および中性子線に対する原子炉の遮蔽は、プール水表面を除けば、プール外壁近くに作業員が1週48時間いたとしても、その被ばく線量は年間5レムの3分の1をはるかに下まわるよう、計画されており、現行法規および1958年ICRP勧告のいずれをも満足している。また、炉心直上においても作業時間からみれば十分の余裕があるものと認める。

 以上のように、この原子炉の遮蔽設計は、十分安全であると認める。

(2)放射性廃棄物処理

i)気  体
 この原子炉で問題となる気体廃棄物は、Ar-41である。その許容値は、元来Ar-41が大量の気体として存在する場合の外部被ばくを想定して与えられたものである。
 この原子炉では、放射孔ならびに気送管から放出されるAr-41の放出量はきわめて少なく、各室は換気されているので問題にならない。
ii)液  体
 放射性廃水は、原子炉自体から出るものはきわめてわずかであるから、放射性同位元素の実験等を含め、問題にならないように管理することが可能である。したがって、原子炉プール水の自然循環過程における汚染の処理について考察する。
 平常運転時においては、プール水は許容濃度よりはるかに低く保たれており、燃料被覆にピンホールができても一般公衆に対する許容濃度程度にしかならない。このプール水の浄化には、濃度を1けた下げるのに70時間程度かかるが、プール水そのものの汚染濃度がきわめて低いのでさしつかえないと認める。
 もっとも、長年月の間にはプールの清掃という問題が起きるかもしれないし、また、燃料の相当規模の腐食も起こりうるかもしれない。しかし、プール水は取付汚染検出器のみならずサンブリングによっても常時点検し、必要があれば炉を停止して水を取り替えるだけの施設上の余裕があるから、これらの事態にも十分対処することができるものと認める。
iii)気体廃棄施設
 気体廃棄系統についての計画は、放射性同位元素研究室と施設を共用することになっているが、その容量からみて保安管理上十分に配慮されているものと認める。また、炉室と研究室の排気配管を並列にし、相互を隔離できるようにしている計画は妥当なものと認める。
iv)液体廃棄施設
 液体廃棄物の処理系統の計画は、保安管理上十分に配慮されている。廃液は、放出濃度を一般公衆に対する許容濃度の10分の1より十分低くして放出することになっており、さらに、施設能力の点では将来の研究室側の作業内容に対しても十分な余裕をもっているものと考える。プールには、平常時最大百数十マイクロキュリーの放射性物質が含まれている。この中には一応すべての核分裂生成物が含まれていると考えられ、長年月の間にはプール底や壁面の汚染中に長半減期のものが蓄積する傾向をもっているが、蓄積する全キュリー数を想定しても保安上不安を感ずるほどではない。
 固体廃棄物と高濃度汚染水は、全部厳重に保管して、これを後に中央処理機関に委託する計画になっているのは妥当なものと考える。
v)海産物に及ぼす影響
 液体廃棄物は、廃棄物処理計画からみて、廃棄量もきわめて少なく、かつ、許容濃度の10分の1より十分低く処理されて海に放出されるので、東京湾で採取される海苔、貝および魚類に及ぼす影瞥は、核種、濃度、稀釈率、摂取量等を最も厳しい条件で考慮しても、安全上支障はないと認める。

(3)放射線管理
放射線管理区域の設置、出入管理の計画は妥当なものと考える。サーベイ、モニタ、サンプリングに対する諸計画の内容も適当であると認める。

5.立地条件
(1)一般環境
 この原子炉施設の敷地は、前記大師河原県営埋立地にあって多摩川河口の川崎側にあたる。敷地の北方は多摩川をへだてて羽田空港、東方は海に面し、南方は面積約300ヘクタールに及ぶ一帯の埋立地に続いている。この埋立地は、石油関係を主とする13社の敷地となっており、現在は空地となっているが将来は工場あるいは貯油槽地帯として計画されている。原子炉の西方および西北方約2km以遠には、川崎市および東京都太田区の市街地が続いている。

 敷地周辺の状況は以上のとおりであるから、現在原子炉設置場所から半径1.5km以内には人家ならびに工場はなく、将来も特に多数の従業員を使用する工場建設の見込みは少ないとみられている。また半径3km以内では、常住人口28,300人で、50人以上の工場数約21である。

 敷地は、長さ約330m、幅約190mのほぼ長方形で東北方の短辺は海に、東南方の長辺は日本原子力事業株式会社に、西南方は道路をへだてて日網石油株式会社に、西北方は三井物産株式会社に接している。原子炉室は敷地の東北端に近く海際から約50m、三井物産株式会社の敷地境界から約50mをへだてて設置される予定である。

 以上の諸条件から考えれば、原子炉の周辺環境は次にのべる空港、貯油槽等に関する問題を一応別として考えた場合に、この種の原子炉の設置に対し支障はないものと考える。

(2)航空機に対する安全性
 原子炉の北方多摩川をへだてた海岸には羽田空港があり、その主崖は北北西約2kmの地点にある。主要滑走路は、西北方から東南方に走っており、原子炉から進入表面までの垂直最短距離は約600m、また、転位表面までのそれは約240mである。したがって、この原子炉は、一応航空路その他の制限範囲をはずれているが、なお念のために航空機衝突事故等に対する原子炉の安全性を調べた結果は次のとおりである。

 戦後羽田空港付近の航空機事故は2回で、いずれもセスナ程度の小型航空機が多摩川と羽田海岸に墜落したものである。離着陸時の事故では、不時着地点を海側にとるのが普通であるから、陸側の本数地に向う懸念は少ないと思うが、今仮に航空機が不時着時に直接この施設に衝突した場合を考えると、この原子炉建屋ほ無開口で、しかも鉄骨鉄材等により特に補強される計画となっているから、通常の航空機の衝突によって著しく破壊されることは考えられない。また、航空機の一部が内部に突入したとしても、生体遮蔽は2〜3mの厚さを持ち、かつ、補強筋も十分用いられる計画となっているから、通常の場合、原子炉の安全を損うことはありえないという申請書の推定は妥当なものと認める。また、特に大型航空機の離陸時の事故として予想される最悪の場合の安全性については、「6.事故時の安全性」で述べる。

 なお、この原子炉施設では、原子炉施設を示す対空標識ならびに泡沫消火器も考慮されているから、その敷地が空港に比較的接近していても、その安全性は保たれるものと認める。

(3)周辺の石油タンク火災事故に対する安全性前述のように、この原子炉施設の周辺の敷地は主として石油関係会社所有のものであって、将来多数の石油タンクの建設が予想される。申請書においては、原子炉室に最も近く、これから50mをへだてた隣地三井物産株式会社の敷地に、5万トンの原油タンク3基が建設され、これに火災を生じ、この際、規則によって石油会社が設けることとなっている隣地境界の高さ1.5mの防油堤まで、一面に火災が広がった場合原子炉室に対する副射熱を計算し、その安全なことを確かめさらにタンクからの飛散物による飛火等に対処して、施設の開口部の構造を考慮しているが、この措置は安全確保のため必要適切なものと思う。

 なお、最悪時故として、防油堤の破壊により火災が原子炉棟の周囲にまで及んだ場合の安全性については、「6.事故時の安全性」で述べる。

(4)地盤および地盤沈下に対する安全性
 この敷地は最上層-5〜6mまでが軟い砂質の盛土であり、その下部-12〜13mまでが標準貫入値20〜30程度の沖積砂層、その下部はきわめて軟い砂質または粘土質のシルト層で-60m以下にはじめて砂礫質の東京層基盤が現われる。

 申請書の設計では、原子炉のみを東京層基盤に鋼抗で支え、原子炉室ならびにこれに連続する一般建屋は-5〜6m以下の上部砂層にコンクリート抗で支持することになっている。この場合、上部砂層と東京層基盤との間にはさまれた厚さ50mに近いシルト層が長年月の間に徐々に圧密され、原子炉本体と建物との間に不同沈下を起こす可能性が十分予想される。しかし、この部分の気送管、排水管類の構造ならびに建物の接続構法は、1mの不同沈下までは対処しうる設計となっており、また不同沈下に対しては将来とも十分の監視と手当を続けることになっているので、原子炉施設の安全上支障はないものと考える。

(5)高潮に対する安全性
 この敷地の一般標高は、霊岸島量水標零位を基準として約4mであるが、原子炉棟および廃棄物処理棟部分の地盤標高はこれより1mをかさ上げして約5mとなっている。

 申請書においては、過去の経験からこの敷地に予想される不利な条件を仮定して、高潮の値を求め、周囲地盤から45cm上がりとした原子炉棟の床に対しては、標高の点で余裕があることを確かめている。また、高潮にともなう波浪に対しては、原子炉棟が、直接東京湾に面する南南西海岸から1km以上内側にあるので、これによる影響はきわめて少ないと考えている。万一波浪が襲来したとしても、原子炉棟やこれに付属する高レベルの実験室が無窓または高窓となっており、しかも、一般に開口部の構造にも留意されているから、床上浸水の危険はないとしている。また、万一きわめて大規模な台風が襲来して従来の記録をはるかに上まわる高潮が生じ、床上浸水が起こったとしても、放射性物質等の危険物を安全な箇所に格納する時間的余裕は十分あるものと判断している。

 また、廃棄物処理棟についても高レベル廃棄物は量も少なく、流出しないよう安全な箇所に固定されている。また、中および低レベル廃棄物の貯槽は地下に埋設密閉され、敷地内を通る廃液の排水管も地下に埋設されているので、万一高潮浸水の場合も、これらの敷設が破壊し、廃棄物が流出する危険はないと見ている。

 さらに、この敷地地盤は、その下部に45〜50mに達する沖積シルト層があるので、たとえ、川崎市条令で工業用水の汲み上げが禁止されているにしても、自然圧密による地盤沈下をある程度予想して、将来この沈下量を継続監視し、必要に応じ、周囲に防潮堤その他原子炉施設への浸水を防止するため適当な処置を講ずることとしている。

 高潮に対する上記の判断は妥当なものと認め、また、その対策も安全上適切なものと考える。

(6)地震に対する安全性
 この原子炉の設置場所である京浜地区の地震危険度は、日本国内においてかなり高い部類に属する。また、その地盤は沖積層の厚さが著しく大きいから地震に対しても不利な条件にあるものと考えなければならない。

 この原子炉棟と原子炉は、それぞれ水平震度0.3ならびに0.6の地震力に対して設計されているが、この値は上述の地域と地盤の条件ならびに原子炉の形式および使用目的を合わせ考えた場合におおむね適当な値ということができる。ただし、原子炉本体と建屋との間の基礎構造の差異のため、大地震時に急激な不同沈下を起こす可能性もあるが、申請書では1mの不同沈下を予想して設計しているので、そのおりの安全性についても特に支障はないと思う。

(7)その他の安全性

i)気  象
 この付近の気象の中に、その風向については、1年を通じて北および南の風が最も多いので、常住人口の少ない北方の羽田空港と南方の大工場予定地帯にはさまれた立地条件は有利であると考える。その他の気象条件については原子炉設置上特に問題となるものはない。
ii)海産物
 この付近の海域においては、海苔が栽培され貝類が採取されるが、「4.放射線障害対策」の項に述べたとおり、問題はない。

(8)立地条件と安全性
 以上の諸立地条件の検討結果を総合勘案すればこの敷地はこの種小型研究用原子炉の設置に対して支障はないものと考える。

6.事故時の安全性

(1)考えうる事故の種類
 この原子炉の考えうる事故の種類を分類整理すれば次のようになる。

i)反応時事故(起動時事故、制御板の引抜き事故、燃料の誤挿入、放射孔の事故)
ii)機械的事故(排水配管系の故障)
iii)地震、高潮および火災
iv)航空機の衝突

 以上の事故を順次検討した結果、前述の各項目でも述べたように、この原子炉は、出力および最大超過反応度が小さく、また、固有の安全性が高いこと十分な安全保護系が装備されていることなどによって、通常考えうるどのような事故に対しても、燃料が溶融することはなく、問題になる程度の核分裂生成物が外部に放出されることはないと認める。しかし、万一の不運が重なり合った最悪の場合として、以下の三つの場合のおのおのについて災害の評価を行なうことにする。

a)石油タンクの石油があふれ、さらに、防油堤が破損して原子炉室の周囲に石油が燃え広がる。
b)大型航空機が廃棄物処理棟に衝突しで施設が破壊する。
c)大型航空機が原子炉建屋に衝突して原子炉室を破壊し、エンジンの一部が原子炉に激突し、航空機燃料による火災が生じる。

 なお、以上の事故が重複して発生することはありえないと認める。

(2)災害の評価
a)隣地の石油タンクが破壊して大量の石油が流れ出し、地震等によって被壊された防油堤を越えて原子炉建屋の周囲まで到達して燃える場合、4時間後の室内温度は120℃を越えることはない。また、かりに原子炉建屋コンクリート壁に亀裂が入り、1,000℃の熱風が吹き込んで、この温度が持続するとしても、原子炉プール水70トンが全部蒸発するまでには約3日間を必要とする。しかし、防油堤を越えて流れてくる石油の量は限られており、また、その大部分は、排水溝等を経て海に流れ去るので、消防隊による消火活動等を合わせ考えれば、火災が長時間にわたって持続することはありえない。また、原子炉棟内には、プールの緊急注水設備も設けられているので石油の火災によって、原子炉プール水がなくなり燃料が溶融することはありえないと認める。

b)航空機が、廃棄物処理棟に墜落し、建屋および処理機器が全壊した場合を想定してみる。
 低レベルおよび中レベル廃液の貯槽は、地下埋め込み式であるから、破壊されても廃液が全部流出飛散することは考えられない。しかし、かりにこれらの廃液が全部飛散すると考えても、問題となる長半減期の核種のものは数ミリキュリーを越えることはない。

 貯蔵室に保管される高レベル廃液および固体廃棄物の量についても同様である。

 以上の各施設が同時に破壊され、航空機燃料の炎上によりこれらの放射性物質が全部大気中に放散される場合を考えると、核種、気象条件を厳しく仮定しても、最大濃度地点での被ばくは、英国医学研究会議勧告の緊急時線量を下まわる。また、これらの廃液が全部地上に流れ出る場合を考えても、設置場所が砂質埋立地であり、地面への滲透がきわめて速いので直接海に流入する量は問題にならないと考える。廃液が地中に滲透し、さらに海中へ溶出する場合にも、砂層によるイオン交換作用および地下水による稀釈作用を考えれば、海水汚染は問題にならないと考える。。

c)燃料を満載した大型航空機が、原子炉室に衝突すると、原子炉建屋はかなり変形することが考えられる。この場合、エンジンシャフトが原子炉建屋を貫通して遮蔽コンクリートに激突し、これに亀裂を生じさせ、あるいは実験孔を破壊し、さらに、航空機燃料の一部が炉室内およびプール中に流入して火災が生ずるという実際にはほとんど起こりえない事故を最悪事故として考える。

 この場合、プール水は漏出するが、その漏出速度は実験孔の大きさや遮蔽コンクリートによってかなり制限されるから、プール壁に設けられた2本の緊急注水管のうち、少なくとも1本による緊急注水によって、水位低下による燃料露出を防止することができる。したがって、炉室内およびプール内の火災によっても、燃料が溶融することはありえないと認める。

 ただし、衝撃あるいは建屋の倒壊等のために、燃料要素が機械的に破損するかもしれないが、全被覆の1%がはがれるというきわめて苛酷な条件のもとに放散する核分裂生成物を計算すると、ヨウ素131で20ミリキュリー程度となり、拡散を無視した厳しい条件を想定しても、原子炉から50mはなれた敷地境界での甲状腺の被ばくは、英国医学研究会議勧告の緊急時線量を十分下まわる。なおこの場合、外部被ばくは問題にならない。

 また、この場合大気中に放散される核分裂生成物の沈降およびプール水に溶解している核分裂生成物の海水への流入を考えても、付近の海中で採取される海苔および貝類に対する影響は問題にならないと考える。

 したがって、以上のように現実には起こりえないと思われるほど苛酷な事故が発生した場合においても、一般公衆の安全は確保しうると認める。

7.技術的能力

 この原子炉の設置計画は、東京芝浦電気株式会社の関係職員をもって構成する教育訓練用原子炉委員会によって推進されているが、同社は、わが国における原子力研究開始以来、日本原子力研究所の原子炉施設の製作を分担する等原子炉の設計製作に関し研究と経験を重ね、また、中華民国の国立聖華大学におけるこの原子炉と同型の原子炉(1,000kW)の設置についても、昨年10月以来、調査員を派遣している。

 また、この設置計画の実施にあたっては、特に日本原子力事業株式会社と技術援助契約を締結し、その設計製作に万全を期しているのでこの原子炉を設置するために必要な技術的能力があると認める。

 また、原子炉の運転管理は、同社の鶴見研究所原子炉管理室が担当し、室長は鶴見研究所長が兼ね、管理室員9名と実験研究指導者17名をもって構成している。これら構成員中、外国において原子炉の運転訓練を受けた者2名、現在留学中の者3名、原子炉主任技術者筆記試験合格者3名、放射線取扱主任者試験合格者2名がおり、それぞれ運転管理、放射線管理、実験研究指導の各部門に適切に配置され、さらに、原子炉の運転利用に関し、原子炉管理室長の諮問機関(原子炉安全防護班)をも設けているので、原子炉の運転管理を適確に遂行するに足りる技術的能力があると認める。