原子力委員会

 昭和35年度原子力開発利用基本計画および核原料物質探鉱計画が4月6日開催の第20回定例委員会において決定した。米国AECのDowing氏が3月27日日米原子力一般協定に基づき第1回査察の目的で来日した。動力炉調査専門部会が3月26日付で第1次報告書を、養成訓練専門部会が4月13日付で原子力関係科学者技術者の養成訓練に関する当面の対策と題する答申を、また核燃料経済専門部会が4月11日付で第2次中間報告書をそれぞれ原子力委員長あてに提出した。

昭和35年度原子力開発利用基本計画の決定

 わが国の原子力開発は、昭和29年以降各界協力のもとに順調なる発展を続け、日本原子力研究所、原子燃料公社等における研究開発のための諸施設ならびにその内容も次第に充実してきたが、これら研究のいっそうの深化拡充を有機的、総合的に推進するため、原子力委員会では毎年度当初に年度基本計画を策定してきた。しかも、日本原子力研究所法および原子燃料公社法には、おのおのの機関の業務は原子力委員会の議決を経て内閣総理大臣が定める基本計画に基づいて行なわなければならない旨明記されている。

 このため原子力委員会では、上記国内研究態勢の整備および世界の原子力開発の趨勢に即応して、長期基本計画の再検討を開始する一方、すでに決定している「発電用原子炉開発のための長期計画」、「核燃料開発に対する考え方」の線に沿い、各専門部会から答申された事項を参考として、「原子力開発利用長期基本計画」に織り込まれるべき長期的な観点を加味した「35年度基本計画」の検討をかさねていたが、4月6日開催の第20回定例委員会においてその議決をみたので、ただちに総理大臣に報告、決定のはこびとなり、ここに35年度に果たさるべき事業の基本方針が明らかにされるにいたった。以下にその全文を掲載する。

1.開発態勢の整備

(1)原子力開発利用長期基本計画の再検討

 原子力開発利用に関する長期計画としては、すでに当委員会で内定した「原子力開発利用長期基本計画」ならびに当委員会で決定した「発電用原子炉開発のための長期計画」および「核燃料開発に対する考え方」があるが、これらについてはその後の国内および国外の原子力開発の進展状況に即応して再検討を要する時期と考えられる。このためすでに35年2月に「原子力開発利用長期基本計画改訂のための作業要領」を決定したが、この要領に従がい35年12月完了を目標に既存諸計画の再検討を行なう。

(2)研究開発機関の整備

 日本原子力研究所は創立後約4年を経過し、JRR-1、JRR-2、60Co照射室、高放射性物質特別研究室、リニアアクセレレーター等の研究設備の整備が行なわれてきた。35年度は引き続きJRR-3、JPDR、プルトニウム特別研究室、再処理試験用ホットケーブ、放射性同位元素試験製造工場等の建設、JRR-2で使用するインパイル水ループ、インパイルガスループ、5.5MeVのヴァンデグラフ等の発注を行なう。

 原子燃料公社においては、精製還元試験工場、粗製錬工業化試験設備および原子燃料試験所を整備充実するほか燃料に関する検査技術開発室を建設する。

 さらに、放射線医学総合研究所においては、研究棟、付属病院、廃棄物処理施設、東海支所等の施設設備の整備をおおむね完了する。

 また茨城県下に農林水産技術会議がγ線の照射を行なう育種場を建設するほか、名古屋工業技術試験所に公開実験室を設けるなど各国立試験研究機関においても、それぞれの特長を生かした研究を推し進めるようさらに態勢の整備をはかる。

(3)原子力施設の安全性および放射線障害防止

 原子力開発利用の進展に伴い各種の原子炉が設置されることとなるが、その安全性を確保するため従来から原子炉等規制法により規制を行なってきた。この法律の実施をより有効にするため原子炉の設置許可にあたって基準となる原子炉安全基準の作成に努力するとともに、原子炉の安全性を審査する組織についても適当な措置を講ずる。

 放射性同位元素等の利用の増大に対拠し、最近における放射性物質の取扱い基準に関する知識の国際的進歩と、過去2ヵ年における放射線障害防止法施行の経験にかんがみ、同法の一部改正を行なって、放射線障害防止の方法の合理化をはかる。

 また34年7月に採択された国際放射線防護委員会の新勧告については、放射線審議会の意見書の趣旨を尊重して、同勧告の内容を関係法令に取り入れるよう早急に検討を行ない、その実現をはかるための措置を講ずる。

 原子力船については、36年度にサバンナ号の来日が予想され、近い将来わが国の原子力船の就航も考えられるので、その航行に付随する技術的および法律的諸問題の解明に務める。

 放射性廃棄物の処理については、34年度に日本原子力研究所が東海村に、日本放射性同位元素協会が大阪府にそれぞれ放射性廃棄物貯蔵施設を建設し、これらの施設を使用して同協会は処理の事業を開始した。35年度は引き続き同協会の処理の事業を助成する。

(4)原子力災害補償制度

 民間原子力保険による核的災害に対する補償体制はすでに整備され、運営が始められているが、さらに国家補償制度をも含めた包括的な原子力災害補償制度を確立するため必要な法律を制定し、原子力開発利用に万全の対策を樹立する。

 また、原子力施設の従業員に対する放射線障害に関する補償制度についても関係方面と協力してその確立を期する。

(5)原子力施設地帯の整備

 原子力開発利用の進展に伴い、原子力施設は増加の傾向にあるが、原子力の持つ特殊性を考慮して、これら施設を有する地帯について有機的総合的な整備をはかり、原子力開発態勢のいっそうの確立を期するために必要な措置を講ずる。

2.試験研究

 日本原子力研究所、原子燃料公社、国立試験研究機関、民間企業等におけるおもな試験研究についての方針およびその概要を述べる。

(1)ガス冷却型および水冷型原子炉に関する研究

 本研究については、従来から主として民間企業において研究が進められてきた。35年度には、引き続き民間を中心として研究の行なわれることを期待するが、特にこれらの炉の安全性、核的挙動等に関する数値的計算、教育訓練を主目的とした小型臨界未満実験装置の試作等について助成を行なう。

 日本原子力研究所においては、従来から行なってきた流体の伝熱および流動に関する研究等を引き続き行なうとともに、水冷却炉についてJPDRの臨界以前にその基本的特性を測定し、さらに軽水炉の物理的諸問題の研究を行なうため、軽水型臨界実験装置の建設を行なう。

(2)増殖炉に関する研究

 長期的な目標をもって増殖型実用炉の開発を行なうため、34年度に引き続き日本原子力研究所において次の型式の増殖炉について研究を進める。

(イ)半均質炉
 本型式の炉については、相当すぐれた実用炉となりうる見通しがあるので、34年度から日本原子力研究所のプロジェクトとして開発体制を確立して研究を行なうこととした。35年度は、当初の開発目標である高温ガス炉のほか、溶融ビスマスを冷却材として用いる方式についても研究を行なう。

(ロ)水均質炉
 本型式の炉については、34年度に海外の技術情報等により検討を行なった。35年度は引き続きこれらの検討および臨界実験装置による原子炉物理研究その他の関連基礎研究を行なう。

(ハ)高速炉
 本型式炉については、34年度に完成した速中性子増殖系指数実験装置を用いてブランケット部分の基礎的研究に着手する。

(3)原子炉関連機器に関する研究

 本研究のうち圧力容器、熱交換器等の加工、原子炉の付帯する機械装置または器具の試作、原子炉系の漏洩防止等に関しては民間企業を中心に諸般の研究が行なわれてきた。35年度にはこれらの諸研究を引き続き助成するとともに、飽和蒸気タービンの特性向上等未着手分野の研究についても助成を行なう。

 日本原子力研究所においては、引き続き原子炉系の機械的および電子回路による制御、熱交換器の動特性等につき数値解析を主体とする研究を行なう。

 国立試験研究機関においては、34年度に引き続き放射性同位元素分析用干渉分光計、放射線鋭感ガラス等の試作研究を行なう。

(4)核燃料に関する研究

(イ)核燃料の製錬
 本研究については34年度に引き続き原子燃料公社を中心として行なう。

 ウランの粗製錬については、原子燃料公社において34年度に完成した工業化試験設備により国産鉱を対象として、イオン交換法および溶媒抽出法に関する工業化試験を行ない、工業化の方針の資料をうるほか、新たに原鉱の直接溶媒浸出法の研究に着手する。また、国立試験研究機関においては、34年度に引き続き乾式製錬に関する研究を行なう。

 ウランの精製錬については、原子燃料公社において工業化試験が進められ、一応の成果を得ているが、さらに製品純度の向上および操業の効率化を図るため、試験操業を行なう。また資源技術試験所においては、新たに酸化ウラン粉末の湿式製造に関する研究を行なう。

 トリウムの製錬について、金属材料技術研究所において研究を行なうほか民間企業における研究の助成を行なう。

 (ロ) 核燃料の加工および検査
JRR-3用第2次装荷燃料の国産化に関する研究については、日本原子力研究所は、同研究所のプロジェクトとして、原子燃料公社および民間企業の協力を得て試作研究を行なってきたが、35年度も引き続き試作研究を進めるとともに、必要に応じて試作燃料要素に関する照射試験を行ない、民間企業が行なうものについては助成を行なう。

 また、日本原子力研究所においては、34年度に引き続きセラミック系燃料およびサーメット系燃料に関する加工または検査に関する研究を行なうが、民間企業についてもこれら研究を助成し、かつ、必要に応じて小試片に関する照射試験の助成も行なう。

 以上のほか、原子燃料公社においては、新たに一般燃料要素の検査に関する研究を開始する。

(5)原子炉材料に関する研究

 燃料被覆用金属材料については、金属材料技術研究所において、ベリリウム、ニオブおよびそれらの合金の研究を、民間企業においては、アルミニウム、ステンレス鋼、マグネシウム合金、ジルコニウム合金等の製造、加工の研究を、構造材料については、金属材料技術研究所および民間企業が協力してステスレス鋼、クラッド鋼等の製造、加工の研究を、またこれらの材料の機械的、冶金的試験は、日本原子力研究所が行なってきた。35年度においても、これら試験をそれぞれの分野において引き続き行なうが、民間企業については助成を行なう。

 さらに、これら材料の腐食および防食の研究については主として金属材料技術研究所が行ない、放射線損傷に関する研究は主として日本原子力研究所が60Co、JRR-1等を利用して行なうが、一部民間企業において海外に依頼する照射試験については助成を行なう。

(6)燃料再処理に関する研究

 本研究については、日本原子力研究所が中心となり、原子燃料公社がこれに協力して行なうこととし、そのためにフッ化物分留法、溶媒抽出法、イオン交換法等に関する基礎研究を行ない、かつ、これらに関連する基礎的な分析技術の確立をはかる。これに並行して、再処理に必要な各種装置の化学工学的研究も行なう。

 そのほか原子燃料公社においては、将来の再処理事業に備えて引き続き国外における再処理一般についての調査研究を行なう。

(7)廃棄物処理に関する研究

 原子炉、放射線利用研究室等原子力関連施設から排出される放射性廃棄物の処理に関する研究については、従来から日本原子力研究所を中心に行なってきたが、35年度は特に現在の装置を改良し化学工学的研究を行なう。

 海洋投棄に関する研究については、34年度に引き続き民間における投棄用容器中の放射性廃棄物の海水拡散の研究の助成を行なう。

(8)ウラン濃縮に関する研究

 濃縮ウラン製造の可能性探究を目的として、従来から民間において六フッ化ウランの製造、各種ウラン化合物の性質解明、遠心分離法によるウラン濃縮等一連の研究を実施してきたが、35年度はこれらの研究の助成を引き続き行なう一方、各種ウラン濃縮法の経済性の検討についても助成を行なう。

(9)核融合反応に関する研究

 本研究については、33年度から日本原子力研究所、電気試験所および民間企業において高温プラズマの発生、測定法および測定器の研究を行なってきたが、35年度は、これらのうち測定法および測定器の開発研究に重点を置くこととし、民間については助成を行ない、大学における研究と緊密な連けいを保ち効率的に研究を進める。

(10)原子力船に関する研究

 本研究については、従来から運輸技術研究所において振動動揺試験装置を使用した振動動揺対策、舶用機関としての原子炉の遮蔽、原子力船の波浪中における運動性能等に関する研究を、民間においては、実船を使用して振動、動揺、スラミング等の外力が原子炉および船体構造に及ぼす影響に関する研究を行ない、原子力船の船体構造に関する基礎的資料を得るとともに構造法を確立すべく努力が行なわれてきた。

 35年度には34年度に引き続きこれら研究を行なうこととし、民間については助成を行なう。また舶用原子炉の推進機関の自動制御に関しても民間における研究を助成する。そのほか、舶用炉の国産化、原子力船の経済性および安全性、原子力船のけい留のため港湾に必要な諸条件などについて調査研究を行なう。

(11)放射性同位元素の製造に関する研究

 本研究については、従来から日本原子力研究所において原子炉を使用して製造研究を行なってきたが、35年度には、これを工場的生産に移すための準備を行なう。そのため同研究所に放射性同位元素試験製造工場を建設し、24Na、42K、32P、35S、131Iおよび198Auの6核種について各種製造方法の比較検討を行なう。

 また、34年度に引き続き、ターゲットの分離精製、高比放射能、放射性同位元素の製造研究、不純物の検定、核分裂生成物からの分離精製研究等を行なう。

(12)放射性同位元素の利用に関する研究

 本研究については従来から日本原子力研究所、国立試験研究機関、民間等において、それぞれ特有の技術、経済等を取り入れて研究が行なわれてきた。

 35年度もこれに引き続き、日本原子力研究所または国立試験研究機関で、農業については施肥法の改善、品種の改良等、工業においてはトレーサ技術による分析、反応機構、摩耗等の研究、医学においては診断治療への利用等各方面への利用研究を行なう。民間については標識化合物の製造または利用、放射線の生物学への利用に関する研究等について助成を行なう。

 なお、35年度から新たに金属材料技術研究所において金属材料の品質向上に関する研究を、北海道開発局土木試験所において積雪寒冷地における建設工学上の諸問題の解明を、建築研究所においては建物の換気および通気の研究ならびにコンクリート施工の良否の判定に関する研究を、資源技術試験所においては坑内水の流水経路の追跡等についての研究を行なうなど、それぞれの分野における放射性同位元素の利用に関する研究を推進する。

(13)放射線化学に関する研究

 本研究については、従来から日本原子力研究所、国立試験研究機関および民間において高分子の加圧重合、グラフト重合、固体重合、低分子化学反応の研究、食品および医薬品の殺菌に関する研究、水溶液系の研究等を行なってきたが、35年度にも引き続きこれら研究を行なう。民間については放射線による化学反応の促進および物質の改善に関する研究について助成を行なう。

(14)放射線障害防止ならびに診断治療に関する研究

 放射線医学総合研究所をはじめとする国立試験研究機関、日本原子力研究所等で従来から放射線防護、放射線による汚染の除去、遺伝等の研究を行なってきたが、35年度にはこれらの研究を引き続き行なう。すなわち放射線医学総合研究所においては、各種放射線源およびヒューマンカウンターを利用して各種放射線の人体に及ぼす影響についてその線量の測定法、その作用機構、人体に対する許容量、障害の予防法等の基礎的研究を総合的に調査研究し、日本原子力研究所においては、各種放射線の効果的遮蔽の方法、汚染検出法、人体の内部被曝線量の算出法等について研究を行なう。そのほか、新たに消防研究所および防衛庁技術研究所が障害防止に関する研究を開始する。また民間における密閉された放射線源の安全管理、放射性廃棄物の簡易処理等に関する研究について助成を行なう。

 放射線障害の診断治療については、従来に引き続き放射線医学総合研究所において付属病院の協力のもとに基礎的研究を行なう。

(15)その他の研究

 (1)〜(14)にわたって項目別の研究の方針および概要を記したが、これら一連の研究と並行して原子力に関する研究開発の科学的基盤を高めるために必要な基礎研究もあわせ行なう。

 すなわち、日本原子力研究所においてJRR−2の稼働に伴う放射化分析の精度向上、中性子回折装置およびリニアアクセレレータの稼働による研究分野の拡大充実、5.5MeVのヴァンデグラフを発注してエネルギー領域の範囲拡大による核物理的研究部門の充実、さらに新たにプルトニウム取扱技術習熟のために溶液化学の研究を開始する。

 また、電気試験所では放射線標準確立に関する研究を、中央計量検定所では放射性物質による空気汚染度測定方法の確立に関する研究を、東京工業試験所では放射線の化学的計測に関する研究を従来に引き続き行ない、また、公衆衛生院においてはセシウムの分析法に関する研究を行なう。

3.原子炉の設置

(1)日本原子力研究所における原子炉の設置

(イ)JRR−2:重水および燃料の挿入、零出力運転試験ならびに全出力運転試験に引き続き、炉の運転特性の試験を行ない、年度末には5MWの連続運転に達することを目標とする。なお第4・4半期から実験孔を使用して本炉の共同利用を開始する。

(ロ)JRR-3:35年度は建家の仕上工事、付属設備工事および炉本体の据付工事を行ない、これを完成する。

(ハ)JPDR:34年度から持ち越された契約は、受入体制の整備をまって年度前半に成立させ、年度後半には建家および格納容器の建設に着手する。

(2)日本原子力発電株式会社の導入する実用発電炉

 日本原子炉発電株式会社の導入する実用発電炉については、34年12月に設置許可が行なわれ、契約も完了したので、35年度中に整地を完了し、基礎工事を行なうとともに炉の製作に取りかかるものとみられる。

(3)その他の機関における原子炉の設置

 関西方面に設置される予定の大学共同利用原子炉については35年度には敷地が決定され、発注されるものとみられている。このほか、私立大学において教育用原子炉設置の計画があり、そのうち2大学についてはすでに設置許可が与えられ、年度内に完成するものとみられる。また民間企業については教育訓練用原子炉の試作の助成を行なう。

4.核原料物質の探鉱および採鉱ならびに核燃料の需給

(1)核原料物質の探鉱および採鉱

 35年度における核原料物質の探鉱は、34年度に引き続きウラン鉱賦存の可能性がある地域のうち、堆積岩を主とする地域を対象として行なう。

 探鉱の実施にあたっては、地質調査所がエアポーン、カーボーン、地質鉱床概査等により約21,600km2の地域について放射能強度分布調査を行なうとともに、34年度までに実施した放射能強度分布調査の結果、特に放射能強度が異常な地区に対して地質鉱床概査、物理探鉱、試錐探鉱等を実施し、放射能異常の究明、鉱床の賦存状況および地質構造の概要等を明らかにする。

 原子燃料公社は、34年度に引き続き人形峠鉱山および東郷鉱山ならびにそれらの周辺地区に賦存する堆積型ウラン鉱床に重点をおいて探鉱を行なうほか、地質調査所等の行なう基礎調査の結果発見された有望地区および原子燃料公社所有鉱区等について随時探鉱を行なう。

 また、民間企業の行なう探鉱に対しては従来に引き続き探鉱奨励金を交付して、探鉱の促進をはかる。

 採鉱については、原子燃料公社が34年度に引き続き人形峠鉱山において採鉱方法に関する試験を行ない、安全かつ効率的な採鉱方式の確立をはかる。

(2)核燃料の需給

 35年度における核燃料の需要量は、ウラン鉱石約720トン、ウラン精鉱約13トン、金属ウラン約600キログラム、酸化トリウム約550キログラム、また濃縮ウランは、90%濃縮ウラン7キログラム(235U換算)、20%濃縮ウラン36.1キログラム(235U換算)、2.6%濃縮ウラン40キログラム(235U換算)、その他の濃縮ウラン43.8キログラム(235U換算)である。

 このほか不確定の需要としては民間企業における製錬、加工、核物理実験等のためウラン精鉱約8トン、金属ウラン、ウラン化合物等約4トンおよび酸化トリウム約1トンが見込まれ、さらに、大学で建設する臨界未満実験装置用に天然ウラン若干量が見込まれる。

 上記の濃縮ウランおよびプルトニウムについては日米原子力協定等により入手する。またウラン精鉱は原子力協定等による輸入および人形峠鉱山産鉱石の粗製練工業化試験の実施により、金属ウランおよびウラン化合物は原子燃料公社および民間企業の行なう精製錬工業化試験の実施によりそれぞれ供給される見通しである。酸化トリウムについてはできるだけ国産を期待する。

5.放射能調査

 放射能調査は、わが国およびその周辺の放射能分布生活環境の汚染度等につき調査し、国民生活への影響および今後の原子力開発利用の推進に関する基礎資料を作成することを目的として、34年度に引き続き国立試験研究機関、地方公共団体等において、大気、海洋、地表、動植物、食品および人体臓器の放射能の調査を行ない、またこのための分析法の確立、測定器の整備充実をはかって精度の向上に努める。さらに35年度からは新たに、気象研究所において海水中の14C、放射線医学総合研究所において生物中の14Cの測定を行ない、国立栄養研究所において標準食中の90Sr、137Csの調査を、水路部において港内の放射能バックグラウンド調査を行なう。なお35年度においては地方衛生研究所による放射能調査を実施する地方公共団体として新たに2県を追加する。

 なお、34年7月に採択された国際放射線防護委員会の勧告のうち集団の遺伝的障害に関しては、わが国の現状においてはまだその制限線量に達していないことは明らかであるが、将来における原子力利用の増大に備えるため全国民の被ばく線量算定の予備的調査を行なう。

6.科学者技術者の養成訓練

 原子力関係科学者技術者の養成訓練については、すでに29年度以来各界においてその実をあげてきたが、35年度においては次のとおり養成訓練を行なう。

(1)海外への留学生の派遣

 34年度においては文部省関係を除き一般留学生合格者58名、国際原子力機関フェローシップ合格者12名、合計70名を原子力関係科学・技術習得のため海外の各種研究機関に派遣(一部未渡航)したが、35年度においても引き続き一般留学生66名、国際原子力機関フェローシップ26名、合計92名を派遣する。これら留学生の派遣にあたっては、原子力関係科学・技術の習得という所期の留学目的を達成しうるよう海外諸機関との協力、連けいをはかるとともに、34年度に引き続き国内養成訓練機関の整備状況と照応させながら、やや高度の知識技術の習得のための長期留学生の派遣も考慮する。

(2)国内における養成訓練

 日本原子力研究所原子炉研修所においては、34年度に引き続き高級課程として1回16名、一般課程として2回36名の研修を行なうほか、JRR-1を利用する短期訓練については3回45名の訓練を行なう。

 日本原子力研究所ラジオアイソトープ研修所においては、34年度に引き続き7回224名の基礎研修を行なう。さらに施設を拡充し、年度後半に専門課程を開設し、高度の放射性同位元素利用技術について10〜20名の研修を行なう。

 なお放射線障害防止に関しては、放射線医学総合研究所において引き続き保健物理部門を主とする短期コース2回60名の研修を行なう。

(3)海外からの留学生の受入れ

 海外からの原子力関係留学生の受入れについては、主として放射性同位元素利用技術の研修を中心に33、34年度に累計51名の研修を行なってきたが、35年度においても国際原子力機関フェローシップによる外国留学生を日本原子力研究所および国立試験研究機関において受け入れる。

 7.人員の拡充

 以上のごとき35年度基本計画を遂行するため、人員の面では、日本原子力研究所においては、34年度の1,006名に理事1名を含めて191名を増員して1,197名とし、原子燃料公社においては34年度の410名に66名を増員して467名とし、また放射線医学総合研究所においては、34年度の163名に62名を増員して225名とする。さらに放射線障害防止等の保安事務、原子炉設置等の許認可事務、国際協力関係の事務等原子力行政事務の増大ならびに原子力委員の増員に伴う事務機構の強化に即応して原子力局の人員を34年度の116名から132名に増員する。

 8.予   算

 以上のごとき35年度基本計画を遂行するために必要な原子力予算は7,726,351千円、債務負担額4,284,861千円であり、その内訳は下表のとおりである。

昭和35年度原子力関係予算