原子力委員会

 昭和34年6月3日付で原子力委員長から諮問を受けていた日本原子力発電会社が設置する原子炉の設置に関する答申が11月9日原子炉安全審査専門部会長からなされた。国際原子力機関のコール事務局長一行3名(ジョレス、セリグマン両事務局次長同行)が11月24日来日する。IAEAの中小型研究用原子炉の安全操業基準に関するパネルに対し日本から原研の村主進氏を推薦することとなった。また原子力委員会専門委員の移動、追加があった。

日本原子力発電会社設置原子炉について専門部会の答申


 日本原子力発電株式会社が茨城県那珂郡東海村に設置する天然ウラン黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉の安全性について、昭和34年6月3日付で原子力委員長から原子炉安全審査専門部会に諮問した結果、昭和34年11月9日付で次のごとき報告書の提出があった。

 なお、この審査のために同部会はこれを詳細に審査するための小委員会を本年2月に設置して予備審査を開始して以来、前後110回に及ぶ小委員会と9回の専門部会を開催している。

 本部会および小委員会の構成員は本報告末尾に掲載のとおりである。

昭和34年11月9日

原子力委員会

 委員長 中曽根康弘殿

原子炉安全審査専門部会   
部会長 矢 木  栄

日本原子力発電株式会社の原子炉の設置の安全性について

 当部会は、昭和34年6月3日付34原委第45号をもって審査を求められた標記の件について、別記のとおり結論を得たので報告します。

I 審査の結論

 当部会は、日本原子力発電株式会社の昭和34年3月16日付申請にかかわる原子炉施設に関し、立地条件、原子炉の性能、燃料要素、黒鉛、炭酸ガス、機械構造、計測制御、地震対策、放射線障害対策、安全対策および技術的能力の諸点について審議し、総合判断した結果、この原子炉の設置の安全性は十分確保しうるものと認める。

 なお,今後の設計施工の認可等の段階において本報告で指摘した要望事項を十分確認することを希望する。これら要望事項は現在の技術水準において十分実施可能と認めるものである。

 また、原子力発電用原子炉の運転は、わが国においては経験のないことであるから、安全の確保を特に重視して運転を行なうことを希望する。

II 審査の内容

緒   言

 審査にあたっては、次のような考え方によった。

(1)審査は、日本原子力発電株式会社の原子炉設置許可申請書およびその添付書類に基づいて行なう。

(2)審査は、設置許可申請に関するものであって、原子炉を建設し、運転するための規制としては、許可の後に、工事施行の認可、検査、保安規定の認可等多くの審査段階があるから、原子炉施設の基本的計画が安全上から妥当であるかどうかを検討する。なお、今後の設計施工、検査および運転において必要と考えられる事項についても指摘する。

(3)審査は、平常時はもちろん、地震その他の異常時においても、一般公衆および従業員に対して障害を与えぬ計画となっているかどうかについて検討する。

(4)放射線の許容量は「原子炉の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき許容週線量、許容濃度及び許容表面濃度を定める件」 (科学技術庁告示昭和32年第9号)のほか、 1958年ICRP勧告および原子力委員会原子炉安全基準専門部会答申「放射線の許容線量及び放射性物質の許容濃度について」 (昭和33年11月27日)をも考慮する。

総   論

(1)立地条件

 敷地は茨城県那珂郡東海村東部にあり、その東側は外洋に面し、敷地の周囲は日本原子力研究所予定敷地である。原子炉設置予定地点から最も近い民有地までの距離は約650mで、かつ水戸市等の大きな都市から10数km離れている。このような周辺の状況および気象、地震、地盤、排水、用水、航空機関係等に関し、平常時および異常時について検討した結果、敷地は、この原子炉の設置場所として支障ないものと認められる。

(2)原子炉の性能

 原子炉の核設計においては、英国の同型原子炉の運転経験および研究開発をもととしているので、その精度は高いものといえる。また、原子炉の運転に伴って生ずる超過反応度を出力増加、燃焼度増加および運転の自由度の確保に割りふっているが、その設計方針は妥当である。

 しかし、英国においても高燃焼度下における運転経験はないので、平衡サイクル到達後の原子炉の超過反応度および正の温度係数の計算値は、若干の誤差を生ずる可能性があり、今後の詳細な検討が望ましい。

 熱設計については、燃料被覆最高温度、通常運転時の熱伝達特性等の熱的諸特性はおもに実験と経験によって検討されたものであり妥当なものと認められる。

 運転上の問題となる正の温度係数が炉の動特性に与える影響およびキセノン振動による中性子束不安定現象に対しては正の温度係数が計算値より若干上まわった場合にも制御可能な設計となっているので、その設計方針は妥当なものと認められる。現在の段階では、本現象に関する経験は少ないが、今後英国においてこの現象についての実際的経験が得られるはずであり、その経験を生かして設計を行なえば特に問題はないと思われる。

(3)燃料要素

 燃料要素は黒鉛スリーブつきの個別積みかさね方式による中空型のものである。その設計および伝熱特性等について検討したところ、中実型燃料要素に比し性能上の利点を持つ改良設計によるものと認める。しかも、新しい技術によるものであることを考慮して、炉内試験の結果によってその安全と性能が確かめられた上で使用されることになっている。したがってこの計画は妥当なものと認められる。

 なお、燃料要素が破損した場合には、それによる放射性物質の漏洩を早期に検出することによって、破損を確認し、取り替えうることになっているので安全性は十分保持されるものと認められる。

(4)黒 鉛

黒鉛のウイグナー効果に対しては、スリーブを用いて減速材を高温に保持し、そのエネルギー蓄積をさけ、原子炉耐用年数中ウィグナーエネルギー放出作業を不必要としており、また6角柱ブロックの蜂の巣型設計によって、ウィグナー収縮および膨張に対処しているのでその計画は妥当である。

 また、黒鉛の質量移動については、その量もきわめて少なく、原子炉の安全上も性能上も支障ないものと認められる。

(5)原子炉施設の機械およびその構造

 一般に機械構造の良否は、その詳細設計が行なわれ、各種の試験をした後でなければ判断できないものが多く、本申請書の機械構造の設計に現われている寸法等の決定も、今後の詳細設計ならびに工事施工の段階において検討すべきものが多いが、原子炉圧力容器、炭酸ガス循環装置、制御棒駆動機構、燃料取替え装置、ガス安全弁、緊急停止装置、緊急時炭酸ガス注入装置等の機械構造の設計方針はおおむね妥当である。

 このうち緊急冷却装置としての炭酸ガス循環装置と、緊急時炭酸ガス注入装置とはいずれも必要な機能を原理的には備えているものと認められるが、装置の各部には経験の少ない新しい試みが多くみられる。したがって、これらの装置に1次冷却系における事故時の安全性を確保する後備保護装置の役割を果させるためには、その詳細設計、容量の決定、製作、すえつけなどにあたって、今後綿密な調査研究を行ない、さらに実際に近い状態での十分な工場試験等を行なってその信頼性を確認することが必要である。

(6)原子炉の計測および制御

 中性子束の測定はキセノン振動による中性子束の歪みが生じても支障のないように考慮され、冷却ガス、燃料要素等の温度測定器は取付け数、取付け箇所とも一応適当であり、かつ故障時にも取替えが可能であり、破損燃料の検出は、各チャンネルについて行なわれるなど、原子炉を安全に運転するための必要な各種計測の方針は、全般的にみて妥当なものと認められる。

 また、原子炉起動時の反応度事故防止のためにタイム・スイッチ等を用いる特殊な制御方式、出力運転時には25%負荷以上は自動的に出力に応じて冷却ガス流量を調節し、出口ガス温度を一定に保つ制御方式、減速材の正の温度係数およびキセノン振動による中性子束の不安定に対しては炉心を9分割して制御する方式等はいずれも妥当なものと認められる。

(7)地震対策

 炉心部の設計震度を0.6とし、ガスダクトの設計震度を2.0とするなど、東海村敷地において予想される最大地震動に対し十分余裕のある設計地震力をとっており、また、構造計画として剛強な生体遮蔽構造物に原子炉本体、ガスダクトおよび熱交換器を結びつけ、かつこれらを一体の基礎の上に設ける方針をとっていることは妥当なものと認められる。

 黒鉛構造、ガスダクト、燃料取替え装置、冷却池等の各部耐震構造について検討した結果、東海村において予想される地震力をうけても施設の損傷はなく継続して使用できるものと思われる。また、本邦は地震の多発国である特殊事情にかんがみ、安全のうえにも安全を期するために、構造物の一応の竣工後、その各部につき振動性状を確かめ、設計計算の妥当なことを確認する計画は妥当なものと認められる。

(8)放射線障害対策

 遮蔽および廃棄系の設計基準は、科学技術庁告示昭和32年第9号、 1958年ICRP勧告および昭和33年11月27日付原子力委員会原子炉安全基準専門部会答申の放射線に関する許容値を十分下まわるようにしてあり、妥当である。

 気体廃棄物の敷地周辺に及ぼす影響については、通常運転時および異常時のいずれの場合においても障害を生ずることはなく、かつ、施設からの直接ガンマ線についても、民有地に対しては許容値を十分下まわり問題とならない。

 固体廃棄物および液体廃棄物についても、その処理系統の考え方は妥当なものと認められる。

 放射線管理については、その重要性にかんがみ、設計施工の段階において具体的内容について十分検討する必要があるが、その管理方針は妥当である。

(9)安全対策

 本発電所の異常時の安全対策としては、安全保護装置の多重化機構のほか地震等を考えて、英国等におけるよりもさらに高度の安全性を期するためボロン鋼球を落下せしめる緊急停止装置および補助駆動装置を持った炭酸ガス循環装置と緊急時炭酸ガス注入装置とからなる緊急冷却装置が付加される計画である。このような安全対策に対し種々の反応度事故および冷却能力喪失事故、その極端な場合として、ガスダクト一本が完全に切断し、かつ、ブロアー主駆動装置全部が使用不能となるようなほとんど起こりえない事故を想定し、検討した結果、これらの異常時における原子炉の停止および冷却については十分の信頼性があり燃料要素は溶融しないものと認められる。

 なお、この場合、最終的後備安全装置としての緊急停止装置および緊急冷却装置については特に慎重を期したが、前者による炉の停止は確実に行なわれるものと認められ、また後者も、炉停止後の崩壊熱除去とガスダクト破損時の空気侵入防止とに心要な機能は、原理的には備えていると認められる。 しかしながら、これらの諸装置は炉の安全性を確保するうえにきわめて重要であるから、 「5、原子炉施設の機械およびその構造」にも述べたように、今後の工事施工、検査等において特に注意を希望する。

 ダクト破損等の場合、燃料の溶融は防げても、もし炉内の燃料被覆に微小孔があれば、侵入した空気によって、その部分の燃料が急速に酸化し、酸化部分から放射性物質が外部に放出されることが考えられる。これに関しては燃料被覆の小孔の数、空気の混入割合等を起こりえないと考えられるほど苛酷に仮定し、さらにその場合に、たまたまきわめて悪い気象条件であると想定して、一般公衆に対する放射線の影響を検討した結果、放射線の被ばく限界をかなり低くとっても、一般公衆の安全は確保しうると認められる。

 なお、本原子炉では、その本来の特性に加えて、特に緊急停止装置および緊急冷却装置が付加されているので、事故評価の結果にかんがみると、コンテナーを用いない本計画は妥当なものと認められる。

(10)技術的能力

 日本原子力発電株式会社の現在の技術的能力およびこの発電所の建設、運転のために計画されている技術者の増員および訓練計画ならびに英国原子力公社から受ける技術指導等をあわせ考えれば、日本原子力発電株式会社にはこの原子炉の設置および運転に必要な技術的能力があるものと認められる。

各  論

1.立地条件

(1)敷地およびその周辺の状況

(a)敷地は茨城県那珂郡東海村東部にあり、面積は約24ヘクタールである。その東側は太平洋に面し、周囲は日本原子力研究所の予定敷地であり、かつ南側および西側は同予定敷地をへだて、北側は同予定敷地および県有林地帯をへだててそれぞれ民有地に接している。

 現在、原子炉設置予定地点から最も近い民家までの距離は約700m、最も近い民有地までの距離は約650mで、これより近い円内は日本原子力研究所予定敷地に属し、現在住居は存在しない。

(b)敷地周辺の人口は半径1km以内で約120人、 3km以内で約5, 800人である。周辺の比較的大きな都市としては水戸市、那珂湊市、常陸太田市、日立市等があるが、いずれもその中心部は本敷地から10ないし15km離れている。また付近のややまとまった集落としては、敷地北方約3.7kmの地点に日立市久慈町がある。

(c)予定地点の西南方約1. 3kmに小学校が存在するが、安全上支障はない。

(d)原子炉周辺のおもな状況は以上のごとくであるが、これを「8.放射線障害対策」および「9.安全対策」によれば一般公衆にたいして安全が確保されるものと考える。また、この付近の一般産業は原子力施設との関係で格別に問題となるものはない。

(2)気 象

 敷地を中心とする地域の気象の特性は、東海村における長期間の観測資料がないため水戸、那珂湊、神峯山、日立、石神等における観測資料によって判断せざるをえないが、これらの資料等によって考察すれば、

(i)敷地は平均8m程度の標高にあり、前面の海岸線はほぼ直線であるので、高潮の恐れはなく、付近の流れを考えても洪水による浸水の恐れは考えられない。
(ii)気温の逆転、静穏の継続時間等を吟味した結果は特に問題はないものと思われる。
(iii)予定地は台風に対して特に条件の悪い地域とは考えられず、たとえ強い台風の襲来があっても設計上十分これに対処しうるものと思われる。
(iv)敷地は海岸の砂丘地帯であるから、塩害、砂じん等による障害に対しては施設の設計および施工にあたり注意する必要がある。以上のように洪水、高潮、気温の逆転、風、台風、塩害、風じん、その他気象特性に関して、予定敷地が特に原子炉設置に不利な条件を与える地域にあるとは考えられない。

(3)地 震

(a)予定地は関東地方およびその付近で見れば、過去の地震被害歴も地震期待値も比較的小さい地域に属している。さらに予定地一帯は、地震動に対して割合安定な段丘台地で、第三紀層もさほど深くないことは地震被害回避の点で有利な地点といえる。
(b)敷地およびその周辺一帯は、その地形ならびに地質構造からみて山津波、地すべり等の発生はまったく考える必要はない。

(4)地 盤

(a)この敷地は洪積台地が削られて形成された段丘と考えられる。その表面約8mは堆積砂層におおわれ、その下位に段丘砂礫層と第三紀砂質泥岩層がある。この両地層ともその表面はほぼ平担で、構造物の不同沈下のおそれも少なく、構造物の基盤として特に不利な条件を持つものではない。
(b)原子炉施設の支持地盤として考えている下部砂礫層に対しては、提出された調査結果によれば、長期許容地耐力度として40t/m2程度の値をとっても一応支障がないと思うが、この種の重要な構造物としてはその全体沈下をできるだけ減らすことが有利であると考えるので、この点なお精密な地盤調査を行なったうえ、基礎構造の慎重な検討が望ましい。
(c)基礎の深さが地表面から10数mに達するから表砂層からの浸水に対し、施設の設計にあたり特に注意が望ましい。
(d)上部砂層の透水係数は1.2〜5×10-2cm/秒の程度とみられ、この値は比較的大きいが、地下水勾配が海側に傾斜しているので内陸方面に対する放射性物質による汚染の浸透の危険はまずない。

(5)用 水

(a)原水は阿漕浦に流入する降水および阿漕浦の湧水によってその所要量を確保し、渇水時には敷地内深井戸等を利用することによってその所要量を確保する計画としている。この計画自体はおおむね妥当と思われるが、今後十分に検討して、いかなる場合にも十分な所要水量が確保されるよう対策をたてる必要がある。
(b)原水の水質については,阿漕浦ならびに敷地内
試験井の少数例による分析結果が判明しているだけで、現段階では水質の良否について一般的に判定することは困難であるが、格別水質が悪いとは思われない。今後さらに十分な分析を行ない、要求される水質の純度と見合って、原水処理装置ならびにその容量等に関する検討が設計および施工の段階において十分に行なわれることが望ましい。
(c)復水器冷却水の海への放水については、放水による洗掘および海象作用による放水口の埋没等の恐れを伴うので、放水口の構造ならびに付近海岸線に及ぼす影響について設計および施工の段階において十分な検討をすることが望ましい。
(d)復水器冷却水15t/秒は久慈川河口から取水する計画である。この方法は技術的に可能であるが、渇水期において流量が減少したときには久慈川は海永が逆流し、港湾、河床等へ支障を与えることがないよう対策を講ずる必要がある。また、直接東側海中から取水する案も提示されている。この方法には施工技術上研究する問題は多いが、不可能な方法ではない。特に取水排水管の配置および構造設計に対して今後検討を必要とする。

(6)連けい電力系統

 連絡送電線についてはまだ計画が確定していないが、電力系統の事故波及をなるべく回避するため、特に信頼度の高い送電系統に連けいすることが望ましい。

(7)その他

(a)敷地およびその周辺には可燃性天然ガスの試掘権が設定されているが、地層の状況からみて、かりに試掘が実施されても、これが安全性に対して実質上の支障を起こさせる可能性はまずない。
(b)敷地およびその周辺上空には現在のところ定期航空路およびその他の一般航空機のひんぱんな通行はないので、航空機事故による危険はないと考える。
(c)敷地から5. 5km隔たった所に標的を持つ爆撃演習場がある。これについて演習弾の誤投下、演習構の落下等の実情を検討したところ、現状においては原子炉の安全性に支障はないと考えられる。
 しかし今後の演習状況の変化もないとはいえないから、本原子炉の運転開始までに演習場の移転が行なわれればともかく、さもないときは運転開始にあたっては、そのときの演習状況を十分考慮することが必要である。

2. 原子炉の性能

(1)核設計

 天然ウラン黒鉛減速炉は他の型式の原子炉に比べて反応度の余裕に乏しく、核設計には高度の精密度が要求されるのであるが、英国においてはコールダーホール発電所等この型式の原子炉においては各種核的定数について実証的な資料が得られており、その後の研究開発によっても核設計上相当の精度が上げられつつある。

 したがって、本申請書の原子炉の運転初期の性能については、その計画値は十分実現しうるものと思われる。

 しかし、燃焼度の高まった場合には、英国においても未経験のことに属し、計算の精度はやや低いものと考えられるので、本原子炉の詳細設計の過程において、今後英国における同型炉の運転経験を参酌して十分の検討が望ましい。

(a)超過反応度

 この型式の原子炉では燃焼度が進むに従がって反応度は増加する。本申請書の原子炉では、運転開始後約4ヵ月で1.5%の超過反応度が得られる。その後も一時的には増加するが、取りだし燃料の平均燃焼度が約3,000MWD/tになるような燃料取替えの平衡状態に達すれば超過反応度は1.5%に達すると計算されている。この値は本原子炉の運転上基本的な値であるが、まだ経験に乏しいので、今後の詳細な計算および実験によってその精度を高めることが望ましい。

(b)反応度変化と原子炉出力

 運転初期においては、原子炉出力(500 MW)は定格出力よりも低く、運転開始後4ヵ月以降は上記反応度の余裕の一部(0.35%)を中性子束平担化にふりむけ595MWの定格出力を発生する計画となっており、この考え方は妥当である。

(c)反応度と運転の白由度

 平衡状態における超過反応度のうち、出力増加のための反応度をさしひいた1.15%が運転の自由度のために残されている。
 原子炉負荷が変化した場合において、運転の自由度を確保するには、正の温度係数の効果とキセノンの生成とによる反応度の低下を補償する必要があるが、上記の1.15%の反応度の余裕によって、全負荷から33%負荷程度に下げて運転することが可能な計算となっている。しかし、上記(a)項に述べたように計算の精度をも考慮し、50%程度の低負荷運転を行なう方針をとっていることは妥当なものと認められる。

  以上のように本申請の原子炉は核設計上からみて所期の燃焼度(取りだし燃料平均3,000MWD/t)にて定格出力運転が可能であり、また十分の運転の自由度も得られると考えられる。なお本申請書の核設計の検討にあたって用いた格子構造は「7.地震対策」の項で述べる最終設計の格子構造とは若干相違するから、さらに設計計算をしなおす必要があるが、ウラン対黒鉛体積比等にはほとんど差がないから核的性能の変化はほとんどないと考えられる。

(2)熱設計

 本原子炉で発生する熱出力595MWは、冷却材の炭酸ガス(圧力約13kg/cm2g)によって除去され、その炭酸ガスが熱交換器で発電用蒸気タービンに送られる蒸気を発生するようになっている。すなわち負荷時においては、炭酸ガスの原子炉出口温度を約400℃に保持するように制御棒を調整し、発電機負荷に応じて炭酸ガス流量を変化させるよう、ガス循環装置の制御を行なっている。この熱設計に採用されている熱的諸特性はおもに実験と経験によっており、妥当なものであるが、重要な数点についての意見は次のとおりである。

 設計上の制限値である燃料被覆表面温度については、実際に起こると予想される最高温度と設計上の平均最高温度との差を約26℃と推定し、平均最高温度が約450℃になるように設計されている。多数の燃料要素の製作上から生ずる不均一性によるランダムな差異、燃焼度の相違、スリーブからの漏洩、ガス流量の不均一性等による系統的な変化について、この程度の余裕をみていることは適当であると思われるが、詳細設計においては十分な検討が望ましい。

 フィン付燃料要素と炭酸ガスとの間の熱伝達特性は、普通行なわれるようにおもに実験的研究によって設計上必要な資料を得ている。しかし「9.安全対策」に述べるように、事故時におけるような低流量に対する熱伝達特性は重要な問題であるので、詳細設計にあたっては十分な検討が必要である。

 炭酸ガスを約2,000のチャンネルに流し、必要な熱除去を行なうことは、事故時はもちろん平常時においても大切なことであるので、この原子炉ではその目的を達成するためにチャンネル入口にギャグを設け、その調整によって炭酸ガスが各チャンネルに有効に分布するように設計されている。しかし炉の竣工後に行なうこのギャグの調整で、チャンネルに対する運転時の流量分布と同時に事故時の低流量に対する有効な分布を推定することは、多くの経験と研究が必要と思われる。したがって炉の竣工後にこのギャグの十分な調整を行ない流量の有効な分布が得られることを確認することが必要である。

(3)動特性

 本原子炉の動特性は、コールダーホール発電所その他における実績および実験による実際的資料に基づいて検討されており、その検討結果はおおむね妥当なものと思われる。

 しかし、この検討に採用された資料は運転の比較的初期のものであり、これらの資料を燃焼の進んだ段階における検討に採用して推定を行なっている点も少なくないので、これだけでは十分解明されているとは思われない。したがって動特性については今後明らかにされる実際的資料によって、さらに引き続き十分な検討を行なう必要がある。

(a)温度係数

 この原子炉では、燃料の温度係数は燃料の燃焼度によってほとんど変化なく常に負で-(1.8〜2.4) ×10-5K/℃の値を有することが実際にコールダーホール発電所の実験結果によって確かめられている。燃料の温度上昇に対する時定数は小さい。
 これに対し減速材の正の温度係数は燃焼が進むにつれて大きくなり、燃料交換平衡時には14×10-5K/℃程度に達するものと思われる。
 この型の炉では、減速材黒鉛ブロックの熱容量がきわめて大きく、黒鉛ブロックと黒鉛スリーブの間には炭酸ガスが存在しているため減速材の温度上昇に対する時定数は大きい。
 したがって、急速な過渡現象においては燃料の温度係数の効果がただちに現われるが減速材の温度係数の効果はすぐにはきいてこないので、原子炉の即時温度係数は総合して負となる。しかし、ゆっくりとした過渡現象においては減速材の正の係数の効果がでてくるので、炉の自己制御性に依存することはできず、制御棒の動作によって原子炉を制御しなければならない。
 一方制御棒による制御は6-(2)に述べるようにその容量と速度の面からみて、この温度効果に十分対処しうるよう設計されているので正の温度係数の計算値に若干の誤差があっても、原子炉の運転に大きな支障を与えることはなく、安全性に重大な影響を及ぼすことはない。
 ただし、これには検出装置および制御機構が完全であることを前提としているので、その設計、製作は入念に行なうことが必要である。

(b)中性子束の不安定性

 本原子炉において中性子束が不安定になる原因は、第1に分裂生成物のキセノンの生成消滅によるものであり、第2に黒鉛の正の温度係数の影響によるものである。
 原子炉の半径方向の中性子束の不安定性については、減速材の温度係数が14×10-5K/℃程度になると零モード、第1モードは発散するが、これより高次のモードは減衰振動となる。
 これによってひき起こされる不安定性を制御し安定化するために炉心を9分割し、各領域ごとに2本の微調整棒をおいて、各領域のチャンネル出口温度の平均値を一定に保つような自動温度制御方式がとられている。炉心を9分割したことは、安全のため計算上発生が予測されるよりも高次モードまでも制御可能とするための設計であり、また1ないし2領域の微調整棒が故障しても、残りの領域の微調整棒によって十分制御しうる設計であるので、その基本方針は妥当なものといえる。
 最も速く発散すると思われる零モードの時定数でも約7分であるので、制御棒の制御能力の面から十分制御しうるものと思われる。
 軸方向の中性子束不安定現象の解析結果によれば、 14×10-5K/℃の温度係数の範囲ではその発生は予想されないが、計算上の誤差を考慮し、万一本現象の発生した場合にも防止策を講じている方針は妥当である。本現象の発生は、微調整棒の炉内における位置が大きな影響を与えるが、微調整棒をつねに半分以上炉内に挿入することにより、この問題の解決をはかっている方針は安全上妥当である。
 ただし、この措置によって微調整棒の制御可能範囲が制限されるので、炉の運転の自由度に制限が加わることになるから、詳細設計においてさらに十分検討することが望ましい。

(c)外乱に対する応答

 常時運転における外乱としては、燃料取替え時の反応度変化(反応度変化率0. 5×10-5K/秒、 2分間)、制御棒の日常点検時の反応度変化(変化量50〜100×10-5K、変化率0. 1〜0. 003×10-5K/秒)、出力変更時の流量変化(5%/分)炭酸ガス循環機1台故障(15%流量減少)、制御棒の1本の落下(50〜100×10-5K)等を考え、それらによる燃料被覆温度の最大変化量が2℃〜10℃をこえないように自動温度制御方式を設計することになっている。
 これらの外乱の加わった場合に原子炉に起こる反応度の時間的変化の割合にくらべ、制御棒の速度は十分に大きいので制御可能と思われる。
 これ以上の外乱に対しては、安全保護系の動作により原子炉を停止させるようになっているので、安全は確保される。
 また送電線の事故等により発電所負荷が急減したような場合、タービン発電機の動作は普通のものと変りなく、原子炉のみが5%/分の割合で出力を低減する。原子炉はキセノンオーバーライドの可能な最低出力として全出力の33%に下げて運転することが可能な設計である。以上のように外乱に対する対策はおおむね妥当であり、原子炉の安全は確保されるものと認められる。

3.燃料要素

(1)燃料要素の設計

 在来のコールダーホール型原子炉で使用されている燃料要素は、中実型金属ウラン鋳造棒-マグネシウム合金被覆型のものであるが、本原子炉に使用される燃料要素は、さらに改良をはかり中空の金属ウラン鋳造棒を耐酸化性のマグネシウム合金で被覆したカートリッジをジルコニウム合金の支持架によって黒鉛スリーブに装着したものである。

 この黒鉛スリーブは次のことに役だっている。燃料要素をチャンネル内に個別積重ね方式で装入したとき、カートリッジ自体にそれより上部の燃料要素の自重がかからないので、カートリッジの曲りによる変形およびそれによる燃料の取出し困難を防止し、また炉の特性も改善される。

 中空型燃料要素は一定の燃料最高温度に対し比出力を増大し、燃料経済をはかるという利点のほか、燃料要素にみられるスエリング(ふくれ)、グロース(成長)、リンクリング(しわ)などの冶金的問題に対してもむしろ中実型より好まいと考える。

 すなわち燃料要素の高い燃焼度を期待する場合に最も問題と考えられるのは、燃料要素内の伝熱、被覆材の強度などに大きな影響を及ぼす外面へのスエリングであるが、中空型燃料要素の場合には内面へもスエリングするので同じ比出力を持つ中実型燃料要素よりは外面へのスエリングが少なくなるであろうと期待されるからである。

 また炭酸ガスの圧力が急激に低下しても内圧によって燃料要素が破壊されぬように設計され、また試験されることになっている。しかし、この中空型燃料要素は新しい型であってまだ使用実績がないのであるが、この点にかんがみ、その予定使用条件に近い状態で燃料要素の炉内試験などを行なってその使用上の安全が確かめられたうえで実施することになっている。したがってこの計画は妥当と認める。

 また設計が複離なだけに、よりいっそう厳格な品質管理と検査が必要である。

(2)燃料要素の伝熱特性

 マグノックス・キャンは、ウラン円筒の円周にそって環状に刻まれた多数の摺動防止溝に高圧で圧着されることになっているので、良好な伝熱特性が得られるものと期待される。したがって燃焼が進んだ場合に、カートリッジの変形による局部的伝熱特性の劣化のために燃料要素のその部分が過熱し溶融に至る危険はないものと思われる。

(3)燃料要素の酸化

(a)燃料要素の被覆材として用いられているマグネシウム合金は、ベリリウムが含まれているため酸化に対する抵抗が相当大きい。実験結果によれば、溶融点640℃以下では炭酸ガス中において問題になるような酸化は起こらず、炭酸ガス中に約2%の水蒸気が混入している場合でも溶融点付近までは急激な酸化は起こらない。また空気中において相当長時間にわたって600℃に加熱しても燃焼せず、溶融点以上になってはじめて燃焼する。
 したがって、通常運転時においてはその炉内温度から考えて被覆材酸化の恐れはなく、冷却材に空気および水蒸気のある程度の混入が起こるような異常時においても、炉内温度を極端に高めないための防止機構が作動すれば、被覆材の急激な酸化およびその反応熱に基づく溶融は起こらないものと認められる。

(b)燃料要素の主要部分を構成する金属ウランの炭酸ガスによる酸化は700℃付近から、また空気中の酸素による酸化は300℃付近からいちじるしくなる。
 しかし、金属ウランは上述の耐酸化性の大きいマグネシウム合金により完全に被覆されているので、その破損がないかぎり、通常運転時においても事故時においても、炭酸ガスまたは空気と接触して酸化反応を起こすことはない。
 万一通常運転において被覆材になんらかの原因による破損が生じた場合でも、破損燃料検出装置によって早期にこれを検出し、その破損燃料要素を取り替えることになっているので、その際の炉内温度から考えても燃料破損箇所を通じての金属ウランの炭酸ガスによる酸化が問題になるとは考えられない。
 またガスダクトが破れて相当量の空気が冷却材中に混入するような事故時においても、上記のように常時破損燃料の検出を行なっているからその際被覆材破損箇所が数多く存在するとは考えられず、 「9.安全対策」で述べるとおり破損箇所を通じての金属ウランの酸化が重大な問題になるとは考えられない。

4.黒鉛および炭酸ガス

(1)ウィグナ-効果

(a)ウィンズケールの事故がウィグナーエネルギー放出作業中において生じたものであり、黒鉛のウィグナーエネルギー蓄積現象は炉の安全性に関係が深い。しかし本申請にかかわる原子炉について、その20年間の耐用年数中1回もウィグナーエネルギーの放出作業を行なう必要がないように、黒鉛スリーブの採用等によって原子炉運転中の黒鉛温度をウィグナー限界温度より高くし、ウィグナーエネルギー蓄積を防止するように設計していることは安全上妥当である。
 最近になって従来いわれていたウィグナー効果による黒鉛の膨張のほかに、高温下において長期照射を受けた黒鉛は逆に収縮を生ずるという現象が判明した。英米の実験では黒鉛特性および試験条件が異なるので、異なった試験結果が出ているが、たとえその黒鉛の変形量に相当の開きがあっても炉心の構造設計上十分安全を確保できる見通しであり、かつ原子炉の核的特性に与える影響は小さく、無視しうるものと思われる。

(b)黒鉛のウィグナ一変位に対処するため計画されている炉心構造としては、 6角柱状の黒鉛ブロックを使用し、その各辺には交互にキーとキーウェイをもうけ、それをかみ合わせることによりブロックを配列する。ブロック相互間には若干の隙間があり、キーとキーウェイはブロック中心から放射方向の変位は拘束しないからブロック自体の膨張収縮は自由となる。炉心内の中性子束密度と温度分布は一様でないから、黒鉛は位置によって異なったウイグナ一変形を起こすが、本構造によれば各ブロックの変形はそれぞれの位置で独立に起こりうるので、炉心全体としての変形は起こらずブロックにも変形による応力は生じない。またチャンネルの屈曲も生じないので、チャンネルとスリーブ、チャンネルと制御棒との関係位置は一定に保たれるからウィグナー変形に対して特に不都合と思われる点はない。

(2)黒鉛の質量移行

 原子炉の運転中炭酸ガスとの反応等により黒鉛ブロックの微量が他の部分へ経年的に移行する可能性が考えられている。
 もしこの移行が起これば原子炉、熱交換器、燃料被覆等に沈着することが予想される。しかしコールダーホール発電所の実績等から推定すれば、移行量は最大年約0.33重量%でほとんど無視しうる程度であり、その長期間の黒鉛密度の減少による黒鉛ブロックの強度低下あるいは黒鉛沈着による燃料被覆および熱交換器内水管の熱伝達特性の低下は問題とするにたりないと思われる。
 しかし、長期にわたっての実績もないことであるから常時監視を十分にすることが望ましい。

(3)黒鉛の材質

 黒鉛の純度、強度、密度等の材質については4-(1)および4-(2)のごとき問題があるので十分な実験によって製法を確立したものを使用し、また放射線照射による影響を十分把握したものを使用する必要がある。

(4)炭酸ガスの純度

 炭酸ガス中に含まれる不純物中水分は炉内各要素の酸化を促進させ、特にウラン酸化をはやめ、またアルゴン等は放射線障害の発生原因となるので、安全上純度の高いものを用いることが必要であるが、これに適した純度の炭酸ガスは生産可能である。

5.原子炉施設の機械およびその構造

(1)圧力容器などの設計

 圧力容器は直径約18.9mの球形容器で、厚さ85mmの鋼材を現場溶接によって組み立てるものである。容器には直径約1.8mの炭酸ガスダクトが4系統接合されており、容器上方には制御棒駆動装置および燃料取替え機構などが取り付けられている。

 圧力容器などの設計は、英国規格1,500、ロイド1級規格、米国機械学会「火なし圧力容器」規格と、さらにわが国で対象となるすべての規格にあうことを条件に計画されている。強度は熱応力を含めた平常時応力が上記のおもな規格に定められている許容応力(極限応力の1/4)以下とし、これに地震の応力を加えたものが弾性限度の70%以下になるように設計することになっている。

 地震の影響に対する設計震度は、ガスダクトについては2.0、その他については水平0.6、垂直0.3の値をとっているが、 「7.地震対策」に述べられているように十分安全度を見込んだ値である。

 原子炉圧力容器は、今までの規格が対象としている蒸気ボイラや火なし圧力容器のいずれともその形や大きさおよび使用目的が違ったものであるが、詳細設計においては、模型実験などによって綿密な設計をすることが計画されているから、上記の考えは妥当なものと考えられる。

 なお、構造材料に対する放射線の影響については、まだ詳細な資料がないので、今後の詳細設計の段階においては、十分慎重に考慮することが望ましい。

 圧力容器の各部の温度分布が一様でないということは望ましくないので、この計画でもその点に注意をはらい、断熱材を使って圧力容器の各部をおおい、圧力容器の各部が約200℃に一様になるような設計が試みられているが、原子炉の完成後適当な方法によって上記温度分布が許容範囲内にあることを確かめることが望ましい。

(2)圧力容器などの現場製作

 このような大径、厚肉の圧力容器の現場における溶接と検査および焼なましについては、かなりの注意がはらわれているからよいと考えられるが、まだ経験も少ないことであるのでその実施にあたっては十分の注意が必要である。

 熱交換器は設計圧力の150%の水圧および空気圧試験を行ない、また圧力容器およびガスダストは設計圧力の150%の空気圧試験を行なうとともに、空気圧を加えた状態で漏洩試験を行なう計画になっていることは妥当な方法と思われる。

(3)炭酸ガス循環装置

 炭酸ガス循環装置は緊急冷却装置の主要部となるもので、昭和34年7月9日の審査会中間発表において本原子力発電所の安全性を認めるために必要な条件の一つとして「能力的にも機構的にも信頼度の高い緊急冷却装置を設けること」を指摘したが、その線にそってその後計画変更申請がなされた。変更申請によった計画の大要とそれに対する意見は次のとおりである。

 1次冷却材の炭酸ガス循環系統は4系統であって原子炉圧力容器の上下を結ぶ直径約1.8mのダクト系の途中に直径約6.6m、高さ約25.6mの熱交換器を各系統に各1基ずつ置き、その熱交換器の下部に竪型ブロアーの翼車を内蔵している。

 ブロアー1台に対し、主駆動装置と補助駆動装置が各1基ずつ組み合わされている。主駆動装置は1基が約8, 000馬力の容量の可変速竪型背圧蒸気タービンで、熱交換器において発生した高圧蒸気で駆動され、その排気はふたたび熱交換器を通り、発電用蒸気タービンの低圧蒸気系統に送られる。蒸気タービンは減速装置と自由嵌脱装置とを介してブロアー軸に接続し、発電所の負荷に応じてブロアーの回転速度を約120〜1,200r.p.m.の範囲に調整することができるよう計画されている。

 ブロアーの出しうるガスの最大流量は、常用圧力の炭酸ガスに対して1台約700kg/秒である。補助駆動装置は約100馬力の竪型定速交流電動機で、減速装置と嵌脱装置とを介して主駆動装置と共通のブロアー軸に接続している。

 この蒸気タービンは原子炉の起動時と原子炉停止後熱交換器から必要な蒸気発生が得られない場合に備え、蒸発量約15t/時の所内ボイラを2基備えており、そのうち1基は原子炉運転中、常時圧力を上げ、加熱しておく計画がなされている。

 このボイラの容量は1基でブロアー3台を常用圧力の炭酸ガスに対して120r.p.m.以上、大気圧の炭酸ガスに対して550r.p.m.以上で回転することができるものである。

 電動機の電源は所内用の非常用ディーゼル発電機から得ている。この電動機はガスダクト破損の場合のように炉内ガス圧力が大気圧となった場合で、しかも蒸気タービンの使用ができない場合に使うもので、その容量はプロアーを550r.p.m.以上で回転することができる。このことはその2台を駆動することができれば、 1.3%のガス流量(常用圧力のガスに換算)を確保できる目的で計画されている。

 以上のようにこの炭酸ガス循環装置は、原子炉の通常運転時に対してはもちろん、 「9.安全対策」に述べてある事故時の崩壊熱除去を目的とする装置として、最少限に必要な機構を原理的に備えているものと認められる。しかし、現段階ではまだ計画方針がきまっただけのものであり、またその装置はかなり複雑なものであって、装置の各部分には原子炉施設に対してまだ経験の少ない新しい試みが多くみられるから安全性を高めるために種々方策を講じることになっている。

 原子炉の安全を確保するのに最も重要な役割を持つこの炭酸ガス循環装置のことであるから、その信頼性を確認するために詳細設計、製作、すえつけなどによっては、今後綿密な調査研究を行ない、さらに実際に近い状態での十分な工場試験等を行なうことが必要である。

 なお平常時に対する主駆動装置の容量は妥当なものと考えられる。また事故時に対する電動機の容量については「9.安全対策」に述べるように、今後も十分検討することが必要であるが、もし容量の増加を必要とすることになっても基本計画上は支障をきたさないと考えられる。

(4)制御棒駆動機構

 可変周波交流電動機、ドラム、巻線等の組合せからなる制御棒駆動機構は、すでに英国でコールダーホール型原子炉において使用中のものに改良を加えたものであり、常時は特に問題となる点はなく、また電源喪失の場合は制御棒は重力により落下する方式となっており、十分安全を確保しうると思われる。

(5)燃料取替え装置

 この原子炉の特長は、原子炉運転中に燃料取替えが可能という点にある。この装置を使用することによって燃焼度の向上、出力の確保、炉停止時間の減少等数多くの利点が生れるので、この燃料取替え方法は良い方法と考えられる。しかし、この装置は経験がないので詳細設計にあたっては十分留意する必要がある。

 燃料取替え装置は2台(うち予備1台)設備され、1台で最高取替え計画を上まわる取替え能力を持っており、燃料取替えは円滑に行ないうると考えられる。

 燃料取替え装置の非常時電源としてはディーゼル発電機および蓄電池を持っており、駆動電源として十分な対策と考えられる。

(6)ガスダクトの安全弁

 1次冷却系の安全弁は、圧力容器入口側と主弁との間の2箇所に各1個およびブロアー出口側と主弁との間の4箇所に各2個ずつ合計10個取り付けることになっている。蒸気管の1本が破損し蒸気がダクトの中にもれ出たときの圧力上昇が最高であるので、そのときの圧力を常時圧力の110%以内に保つことが1個の安全弁でできるように安全弁の容量が定めてある。

 この考えはよいと思われるが,蒸気管が破れたときには熱交換器の中の圧力が最初に上ることも考えられるので、熱交換器に安全弁がついていないこの計画には多少の問題があるように思われる。したがって詳細設計にはこの点についても検討が望ましい。安全弁とガスダクトとの間にはそれぞれ隔離弁があって、安全弁の保守点検には隔離弁をしめて、安全弁をガスダクトから分離できるようになっている。これについては、隔離弁が誤まってしめられていることのないような保護装置を設ける計画になっていることは妥当である。

(7)炭酸ガス補給装置

 本原子炉の炭酸ガス補給装置は、容量約200tで最大補給容量は約10t/時となっている。

 1次冷却系統からの全漏洩量は1.5t/日と予想されるが、この値についてはコールダーホール発電所の実績からみても妥当な値であると考える。したがって経年変化等による漏洩量の増大があるとしても10t/時の補給能力があれば常時運転時の冷却材の減少を補うには十分である。