原子力委員会

 学校法人五島育英会の原子炉の設置に関する原子力委員会の答申が9月30日付で総理大臣あてになされた。放射線源利用国際会議が9月8日〜12日の間ポ-ランドのワルソーにおいて開かれ日本からも3名が出席した。原子力船開発研究に関する原子力船専門部会の答申が9月11日付で部会長から原子力委員長あてになされた。原子力委員会参与および専門委員の移動、追加があった。また9月30日開催の第38回定例会議において放射線化学懇談会の設置が決定した。

五島育英会の原子炉の設置に関する委員会の答申


 学校法人五島育英会が、教育用、研究用および放射性同位元素生産用として、神奈川県川崎市王禅寺字四ツ田武蔵工業大学原子力研究所に設置する水素化ジルコニウム減速濃縮ウラン固体均質型原子炉については、原子力委員会は昭和34年6月29日付をもって諮問を受け、審査をかさねた結果、昭和34年9月30日付で中曽根委員長から岸総理大臣あて次のような答申を行なった。

34原委第90号 
昭和34年9月30日

 内閣総理大臣
  岸  信 介殿

原子力委員会委員長 
中曽根 康 弘

学校法人五島育英会の原子炉の設置について(答申)

 昭和34年6月29日付をもって諮問のあった学校法人五島育英会の原子炉の設置について審議した結果、下記のとおり答申する。


 学校法人五島育英会が教育用、研究用及び放射性同位元素生産用の目的をもって神奈川県川崎市王禅寺字四ツ田武蔵工業大学原子力研究所に設置する水素化ジルコニウム減速濃縮ウラン固体均質型原子炉(TRIGA-II型)熱出力100kW1基の設置許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。

 なお、各の基準の適用に関する意見は、次のとおりである。

○核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号の許可基準の適用に関する意見

(平和利用)

1 この原子炉は、学校法人五島育英会において、教育用、研究用及び放射性同位元素生産用に用いられるものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的開発利用)

2 学校法人五島育英会がこの原子炉を設置し、同法人に所属する武蔵工業大学の原子力研究所を中心に教育用、研究用及び放射性同位元素生産用に利用することは、その使用目的が適切であって、原子炉の型式、性能もその使用目的に合致しているものと考える。また必要とする燃料も少量でその入手に支障がなく、かつ原子炉利用に関する陣容も整っており、原子炉の運転等に要する経費についても、昭和34年2月10日の東急原子力グループ14社の協約により、毎年、武蔵工業大学経常部予算から原子力研究所予算として、約70百万円を計上されることになっていて、その利用効果も確保しうるものと考えるので、この原子炉の設置、運転がわが国の原子力開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)

3 原子炉の設置に要する経費は、関係附帯経費を含め総額約686百万円を要するが、その調達については、昭和34年2月10日の東急原子力グループ14社の協約により、これら各社の寄付によることが決定しているので、原子炉を設置するために必要な経理的基礎があると認める。

(技術的能力)

4 この原子炉の設置計画は、武蔵工業大学工学部の関係教授をもって構成する原子力研究委員会によって推進されているが、この場合、東京急行電鉄株式会社が株式会社日立製作所と技術援助契約を締結して援助を与えることになっており、また原子炉の据付工事は、この原子炉の製作者であり、かつこの原子炉の据付、運転について十分な技術的能力を有するゼネラル・ダイナミックス社が施工に当ることになっている。

 従って、学校法人五島育英会が武蔵工業大学の原子力研究委員会を主体として原子炉の設置を行うについては、この原子炉の設置に要する技術的能力があると認める。

 また、原子炉の運営管理及び利用は、同大学の工学部を技術的背景とし、原子力研究所(主任研究員9名、補助研究員33名)がこれに当ることになっているが、その具体的な運転管理の体制は、原子炉の運転については主任研究員のもとに原子炉主任技術者予定者1名(原子炉主任技術者筆記試験合格者)及びその補佐1名並びに補助研究員4名を、また保健管理については放射線管理に関し十分な能力を有する主任研究員1名のもとに補助研究員3名その他の者3名を配置計画しているので、原子炉の運転管理を適確に遂行するに足りる技術的能力があると認める。

(災害防止)

5 原子炉施設の位置、構造及び設備については、次の検討結果により、核燃料物質、核燃料物質によって汚染された物または原子炉による災害の防止上支障がないと認める。

(1)立地条件

 この原子炉施設は、東京の西南、溝ノ口の西南西約8kmの地点、海抜58mの丘陵上の約7ヘクタールの山林地を建設敷地として、そのほぼ中央部に設置され、原子炉格納施設から敷地境界への至近距離は約50mであるが、この原子炉の出力、特性等からみて、原子炉の安全な運転を確保する上に、十分な敷地面積をもっていると考える。

 なお、建設敷地周辺の現状は、原子炉格納施設から人家への至近距離は約400m、原子炉格納施設から半径500m以内の地域は約80%が山林で占められ、残りが農地その他となっていて、この地域内の人口は約10名である。

 また、用地一帯の地盤は、標準貫入度100以上の第三紀層のシルト質泥岩からなっていて、原子炉施設は丘陵上の表土を削り取って砂質ローム又はシルト質泥岩の上に建設し、コンクリート製または石積の土砂止めも行うので、大雨等の際の土砂崩れによる原子炉施設の崩潰その他の損傷を受ける恐れはなく、気象、地震等の設置場所に関するその他の立地条件も、この原子炉の出力、特性等からみて支障ないものと考える。

(2)原子炉の安全性

 この原子炉は、

(イ)熱出力100kW、過剰反応度1.6%で設計されているが、即発性の大きな負の温度係数(-0.013%/℃)に基づく自己制御性を有するので、仮にこの過剰反応度を急激に入れても、出力の上昇は自動的にあるレベルに抑えられて原子炉は暴走しないのみでなく、燃料棒(水素化ジルコニウムと20%濃縮ウランを均質に結合させた棒状固体燃料)も溶けないことが、理論的にも、またこの原子炉(TRIGA-II型)の原型であるTRIGA-I型(出力10kW、過剰反応度1.6%)の実験によっても確められていること。

(ロ)放射線遮蔽は、出力100kWの場合でも遮蔽壁の外側で放射線量率が2 mrem/時以下になるよう計画されているので、1週48時間の標準作業条件下において、現行の科学技術庁告示の許容線量(300mrem/週)は勿論、ICRPの1958年勧告第48条の所謂設計基準(100mrem/週)内にあること。等のため、その安全性は確保されるものと考える。なお、その他原子炉冷却系統施設、計測制御系統施設等の原子炉本体関係施設については、特に問題となる点はないと考える。

(3)放射性廃棄物処理

 気体状の放射性廃棄物は炉室及び研究室の換気により排気筒より放出されるが、その濃度は通常最大許容濃度の1/10を十分下廻り、また原子炉の異常状態においても炉室の密閉等の処置によって放射能を減衰させて後最大許容濃度の1/10以下にして放出するので、周辺の地域に対する影響及び北東3.1kmの位置にある長沢浄水場に対する影響は問題にならないものと考える。また通常放射性液体廃棄物はなく、原子炉の異常状態においても最大許容濃度の1/10以下(90Srについては1 /100以下)に処理稀釈されて後、埋設コンクリート管を通して歌川に放出される。その後、歌川の川水は、附近の水田への感慨に利用されるが、これ等の水田から収穫される米を常食する場合の人体に対する放射性物質の影響は、相当危険側に計算しても3×10-2mrem/週であるので、一般公衆に対する許容値(ICRP1958年勧告第65条(e)項は1mrem/週相当)を十分下廻り,また川水の地下水に対する影響についても川水の稀釈効果と土壌のイオン交換作用をも考慮すれば問題にならないと考える。また放射性固体廃棄物は、コンクリート製の敷地内貯蔵所に一時保管の後他の適当な処理機関で処理される計画になっているので、適切な措置が講ぜられていると考える。

(4)放射線管理

 放射線管理施設としては、各種モニターを備えており、エリア及び個人のモニタリングを満足に行うことができるものと考える。なお、敷地周辺地域の放射線管理についても慎重に計画されているものと考える。

(損害賠償)

6 なお、原子炉の災害による第三者に対する損害賠償については、原子力災害保険に付保するため、毎年相当金額の準備があるので、損害賠償に関する保険付保の法律実施の際には、これに加入する態勢にあるものと認められる。