原子力委員会

 昭和35年度の原子力関係予算が8月19日開催の第32回原子力委員会定例会議において決定された。原研半均質臨界実験の安全性に関する答申が原子力委員長から内閣総理大臣あて行なわれ、また核燃料経済専門部会の第1次中間報告書が部会長から原子力委員長あて提出された。第2回原子力周辺地帯整備懇談会が9月3日開催された。原子力委員会参与3名が再任され、原子炉安全審査専門部会委員1名の追加があった。

昭和35年度原子力予算の委員会決定

総額は約159億円にのぼる


 昭和35年度原子力予算については、原子力局および各省庁からの要求総数185億円(現金分)に対し慎重な検討を重ねていたが, 8月19日開催の第32回原子力委員会定例会議において以下のように委員会として調整額を決定した。

昭和35年度原子力関係予算見積方針

原子力委員会   
昭和34年8月   

 世界の原子力開発の現況をながめると、先進諸国はいずれも長期にわたりつちかった基盤を足場として、新規分野の研究に積極的に乗り出し,原子力平和利用の成果を目ざして真剣な努力を傾けている。わが国における原子力の研究開発は,昭和29年度に開始されて以来着実な発展を遂げ、研究開発の基盤も着々と整備をみせつつあるが10年以上といわれる立ちおくれをもって原子力開発を開始したわが国が世界のすう勢に伍していくためには、新たなる決意をもって,原子力平和利用の急速な推進を図らなければならない。

 このときにおける原子力政策は、従来継続してきた基盤および応用両面の研究を深めていくことはもちろん、さらに新しい発展段階に対応して、新規研究の強力な推進と新規施策の積極的な展開に重点を置き、将来の飛躍の基礎を固めるべきである。

 昭和35年度原子力関係予算の見積にあたっては、研究規模の拡大と深化にともない、試験研究の調整はいっそう必要となっているので、研究費の有効な使用に心掛け、思いきった調整を行なったが、なお、上記の見地に立って政策の重点を実現すべく、人員機構の充実整備と施設の増強に特段の力点を置くこととした。

 以上のごとき方針にもとづき見積った結果、昭和35年度原子力関係予算は、144億円となった。

 この見積額は、わが国の原子力開発の促進のためには必須の額であり,その確保を強く望むものである。以下、昭和35年度において実施すべき主要事項を掲げる。

1.原子炉の研究開発

(イ) JRR-1 (ウオーターボイラー型原子炉)およびJRR-2 (CP-5型原子炉)によって試験研究を続行する。

(ロ) JRR-3 (国産一号炉)を完成する。

(ハ)動力試験炉の建設を促進する。

(ニ)増殖炉について、均質炉臨界実験、半均質炉臨界実験、高速炉予備実験等の試験研究を強化する。

(ホ)舶用炉の開発のための調査研究を行う。

(ヘ)材料試験炉開発のための調査を行う。

2.原子炉に関連する機器材料の研究

(イ)原子炉に関連する機器について、民間企業に対し助成金を交付して研究を促進する。

(ロ)原子炉に必要な材料について、日本原子力研究所、金属材料技術研究所等の研究を継続するとともに、民間試験研究機関の試験研究の推進を図る。

3. 核燃料対策

(イ)核原料物質の探鉱については、地質調査所および原子燃料公社による概査および精査を組織的に行なうとともに民間による探鉱事業を探鉱奨励金によって助成する。

(ロ)人形峠における核原料物質の採鉱については、

採鉱基礎試験に引き続き実際への応用試験を行ない、将来の採鉱方法の確立のための資料を得る。

(ハ)粗製錬については、引き続き人形峠ウラン鉱石の粗製錬工業化試験を行ない、製錬方式を検討する。精製錬については、精製還元試験設備の連続操業およびその改良を行なう。

(ニ)核燃料の加工については、民間試験研究機関等における研究を促進する。また再処理については、日本原子力研究所および原子燃料公社の協力による研究を進め,さらにその技術確立のため、日本原子力研究所にホットケープを作ることとする。

(ホ)燃料要素の検査方式の確立を図るため、原子燃料公社等において核燃料検査技術を開発する。

(ヘ)米国との協定にもとづいて政府が行なう特殊核物質の賃借または購入等に関する経理を一般会計と区分して行なうため、特殊核物質特別会計を設置し、その経理の円滑化を図る。

4.核融合反応の研究

(イ)核融合反応現象を解析するための一環として、電気試験所において34年度に引き続き、高温プラズマの研究を推進し、特に35年度はプラズマ発生に必要な超真空技術、ミリ波技術等の向上を図る。

(ロ)理化学研究所においてマイクロウェーブの電磁波および回折格子による高温プラズマの測定方法の研究を行なう。

(ハ)日本原子力研究所において、核融合反応装置に関する技術的資料を得るための研究を進める。

(ニ)核融合反応発生装置および測定機器の基礎技術を推進するため、関係諸機関に対して助成金の交付を行なう。

5.原子力船の開発

(イ)日本原子力研究所、運輸技術研究所および民間において原子力船開発に必要な基碇研究を推進する。

(ロ)原子力船の研究開発を促進するため、対象を定めて基本設計を行なう。

(ハ)原子力船の就航に備え、その準備のための対策を検討する。

6.放射線利用の研究

(イ)放射線化学に重点を置く放射線利用の研究開発を促進するための民間の試験研究機関に補助金を支出する。また工業技術院名古屋工業技術試験所に開放実験室を設け、中京地区における放射線化学の研究を推進する。

(ロ)ガンマーフィールドを設立整備し、合わせて貸与照射圃場を設置して、大学、公立試験研究機関による十分な利用を図る。

(ハ)以上のほか日本原子力研究所、国立試験研究機関等における研究については、継続研究のさらに十分な遂行を図るとともに、研究開発にともなう新規必要分野の重点的研究を行なう。

7.放射線障害防止対策

(イ)日本原子力研究所、各国立試験研究棟関における放射線障害防止のための研究を強化する。特に放射線医学総合研究所においては、 34年度に引き続き放射線障害の予防、診断、治療の研究および診断、治療への放射線の利用に関する研究等を行なうが、研究をいっそう完全ならしめるためフアン・ド・ダラーフを設置する。また35年度においては、付属病院を開設し、診療を行なう。

(ロ)34年度に引き続き廃棄物処理事業に対する補助を行なうほか、新たに放射線被爆線量測定事業に対し、補助を与え、適正な測定用具の普及を図り、放射線障害発生の防止に資する。

(ハ)原子炉等規制法、放射線障害防止法の厳正な施行を図り、特に審査および検査機能の充実に力を注ぎ、障害防止の万全を期する。

8.放射能調査

(イ)従来行なってきた放射能調査の強化を図るほか、新たに14Cの調査、 90Sr、 137Csについて米、魚類、牛乳のフードチェインの調査等を行なう。

(ロ)放射能調査により得た資料を有効適確に利用することを可能にするため、資料センターとしての機能を原子力局において果し得るようにする。

9.人員の充実と人材の養成

(イ)日本原子力研究所、原子燃料公社、放射線医学総合研究所の施設整備と並行して、研究開発業務の本格的実施のため、 34年度に引き続き、人員の大幅な充実を行なう。

(ロ)研究開発の本格化に対処して、高度な専門的技術、知識を有する科学者、技術者を養成するため、高級コースに重点を置き研究員を海外に留学させる。

(ハ)原子炉研修所、アイソトープ研修所、放射線医学総合研究所養成訓練部を拡充し、科学者、技術者の養成を積極的に行なう。

10.国際協力

(イ)国際原子力機関の加盟国として、いっそう活発な活動を図る。(ロ)各国の研究開発との交流を行なうため、適当な国際会議、国際学術会議へ参加するほか、特定テーマについての海外調査員を派遣する。

(ハ)わが国の実情に即した知識を導入するため、海外から適当な専門家を招へいする。

(ニ)国際協力を円滑に促進するため、海外から留学生を受け入れる。

(ホ)アタッシェの活動強化等を通じ、海外の研究開発情報を積極的に吸収するとともに、海外との連けいを図る。

11. 原子力災害補償体制の確立

 万一の原子力災害に際し、一般第三者の損害補償に万全を期すため、その体制を確立する。

12. 原子力施設周辺地帯の整備

原子力施設およびその周辺の産業、厚生、民生施設等の適切な配置を可能にするよう必要な措置を講ずる。

備考

(1)原子力災害補償対策費は、現在の仮案にもとづき見積ったものである。
(2)日本原子力研究所の人件費中、給与のべースについては今後なお検討することとして、一応日本原子力研究所の要求額を計上した。

昭和35年度(一般会計)原子力予算総表

日本原子力研究所に必要な経費


原子燃料公社に必要な経費

放射線医学総合研究所に必要な経費 (  )内は外数の債務負担額

試験研究機関等の試験研究に必要な経費

1.原子燃料に関する研究


2.原子炉材料に関する研究


3.原子力船に関する研究


4.核融合に関する研究


5.放射線測定等に関する研究


6.障害防止に関する研究



7.放射線利用に関する研究