1958年のフランス原子力産業


 本資料はフランス大使館を通じて石川原子力委員会委員によせられたもので、フランスの原子力事情特に産業関係を中心とした最新の情報として各方面の参考になるものと思われるのでここに紹介する。(仮訳)

原子力航空機
 フランス原子力委員会は、フランス航空機器製造(SNECMA)の技師達と協力して、航空機の原子力推進を研究するために「ホット」型の原子炉をサクレーに今年から建設しようとしている。この原子炉は濃縮ウランを使用し、600℃で運転される。このような高温度の結果、現在の標準型ターボプロップ・エンジンと類似の高速タービンを駆動するために必要な高温ガスを得ることが可能となるであろう。

原子力潜水艦の建造
 フランスの科学者と技術者は、原子力推進の開発に多大の努力を傾注している。フランス海軍は、過去1年以上にわたって、現在“Q-244”と名づけられているフランス最初の原子力潜水艦の建造に従事している。この建造は、将来フランスの原子力船造船所として予定されているシェルブールで行われているが、同所には原子力潜水艦の乗員を養成するための訓練センターが設置された。これは原子力船に特殊な問題について将来の船員を教育する施設としても利用される。

原子力油槽船計画
 商船用の原子力推進をさらに開発するために、フランス原子力委員会と海運省は、載貨重量4万トン、出力2万馬力の原子力油槽船の設計を公募した。これらの要目は、なんらかの記録をつくろうとする意図から出たものではなく、ただ、この最初の実験を適当なコスト内で行おうとする見地から選ばれたものである。おのおの民間数社の参加による二つの産業グループがこの計画に参加しており、とくに設置される委員会が、これら両グループによって開発された設計のうちから、普通の推進装置を備えた商船と商業的に競争し得るためにもっとも適した方法を選ぶであろう。

核融合反応の研究
 水素原子核の制御された融合反応の分野−専門家によれば、この反応はそんなに遠くない将来、無限の動力を低コストで供給するというが−においては、特別の研究班が、パリ近郊のFontenay-anx-Rosesの研究センターで開発研究を行っている。
 最初の実験装置に続いて、研究班は新らしく「エクオトール」と名づけられるいくらか「ゼータ」に似た装置を建設した。この装置は、直径31・7/16インチ、断面径3・9/64インチのリングを有し、ガス状の二重水素を媒体とするきわめて強力な放電により、摂氏百万度前後の温度を実現する。少数ではあるが水素動力に関するフランスの研究報告が科学誌に現われている。1953年には、当時Fort de Chatillonで研究していた研究班は、中性子の発生をともなう実際の熱核反応が研究室内で達成されたことを明らかにすることができた。

新原子力発電所の建設
 フランスは10年ごとに電力消費が倍加する国でありしたがってその産業に対するエネルギー源として原子力を必要とする。フランスに存在する相当豊かな水力資源のために、他の国ほどさしせまったものではないが、やはり緊急を要する問題である。1956年、フランスの原子力技術者たちはマルクールのG-1原子炉(天然ウラン、黒鉛減速、空気冷却型)をタービン発電機に実験的に結びつけてみた。G-1は本来プルトニウム生産のために設計されたものであるが、原子核分裂の熱を利用して工業的な発電を行うための実際的な運転条件を研究するのに全く適したものであった。G-1は熱出力40,000キロワット、電気出力5,000キロワットのブラントを有する。
 マルクールにある他の二つのプルトニウム生産用原子炉(G-2、G-3)は、あわせて150,000キロワットの熱エネルギーを生じ、フランスの送電網に50,000キロワットの電力を供給する能力がある。これらの原子炉は減速材として黒鉛を使用し、炭酸ガスで冷却されている。この冷却方法は、フランスの研究者によって開発されたもので、サクレーのEL-2原子炉に初めて使用された。
 マルクールの3基の原子炉は、年間200ポンド以上のプルトニウムを生産するばかりでなく、相当量の電力を供給する能力を有する。またマルクールでは、発電用に濃縮ウラン重水型原子炉の原型を建設する計画が進んでいるが、これは原子力を国の動力源として取り入れる計画の一部である。
 予想される発電の開発を基礎として推定すると、原子力の占める割合は、1960年に1%、1965年に5%、1970年に15%、1975年に35%となり、換言すれば、1960年において60万キロワットの熱エネルギーに等しく、1975年においては3,500万キロワットに当る。最初の大型発電所はシノン近郊に建設中であり、1960年に完成する予定である。その能力は、初期において60,000キロワットで、その後さらに拡大される。フランスの計画は、だいたい18ヵ月ごとに原子力発電所の建設を開始することを予定している。
(注 この数字は若干おかしなところがあるが、原文のミスプリントではないかと思われる)

1万人の原子力従事者
 1945年に設置されたフランス原子力委員会は、サクレー研究センターに3,400人、マルクール工業センターに1,300人、鉱山施設に3,000人、フォンテネ・オー・ローゼ研究所に800人、ブーシェのウラン処理工場に300人、グレノーブル研究センターに200人、パリ、イーヴリイ、ヂェフ、リヨンおよびストラスブールの各研究所に約1,000人、合計10,000人の人員を擁している。予備的な作業と1957年に終了した最初の5ヵ年計画に続いて、1957年から1962年にいたる第2次5ヵ年計画は、フランスの原子力産業が今年から出発することを定めている。現在1,000以上の民間会社が原子力のために働いており、特殊会社からなる15の協会が、原子力計画を立案し、実施するために組織されている。
 マルクールのプルトニウム生産用大型工場は、すでに操業準備を完了し、今年からウラン同位元素分離のための大型工場の建設が計画されている。これに先だって、同位元素分離の試験工場がサクレーに建設されこの運転によってフランスの科学者たちは、3年間の研究をかさね、精密な機器の運転状態を検討した。現在フランスには12基の原子炉が建設もしくは運転中であり、さらに他の原子炉の建設計画も検討されている。
 サクレーの主要研究センターにおける巨大な中性子の加速装置と30億電子ボルトのプロトン・シンクロトロンの完成は、フランスの研究者による超高エネルギーの研究を可能にするであろう。この研究は、原子の知識を発展させる鍵であり、物質の性質を発見するために根本的に必要であり、今日予想することのできない発展に導くものである。

放射線の利用
 原子炉から生ずる放射線に照射されて放射性となった物質の利用は、フランスにおいて着々と増加しつつあるが、とりわけ工業的利用において著しい。これらの放射性同位元素は、これを利用する産業の経費節約に多大の影響を与え、生物学の分野におけるすばらしい研究道具となっている。
 1957年中に病院、工場、研究室に対して5,000以上の配布が行われた。人工放射性同位元素の取扱いと利用に関する研修コースがサクレーに開催された。フランスの原子炉は各分野での利用に必要なすべての放射性同位元素(Co60,P32等)を生産する能力を有する。放射性同位元素の海外への輸出も増加しつつある。

年間50万トンのウラン鉱処理
 フランスには比較的豊富なウラン、トリウム資源があり、現在考えられる最大の計画でも実施することができる。フランスの地下層は種々の品位のウラン鉱を埋蔵しており、マダガスカルのウランおよびトリアナイト鉱床は、10%から20%のウランおよび60%から70%のトリウムを含有する鉱石を産出する。後者は将来の超型原子炉(スーパーリアクター)すなわち消耗する分よりも多くの核分裂性燃料を生産する原子炉の建造に最も有望な「親物質」である。
 Gueugnon,EcarpiereおよびBessinesにある三つの大型鉱石処理工場の予定処理量は、今年度50万トン、1960年に100万トン、1970年に250万トン、1975年に300万トンである。その結果、1958年から1975年までにフランスは純ウラン31,000トンを所有することになろう。これだけの鉱石を処理するために、ウランの化学処理工場がCarcassonne近郊のMalvesyに建設中である。Bouchetに新しく建設された工場はマダガスカル産のウランおよびトリアナイトの処理を開始し、過去12ヵ月に原子炉品位のトリウム硝酸塩300トンを供給した。トリウムの生産は来年から更に増加する見込みである。

特殊訓練
 原子力技術者および科学者を養成するために、多大の努力が払われているが、この目的のために「国立原子力科学技術研究所」が1957年6月に設立された。この研究所の方式は、きわめて柔軟性に富んでおり、いろいろな特殊事情に応じて各種の養成コースが採用される。研究所は他の大学と協力して原子力の科学と技術に対する高度の専門過程を用意している。期間1年の原子工学コースは原子炉の運転と建設に関する専門家を養成し、また外国人留学生を聴講生あるいは学生として受け入れる用意がある。また、国立原子力科学技術研究所は、大学、専門学校、科学研究所、民間産業、および原子力委員会と不断の協力関係を維持する。
 科学革命の時代にあって、フランスは原子力の広大な分野において世界で4番目の地位にあり、この分野における新しい開発は、物理学、冶金学、化学、電子工学その他多くの科学分野における絶えざる開発によってはじめて可能となるであろう。