〔日時〕昭和33年5月14日(水)14.00〜17.00
〔場所〕東京都千代田区永田町2の1総理官邸
〔出席者〕
稲生、井上、大屋、岡野、倉田(代理大西)、久留島、駒形(代理嵯峨根)、
瀬藤、高橋、田中、中泉、伏見、松根、三島、安川、山県各参与
石川、兼重各委員
原田官房長、佐々木局長、法貴局次長、荒木原子力調査、堀助成各課長、ほか担当官
〔議題〕
1.動力試験炉導入に関する調査報告
2.日本原子力研究所の昭和33年度事業計画(について
3.原子燃料公社の昭和33年度事業計画について
4.昭和33年度核原料物質の探鉱計画について
5.その他
〔配布資料〕
1.日本原子力研究所昭和33年度事業計画
2.日本原子力研究所昭和33年度資金別予算総括表
3.原子燃料公社昭和33年度事業計画概要
4.昭和33年度核原料物質探鉱計画
5.原子炉安全基準専門部会
6.原子炉安全基準専門部会構成
7.核燃料専門部会
8.金属材料専門部会
9.核燃料物質、核原料物質、原子炉及び放射線の定義に関する政令の一部を改正する政令
10.同上参照条文
11.核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令の一部を改正する政令
12.同上参照条文
13.原子力委員会における今後の重要審議事項日程表
14.第4回参与会議事録
15.原子力委員会参与名簿
嵯峨根原研副理事長から、問題を議題に示される事がらに限らず、英国の動力炉に関するその後の問題や発電炉の長期計画、核融合の研究、米国の発電炉開発状況等、海外での新しい印象について話したい旨発言があり、石川委員はじめ一同の了承を待た。
嵯峨根原研副理事長;英国では主として現場をみた。そのほかハーウェルを訪問し、コックロフト、ヒントンから英国の長期計画その他について話を聞いた。
現場や工場をみた結果、一言でいえば英国は米国に比してすでに仕上げの段階にきている。すなわち原子炉の基礎設計ではなくいかに安く造り上るかということを問題としている。AEAが中心になって開発した原子炉関係の技術ほほとんど全部会社に移り、会社間の競争が激しくなり、会社はめいめいの技術を大切にしている。以前伝えられたところでは、英国はコールダーホール改良型発電炉のあとは sodium-graphite型やPWR型を考え、さらに増殖炉をそのさきの目標とするということであった。しかし最近ではガス冷却をいっそう重視するようになり、中間のsodium−graphite型やPWR型はあきらめ、fast breeder はまださきのことで、そのときになってはじめて液体金属の技術を役だたせることを考えている。目下はガス冷却の炉でさらに高温のものを試みたほうがよいと考えている。これに成功すれば、peak load station で石炭の発電所と競争しうると思っている。
英国の自信を感じさせるものであるが、大きな方向転換をしてバクチに近いように集中して進んでいるといえる。英国型の発電炉の問題点としては三つか四つあげられる。まず耐圧容線について溶接の問題があり、3インチの鋼板でいくか4インチにできるかという点がある。容器の形状は球体となろうが、それに使う金属材料をもっと研究すべきだと聞いている。つぎに燃料要素の問題がある。現在のマグノックスを使った燃料要素の進歩はもうとまりで、温度はこれ以上あげられない。したがって、コールダーホール改良型は現在の程度でもうしばらくすすんでいくであろう。その後いっそうすぐれた材料が発明されていままでと違った燃料が使用されることになれば、炉の設計自体もすっかり変ってしまうということである。現在の燃料は使っていると弓なりにまがってくるという点がある。もっともこれは短くすれば矯正できるから決定的な問題ではない。燃料の燃焼率はトンあたり3,000MWDでるのは確実だと考えているが、いよいよギャランティーするとなると、造るほうの責任か設計するほうの責任かということもあるのでやはり問題があるようである。英国ではいままでは3,000MWDまで燃さないで炉から出している。 3,000MWDまで燃すとPuがたまってプラスの温度係数の傾向がでてくるという問題も考えられるが、それに対しては原子炉の安全性を維持するための対策がいくらもある。3,000MWDのときと2,500MWDのときとで温度係数への影響がどのくらい違うかはだいたいカーブがフラットになるあたりなのであまり気にしなくてもよいと思う。また、グラファイトの酸化という問題がある。石川ミッションが渡英したときにもこの問題と燃料の問題をつっこんで調査した。その当時は英国から送ってよこした資料も貧弱であったが、その後はずいぶん勉強している。グラファイトの寿命について、最初は20年の見当だがそういいきれないので15年ということであった。しかし今度は20年は間違いないという話で、なるほどそうらしいというデータももらってきた。グラファイトの酸化は中性子による放射線損傷ばかりでなく、γ線によっても促進されてくる。ウィグナー効果という問題もある。中性子が原子にぶつかって結晶構造がずれる問題である。これは温度が高いともとにもどるということもあるが、中性子のエネルギーにもいろいろあり、エネルギーの高い中性子によって起されたウィグナー効果は簡単にもとにもどらない。コールダーホール改良型のような発電炉では200度以上の温度にするのには問題はないので、かなり長い間に適宜にウィグナーリリースを実施すればよい。実際にどの程度やれば最もよいかを考えればよいだけの問題である。地震の問題はある方法でバイオロジカルシールドに原子炉やダクトや容器を同定すればほとんど問題でない。
英国の保険協会で意見を聞く機会があった。保険協会で弁護士や法律家が集まり、原子炉の事故で予想される危険額に適当な危険率をかけて保険金を算出している。そのような危険率をだすのは専門家でも困難を感ずるので、誰もが納得するような公正な線をだすのにどういう努力をしたのか聞いてみたがなにもしていない。保険事業はいままでは競等によって保険の掛金が不当に高くなることを防いできたからよいが、原子力保険の場合は英国内のものは一つにまとまっており、日本でも英国に再保険にだすようになると思う。金額が大きい上に競争相手がないことからますます高くなるおそれがある。
英国ではいくつかのグループがコールダーホール改良型を造っているが、運転中に燃料をとりかえるというのは必ずしも各社ともうまくいくとは思えないということを聞いた。この点は完全なインダストリアル・シークレットに属し、十分調査ができなかった。原子力発電所の建設費を下げるためには一つは大型にすればよいので、英国の産業界にも今後炉を大型にしていこうとする考えがある。しかしあの楽観的なヒントンでも、あまり大型にしてはいかんといっているように、25万kW程度でとまってくれねばならないと思う。これまでは安全のために、燃料は穴があくようでは絶対にいけないということを考えていた。ところが最近は少々燃料要素に穴があいても対策を十分にしておけば成型加工費が低下するという利点があるので、どの程度まで許容できるかという考えがされている。
アメリカでは、AECは軽水炉ばかりを重視しているが、もう一度ガス冷却を考えてみろという声に刺激されてか、一度棄てたガス冷却の検討を再びとりあげている。その結果ではオークリッジの専門家によればガス冷却も遠い将来での可能性はないが、近い将来においては成功する可能性があるということである。その際、冷却用のガスとして可能性があるのは炭酸ガスとヘリウムだけである。ヘリウムを使うといろいろの難点がなくなり炉も小型になる。ヘリウムで冷却する発電炉をアメリカで造った場合、11ミルという発電原価の見積りの数字がだされている。アメリカとイギリスでは製作費が2割だけ前者が高いということを考慮すると、これは有望な数字だということができる。アメリカではガス冷却炉の寿命は割合に長くなるという見方があり、日本がまずコールダーホール型に目をつけて長期計画をつくったことに賛意を表する人もいる。私の予想では最初の炉がうまくいけば今後相当コールダーホール型が建設されるのではないかと思う。
ゼータは見学が許されて2日目に行ったが案外小さい設備であった。本当に核融合が起ったかと質問したところ、でてきた中性子の80%は核融合によるものだろうという確信のない返答であった。あちらこちらで核融合に成功したと伝えられているが、はっきりと核融合の中性子だといえるものは一つもなく、私には政治的な動きとしか思えない。理論的には高温の持続する時間を現在の100倍も長くしないと核融合には成功しないという人もある。また、放電で核融合に成功すると思うのは間違いだが、いままでの研究は将来にそなえる一里塚にはなると考えている人もいる。
アメリカでは原研に動力試験炉を導入する目的で、consultant engineer や manufacturer にあった。英国と違うのは、民間の原子力利用の実用化がおくれている点で、そのため1年前と比較してあまり差のないところが多い。一将来商業用として使える可能性のある炉もあるが、まだ経済的に成功していない。シッピングポートの加圧水型原子炉を見たが、先年石川委員といっしょに行ったときと同じく急所は燃料だと感じた。
燃料要素は合金ではだめだということをカナダでもいっていたが、アメリカの燃料を専門とする manufacturer はまだ oxide に力をいれていない。Wesling-house も G.E.もやっと facility ができだしたところで、燃料の市場はもっとさきだと考えているようだ。oxide の燃料要素はまだ技術が完成したとはいえない。燃料が使用状態になると内部が高温になり、とけて穴があいたり、高圧のもとではまがってしまう。寸法を1/4インチにすると機械的に問題が難しくなる。アメリカは海軍の潜水艦用原子炉について豊富な経験を待っており、その方面がどの程度進歩しているかわからないが、アメリカ型の発電炉の中心となる問題点は将来 oxide 燃料がどのようにして使われるかということであろう。7,000MWDまで使うか、10,000MWDまで使えるかで、炉材のジルカロイかステンレスかという問題もきまってくる。
全体の傾向として軽水型が比較的早期に実用化されるようである。軽水型のうち試験が終っているのはPWRとBWRであるが、この二つの型式はお互いに近づく傾向にある。すなわち、PWRではあまり圧力があがると循環させるのに問題が生ずるので、圧力をひかえて軽水が沸騰してもよいとする考え方があり、他方のBWRではすこし圧力をかけたほうがよいといっている。結局1,000〜1,500ポンドとなるようで、PWRかBWRかという選択は本質的な問題とは考えられない。BWRでは炉のなかの活性な蒸気がそのままタービンに入ってくるので放射線損傷の問題があるといわれていたが、水さえきれいならば問題はないということで、実際にBWRのタービンのシールドはあまり気にしていなかった。燃料要素に穴があいたりしたときも問題がないかと聞いてみると、Boraxでもタービンが相当活性になったが、案外早く洗えたということである。アルゴンヌでは最初から燃料要素に穴をあけて試験してみるということであった。
アメリカの power reactor は海軍用として発達してきた。そのため確実に安全に動くことが目指され、コストの点は問題とされなかった。商業用の原子炉がたちおくれているのもこれが一因となっている。原子力商船としてサバンナ号が建造されているが、アメリカの方針は商業的に成功するというよりもまずやってみるということで、船体に関する実験もあまり行っていない。船の操縦上の要求から舶用原子炉は急激な出力の変動を許容しうるものでなくてはならないといわれている。この点もアメリカのゴドウインという専門家は、原子炉の急激な出力変動が可能となってもタービンがさきにまいってしまう。タービンがいうことをきく程度には原子炉も動くから大きな問題ではないといっている。アメリカの原子力船がどのくらいの燃料費を要するのかは明らかでない。今後15年ぐらいたたねば経済採算があわないとが1980年になって経済的に在来船に匹敵できるならよいほうだという人もある。
いますぐにとりかかる発電炉の型式はやはりガス冷却で、そのあとに軽水型、そのあとは有機材を使うか重水とスティールでいくかである。いままでのタンクにかわってカナダではパイプでいく型を考えている。しかしこの点はノルウェーがこれまでパイプをやってきたのをタンクに改めるというのと全く逆のいき方なので、どちらがよいかわけがわからない。以上でまとまらないが調査報告とさせていただく。
石川委員:パイプとタンクというのはどういうことですか。
嵯峨根原研副理事長:重水炉の場合に、蒸気に高い圧力を要求するが、圧力が高くなるとタンクでは難しい。したがって、パイプにして温度も高いものを狙う。パイプのなかには重水だけで原子炉はほかのところにある。
石川委員:嵯峨根さんには議題に捉われずに興味あるお話をうかがった。動力試験炉の導入については、問題が具体化してからまた議題として申しあげたい。
配布資料1、2にもとづき、佐々木原子力局長から日本原子力研究所の昭和33年度事業計画を説明した。
配布資料3にもとづき、高橋参与(原子燃料公社理事長)から昭和33年度の事業計画を説明した。
高橋参与:この機会に人形峠を中心として公社の仕事の進捗状況をお話したい。
人形峠一帯は32年度にかなり調査がいきとどき、坑道も掘って品位および埋蔵量を計算することができた。5月末になると峠地区がほぼわかってくる。現在までの探鉱の結果、意外に鉱石の賦存する範囲が広がり、33年度では更に大きな期待がもたれる次第である。
人形峠で最初にウラン鉱床がみつかったのは鳥取県側県道の切割り面に露出していたもので、人形峠地区全体からいえばその西端にあたる。32年度に行った探鉱の結果、この地点を起点として東西に広がった帯状の鉱帯のあることがわかった。最も西部の峠地区よりもその東の夜次地区のほうが鉱床はすぐれている。さらに東に赤和瀬地区があり、はじめは大きな期待をかけていたが、いままでの結果では思ったほどではない。まだ不明の点もあるのでポーリングを続けている。赤和瀬地区の東に中津河地区がある。その深郡では強い放射能があり、ボーリングの底で計器が scale out するくらいである。中津河地区のさらに東には恩原地区がある。鳥取県の鉱業家は恩原地区の北に接した辰巳峠で放射能を発見したといっているので、われわれもその周辺に注意を払って探鉱している。恩原地区の中央にある恩原湖は、湖底に放射性物質が堆積しているようである。
人形峠で公社が探鉱している地区は以上の五つであるが、その5地区にわたって鉱床が帯状に分布している。以前は一つに続いた鉱体であったのが侵蝕によって中断された結果、いまでは山の峯の部分に強い放射能が残っている。地下の花崗岩層の上に礫岩がのっており、そのなかにオーチナイトというカルシウムとウランの合成鉱物がある。最近短い坑道でところどころ掘ってみると花崗岩の下に黒い鉱物のあるところがある。黒いので black mineral とよんでいるが非常に放射能が強い。アメリカに送って研究させたところ、新鉱物とわかり、まだ正式な名称をつけていない。倉吉は昔金山の鉱脈が発見されたところで、その付近に2本のウラン鉱脈が発見された。鉱脈の下底を33年度に探る計画である。日本のウラン鉱床は上部の鉱体が下部でどうなっているのかはっきりしたデータがないので、日本のウラン鉱床の性質を知るにも意義のある探査だと思う。
原子燃料公社が現在とりかかっている仕事は人形峠と倉吉が中心である。山形県の観岡の西に温海地区があり、放射能が検出されている。岩手県の久慈、宮城県の気仙沼にも放射能がある。岐阜県の大野郡や加茂郡にも発見の報告がある。これらは一応調査したが、探鉱すべきかどうかはなお調査を要する。岡山県三吉鉱山は日本で最初にウラン鉱物がみつかったところである。ボーリングの結果ほあまり思わしくなかったので、今年度はもうすこしボーリングを続けるだけとする。山口県防府北方に放射能の発見された場所があるが、思ったほどでなく足ぶみをしている。北海道はまだ手をつけていない。鹿児島県の垂水は相当興味の待たれる地点で、目ぼしをつけている。公社で33年度計画に考えているのは、だいたい以上のような地点である。
石川委員:人形峠は底までわかったのか。底の深さはどのくらいですか。
高橋参与:人形峠ほ底が浅い。花崗岩にぷつかればやめているので30mくらいである。なかには露天掘りのできるところもある。
石川委員:採算のみとおしはどうか。
高橋参与:われわれは10,000分の5から3までは冶金的な操作が簡単なかぎり採算のあうようにやっていこうと希望的な考え方をしている。
昭和33年度核原料物質の探鉱計画に関し資料4を朗読し、佐々木局長が説明した。
佐々木局長:昭和33年度核原料物質探鉱計画は原子力委員会が議決し内閣総理大臣が決定するというものである。すでに委員会で議決済みなので御報告する。従来から基礎的な探鉱は地質調査所がやり、企業化調査は原子燃料公社がやることになっているので、この両方を調整して33年度の探鉱計画としたものである。
佐々木局長から資料5、6、7、8にしたがって、原子炉安全基準専門部会、核燃料専門部会および金属材料専門部会の設置について報告した。
佐々木局長から日米、日英両協定の締結に関する交渉の状況について報告した。
佐々木局長:日米一般協定は仮調印を済まし、ようやく片がついた段階である。日英動力協定も外務省で急いでおり近く締結できると思う。
大屋参与:日本原子力産業会議でも日米、日英原子力協定のことはたびたび話しあっているので、産業会議の意見を代弁してお話し申しあげる。日米一般協定は仮調印もでき本調印も近くできるということを仄聞しているが、日英一般協定は仮調印前であり、仮調印してもよろしいという閣議了解もまだ行っていない。新しい内閣ができてから改めて閣議了解をやるということならば、この問題は微妙な点もあるのでまた時日を要することがありうる。日米協定が調印できた以上、日英協定もすみやかに閣議了解が得られるよう手続きを運んでいただきたい。
石川委員:協定の問題は次回の参与会にはいっそうはっきりしたことを申しあげられるだろうから、次回にお話しすることとしたい。
資料9、10、11、12にもとづいて「核燃料物質、核原料物質、原子炉及び放射線の定義に関する政令」ならびに「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令」のそれぞれ一部を改正する政令につき、佐々木局長から説明があった。
資料13により昭和33年度における原子力委員会の重要審議事項を佐々木局長から説明した。
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