原子力局

放射線障害防止の技術的基準に関する法律について

 第28国会において「放射線障害防止の技術的基準に関する法律「および「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律」が可決成立をみ、放射線審議会令などの関係政令等とともに分布施行された。また放射線医学総合研究所も4月建設工事に着手し、明年1月完成の予定で作業が進められている。

放射線障害防止の技術的基準に関する法律について


(1)趣旨

 わが国における放射線の現状をみると、まず従来から医療面でおおいに利用されてきたエックス線のほかに、最近急激に利用が行われるようになった放射性同位元素および放射線発生装置等による放射線がある。またこれらとは別に外国における核爆発にともなう放射性生成物いわゆるフォールアウトからの放射線についても国民は深い関心を払っている。さらに今後は原子炉等の開発利用にともないこれから発生する放射線も増加してくるものと予想される。したがってこれら放射線による障害防止の重要性は日増しに高まってきているものと考えられる。
 次にこれらの放射線障害の防止に関する規制を行っている法律のほうをみると、たとえば放射性同位元素、放射性同位元素装備機器および放射線発生装置の利用については、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律で、核原料物質、核燃料物質および原子炉の利用については、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律で、医療用エックス線発生装置の利用については、 医療法でというように多くの法律で放射線障害の防止を図っている。
 いっぽう放射線を受ける国民の立場からいうとおのおのの法律で異なった技術的基準により障害防止の規制を受けることは好ましくないのであって、政府としては、これらの基準をすみやかに斉一ならしめることの必要性を認め、全放射線を対象とした放射線障害防止の基準法的性格の法律案をさる第28国会に提出した。国会においては審議の結果、4月10日衆議院科学技術振興対策特別委員会および同本会議、また4月21日参議院内閣委員会および同本会議においてそれぞれ政府原案どおり可決され、5月21日放射線審議会令とともに公布施行をみるにいたった。
 国会審議の過程において特に議論になった事項はないが、質疑の段階において、第26国会における附帯決議にあった各省庁の放射線障害防止に関する所要の法律を整備すべきことについて科学技術庁は各省庁に対し勧告を行ってほしいこと、放射能調査についてはこの法律では測定方法のみを明記したに過ぎないが各省庁で行っている放射能調査をさらに強力に統一して対策を講じてほしいこと、放射線の最大許容量の決定にあたっては日本の特殊性を考慮し十分慎重に対処してほしいことの諸点が科学技術庁に対し要望された。

(2)概要
 上述の趣旨によって、この法律はすべての放射線による障害防止の技術的基準策定上の基本方針を明確にするとともに、総理府に放射線審議会を設置することによって放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図るため、必要な事がらを規定したのである。以下本法律の概要につき若干説明することとしたい。
 この法律においては、放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図るために、まず第一に、基本方針として、技術的基準を策定するにあたっては、放射線を発生する物を取り扱う従業者および一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることとしなければならないと規定している。すなわち、政府にあっては放射線障害の防止に関する法令等の、また民間にあっては放射線障害の防止に関する作業規定等の技術的基準は、人体に障害を及ぼすおそれがないと考えられる線量以下となるような基準でなければならないとして、これを基本方針として定めたのである。
 ここで放射線障害の防止に関する技術的基準とは、具体的には、人体に障害を及ぼすおそれがないと考えられる許容放射線量の設定および一般国民のうける放射線量をこの線量以下とするための諸方策、すなわち、放射線の測定、放射線を発生する物の取扱い方法、放射性物質の廃棄等に関する技術的基準、放射線取扱施設の技術的基準および放射線障害の発生を防止するための放射線取扱者の保健等に関する技術的基準を指している。
 第二に、総理府の附属機関として放射線審議会を新たに設置し、関係行政機関の長は、放射線障害の防止に関する技術的基準を定めようとするときは、この審議会に諮問しなければならないこととし、具体的に基準の斉一化の確保を図ろうとしている。
 なお、放射線審議会は、放射線障害の防止に関する技術的基準のみならず、核爆発にともなう放射性生成物等の測定方法についても調査審議することとし、国民的世論に応えようとするものである。放射線審議会は、関係行政機関の職員および放射線障害の防止に関する学織経験のある者30人以内の委員で組織することとなっている。なおこの放射線審議会の新設にともなって、従来放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する重要事項を審議するため、科学技術庁の附属機関として設置していた放射線審議会は、発展的に廃止することとした。すなわち従来の放射線審議会は放射性同位元素等による放射線の障害防止に関する重要事項の審議を任務とし、また審議の中心は、技術的基準となっているので、新たに総理府に放射線審議会が設置されるようになった後は、この従来の審議会を廃止し、二重の行政機構を避けることとしたのである。
 また、同日付で公布施行された放射線審議会令は、この放射線審議会に専門委員を置くことができるものとし、委員および専門委員をもって構成される部会を置くこととした。このほか、審議会に関係行政機関の職員のうちから任命される幹事を置き、主として関係行政機関の職員のうちから任命された委員を補佐させることとした。

(3)国会提案までの経緯
 (1)において述べた趣旨については、すでにさる第26国会における放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律案の審議の際、衆議院科学技術振興対策特別委員会から附帯決議の形で指摘され、政府はこの附帯決議によって、次期の第28通常国会において全放射線を対象とした放射線障害防止の基準法的性格の法律案を提出することを勧告されたのである。
 以来政府にあっては科学技術庁原子力局を中心として法律案の構想につき検討を続けたのであるが、まず第1次案として32年9月には放射線障害防止基本法案が問題の提起という形で作成された。これは、基本方針、国の責務、放射線の取扱、放射性灰等の調査、公害の防止措置、放射線審議会、製品検査および国の助成等を含む20条からなり、考えうるほとんどすべての構想を盛り込んだものであったが、大方の批判にたえ得ず廃案となった。そこで第2次案として放射線障害防止基準法案を11月に作成した。この法案においては、放射線審議会を設置して放射線障害の防止に関する総合的施策の樹立を図ることを目的とし、総合的施策は内閣総理大臣が樹立するものとした。審議会の設置、所掌事務、組織および運営等に関する事項は成立をみた法律のそれとほぼ同じであった。
 ところが、この第2次案について、前述の附帯決議の経緯にかんがみ、国会方面の意見を非公式に徴したところ、さらに基本法的な性格を持たしめること、審議会の任務の中に放射能調査に関するものも明記すること、原子力災害にもとづく第三者賠償に関する宣言的規定も謳うこと等の意見が出されたので、原子力局において再考の結果、33年2月1日に第3次案の法律名を放射線障害防止基本法(案)とし、第2条において基本方針を謳い、審議会の任務の中に放射能調査に関することを摘記することとした。この法案の段階で、関係各省および国会方面と正式に折衝したが、この際この法律を単独法とせず、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律を改正することにより、十分その目的は達せられるのではないかという意見が出された。しかしながら放射線障害は、この障害防止法で対象としている放射性同位元素、同装備機器および放射線発生装置による放射線以外の放射線によっても起りえて、これらはそれぞれ多くの法律で規制を受けているほか、本法律は、放射線障害防止に関する技術的基準策定に関する基本方針を明確にすることによって、具体的に放射線障害防止の規制を行う法令等の制定に当ってのよりどころを示しているわけであって、これら多くの法律の基準法としての性格を有している。したがって本法律の趣旨を単に障害防止法を改正することにより実現することは相当の無理をともなうこととなるので、単独法の制定を行ったほうが適切であるとの結論に達した。
 また国会方面の意向にもかかわらず、第三者賠償に関する宣言的規定をこの法律において謳わなかった理由は次のとおりである。すなわち、本法は元来放射線障害の防止という立場から規制しているのであって、放射能にもとづく障害が起る以前の問題をとらえているのに対し、原子力災害にもとづく第三者災害補償の問題は原子力災害の起った後の善後措置の問題であって、この点が根本的に異質であるうえに、第三者補償の問題はそれ自体きわめて重大な問題であって、今後慎重に検討を要し、もし法的措置を考慮するとしてもその内容については改めて検討を必要とするものと考えたからである。
 このほか、法律の題名については、内容を最も適切に表現したものとして「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」とし、基本方針を謳い、総合的施策の樹立の規定を削除し、核爆発にともなう放射性生成物等に関する測定方法については所要の修正を加えて規定を置き、審議会の組織等についても修正を行って3月13日事務的に最終案を決定し、これを3月17日の次官会議および3月18日の閣議において政府案として正式に決定し、3月19日国会に提出したものである。

参考資料

第26国会における衆議院科学技術振興対策特別委員会の附帯決議(32.4.27)

 放射線による障害の防止は、国民の最も深い関心事であるにかんがみ、政府は関係各省庁の間に充分なる協議を遂げ、次期国会に放射線全般の障害防止に関する左記要領の法律案を提出すべきである。


1.法律の対象は、X線発生装置、放射性同位元素、放射能灰等より生ずる全放射線とすること。

2.法案は、放射線障害防止の基準法的性格のものとすること。
 なお、関係各省庁は、前記の法案に関連する所要の法規を整備すべきである。

右決議する。

放射線障害防止の技術的基準に関する法律
(昭和33年5月21日公布法律第162号)



(目的)

第1条 この法律は、放射線障害の防止に関する技術的基準策定上の基本方針を明確にし、かつ、総理府に放射線審議会を設置することによって、放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることを目的とする。

(定義)

第2条 この法線において「放射線」とは、アルファ線、重陽子線、陽子線、ベータ線、電子線、中性子線、ガンマ線、エックス線その他電磁波又は粒子線で直接又は間接に空気を電離する能力を有するものをいう。

(基本方針)

第3条 放射線障害の防止に関する技術的基準を策定するに当っては、放射線を発生する物を取り扱う従業者及び一般国民の受ける放射線の線量をこれらの

者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすもことをもって、その基本方針としなければならない。

(放射線審議会の設置)

第4条 総理府に、附属機関として、放射線審議会(以下「審議会」という。)を置く。

(審議会の所掌事務)

第5条 審議会は、次の事項を調査審議する。一 放射線障害の防止に関する技術的基準に関すること。

二 自然に賦存する放射性物質から発生する放射線、核爆発に伴う放射性生成物から発生する放射線等の線量及びこれらを発生する物の放射性物質量の測定方法に関すること。

2 審議会は、前項の事項に関し、関係行政機関の長の諮問に答申し、かつ、必要に応じ、関係行政機関の長に意見を述べることができる。

(審議会への諮問)

第6条 関係行政機関の長は、放射線障害の防止に関する技術的基準を定めようとするときは、審議会に諮問しなければならない。

(審議会の組織)

第7条 審議会は、委員30人以内で組織する。

2 委員は、関係行政機関の職員及び放射線障害の防止に関し学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。

3 委員は、非常勤とする。

4 委員(関係行政機関の職員のうちから任命された委員を除く。)の任期は、2年とする。

5 前項の委員は、再任されることができる。

(審議会の会長)

第8条 審議会に会長を置き、委員の互選によってこれを定める。

2 会長は、会務を総理する。

3 会長に事故があるときは、あらかじめその指名する委員がその職務を代理する。

(資料提出の要求等)

第9条 審議会は、その所掌事務を行うため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。

(審議会の庶務)

第10条 審議会の庶務は、科学技術庁原子力局において処理する。

(政令への委任)

第11条 前4条に規定するもののほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。

  附則

(施行期日)

1 この法律は、公布の日から施行する。

(総理府設置法の一部改正)

2 総理府設置法(昭和24年法律第127号)の一部を次のように改正する。

第15条第1項の表中原子力委員会の項の次に次のように加える。


(科学技術庁設置法の一部改正)

3 科学技術庁設置法(昭和31年法律第49号)の一部を次のように改正する。

第20条第1項の表中放射線審議会の項を削る。

(放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部改正)

4 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和32年法律第167号)の一部を次のように改正する。

目次中「第5章 放射線審議会(第39条〜第41条)」を「第5章 削除」に改める。

第5章を次のように改める。

第5章 削除

第39条から第41条まで削除

放射線審議会令

(昭和33年5月21日公布政令第135号)

内閣は、放射線障害防止の技術的基準に関する法律(昭和33年法律第162号)第11条の規定に基き、この政令を制定する。

(専門委員)

第1条 放射線審議会(以下「審議会」という。)に、専門の事項を調査させるため、専門委員を置くことができる。

2 専門委員は、関係行政機関の職員及び放射線障害の防止に関し学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。

3 専門委員は、非常勤とする。

4 専門委員は、当該専門の事項に関する調査を終了したときは、解任されるものとする。

(部会)

第2条 審議会に、その所掌事務を分掌させるため、その定めるところにより、部会を置く。

2 部会に属すべき委員及び専門委員は、会長が指名する。

3 部会に部会長を置き、その部会に属する委員のうちから互選された者がこれに当る。

4 部会長は、部会の事務を掌理する。

5 部会長に事故があるときは、あらかじめその指名する委員がその職務を代理する。

(幹事)

第3条 審議会に幹事を置く。

2 幹事は、関係行政機関の取員のうちから、内閣総理大臣が任命する。

3 幹事は、審議会の所掌事務について、委員を補佐する。

4 幹事は、非常勤とする。

(雑則)

第4条 この政令に定めるもののほか、議事の手続その他審議会の運営に関し必要な事項は、会長が審議会にはかって定める。

  附則

1 この政令は、公布の日から施行する。

2 放射線審議会令(昭和32年政令第167号)は、廃止する。