アメリカおよびカナダにおける核原料物質探査

 本稿は、昭和31年度原子力留学生として、アメリカおよびカナダに出張を命ぜられ、その間アメリカ原子力委員会原料物質部(Division of Raw Materials, U.S.Atomic Energy Commission)、米国地質調査所(U.S.Geological Survey)およびカナダ地質調査所(Geological Survey of Canada)において核原料資源の探査技術とくに物理探査技術について研修を行ってきた通商産業技官兼総理府技官佐野浚一氏(通商産業省地質調査所)の出張調査報告の一部で、原子力関係留学生の報告第3号として以下に紹介する。
 今回の見学は核原料資源探査における空中探査、物理検層、分析技術の研修を主体とし、その他の作業についても一応両国の現状を把握することが目的であった。
 米国およびカナダにおいては周知のように核原料資源の探査は民間の事業にゆだねられているが、石油産業と異なり、民間事業として開発されてから日が浅く、かつ中小企業が多いので、Division of Raw Materials,US AEC およびU.S.G.S.において地質鉱床学的資料の収集、研究および探査技術の研究が行われ、これらの事業を通じて民間に対する援助を行い、かついったん緩急の際国家による探査を強力に実施できるよう探査組織を温存している。しかしウラン鉱床の開発は次第に大企業の手にうつる傾向にあり、米国においてもようやく安定した企業となってきたといわれている。
 したがって、AECは各地にGeologistsを分散配置し、ウラン鉱床地帯の地質鉱床学的資料の収集に当っている。またそのために必要な物理探査作業を行っている。空中探査および試錐は民間企業の活動の進展とともに縮小され、基礎資料の収集に必要な程度にとどまっている。 U.S.G.S.はAECと協力して地質鉱床学的研究調査を行うとともに探査技術の研究を行っている。U.S.G.S.において原子力予算によって行われている事業は直接核原料資源探査に関連するもののみならず、いわゆるNuclear Geologyの各分野におよんでおり、たとえば地殻中の安定同位元素の分布、地質年代の測定、大気中の自然放射性元素の分布の研究、中性子検層法および密度検層法の研究などが含まれている。空中探査は全国的に実施しているが、その主体はむしろ空中磁気探査である。
 カナダにおいては Radioactive Resources Division,Geological Survey of Canada および Eldorado Mining and Refining Limitedによって探査が行われたが、民間企業の発展にともない Geological Survey of Canada のRadioactive Resources Division は Mineral Deposit Division に吸収され、Eldorado の探査部門は解散した。現在は Mineral Deposit Division でウラン鉱床の鉱床学的研究が行われているほか、Geophysics Divisionで空中磁気探査にともない空中放射能探査が実施されている。
 U.S.G.S.における空中探査は空中磁気探査と空中放射能探査とを同時に行っている。空中磁気探査は石油鉱床に関連する地質構造および鉄鉱床の探査を目的としているが、コロラド平原のウラン鉱床地帯に対する空中探査は原子力予算により約5ヵ年の計画をもって進行中であって、地上における重力探査とともにコロラド平原の大地下構造を解明しつつある。空中磁気異常に対する解析は、U.S.G.S.とColumbiaUniversity との協同研究によって行われた多数の模型に対する計算の結果を利用して行われている。さらに新しい幾多の解析方法が研究されている。これらの研究の大部分は InducedMagnetism のみを取り扱っており、Natural Remagnent Magnetism を無視している。
 空中磁力計は第2次大戦中対潜兵器として製作されたもの(AN/ASQ−3)であって、これを地質調査用に改造したものを米国海軍から提供を受け使用している。現在わが国自衛隊に貸与されているものはAN/ASQ−8である。空中放射能探査用シンチレーション・カウンターはOakRidge National Laboratory で製作したもので、直径4インチ、厚さ2インチのNaI(Tl)結晶に光電面の直径5インチの光電管を結合したヘッド6個を使用している。結晶の周囲を鉛で遮蔽し弱い指向性を付加しているが、この遮蔽は経験的に決定されたもので特に理論的な根拠はない。航空写真器は連続写真を撮影する stripchart cameraで写真としては一定時間ごとに撮影する frame式のものが鮮明であるが、光学系のみをgyro mechanismによって飛行機の傾斜に対して安定化できるのが特色である。
 空中探査作業はわが国地質調査所で行っている方法とほぼ同様であるがこ測線間隔の最低1/4マイル、標準飛行高度150フィートであって、測線間隔がせまく高度も低い。しかしわが国の地形、気象等を考慮すると米国の標準に近づけることは不可能に近い。実際に米国では山岳地帯における空中放射能探査は現在のところほとんど実施されていない。空中磁気探査結果は1/6万〜1/3万程度の図面として出版される。空中放射能探査結果の出版は中止されているので所員の研究に必要な部分のみが図化作業に回される。空中磁気探査の図化作業は放射能探査と異なり高度補正を必要としないが、年間約120,000line miles の作業量に対し約25名の高等学校卒業程度の下級技術員を使用している。U.S.G.S.では空中放射能強度の高度補正を飛行中に自動的に行っている。しかしわが国においては高度と強度との関係が場所によって異なる場合が見いだされており、カナダにおいても同様な例が報告されているので、現在のところ飛行中に自動的に補正することは危険である。U.S.G.S.では米国においては空中放射能探査を実施している地域がほとんど堆積岩地域に限られているので、単一の関係式による自動補正が可能であると考えている。
 U.S.G.S.においては空中放射能探査については現在は研究に重点を置いている。その一つはγ線の空気中における減衰の研究で、この問題の取扱には輸送方程式による方法やMonteCarlo の方法などがあるが、おもに輸送方程式を近似的に解く方法を採用し膨大な計算を行っているが、実際の放射能の異常の解析に適用できる結果はほとんど得られるに至っていない。他は空中探査による放射能強度と地質との関係の研究であって、地質区分と放射能強度との関連については古くから注目されているところであるが、検層における correlation と同様な方法を採用している点が興味がある。 Geologlcal Survey of Canada および AeroService Corp.,Aeromagnetic Surveys Co.などの空中放射能探査会社において行われている空中探査もU.S.G.S.におけるそれとほぼ同様である。空中探査が経済的に成り立つためには1機につき年間40,000line miles すなわち約400時間以上飛行することが必要とされている。 放射能検層は探鉱試錐にともない大規模に実施され、鉱量計算にも利用されている。
 U.S,Atomic Energy Commission による放射能検層はジープ、ステーションワゴンに積載したシンチレーション・カウンターを使用する。自記記録された検層結果によって、模型坑井による実験の結果と岩芯試料による分析結果とを参照して鉱床の厚さと品位とが算出される。測定条件を一定にするために、時定数を一定にし、また捲揚速度を一定にするため電動捲揚機の入力を手動で加減する。坑井の直径の変化の影響は著しくないので無視する。ウラン鉱床に対する試錐孔にはケーシングを施すことはほとんどなく、乾燥して坑泥水の存在しない坑井が多い。
 コロラド平原における探鉱試錐は最低200フィート程度の間隔で行われ、コアー・ボーリングは50本に1本ぐらいの割合でしか行われない。その他の坑井については検層のみにより地下の状態を推定する。US AECでは放射能検層のほか必ず電気検層を併用し、これによって地層の区分を行っている。電気検層はおもに単極式比抵抗法であって定量的結果は期待されないが、多数の坑井のcorrelationをとって地層の区分を行う場合には十分有効である。放射能検層と単極式比抵抗検層を同時に行う装置も使用されている。コロラド平原においては乾燥した坑井が多いので比抵抗法用電極には種々の工夫が行われている。このような事情はわが国ではほとんど想像もつかないことである。
 放射能検層の結果はただちに鉱量計算に利用される。コロラド平原におけるウラン鉱床の資料は、Ore Reserve Branch,Grand JunctionOperation Office,US AEC によって収集され、このBranchで各鉱床の鉱量計算が行われている。ここでは品位0.15%以上、厚さ4フィート以上のものが稼行可能の鉱床として取り扱われている。
 U.S.G.S.においてもUS AECと同様な放射能検層作業を行っているが、検出器がGM計数管であるので地層に対する分解能はシンチレーション・カウンターより劣る。現在波高分析器付きのシソチレーション・カウンターに切り換えるよう準備中である。また山岳地帯で使用できる小型の検層用シンチレーション・カウンターを所有している。山岳地帯における測定には原則としてGeophysicistは関与せず、鉱床の品位、厚さに対する定量的結果は期待されていない。鉱床としても鉱脈型のものは堆積性鉱床に比較して重視されていないためであると考えられる。空中探査と同様に米国においては山岳地帯の物理探査活動はほとんど見るべきものがない。
 U.S.G.S.においては放射能検層と電気検層とはかならずしも同時に実施されていない。電気検層は単極法のみならず、過渡現象を利用する方法を含む各種の方法が実施されていて、検層結果の解釈に重点が置かれている。現在わが国ではウラン鉱床に対する電気検層はほとんど実施されていないが、鉱床探査が深部に進むにしたがって、その必要性が認められてくると考えられる。
 鉱石中のウランの化学分析はおもにU.S.G.S.によって確立された螢光分析法によって行われている。特にコロラド平原における鉱床に対して、放射能測定と化学分析とを併用していることが注目される。放射能測定は化学分析の前に行われ、標準の鉱石と比較して0.01〜0.02%以上のウラン当量を持つ試料は必ず化学分析が行われる。コロラド平原ではトリウムの共存は考えられないが、放射平衡にない場合が多く、ウラン当量と化学分析値との差異は探鉱上重視されている。ウラン当量の測定にはβ線用端窓型GM計数管を使用している。しかしウラン鉱石中の非平衡には種々の型があるので、ウラン系列の各元素のうち少なくとも半減期の長いものについては独立に分析を行う必要がある。0.01%以上のウラン当量を持つ試料に対する分析法がU.S.G.S.で確立され、U.S.G.S.およびUS AECのGeologistの要求に応じて経常的作業として実施されている。さらにN.B.S.によって確立された方法によってRa226の測定を行っていて、もっと低品位の試料についてもある程度非平衡の問題を取り扱うことができる。
 US AECの各施設では鉱床調査のための室内作業設備は完備していないので、大部分の室内作業はU.S.G.S.に依頼して行われる。U.S.G.S.では地質鉱床調査のための各種室内作業および研究はGeochemistry and Petrology Branchに集中されている。
 トリウムの化学分析は有機色素法によって経常的作業を行っている。X線螢光分析器、質量分析器、γ線スペクトロメーター等を利用する各種のウラン、トリウム分析法がU.S.G.S.で研究されているが、経常的作業には用いられずそれぞれ特殊な研究に使用されている。 U.S.G.S.では各種の経常的化学分析作業には分光分析などの物理化学的方法を併用した迅速な半定量分析を主体として必要以上に精度の高い作業を避けて能率を上げ、またこのようにして経常的作業には高等学校卒業程度の下級技術員を充当し、大学卒業程度の研究者が研究に専念できるようにしている。
 カナダにおいては放射平衡の問題はあまり重視されていない。これは主として開発されている鉱床の型式が異なるためである。鉱石中のウランの分析にはβ線強度とγ線強度とを組み合わせて、トリウムが共存する場合や平衡にない場合にでも正しいウランの含有量を出す方法が考案されていて、螢光分析法とともに広く利用されている。この方法は非平衡の問題を論ずる場合にも利用できる。わが国においても、少なくとも中国地方の鉱床については放射平衡の問題を重視すべきであると考えられる。
 以上で空中探査、物理検層、分析各作業について簡単に報告した。
 米国においては、探査技術の研究は国家機関により大規模に行われているが、鉱床の開発は民間で行われているので、US AECは一部の業務を縮小した。鉱床探査に関してはなんらの機密事項もないので、外国に対する地質学者、探鉱技術者の派遣、外国の地質学者、探鉱技術者の米国内のウラン鉱床の巡検ならびに研究、留学生の受入れ等を活発に行うことを希望しており、中南米の一部の国とはすでに1年前に鉱床探査に関する技術援助協定を締結している。したがってUS AEC(Division of Raw Materials)を通じて留学生を派遣することはきわめて容易であり、かつ多大の便宜が得られる。東京駐在のMilitary Geology Branch,U.S.G.S.のPacific Geologic Surveys Section は従来火山地質学の専門家によって占められていたが、最近はウラン鉱床地質学の専門家を派遣しており日米両国の交流はウラン鉱床の地質鉱床学の面においてもますますさかんになると思われる。
 カナダについては、鉱石買付について一部商社の暗躍があったためと思われるが、留学生についても歓迎しない傾向があるように見受けられる。物理探査についてのみいえば、空中探査を除いては国家機関ないし大学の活動は見るべきものがない。鉱床形式の類似性からいえば、今後カナダにおける探査技術に注目すべきであると思われる。同時にヨーロッパ各国の探査技術の調査、研究が必要であろう。